「長生き歩きと腸活の効果について―中之条研究25年の成果―」
第30回腸内細菌学会学術集会 開催市民公開講座「腸内細菌と運動」
| 栄養ニューズ PEN 2026年8月1日号 |
演者:青栁幸利(東京都健康長寿医療センター研究所)
座長:髙橋恭子(日本大学 生物資源科学部 応用生物科学科 分子免疫生物学研究室 教授)
要約:現在、増加の一途をたどる医療費に対し、予防医学の浸透はまだ十分ではない。東京都健康長寿医療センター研究所の青栁幸利先生は、2人に1人が罹患し「病気の入り口」と呼ばれる高血圧、日本人の死因第一位のがんの中でも罹患数が増加している大腸がんにつながる便秘、高齢者に多くみられるフレイルを例に、その予防法として、先生ご自身が25年にわたって継続されてきた疫学調査である「中之条研究」の知見を基に、「運動」と「乳酸菌摂取」の2つの観点からの効果的な予防アプローチを紹介した。
中之条研究の概要
私が25年前から群馬県中之条町で開始した「中之条研究」は、元々の目的を「どの程度体を動かせば一生涯病気にならずに長生きできるか」の解明としています。本日はまず、この研究の成果からご紹介します。群馬県中之条町は四万(しま)温泉の所在地として知られています。中之条町の四万温泉は「四万の病に効く」と言われるほど効能が豊かであることからその名がつきました。隣町が有名な草津温泉のある草津町で、中之条町は私の生まれ故郷であり、この研究の舞台です。研究をどこで実施すべきか検討した際、生まれ故郷でお願いするのが最善であると考え、町長室を訪ねました。当時、たまたま小渕恵三元首相のお兄様が町長を務めておられ、私の実家のすぐ隣にお住まいでした。また、私の妹と町長のお嬢さんが同級生であったり、保健センターの職員に先輩や後輩がいたりと、様々な地元の繋がりがあったため、最初は周囲も半ば義務感から引き受けてくれたのかもしれませんが、その取り組みが、結果的に25年間も続くことになりました。これは私自身の実力ではなく、たまたま運や偶然が重なったおかげであると感じております。
この研究では25年前、高齢者の皆さんを対象に、当時1台3万円もする高価な活動量計を配布しました。製造は名古屋にある医薬品卸大手のスズケンさんです。高額の理由はプログラムを私たちの研究用に改変してもらったためですが、現在では1万円程度で購入できるようになりました。それでもまだ高価ではありますが。当時、この機器を数千台用意し、中之条町の住民の皆様に、入浴時以外は24時間常に装着し続ける生活を25年間継続していただいています。「どのような生活を送れば、どのような病気を予防でき、寿命を延ばすことができるか」を検証する、非常に泥臭く地味で、時間と費用がかかる研究です。住民の皆様に毎年受けていただく健康診断には遺伝子検査なども含まれています。本研究の最大の特長は、「一般住民を対象にしている点」です。従来の乳酸菌摂取に関する研究は、臨床研究や動物実験が主流でしたが、一般の方が一般の市販商品を10年、20年と長期にわたって摂取し続けた際の効果を追跡している点が、本研究の真骨頂です。
このデータ回収では、1つの会場に400〜500人が集まります。現在は「健康づくりサロン」という名称の拠点が町内に30箇所以上展開されていてデータを収集しています。25年前は赤外線通信から始まり、その後USBケーブル接続へと移行しました。現在は無線LANなども利用可能ですが、測定バイアス(誤差)を排除して常に同じ条件で測定するため、現在も当時と同じ機械と有線接続を使用しています。パソコンを4台、5台、6台と並べ、私たちも含め保健師の皆さんが、1か月分のデータをまとめて回収しています。このような「健康ステーション」の拠点は、現在、全国で数千箇所に広がっています。例えば、神奈川県横浜市でも30万人が参加する事業を私が監修させていただいており、横浜市内だけでも千数百箇所の健康ステーションが設置されています。しかし、時代の変化とともに活動量計を取り巻く環境も変わり、かつては大手メーカーをはじめ、多くの医療機器メーカーが製造していたのですが、現在はスマートフォンの普及にとって代わられ、専用の活動量計を使い続けているのは、私くらいかもしれません。本日もポケットに機器を忍ばせて持ち歩きながら、自身の健康づくりを実践しています。
「運動強度」の違いと「活性酸素」発生のデメリット
活動量計から得られた24時間の生活スタイルのデータをグラフとして視覚化しました。私たちの研究独自の作図です(図1)。

横軸は時間を示し、夜中の12時から24時間の経過を表します。縦軸は運動強度を示し、代謝量、つまりエネルギー消費量を表します。グラフの山が高いほど運動強度が高く、酸素摂取量やエネルギー消費量が多いことを意味します。現在、私の話を座って聴いていらっしゃる皆さんの状態は「安静時代謝」に相当し、1分間に体重1kgあたり3.5mlの酸素を消費していて、これを「Metabolic equivalents」の略称で「1METs(メッツ)」と呼びます。「寝返り」はその1.5倍のエネルギーを消費します。また、グラフの夜2時過ぎに表示された高さ2倍の山は、夜間にトイレに起きて歩いている動きを示しています。一般的に、「歩行」は安静時の2倍以上の運動強度です。さらに、3倍から6倍の運動強度が、いわゆる「適度な運動(中強度運動)」と呼ばれ、6倍以上は「強すぎる運動(高強度運動)」に分類されます。低強度の軽い運動は、例えば「歌を歌いながらできるレベルの活動」で、このレベルでは運動としての効果はあまり期待できません。逆に、エネルギー消費が6倍以上の高強度運動では、体内に多くの「活性酸素」が発生します。体内の疲労物質を「乳酸」と記憶されている方が多いと思います。実は私も最近までそうでしたが、近年の研究により、実際の疲労物質は乳酸ではなく活性酸素であることが明らかになりました。
活性酸素は、私たちが酸素を消費するプロセスで約2〜3%の割合で生成されます。この活性酸素には細菌やウイルスを退治する免疫機能としての働きがある一方、デメリットとしては正常な細胞や遺伝子にもダメージを与え、遺伝子の点変異などを引き起こします。私たちの体内で起きた遺伝子へのダメージが修復されずに残ると、がんの発症や重度の糖尿病、その他様々な不具合の原因となります。したがって、弱すぎる運動は効果が期待できず、会話ができないほど息が上がる強すぎる運動は体に悪影響を及ぼします。重要なのは、歌は歌えないものの、なんとか会話が続けられる程度の強度です。これはすべての人に共通する感覚的な指標です。
適度な運動強度が生み出す健康効果を明らかにした中之条研究
本研究によって明らかになったのは、この「適切な強度」の運動が、1日のうちに何分間あればどのような病気を予防できるか、です。弱すぎず強すぎない、いわゆる「腹八分目」の適度な運動が、私たち人間が持つ「長寿遺伝子(サーチュイン遺伝子)」を活性化し、発現量を増加させることが分かっています。ヒトで確認されている1から7までのサーチュイン遺伝子を活性化させるのが、まさに中強度の運動です。中強度の運動を行うと、日中に細胞が受けたダメージが、夜間の睡眠中に効率よく修復されます。「運動は夜に質の高い睡眠をとるために行うものである」と言っても過言ではありません。大リーグの大谷翔平選手は睡眠時間を非常に重視されているそうですが、その活躍を見れば健康維持において睡眠がどれほど重要であるかは明白です。体が健康であるためにはよく眠ることが不可欠であり、そのためのサプリメント摂取や運動は極めて重要であると考えています。
これらの知見をまとめ、人間の24時間365日の生活をマッピングしてグラフにまとめました(図2)。

横軸は1日の「歩数」を示し、その歩数の中に先ほどの「適度な活動(中強度運動)」が何分間含まれているかを示します。中之条研究における最大の成果は、この人間の行動法則を明らかにした点にあると考えています。人間の24時間365日の行動には明確な法則があり、私たちは無意識のうちにその法則に基づいて一生涯の生活を送っていることが分かったのです。。
1日の歩数による健康分類の驚きの結果
住民の皆さんは必ず、2,000歩刻みで分けられた5つのグループのいずれかに属して生活しています。最も活動的な「1日10,000歩・中強度運動30分」、次いで「8,000歩・20分」、「6,000歩・10分」、「4,000歩・5分」、「2,000歩以下」の順に分けられます。興味深いことに、最上位の「10,000歩」グループと2位の「8,000歩」の比較では、病気の発症率や寿命において統計的な有意差は見られませんでした。しかし、活動量が「8,000歩」から「6,000歩」に低下すると状況が変わります。年齢、性別、喫煙の有無などの影響を統計的に調整し、「運動量の違いだけで病気の発症を説明できるか」という視点で分析した結果、高血圧や糖尿病などの代表的な生活習慣病の発症率は、6,000歩グループで8,000歩グループに比べて2〜3倍となります。さらに活動量が下がり、「4,000歩・5分」レベルは「閉じこもり(ほとんど外出しない生活)」の境界線に該当します。この段階では発症リスクは3〜5倍へと急増します。最も活動量が低い「2,000歩以下」のグループは、自宅内でのトイレや入浴など、身の回りの最小限の動作しか行わない完全な閉じこもり状態の方々ですが、病気の発症率は5倍以上となります。年齢や性別の調整を行わない単純比較では、10倍以上という結果も出ています。データに基づく分析から、病気の原因の約6割は「閉じこもり」で説明がつき、そのうちの4割は「2,000歩以下」の極端な閉じこもりに起因しています。したがって、健康づくりの第一歩は、単に歩数を増やすことだけでなく、「まず閉じこもらないこと」が最も重要です。例えば奈良県全域では、この知見を取り入れて「おでかけ健康法」という名称で健康増進事業を展開しています。
活動量の低下を具体的な病名に当てはめる
40歳を過ぎると多くの方で活動量が低下し始めます。40代で多くの人が「10,000歩・30分」の基準を割り込み、メタボのリスクが広がり始めます(図3)。

さらに年齢を重ねて活動量が「8,000歩・20分」を下回ると、糖尿病や高血圧などを発症し、服薬が必要なリスクが高まります。それをそのまま放置して「7,000歩」未満になると、動脈硬化が顕著に進行します。動脈硬化は非常に厄介な病態で、脳の血管が詰まれば脳梗塞、心臓の血管が詰まれば心筋梗塞となり、結果として寝たきり状態に繋がります。なお、グラフの原点である「歩数0・運動0」の組み合わせは、最終的に「死亡」を意味します。このように、年齢とともに活動量が低下するにつれて、初期の軽症疾患から、血管の閉塞を伴う重篤な疾患へと段階的に進行していくのが、人間の病気発現のメカニズムと言えます。
また、「1日5,000歩・中強度運動7.5分」を下回ると、認知症の発症リスクが高まります。活動量低下により脳の血管が詰まれば「血管性認知症」が発症し、一方で、自宅に閉じこもって鬱々として、睡眠障害を併発すれば、別のメカニズムで「アルツハイマー型認知症」が進行します。質の高い睡眠がとれないと、日中に活性酸素で傷ついた細胞や筋肉が修復されないだけでなく、脳内に蓄積したアミロイドβ(ベータ)やタウタンパクなどの老廃物が適切にクリーニングされずに溜り、これらが脳細胞を破壊・死滅させるのです。アミロイドβの蓄積は40代から始まり、約30年が経過した70歳頃に認知症として発症することが分かっています。したがって、血管性認知症とアルツハイマー型認知症の両方の予防には、「1日5,000歩・中強度運動7.5分」を維持し、閉じこもらずに毎日1〜2回は外出することが推奨されます。外出して太陽の光を浴びることは、骨を丈夫にするだけでなく、認知症を遠ざけることにも繋がります。
歩数による病気の予防効果(図4)

具体的には、1日「12,000歩・中強度運動40分」で肥満予防、「10,000歩・30分」でメタボ予防が期待できます。さらに、高血糖や高血圧の一歩手前の状態を予防するには「9,000歩・25分」が必要であり、「8,000歩・20分」を超えれば、大半の主要な病気予防の可能性が高まります。また、「7,000歩」以上を維持すれば、大腸がん(結腸がん・直腸がん)や肺がんのほか、女性に特有の乳がん、子宮内膜がん、子宮体がんの予防に繋がります。さらに、私たちの研究ではなく国際的なガイドラインに近年追加された知見ですが、運動による「膵臓がん」と「肝臓がん」の予防効果が明らかになりました。特に膵臓がんは早期発見が非常に困難なため、運動によってその発現リスクを大幅に低減できる点は非常に有意義です。そして、「5,000歩・7.5分」や「4,000歩」のラインを維持して閉じこもりを防ぐことで、うつ病、要支援・要介護状態、術後認知症などの、QOLを著しく損ない、かつ最も医療費を要する疾患群を予防できる確率が非常に高くなります。以前、本研究がNHKスペシャルで取り上げられた際にも、「5,000歩を超えると認知症が予防できる」という点が大きく紹介されました。実際、中之条町は現在、群馬県内の自治体の中で医療費の低さが第2位、がんによる死亡率の低さも全国の自治体で第2位となっており、認知症の有病率も極めて低い水準にあります。こうした実績は、25年間継続してきた研究成果が地域の健康増進として具体的に現れた証拠であると考えております。なお、「1日8,000歩・中強度運動20分」を超える運動を行っても健康増進効果は概ね頭打ちになることが示されています。
医療費のデータが示す効果
次に医療費に関するデータについて、40代の若い世代と70代の高齢世代の国民健康保険の医療費を比較しました。本研究では、活動量計を装着して健康増進事業に参加した住民と、不参加の住民の全データを分析しました。これは学術論文にするほどの厳密なデータ管理ではなく、行政的な施策のインパクトを検証するシミュレーションを意図したものです。その結果、40代のメタボ世代でも活動量を維持している人は、不参加の人に比べて月額約10,000円の医療費抑制効果が見られました。医療費は自治体が約9割を負担しているため、個人負担の実感は湧きにくいかもしれませんが、自治体の財政は非常に逼迫しており、医療費の削減は、ご自身の健康のためだけでなく、お住まいの自治体や組織の財政を助け、巡り巡って自分自身に住民サービスとして還元されることに繋がります。70代でも一律で月額約10,000円の差が生じており、最新の比較分析では、高齢世代において最大で年額20万円もの医療費の差が確認された事例もありました。
われわれの研究で非常にインパクトファクターの高い学術誌に掲載された論文中のシミュレーションでは、住民の5%が意識を変えて、現在より「1日2,000歩」多く歩くように行動変容した場合、全体の95%の人がこれまでと全く行動を変えなくても、地域全体の医療費を人口で割った金額換算で、1人あたり年間12,600円の削減効果が生まれます(図5)。

これは、全員がやや高価な活動量計を1台購入してもお釣りが来るほどの医療費抑制効果です。もちろん、必要な治療には適切に費用を投じるべきですが、糖尿病や高血圧といった生活習慣病は、自分自身が歩くことによって予防や改善が十分に可能です。このような取り組みが全国に普及することを切に願っています。
乳酸菌シロタ株継続摂取の効果
続いて、本集会は腸内細菌学会ですので、「乳酸菌シロタ株」に特化した研究成果について発表いたします。具体的には、高齢者において特に重要な課題である「高血圧」、「便秘」、臨死期に大きな問題となる「フレイル(虚弱)」の3つのテーマについて、論文化された知見をご紹介します。
ヤクルト中央研究所がこれまでに蓄積してきた研究成果の素晴らしさには、私も本当に驚かされました。私が所属する東京都健康長寿医療センター研究所も一定の学術業績を上げていますが、ヤクルト中央研究所の先進的な成果を見ると、私の出る幕などないのでは、と感じるほどです。しかし、「一般の高齢者を対象とした疫学研究」の観点から、私たちの知見を活用できる余地があったため、12年前から共同研究を開始いたしました。
これまでの先行研究において、乳酸菌シロタ株には「腸内環境の改善効果」があることが示されています。私たちの研究で、高齢者の約10人に1人の割合で、腸内細菌叢の善玉菌と悪玉菌の比率などの構成が1年で劇的に変化する現象が確認されています。動物実験レベルでは、腸内細菌叢が激変すると病気を発現しやすくなることが分かっています。一般のヒトにおける動態はまだ十分に解明されておらず、現在も追跡調査を継続中ですが、現時点でも「シロタ株を5年、10年と長期にわたり摂取し続けている人の腸内細菌叢は極めて安定している」とのデータが得られています。また、腸内細菌叢の重要な効果の一つとして「免疫調節作用」が挙げられます。体内の免疫細胞の約70%は腸管内に集中しているため、腸の健康を維持することが病気予防に直結するのは当然のメカニズムです。シロタ株にはこの免疫調節効果、特にがん細胞などを攻撃するNK(ナチュラルキラー)細胞の活性を高める効果があります。NK細胞の活性は例年1月に最も低下します。これは平均気温の低下に伴う体温の低下と相関しています。体温が下がると免疫機能も低下し、病気の罹患リスクが高まります。この最も免疫が低下する1月の時期に、運動やシロタ株摂取を組み合わせて、NK細胞の活性を大幅に向上させられることが判明しています。さらに「感染症の予防効果」についても、いわゆる風邪などの上気道炎を発症しやすい1月の時期に、シロタ株摂取や運動によって免疫機能が維持され、風邪やインフルエンザの発症率低下が実証されています。新型コロナウイルスに対する予防効果については直接的な検証を行っていませんが、理論上、同様の一時的な防御効果は期待できると考えられます。このように優れた知見があるものの、一般住民を対象とした大規模な疫学研究が少なかったため、中之条町での調査を開始いたしました。
「病気の入り口」高血圧に関する研究成果
高血圧は日本人の二人に一人が発症し、その後血管系の病気につながるため、「病気の入り口」とも言われています。高血圧の研究には628名の住民に参加していただき、シロタ株を含む製品の摂取頻度の調査とともに、毎年の疫学検査を通じて参加者の健康状態を詳細に追跡しました。参加者の平均年齢は76.5歳と75歳以上の後期高齢者中心の構成です。
調査では、まず乳酸菌全般の摂取状況を問い、続いてシロタ株を含む製品の摂取頻度を特定しました。近年の「腸活ブーム」の影響でしょうか、中之条町の住民の約3分の2(約66%)が、日常的にヨーグルトなどの乳製品を摂取し、その約半数がシロタ株を含む製品を飲用していました。群馬県内、特に中之条町では、ヤクルトレディによる戸別訪問の配送システムが非常に普及しており、群馬ヤクルトさんの業績は日本一と伺っています。背景として、公共交通機関が不便な群馬県では「商品を自宅まで届けてもらう文化」が地域に深く根付いていて、この定期配送のおかげで、住民の皆さんは「週に何回、1日に何本飲んでいるか」を正確に記憶しており、10年、20年という長期的な摂取状況に関しても非常に精度の高い聞き取り調査が可能でした。
調査では、シロタ株の摂取頻度を「週3日以上」と「週3日未満」の2群に分けて分析し、運動も同様に週3日以上の実施を分岐点としました。世界的な臨床の基準では「週3日」が生活習慣の定着や効果発現の重要な分岐点とされています。解析にあたり、高齢層を中心に一定数の「過去の摂取状況を正確に思い出せない」方や「自身の高血圧の発症時期が定かではない」方が生じました。これは若い世代であっても不可避な事象です。その結果、解析対象者は当初の約半数に絞り込まれ、週3日以上摂取する群と週3日未満の群における、その後の5年間の高血圧発症率を比較しました。
中之条町でも高血圧の発症は全国統計と同様、2人に1人となっていますが、追跡開始時点では対象者全員がまだ高血圧を発症していない状態でした。高齢期における5年間の追跡のため、全体として高血圧の新規発症者は多く見られましたが、シロタ株摂取週3日未満の群では5年間で14%の人が高血圧を発症したのに対し、週3日以上摂取群での発症率はその半分以下に留まり、高血圧症の発症率において両群間に統計的な有意差が認められました(図6)。

ただし、週3日以上摂取群は、元々の平均年齢が若い、女性の割合が高い、BMI(体格指数)が低い、あるいは喫煙や飲酒の習慣がないなど、健康意識の高い人が集中している可能性があります。そこで「交絡因子」と呼ばれるこれらの要因の影響をすべて、統計学的手法を用いて調整し、「本当にシロタ株の摂取自体に効果があったのか」を厳密に分析しました。調整後のデータではより明確な差が現れ、シロタ株をあまり飲まない「週3日未満」の群のリスク(危険度)を1とした場合、「週3日以上」摂取している群のリスクは半分以下でした。このデータから、70歳を過ぎてからでも、直近の5年間における日常的なシロタ株摂取習慣の違いが、病気の発症リスクに大きな差をもたらすことが実証されました。 高血圧に関する動物実験はこれまでにも数多く報告されています。また、既存の臨床試験においては、高血圧患者を対象として、1日あたり通常の64本分に濃縮した成分や、4本分の成分を投与することで血圧低下効果が得られたとの報告があります。しかし、今回の私たちの研究の意義は、「毎日1本ずつ、通常の生活の中で市販の商品を長期間、摂取し続けている一般住民」を対象として効果を実証した点にあります。すなわち、「少量を長期間にわたって継続すること」が、高血圧予防に有効であるとの結論が導き出されたのです。
大腸がんリスクを高める「便秘」に関する研究成果
便秘は女性に多いという傾向が知られていますが、60歳を超えると男女間の有病率の差はほとんどなくなります(図7)。

便秘は単にお腹の不快感をもたらすだけでなく、腸内の善玉菌を減少させ、有害な悪玉菌を増殖させます。また、発がん性物質を含む便が長時間腸内に留まり続けることは大腸がんの発症リスクを高めます。日本人の死因第1位のがんの中でも大腸がんは増加しており、女性の死因では1位となっているため、便秘予防は大腸がん予防の重要な第一歩と言えます。便秘と大腸がんの因果関係はすべてのケースで成立するわけではありませんが、大腸がんの主要な発症メカニズムの一つとして考慮すべきで、適切なアプローチが重要となります。便秘の定義は非常に複雑ですが、学術論文を成立させるための便宜的な臨床基準として、今回は「週の排便回数が3回以下」の状態を便秘と定義して解析し、運動習慣との関係、および運動と乳酸菌摂取を組み合わせた効果も検証しました。
調査では、高血圧調査と同様の質問紙を用いて摂取頻度を確認し、活動量計を25年間装着し続けている住民に加え、この調査から新たに参加した方々にも、最低でも活動量計24時間装着を1か月間続けていただきました。収集した日常の具体的な生活習慣データをヤクルト中央研究所に送り、詳細な成分・菌数分析を依頼しました。この分析は数ヶ月を要する大変な作業ですが、毎年お願いし、最終的に338名がデータ解析の対象となりました。今回は高血圧の2区分での解析から一歩進め、乳酸菌飲料の摂取頻度に応じて「ほとんど飲まない」、「ときどき飲む」、「ほぼ毎日飲む」の3グループに分類して比較検討を行いました。
便秘の発生率の比較では、「シロタ株の摂取頻度が高くなるほど、便秘の発生率が低下する」という明確な負の比例関係が確認されました。高血圧と同様、年齢や性別などの交絡因子を統計学的に調整した結果、ほとんど飲まない群の便秘リスクを1とした場合、ときどき飲む群、およびほぼ毎日飲む群のリスクは約3分の1にまで低減していました(図8)。

また、便中から検出される乳酸菌の総数についても、一般的な乳酸菌を含めて解析した結果、乳酸菌全般の菌数も摂取頻度に応じて増加していましたが、特に「シロタ株」の菌数は、摂取頻度が高いグループで非摂取群に比べて7倍と、圧倒的な増加が確認されました。生きたままのシロタ株が確実に腸まで届き、そこで優れた生理作用を発揮して便秘を抑制していることが、このデータからも裏付けられました。
運動(歩数)が便秘に与える影響と乳酸菌摂取との相乗効果
次に住民の皆さんを、日常の運動量(歩数)が多いグループと少ないグループに分けて比較しました。検証した指標は、1日あたりの「平均歩数」および「中強度運動(適度な運動)の時間」の2つです。分析の結果、歩数および運動時間のどちらの指標においても、運動量が多いグループほど、便秘のリスクが有意に低く、3分の1に極めて近い水準まで低下していました(図9)。

さらに重要となる「乳酸菌摂取」と「運動」の2つのアプローチを組み合わせた相乗効果の検証データについて、横軸を「シロタ株の摂取頻度の高さ」、縦軸を「日常の活動量の多さ」としてグラフ化したところ、両方を実践しているグループの領域に進むにつれて、便秘のリスクが段階的に低下していくことが確認されました。結果として、乳酸菌と運動の両方を高水準で実践しているグループは、何も行っていないグループより、便秘のリスクが「9分の1」まで低下していました。運動によってリスクが3分の1になり、シロタ株摂取によって3分の1になり、これらが掛け合わされることで9分の1という極めて高い予防効果が発揮されたと言えます。便秘がこれほど大幅に抑制されるということは、その先に懸念される大腸がんの予防にも強力に寄与している可能性が非常に高いと考えられます。
フレイルとその対策
最後に、「歩行速度」と「フレイル」に関する知見をお話しします。フレイルとは、健康な状態と要支援・要介護状態の中間に位置する「心身の機能が低下した状態」を指します。この虚弱(Frailty)の概念は私たちの研究所が主導して日本語の「フレイル」として定着させ、広く提唱を始めた経緯があり、現在、公的なガイドラインなどにも採用されています。虚弱を表すロコモティブシンドロームやサルコペニア、そして現在のフレイルについて、私は、同様の概念が異なる言葉で表現されていると捉えています。フレイルの状態は非常に長く続く傾向があり、私自身も現在は「プレフレイル(前虚弱)」の段階にあると認識しています。完全にフレイルには陥っていないと思いますが、先日、片足で椅子から立ち上がるテストの際、少しふらつきを覚えました。また、先日孫をおんぶして立ち上がろうとしたところ、スムーズに立ち上がれず、衰えを実感いたしました。そのため、今後は通常のウォーキングだけでなく、筋力トレーニングも取り入れようと考えています。フレイル対策において最も重要なのは、「フレイル状態に陥らないようにすること」、さらに「フレイルになっても元の健康な状態に引き戻せること」、つまり「可逆性・可塑性」であることです。
フレイル診断基準は5つ(体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度の低下、身体活動の低下)で、そのうち3項目以上に該当するとフレイルと診断されます(図10)。

中でも「歩行速度の低下」は極めて重要な指標です。私が研究を開始した今から25年前、すでに私たちの研究所から「歩く速度が速く、足腰が丈夫な人ほど、その後の追跡調査において健康で長生きである」という10年間の疫学データが発表され、ガイドライン化されていました。歩行速度の重要性は、世界中の一流の研究機関からも多数報告されています。当初、私は「歩く速度だけで人間の何が分かるのだろうか」と半信半疑でしたが、実際に調査を進めると、歩行速度が様々な健康リスクを予見する極めて雄弁な指標であることが分かってきました。具体的には、「1秒間に1m」の速度で歩けなくなると、フレイルの疑いが極めて濃厚となります。この「毎秒1m」という基準は、MCI(軽度認知障害)や初期認知症を判定するスクリーニング検査でも重要な指標となっています。さらに、皆様が普段、恐らく無意識に利用されている、横断歩道の青信号の点灯時間は、「歩行者が毎秒1mの速度で進むこと」を前提に設計されているそうです。したがって、歩行速度が毎秒1m未満に低下すると、青信号のうちに横断歩道を渡りきれないという、具体的な社会的・日常的不都合が生じます。このような不都合が生じて外出を躊躇するようになると、自宅に閉じこもってさらに足腰が弱まる悪循環に陥ります。したがって、「1秒間に1m」という速度の維持は極めて重要です。
歩行速度の研究成果―1日平均7000歩の意味
先行研究において、24時間365日の網羅的な活動量データと、一般住民による市販乳酸菌製品の長期摂取習慣の双方を組み合わせて追跡した疫学研究は、ほとんど存在していませんでした。そこで、これらを中之条研究のフィールドで検証しました。以下、①身体活動量(歩数)と歩行速度の関係、②乳酸菌摂取頻度と歩行速度の関係、③両者を組み合わせた相乗(正確には相加)効果、の順にご紹介します。
まず、本解析に参加していただいた65歳以上の男女581名の、「通常歩行速度(毎秒何m進めるか)」を測定しました。測定方法は国際標準テストに準拠して、全長11mの歩行路を用意し、前後の加速・減速区間各3mを除いた「中央の5mの通過時間」から平均速度を算出します。この国際基準に基づく測定値が、認知症やフレイルのスクリーニングに直結します。
参加者581名の1日あたりの平均歩数は約7,000歩であり、比較的活動的な高齢者が集まったとの印象を持たれるかもしれません。一般に高齢になると歩数が減少すると思われがちですが、実はそうとも言い切れません。以前、0歳から100歳までの住民(解析・論文化した対象者は1,645名)を対象に、体温、活動量、病気の発症リスクの関連を網羅的に分析したことがあります。そのデータによると、全世代で最も活動量が多いのは部活動などがある「10代」、2番目に多いのは、明確な目的がなくても元気に動き回る「10歳未満(私の孫世代)」、商用活動を除けば、3番目に活動量が多い層は、「40代から70~80代までの広範な世代」で、この間の平均活動量はほとんど横ばいでした。つまり高齢だからといって極端に歩数が少ないわけではありません。24時間365日の生活習慣は各々の生活目的(買い物や家事、散歩など)に根差しているため、歩く「速度」自体は加齢とともに遅くなるものの、動いている「量(歩数)」自体を比較すると、70代でも40代でも大きな差はありません。むしろ、現代の日本で最も歩数が少ないのは、子育てと仕事の両立で多忙を極め、「歩く時間的な余裕が全くない」30代の女性層です。さらに群馬県は車社会であるため、近距離でも車に頼る文化が根付いていることも影響します。したがって、今回の平均7,000歩という数値は、元気な人だけを抽出した偏ったデータではなく、地域の一般的な高齢者の実態を正確に反映した数値であると言えます。
解析にあたり、骨粗鬆症の予防やがん予防、動脈硬化の進行抑制の境界線となる「1日7,000歩」を基準とし、7,000歩以上を維持している群と、7,000歩未満の群の2つに分けて歩行速度を比較しました。単位は学術基準に準拠しすべて「m/s(毎秒何メートル)」です。データを見ると、男性が1.29m/s対1.40m/sといった形で、男女ともに「日常の歩数(活動量)が多いグループのほうが、通常歩行速度が有意に速い」という、極めて合理的かつ明確な結果が示されました。 次に、乳酸菌の摂取頻度(週3日以上摂取群と、週3日未満摂取群)と歩行速度の関係を比較しました。結果は運動と同様であり、シロタ株を週3日以上摂取しているグループのほうが、通常歩行速度が有意に速いことが確認され、その差は毎秒6㎝でした(図11)。

乳酸菌の摂取がなぜ歩行速度の維持に寄与するのかのメカニズムは複数が考えられますが、最も有力視されているのは「慢性炎症の抑制作用」です。「慢性炎症」とは細胞が錆びる、あるいは焦げ付くような状態ですが、これこそが老化の根源的なメカニズムであると考えられています。乳酸菌にはこの体内炎症を抑える優れた作用があるため、加齢に伴う筋肉細胞の減少を効果的に「食い止めている」と推測されます。その結果として、乳酸菌を日常的に摂取している人は高い歩行速度を維持でき、フレイルのリスクから遠ざかることができると考えられます。
歩行速度「毎秒6㎝の差」が表すこと
ここで、データとして示された「わずか毎秒6cm」という歩行速度の差が、臨床的にどれほどの意味を持つのかを検証しました。「たった6cmの差」と思われるかもしれませんが、これが数秒、数分と持続すると、移動距離に大きな差が生じます。加齢に伴い、人間の通常歩行速度は統計的に綺麗な右肩下がりの減速傾向を直線で描きます。この経年的な衰えの傾きから、先ほどの「毎秒6cmの差」を具体的な「年齢」に換算してみました。歩行速度の年間減少率を基準にして計算(6cm ÷ 年間減少率0.82cm)すると、この「毎秒6cmの差」は、実質的に「7.3歳分の年齢差」に相当していました(図12)。

シロタ株を週3日以上摂取する群と未満群では、平均年齢に差がないにもかかわらず、歩行速度の観点からは「乳酸菌を摂取している人は、そうでない人に比べて7.3歳若い世代と同等の歩行能力を維持している」と言えます。ちなみに、同様の手法で「運動(1日7,000歩以上)」がもたらす効果を年齢換算すると、こちらは「15年分」の年齢差(若返り効果)として現れました。日常的にしっかりと歩いている人が、歩いていない人に比べて歩行速度が速いのは、15年分若い肉体を維持している計算からは当然の結果と言えます。すなわち、運動習慣によって15年分、乳酸菌摂取習慣によって7.3年分の優位性が得られ、これらを併せて計算上「最大で22歳分」の歩行能力の若返りが期待できることになります。
これに基づき、「乳酸菌摂取」と「運動」を組み合わせた最終的な相乗(相加)効果の検証データを示します。対象者を、①「飲まない・歩かない(低頻度摂取・低活動群)」、②「飲むが・歩かない」、③「飲まないが・歩く」、④「飲んで・歩く(高頻度摂取・高活動群)」の4つのグループに分類し、歩行速度を比較したところ、歩行速度は①から④にかけて非常に綺麗な右肩上がりの上昇曲線を描きました。最も機能が低い①のグループと比較して、双方を実践している④のグループは明確に高い歩行速度を維持しており、この差が先ほど申し上げた「22歳分の機能差」に相当します。この顕著な相乗(相加)効果は、女性の解析データにおいても全く同様に再現されました。
まとめ
以上の知見をまとめますと、日常生活において「週3日以上のシロタ株飲料摂取」と「1日7,000歩以上のウォーキング」を併せて実践することが、健康長寿およびフレイル予防において極めて高い効果を発揮すると言えます。本日は疾患を絞ってお話ししましたが、おそらく他の多くの生活習慣病や老年病に関しても、これと同様の相乗(相加)的な予防傾向が当てはまると考えられます。すべての細かな病名に対して個別の立証を完了しているわけではありませんが、この包括的なアプローチがすべての病気の予防基盤になることは間違いないと思います。
結論として、私たちの健康を守る最大の秘訣は、「日常的に適度な運動を行い、シロタ株を代表とする乳酸菌製品を継続して摂取すること」に尽きます。本日は腸内細菌学会であり、会場には様々な食品メーカー関係の方々も来られているかと思います。各社がそれぞれ優れた乳酸菌や機能性食品を研究しておられますので、各々の強みを活かした自社製品を広く社会に推奨していただき、国民の健康に寄与していただければ幸いです。
今後の展望と想い、健康管理アプリの開発・導入など
最後に、今後の展望と私自身の想いをお話しします。現在、シロタ株製品の普及に関わる全国約100箇所の販売会社さんなどにお招きいただき、様々な地域で講演を行い、各地への旅を兼ねて楽しく活動を続けています。私がいつも講演の最後に提示するスライドは、いわゆる「ヤクルトレディ」の皆さんが、商品を自宅まで届けて直接手渡してくれる配送システムの社会的意義についてです。私自身も定期購入していますが、製品が届けられる際、配送スタッフの方と交わす数分間の雑談は、私にとっては「よくぞ来てくれた」と嬉しくなる貴重なコミュニケーションの機会であり、そこから地域の様々な情報を得ることも多くあります。
私の提案というか夢ですが、製品を届ける際に、「今週の活動量はいかがでしたか?」と、1週間の生活習慣を一緒に振り返る仕組みの構築です。住民の皆さんが「今週はよく歩いて、しっかり乳酸菌を飲んだから体調が良い」など、日々の行動と健康状態の因果関係を双方向で実感できる対話が、全国の配送の現場で展開されることを願っています。
こうした健康管理の双方向性について各地でお話させていただいたところ、「あるこっと」という大変素晴らしいネーミングの健康管理アプリケーションを開発していただきました。本システムでは活動量計のデータと連動して日々の活動記録を可視化でき、排便回数や睡眠に関するアンケート調査なども、すべて1つのソフトウェア内で完結できる設計です(図13)。

このようなシステムは現在、様々なものが出ていると思いますが、個人ユーザーが単独で利用するよりも、自治体、健康保険組合、あるいは企業など「団体・組織単位」で導入し、集団全体で管理しながら「皆で一緒に健康になろう」と取り組む場面で高い効果を発揮するのではないか、と考えています。予防医学や健康づくりにおいて、個人の意志の力だけで継続できる範囲には限界があります。地域コミュニティや職場の組織全体で健康づくりを共有し、一体となって推進していくことが、最も確実で効果的な予防医学の実践手法ではないでしょうか。こうした優れたソフトウェアやアプリの活用は、姿勢の改善や歩行速度の向上、さらには持病の臨床症状の改善へと繋がっていきます。
最後に、いささか気恥ずかしいのですが、私自身の個人的な体験を共有させていただきます。現在私は63歳ですが、8年前の55歳で母を亡くし、葬儀は故郷の中之条町で行いました。東京に戻る途中で食べた焼肉のせいか、その翌朝8時に受けた健康診断の血液検査の結果が、上から下まで異常値を示す「真っ赤」な状態でした。「これはまずい、死ぬかもしれない」と、55歳にしてウォーキングを開始しました。私は元々喘息を患っており、呼吸器内科で吸入薬の処方も受けていましたが、一向に症状は改善されません。ところが、毎日歩き始めて数年(効果が顕著に出始めたのは数か月)が経過した頃には、血液検査の数値がすべて改善しただけでなく、喘息の症状も治まってしまいました。歴史上の人物である伊能忠敬を引き合いに出すのは恐縮ですが、彼も日本地図の測量を目的として全国を歩き始めたのが55歳で、記録によると慢性的な喘息持ちであったそうですが、全国を歩き回るうちに咳が止まって、もう一つの持病の痔も完治したそうです。ただしその後、伊能忠敬は高い役職に就いて歩かなくなり、測量業務を部下に任せるようになったら喘息が再発してしまったという、皮肉なオチがついています。これは、以前私がNHKの健康番組をお手伝いした際、番組のディレクターの方から教えていただいたお話です。 最後に私が執筆した書籍の宣伝をさせていただきます。『すべての病気が防げる長生き歩き』(エクスナレッジ刊)というタイトルです。昨年(2025年)4月1日に上梓した本書はこれまで数十冊の健康書を執筆してきた中で、本日の講演内容がすべて網羅された自信作です。ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひご一読いただけますと幸いです。本日はご清聴いただき、誠にありがとうございました。

質疑応答
●髙橋(座長):青栁先生、大変貴重なご講演をありがとうございました。ここから質疑応答の時間を設けております。ぜひ挙手をお願いいたします。
ウォーキング以外の運動の有効性は?
●質問者:高齢期における「歩くこと」についてですが、私自身が「腰部脊柱管狭窄症」を抱えていて、5分から10分程度歩くと太ももがパンパンになって激しく痛むため、連続して歩くことができません。しかし、自転車には痛みやしびれを全く感じずに乗ることができます。自転車に乗ることは歩くことの代わりになるのでしょうか。
●青栁:非常に意義がある、重要なご質問をありがとうございます。結論から申し上げますと、私は自転車に乗ることで、全く同様の効果が得られると考えております。運動であれば、ウォーキングでもサイクリングでも、水泳でもご自身の身体状況に合わせて、継続可能な運動を選択することが最善です。実は、私の父も生前、重度の腰部脊柱管狭窄症で手術も受けました。晩年には両膝の関節軟骨が完全に摩耗して歩行不能となりましたが、自転車は大丈夫で、毎日30分ほど乗って、88歳まで元気に過ごしていました。
運動開始から約3分間経過すると、細胞内のエネルギー代謝回路がフル回転し始めます。運動開始後、数分が経過した段階で、「息が切れず(上がり過ぎず)」、「なんとか会話できる程度」の運動強度を維持してペダルを漕いでいただければ、ウォーキングの「中強度の速歩き」と全く同等の効果が得られます。また、少しでも歩行が可能なら、連続して歩く必要はなく、「細切れでも構わない」という点も重要です。私たちの研究で、中強度の活動を連続して30分間行う場合と、1日の中で5分や10分といった複数回の「細切れの運動」を行う場合とで、得られる健康効果が変わらないことが示されています。無理をせず、歩ける時に歩いて適宜休息をとったり、あるいは水泳や自転車を組み合わせたりしても、ウォーキングと同じ健康増進効果が得られる、と考えてください。
運動と乳酸菌摂取の相乗(相加)効果のメカニズム
●髙橋:ありがとうございます。最後に司会の私から1点、教えていただきたいのですが、運動と乳酸菌摂取が合わさることで、なぜ高い効果が生まれるのか、そのメカニズムについて、もう少し詳しくお話しいただけますでしょうか。
●青栁:素晴らしいご質問をありがとうございます。大変重要なメカニズムについて詳細な説明を失念しておりました。まず「便秘の抑制」については、シロタ株などの乳酸菌は摂取によって大腸に届き、それらが腸内細菌叢に直接作用して腸内環境を改善します。一方、日常的な「運動」単独では腸内細菌叢に対する作用は認められませんでしたが、少し前から腹筋などの筋トレによる便秘の抑制効果を認める研究が増えていました。これは運動に伴う腹部の筋肉の収縮や腸管への振動が有効であるため、つまり、運動の物理的振動(機械的刺激)が大腸を外側から刺激し、便を送り出す「腸の蠕動運動」を活性化させると考えられます。2つの全く異なるメカニズムが同時に作用して相乗(相加)効果が表れる例です。
一方で、「高血圧の予防・改善」においては、運動と乳酸菌(シロタ株)の定期的な摂取のどちらも、最終的に「プロスタグランジンI2(PGI2)」という血管拡張物質の産生量を増加させることが分かっています。高血圧に対しては、運動と乳酸菌がそれぞれ独立した回路を経由しつつ、最終的には「血管を拡張させて血圧を下げるという同一の生理学的なメカニズム」に合流します。同じ生理学的メカニズムが刺激し合うことで効果を倍増させているケースと言えるでしょう。
●髙橋:異なるアプローチと共通のアプローチの双方が存在するということですね。どうもありがとうございました。
●青栁:ありがとうございました。