第38回日本臨床栄養代謝学会学術集会 Report|合同シンポジウム7 がん悪液質における栄養療法も含めた多職種介入の展望
2024.02.28栄養素 , 癌(がん)がん悪液質における栄養療法も含めた多職種介入の展望
【株式会社ジェフコーポレーション 「 栄養 NEWS ONLINE 」 編集部 】
座長:
内藤立暁(静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科)
森 直治(愛知医科大学大学院医学研究科 緩和・支持医療学)
- 愛知医科大学大学院 医学研究科 緩和・支持医療学の森 直治 先生は、悪液質の定義やステージ、診断基準が確立した流れを解説し、悪液質の診断、治療には多職種によるチーム医療が重要であると訴えた。また、さらなる悪液質の啓発の必要性を強調した。
- 岐阜大学医学部附属病院 薬剤部の藤井宏典 先生は、アナモレリン承認前は悪液質治療が十分に行われていなかった状況を示し、多職種によるモニタリングを行い、タイミングを逃さずアナモレリン処方を提案することで患者のQOLが改善できることを紹介した。
- 静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科の内藤立暁 先生は、アナモレリンは除脂肪体重を増加させる効果が認められたが、機能を改善させるデータはないことを示し、機能を含めた改善にはアナモレリン処方に加え、栄養療法と運動療法の併用が望ましいとした。
- 静岡県立静岡がんセンター 栄養室の稲野利美 先生は、多職種で評価を行い、栄養療法、運動療法を組み合わせて介入した患者ではエネルギー摂取量や歩数を維持できたことを示した。
- 国立がん研究センター中央病院 緩和医療科の天野晃滋先生は、既存のQOL尺度では評価しにくい食に関する苦悩に特化した『進行がん患者の食に関する苦悩の調査票』の開発について紹介し、臨床での活用を訴えた。
わが国におけるがん悪液質の概念および診断の変遷と多職種ケア
森 直治(愛知医科大学大学院 医学研究科 緩和・支持医療学)
◆ 2000年代に悪液質の定義やステージが確立
悪液質のメカニズムについて、1980年代末から1990年代の初頭には既に腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインがその中心であると理解されていた。しかし悪液質の国際的な定義はなく、難治性の高度低栄養状態との概念が一般的であった。2006年に日本緩和医療学会が発表した『終末期がん患者に対する輸液治療ガイドライン第1版』でも「悪液質とは悪性腫瘍の進行に伴って、栄養摂取の低下では十分に説明されないるい痩、体脂肪や筋肉量の減少が起こる状態」とされていた。
しかし、2008年に「悪液質はがんのみならず慢性心不全、慢性腎不全(CKD)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性疾患を背景とする骨格筋量の減少が主徴である複合的な代謝障害の症候群である」との定義が提唱された。さらに2011年にはがん悪液質に特化した定義や診断基準、ステージも提唱されている。これらは現在もがん悪液質の概念として広く浸透している。
現在、悪液質は骨格筋量の持続的な減少を特徴とする多因子の症候群とされている。悪液質は通常の栄養サポートでは改善が難しく、進行性に機能障害をもたらす。病態生理学的には代謝異常と経口摂取の減少を両輪とする、たんぱく質分解および負のエネルギーバランスを特徴とする。このように悪液質の定義が確立され、悪液質に関する論文数も増えた。
◆JSPENでも悪液質の発表が増加
2007年から日本静脈経腸栄養学会(現・日本臨床栄養代謝学会、JSPEN)は欧州臨床栄養・代謝学会(ESPEN)との提携を進め、LLL(Life LongLearning)の講師資格取得を目的にJSPENの評議員をESPENに派遣し、日本でもLLLの講義が始まった。この講義内容には悪液質に関する情報も多く含まれ、とくに悪液質に対し多職種による集学的なケアが重要であり、その教育の必要性が強調されていた。JSPENではがん悪液質のメカニズムと対策について書かれているLLLのTopic 26 NutritionalSupport in Cancerを和訳し、学会誌上で発表された。その後、日本で年に約2回開催されるようになったLLLライブコースでもTopic26は頻出のテーマになった。
当時の欧米のエキスパートを中心に発足したThe society on sarcopenia cachexia and wasting disordersでは質の高い報告を数多く発表していた。そのひとつに悪液質はがん、心不全、CKD、COPDとともに頻度が高い疾患であるが、未治療の患者が多い、との報告がある。そこで、JSPENでも悪液質の啓発や対応、メカニズムの探求に取り組んできた。
JSPENの学術集会でも悪液質の報告が増え、2012年、2013年の学術集会では教育講演やフェローシップ受賞者講演の抄録で触れられるのみであったが、2014年学術集会で開催された日本緩和医療学会との合同シンポジウムや、2015年学術集会の緩和医療をテーマにしたシンポジウムでは悪液質を演題に含む発表が行われている。2016年学術集会では武藤輝一記念教育講演で悪液質をテーマにした講演が開催され、2017年学術集会ではシンポジウム「がん悪液質に対する予防と治療」も組まれた。それ以降、教育講演や日本緩和医療学会との合同シンポジウム「悪液質を学ぶ」、多職種のシンポジウム「悪液質に対する栄養治療のアート&サイエンス」など悪液質を中心としたプログラムが毎年行われている。2020年学術集会ではシンポジウム、パネルディスカッション、ワークショップで悪液質が取り上げられ、2023年学術集会でも本シンポジウムとともに、シンポジウム14『悪液質の診断と集学的治療』が開催される。
また、2016年からは毎年、がんの支持治療の確立を目的として、「日本がんサポーティブケア学会学術集会」が開催されている。同学会には悪液質部会もあり、活発な研究が行われている。
◆ 悪液質に対する集学的ケアの有効性を検証する試験、食の苦悩に特化した質問票開発も実施
日本でも悪液質に関する試験が増え、研究が進んできた。NEXTAC試験は非小細胞肺がんと膵がんの患者を対象に悪液質に対する多職種の集学的ケアの有効性を検証する目的で計画され、現在も継続中である。本試験から悪液質治療の新たなエビデンスが得られることが期待される。
また、悪液質患者では食の苦悩も重要な課題であり、その報告も行われるようになった。さらに『進行がん患者の食に関する苦悩の調査票』も開発された。この調査票には日本語版もあり、無料で使えるようになっている。臨床で広く利用され、悪液質患者の食の苦悩を評価することで、適切な対応がされることが期待される。
◆ 悪液質のさらなる啓発が必要
がん治療を専門とする医療従事者には悪液質についての認識が徐々に浸透してきた。しかし残念ながら、がん治療が専門でない医療従事者には理解が広まっていない。まして一般市民の悪液質の認知度は極めて低い。日本で行われたがん悪液質に関するWebアンケートの問い「がん悪液質を知っていますか」に対して、患者家族では「聞いたことがない」との回答が多かった。「悪液質の進行ステージとその判断基準を知っていますか」の問いに対しては、医師、コメディカルともに「知らなかった」との回答が多い。
日本では、がん悪液質の治療薬としてアナモレリンが利用できるようになった。JSPENをはじめ、多くの学会で、アナモレリン関連のセミナーが企画され、悪液質の啓発に貢献している。2014年からは日本サルコペニア・悪液質・消耗性疾患研究会の学術集会も年1回開催され、悪液質の啓発が行われている。今年公表予定のアジア人に向けた悪液質の診断基準に関する情報も、本学術集会の午後の悪液質のシンポジウムで発表される予定である。
◆ 悪液質に対する多職種のマルチモーダルケアの普及が必要
悪液質治療にはマルチモーダルケアとして多職種の連携が必要である。最近発表された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)の『成人悪液質患者に対する臨床ガイドライン』でもマルチモーダルケアが重要とされている。
2000年代末に悪液質の国際的な定義と診断基準が提唱され、日本でも普及してきた。JSPENはESPENとの提携などで悪液質の知識向上に努めてきた。近年のJSPENでは悪液質のセッションが増え、多職種のディスカッションもなされ、悪液質に関する質の高い研究が日本で行われるようになった。今後さらなる悪液質の啓発と研究を期待したい。
外来がん化学療法患者におけるがん悪液質薬物療法の実践
~チームで挑むアナモレリン適正使用~
藤井宏典(岐阜大学医学部附属病院 薬剤部)
◆ がん化学療法では多職種による評価が重要
近年、外来化学療法室への薬剤師の配置、常駐が増えている。外来化学療法室における薬剤師の役割には抗がん剤レジメンの審査・登録、抗がん剤開始時の患者面談、患者指導・副作用モニタリング、支持療法の処方提案、副作用対策の立案・実施、お薬手帳への記録など薬薬連携、医師や看護師への薬剤情報の提供がある。
岐阜大学医学部附属病院では外来化学療法室で抗がん剤治療をうける全患者を対象に薬剤指導を実施している。当院は薬剤師ブースで診察前の時間を利用して患者と面談し、治療経過の確認、日常生活の注意の説明、副作用チェック、レジメン内容のチェック、副作用対策の処方提案を行い、これらの情報をもとに医師が診察する。ただし医師診察前の薬剤指導の実施は患者の約40%に対してで、残りの患者は、医師診察後に面談している。
薬剤師が患者と面談する際に看護師が同席することもある。薬剤師と看護師による同時の聞き取りは非効率との意見もあるが、薬剤師だけでは把握しきれない症状もある。例えば、寛解と増悪を繰り返す皮膚障害の場合も、看護師とともに聞き取ることで、きめ細やかな評価ができる。チーム医療では多職種のオーパーラップも重要である。
◆ がん悪液質は早期発見、早期治療が必要
アナモレリン発売前、2019年の当院における化学療法による有害事象では食欲不振、倦怠感、末梢神経症状、痺れ、悪心嘔吐が多かった。このうち皮膚障害、悪心嘔吐、痺れに対しては処方提案ができるが、食欲不振や倦怠感は化学療法による有害事象というより、疾患特異的な悪液質に起因したもので、処方提案が難しい。アナモレリン発売前はこのような症状への対処はほぼ諦めていた状況であった。
がん悪液質は複合的な栄養不良症候群、つまり栄養摂取の減少、代謝異常によるたんぱく質およびエネルギーの喪失状態、食欲不振を伴う体重減少と、筋肉量の減少が特徴である。がん悪液質のステージは前悪液質、悪液質、不応性悪液質に分かれる。前悪液質では予防的治療が推奨され、悪液質では積極的に治療を行う。不応性悪液質では緩和的な治療が中心となる。
がん悪液質治療では、がん悪液質発症の有無の判断が重要なポイントである。悪心嘔吐、皮膚障害などの症状は患者から聞きとりやすいが、「がん悪液質である」と訴える患者はいないことから、がん悪液質の早期発見には、看護師が体調を聴取し、薬剤師が化学療法による有害事象を判断し、管理栄養士が栄養状態を把握して、多職種が常に悪液質について共通認識を持って患者の状態を判断することが必要である。また、がん悪液質が明らかになった場合はすぐに治療に取り掛かることも重要である。
◆ 体重減少や食欲不振には速やかにアナモレリン処方を提案
日本ではアナモレリンの適応上、前悪液質の患者には使いにくい。当院では、この時点で体重減少、食欲不振をモニタリングし、腫瘍性か薬剤性か見極める。体重減少や経口摂取不良が確認され、がん悪液質と思われる場合はアナモレリンの処方を速やかに医師に提案する。
アナモレリンの有害事象管理では高血糖、肝機能障害、心機能異常がポイントとなる。CYP3A4阻害剤など併用薬との相互作用、コンプライアンスの確認も必要である。アナモレリンは食後に服用すると栄養吸収が低下するため、起床後すぐの空腹時に服用してもらう必要がある。また、がん悪液質患者の多くは化学療法を行っているため、悪心嘔吐、味覚障害、口内炎など化学療法の有害事象の管理も行う。さらに管理栄養士と連携して、栄養指導を行う必要もある。不応性悪液質に入ると、栄養の過剰摂取が悪影響を及ぼすため、栄養療法を徐々に減らし、適切なタイミングでステロイドを開始する処方提案が求められる。
◆ アナモレリンは除脂肪体重を維持するが、有害事象に注意が必要
がん悪液質はレプチンや炎症性サイトカインを介した食欲抑制だけではなく、炎症性サイトカインやたんぱく分解誘導因子を介した骨格筋減少も惹起する。グレリンは食欲促進系ニューロンを直接刺激し、成長ホルモンを介し肝臓からのIGF-1分泌を促すことで体重増加や骨格筋の増加を期待できる。アナモレリンはグレリンに比べ、半減期が非常に長く、長期間の効果が期待できる。
非小細胞肺がんに伴うがん悪液質患者を対象に行われたアナモレリンの臨床試験では、アナモレリン群はプラセボ群に比べ有意に除脂肪体重が増加したことが明らかになった。体重でも同様の結果が得られた一方で、倦怠感、握力、6分間歩行距離については両群間に有意差を認めなかった。これらの改善には栄養療法や運動療法との併用が必要と考えられる。
アナモレリンの注意すべき有害事象は高血糖、肝機能障害、刺激伝導系抑制である。アナモレリンの特定使用成績調査の中間解析における有害事象は、高血糖が1.54%、肝機能障害が0.30%、刺激伝導系抑制が0.20%で発現した。発現頻度は高くはないが、これらは薬剤師が責任を持ってチェックする必要がある。毎回心電図測定を行うことは難しいが、既往歴からリスクが高いと考えられる患者は注意深くモニタリングしなくてはならない。
◆ アナモレリン投与開始前から多職種がモニタリングを実施
アナモレリンの添付文書では6か月以内に5%以上の体重減少と食欲不振があり、疲労感または倦怠感」、「全身の筋力低下」、「CRP5mg/dl以上またはヘモグロビン値12g/dl未満またはアルブミン値3.2g/dl未満のいずれか1つ以上」のうち2項目を満たした場合が適応となっている。
体重減少と食欲不振は摂食量が低下し、6か月間の最大体重から5%以上減少した場合と考えられる。疲労感または倦怠感については患者の問診で、「疲れやすい」「外出しなくなった」などの訴えがあった場合と考えられる。しかし、全身の筋力低下の評価は難しい。握力測定も困難である。当院では問診時に1人で来院していた患者が家族の付き添いで来院するようになった、歩行速度が遅くなったなどの変化から、筋力低下を把握している。生理機能検査も毎回チェックし、アナモレリン適応となった場合は積極的に開始している。
当院では医師のアナモレリン投与開始以前から、管理栄養士による栄養指導のほか、除脂肪体重測定、急速代謝回転たんぱく質(RTP)検査、QOL調査、心電図測定、血糖肝機能マーカー評価を行っている。薬剤師はこれらの項目を確認し、3~4週間ごとに評価してアナモレリンの継続の可否について医師が判断する運用としている。
◆ アナモレリンの効果はCONUTスコアと関連
当院においてはアナモレリンを40例の患者に使用しており、パフォーマンスステータス(PS)0~1の患者のほとんどでアナモレリンを開始できている。がん種としては胃がんが最も多く、次いで膵がん、大腸がん、肺がんである。うち30例は12週時点でも継続が可能であった。アナモレリン使用開始12週で除脂肪体重はベースラインから1.63㎏増加し、体重も1.28㎏、骨格筋は0.83㎏増加した。
アナモレリンの効果が高い患者タイプの検討も行った。PS、CONUTスコア、mGPS(modifiedGlasgow Prognostic Score)に着目し、12週間で除脂肪体重が増加した患者の割合を検討した結果、PSが0、CONUTスコアが0~1、mGPSが0で効果が得られやすかった。多変量解析ではCONUTスコアが独立因子として抽出された。CONUTスコアはアルブミン値、総コレステロール値、リンパ球数をスコア化して算出し、mGPSはCRPとアルブミン値をスコア化して算出する。いずれも数値が高いほど栄養状態が悪い。この結果から、アナモレリンはCONUTスコアやmGPS、PS低下前の使用が有用と考えられる。
がん悪液質患者とがん悪液質でない患者で活性グレリン濃度を比較した試験では、がん悪液質患者で有意に活性グレリン濃度が高く、BMIの減少率が高い患者ほど活性グレリン濃度も低いと報告されている。この結果はがん悪液質の進行でグレリン抵抗性をきたす可能性を示唆しており、アナモレリンはその前に開始する必要がある。
アナモレリンを導入すべきタイミングを直近6か月間の最大体重から5%減少した時点とすると少し早めの介入になる。本来のタイミングは体重が安定した時点から5%以上の減少であるが、当院ではアナモレリンは早期から使うことが重要と考え、この基準を採用している。ただし、摂食量、疲労感や倦怠感、全身の筋力低下をともに評価することが重要である。
◆ アナモレリンによる早期介入でQOL改善も期待
がん悪液質に対するベストプラクティスは、多職種で様々な視点から患者の体重減少や摂食量低下をモニタリングすることから始まる。アナモレリンの効果を最大限に発揮するためには早期の介入、栄養指導、運動療法を患者に寄り添って進める必要がある。チームでアナモレリンの適正使用を実践することによって、がん悪液質による食欲不振や倦怠感を改善できる可能性がある。
アナモレリンが登場して約2年が経過した。がん悪液質治療のアウトカムは除脂肪体重や体重の増加ではなく、実際の患者の生活が変わることである。当院がある東海エリアでは喫茶店のモーニングを楽しみにしている患者が多い。アナモレリンを使って、モーニングを楽しめたという話を聞くと、これががん悪液質を克服して見える景色ではないかと考える。
その実現のためにも、タイムリーにアナモレリンを開始することが重要である。
【質疑応答】
フロア●膵がん患者ではPSが悪い場合が多い。PSが2~3でも食欲増進効果を期待してアナモレリンを投与しているが、期待した効果が得られない患者をよく経験する。岐阜大学医学部附属病院ではPSが2~3の患者にアナモレリンの投与を行わないというストラテジーにしているか。
藤井●当院ではPS2~3の場合でも、管理栄養士が介入する。その上で食事を摂りたいなどの希望があればアナモレリンの投与を検討する。ただし、アナモレリンで血糖が上昇する可能性がある。血糖上昇リスクがある場合には、医師と議論してアナモレリン投与を行わないこともある。血糖上昇リスクがなければPS2~3でも一度はアナモレリンを3週間投与して、評価後に継続を決めている。
フロア●アナモレリン投与により血糖が上昇した場合はインスリンで抑制して、血糖を栄養に変えるという考え方はあるか。
藤井●インスリンによる血糖コントロールは重要と考える。ただし、外来では入院と異なり、タイムリーに血糖コントロールできない。インスリン併用を覚悟でアナモレリンを開始する場合は、2~3週間の投与であっても投与開始1週後に来院してもらい、血糖値をチェックする必要がある。
フロア●早朝のアナモレリン服用を嫌がる患者がいる。このような患者の場合、どのタイミングで服用してもらうべきか。早朝に服用できない場合は投与をやめるべきか。
藤井●起床後すぐに朝食を食べる患者は多い。その場合、昼食と夕食の間など時間を十分に空けられるタイミングを患者と話し合って見つけていく。そのタイミングで服用してもらえば、起床後すぐに朝食を食べる患者でも使用できると考える。
アナモレリンの臨床研究と展望
内藤立暁(静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科)
◆ 悪液質に類似した病態は古くから存在
慢性疾患で消耗する疾患は古くから知られていた。古代ギリシャではヒポクラテスがこれを『カケキシア』と呼び、死の兆候としていた。中東ではイブン・スィーナーが『Degh』と名付け、高齢者が食欲不振を生じて痩せていく姿を表しているとした。中国では『痿病』とされ、慢性疾患とくに肺の炎症性疾患によって筋肉が痩せ、立てなくなる病気と書かれている。
日本では、結核や寄生虫疾患などによって痩せていく状態を『虚労』と言っていた。平安時代の医師、丹波康頼の残した『虚労』の症例報告では、この患者は次第に痩せ、空腹だが食べることができず、歩きたいが歩けない症状であった。周囲の人はこの患者が弱っていることを理解しているが、患者本人だけが死に近づいていることに気づいていないと記されている。これは現在のがん悪液質患者の病態に類似している。
古くからこのような病態には栄養と薬剤の併用が行われてきた。薬剤としては六君子湯がよく使われていたが、現在は六君子湯がグレリン分泌を促進することが分かっている。グレリンは成長ホルモンの分泌を促すだけではなく、胃から空腹のシグナルを脳に伝え、摂食行動を促す効果も持つ。さらに、筋肉を増やす効果もあることが分かり、悪液質治療に応用されることになった。
◆ アナモレリンはAppetiteスコアや除脂肪体重を改善
日本では2020年にアナモレリンが世界で初めて承認された。アナモレリンは、グレリンより半減期が20倍と長い。長時間、体内に残留するため、グレリンよりも食欲増進効果が高い。アナモレリンは世界初のがん悪液質治療薬であり、長時間にわたり食欲増進、骨格筋増強、体重増加を期待できる特徴がある。非小細胞肺がん患者を対象とした試験ではプラセボ群に比べアナモレリン群でAppetiteスコアが有意に高く、12週間に渡って持続的に維持されることが分かった。除脂肪体重も増えることも示された。
肺がんまたは消化器がん患者のうちBMI20未満で2%以上の体重減少を対象にした試験では食欲増加、Appetiteスコア、5%以上の体重増加をクリニカルレスポンスとしたところ、24週間のアナモレリン使用で20~30%の患者が得られた。
しかし、たんぱく質や筋肉を増やす効果は減弱していく。インスリン様成長因子(IGF)-1、プレアルブミン、急速代謝回転たんぱく質(RTP)も治療期間中に徐々に低下する。これはグレリンレセプターのダウンレギュレーションによるものと考えられている。ただし、クリニカルレスポンスは性別、年齢、BMI、体重減少などによるサブグループ解析のすべてで確認されている。一方でパフォーマンスステータス(PS)が2の患者、ベストサポーティブケアの患者は効果が得られにくいことが明らかになっている。
◆ アナモレリンは機能改善効果が低い
アナモレリンには有害事象と機能への効果が限定的というネガティブな側面もある。PS別に有害事象発現率を比較したデータでは、有意差はないものの、PS2は60.0%と、PS0~1で38.4%に比べ多い傾向がある。また、高齢者では有害事象の発現率が高くなる可能性が示唆されている。しかし、重篤な有害事象や死亡の発現率は少なかった。市販後調査7か月における5,000例のデータでは、9.0%でなんらかの有害事象が発現し、このうち重篤な有害事象は2.2%、死亡は0.2%であった。
有害事象では高血糖が最も多く、食欲不振、動悸なども多かった。不整脈など循環器系の致死的な副作用も少数ではあるがみられた。5日間のアナモレリン服用で不整脈が発現した症例、アナモレリン服用3時間後に不整脈が発現した症例もある。これらは循環器系検査の結果、アナモレリン中止後1~5日間で不整脈が改善したことから、アナモレリンによる有害事象と考えられる。したがってアナモレリン使用中はモニタリングが重要である。
また、アナモレリンは機能への効果が限定的である。臨床試験では握力や6分間歩行速度に有意な改善は認めなかった。ただし、選択的AR修飾剤(SARMs)、メゲストロールとL-カルニチンの併用、サリドマイドを用いた試験報告では、いずれも筋肉は増えるが、機能は改善しなかった。つまり、アナモレリンに限らず薬剤だけで機能は改善しないことが示唆される。
◆ アナモレリンと運動療法の併用の有用性を検討
悪液質は多くの穴が開いたバケツと捉えられる。したがって、栄養指導やサプリメント、アナモレリンによる食欲増進など栄養の供給を増やすことが必須となる。同時に穴を塞ぐことすなわち運動療法やがんのマネジメントも重要である。がんの進行やPSの低下で穴は大きくなったり、増えたりして、アナモレリンの効果が低下する。そこで、薬剤に運動療法と栄養療法の組み合わせが必要と考えられる。
様々ながん種の患者45名を対象にアナモレリンを投与し、運動療法と栄養療法を組み合わせて介入したところ、全てのプロトコールを完遂した患者は62%であった。また、これらの介入で1~6週まで疲労感が改善していた。
現在、悪液質患者に対してアナモレリン投与と栄養指導による高たんぱく質摂取、自宅でのレジスタンストレーニングとフィジカルアクティビティによる運動療法の集学的ケアの有用性を検討するNEXTAC試験を行っている。対象はドライバー遺伝子変異のない非小細胞肺がん患者とし、化学療法とアナモレリン、栄養指導、運動療法群、化学療法とアナモレリン群に分け、6分間歩行で評価した歩行障害の発生率を比較することにしている。
◆ アナモレリンで栄養療法、運動療法を補完
アナモレリンは食欲や筋肉を増加する効果が示されている。ただし、適正な使用方法、効果の高い集団、使用のタイミングは十分に明らかになっていない。アナモレリンは栄養療法や運動療法だけでは目標を達成できなかった部分を補助する役割での使用が有用と考える。
【質疑応答】
森●愛知医科大学病院では緩和ケア外来でアナモレリンを使い始めた。緩和ケア外来ではPSが2~3の患者が多い。このような患者ではやはり効果が得られにくいのか。
内藤●有意差はないものの効果が低い傾向がある。がん悪液質の影響が強い場合のアナモレリンのメリットについては、コントロール群と比較する必要がある。
フロア●アナモレリンはIGF-1分泌を促進するため、がんの進行を促進する懸念がある。そのような報告はあるか。
内藤●がん治療にIGF-1阻害剤が使われていることから、理論的にはがんを悪化させる可能性はある。しかしアナモレリンの臨床試験で行われている腫瘍評価では、増悪させるデータはなかった。動物実験でもがんを悪化させるデータはないと報告されている。ただし、アナモレリンのがん原性試験は行われていない。今後、アナモレリン投与によるがんの進行は注意するべきポイントである。
フロア●アナモレリンは食欲を増進させるが、がん悪液質によるサイトカイン増加を抑制するわけではない。アナモレリンは化学療法が奏功している場合に効果を発揮する薬剤と考える。アナモレリンが海外で採用されていない理由はこの点も影響しているのか。
内藤●アナモレリンだけでがん悪液質を解決することは病態的にも難しい。炎症や腫瘍性の病態に対する治療開発が必要である。海外で採用されていない理由は、アナモレリンの臨床試験でプライマリーエンドポイントとされた骨格筋の1.5kg増加がもたらす患者の利益について、規制当局により意見が異なるためと考える。
がん悪液質リスクを見据えた多職種による早期介入の取り組み
~栄養士の視点からの検討~
稲野利美(静岡県立静岡がんセンター 栄養室)
◆ がん患者の体重減少は予後悪化と関連
がん患者の栄養状態を評価する際の簡便な指標として体重減少がある。体重減少は様々な症状によって必要な栄養量が摂れない二次性の飢餓状態と、がん悪液質による障害によって起きる。これらの要因は混在しており、明確に区別できない。静岡県立静岡がんセンターではがん患者の栄養について二次性の飢餓はサポートをしてきたが、がん悪液質には手をこまねいて見過ごしてきた。
二次性の飢餓予防には、各患者の飢餓の原因とその背景を評価した適切な対応が必要になる。がん悪液質は不可逆性で、前悪液質からの介入が推奨されている。近年はがん自体の発見も早くなり、がん悪液質の早期発見も増えてきた。
がん細胞から放出される因子、がんに対する生体反応によって多くの障害がもたらされる。がん悪液質は患者の生活や治療に影響を与えるとの報告もある。身体機能やQOLが低下し、がん治療に耐えられないと治療の中断や、生存期間の短縮もある。生存期間と体重減少の関連については体重減少が大きいほど生存期間が短いと報告されている。また低BMIほど予後が悪いとの報告もある。5%以上体重が減少した患者では治療の開始早期からコンスタントな体重減少が出現していることも明らかになっている。ただし、がん種による6か月間の体重減少率は異なっており、がん悪液質の発症リスクはがん種によって異なると示唆される。
体重は重要な情報であるが、体重測定を毎日、もしくは定期的に行う人は半分に満たない。正確な体重変化の把握は不十分である。まずは確実に体重を把握する体制が必要と考える。とくにがん悪液質リスクの高いがん種での体重減少を重視しなければならない。
◆ 多職種による低栄養スクリーニングを実施
当院では入院前に多職種によるスクリーニングを行っている。医師、看護師のほか歯科衛生士、言語聴覚士、管理栄養士、理学療法士も加わり術前評価を行い、必要に応じて入院前から介入するシステムになっている。入院前のスクリーニングでは、BMI18.5未満の痩せが約10%、5%以上の体重減少が約35%に見られた。また、簡易栄養状態評価表(MNA)でも低栄養のリスクありが約35%、低栄養が約6%であった。サルコペニアは約15%が該当していた。悪液質は前悪液質が約16%、悪液質が約2%に存在していた。
実臨床では骨格筋測定は困難であり、骨格筋減少のスクリーニングには下腿周囲長の評価が現実的と考えられる。そこで、入院前スクリーニングのデータから骨格筋指数と下肢周囲長の関係を検討したところ、相関が認められた。骨格筋の評価は下腿周囲長で可能と思われるが、サルコペニア肥満や下肢浮腫には注意が必要である。
当院で初回化学療法を行う際のスクリーニングでは、体重減少5%以上の患者のうち約40%が既に悪液質もしくは前悪液質に該当していた。さらに体重減少5%未満の患者でも約25%で悪液質もしくは前悪液質に該当していた。これは体重が減少していない患者でも代謝異常が始まっている可能性を示唆する。
◆ 早期の化学療法と運動療法、栄養療法の併用でエネルギー摂取量や歩数を維持
当院では進行がんを有する高齢者に対し集学的早期介入プログラムを行い、その有用性を評価するNEXTAC試験を多施設共同で行っている。対象は初回化学療法を行う非小細胞肺がんまたは膵がんのうち70歳以上でPS0~1の患者である。標準化学療法に加え、運動介入、栄養介入、生活介入を行う。運動介入は自宅での筋肉トレーニングを指導する。栄養介入では栄養カウンセリングとサプリメント摂取を推奨する。生活介入では生活活動の指導や心理社会的介入を行う。
栄養カウンセリングでは食事内容、摂取量、MNAの評価を行う。栄養カルテを用い、食事摂取の評価、治療開始時から栄養状態に影響を与える症状(NIS)、患者や家族の食に関する苦悩(ERD)や食環境の問題を調査する。8週間で3回の介入を行い、最終の介入では患者や家族で自己管理ができるように指導する。
患者の努力と家族の協力によって、介入の遵守率は高かった。治療開始時にはすでにがん悪液質が約40%、骨格筋減少が約70%でみられ、ERDや食環境の問題を有している患者も30%いた。介入期間中に体重、BMI、骨格筋指数、プレアルブミン、摂取エネルギー量、MNAに有意な低下は認めなかった。介入期間中にMNAが改善した群は悪化した群に比べ、1日のエネルギー摂取量や1日の歩数が有意に増加していた。これらの結果から早期にNISやERDを評価して介入を行うことで、エネルギー摂取量や歩数を維持できた可能性がある。介入群と標準化学療法のみ行ったコントロール群との比較も行った。両群の患者背景に有意差はなかった。1日当たりのエネルギー摂取量は、コントロール群に比べ介入群で有意に増加していた。たんぱく質摂取量については有意差を認めなかったが、コントロール群より介入群で多い傾向が見られた。骨格筋指数とたんぱく質摂取量の関連を検討したところ、介入群ではたんぱく質摂取量の増加に伴い骨格筋指数も増加している傾向が見られた。この結果からたんぱく質摂取の増加だけでなく、多職種の介入が骨格筋指数増加をもたらした可能性がある。
◆ 体重減少、食欲不振、筋肉低下、疲労感などを注視しがん悪液質の早期発見が必要
がん患者でも高齢化が進み、患者の個人差が大きくなってきた。また患者の脆弱性も増しており、患者の背景を慎重に評価して対応する必要がある。がん患者の栄養状態、体重減少の要因は二次性飢餓とがん悪液質の2つと考えられる。二次性飢餓の原因を解明し、適切なサポートを行う必要がある。がん悪液質は、前悪液質からの早期に集学的介入を行うことが有効と考えられる。がん悪液質の早期発見のためには、体重減少、食欲不振、筋肉低下、疲労感などに注視していく必要がある。
NEXTAC試験は現在も続けられている。NEXTAC試験によって集学的早期介入プログラムの有用性が明らかになれば、薬剤に加えて集学的早期介入プログラムの実施によって、予後を向上できる可能性がある。
【質疑応答】
フロア●栄養カウンセリングでの体重のゴール設定はどのようにしているのか。
稲野●今のところ目標は現体重の維持に留まっており、具体的な目標値はない。
フロア●アナモレリンの投与で、少なくとも1~2kgの体重増加は期待できる。それを意識した栄養カウンセリングは考えているか。
内藤●臨床試験の結果からアナモレリン投与で1~2kgの体重増加は考えられる。今後は食事の質を高めたうえで、体重が1~2kg増えた場合の影響を検証したいと考えている。
稲野●今までに組み入れられた患者では、約3回の介入で約2kg体重増加していた。
がん悪液質患者のQOLと食に関する苦悩の評価尺度
天野晃滋(国立がん研究センター中央病院 緩和医療科)
◆ がん悪液質では食の苦悩も問題
がん悪液質は進行性の骨格筋減少すなわちサルコペニアを特徴とする代謝障害で、従来の栄養サポートでは対処が難しい。がん悪液質では全身性炎症と異化亢進により、炎症性サイトカインが視床下部、下垂体、副腎系へ影響を及ぼし、栄養障害、食欲不振、エネルギー不均衡、サルコペニア、パフォーマンスステータス(PS)とQOLの低下をもたらす。これらは患者のみならず家族の苦悩にもつながる。進行がんではがんそのものだけでなく、感染やがん治療によって全身性炎症が悪化し、炎症性サイトカインが増加する。患者と家族の苦悩、感染、がん治療まで含めて広義のがん悪液質と捉えることもできる。
緩和ケアでは進行がん患者ができるだけ良い状態を維持して、できるだけ長く大切な人と過ごすことを目指す。これに反対する意見はほとんどないと考える。そのために重要なのは栄養の摂取、適度な運動、夜間の安眠の生活の土台となる3点である。
緩和ケアでは、がん悪液質を抑制し、これらを妨げる症状の緩和と問題の解決が必要になる。そこで、栄養摂取、食事に関連する苦悩に注目した。
◆ がん悪液質には多職種による患者、家族のケアが必要
2020年に発表された米国臨床腫瘍学会(ASCO)によるガイドラインには「食欲不振で体重減少が著しい成人の進行がん患者に対して栄養療法、薬物療法、運動療法それぞれについて、食欲と体重を増加させ、身体機能とQOLを改善させる効果はあるか」というCQが取り上げられている。このCQについてエビデンスレベルの高い研究はなく、今後の研究が期待される。このガイドラインにはケアの対象は患者だけでなく、患者の生活を支える家族も含まれると記されている。食事、栄養は患者の家族も重要な役割を担う。患者家族の苦悩のケアも必要である。
欧州臨床腫瘍学会(ESMO)の2021年のガイドラインには多職種ケアの概念図が掲載されている。
この概念図では中心に患者と家族がおり、その周囲を医師や看護師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などリハビリテーションスタッフ、臨床心理士、ソーシャルワーカーなどを含む多職種が描かれ、チームでのサポートが推奨されている。
◆『 進行がん患者の食に関する苦悩の調査票』を開発
がん悪液質の緩和ケアでは、多職種でのマルチモーダルケアの開発、多職種でのマルチモーダルケアの効果判定、医療者を対象とした教育プログラムの開発、患者・家族を対象とした教育プログラムの開発という4つの課題がある。このうち多職種でのマルチモーダルケアの効果判定については食欲、体重、身体機能、生存期間の評価が報告されているが、患者と家族のQOLの評価は十分に行われていない。
欧米で開発された包括的QOL尺度であるFAACT(The Functional Assessment of Anorexia/Cachexia Therapy)やEORTC QLQ-CAX24では、進行がん患者の食に関する苦悩の一部は評価できるものの、全体的な評価は難しい。さらに家族の食に関する苦悩を評価するツールはない。また食欲や摂食量の改善が期待できる薬剤、ケアの効果判定に利用できるQOL尺度も存在しない。
そこで、進行がん患者と家族の食に関する苦悩の評価尺度を作成することとした。まず、開発フェーズとして2020年7~9月に5施設の患者144名および家族106名を対象に、先行研究の知見から予備的に作成した42項目の調査票を用いて、本格的な調査票に使用する項目を選定した。次に確認・再試験フェーズとして2021年1月~7月に11施設の患者234名および家族152名を対象に開発フェーズの42項目から選定した21項目の調査票で評価した。さらに患者に対しては既存のQOL尺度であるFAACTとEORTC QLQ-CAX24で、家族に対してはCQOLC (Caregiver Quality of LifeIndex-Cancer)で評価し、それぞれのQOL尺度との関連を検討した。
こうして『進行がん患者の食に関する苦悩の調査票』が完成した。患者版は7領域それぞれに3項目の質問があり、合計21項目となっている。短縮版は7領域から代表的な質問を1項目選び、7項目とした。家族版は患者版と対になるように質問を選び、項目数も患者版と同一にした。各項目の点数を合計し、点数が高いほど苦悩が強いと評価する。また領域ごとの点数化も可能である。患者版では家族との関係性についての領域があるが、この領域は1人暮らしあるいは入院中の場合、回答できない。その場合にはその他の領域の点数のみで評価できる。『進行がん患者の食に関する苦悩の調査票』はすでに公開されており、無料でダウンロード、使用できる。
◆『 進行がん患者の食に関する苦悩の調査票』の活用でがん悪液質患者の薬剤、ケアの効果判定が可能
『進行がん患者の食に関する苦悩の調査票』は既存のQOL尺度では評価しにくい食に関する苦悩に特化したもので、食欲と摂食の改善が期待できる薬剤やケアの効果判定に使用できると考えている。臨床では本調査票を単独で使用できるが、研究で使う際は欧米で開発された包括的なQOL尺度と共に使用するとよい。論文を引用すれば、著作権や許諾の問題は生じない。臨床で使う場合は、7項目の短縮版が簡便で使いやすいと考える。
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