第44回日本臨床栄養学会総会:生体リズムを考慮した食生活と栄養摂取 Part1

2023.05.25栄養素

2022年10月8日(金)、9日(日)の2日間、第44回日本臨床栄養学会総会・第43回日本臨床栄養協会総会・第20回大連合大会が岩手県盛岡市の「アイーナ(いわて県民情報交流センター)」でハイブリッド開催された。第44回日本臨床栄養学会総会の会長は岩手医科大学 外科学講座 教授の佐々木 章先生が、第43回日本臨床栄養協会総会の会長は甲南女子大学 医療栄養学部 教授の木戸康博 先生が務めた。ここでは、シンポジウム 3「生体リズムを考慮した食生活と栄養摂取」の概要を報告する。

株式会社ジェフコーポレーション「栄養NEWS ONLINE」編集部】

シンポジウム 3
生体リズムを考慮した食生活と栄養摂取

座長:
柴田重信早稲田大学先進理工学部
篁 俊成金沢大学内分泌・代謝内科学

【講演要旨(編集部)】

腸内細菌叢に対する食・運動のタイミング

佐々木裕之早稲田大学先進理工学部電気・情報生命工学科

食事に加え運動も腸内細菌叢の構成に影響

ヒトの腸内細菌叢には、約40兆個の細菌が生息すると言われている。腸内細菌叢は宿主が消化吸収しきれなかった難消化性の栄養素を発酵、分解することで成長、増殖していく。宿主は腸内細菌が成長する際に産生された短鎖脂肪酸や乳酸などの代謝産物を利用し、生理機能の調節を行っている。すなわち腸内細菌叢と宿主は共生関係にある。
近年は、食事だけではなく、適度な運動も腸内細菌叢の構成に影響を与え、短鎖脂肪酸の産生を促すことが明らかになった。一方、炭水化物や脂質の多い食事、過度な運動により腸内細菌叢の多様性が低下し、短鎖脂肪酸の産生量も減少する。これにより生理機能の調節も抑制され、様々な疾患リスクに直結する。
すなわち腸内細菌叢の構成と疾患には関連が見られる。こうした疾患リスクを低減するためには、腸内環境を良好にすることが重要である。また、腸内細菌叢の構成をコントロールするために食事や運動が重要になってくる。

腸内細菌叢の構成の日内変動には摂食リズムが影響

腸内細菌叢の構成には日内変動が存在する。マウスで2日間6時間おきに糞便を採取して、腸内細菌叢の構成を検討した報告では、腸内細菌叢の構成に日内変動が見られることが分かった。そこで、腸内細菌叢の構成の日内変動と体内時計の関連について検討した。
まず、時計遺伝子欠損マウスと通常マウスの腸内細菌叢の日内変動を比較したところ、通常マウスでは顕著な日内変動を示すものの、時計遺伝子欠損マウスでは日内変動が消失していた。この結果は宿主の体内時計が、腸内細菌叢の日内変動に重要であることを示唆する。
ただし、時計遺伝子欠損マウスは行動リズムも乱れている。そのため、行動リズムが乱れた結果、腸内細菌叢の日内変動が見られなくなった可能性も考えられた。そこで、行動リズムのうち摂食リズムのみ制限したモデルで検討を行った。時計遺伝子欠損マウスに活動期のみ給餌を行う群と非活動期のみ給餌を行う群に分け、腸内細菌叢の日内変動を比較したところ、両群ともに時計
遺伝子欠損マウスであるにも関わらず日内変動を認めた。日内変動のリズムは活動期給餌群と非活動期給餌群で逆のパターンを示した。この結果は腸内細菌叢の日内変動には摂食リズムが重要であることを示唆する。

マウスでは朝食での難消化性食品摂取により腸内細菌の構成が変化

腸内細菌叢の日内変動に摂食リズムが大きな影響を及ぼしているため、腸内環境を改善するには、難消化性の食品を摂取するタイミングが重要と考えられる。次の検討として、腸内細菌叢の構成を変化させ、短鎖脂肪酸産生が増加する食事と運動のタイミングについて探索することとした。
マウスに1日2食摂取させ、活動期初期に摂取する朝食もしくは活動期後半に摂取する夕食のどちらかで、水溶性食物繊維の一種であるイヌリンを5%添加した食餌を摂取させた。10日間飼育後に糞便を採取し、短鎖脂肪酸や腸内細菌叢の構成を比較した。
短鎖脂肪酸のうちプロピオン酸、乳酸、酪酸はイヌリンの摂食によって値が増加した。乳酸、酪酸は朝食でのイヌリン摂食群のみ有意に増加した。すなわち朝食のイヌリン摂食が腸内環境を良好にする可能性が示唆される。さらに腸内細菌叢の構成を比較したところ、朝食でのイヌリン摂取群では、対照群と腸内細菌叢の構成が有意に異なっていた。すなわち、朝食にイヌリンを摂
食することで腸内細菌叢の構成がより大きく変わり、短鎖脂肪酸産生が増加して腸内環境が良好になった可能性が示唆された。

ヒトでも朝の菊芋パウダー摂取で短鎖脂肪酸産生が増加

ヒトでも同様の検討を行った。2週間の実験期間のうち、1週目では日常生活を維持してもらった。2週目にイヌリンを多く含む菊芋パウダーを朝もしくは夕方に摂取してもらい、介入前後で糞便を採取した。糞便中の短鎖脂肪酸を測定したほか、便秘評価尺度を用いて便秘の評価を行った。便秘評価尺度は全8項目のアンケートで、5点以上が便秘と評価される。
短鎖脂肪酸は酢酸、プロピオン酸、酪酸に介入前後で有意な変化を認めなかったが、乳酸は朝の菊芋パウダー摂食群においてのみ介入後に乳酸の有意な増加を認めた。便秘評価尺度は、朝の菊芋パウダー摂取群でスコアの低下傾向が見られたが、有意差は認めなかった。介入前に便秘と評価された対象者のみを抽出し分析を行ったところ、朝の菊芋パウダー摂取群で、便秘評価尺度が低い傾向が見られた。菊芋パウダーを朝に摂取することで、短鎖脂肪酸産生が増加して、腸内環境が改善し、便秘も改善されたと考えられる。

食事後の運動は腸内細菌叢の構成を変え、短鎖脂肪酸産生が増加

運動に関しても同様の検討を行った。マウスを活動期の前半のみ運動ができる群と活動期後半のみ運動ができる群に分け、自発的な輪回し運動をさせた。10日間飼育後に糞便を採取して比較した。
その結果、短鎖脂肪酸はプロピオン酸と乳酸が、活動期前半運動群で増加した。すなわち夕方に運動をすることで腸内環境が良好になった可能性が示唆された。ただし、この検討では両群ともに運動後の摂食となり、摂食パターンが変わってしまった。つまり、運動だけでなく摂食のタイミングも変化しており、この違いが腸内環境に影響した可能性が考えられた。次に食と運動の両方のタイミングを制御して、同様の検証を行った。食餌の時間帯を活動期中央に固定し、運動前に食餌する食→運動群、運動後に食事する運動→食群に分け、対照群として運動をせず食餌のみの群を用意し、10日間飼育した。
その結果、食→運動群、運動→食群共に、運動によって短鎖脂肪酸が増加したが、とくに食→運動群では乳酸や酪酸、プロピオン酸が対照群に比べ有意に増加した。すなわち食事をした後に運動することで、より腸内環境が良好になったと考えられる。さらに腸内細菌叢の構成を比較したところ、食→運動群では腸内細菌叢の構成が大きく変化していた。食事をした後に運動することで、腸内細菌叢の構成が変わり、短鎖脂肪酸の産生が増加され、腸内環境が良好になる可能性が示唆された。

おわりに

難消化性食品は朝に摂食することで腸内細菌叢の構成が大きく変わり、短鎖脂肪酸産生が増加し、腸内環境が良好になった。運動は食事との兼ね合いが重要になる。食事をした後に運動することで腸内細菌叢の構成が大きく変わり、短鎖脂肪酸の産生が増加した。
今のところ明らかになっているのは、難消化性食品摂取や運動のタイミングで腸内細菌叢の構成が変わり、短鎖脂肪酸が増加することのみであるが、今後は2型糖尿病や認知症改善効果についても検討したいと考えている。

【腸内細菌叢の関連記事はこちら】
第25回腸内細菌学会学術集会 Report「感染症と腸内フローラ・腸管免疫」
Part1Part2

 

朝食の時刻が深部体温の日内リズムに与える影響
~ 朝食欠食者がたまに朝食を摂るのはよいことなのか?~

安藤 仁金沢大学医薬保健研究域医学系細胞分子機能学

DITは朝に高いため、朝食欠食者は太りやすい

朝食欠食者は太りやすいと言われている。その根拠の1つとして、食事誘発性熱産生(DIT)は朝に高く、夕方に低いことがあげられている。健常若年男性16名を対象に、朝食時と夕食時のDITを比較した報告では、朝食時のDITは夕食時の約2倍であることが明らかになった。
近年、褐色脂肪細胞がDITをもたらすことが分かった。褐色脂肪細胞の活性には個人差があり、加齢に伴い活性が低下する。また、高BMIや高血糖の人は活性が低いことが多い。

朝食欠食者ではDITのリズムが変化

褐色脂肪細胞にも体内時計がある。褐色脂肪細胞特異的体内時計欠損マウスでは、褐色脂肪組織の温度が有意に低く、そのため活動期初期の酸素消費量も低くなり、その結果として、高脂肪食投与による肥満が悪化することが明らかになった。
体内時計は、ほぼ全ての細胞に存在している。その中枢は、視床下部の視交叉上核にある。視交叉上核の中枢時計は、光刺激によって時刻がセットされる。一方、その他の体内時計は末梢時計と呼ばれており、自律神経や液性因子を介して管理される。摂食は自律神経や液性因子を直接変えるため、末梢時計は摂食の影響を強く受ける。このため、朝食欠食者ではDITのリズムもシフトしている可能性がある。習慣的な朝食摂食者ではDITが朝に高く、夕に低いリズムを示すが、習慣的な朝食欠食者では朝のDITが低く、昼に高くなっているかもしれない。

習慣的な食事時刻が深部体温のリズムにも影響

野生型マウスと褐色脂肪細胞の熱産生を欠損させた脱共役タンパク質(UCP)1欠損マウスを用い、習慣的な食事時刻が深部体温のリズムに及ぼす影響を検討した。明暗の周期は12時間ごととし、通常食で飼育した。それぞれのマウスを2群に分け、一方には活動期初期のみ食餌を与える朝食群、活動期後期のみ食餌を与える夕食群に分け、2週間以上この時刻制限給餌を行った。最終日は両群ともに活動期初期および活動期後期の2回食餌を与え、自発行動や深部体温のリズムを解析した。
野生型マウス、UCP1欠損マウスともに1日1回食餌を与えた期間では、食餌時刻に一致して深部体温が上昇していた。朝食群では朝食時に活動量が増え、夕食時の活動はわずかであった。夕食群の場合は逆に、朝食時の活動は少なく、夕食時に活動量が増加した。深部体温に関しても、活動量と同様のリズムを示した。

習慣的な食事時間は摂取エネルギーあたりの熱産生にも影響

最終日に2回の食餌を与えたところ、野生型マウスでは朝食群、夕食群ともに朝食時、夕食時に活動量が増加し、朝食時と夕食時の活動量に違いはなかった。しかし、1日2回の食餌による摂食量は、夕食群では朝食群よりも、朝食、夕食ともに著明に少なかった。夕食群の深部体温は朝食の摂食量が少ないにも関わらず、朝食後に朝食群と同等に上昇していた。さらに、朝食群では朝
食時に深部体温が上昇し、その後低下するが、夕食群では朝食後に上昇した深部体温がその後も維持されていた。夕食時には逆の結果が得られた。
UCP1欠損マウスでは、活動量は野生型マウスと同様に、朝食時、夕食時ともに活動量が増加した。摂食量は朝食では朝食群、夕食群ともに差はなかったが、夕食では野生型と同様に夕食群で摂食量が少なかった。深部体温は朝食時に朝食群よりも夕食群で有意に低く、夕食時は朝食群、夕食群ともにほぼ同等であった。すなわち朝食群と比べて夕食群では摂取エネルギーあたりの熱産生が、朝食時は低く、夕食時は高いことが分かった。

習慣的な食事時間が異なるとTEFのリズムがシフト

エネルギー消費量の内訳は約70%が安静時代謝量、約10%がDIT、約20%が身体活動によるエネルギー消費量と言われている。安静時代謝量には生命を維持するために必要なエネルギー消費量である基礎代謝量と食物の消化、吸収、処理に伴う熱産生である食事の産熱効果(TEF)がある。TEFとDITは用語の定義および使用法に混乱があり、両者を合わせてDITと呼ばれる場合もある。狭義のDITは、余剰に摂取したエネルギーに対する熱産生であり、褐色脂肪細胞における熱産生を指す。
UCP1欠損マウスの場合、褐色脂肪細胞の活性がないため余剰エネルギーを処理できない。したがってTEFのみを評価できる。UCP1欠損マウスの摂餌量あたりのTEFは、朝食群では朝食時に高く、夕食時に低くなり、夕食群では朝食時に低く、夕食時に高くなる。つまり、TEFが習慣的な朝食欠食によりシフトしていることが明らかになった。一方、野生型マウスでは、朝食群、夕食
群ともに大きな差がなかった。これはマウスでは褐色脂肪細胞の活性は24時間を通して非常に高く、日内変動により褐色脂肪細胞の活性が低い時間帯でも十分に余力があり、余剰エネルギーを処理できるため、差が出なかったためと考えられる。

習慣的な朝食摂食者の夕食大量摂取、習慣的な朝食欠食者の一時的な朝食摂取はエネルギー余剰をもたらす

ヒトもマウスと同様であれば、高齢者や肥満者など褐色脂肪細胞の活性が低く、習慣的に朝食を摂取している人が、夕食を多量に摂取するとエネルギーが余剰となり、太りやすくなる。習慣的に朝食を欠食している人が朝食を摂取した場合も、エネルギーが余剰となり、太りやすくなる。
朝食の摂食頻度と肥満リスクを疫学データから検討した報告では、週3~4回の朝食摂取が最も肥満リスクが高いと報告されている。さらに、週1~2回の朝食摂取、週5~6回の朝食摂取でも、週3~4回の朝食摂取とほぼ同等の肥満リスクがある。肥満リスクが低いのは、まったく朝食を摂取していないか、毎日欠かさず摂取している場合であった。
習慣的な朝食摂食者で朝食を欠食した場合、本来朝食後に使うはずであったエネルギーがなくなり、1日のエネルギー消費量が減る。その分を夕食で摂取すると、夕食分のエネルギーが余剰となってしまう。この状態が、週5~6回の朝食摂取と考えられる。また、習慣的な朝食欠食者が、週末だけ朝食を摂取すると、朝はエネルギーが十分に消費できないため、エネルギーが余剰に
なり、太りやすくなってしまうと考えられる。

おわりに

マウスでは習慣的な食事とくに朝食の摂取時刻が、食事によるエネルギー消費つまり食事の産熱効果の日内リズムを規定していることが分かった。この結果をヒトに当てはめると、肥満の予防や治療には朝食を欠かさずに食べることが重要であると考えられる。

 

腎臓からのナトリウム・カリウム排泄リズムを活用した食事管理の検討

西田由香名古屋女子大学健康科学部・健康栄養学科

ナトリウムやカリウムの尿排泄には日内リズムがある

ナトリウム、カリウムは高血圧や腎疾患の患者への食事指導で重要となる。高血圧予防では、減塩と併せてナトリウムの尿排泄を促進するカリウムを積極的に摂取することが推奨されている。一方で、腎不全など高カリウム血症を呈する患者においてはカリウムの摂取制限が行われている。ナトリウム、カリウムは摂取量に応じて腎臓からの尿排泄量が調整され、生体の恒常性が維
持されている。古くからナトリウムとカリウムの尿排泄に日内リズムがあることが分かっている。つまり、食塩やカリウムを摂取するタイミングが健康管理に影響する可能性がある。そこ
で、食後の時間単位の採尿を行い、ナトリウム、カリウムの摂取量や摂食時刻の違いによる尿排泄への影響について検討した。

ナトリウム尿排泄はアルドステロンの日内リズムの影響を受ける

まず、高塩食の摂取時刻の違いによるナトリウム、カリウムの尿排泄リズムを検討した。高塩食として、典型的な高食塩かつ低カリウムの組成である市販のカップ麺を用いた。使用したカップ麺食には食塩が1食あたり9.1g含まれている。これを8時の朝食、13時の昼食、18時の夕食のいずれかに摂取して、食後24時間まで食後2~3時間間隔、夜間は7時間間隔で採尿した。高塩食以外
の食事は1食あたり食塩1.7gの低塩食で管理した。対象は腎機能に異常のない若年成人7名とした。
食後24時間までのナトリウム尿排泄の日内変動は、高塩食の摂取時刻に関わらず違いはなかった。これはナトリウムの再吸収に重要な役割をしているアルドステロンの日内リズムの影響を受けているためと考えられる。つまり、アルドステロンは夕方から夕食後の時間帯にかけて低下するため、ナトリウム尿排泄は21時から23時頃にピークを示した。その後、翌朝にかけてアルドステロンが上昇するため、夜間のナトリウム尿排泄は低下する日内リズムを示したと考えられる。
カリウム尿排泄は21時頃にピークがあり、尿中ナトリウム排泄と同様に夜間から翌朝にかけて低下した。これらのことから、高塩食の摂取時刻に関係なく、ナトリウムやカリウムの尿排泄には日内リズムがあることが明らかになった。

遅い時間帯の夕食摂取によりナトリウム尿排泄が低下

夜間から翌朝にかけてナトリウムやカリウムの尿排泄が低下することに着目し、夕食時刻を変化させて尿中ミネラル排泄への影響を検討した。腎機能に異常のない若年成人を対象に夕食時刻を18時30分または23時30分とするクロスオーバー試験を行い、ナトリウムやカリウムの尿排泄を比較した。
18時30分の夕食では、通常の日内リズムと同様、ナトリウム尿排泄が22時30分の採尿でピークを迎え、その後、翌朝にかけて低下した。夕食を23時30分に摂取した場合は、夕方以降のナトリウム尿排泄がやや抑制された。これは夕食時刻の遅れに対応したホメオスタシスによるものと考えられる。しかし、23時30分に夕食を摂取後の翌朝の尿中ナトリウム排泄は増加していなかった。18時30分から翌朝6時30分までの12時間尿へのナトリウム排泄を比較すると、18時30分に比べて23時30分の夕食摂取では顕著に少なかった。23時30分の遅い時間帯の夕食摂取では、ナトリウムが体内に貯留しやすいと考えられる。カリウムやリンの尿排泄についても23時30分の夕食摂取では、夕食後から翌朝まで尿排泄が低下した。
腎不全の食事療法ではナトリウム制限だけでなく、カリウムやリンの制限なども行われる。腎不全患者における夜遅い時間帯の夕食摂取は、ナトリウムだけでなくカリウムやリンなどの尿排泄にも悪影響を及ぼすと考えられる。

食事内容の工夫により高塩食後のナトリウム尿排泄が増加

次にカリウムによるナトリウム利尿効果について検討した。高食塩食としてカップ麺を用い、食塩量は同じだが野菜や果物、芋、肉、卵、ヨーグルトなどを加えてカリウム含量を増やしたカリウム付加食とした。13時の昼食に高食塩食またはカリウム付加食を摂取して、食後のナトリウム、カリウムの尿排泄を比較した。エネルギー量は同一で、日本人の食事摂取基準の3分の1相当量とした。
カップ麺食の摂取後はカリウム尿排泄が食前に比べて有意に低下した。これはカリウムが少ない食事を摂取したことによるホメオスタシスと考えられる。一方、カリウム付加食の摂取後は、食後3時間から5時間にかけてカップ麺食に対して有意にカリウム尿排泄が増加した。ナトリウム尿排泄はカリウム付加食の摂取後3時間から5時間に増加し、カップ麺食摂取後に比べて顕著なナトリウム尿排泄の増加が認められた。カリウム付加食摂取によるナトリウム利尿効果は、食塩量に換算すると食後5時間で約1.1gであった。
夕食は1食あたり1.6gと低食塩だがカリウムは十分に含む同一の食事を摂取し、翌朝6時まで継続して尿排泄を比較した。18時に夕食を摂取後3時間の21時採尿では、カップ麺食とカリウム付加食のナトリウム尿排泄の差はなくなった。カリウムによるナトリウムの利尿促進は食後3時間から5時間まで顕著であるが、8時間以降は減弱する可能性が考えられる。夕食後はカップ麺食におい
てもナトリウム尿排泄が高まり、23時採尿でピークを示し、その後、翌朝にかけて低下した。これは潜在する日内リズムの影響を受けていると考えられ、カリウム尿排泄でも同様に21時をピークに翌朝にかけて低下した。

ナトリウム尿排泄にはカリウム摂取によるNCC抑制とアルドステロンが関与か?

近年、カリウム摂取によるナトリウム利尿作用についての分子メカニズムが解明され、腎臓の遠位尿細管でのナトリウム-クロライド共輸送体(NCC)が関与していることが明らかになっている。カリウム摂取はNCCを不活化し、ナトリウムの再吸収が抑制されてナトリウム尿排泄が増加する。一方で、遠位尿細管より下流の集合管でカリウム分泌が行われるため、尿中へのカリウム排泄も促進される。マウスへの経口カリウム投与では、30分以内の早期に尿中カリウム排泄の促進が認められている。
また、通常アルドステロンはナトリウムの再吸収を促進し、ナトリウム尿排泄低下の代わりにカリウムの尿排泄を上昇させる作用がある。
今回のカリウム付加食では、摂食後3時間の早期に尿中へのカリウム排泄の増加とナトリウム排泄の増加が確認された機序として、NCCの不活性化が関与していたと推察される。一方、21時から23時の時間帯では、尿中へのカリウム排泄が低下したにもかかわらずナトリウム尿排泄は促進していたことから、アルドステロンの作用減弱が影響したのではないかと考えられる。

おわりに

ナトリウム尿排泄には日内変動がある。夕食後は比較的ナトリウム利尿が高まるが、夕食を遅い時間帯に摂取しないことがポイントになる。
カリウム付加によりナトリウム利尿は高まるが、ナトリウムの尿排泄量には限界がある。今後は、食塩とカリウムの摂取量だけでなく、摂取割合や摂食時刻、摂取タイミングを考慮することも重要と考えられる。

 

Part2はこちら
・生活リズムが血糖調節に及ぼす影響~食事時間に着目して~
吉村英一( 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所、国立健康・栄養研究所、栄養・代謝研究部)
・肥満小児における生体リズムの乱れと肥満合併症や栄養摂取との関連について
原 光彦( 和洋女子大学家政学部健康栄養学科/日本大学医学部小児科系小児科学分野)
【質疑応答】

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第9回日本時間栄養学会学術大会 Report『ライフスタイルと時間栄養学』
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