第9回日本時間栄養学会学術大会 Report『ライフスタイルと時間栄養学』 Part1

2023.03.28栄養素

2022年8月26日(金)と27日(土)の2日間にわたり、第9回日本時間栄養学会学術大会が福岡県糸島市の「グローカルホテル糸島」で開催された。大会長は九州大学大学院農学研究院の安尾しのぶ先生が務め、大会テーマは『〜縦横に広がる時間栄養学〜』とされた。ここでは、8月27日(土)に開催されたシンポジウム2『ライフスタイルと時間栄養学』 の概要について報告する。
講演1:Time of exercise – The key to optimizing health benefits/佐藤章悟Texas A&M University
講演2:1日におけるタンパク質の摂取配分と骨格筋機能の関係/青山晋也長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科

株式会社ジェフコーポレーション「栄養NEWS ONLINE」編集部】

 

シンポジウム2:ライフスタイルと時間栄養学

司会
大石勝隆産業技術総合研究所
志内哲也徳島大学

 

Time of exercise – The key to optimizing health benefits

佐藤章悟Texas A&M University

生体のサーカディアンリズムは分子レベルで調整されている

体内時計は生体が外部の環境変化に適応するために獲得した生理機能の1つである。その1つにサーカディアンリズム(概日リズム)がある。サーカディアンとはラテン語でおよそ1日という意味を持ち、サーカディアンリズムは1日周期の時間的な生体機能の変化を示す。例えば、サーカディアンクロックシステムは、明暗サイクルやフィードファスティングサイクルといった栄養面での変化など外部の環境変化に適応する生体内の分子メカニズムである。このように生体のサーカディアンリズムは分子レベルで調節されている。
生体の生理機能リズムの代表的なものとして睡眠覚醒サイクルがあげられる。睡眠覚醒サイクルを分子レベルでみると、睡眠覚醒に関わるホルモンの分泌サイクルに関連している。ヒトでは睡眠に関わるホルモンであるメラトニンの分泌は夜暗くなると亢進する。活性や覚醒に関わるコルチゾールなどのホルモンは、早朝に分泌のピークを迎え、これらの分泌が増えると生体の活動も活性化する。
睡眠覚醒サイクル以外にも各種の生理機能がサーカディアンリズムを有している。このようなサーカディアンリズムによってコントロールされている生理機能を外的な環境変化と調整することで、健康を維持できる可能性がある。

明暗サイクルや食事など外的な環境変化が体内の時計機能を調整する

外的な環境変化と体内の分子レベルでの時計機能の調整では、外的な明暗サイクルが重要な役割を果たす。サーカディアンリズムは眼で受けた光刺激が脳内の視床下部にある視交叉上核と呼ばれる領域に明暗サイクルの刺激として届き、視交叉上核が中枢時計として司令塔的な役割を果たして、身体の末梢の時計機能がシンクロナイズし、保たれている。実際に、視交叉上核そのものや視交叉上核に発現する中枢時計を欠損させたマウスでは、末梢の時計機能だけでなく生体システムとしての時計機能が乱れることが分かっている。
明暗サイクル以外にも直接的にその末梢組織の時計に働きかける同調因子がある。例えば、食事によって、肝臓や骨格筋などの代謝系の組織における時計がシンクロナイズされる。また、末梢の時計から脳の時計にもフィードバック的な働きかけが存在することも明らかになっている。現在は、どのような分子や代謝産物が末梢の時計から脳の時計に働きかけているかなどの研究が進められている。

体内では時計機能と代謝機能などの生理機能が相互に関連している

時計機能が代謝機能などの体内の生理機能も調節している。逆に代謝プロセスによって産生された代謝産物もフィードバック的に体内時計に働きかけている。実際に、代謝産物が時計分子を修飾し、時計の活性を変えることが分かっている。このように代謝と体内時計は相互に関連している。
運動、食事、エイジングといったファクターによって代謝機能が変わると体内時計の活性も変わってくる。これは一般的にサーカディアンリプログラムと言われている。
体内時計の不活性化は各種疾患の原因となり、進行を促進することも分かっている。逆に食事や運動などの介入で体内時計を活性化させ健康利益を得ようとする研究も行われている。

夜間の脂質摂取は体内時計分子Bmal1の活性により体内への脂質蓄積を促進する

体内時計分子であるBmal1たんぱく質は、他の体内時計の遺伝子発現を調節するだけでなく、多くの代謝に関わる遺伝子発現を調節することが分かっている。Bmal1の活性は夜に高まる。mal1の活性が高い夜間に脂質を多量に取り込むと、Bmal1によって食事由来の脂質が体内に蓄積される。体内時計の機能の乱れや体内時計の機能を乱すような食生活によって、代謝性疾患につながる。
マウスを、活動期のみに食餌を与える群と非活動期のみ食餌を与える群に分け、同じエネルギー量の食餌を与えたところ、活動期のみ食餌を与えたマウスでは痩せた状態を比較的維持できたが、非活動期のみ食餌を与えたマウスでは肥満の状態を呈した。
マウスを、自由に食餌を摂取できる群と活動期のみ食餌を摂取できる群に分け、同じエネルギー量の食餌を与えたところ、活動期のみ食餌を摂取できる群では食事時間制限の結果としてマウスの体内時計が活性化し、脂肪の蓄積が抑制されていた。他にもほとんど全ての臓器に食事時間制限の効果が認められている。
ヒトでも夜遅く食事を摂る生活は健康によくないと考えられる。食事は何をどれだけ食べたかなど内容に加えて、いつ摂ったかという時間も重要である。

ヒトの骨格筋は夕方に最も活性化する

ヒトは基本的に食事でエネルギーを摂取する。エネルギーの摂取によい時間、よくない時間があると考えられる。また、エネルギー消費の観点から運動は効果的である。運動は糖尿病など代謝性疾患の治療としても積極的に使われている。体重を減らす目的で運動が行われるように、運動はエネルギー源の分解も促進する。
ヒトの交感神経活動の活性は夕方にピークとなり、これにより血流量も夕方に増え、体温も夕方に1日のピークを迎える。これらのことからヒトの心血管機能や骨格筋が最も活性化するのも夕方である。
アスリートのパフォーマンスを朝と夕方で比較したところ、夕方でパフォーマンスが高かったというデータがある。オリンピックでも決勝など重要な試合は夕方や夜に行われることが多い。これもアスリートのパフォーマンスを最大限引き出す狙いがあると言われている。

朝の運動は骨格筋のグルコース濃度やグリコーゲン濃度を低下させる

夕方は運動に適した時間と考えられる。ヒトでは、夕方は運動中にも関わらずエネルギーを節約できるシステムが働く。逆に、朝の運動はより多くのエネルギーを消費するシステムになっていると考えられる。
そこで、骨格筋の代謝機能に対する運動の時間の影響を検討した。野生型マウスをヒトでいう早朝に運動させる群もしくは夜の時間に運動させる群に分け、骨格筋のグルコース濃度やグリコーゲン濃度を比較した。骨格筋のグルコース濃度やグリコーゲン濃度は早朝に運動させたマウスのみ減少し、夜に運動させたマウスでは変化しなかった。血糖値は有意差を認めなかったものの、早朝に運動させたマウスで血糖値が低下する傾向があった。
骨格筋のトランスクリプトームや代謝産物の解析を行ったところ、早朝に運動させたマウスでは解糖系に関わる代謝産物が減少していた。脂肪酸を骨格筋が取り込むためにはアシル化される必要がある。脂質でもとくにアシル化された遊離脂肪酸が早朝に運動させたマウスで増加していた。これらの結果から早朝の運動で骨格筋は脂質代謝を積極的に行っていると示唆される。
アミノ酸も重要なエネルギーの1つである。アミノ酸のうちバリン、ロイシン、イソロイシンといった分岐鎖アミノ酸(BCAA)は早朝に運動させたマウスの骨格筋で増加していた。この結果から、早朝の運動によって、たんぱく質の分解が誘導されていると考えられる。運動時のエネルギー源となるケトン体の合成も早朝に運動させたマウスで亢進していた。

時計遺伝子欠損マウスでは時間特異的な運動パフォーマンスの変化が生じない

イスラエルでも同様の研究が行われており、夕方から夜にかけて運動させたマウスでは持久性運動機能が高く、血糖値も高いレベルを維持できることが示されている。つまり、ヒトでも夕方に運動したほうがエネルギーをより浪費しにくいシステムになっていることが考えられる。
この研究ではPer1、Per2という時計機能因子を欠損させたマウスを使って同様の実験を行い、時計機能欠損マウスではこのような時間特異的な運動パフォーマンスの変化を認めないことも明らかになっている。この結果から、何らかの時計機能因子がこのような運動の時間特異性を決定している可能性が示唆される。

時間特異的な変化は組織特異性があり、臓器間のコミュニケーションにも影響する

朝に運動すると骨格筋の代謝に対する影響が大きいことが分かった。一方、骨格筋以外の代謝については、夕方に運動させた方がエネルギーの消費が多いことも分かった。時間特異的な運動効果は骨格筋と骨格筋以外の組織で異なっており、組織特異性があると考えられる。
骨格筋は運動時に重要な臓器である。運動時に骨格筋はさまざまな組織とコミュニケーションをとり、エネルギーを獲得している。例えば、骨格筋がエネルギーを多量に消費する際には、肝臓が多くのエネルギーを供給している。
そこで、時間特異的な運動効果が各組織によってどのように変わっているか検討した。骨格筋では早朝の運動で多くの代謝産物が変動するが、肝臓では早朝の運動だけでなく夜の運動でも多くの代謝産物が変動していた。精巣周囲と腎周囲では同じ皮下脂肪組織であっても、運動の時間に対するレスポンスが異なっていた。
代謝産物の変化から代謝経路の時間特異的な運動効果による変化を臓器ごとに解析した。解糖系に関わる代謝経路は運動の時間や組織に依存的なレスポンスを示した。グルコース濃度は骨格筋で早朝の運動により減少したが、同様の傾向が肝臓でも認められた。一方で、グリコーゲン濃度については、肝臓では夜の運動でのみ減少していた。
肝臓は食事由来のグリコーゲンを大量に貯蔵している。夜の夕食後は肝臓にグリコーゲンが豊富にあり、運動させるとそのグリコーゲンが選択的に使われ、分解される。肝臓にグリコーゲンが少ない朝に運動すると、肝臓からグルコースとして骨格筋にエネルギーを供給していると示唆される。
さらに組織間のコミュニケーションについて時間特異的な運動効果の解析をした。早朝の運動では骨格筋と肝臓のコミュニケーションが活性化しているが、夜の運動では骨格筋と肝臓の顕著なコミュニケーションは見られなかった。この結果からも運動の時間によって組織間の相互作用が異なると考えられる。
各臓器に入る動脈血と各臓器から出る静脈血の代謝産物を測定し、代謝産物の消費や臓器からの分泌を解析した。その結果、肝臓に入っていく代謝産物と肝臓から出ていく代謝産物、骨格筋から出ていく代謝産物と骨格筋に入っていく代謝産物は運動の時間によって大きく変化することが分かった。

おわりに

時間特異的な運動効果は臓器によってそのレスポンスが異なる。骨格筋と肝臓のコミュニケーションも運動の時間によって変化する。食事後に運動すると、骨格筋は肝臓のグリコーゲンを積極的に利用する。空腹時に運動すると、血糖値上昇を誘導したり、脂肪分解を積極的に行ったりすることによって、骨格筋のエネルギー源を確保することが分かった。これらの結果から、肥満解消、筋肉合成などを効率的に行うためには運動の時間も重要と考えられる。

 

1日におけるタンパク質の摂取配分と骨格筋機能の関係

青山晋也 長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科

たんぱく質摂取の至適時間は明らかになっていなかった

筋肉を合成するためにたんぱく質の摂取が必要であることはよく知られている。しかし、筋肉の合成に至適なたんぱく質の摂取時間については議論が続いていた。
以前は成長ホルモンの分泌は夜間に高まるため、その時に血中のアミノ酸濃度を高めておく観点から、夜のたんぱく質摂取が効率的といわれていた。この点を解明するため、ヒトで3食のたんぱく質の摂取パターンと筋肉量との関連、サーカディアンリズムの関与を検討することにした。

世界各国で朝食のたんぱく質摂取は少ない傾向がある

まず、食事調査の結果などから日本人の朝食、昼食、夕食のたんぱく質摂取量を調査した。その結果、どの性別、世代でも朝食のたんぱく質摂取量が少なく、昼食、夕食とたんぱく質摂取量が増えていく傾向が明らかになった。このようにたんぱく質は栄養素の中でも1日の摂取量の偏りがあることが特徴である。
これは日本だけではなく、アメリカでも幅広い年齢層で、朝食でたんぱく質摂取量が少なく、夕食にかけてたんぱく質摂取量が増えていくことが知られている。韓国やヨーロッパの国でもこのような傾向は見られる。一般に栄養を管理する際には、1日の摂取量を目安とする。たんぱく質のように1日の摂取量が朝と夕方で大きく違うという状況を考慮した管理ほとんどされていない。

朝のたんぱく質摂取が多いと筋肉の合成が高くなる

アメリカでは健康な人を対象に、朝食、昼食、夕食それぞれ30gずつ均等にたんぱく質を摂取する群と、夕食にたんぱく質を多く摂取するが朝食と昼食のたんぱく質摂取は少なくする群に分け、筋肉の合成が検討されている。その結果、介入1日後、1週間後ともに均等にたんぱく質を摂取した群で筋肉の合成が高く維持されることが示された。
たんぱく質の1日の摂取量は変わらなくても、たんぱく質の摂取方法で反応が変わる。筋肉を効率的に合成するためにはたんぱく質の摂取パターンを考える必要がある。

ラットではたんぱく質の均等な摂取で筋肉量が増加した

ラットに7時、13時、18時の3回、それぞれ4g、4g、6gの食餌を与え、3回の食餌のたんぱく質摂取を均等にした群と、7時と13時の食餌のたんぱく質は少なく、18時の食餌でたんぱく質を増やした群に分け、11週間後の筋肉量を比較した。その結果、たんぱく質を均等に摂取した群では腓腹筋やヒラメ筋が増加することが明らかになった。この結果から、たんぱく質の均等な摂取は、筋肉の合成だけでなく、筋肉量の増加も促進すると示唆される。
ただし、この実験ではたんぱく質を多く摂取するタイミングがラットにとって活動期であるのか、非活動期であるのか明らかになっていない。しかし、少なくとも1日の中で均等に食べたほうがいいということが示された。

ヒトでも朝食と昼食のたんぱく質不足を補うことで筋肉が増加した

ヒトでも同様の研究が行われている。ヒトは朝食と昼食にたんぱく質摂取量が少ないことが明らかになっている。そこで、健康な高齢者を対象に朝食と昼食にたんぱく質を付加した群と付加しない群に分け、24週間介入した。その結果、四肢の除脂肪重量はたんぱく質付加群で約1%増加した。
サルコペニアでは1年間に数%の筋肉が減少するといわれている。サルコペニアによる筋肉減少率を考えると、24週間の朝食および昼食のたんぱく質付加による1%の筋肉増加はそれなりの効果があると考えられる。

筋肉合成促進に対する朝食のたんぱく質摂取の有用性を検討

筋合成を促進するためには、一定のレベルにたんぱく質を保つ必要がある。3食の食事でたんぱく質をそのレベルに到達させることが重要である。一般に朝食、昼食のたんぱく質摂取量ではこのレベルに到達していない。一方、夕食のたんぱく質摂取量はこのレベルを大幅に超過している。つまり、夕食のたんぱく質摂取は過剰になっている。その過剰分を朝食や昼食で摂取することで、効率的にたんぱく質を利用できる。
ペプチドやアミノ酸の吸収に関わる輸送体トランスポーターにはサーカディアンリズムがあり、筋肉の分解や保護性に関わる遺伝子にもサーカディアンリズムがある。骨格筋の体内時計が血中のアミノ酸代謝を調節することも分かっている。
このため、筋合成を高めるたんぱく質のレベルは1日中一定ではなく、朝や昼に高くなる可能性がある。たんぱく質は1日を通して過不足をなく摂取することが望ましいことが明らかになっているが、この観点からはとくに朝食のタイミングでたんぱく質を多く摂取することが重要である可能性がある。そこで、朝食のたんぱく質摂取による筋肉への影響を検討した。

朝にたんぱく質を多く摂取したマウスでは筋肥大率が増加した

マウスを1日2回食で飼育し、活動期の開始時を朝食として、活動期の後半を夕食とし、それぞれ2gずつ給餌した。たんぱく質は朝食に多く摂取する群、均等に摂取する群、夕食に多く摂取する群に分けた。これを2週間継続し、ヒラメ筋と腓腹筋のアキレス腱を切除して足底筋に負荷をかけ、足底筋の肥大量、肥大率を評価した。その結果、どの群でも足底筋の肥大量は増加するが、肥大率は朝食にたんぱく質を多く摂取している群で大きく、均等に摂取する群、夕食に多く摂取する群と下がっていた。
つまり、朝はたんぱく質が筋肥大を起こすためによいタイミングと考えられる。さらに1日のたんぱく質摂取総量が少なくても、朝食にたんぱく質を多く摂取しているマウスでは足底筋の肥大率が高くなっていた。たんぱく質は1日の摂取量も重要であるが、タイミングも無視できないことを示唆している。なお、活動量には群間に差はみられなかった。

朝に高BCAA食を摂取したマウスは筋肥大率が増加した

次に筋肉の合成に対する分岐鎖アミノ酸(BCAA)の関与を検討した。朝に高BCAA食を摂取するマウスと、夕方に高BCAA食を摂取するマウスで比較したところ、朝に高BCAA食を摂取した群では夕方に摂取した群より筋肥大率が大きかった。
BCAA以外のアミノ酸についても同様の実験を行ったが、筋肥大量は増えるが、タイミングの効果は消失した。この結果から、朝にたんぱく質を摂取して筋肥大を促進するメカニズムに、BCAAが関わっている可能性がある。

時計遺伝子欠損マウスではたんぱく質摂取のタイミングによる筋肥大の違いは見られない

さらに体内時計やサーカディアンリズムに着目して研究を進めることとし、時計遺伝子の1つであるClock遺伝子が変異したClock mutantマウスを用いた実験を行った、このマウスは野生型で見られるPer2やPer1の発現率が低下している。
野生型マウスでは朝食にたんぱく質を多く摂取した群で夕方にたんぱく質を多く摂取した群に比べ筋肥大率が高いが、このような効果がClock mutantマウスでは見られなかった。ただし、マウスの活動量は朝に高いため、筋肉が肥大した可能性もある。
そこで、筋特異的なBmal1欠損マウスを用いて、たんぱく質摂取の時間による筋肥大率の変化に対する活動量の影響を検討した。全身のBmal1ノックアウトマウスは行動リズムにも乱れが見られるが、筋特異的なBmal1ノックアウトマウスでは行動リズムは正常だが、筋肉内の時計のシステムのみ影響される。
筋特異的Bmal1ノックアウトマウスでは、野生型マウスで見られた朝食にたんぱく質を多く摂取することによる筋肥大効果がキャンセルされた。筋特異的Bmal1ノックアウトマウスの行動パターンは、野生型マウスと全く同じ行動パターンを示した。つまり、活動パターンが変わらないにも関わらず、たんぱく質の摂取タイミングによる効果に影響が出ることから、筋肉の何らかの
システムがこの筋肥大のタイミングと効果に関わっていると考えられる。
野生型マウスでは活動期初期、ヒトでいう朝にたんぱく質を摂ると筋肥大の促進が見られる。これが筋肉の時計機能が破綻しているマウスではこのような効果が見られないことから、朝のたんぱく質摂取による筋肥大促進効果には筋肉のサーカディアンリズムが関与している可能性がある。

朝のたんぱく質摂取でIGF-1、Myf、Myogeninの発現が変化する

次に、血中や筋中に存在する遊離アミノ酸の日内変動を朝にたんぱく質を多く摂取した群と夕方にたんぱく質を多く摂取した群で比較した。朝にたんぱく質を多く摂取した群ではロイシンやイソロイシンが上昇し、夕食にたんぱく質を多く摂取した群ではロイシンが上昇していた。しかし、血中や筋中のBCAAにはたんぱく質摂取時間によるパターンの差は見られなかった。この結果から、BCAAはアミノ酸の吸収や骨格筋の取り込みには関わっていないと考えられた。
そこで、遺伝子やたんぱく質の機能について検討した。その結果、インスリン様成長因子1(IGF-1)の発現パターンおよび筋分解に関わるMyf5やMyogeninの発現パターンに差が見られた。IGF-1の筋中での発現量が朝にたんぱく質を多く摂取している群では上昇するが、夜にたんぱく質を多く摂取している群では見られなかった。このようなリズムはMyf5や Myogeninでも同様に見られた。朝のたんぱく質摂取による筋肥大促進には筋合成や筋分解に関与する遺伝子発現が関連している可能性がある。

朝のたんぱく質摂取による筋肥大効果にはオートファジーも関連する

朝にたんぱく質を多く摂取している群ではオートファジーのマーカーの1つであるLC3-Ⅱのレベルが高く維持されていた。一方、夜にたんぱく質を多く摂取している群では、活動期になるとLC3-Ⅱのレベルが下がってくる。つまり、たんぱく質の摂取時間によって、活動期後半のオートファジーの活性に違いが出てくる。
オートファジーの阻害剤によってオートファジーの活性を阻害し、朝にたんぱく質を多く摂取した効果がキャンセルされるか検討した。正常群では朝にたんぱく質を多く摂取すると筋肥大の増加が見られるが、オートファジーを阻害したマウスではその効果が減弱された。一方、夜にたんぱく質を多く摂取している群では、オートファジー阻害による筋肥大効果に差はなかった。オートファジー阻害により、朝のたんぱく質摂取による筋肉への影響がキャンセルされることから、このメカニズムに何らかのオートファジーの関与があると考えられる。
朝、活動期はじめにたんぱく質を摂取すると、筋肉の体内時計が関わって筋肥大を促進させており、これにはオートファジーが関わっている。この筋肉の体内時計とオートファジーの関連については、どちらが上流に位置するのか、それとも全く別のメカニズムで働いているのか明らかになっていない現状である。

ヒトでも朝食のたんぱく質摂取が多いと骨格筋指数が高い

65歳~83歳の健康な高齢女性を対象にして、食事調査から朝食と夕食のたんぱく質の摂取量を比べ、朝食のたんぱく質摂取が多い人と夕食のたんぱく質摂取量が多い人で筋量、握力を比較した。1日のたんぱく質摂取量は両群に差がなかった。
朝食にたんぱく質摂取が多い人では筋量の増加傾向が見られ、夕食にたんぱく質を多く摂取する人に比べ骨格筋指数と握力が高かった。1日のたんぱく質摂取量のうち朝食に摂取したたんぱく質の割合と骨格筋指数には正の相関が見られた。ヒトでも朝のたんぱく質摂取は、筋肉の合成を促進する可能性があることが示された。
また、朝食のたんぱく質の摂取量が少ない65歳以上の高齢者を対象に3か月間朝食にたんぱく質を10g付加する群と、夕食にたんぱく質を10g付加する群に分け、骨格筋指数を比較したところ、朝食たんぱく質付加群は夕食たんぱく質付加群に比べて、骨格筋指数が高くなることが分かった。

朝食のたんぱく質の質が高くなると握力低下リスクが下がる

マウスでは活動期初期にたんぱく質を多く摂取し、非活動期前にはたんぱく質を少なく摂取するサイクルを続けることによって、筋肉の時計機能が関係して骨格筋が肥大していくことが分かった。
近年はヒトを対象にした観察研究、縦断研究、介入研究でも朝食のたんぱく質摂取がさまざまな機能に関わっていることが報告されている。例えば、観察研究で朝食にたんぱく質を多くとる食事パターンの人では筋肉が多く、握力も高いことが示されている。
朝食のたんぱく質の質も運動機能や握力低下に関係することが報告されている。健康な高齢者を対象に、朝食をたんぱく質消化性補正アミノ酸スコアで評価したたんぱく質の質により低指標、中指標、高指標の3群に分け、握力低下リスクを比較したところ、高指標群では握力低下リスクが低くなることが明らかになった。一方、昼食や夕食ではたんぱく質の質による違いはなかった。朝食のたんぱく質の質も筋力に重要であると考えられる。

おわりに

たんぱく質の摂取は、朝食に少なく夕食に多い状況がある。動物実験だけでなく、ヒトを対象にした観察研究や介入研究でも朝食のたんぱく質不足が筋機能低下に影響することが明らかになっている。朝食へのたんぱく質補充は、筋機能を高めることも分かっており、そのメカニズムとしてBCAAの関与とサーカディアンリズムが考えられ。たんぱく質は1日の総摂取量も重要であるが、3食の摂取配分も重要である。

 

Part2へ続く
日常生活の不規則さと心身の健康/吉﨑貴大(東洋大学 食環境科学部)・東郷史治(東京大学大学院 教育学研究科
へルシー&サステナブルな食と時間栄養学/永井成美(兵庫県立大学 環境人間学部

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