JSPEN 2023 Report: 委員会報告「がん患者のための代謝・栄養管理ガイドライン」の出版と今後の展望 Part2

2023.10.13癌(がん)

座長:
小谷穣治神戸大学大学院医学研究科 外科系講座 災害・救急医学分野
東別府直紀  ( 神戸市立医療センター中央市民病院 麻酔科

 

「 がん患者のための代謝・栄養管理ガイドライン 」 の出版と今後の展望 Part 2

 

CQ 1-2 SR 結果報告  Perioperative immunonutrition for head and neck or gastrointestinal cancer

 

松井亮太 ( がん研究会有明病院 胃外科

 

CQ 1-2 は「頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、周術期の免疫栄養療法は推奨されるか?」である。このCQに対して、周術期の免疫栄養療法により、スタンダードな栄養療法に比べ術後合併症が少なくなるとの仮説を立てた。対象は18歳以上の頭頸部・消化管がんの待機的手術を行う患者とした。免疫栄養療法の定義は、アルギニン、n-3系脂肪酸、グルタミンのいずれかを含む免疫調整を意図した栄養療法とし、スタンダードな栄養補助食品(ONS)などを用いた栄養療法と比較した。
プライマリーアウトカムは術後合併症総数、感染性合併症、非感染性合併症、セカンダリーアウトカムは術後死亡率、栄養介入による有害事象、術後在院日数、重症合併症、縫合不全、術後肺炎とした。検索式をもとに1981~2022年のRCTを対象としてスクリーニングし、93報が抽出された。さらに二次スクリーニング、アウトカム抽出を経て最終的にメタ解析を実施した文献は49報であった。投与タイミングは術前投与、術後投与、術前術後投与の3群、がん種は頭頚部がん、消化器がんの2群に分け、サブグループ解析を実施した。
メタ解析の結果、術後合併症総数は免疫栄養療法群で有意に減少し、リスク比は0.78(0.66-0.93)であった。サブグループ解析では投与タイミング、がん種ともに群間に効果の差を認めなかった。感染性合併症も免疫栄養療法群で有意に少なく、リスク比は 0.71(0.61-0.82)であった。サブグループ解析では投与タイミング、がん種ともに群間に効果の差を認めなかった。非感染性合併症はリスク比が 0.96 (0.84-1.09)と両群間に有意差はなかった。サブグループ解析では、術後投与で効果が高い可能性が示唆された。がん種での効果の差は認めなかった。
術後死亡率、栄養介入による有害事象で両群間に差は認めなかった。サブグループ解析では投与タイミング、がん種ともに群間に効果の差を認めなかった。術後在院日数は免疫栄養療法群で1.52日短縮した。サブグループ解析のうち投与のタイミングの検討では術前投与、術後投与、術前術後投与すべてにおいて免疫栄養療法群で有意に短縮されていたが、とくに術後投与で効果が顕著だった。がん種では群間に効果の差を認めなかった。重症合併症は両群間に有意差はなかった。縫合不全は免疫栄養療法群で有意に少なく、リスク比は0.70(0.53-0.91)であった。術後肺炎は免疫栄養療法群で少ない傾向はみられたが、有意差はなかった。
各アウトカムのバイアスリスクは低リスクが多かった。エビデンスレベルは非感染性合併症、術後死亡率、栄養剤関連イベントで結果の一貫性がなくModerateとしたが、その他のアウトカムは Highと判断した。
頭頸部と消化管がんで待機的手術を行う患者において、周術期の免疫栄養療法はスタンダードな栄養療法に比べて栄養介入による有害事象を増やすことなく、術後合併症総数、感染性合併症を有意に減少させ、術後在院日数を短縮させる。

 

 

CQ 1-2 推奨

 

今井隆之  ( 宮城県立がんセンター 頭頸部外科

 

2013年に発表された 『静脈経腸栄養ガイドライン( 第3版 )』 では 『がん患者のための代謝・栄養管理ガイドライン』の CQ 1-2に該当する内容として、「経腸栄養剤はどのように選択されるか」というCQがあり、「周術期や高度侵襲症例には免疫調整栄養素が強化された経腸栄養剤が有効な場合がある」とされている。『がん患者のための代謝・栄養管理ガイドライン』ではCQ 1-2「 頭頸部消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対し周術期の免疫栄養療法が推奨されるか?」に対して、「頭頸部消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して周術期の免疫栄養療法を行うことを推奨する」とし、推奨度は強い推奨、エビデンスの確実性は中等度とした。免疫栄養療法とは、アルギニン、n-3系脂肪酸、グルタミンのいずれかを含むものを指す。
周術期合併症発生リスクの軽減、術後予後の向上に免疫栄養療法が開発され、臨床で使用されている。しかし、頭頸部・消化管がん手術における免疫栄養療法の臨床的な有用性、最適な投与時期や投与期間、有効となる患者集団については未解決である。
術後合併症総数は免疫栄養療法群で 22 % 減少、感染性合併症は免疫栄養療法群で 29 % 減少、術後在院日数は免疫栄養療法群で 1.52 日短縮との結果が得られた。したがって免疫栄養療法の益については、術後合併症および感染性合併症の減少、術後在院日数短縮が考えられる。また非感染性合併症は術後投与で有意差があった。これにより免疫栄養療法の益は大きいと考えた。免疫栄養療法による栄養剤関連イベント発生はなく、害は僅かと判断した。以上の結果から益と害のバランスを考えると、介入が優れていると判断した。
事前にアウトカム重要度について、患者代表を含むガイドライン班によって投票した結果、術後合併症および在院日数のアウトカム重要度は 「 高い 」 と判断された。頭頸部・消化管がんなどの悪性腫瘍の手術を受ける患者の希望は根治性が高く、合併症のない安全な手術と考えられる。合併症が少なければ術後在院日数が減少し、速やかに元の生活に戻れる。したがって、術後合併症減少や在院日数短縮の重要度に不確実性やバラつきは認められないと考えた。
栄養総費用を検討した報告では、消化管がん術前もしくは消化管がん術前術後の免疫栄養療法では栄養総費用が3.3〜4.4倍に上昇したとされている。しかし費用対効果を検討した報告では免疫栄養療法で患者 1 人あたり3,200ユーロ、2,300ユーロ、6,600 ドル、1,600スイスフラン、2,080ドイツマルクの減少効果があるとされている。これらの費用対効果に関する報告は解析方法が様々かつ定量的でない。海外からの報告であり、各国の医療制度の違いもあるが、免疫栄養療法の費用対効果は「恐らくよい」と判定した。
最終的にガイドライン班で投票を行ったところ、介入支持を強く推奨が91% 、介入支持を弱く推奨が9% であった。この結果から規定に従い、 「 強い推奨」とした。
免疫栄養療法の有用性は示されたが、最適な投与量や栄養成分投与期間については明らかにできず、今後の検討課題となる。また、現在の食事療養費の枠内での免疫栄養療法導入はコスト面で難しい状況も想定され、施設の慎重な検討が必要と考えられる。

 

 

CQ 2,  SR 報告  「 がんと診断された患者さんに積極的栄養介入をすることは推奨されるか? 」

 

松本英男  ( 公立みつぎ総合病院 外科

 

CQ 2 は 「 成人のがんサイバイバーに対して栄養介入をすることは推奨されるか? 」 である。がんサイバイバーは、根治目的の治療を終了したがんの罹患経験者を指し、再発患者は除外されている。
CQ 2 ではがんサイバイバーへの食事介入が、生存率や有病率、食事への変化、体型、健康に関係するQOL、臨床的指標に及ぼす影響を評価した。対象は18歳以上の成人で、18歳以降に発症したがんに対して手術、放射線治療、化学療法、ホルモン療法など全ての積極的な抗がん治療を完了した乳がん以外のがん生存患者とした。介入群はグループセッションや電話指示、書面、 Webベースでのアプローチを用いた食事療法のアドバイスを行い、対照群は通常のケアあるいは書面による情報提供とした。アウトカムはQOL、生存率、食事内容の改善、有害事象、身体計測、二次がん発生率、生化学データの改善とした。
2018〜2021年の文献を対象にデータベースから抽出した3,339報をスクリーニングし、最終的に8報をレビューした。8報のうち6報は栄養と運動の介入で、2報は栄養指導のみであった。介入方法、評価期間は様々であった。対象のがん種も卵巣がん1 報、泌尿器科がん1報、頭頸部がん1報、子宮がん 2報、直腸大腸がん3報、大腸がん1 報とばらつきがあった。実行バイアスや検出バイアスはあるものの全体としてバイアスリスクは低いと考えられた。非一貫性その他については、報告によって治療効果に異質性やバラつきが大きく存在すると評価した。6報の介入群で行われていた運動療法は合宿で集中的に行うものから電話でのコーチングまで様々であった。また、評価期間が3か月から2年までの開きがあり、評価方法も様々であった。したがってメタアナリシスは行わず、定性的なシステマティックレビューを行った。
QOLは6報で評価されており、うち3報で有意にQOLの向上が認められた。3報のうち、卵巣がんを対象とした報告ではグローバルクオリティ、頭頸部がんを対象とした報告では日常役割機能、痛み、会話のQOL、直腸結腸がんを対象とした報告では全身とがん特異性QOLで評価されていた。
身体計測は5報で体重が測定され、うち2報で対照群と比較して介入群の体重減少が有意に抑制されていた。1報ではBMIが測定され、介入群で対照群に比べ有意に減少していた。
食生活の改善については6報で評価され、うち5報で有意に改善効果を認めていた。改善内容についてはエネルギー摂取量減少が 1 報、食物繊維摂取量増加が2報、穀物摂取量増加が1報、食物摂取内容改善が1報であった。
生化学データは1報のみ報告があり、セルフモニタリングと共に主に電話を用いた果物および野菜の摂取量を増やす介入を行ったところ、アルブミン、ゼアキサンチン、ルテイン、レチノールが有意に上昇したとされている。生存率、有害事象、二次がん発生率に関する報告はなかった。
頭頸部がんの報告では、機能回復を含めたリハビリテーションを中心とし、心理士、言語聴覚士を含めた栄養介入であった。全ての報告は栄養過多、あるいはライフスタイル改善に対する介入であり、低栄養に対する介入はなかった。
いずれのランダム化比較試験(RCT)も規模が小さく、独自の介入方法、介入期間、評価方法で研究が行われていた。介入期間が短く、評価時期も短いため生存率や二次がん発生率などは評価できないと考えられた。有害事象については、栄養指導や運動療法では発生しない可能性が高くアウトカムとして疑問がある。一方、4報で身体活動上昇が示され、身体活動をアウトカムに加えるべきと考えられる。CQ 2の結果を出すためには様々ながん種を対象に、できれば統一された介入方法での長期的な観察を行うランダム化比較試験(RCT)が必要と考えられる。今回の研究では、低栄養のがんサバイバーに対する栄養介入の是非を問う臨床試験は見当たらず、新たな臨床試験が必要と考えられる。

 

 

がん患者のための代謝・栄養管理ガイドライン~ CQ 2推奨 ~

 

田妻 進  ( JR 広島病院理事長 /  病院長

 

成人のがんサバイバーに対して栄養介入をすることは推奨されるか? 」 という CQ 2 に対しては、 「 成人のがんサバイバーに対して、栄養指導単独、あるいは運動療法と組み合わせた栄養介入をすることを推奨する。 」 とした。推奨度は弱い推奨、エビデンスの確実性は弱いとした。合意率は 82 % であった。
がんサバイバーにとっては、二次発がんはもちろん、心疾患や脳卒中の合併で QOL が低下するため、健康的な食事や体重のコントロールが国際的に推奨されている。しかし、がんサバイバーの栄養障害の実態や介入が臨床的な指標に及ぼす影響についてはエビデンスが示されていない。一方、高い生存率を示す乳がん患者においては、発症に肥満や運動不足との関連が示され、肥満度の上昇が再発リスクや死亡リスクを高めることが明らかになっているため、 CQ 2 では乳がん患者を除外した。
定性的なシステマティックレビューの結果から、全体的なエビデンスの確実性は低いと判断した。一方、がんサバイバーへの栄養指導単独あるいは栄養指導と運動療法の組み合わせによる介入は、決して大きくはないもののポジティブな評価が示された。害については、栄養指導や運動療法では有害事象が発生する可能性は低い。したがって益と害のバランスからは介入が推奨されると判断した。
患者代表を加えたガイドライン班で投票を行ったところ、 QOL 、生存率、食事内容の改善、全ての有害事象で高い重要性が示された。一方、ランダム化比較試験 ( RCT ) の規模が小さく、独自の方法、介入期間、評価方法で行われているため、評価が難しい。さらに生存率、二次がん発生率についてはエビデンスが得られていない。したがって重要な不確実性またはバラつきの可能性がありと判断した。また、資源の利用および費用対効果についてもエビデンスが得られず、介入の費用対効果は分からないと判断せざるを得なかった。
抽出された RCT の範囲が小さいこと、生存率や二次がん発生率などへの評価ができなかったことからエビデンスの総体としては確実性が弱い。今後、エビデンスの確実性を強めるためには、身体活動向上をアウトカムとして加えるべきと考えられる。また、 CQ 2 の解を導くためには頭頸部あるいは消化管がんなど様々ながん種で、統一的な介入方法による長期的な観察に基づいた RCT が必要と考えられる。

 

 

Narrative 班からの報告

 

岡林雄大 ( 高知医療センター 消化器外科

 

『 がん患者のための代謝・栄養管理ガイドライン 』 では背景知識として Narrative CQ を掲載した。 Narrative とは物語を意味する。かつての医療は医療従事者の勘と経験に依存していた。この反省から 1991 年に根拠、統計手法、科学性などのエビデンス ( 根拠 ) に基づく医療 ( EBM ) が提唱された。治療方針は臨床疫学、科学的根拠、医療従事者の熟練性、患者の価値観で決めていくものである。治療の意思決定の場面で、根拠、統計手法、科学性を強調しすぎることへの反省として、 1998 年に物語と対話に基づく医療 ( NBM ) が提唱された。
NBM は患者の診療を決める際に、患者の一生を物語という観点で見直すという考え方である。 NBM は患者の人生を物語と捉え、病気は患者の人生と生活世界という大きな物語において展開される 1 つの章とみなされる。患者は物語の語り手であると共に主体として尊重されなければならない。医学的な仮説理論、並びに病態生理は、社会的に構成された物語であるとみなされ、常に複数の物語が共存することが許容される。患者と臨床家の対話から浮かび上がる物語により治療的な影響をもたらすことが期待されている。
EBM は医学的な経験、科学的に最適とされるエビデンス、患者の価値観や期待が重なる部分に存在する。これに対して NBM は、より患者の価値観、家族、社会全体を考え、治療する考え方である。この両者は対立するものではなく、 EBM と NBM を組み合わせた診療が重要である。
『 がん患者のための代謝・栄養管理ガイドライン 』 では、がん患者と栄養障害、がん患者への栄養介入、がん患者に期待する栄養療法を柱に、 3,000 報以上の文献から 187 報を選択して Narrative CQ を構成した。また、本ガイドライン作成にあたっては患者代表への聴取を行い、多くの質問が得られた。これらの質問に関しても様々な文献を示し、患者にもわかりやすい表現でコラムを作成している。
NBM の本質は、代替できない個人に焦点を当てることである。医療従事者は 1 回限りの個別の診療場面を重要視しなければならない。そのためには一般性を有する情報を適切に扱うことが求められる。病気に対してエビデンスのみを追求することは愚行である。治療には患者の背景、社会、家族など多くの要素が絡んでくる。このような医療の本質を見失わないために、本ガイドラインに Narrative CQ を盛り込んだ。
さらに患者代表者の声も拾い上げ、分かりやすく解説することにも努めた。本ガイドラインは患者中心の医療を実現するため、 EBM と NBM が車の両輪となるように作成している。すべての患者に当てはまる治療法は存在せず、実臨床では治療選択に難渋する場面も多い。治療選択に迷った際の羅針盤として Narrative CQ を使ってもらいたい。また、医療はチームで行われるべきものである。本ガイドラインが多職種間で知識を共有して、協調して診療にあたるための一助になればと考えている。

 

サバイバーシップケアプランの中での栄養ガイドライン ~患者・市民参画の意義~

桜井なおみ  一般社団法人 CSR プロジェクト/一般社団法人全国がん患者団体連合会

がん患者会では栄養に関する都市伝説のようなものがある。この背景には日本でがん患者向けの栄養に関する情報が少ないこともある。海外では、サイバイバーシップケアプランやサバイバーシップガイドラインなどが作成されており、がん罹患後の人生で注意すべき点についての情報を得られる。しかし、日本ではエビデンスがなく、このようなものは存在しない。
薬剤に関しては益と害を比較しやすい。ただし、栄養には嗜好、経済、家族の価値観、保険収載など様々な要素が絡み、益と害がグラデーション状になっている。 『 Minds 診療ガイドライン作成マニュアル 』 では診療ガイドラインを、益と害のバランスを考慮しつつ意思決定を支援する文書と定義している。患者は治療の意思決定の際に、治癒率、通院回数、医療費など自分にとっての益と害を考える。今回作成された 『 がん患者のための代謝・栄養管理ガイドライン』はエビデンスとしては弱いものが多いかもしれないが、意思決定の支援になるものと期待している。
現在、 『 Minds 診療ガイドライン作成マニュアル 』 では委員として患者代表や市民を加えることを推奨しており、推奨決定の投票にも参加するようになった。国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 ( AMED ) でも患者・市民参画 ( PPI ) ガイドブックが出され、研究の企画段階から PPI を行うプロセスになっている。 PPI は欧米で先行しており、後天性免疫不全症候群 ( AIDS ) に関する研究で大きく進展した。日本でも PPI ガイドブック導入をきっかけに、 AMED の申請時には備考欄に患者市民参画について記述することになっている。また、欧米の医学雑誌では患者のレビューがないと投稿できない場合も出てきている。がんに関しても 2023 年 3 月に閣議決定された第 4 期がん対策推進基本計画で患者市民参画の推進が挙げられている。
海外ではがん患者の生活の目線からサバイバーシップガイドラインが作成されている。しかし日本では、諸外国のサバイバーシップガイドラインで示されている各項目のうち食事、栄養に関するエビデンスがほとんど存在しない。今回の 『 がん患者のための代謝・栄養管理ガイドライン 』 により、その一部についてはエビデンスが得られたことになる。しかし、日本はまだ海外に比べてエビデンスが不足している。今後、がんの早期発見が進めば、患者のがん罹患後の人生の重要性が高まる。この点からも、がん患者の食事、栄養について多くのエビデンスの蓄積を期待したい。
実際にがん患者からは 「 体重を増やす食事方法が分からない 」 、 「 食物繊維が多いものを食べるように言われたが、食物繊維の摂り方に注意すべきとも言われており、どのように摂取すればよいか分からない 」 など多くの疑問が聞かれる。本ガイドラインではこのような疑問を CQ に入れることが難しかったため、別枠で回答してもらった。
患者、家族は、より生活に密着した情報を求めている。患者の悩みには疾患の特性に配慮すれば他の疾患の患者に応用できる内容が多い。本ガイドラインの内容を他の疾患にも広げていけるよう、専門家として発信してほしい。食事、栄養は研究と個人の嗜好の境目があいまいで、診療ガイドラインにしにくいのが課題である。また、保険でどこまで取り扱うべきか、どの保険収載を目指していくのかを含めて、検討していく必要がある。その点で、米国食品医薬品局 ( FDA ) は食事と薬剤を同じ組織で管理している強みがある。米国の学会では食事療法に関する冊子や患者向けのデータが数多く並んでいる。日本の学会でもこのようなものが並ぶ時代が来ることを望んでいる。

 

 

【 ディスカッション 】

小谷 ● 診療ガイドラインには患者の声を反映するべきと考えており、 『 Minds 診療ガイドライン作成マニュアル 』  でもそのように推奨されている。しかし、患者の代表をどのように決定するかが問題である。がんに関する診療ガイドラインでは、がん種によって推奨が異なることがある。例えば、乳がんでは肥満が悪影響をもたらすが、消化器がんでは摂食不良による痩せが問題となる。さらに、家庭環境や経済的背景も患者によってまちまちである。こうした背景があるなかで、患者の代表性をどのように考えればよいのか。

桜井 ● 患者の代表性は重要なポイントで、患者会でも悩んでいる。現在治療中のフレッシュな患者が代表にふさわしいという考えもある。英国の医療技術評価に参加する患者は当該治療の経験を有する患者とされている。つまり、乳がんの診療ガイドライン作成に胃がん患者が参加したり、肺がんの診療ガイドライン作成に乳がん患者が加わることは、代表としてふさわしくないと考えられる。また、英国には患者の教育プログラムがあり、 PICO や薬事審査の流れなどを学習してから診療ガイドライン作成に参加している。ただし、治療を終えたばかりの患者は自分の体験しか把握していないことが多く、自分以外の患者の声を届けられない可能性がある。そこで患者会としては、フレッシュな患者と多くの患者の声を聞いているペイシェントエキスパートの組み合わがよいと考える。

小谷 ● 診療ガイドラインには、作成に参加した患者の考え方が反映され、バイアスがかかってしまう。ただし、医師の委員選定でもバイアスはかかる。推奨は多数決で決めるとされているが、どうしても意見を変えない委員の存在は、推奨に影響する場合もある。それでも医師の委員は所属施設は異なっていても似た環境にあるため、比較的意見がまとまりやすい。しかし、患者代表を登用する場合は、ある程度意見が集約し難い。患者の立場を理解することは大切だが、多くの困難も伴う。診療ガイドライン作成はこのような問題がある点をご理解いただきたい。

桜井 ● 乳がんのガイドラインでも合意率 100 % の推奨はない。投票を繰り返しても意見が合わなかった結果が掲載されている。医師の間でも意見が分かれる。患者の意見も分かれる。だからこそ患者が希望する治療を伝え、意思決定することが重要である。

小谷 ● 診療ガイドラインの推奨も、 100 % の推奨ではなく、推奨された治療法が合わない患者もいる。つまり、マジョリティとして推奨する意味である。

桜井 ● 遺伝性疾患の治療は保険収載が遅れていた。しかし、診療ガイドラインで強く推奨すると記載されたことをきっかけに保険収載が実現している。診療ガイドラインに示された治療は公益にかない、保険収載の根拠となる。保険収載に向けたロードマップという観点で、診療ガイドラインの意義は大きい。栄養の分野でもメディカルフードの概念が可視化され、患者に届くようになればありがたい。

フロア ● 診療ガイドラインは、作成も重要だが、改訂も重要である。 『 がん患者のための代謝・栄養管理ガイドライン 』 の改訂をどのように考えるか。

東別府 ● 診療ガイドラインは改訂が遅れると、古いエビデンスで治療を続けることになり、改訂は重要である。今のところ、 『 がん患者のための代謝・栄養管理ガイドライン 』 は 4 〜 5 年後に改訂のプランがある。ただし、ガイドライン委員会の委員の多くが交代する。次のガイドライン委員会にはきちんと改訂すること、今回は Narrative CQ として扱った CQ でも可能なものは次回改訂では 『 Minds 診療ガイドライン作成マニュアル 』 に従った CQ として取り上げることなどを引き継ぎたい。

フロア ● 新しいエビデンスが出ると、 1 回出した推奨が大きく変わることもある。新しいトピックに対しては毎年マイナーアップデートを繰り返すことも 1 つの案と考える。今回、素晴らしい診療ガイドラインが作成されたので、この点も検討してほしい。

小谷 ● 日本臨床栄養代謝学会 ( JSPEN ) は対象とする疾患が非常に広く、作るべき診療ガイドラインも多い。診療ガイドラインの作成には多大な労力がかかる。したがって、頻繁に改訂することは困難である。ただし、 JSPEN には診療ガイドラインとは別に治療の考え方を示したコンセンサスブックがある。これもエビデンスを網羅したものである。新しトピックについては、コンセンサスブックで CQ を 『 Minds 診療ガイドライン作成マニュアル 』 に従って作成する方法もよいと考えている。

フロア ● JSPEN の次のガイドライン委員長を拝命した。今回は素晴らしい診療ガイドラインが完成したが、内容的は総論的なものが多い。そこで、今回 CQ として取り上げられなかったがん種別の治療法、栄養療法に関する CQ を次回改訂で拾い上げたいと考えている。また、コンセンサスブックが臨床での治療法にもたらした影響を調査し、次の CQ 作成に盛り込んでいきたい。診療ガイドラインは常に新しいものにしていく必要がある。新しいエビデンスが出た時には、 Web サイトで速報版を出すことも考えている。

小谷●今回は JSPEN 初の 『 Minds 診療ガイドライン作成マニュアル 』 に従ったガイドラインとして、 『 がん患者のための代謝・栄養管理ガイドライン 』 を作成した。これをきっかけに JSPEN で国際標準の診療ガイドラインを数多く作成できればよい。

 

Part1はこちら
第 38 回日本臨床栄養代謝学会学術集会 Report :  委員会報告「がん患者のための代謝・栄養管理ガイドライン 」 の出版と今後の展望 Part 1

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