第13回日本腎臓リハビリテーション学会学術集会|Report CKD患者のPEW対策:栄養学的アプローチ

2023.10.24フレイル・サルコペニア

CKD 患者の PEW 対策:栄養学的アプローチ

座長
菅野義彦東京医科大学 腎臓内科学分野
山縣邦弘筑波大学 医学医療系腎臓内科学
共催: 日本病態栄養学会


  1.  大阪公立大学の泉家康宏先生は心不全患者や慢性腎臓病 ( CKD ) 患者でサルコペニアを合併すると予後が悪化することを示し、筋量、筋力を向上させるレジスタンストレーニングの必要性を訴えた。さらに筋量、筋力増加が腎保護効果をもたらす機序として、筋肉からの FSTL1 分泌促進による腎臓での eNOS 活性化が関与する可能性に触れた。

  2.  浜松医科大学医学部附属病院の加藤明彦先生は CKD 患者の慢性炎症がたんぱく質エネルギー低栄養状態( PEW )サルコペニアを惹起するため、食物繊維魚油摂取による炎症抑制の重要性を解説した。また、食事が炎症に与える影響を総合的に評価する指標として食事性炎症指数 ( DII ) を紹介した。

  3.  昭和大学藤が丘病院の井上嘉彦先生は CKD 患者における腎保護には低たんぱく質食が重要であることを改めて指摘した。低たんぱく質食を持続させ、効果を発揮させるためには、エネルギー量の確保が必要であることに触れ、低たんぱく質米などたんぱく質調整食品の活用を紹介した。

  4.  東邦大学医療センター佐倉病院の大橋 靖先生は CKD 患者に特徴的な体液貯留による細胞外水分量増加という病態は、加齢による細胞内外水分比の崩れにより生じている可能性を示唆した。細胞内外水分比の崩れによる心不全リスク上昇に触れ、高齢 CKD 患者における体重管理の重要性を指摘した。

CKD 患者に対する治療戦略を骨格筋から考える

泉家康宏大阪公立大学 循環器内科

心不全患者では併存症治療が重要

循環器領域では心不全患者の急増が心不全パンデミックとして問題となっている。日本でも新規心不全患者が増加しており、2030 年頃まで増え続けると予測されている。こうした背景から日本循環器学会と日本心不全学会では 『急性・慢性心不全診療ガイドライン ( 2017 年改訂版 ) 』 に新たな知見を取り入れた 『 2021 年  JCS / JHFS  ガイドライン フォーカスアップデート版 』 を発表した。
近年は、心不全治療で心臓以外の臓器の併存症治療も重要視されるようになった。そこで、 『  2021 年 JCS / JHFS  ガイドライン フォーカスアップデート版 』 でも併存症の病態と治療を大きく扱っている。
心不全治療で重要な併存症のひとつに慢性腎臓病 ( Chronic Kidney Disease : CKD ) や心腎症候群がある。心臓の悪化に伴い腎臓も悪化し、腎臓の悪化でさらに心臓が悪化するこの悪循環について心腎連関という概念が提唱されている。心腎連関の増悪には貧血が関わっており、心腎貧血症候群と呼ばれている。

サルコペニア合併で心不全、 CKD の予後悪化

心不全患者の予後の悪化要因には筋量低下もある。実臨床では心機能が同程度の心不全患者であっても、筋量を維持している患者より、痩せの患者で予後が悪い印象がある。
実際に下腿周囲径が細い心不全患者ではイベント発生リスクが高くなり、痩せは心不全患者の予後不良の独立した予測因子になる、との報告がある。骨格筋の萎縮は心不全患者の予後を悪化させると示唆される。 CKD でもサルコペニアを合併する患者の予後は悪いという報告がある。

簡便に実施可能なサルコペニアスクリーニングテスト

サルコペニアの定義は、進行性及び全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群とされる。サルコペニアの診断基準は、 「 筋量の低下があり、筋力の低下もしくは身体能力の低下を合併する場合 」 とされている。ただし、実臨床でのサルコペニア診断は困難である。筋力低下は握力で容易に評価できるが、身体能力低下を歩行速度で評価する場合、高齢者では医療安全上難しいことも多い。筋量を評価するためには CT 、 MRI 、二重エネルギー X 線吸収測定法 ( DXA ) の機器が必要となる。
そこで、簡易なスクリーニング法として、年齢、握力、下腿周囲径で評価するサルコペニアスクリーンニングテストがあり、高スコアの患者は、サルコペニアと診断された患者と一致点が多いとの報告がある。

サルコペニアスクリーニングテスト高スコアは心不全の予後が悪化

循環器内科の入院患者でも CKD 患者は多い。循環器内科入院の CKD 患者 260 名を対象にサルコペニアスクリーニングテストで評価した結果、 166 名が高スコアになった。サルコペニアスクリーニングテストの高スコア群と低スコア群で心血管イベント発生率を比較したところ、高スコア群は低スコア群に比べ心不全による入院が多く、予後も悪かった。この結果は CKD 患者のサルコペニア合併によって、心不全合併症が増え、予後が悪くなることを示唆する。
心不全マーカーの脳性ナトリウム利尿ペプチド ( BNP ) 値とサルコペニアスクリーニングテストスコアで4群に分け、予後を検討した。 BNP 低値かつサルコペニアスクリーニングテスト高スコア群は最も予後が悪く、サルコペニアと心不全の合併が予後を悪化させる可能性が示された。

ダイナペニアでも透析患者の予後が悪化

近年はサルコペニアに加え、ダイナペニアという概念も提唱されている。サルコペニアは筋量および筋肉の機能がともに低下した状態だが、ダイナペニアは筋量は維持されるも筋肉が機能低下した状態を指す。つまり、筋肉の質が低下している状態である。
維持透析患者 244 名を対象にサルコペニア群、ダイナペニア群、健常群に分け予後を比較したところ、サルコペニア群は最も予後が悪いが、ダイナペニア群でも健常群に比べ予後が悪いことが分かった。この結果から、筋量だけでなく、筋肉の質や機能の評価も重要と考えられる。

レジスタンストレーニングにより筋肉量が増加

CKD はサルコペニアを惹起し、身体機能が制限されるため、身体障害に陥る。サルコペニアや身体機能制限、身体障害はフレイルにつながる。フレイルはさらに腎機能を低下させ、死亡に近づいていく。したがって CKD を合併した心不全患者では骨格筋に対する早期介入が必要となる。
筋量や筋肉の機能が低下した患者では有酸素運動に加え、レジスタンストレーニングが必要になる。有酸素運動は持久力を高めるが、レジスタンストレーニングは筋肉量を増加させる運動である。レジスタンストレーニングにより実際に筋量が増え、基礎代謝の増加も確認されている。

レジスタンストレーニングとアミノ酸補充でさらに筋量、筋力増加

心不全治療でも運動療法に加え、栄養療法の重要性が注目されるようになった。サルコペニアを有する日本人高齢女性 155 名を対象に、低強度レジスタンストレーニング中心の運動療法のみ、アミノ酸補充のみ、運動療法とアミノ酸補充併用、教育のみの 4 群に分け、筋量および筋力を比較した報告がある。

結果は、運動療法群で筋量と筋力が増強、筋肉の機能も向上した。運動療法とアミノ酸補充併用群ではさらに筋量や筋肉の機能が向上していた。この結果から運動の重要性はもちろんだが、筋肉のもとになるたんぱく質の補充も重要であることが示された。

心不全、 CKD 患者に対するレジスタンストレーニングは有用

保存期 CKD 患者についても 8 週間の漸増型レジスタンストレーニングが、運動耐容能の向上に寄与する、との報告がある。また、 CKD 患者に対するレジスタンストレーニングは炎症性サイトカインを低下させるとの報告もある。心不全、腎不全のいずれに対してもレジスタンストレーニングによる介入は有効と考えられる。
『 急性・慢性心不全診療ガイドライン (  2017 年改訂版 ) 』 でも 「 レジスタンストレーニングは、骨格筋の筋力、筋持久力、筋量を増す効果がある 」 との記載がある。また、 「 低強度レジスタンストレーニングの安全性が確認されており、筋力が低下した慢性心不全患者においては、大筋群の筋力が増すことにより、上下肢を用いる日常労作が容易になり、 QOL が改善する 」 とも記載されている。しかしレジスタンストレーニングは定量化が難しく、エビデンスが少ない問題もある。これらの背景を踏まえ、 『 急性・慢性心不全診療ガイドライン (  2017 年改訂版 ) 』 ではデコンディションニング ( 筋、骨格、循環、呼吸機能など身体機能の低下 ) が進んだ患者にはレジスタンストレーニングを行うことが推奨されている。
筋量や筋力が減少した心不全、腎不全の患者は予後が悪い。このような患者の予後改善を目的に、レジスタンストレーニングによる介入は筋量や筋力の増加につながり、有用と考えられる。

レジスタンストレーニングによる腎保護効果の機序を検討

しかし、レジスタンストレーニングが CKD に対して有効である機序は明らかになっていない。そこで、レジスタンストレーニングモデルマウスを作出し、レジスタンス運動が及ぼす影響を検討した。有酸素運動とレジスタンストレーニングでは筋肉中で活性化するシグナルが異なると言われている。レジスタンストレーニングでは Akt というたんぱく質が活性化して、たんぱく質合成が促進され、タイプ 2 線維 ( いわゆる白筋 ) が増加する。有酸素運動では AMP 活性化プロテインキナーゼやペルオキシソーム増殖因子活性化レセプター γ 共役因子 -1α が活性化し、ミトコンドリアが増加する。タイプ 2 線維は加齢やサルコペニアで減少する。
マウスの遺伝子改変によって、 Akt を活性化または減弱させて、筋肉量を制御できるマウスを作出した。このマウスではレジスタンストレーニング前、レジスタンストレーニング後の状態を再現できる。 1 週間にわたりマウスの筋肉を増大させ、腎臓の炎症や繊維化を惹起する片側尿管結紮を行い、さらに 1 週間後に腎臓の状態を検討した。
その結果、サルコペニアを進行させる筋萎縮遺伝子はレジスタンストレーニングモデルマウスに比べてコントロールマウスで増加していた。また、レジスタンストレーニングモデルマウスではコントロールマウスに比べ、尿細管障害スコアが少なく、腎臓組織の線維化面積も少なかった。つまり、レジスタンストレーニングには腎の保護作用があると示唆される。
内皮 NO 合成酵素 ( eNOS ) の活性化は腎保護作用があると報告されている。そこで、レジスタンストレーニングマウスの腎臓で eNOS を評価したところ、活性化していることが分かった。

運動による腎保護作用にはレジスタンストレーニングによる FSTL1 分泌促進が関与

レジスタンストレーニングにより、筋肉から何らかのホルモンが分泌され、腎保護作用に寄与している可能性がある。 FSTL1  ( Follistatin like 1 ) がこの機序に関与する候補として考えられる。 FSTL1 はレジスタンストレーニングマウスの筋肉、血中で増加していた。 FSTL1 は eNOS を活性化する作用があることも分かっている。
これが CKD 患者における運動療法の効果の機序のひとつと考えられる。

【 質疑応答 】

フロア ● レジスタンストレーニングモデルマウスにおける腎機能低下抑制の機序は明らかになっているか。

泉家 ● コントロールマウスでは腎臓にダメージを受けたことにより、筋萎縮が進んだ。これは全身性の炎症で代謝が変化したためと考えられる。一方、レジスタンストレーニングマウスでは抗炎症作用が発揮され、筋萎縮が進まなかった可能性がある。

山縣 ● ダイナペニアは運動療法を行わず、栄養療法のみ実施し、筋量は増えたが、筋力は向上しない状態と考えてよいのか。

泉家 ● 見た目の筋量は多いが、握力など機能が落ちている状態を指す。筋量があっても、筋肉内の脂肪が多いと機能が低下する。

山縣 ● 筋量だけでなく筋力も向上させるためには運動療法と栄養療法の併用がよいのか。栄養療法だけではダイナペニアのような状態になるのか。

泉家 ● 運動療法と栄養療法の併用で筋量や筋力が向上するという報告がある。栄養療法のみの場合、ダイナペニアになる可能性はある。

 

CKD 患者の PEW ・フレイル予防における食事の 「 質 」

加藤明彦浜松医科大学 医学部附属病院 血液浄化療法部

CKD による慢性炎症は REE を増加

CKD 患者は慢性的な炎症を有している。持続する炎症はたんぱく質エネルギー低栄養状態 ( PEW ) やサルコペニアを惹起する。これらがフレイルをもたらし、骨折、転倒、脳卒中、肺炎、心不全のリスクが高まり、要支援、要介護や施設入所、死亡につながる。
保存期 CKD 患者の安静時エネルギー消費量 ( REE ) は慢性炎症と関連することが報告されている。炎症を血清 CRP で評価したところ、 CRP 0.5 mg / dL 以上群は CRP 0.5 mg / dL 未満群に比べ REE が高かった。一方、クレアチニンクリアランス ( CCr ) との関連は認めなかった。つまり、炎症は腎機能に関わらず、安静時エネルギー消費量を増大させると考えられる。

慢性炎症は筋肉合成低下、エネルギー不足を惹起

筋たんぱく質の合成、分解が血清 CRP 値によって異なることも報告されている。血液透析患者の CRP 高値は筋肉の合成を低下させ、分解が亢進し、筋代謝のネットバランスが負に傾くことが分かっている。つまり、炎症があると筋肉が減少する。
肝硬変患者では夜間のエネルギー不足を防ぐため、就寝前に軽食を摂取する就寝前補食療法 ( LES ) が行われている。 CKD 患者でも肝硬変患者と同様のエネルギー不足が起きていることも明らかになっている。 CKD 患者を対象に呼吸商で糖質や脂質の燃焼割合を評価した報告では、朝食前では呼吸商が低くなっており、脂質の燃焼が増加していることが分かった。一方、LESを行った場合、朝食後の呼吸商が増加した。 CKD 患者では筋肉量が少ないため、肝硬変患者に類似したエネルギー不足が起きると考えられる。
CKD 患者では炎症に低栄養が加わると予後が悪化する。日本の血液透析患者 2,000 名を対象にした報告では、約 30 % で血清CRP 0.3 mg / dL 以上の炎症を有しており、かつ低栄養であることが示された。こうした患者では死亡リスクが高いことも明らかになっている。

食事の炎症への影響を評価する DII

近年、食事が炎症に与える影響を総合的に評価する指標として食事性炎症指数 ( Dietary Inflammatory Index : DII ) が注目されている。食品には炎症を惹起する食品と炎症を抑制する食品がある。ビタミン B12 を除くビタミン類は炎症を抑制する。三大栄養素はすべて炎症を惹起する。ただし脂質でも n – 3 系脂肪酸など多価不飽和脂肪酸は炎症を抑制する。微量元素では亜鉛、マグネシウム、セレン、食物繊維が炎症を抑制する。特に食物繊維は最も炎症抑制作用が強いとされている。
疫学研究では食事内容が炎症反応と関係することが明らかになっている。食事内容を炎症が多い群と少ない群で比較したところ、炎症が多い群では豆類、ナッツ類、野菜、果物類、魚介類の摂取が少なく、肉類、菓子類の摂取が多かった。日本人を対象に DII と血中インターロイキン ( IL )  -6 濃度を検討した報告では、 DII スコアが高く、炎症を惹起する食品の摂取が多いほど、血中 IL-6 濃度が高くなっていた。

DII スコア高値はサルコペニア、フレイル発症の高リスク

DII はサルコペニア、フレイルとも関係する。 DII スコアが高くなるとサルコペニアの発症リスクが高まり骨格筋量が減る、とする報告がある。つまり、食事の内容がサルコペニア発症に関係する可能性がある。
フレイルでも同様な疫学研究が報告されており、 DII スコアが高い群は、 12 年間のフレイルのリスクを上昇させることが示された。メタ解析でも DII スコアが高いほど、サルコペニアの合併リスクが上がると報告されている。

CKD 患者でも DII スコアが予後に影響

食物繊維は最も炎症を抑制する。しかし、日本人の CKD 患者では健常者に比べ、食物繊維の摂取量が少ないため、 CKD 患者の食事は DII スコアが高いことが予測される。 CKD 患者を対象に可溶性食物繊維、不溶性食物繊維、総食物繊維それぞれの摂取量と血清 CRP の関連を検討した報告では、いずれの食物繊維でも摂取量が多いと CRP 0.3 mg / dL 以上になるリスクが低下したが、とくに不溶性食物繊維の摂取量が多いとリスク低下が顕著であった。スウェーデンの CKD 患者を対象にした検討でも、食物繊維摂取量 10 g / 日の増加で総死亡リスクが減少することが報告されている。
CKD 患者でも食事の質が予後に影響すると示唆される。実際、保存期の CKD 患者では食事の質が悪いと末期腎不全のリスクが高くなるとの報告がある。また血液透析患者の DII スコアは栄養指標、 CRP 、総死亡、 QOL スコアと関係するという報告がある。

ヨーグルトや n-3 系不飽和脂肪酸、ビタミン D の摂取と運動が炎症を改善

DII スコアを改善する食事として、プロバイオティクスを含むヨーグルトの摂取があげられている。フランスの CKD 患者を対象にプロバイオティクスのヨーグルトの摂取頻度と CRP を検討した報告では、プロバイオティクスのヨーグルトの週 2 〜 3 回の摂取で血清 CRP が低下することが示された。
青魚に多く含まれる n – 3 系不飽和脂肪酸も CRP を低下させる。実際に血液透析患者に n – 3 系不飽和脂肪酸を投与したところ、血清 CRP が低下したとする報告がある。青魚にはビタミン D も多く含まれる。血液透析患者にビタミン D 補充をした群では補充なし群に比べ、炎症性サイトカイン発現が低減したと報告されている。
運動による炎症抑制効果についても検討されている。血液透析患者対象のメタ解析では運動介入による CRP 低下が報告されている。

食事の質向上が炎症を抑制し、予後を改善

CKD 患者に特徴的な慢性炎症を抑制する観点からは食事の質も重要である。肉、加工食品、身体不活動は炎症を惹起する。一方、バランスの取れた食事と身体活動が炎症を抑制する。 n – 3 系必須脂肪酸、食物繊維、プロバイオティクスといった食品の摂取は、炎症を抑制し、 CKD 患者の予後を改善する可能性がある。

【 質疑応答 】

フロア ● DII は観察研究で得られた数値なのか。食事を変更して DII が変化したという介入研究はあるのか。

加藤 ● DII は食事調査から算出されている。 DII に関する報告はほとんどが観察研究である。因果関係は明らかではないが、 DII スコアが高いと多くの面で悪影響があると報告されている。個別の栄養素を付加した介入で CRP が低下するという報告は多い。これを総合的に評価した指標と考えられる。

フロア ● DII スコアは野菜中心の食事で低くなると考えてよいのか。

加藤 ● DII に関する報告は炎症が強い群では肉類の摂取が中央値より多かったことを示しており、肉類ばかり摂取しているわけではない。たんぱく質では植物性と動物性を 1 : 1 で摂取すると最も死亡リスクが低くなるという報告もあるため、すべてを植物性たんぱく質にすればよいとは限らない。

フロア ● DII は基準値があるのか。

加藤 ● 標準的な値が設定され、これをもとにスコア化していると考えられる。

フロア ● DII は日本人にも適用できるか。

加藤 ● 適用可能である。

フロア ● ω – 3 系脂肪酸や食物繊維に炎症抑制効果があるとのお話があった。食事は変えず、これらを薬剤などで補充する場合も効果があるのか。

加藤 ● 一定の効果はあると考えられる。例えば、動脈硬化予防目的でも投与されているエイコサペンタエン酸 ( EPA ) は、炎症抑制や透析患者の ADL 、 QOL 向上にもつながると考えられる。しかし、食事で摂取すれば、ビタミン D などその他の栄養素も同時に摂れる。経済面も考えると、食事から摂取する方法がよい。

フロア ● 当院では血液透析患者に対する栄養補充方法を検討している。その際、チキンサラダ、ヨーグルトなど軽食の提供と透析中のアミノ酸やビタミンの点滴のどちらが効果的か。

加藤 ● 点滴は透析中に抜けるアミノ酸を補充する以上の効果はない。代謝を考えると、食事で摂取する方が筋肉の合成につながる。経口摂取が望ましい。

山縣 ● CKD 患者ではアミノ酸スコアの高いたんぱく質をしっかり摂取する必要があるとのお話があった。一方で植物性たんぱく質を摂るべきという意見もある。どのようにお考えか。

加藤 ● 植物性たんぱく質でアミノ酸スコアが 100 % になるのは大豆だけである。アミノ酸スコアでは肉、魚、卵など動物性たんぱく質の方が高い。必須アミノ酸のうち分枝鎖アミノ酸は肉、魚に多く、ある程度摂る必要がある。ただし、植物性たんぱく質の摂取にはリンの吸収が緩やか、食物繊維を多く摂取可能などアミノ酸スコア以外のメリットもある。バランスよく摂取することが望ましい。

 

保存期 CKD 患者への栄養学的アプローチ

井上嘉彦昭和大学 藤が丘病院 内科系診療センター 内科

 低たんぱく質食は腎保護に有用

三大栄養素のうち糖質と脂質は、エネルギーと水、二酸化炭素になり、完全に分解される。しかし、たんぱく質はエネルギー、水、二酸化炭素に分解されるほか、窒素酸化物や硫黄酸化物が尿から排出される。腎機能が低下すると窒素酸化物や硫黄酸化物が尿毒症の原因となる。
そこで、透析療法が普及する以前より、慢性腎臓病 ( CKD ) で腎機能が低下した患者には低たんぱく質食による食事療法が行われてきた。低たんぱく質食の腎保護効果については腎炎モデルマウス、アミノ酸付加、ケト酸付加など多くの方法で検討が行われ、総じて、たんぱく質制限が厳格になるほど腎保護効果が高いという結果が得られている。
低たんぱく質食により糸球体の輸入細動脈が収縮し、レニン-アンジオテンシン系を介して輸出細動脈が拡張して、糸球体の内圧が低下する。糸球体濾過量は若干低下するが、糸球体の損傷が軽減される。このため低たんぱく質食の継続で、腎組織の損傷部位が改善される。さらに TGF – β が低下し、尿細管の間質障害も軽減される。
低たんぱく質食の効果についてのメタ解析では、低たんぱく質食群はコントロール群に比べ年間の糸球体濾過量 ( GFR ) 低下を抑制すると報告されている。特に非糖尿病患者およびⅠ型糖尿病患者において GFR 低下抑制効果が顕著であった。しかし、クレアチニン ( Cr ) が 6 mg / dl と腎機能低下が進んだ患者では、体重 1 kg あたり 0.5 g / 日以下の厳格な低たんぱく質食のみ腎機能低下抑制が見られたとする報告もある。腎機能低下が進んでいる場合は、たんぱく質摂取量をより厳格にする必要がある。
昭和大学藤が丘病院でも IgA 腎症の 40 歳代患者に対し低たんぱく質食による食事指導を行った。日本腎臓学会の 『 エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2018  』 では体重 1 kg あたり 0.6 〜 0.8 g / 日の低たんぱく質食が推奨されているが、この患者では体重 1 kgあたり 0.3 〜 0.5 g / 日の低たんぱく質食を行い、エネルギー摂取量は十分に確保した。その結果、総たんぱく質が減少し、続いてアルブミン、尿素窒素も低下した。 Cr も増悪なく、腎機能低下の進行が抑制された。

CKD 患者の高齢化により望ましい食事指導が変化

低たんぱく質食の効果は多岐にわたり、腎機能障害の進行抑制、尿毒症毒素の蓄積抑制、電解質異常の是正、アシドーシスの是正、尿たんぱくの減少、合併症の抑制などがある。一方、日本では高齢化が進み、透析の導入年齢は 1985 年の 54 歳から2020年には 70 . 8 歳になっている。透析導入の原疾患は糖尿病性腎症が 1998 年に 1 位となり、慢性糸球体腎炎に替わった。 2019 年には 2 位に腎硬化症が入った。以前の食事療法の中心は 40 〜 50 歳代の慢性糸球体腎炎患者であった。 CKD 患者が高齢になり、治療のターゲットは糖尿病、動脈硬化、高血圧が中心になっている。 CKD 患者の変化に伴い、望ましい食事療法も変わっている。
『 サルコペニア診療ガイドライン 』 では、 「 栄養・食事がサルコペニア発症を予防、抑制できるか? 」 というクリニカルクエスチョン ( CQ ) に対して、 「 適切な栄養摂取、特に 1 日に ( 適正体重 )  1 kg あたり 1.0 g 以上のたんぱく質摂取はサルコペニアの発症予防に有効である可能性があり、推奨する 」 とされている。この CQ に関しては、約 260 件の論文が抽出され、このうち横断研究 3 件、介入研究 1 件の 4 件の論文がシステマティックレビューで評価された。これらの報告は総じてたんぱく質摂取が多ければ筋肉量低下が抑制されるという結果であった。
また、システマティックレビューで評価された介入研究ではエネルギー摂取量を適正体重 1 kg あたり 20 〜 25 kcal / 日とする食事指導が行われている。この条件での高たんぱく質食群は通常たんぱく質群に比べ、筋肉指数が有意に良好であったとされている。しかし、エネルギー摂取量が少なくなければ、結果が変わる可能性がある。エネルギー摂取量が十分でない低たんぱく質食は持続しない。低たんぱく質食を指導する上では、エネルギー摂取量を十分に確保することも重要である。

体重 1 kg あたり 0.6 〜 0.8 g / 日の低たんぱく質食では体重 1 kg あたり 31 kcal 以上のエネルギー摂取が必要

たんぱく質摂取の制限量については、適正体重 1 kg あたり 0.55 g / 日の低たんぱく質食と適正体重 1 kg あたり 0.8  g / 日の低たんぱく質食の 2 群に分け、透析導入後を含めた生命予後に及ぼす影響を検討した報告がある。その結果、両群間で生命予後に有意差は認めなかった。現在、標準的に行われている体重 1 kg あたり 0.6 〜 0.8 g / 日の低たんぱく質食であれば大きな問題はないと考えられる。
適切なエネルギー摂取量については、保存期 CKD 患者を対象にたんぱく質摂取量を体重 1 kg あたり 1.11g / 日から 0.71 g / 日まで制限し、エネルギー量は体重 1 kg あたり 31 kcal / 日を維持し、骨格筋のロイシン酸化を評価した報告がある。その結果、たんぱく質制限により骨格筋のロイシン酸化が18%減少し、たんぱく質節約効果によるたんぱく質異化抑制が認められた。体重 1 kg あたり 0.6 〜 0.8 g / 日の低たんぱく質食では、エネルギー摂取量が体重 1 kg あたり 31 kcal / 日以上確保されていれば問題ないと考えられる。

低たんぱく質食でのエネルギー摂取量確保には低たんぱく質米の使用が有用

低たんぱく質食で腎機能障害の進行抑制効果があり、栄養障害をきたさない条件として、十分なエネルギー摂取量確保に加え、高いアミノ酸スコアの維持がある。アミノ酸スコア 90 % 以上、動物性たんぱく質比 60 % 以上が必要とされるが、こうした十分なエネルギー摂取量を確保できる低たんぱく質食の選択は難しい。通常の食品でたんぱく質摂取量 30 g / 日の食事を作ると、エネルギー摂取量は約 1,500 kcal になる。たんぱく質摂取量を 20 g / 日にすると、エネルギー摂取量は約 1,100 kcal になる。低たんぱく質食でエネルギー摂取量を確保するためにはたんぱく質調整食品の使用が必要になる。
たんぱく質制限とエネルギー摂取量維持の両立には低たんぱく質米の使用も有用である。低たんぱく質米使用を指導した群と栄養指導のみ実施群の比較で、低たんぱく質食群で食事療法のアドヒアランスが向上したとの報告がある。ただし、クレアチニンクリアランス ( CCr ) については両群間に有意差を認めなかった。尿たんぱくは低たんぱく質米群で栄養指導のみ群より減少していた。

高齢 CKD 患者でも食事指導は重要

高齢 CKD 患者では腎保護を優先したたんぱく質制限とサルコペニア予防を優先したたんぱく質制限の緩和が対立する。これは一律に決められる問題ではなく、患者ごとに検討する必要がある。日本腎臓学会の『サルコペニア・フレイルを合併した透析期CKDの食事療法』ではたんぱく質制限を緩和する指標として、尿たんぱく質量 0.5 g / 日未満、年間腎機能低下速度が eGFR – 3.0  ( あるいは – 0.5  ) ml / 分 / 1.73 m2 / 年より少ない、末期腎不全絶対リスク 5 %未満をあげている。
65 歳以上の高齢 CKD 患者を対象にしたコホート調査では 2.9 % が末期腎不全に移行したと報告されている。その結果、59.9 % が尿検査を、 4.5 % が栄養指導を受け、 91.2 % が非ステロイド性抗炎症薬 ( NSAIDs ) の常用を回避できたとしている。ただし、栄養指導の 4.5 % という割合は非常に低い。これが事実であるとすれば、臨床現場で高齢 CKD 患者には栄養指導は必要ないと考えられている可能性がある。
昭和大学藤が丘病院では 70 歳以上の CKD ステージ 3 、 4 の患者 50 名に食事療法を行った。平均年齢は 75.5 歳であった。一般的な栄養指導を行った結果、 33 名がたんぱく質摂取量を体重 1 kg あたり 0.8 g / 日まで制限できた。高齢 CKD 患者でもたんぱく質制限は可能であり、積極的に栄養指導を進めていく必要がある。

患者の状況を考慮した腎臓専門医と管理栄養士による継続的な患者指導が必要

CKD 患者では果物、野菜、魚類を均等に摂取する健康的な食事パターンで全死亡のリスクが低下するという報告がある。低たんぱく質食の実施が難しい患者もいるが、患者の食事状況を考慮しつつ、適切な指導が重要である。
低たんぱく質食は全ての CKD 患者に対して厳格に行えるものではなく、患者が自己判断で行うと危険を伴う場面もある。低たんぱく質食の実施には年齢、体重、筋力、原疾患、 CKD ステージ、理解力、生活環境、家族のサポートなど個々の患者背景を踏まえ、腎臓専門医と管理栄養士による継続的な患者指導が必要になる。また、これらの患者背景を、繰り返し再評価することも求められる。

【 質疑応答 】

フロア ● 当院でも体重 1 kg あたり 0.5 g / 日未満の低たんぱく質食で腎機能低下を抑制できると実感している。しかし、これを実行できる患者は限られている。一人暮らしの患者、中食や外食が多い患者では実行できない。井上先生の施設では低たんぱく質食を指導した患者のうちどの程度で実行できているか。

井上 ● 昭和大学藤が丘病院では慢性腎臓病 ( CKD ) 患者全員に栄養指導を行い、 50 % 程度は実行できている。

フロア ● 腎機能が低下した患者では厳格な低たんぱく質食が必要というお話があった。体重 1 kg あたり 0.6 〜 0.8 g / 日の低たんぱく質食しか実行できない場合、腎機能低下は進行するのか。

井上 ● 糖尿病性腎症患者、たんぱく尿が多い患者患者ではある程度のたんぱく質制限をしない限りは進行を抑制できない。

フロア ● 近年の CKD 患者では高齢者が多く、低たんぱく食実施には十分な注意が必要となる場合が多い。低たんぱく食を行う際に筋量や QOL のモニタリングをしているか。

井上 ● 握力を外来で測定したり、診察室入室時に歩行状態を観察したりしている。

フロア ● CKD で SGLT2  阻害薬が使われるようになった。 SGLT2 阻害薬を服用している患者ではエネルギー量を十分に摂取しても、すべてが吸収されていない可能性がある。このような場合、低たんぱく食を緩和するなど注意する点はあるか。

井上 ● 昭和大学藤が丘病院でも SGLT2 阻害薬使用が増えているが、食事指導は変えていない。

フロア ● 患者の食事を評価する際に、たんぱく質や食塩の摂取量が明確になる蓄尿は有用と考える。食事指導における畜尿の利用について考えを聞きたい。

井上 ● 昭和大学藤が丘病院では栄養指導した患者に蓄尿を行い、その結果から得られたたんぱく質や塩分の摂取量を伝え、アドバイスしている。蓄尿は栄養指導で大切なツールと考えている。

 

透析期 CKD 患者への栄養学的アプローチ 〜 栄養障害と体液量平衡異常〜

大橋 靖 ( 東邦大学 医療センター 佐倉病院 腎臓学講座

健康問題はライフステージにより異なり、求められる食事指導も変化

総死亡率が最も低い BMI は年齢により異なることが観察疫学研究で報告されている。海外でも 65 歳以上の高齢者を対象にしたメタ解析で BMI 23.5 より低い群で総死亡率が上がると報告されている。これら結果から、『 日本人の食事摂取基準  ( 2020 年版 ) 』では目標とする BMI を 49 歳未満は 18.5 〜 24.9 、 50 〜 64 歳は 20.0 〜 24.9 、 65 〜 74 歳と 75 歳以上は 22.5 〜 24.9 と変えている。つまり、高齢者では肥満も問題であるが、痩せも問題になる。
栄養に関する健康問題はライフステージによって異なる。 20 〜 30 代では特に女性に多い過度なダイエットや摂食障害による体重減少が問題であり、 30 〜 70 歳ではメタボリックシンドロームや過栄養による体重増加が問題になり、 70 歳以上になるとサルコペニア、フレイル、低栄養が問題となってくる。健康問題が年代により異なっているため、食事指導も変えなくてはならない。
そこで、東邦大学医療センター佐倉病院では慢性腎臓病 ( CKD ) 患者に対し、年齢や体重を考慮した食事指導を行うため、 CKD 食事療法指導基準を作成した。この中で、それぞれの年齢で BMI により低栄養体重、適正栄養体重、過栄養体重、肥満体重の基準値を設定し、それぞれの体重でたんぱく質摂取量とエネルギー摂取量のバランスを変えている。低栄養体重の患者に対しては低たんぱく質食を緩和し、過栄養体重、肥満体重の患者では減量を指導する。適正栄養体重の患者では低たんぱく質食による腎保護効果で予後改善を目指す。

加齢により細胞内外水分量比も変化

体組成は加齢により変化する。 15 〜 88 歳の日本人約 2,000 名で細胞内外水分量を比較した報告がある。平均年齢は 55 歳、平均 BMI は男性 23.0 女性 20.6 であった。細胞内外水分量は筋肉量の多い男性で多くなる。細胞内外水分量のピークは男性、女性ともに 30 〜 40 歳である。 50 歳以降に細胞内外水分量は減り始め、 70 歳以降は細胞内を中心に水分量が低下する。細胞内外水分量比はおよそ 2 : 1 とされているが、加齢とともに細胞内水分量が減少するため、細胞内外水分量比が崩れていく。
ヒトの細胞は 20 歳前後をピークに減少していく。さらに細胞膜は加齢と共にアポトーシスを起こし、細胞内の浸透圧の維持、カリウムの保持もできなくなるため、細胞が萎縮する。若年者と高齢者の骨格筋の細胞を比較すると、高齢者では筋量低下に加え、細胞萎縮や細胞外容積増加も見られた。 CKD は体液貯留が起きて、細胞外水分量が増加する病態が特徴である。この一因として、加齢による細胞内容積減少と細胞外容積増加も考えられる。つまり、 CKD 患者における体液バランス異常は単純なナトリウム貯留による細胞外水分量の増加だけが原因とは限らない。

細胞内外の水分量のバランスが崩れた透析患者は心臓への高負荷が特徴

維持透析患者 368 名を対象に透析後の体組成、ナトリウム利尿ペプチド ( ANP ) および 1 年以内の心エコーを評価した。平均年齢は 65 歳、性別は男性 261 名女性 107 名、糖尿病合併は 45.7 % 、平均透析歴は 101 か月、平均 BMI は男性 23.1 女性 21.9 であった。細胞内外水分量比で四分位に分けたところ、最も細胞内外水分量比の崩れが大きい群では高齢、透析歴が長く、 BMI が低く、透析間の体重増加が少なかった。また、透析前の血圧は他の群と変わらないが、透析後の血圧は高く、アルブミンおよびクレアチニンは低く、炎症反応が高かった。心胸郭比は高く、心拡大が認められた。さらに透析後の ANP が高く、心臓機能と関係なく左房に負荷がかかっていると考えられる。この細胞内外水分量比と ANP 値には正の相関を認め、心筋重量係数も高かった。
細胞内外水分量比と体脂肪率で分類したところ、細胞内外水分量比の崩れが大きく、かつ体脂肪率が低い群で特に ANP 値が高かった。体脂肪率が低い群では骨格筋量が少なくなり、心負荷が高くなった可能性がある。透析患者では心負荷の観点からも肥満よりも痩せの問題が深刻であると仮説する。

心不全患者では細胞内外水分量のバランスが崩れた患者で予後不良

急性心不全の入院患者 112 名を対象に、退院前検査で細胞内外の水分量比と脳性ナトリウム利尿ペプチド ( BNP ) を測定し、 6 か月後の心不全の再入院率やイベント発生率を比較した報告がある。 BNP 400 pg / ml 以上群は 400 pg / ml 未満群に比べ、  6 か月後の再入院率、イベント発生率が高かった。
また、細胞内外水分量比の崩れが大きい群では崩れていない群に比べ、再入院率が高く、総死亡を含む総イベント率も有意に高かった。つまり、心不全イベントの要因は心臓以外にも存在すると示唆される。

CKD患者での細胞内外の水分量のバランス崩壊は心不全リスク

CKD には腎炎、糖尿病、腎硬化症、メタボリックシンドロームなど多くの要因がある。 CKD が進行すると炎症や低栄養が惹起される。さらに慢性腎臓病による骨ミネラル代謝異常 ( CKD – MBD ) で血管石灰化を伴う動脈硬化がもたらされる。特に低アルブミン血症を有する患者では透析中にカルシウムローディングが起きた際のバッファーが少なくなっているため、血管石灰化が進行しやすい可能性がある。低ナトリウム血症や血管の弾性低下による高血圧も加われば、心不全リスクがさらに高まる。
細胞内外水分量比の崩れはナトリウム貯留による細胞外液量の増加だけでなく、筋肉組織の萎縮による間質の増加でも発生する。つまり、痩せによるボディサイズの減少は、小さくなった水瓶にぎりぎりまで水が入っているような状態に似ており、そこにさらなるナトリウム負荷が起きると、容易に心不全が起きてしまうのではないかと考えられる。これが心血管系合併症や死亡率の増加に影響している可能性がある。

透析患者でも食事摂取量と筋肉量維持が必要

肥満は問題ではあるが、痩せも問題である。特に心不全既往がある透析患者では、痩せにより実体重が減少しているにもかかわらず、ドライウエイトが適正に下方修正されなければ、相対的な体液過剰となり、心不全が再発しやすい状況となる。さらに、前述のごとく単純な体重減少だけでも、余剰体液量に対する予備力が減少し、心不全の再発が誘発される可能性がある。したがって、 1 回の透析で除去できる範囲で十分な栄養量の食事を摂取してもらう必要がある。ドライウエイトが下がった場合は、その原因を評価し、食事摂取量を確保するとともに、骨格筋を増やしてドライウエイトを回復させることも考えなくてはならない。

【 質疑応答 】

フロア ● 筋量が多い場合は筋肉細胞内に水分を取り込む力があるという考えでよいのか。

大橋 ● ナトリウムが含まれていない水分は細胞内に入るが、生理食塩水は基本的に細胞外水分となる。高齢になると間質が広がり、いわゆるバッファーの部分が増加すると考えている。

泉家 ● 細胞内外水分比の崩れは筋肉細胞の減少による影響が大きいのか。

大橋 ● 骨格筋減少の影響が大きいと考えられる。

 

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