免疫療法のはなし 【その❶ 免疫とは?】 | 奥村 康 先生

2023.07.04癌(がん)

世界が経験したことのないほどのスピードで人口の高齢化が進む中、日本では「がん)」にかかる人や「」で亡くなる人の数が増え続けています。最近は医療技術が進歩し、早めに対処することで治るケースも多くなってきてはいますが、身体に関する心配事の上位を占める病気といえば、やはり「」ではないでしょうか。

第1 回目の今回は、免疫学の第一人者である順天堂大学奥村 康教授に、「」と関りの深い「免疫」の仕組みについて解説していただきました。

株式会社ジェフコーポレーション「栄養 NEWS ONLINE 」編集部】

 

奥村 康 教授

奥村 康 先生
順天堂大学医学部 免疫学 特任教授)

 

免疫とは

免疫とは、ウイルスをはじめとする生体にとっての「異物(敵)」から身体を守るしくみのことを指します。

私たちの身体は大きく分けて3 段階のバリア機構によって守られています(表 1 )。第 1 段階目は皮膚やまつ毛、鼻毛、喉の粘膜などによる「物理的・化学的バリア」で、くしゃみや鼻水、涙などによって異物の侵入を防ぎます。この防御壁をすり抜けて異物が体内にまで侵入してくると、今度は「免疫」の出番です。第2 段階目のバリア「自然免疫」では、血液中に含まれる白血球の一部が異物を食べて取り除きます。さらに、この「自然免疫」が突破された場合には、より強力な第3 のバリア「獲得免疫」が働きます。「獲得免疫」を担うのは「自然免疫」とは別の白血球(後述)で、敵の種類を特定し、「抗体」などの武器を使って攻撃します。

血液の循環を司る「心臓」や呼吸を司る「」などの場合とは違い、「免疫」を担当する臓器は分かりやすい形で存在していないため、日常生活の中で免疫の働きを実感する機会は少ないかもしれません。しかし、例えば風邪をひいた際に熱が出るのは、体温を上げて免疫細胞の活動を活性化しようとする反応であり、免疫が機能している証拠の一つともいえます。

 

表 1 : 3 段階のバリア機構
種類主なはたらき対象
物理的・化学的バリア皮膚や粘膜、涙・鼻水・だ液などによる異物の侵入防止さまざまな異物
自然免疫白血球による貪食、NK 細胞による攻撃
獲得免疫抗体による異物の排除特定の異物
キラーT 細胞による異物の排除

 

 

白血球の種類と働き

身体の免疫システムの中でもとくに重要な役割を担っているのは「白血球」です。白血球とは血液中のいろいろな免疫細胞の総称で、大きく分けて「顆粒球」「単球」「リンパ球」という3つのグループに分類できます(表 2 )。このうち「顆粒球」と「単球」は、主に体内の異物(敵)を食べて処理する役目を果たします。一方、「リンパ球」は免疫の主役とも呼べるもので、 NK 細胞、 T 細胞、 B 細胞といった種類があります。これらのうち NK 細胞は「自然免疫」を、 T 細胞B 細胞は細胞は「獲得免疫」を担っています。

自然免疫」は生まれながらにして身体に備わっている防御システムです。「自然免疫」を担う NK 細胞は、血管やリンパ管を通って全身を隈なくパトロールしており、体内に異物を発見すると即座に攻撃を開始して身体を守ってくれます。 NK 細胞は平時に街の治安を維持する、頼もしいお巡りさんのような存在だといえるでしょう。

ただし、敵が大軍だったり、お巡りさんの力が弱まっている時など、警察だけでは対処しきれないことがあります。このような場合に活躍するのが、T 細胞B 細胞による軍隊「獲得免疫」です。「獲得免疫」は、特定の病原体などに感染することによって相手を記憶し、再び同じ敵に出会った際に効果的に排除するという後天的な防御システムです。「獲得免疫」を担う T 細胞B 細胞にはそれぞれ役割分担があり、 B 細胞はタンパク質で作った「抗体」をミサイルのように飛ばして攻撃し、 T 細胞B 細胞に指令を出しながら敵に対して直接攻撃を加えます。

ちなみに、この「獲得免疫」のしくみを応用したものが感染症のワクチンです。ワクチンというのは、本物の敵である強力なウイルスを、ほとんど害のないレベルまで弱くした軍事訓練用の仮想敵のようなものです。この弱いウイルスを体内に注入することで体内にあらかじめ抗体を作っておき、本物の敵が侵入してきた時に備えるということです。軍隊の役を担うだけあって、 T 細胞B 細胞は大変強靭にできており、歳をとっても劣えることなく活発な働きを維持し続けます。100 歳の人にインフルエンザなどのワクチンを打ってもしっかりと効果があるのが、その証拠です。

 

表2 : 白血球の種類
白血球の種類働き免疫の種類
顆粒球貪食による異物の排除自然免疫
単球(マクロファージ・樹状細胞)貪食による異物の排除、抗原提示自然免疫/獲得免疫
リンパ球 NK 細胞ウイルスに感染した細胞などを攻撃して排除自然免疫
 B 細胞抗体の合成・放出獲得免疫
 T 細胞ヘルパー T 細胞単球から抗原情報を受け取って B 細胞やキラー T 細胞に指令を出す獲得免疫
キラー T 細胞ウイルスに感染した細胞などを攻撃して排除獲得免疫

 

身体にとっての異物

ここまで述べてきたように、「免疫」とは身体を異物(敵)から守るしくみを指します。では、身体にとっての「異物」とは何でしょうか?ウイルスをはじめとする外部からの侵入者はもちろんそうですが、その一方で「がん」のように体内で発生する「異物」も存在します。次回は「がん」と「免疫」の関係について見ていきましょう。

 

 

【記事の続きはこちら】

その❷ がんと免疫

その❸ 食品成分と科学的根拠                  超微粒子β-グルカンを例に

 

【奥村 康 先生  Profile 】

◆ご略歴
  • 1969 年 千葉大学医学部卒業
  • 1973 年 同大学大学院医学研究科 修了 / 同大学医学部病理学教室 助手 / 米国国立衛生研究所( NIH )リサーチアソシエート
  • 1976 年 千葉大学医学部病理学教室 助手 / 環境疫学研究施設免疫研究部 助手
  • 1978 年 東京大学医学部血清学教室 助手
  • 1980 年 同大学医学部血清学教室 講師
  • 1984 年 順天堂大学医学部免疫学講座 教授
  • 2000 年 同大学医学部長
  • 2008 年 同大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センター長
  • 2012 年 現職
◆主なご研究
  • サプレッサー T 細胞の研究
  • ヘルパー、サプレッサー、キラー T 細胞の特異遺伝子の解析
  • サプレッサー、 NK 、 Ly- 1 B 細胞の分化と活性制御の研究
  • 細胞傷害機序、リンパ球機能分子の研究、パーフォリン遺伝子、 B 70 遺伝子の発現、調整機序の解明、アポトーシス関連分子群の解明
◆受賞歴
  • ベルツ賞
  • 高松宮賞受賞
  • 安田医学賞
  • ISI 引用最高栄誉賞

 

 

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