第9回日本時間栄養学会学術大会 Report『ライフスタイルと時間栄養学』 Part2

2023.03.28フレイル・サルコペニア

2022年8月26日(金)と27日(土)の2日間にわたり、第9回日本時間栄養学会学術大会が福岡県糸島市の「グローカルホテル糸島」で開催された。大会長は九州大学大学院農学研究院の安尾しのぶ先生が務め、大会テーマは『〜縦横に広がる時間栄養学〜』とされた。ここでは、8月27日(土)に開催されたシンポジウム2「ライフスタイルと時間栄養学」の概要について報告する。
講演3:日常生活の不規則さと心身の健康/吉﨑貴大東洋大学 食環境科学部)・東郷史治東京大学大学院 教育学研究科
講演4:へルシー&サステナブルな食と時間栄養学/永井成美兵庫県立大学 環境人間学部

株式会社ジェフコーポレーション「栄養NEWS ONLINE」編集部】

シンポジウム2:ライフスタイルと時間栄養学

司会
大石勝隆産業技術総合研究所
志内哲也徳島大学

 

日常生活の不規則さと心身の健康

吉﨑貴大東洋大学 食環境科学部
東郷史治東京大学大学院 教育学研究科

交代制勤務や夜型指向性と食生活やストレスは関連する

交代制勤務者では自律神経活動の日周リズムと睡眠覚醒リズムでズレが生じている可能性が指摘されている。実際に、交代制勤務だけでなく夜型指向性や社会的ジェットラグ(Social jetlag : 平日と休日の夜間睡眠の時間帯のリズムのズレ)など生活リズムと食生活の関連性や、抑うつ症状に対する夜型指向性と職業性ストレスの交互作用による影響などについて、数多くの報告がある。
しかし、これらの要因は、日常生活の不規則さと一部共通する要素を持つ概念ではあるが、完全に一致しているわけではない。不規則な生活あるいは生活リズムの乱れは多種多様であり、実際は複数の生活リズムが複雑に入り混じった状態にある。

生活の不規則さは行動記録、自記式質問票、アクチグラフなどで評価される

日常生活の不規則さを疫学的に評価する方法として、行動記録、自記式質問票、アクチグラフなどの手法がある。
行動記録による方法の一例にソーシャル・リズム・メトリック(Social Rhythm Metric : SRM)がある。これは社会生活までを含めた生活リズムの概念を把握する目的で開発され、17項目について1週間の日常生活行動の開始時刻の記録から行動の規則性を定量化するものである。
自記式質問票にはブリーフソーシャルリズムスケール(Brief Social Rhythm Scale : BSRS)がある。これも生活リズムの概念を簡易的に把握する目的で開発されているが、複数日に渡る行動記録は必要とせず、就寝、起床、食事時刻といった10項目の規則性に関する設問について、6段階のスケールで評価するものである。
一方、客観的な評価としてはアクチグラフを用いた手法が代表的である。アクチグラフのデータに特定の処理を加えて、個人内の標準偏差、社会的ジェットラグ、コンポジットフェーズデビエーション(Composite Phase Deviation:CPD)、スリープレギュラリティインデックス(Sleep Regularity Index:SRI)、インターデイリースタビリティ(Interdaily Stability:IS)などの指標が算出される。

睡眠時間や就寝時間で個人内の標準偏差が大きいほど循環器疾患のハザード比が高い

アクチグラフによる指標のうち、個人内の標準偏差は複数日における値から求めることができる。これは全データから個々のデータの散らばりの程度に注目しており、値が小さいほどレギュラーパターンであることを示す。睡眠時間や睡眠時刻が得られれば算出可能で、質問票、睡眠日誌、アクチグラフなどのデータを用いて算出可能となる。ただし、この指標に昼寝や夜間覚醒などは考慮されていない。
就寝時刻や睡眠時間の標準偏差を使用した研究として、アテローム性動脈硬化症の多民族研究(Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis : MESA)コホートに参加し、睡眠調査への同意が得られた1,992名を対象とした前向きコホート調査がある。この調査では、曝露は睡眠時間と就寝時刻の7日間の標準偏差とし、主要アウトカムは循環器疾患のイベントとなっている。その結果、睡眠時間、あるいは就寝時刻の7日間の標準偏差が大きいほど循環器疾患のハザード比が高いという傾向が示された。

夜間指向性を持つ人ほど社会的ジェットラグが大きい

社会的ジェットラグは、仕事や学校などの社会的制約の有無による睡眠中間時刻の差によって算出される。この指標は社会的制約のない日とある日の睡眠時間帯のミスマッチに注目しており、質問票、睡眠日誌、アクチグラフのいずれからも算出可能となる。ただし、社会的制約のある日を事前定義する必要がある。また、この指標に日々の変化や夜間覚醒、昼寝などの影響は考慮されていない。
社会的ジェットラグが1時間以上の人は約46.1%であることや、夜型指向性を持つ人ほど社会的ジェットラグが大きいことが報告されている。

コンポジットフェーズデビエーション(CPD)は睡眠の不規則さを定量化する

CPDは比較的新しい指標である。クロノタイプと当日の睡眠中間時刻との差であるΔCTiと、前日と当日の睡眠中間時刻との差であるΔDDiを算出し、これらのベクトル量の合成の平均値で、睡眠の不規則さを定量化する。例えば、7日間の睡眠中間時刻のデータがある場合、合成したCPD1から7までの7つのベクトルの大きさを平均し、全体のCPDとする。
この指標ではクロノタイプの睡眠中間時刻からの乖離状況と、前日の睡眠中間時刻からの乖離状況の両面が考慮される。つまり全てのCPDが0に近いほど、それらの乖離状況が小さいということになる。この指標は睡眠中間時刻さえあれば算出でき、質問票、睡眠日誌、アクチグラフのいずれのデータも用いることが可能である。ただし夜間覚醒や昼寝の影響は考慮されず、測定データの連続性が加味されるということが他の指標と異なる。

睡眠中間時刻と社会生活時刻の乖離状況が大きいクラスターではストレスが多い

CPDを使用した研究として、アメリカ人大学生223名を対象とし、約29日間連続測定した報告がある。曝露には睡眠中央時刻のCPDと1日の最初の社会生活時刻のCPDの2種類を設定し、主要アウトカムは、ビジュアルアナログスケール(Visual Analogue Scale : VAS)法で評価した起床後の気分状態であった。
この報告では、クロノタイプと前日の睡眠中間時刻とのずれ、平均的な1日の最初の社会生活時刻と前日の社会生活時刻を指標に4つのクラスターに分類している。睡眠中間時刻の乖離状況および社会生活時刻の乖離状況が小さいクラスターに比べ、睡眠中間時刻と社会生活時刻のいずれの時間帯も安定しておらず乖離状況が大きいクラスターではストレスなどの健康・幸福を表す指標が有意に低いことが示されている。

インターデイリースタビリティ(IS)は睡眠以外にも評価でき汎用性が高い

ISの算出式の分子には単位時間ごとの平均値とデータ全体の平均値との残差の二乗を、分母には該当の日のある時間帯の値とデータ全体の平均値の残差の二乗を取る。仮に、毎日同じ休息活動リズムであった場合、ISは1.0となる。
この指標は複数日に渡るデータの安定性を反映し、各データの周期性と振幅の両方から影響を受ける。また、睡眠時間の長さ、タイミング、夜間覚醒、昼寝の影響も考慮に入る。この指標を得るためにはアクチグラフで測定した値など連続的なデータが必要となり、対象者間でデータの日数を揃える必要もある。さらにアクチグラフから得られるデータ以外に、事前定義や睡眠判定のディテクションを必要としないことも特徴である。
交替制勤務や夜勤、隔日勤務など特別な集団に特有の曝露を設定する場合、得られる知見の一般化可能性の点で限定的となるが、日常生活の不規則さに焦点を当てた評価指標を用いることで、将来的な予測因子、介入対象として得られる知見の有用性は高まると考えられる。

ISを用いて、日常生活の不規則さと心身の健康との関連について検討

アクチグラフから得られるさまざまな指標の特徴を比較すると、ISについては事前定義も必要なく、アクチグラフのデータがあれば算出可能で、応用範囲も睡眠時刻だけでなく、他の連続的な値の安定性の評価にも使用可能であり、汎用性を有すると考えられた。
ISを曝露として用いた先行研究を検索したところ113報がヒットした。そのうち休息活動リズムの安定性を曝露指標としているものを検討したところ、研究デザインは全て横断研究であった。アウトカムは認知機能や認知症などが多く見られ、その他の主要アウトカムとしてはコレステロール、血圧、気分状態、メタボリックシンドロームなどがあった。
先行研究でのISの扱われ方としては、2種類に大別される。1つ目は認知症等の研究においてISを予測因子として扱い、スクリーニングを目的とするものである。2つ目は、ISとアウトカムとの因果を仮定して介入対象として想定している研究である。
そこで、先行研究でのインターデイリースタビリティの2種類の扱い方を念頭に置き、若年者を対象として日々の生活における休息活動リズムの安定性と心身の健康との関連を検討することとした。

休息活動リズムのISと抑うつ症状(CES-D)および気分状態(POMS)の指標には負の相関がある

対象は健康な若年大学生、大学院生87名とし、研究デザインは横断研究とし、CES-DおよびPOMSの指標と社会的ジェットラグおよび休息活動リズムのISとの関係について単変量解析および多変量解析を行った。その結果、社会的ジェットラグは、単変量解析および多変量解析いずれもCES-DおよびPOMSの指標と有意な関連は見られなかった。一方、休息活動リズムのISは、多変量解析においてCES-DおよびPOMSの指標にいずれも有意な負の関連が得られた。
社会的ジェットラグでは、抑うつ症状や気分状態との間に有意な関連が得られなかった。これは社会的ジェットラグの指標のデータの処理プロセスの困難さにより情報バイアスを生じていることが要因となっている可能性がある。一方、休息活動リズムのISは、有意な負の関連が得られており、日常生活の不規則さを評価する上では情報バイアスを受けにくい可能性を示しているとも考えられる。ただし、安定性の高低に応じた集団の特性、生活行動の特徴など構成概念妥当性については詳細な検討が必要である。

女性、高齢者、喫煙習慣がない人で休息活動リズムの安定性が高い

休息活動リズムの安定性が低い人の特徴に関連する先行研究については、複数の報告がある。これらの研究では、休息活動リズム安定性が高い人は女性であること、年齢が高いこと、喫煙習慣がないことといった特徴が共通して報告されている。
今後、休息活動リズムの安定性に寄与し得る構成要素を明らかにし、日常生活の不規則さのうち安定性の指標に反映される要因を検討していく必要があると考えられる。これらの結果は、健康アウトカムとの関連解析において、交絡、中間因子、因果や介入のターゲットを検討する上で、貴重な情報となると思われる。

おわりに

睡眠以外の生活習慣の規則性について、例えば食事の不規則さに関する先行研究では、1週間の食事調査を行い、食事時刻の日々の変動や、それらの平日と週末との差は心血管系の健康指標と関連することや、自記式質問票によって把握した平日と休日の食事中間時刻の差はBMIとの間に正の関連があることが報告されている。そのため、今後の展望として、日々の食生活についても不規則さの概念を客観的に定量化し、情報バイアスの低い指標をもとに睡眠と食事の不規則さの両者を同時に用いて健康指標との関連を検討していく必要がある。例えば、不規則な食生活といった概念も複数日の血糖変動の安定性によって評価し得る可能性もある。今後は休息活動リズムの安定性に加えて、これらの指標も交えた解析も行っていく予定である。

 

へルシー&サステナブルな食と時間栄養学

永井成美兵庫県立大学 環境人間学部

健康リスクが高いライフスタイルの人、シフトワーカーに対する食生活の研究が必要

近年は健康リスクの高いライフスタイルの人を取り残さないこと、シフトワーカーの健康を維持するために食環境づくりや環境的なアプローチの方向性についての研究が求められるようになった。
また、SDGsの考え方が重要視されるようになり、時間栄養学の観点で地球にも人にも優しい食事内容、食べ方の提案を行う必要が高まっている。世界ではSDGsの中で世界中の人が健康を維持し、誰1人飢えない食べ方が議論されるようになった。
そこで、時間栄養的な観点から健康リスクの高いライフスタイルの人を取り残さない食事、シフトワーカーの健康を維持できる食事を検討するため、朝は食欲がない人、夜型のアスリート、夜遅く食べる人を対象とした試験を行った。

朝食欠食の人は朝の胃の蠕動運動が弱い

国民栄養調査では、朝食を食べない人は若年者を中心に2~3割存在すると報告されている。このような人は大人になってから朝食を食べなくなった人は約半数で、残りは中学生、高校生、大学生ごろから朝食を食べない習慣が固定化している。そこで、朝食欠食がどのように固定化するのか検討した。
時計遺伝子が発見される前から、胃では食事より前に食事の時間を予測するように胃液や消化酵素の分泌の準備が始まり、蠕動運動が高まること、それが毎日決まった時間に起こることが知られていた。胃透視の画像でも早寝早起きで朝食を食べる人は朝から胃の蠕動運動が活発だが、遅寝遅起きで朝食を食べない人では昼頃にならないと胃の蠕動運動が活発にならないことも分かっていた。
100年前にアメリカではじめて経皮的な胃電図(Electrogastrography:EGG)の報告がされた。その後、EGGの妥当性が検討され、2003年に測定方法が標準化されている。EGGを用いて経皮的に胃の蠕動運動を観察したところ、大学に入ってからほぼ毎日朝食を欠かしていないという学生では規則正しい周期を持っていることが分かった。
さらに、被験者173名をClock遺伝子やPer3の変異の有無で胃の収縮回数を比較した報告では、強い相関はみられなかったもののClock遺伝子やPer3の変異がある人と変異を持っていない人では胃の収縮回数が異なっている傾向が示されている。

1週間の朝食欠食で朝の胃の活動が低下する

朝食を欠食した経験のない人を対象に1週間朝食を欠食してもらい、EGGを用いて胃の電位活動の変化を測定した。その後、再び朝食を1週間食べてもらい、胃の電位活動の変化を測定した。ベースラインのデータでは胃の収縮力が強い人ほど朝の食欲があり、空腹感もあることが分かった。胃の収縮力は、朝の食欲の1つのパラメーターとして利用できる可能性がある。
1週間の朝食欠食後に胃の蠕動運動周波数をベースラインと比較したところ、パワーも収縮力も低下した。朝食を再摂食すれば元に戻ると考えていたが、実際は1週間の朝食再摂食後も回復しなかった。食欲も1週間の朝食欠食によって低下し、ベースラインと同じ量が食べられなくなっていた。
1週間という短期間であっても朝食欠食は消化管の摂食予知活動を低下もしくは消失させ、空腹感を感じにくくなって、朝食を食べなくてもよいと考えるようになり、朝食欠食習慣が固定化すると考えられる。

2週間の朝食摂取で朝の胃の活動が回復する

朝食欠食している人や朝食欲がない人はどれくらいの期間、朝食を食べ続ければ胃の活動が回復するのか検証した。研究に協力してくれたA高校の寮の食堂ではバイキングで朝食を提供している。この食堂でバランスよい献立の朝食セットを提供し、食べられない人には少しだけでも、牛乳やバナナだけでも食べてほしいと薦める介入を行った。
実験に参加したのは77名だったが、とくに胃の動きが低かった7名を対象に2~3週間追跡した。寮の中に簡易な実験室を設け、起床直後の6時30分~7時10分までの間にEGGの測定を行った。
朝食をほとんど食べなかった、少しは食べていたけれども食欲が全然なかった人でも2週間朝食を食べ続けることによって、1名を除いて、2週間目にはピーク周波数の上昇がみられた。2週間目にピーク周波数が戻らなかった1名もベースラインでは波高が低く、明確な胃収縮のピークは出ていなかったが、2週間後には胃の収縮力は高まり、3週間目にはピーク周波数が高まってきた。
これは成長期にある高校生のデータであり、一般化には注意が必要と思われるが、一定期間朝食を食べ続けることで胃の動きは良くなると考えられる。この結果から、朝食欠食習慣は固定化しやすいが、一旦習慣化しても、再び朝食を食べることで胃のリズムが戻ってくることが示唆される。

コップ1杯の冷水でも胃の活動は活発化する

胃電図の周波数は朝にコップ1杯の冷水を飲むだけでもピークが高くなり、刺激を受けていることが分かる。温水でもやや弱いものの、周期はやや早まって、ピークが一時的に高まる。胃が刺激を受けて、動きが良くなると食欲も出てくる。
朝食を食べられない人はまずコップ1杯の液体を摂り、食欲が出てくる頃に食べやすいバナナやヨーグルト、カステラのようなものを摂取することを同じ時刻に繰り返せば、胃の動きを取り戻していける可能性がある。理想的には内臓の時計のスイッチを入れる炭水化物やたんぱく質を含む朝食が望ましい。

クロノタイプと生活リズムがマッチしていると筋肉が増加する

日本の学生スポーツは朝練や朝の試合があるなど基本的には朝型の人に有利である。したがって、クロノタイプが夜型のアスリートの人が取り残されているといえる。
一般的に夜型がよくないというデータは多い。しかし、クロノタイプは生得性が高く、傾向そのものは簡単に変えにくいと言われている。また、夜型のクロノタイプがよくないのか、生得性のあるクロノタイプと実生活のリズムのミスマッチがよくないのかという検討はヒトではあまりされていない。
そこで、野球準強豪校2校の選手1、2年生45名を対象に、この点を検討した。12月から3月のオフ期、朝食摂取を中心にした栄養教育で介入し、筋トレをしっかり行ってもらった。クロノタイプが朝型で朝型の生活パターンをしている人、クロノタイプは朝型だが夜型の生活パターンをしている人、クロノタイプが夜型だが朝型の生活パターンをしている人、クロノタイプは夜型で
夜型の生活パターンをしている人に分け、4か月後の除脂肪体重を評価した。
除脂肪体重の増加量はクロノタイプが朝型で生活パターンも朝型の人だけでなく、クロノタイプが夜型で夜型の生活パターンをしている人も増加量が大きく、クロノタイプが朝型だが夜型の生活を生活パターンしている人、クロノタイプは夜型だが朝型の生活パターンをしている人はその半分以下に留まった。多変量の解析からクロノタイプと生活パターンのマッチ、ミスマッチは独立して除脂肪体重の増加量に関係していることが分かった。この結果から、クロノタイプが夜型の選手は夜に合わせた練習時刻が望ましい可能性がある。
ただし、除脂肪体重の増加には1週間あたりのトレーニング時間も関与している。トレーニングした上でクロノタイプと生活パターンを合わせることがよいと考えられる。
日本の学校のシステムは、クロノタイプが朝型の人に有利にできている。実際にクロノタイプが朝型の人は身長や体重が夜型の人より大きい。学校生活のシステムが成長にも関わっている可能性もある。

夜間には麺、カレー、丼ぶり、甘い物が好まれる

現在、シフトワーカーは1,200万人以上いて、夜間勤務を含め5人に1人はシフトワーカーであるという統計がある。様々な健康リスクを有するシフトワーカーを、取り残さないための研究もしている。まず、日勤、早出、遅出、深夜とさまざまな勤務体系がある職場の食堂を対象に、遅い時間に働く人が好むメニューを調査した。この食堂は勤務体系により食堂を利用する時間が異なるが、全ての時間帯で同じメニューが提供されており、勤務体系による食事選択を比較できる。
その結果、夜間に食べられやすいメニューは、麺、カレー、丼ぶりで、甘いデザートも好まれる傾向が分かった。揚げ物や肉料理は4人に1人が昼間と同じように選択しており、夜間に揚げ物が減ることはなかった。

高脂質高ショ糖の食事は集中力、深部体温、心拍数を低下させ、眠気や疲労感を高める

夜勤中には菓子や嗜好飲料、甘いものが選択されやすいという報告がある。そこで、脂質やショ糖を実験的に摂取してもらい、食後のパフォーマンスの変化を検討した。20代学生を対象に日本のPFCバランスに近く甘くないバランス食と、脂質が多く甘い高脂質高ショ糖の食事を9時前後に提供し、食後2時間まで集中力、眠気、疲労感、体温、心拍数などの指標を測定した。
タブレットによる課題切り替えのテストで評価した集中力は高脂質高ショ糖の食事摂取後に正答率が低く推移し、食後60分で回復することが分かった。このテストはプランニング機能を評価するものである。プランニング機能が低下すると、思い込みによる行動が多くなって適切な確認や修正が行われにくくなることから、高脂質高ショ糖の食事を夜間に摂ると、その後の勤務パフォーマンスに影響する可能性がある。
さらに、高脂質高ショ糖の食事は眠気や疲労感を高めるなどの悪影響も見られた。また、深部体温、心拍数も低く推移した。これは食後の産熱が脂質で低いことにも関係がある。自律神経のバランスも高脂質高ショ糖の食事で副交感神経活動が優位となり、一部の認知機能や食後の活力を低下させる可能性がある。これらの結果から、深夜に食べる食事の栄養組成には配慮が必要と考えられる。

社会的に健康的な食事を提供する取り組みも始まった

食事での個別介入は限界があると言われている。無関心層は一定数存在し、とくに男性には無関心層が多い。また、日本ではポーションサイズが小さいことが、肥満者が少ない要因になっていると言われている。学校給食のように提供量が健康的になっている場合は、強制的に健康状態が良くなっていく。そこで、現在は、個別介入に加え、食環境づくりが有用とされている。
イギリスでは、パンやシリアルなど加工食品に食塩が多いため、この削減を目指している。1~2年間かけて加工食品の食塩を1割削減したところ、虚血性心疾患、脳卒中の発症率が減り、尿中ナトリウム量や平均血圧も低下した。
日本では調味料が食塩の主な供給源である。しかし、減塩などと表示してしまうとかえって選択されなくなる。そこで、ファミリーマートでは惣菜や麺類、弁当合計26種類で「こっそり減塩」を行ったところ、1億食が販売され100トンの減塩になった。
一般に食品表示は商品の裏面にあって見にくい。海外では食品の健康への影響を緑、黄、赤と色で分かりやすく食品の表面に表示するフロントオブパックの取り組みが始まり、日本でも準備中である。時間栄養学的には、こうした表示に至適な摂取時間も加えることが有益と考えている。

持続可能な食事を支えるプラネタリーダイエット

SDGs全体を支えるのが栄養食事である。SDGsの17の目標に栄養食事という言葉が含まれていないのは、食が充足されていないと、どの目標も達成できないためと言われている。また、EATランセット委員会は2050年に約100億人に達する誰も排除されず、各地域で健康と文化を維持できる食事として鶏肉、魚、豆、植物性でたんぱく質を摂取するモデルが提唱されている。今後はこれに昆虫食などが加わる可能性もある。
成人のための世界的な標準食としてプラネタリーダイエットも提唱されている。これは半分を野菜と果物、残りの半分は主に全粒穀物、豆やナッツ類などの植物性たんぱく質、不飽和植物油、適度な量の肉と乳製品、若干の砂糖とでんぷん質の野菜で構成される。日本で食料の輸入が停止すると、日本の食事は穀物が多く、肉の量は減り、プラネタリーダイエットに近づくと言われている。また、現在の日本の食事は1人あたりの環境負荷が少なく、G20ではトルコに次いで2番目に少ない。このような背景から、日本人にはプラネタリーダイエットが大きな負担にならないかもしれない。
また、料理の選択によって、食事に由来するCO2排出量が違うと報告されている。和食と中華は洋食と比べると、CO2の排出は半分程度になる。ただし、これは日本でのデータであり、素材を輸入している場合、輸送に関するCO2も含まれるため、食材の自給率の高さなども影響している可能性がある。

おわりに

すべての人の健康を維持するために、時間栄養学を考慮した朝食の欠食対策やシフトワーカーに対する食事の提案は重要である。また、サステナブルの観点からは、時間栄養学の知見にも持続可能性を取り入れる必要がある。

 

Part1はこちらから
Time of exercise – The key to optimizing health benefits/佐藤章悟(Texas A&M University
1日におけるタンパク質の摂取配分と骨格筋機能の関係/青山晋也(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科

タグ : BMI EGG Na SDGs アクチグラフ アミノ酸 インターデイリースタビリティ クラスター コレステロール サーカディアンリズム シフトワーカー ストレス たんぱく質 ナトリウム プラネタリーダイエット メタボ メタボリックシンドローム ヨーグルト 交感神経 休息活動リズム 体内時計 副交感神経 加工食品 動脈硬化 吉﨑貴大 大石勝隆 志内哲也 抑うつ 日内リズム 日内変動 日本時間栄養学会 時間栄養 時間栄養学 朝食 朝食欠食 東京大学 東郷史治 概日リズム 永井成美 深部体温 炭水化物 生活リズム 疲労感 睡眠時間 社会的ジェットラグ 給食 肥満 脂質 自律神経 認知症 除脂肪体重 食欲 食生活 骨格筋 高ショ糖 高脂質 高齢者