第38回日本臨床栄養代謝学会学術集会|教育講演1 時間栄養学の臨床応用
2023.12.01フレイル・サルコペニア , 栄養素 , 腸内細菌時間栄養学の臨床応用
座長: 丸山道生 (田無病院)
演者: 柴田重信 (広島大学大学院 医系科学研究科)
【講演要旨】
広島大学大学院 医系科学研究科 柴田重信 先生は、食事と体内時計の密接な関連を説き、望ましい食事や栄養の摂取時間を検討する時間栄養学について概説した。
体内の主時計として機能する視交叉上核の体内時計は、末梢組織の体内時計を制御している。体内時計の補正は、主時計は朝の光の刺激で、末梢では朝食摂取による刺激で行われるため、朝食欠食によって主時計と末梢の体内時計の補正がずれ、時差ボケ状の現象を引き起こす、と指摘。
さらに、末梢の体内時計の補正は朝の炭水化物やたんぱく質の摂取で起きるため、朝食には炭水化物とたんぱく質の摂取が望ましく、朝の食物繊維の摂取は血糖値抑制効果がある。また朝にたんぱく質を摂取すると筋合成が促進されるなど、朝食摂取の重要性を訴えた。今後は健康維持の観点からも時間栄養学の知見を取り入れた望ましい食事の提唱が必要である、と結んだ。
◆ 視交叉上核の主時計が末端組織の体内時計を制御
体内時計は食事や栄養との関連が指摘されており、食事や栄養を利用した体内時計の調整は健康維持に寄与すると期待されている。時計遺伝子であるPeriodやClockは視交叉上核だけでなく、全身の細胞に発現している。つまり、体内時計は視交叉上核にある主時計に加え、末端組織にも存在することが明らかになった。末梢組織の体内時計はローカル時計として機能する。一方、視交叉上核は主時計として機能し、末梢組織の体内時計を制御している。
体内時計は24時間より若干長く、毎日朝の光や朝食による刺激で補正される。補正されないと、体内時計は地球の時計より遅れていくことが確認されている。一般に朝食の摂取は重要と言われている。その要因の一つとして朝食欠食による体内時計調節シグナルの喪失がある。主時計は光の刺激により朝を認識し、体内時計を補正する。末梢時計は朝食による刺激で朝を認識し、体内時計を補正するが、朝食を欠食すると補正できない。その結果、体内で時差ボケのような現象が起き、疾患の引き金になるとも考えられている。したがって、起床後に光を浴びることと、朝食の摂取が重要になる。
近年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響でテレワークが推奨された。そのため、夜間に光を浴び、夜遅く食事をして、夜運動する夜型の生活リズムの人が増えたと言われている。夜型の生活リズムは身体の健康に大きな影響を及ぼす。
◆ 望ましい食事、栄養摂取時間を検討する時間栄養学
健康維持のため、バランスのとれた食事の摂取が推奨され、『食事バランスガイド』や『日本人の食事摂取基準』などに望ましい食事や栄養素が示されている。 『 食事バランスガイド 』 は食事としてバランスのよく摂取すべき食品の量(SV: 一つ二つの「つ」)が示されているが、朝食、昼食、夕食のそれぞれの食事のバランスについては示されていない。例えば、 1日の主食5~7SVをそれぞれの食事でどのように分配すればよいかは明らかではない。通常は日中の活動量が多くなるため、昼食で主食を多く摂取すればよいとも考えられるが、そのような推奨は今のところされていない。また、『日本人の食事摂取基準』では高血圧予防のため、望ましいナトリウム摂取量が1日量で示されている。しかし食事ごとのナトリウム摂取量や減量幅は記されていない。
時間栄養学は時間ごとの食事、栄養素の摂取について検討している。メタボリックシンドロームが健康上の課題となる若年者の場合、栄養摂取過剰に対応する時間栄養学が必要となる。一方、フレイルやサルコペニアのリスクが高くなる高齢者では栄養摂取不足に対応する時間栄養学が求められる。また近年、多く市販されている機能性表示食品を時間栄養学的な視点で検討し、望ましい摂取方法を考えることも重要である。
時間栄養学に加え、時間運動学や時間薬理学は時間生物学と捉えられている。時間生物学の発展過程では、まず時間薬理学が提唱された。例えば、ラメルテオンという睡眠薬はメラトニンの受容体を活性化し、体内時計を補正する作用がある。したがって、就寝時間がばらつきがちな患者に有用とされている。また、コレステロールを合成する酵素の発現は夕方に増大するため、高コレステロール薬のスタチンは夕食後服用とされていた。このように時間薬理学の研究は進展し、臨床で活用されているが、時間栄養学は発展しなかった。
◆ 朝の炭水化物やたんぱく質摂取が体内時計を補正
食事や栄養の望ましい摂取方法を明らかにするため、マウスで食事時間の影響を検討した。ヒトの夜食にあたる時間に食餌を与えたマウスと、通常の食餌時間のマウスで体内時計の変化を比較すると、夜食群では肝臓の時計遺伝子の活性化が活動時間から夜食時間に移動していた。時計遺伝子の活性化を変化させる食餌内容を検討したところ、グリセミック指数(GI)の高さが要因だった。さらに時計遺伝子の活性が変化するメカニズムを検討した結果、高GIの食餌摂取がインスリン分泌を増加させ、PI3キナーゼや分裂促進因子活性化たんぱく質キナーゼを介して、時計遺伝子を活性化し、「朝である」と認識していることが分かった。この結果から朝食には高GIの食品あるいは血糖値を上げる食品の摂取が望ましいと考えられる。
一方、糖尿病患者ではインスリンによる体内時計補正が行えないのかとの疑問が生じる。そこで糖尿病モデルマウスとコントロールマウスで体内時計補正を比較したところ、糖尿病モデルマウスでもたんぱく質が豊富な食餌で体内時計補正が行われていることが明らかになった。さらに、体内時計補正には、炭水化物によるインスリン系を介したメカニズム以外に、たんぱく質が豊富な食餌によるインスリン様成長因子1(IGF-1)を介したメカニズムの存在も明らかとなった。
朝食としては、和食ならご飯に納豆、洋食ならパンと牛乳など、炭水化物とたんぱく質をともに摂る場合が多い。したがって、インスリン系もしくはたんぱく質系のどちらかの体内時計補正メカニズムが働き、朝を認識していると考えられる。
◆ 朝のコーヒー摂取で生活リズムが朝型化
通常、コーヒーは朝や昼に飲まれ、夜にはあまり飲まれない。コーヒーはカフェインを多く含み、夜に飲むと眠れなくなるためである。カフェインには覚醒効果以外にも重要な作用がある。マウスを深夜(非活動期)に起こしコーヒーを飲ませると、体内時計が遅れた。つまり、深夜のコーヒー摂取が体内時計を夜型化した。
ヒトでも深夜の起床、夜間に光を浴びる、コーヒーを飲むなどして、体内時計の変化を検討した実験が行われている。夜間に光を浴びると体内時計は約1.5時間遅れ、コーヒーを飲むと約1時間遅れた。さらに、光を浴びながらコーヒーを飲むと約2時間遅れることも分かった。
コーヒーには肥満抑制効果があるとの報告がある。そこで、肥満モデルマウスに、高脂肪食を与え、朝もしくは夜にコーヒーを飲ませ、肥満抑制効果をコントロール群と比較した。その結果、朝のコーヒー飲用群では高脂肪食による肥満が抑制され、内臓脂肪もコントロール群より減少した。しかし、夜のコーヒー飲用群ではコーヒーによる肥満抑制効果はみられなかった。コーヒーを飲むと覚醒作用により運動活性が高くなる。つまり夜のコーヒー飲用で夜型化し、朝のコーヒー飲用で朝型化する。夜型の生活リズムは肥満のリスクが高いため、コーヒーは朝に飲むとよい。
◆ 脂溶性の栄養素は朝が至適摂取時間
トマトなどに含まれるリコピンの抗酸化作用が報告されている。リコピンの至適摂取時間を時間栄養学的に検討される論文がある。マウスにトマトジュースを朝か夜に摂取させ、リコピンの血中濃度を比較すると、朝摂取群で夜摂取群より高かった。さらにヒトを対象に、トマトジュースの摂取時間を検討し、朝摂取群と夜摂取群に分けリコピンの血中濃度を比較した。結果はヒトでも朝摂取群で夜摂取群より高かった。日中は呼吸が盛んで紫外線も浴びているため、より抗酸化作用が必要になる。朝にリコピンを摂取し、血中濃度を上げると丁度昼に抗酸化作用が発揮されやすい。トマトジュースを 1 日 1 本飲むのであれば、朝に飲むと効果的と考えられる。
ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)についても、朝の摂取により血中濃度が高くなり脂肪肝が減少した、との報告がある。我々はセサミンの朝の摂取で血中コレステロールが低下すると報告した。これは脂肪の分解酵素を含み持つ胆汁分泌と関連している。リコピン、DHAやEPA、セサミンは全て脂溶性である。脂溶性の栄養素は胆汁酸分泌が盛んな朝の摂取がよいと考えられる。
◆ 朝の食物繊維摂取は高血糖を抑制
菊芋に多く含まれるイヌリンは腸内細菌叢を改善し、高血糖抑制効果があるとして、機能性表示もされている。イヌリンの摂取時間による効果の違いを検討するため、高齢者を対象に1週目をコントロールとし、2週目にイヌリンを多く含む菊芋パウダーを朝もしくは夜に摂取してもらい、血糖値の変化を比較した。朝摂取群では夕摂取群に比べ、血糖値が低下した。朝摂取群では昼食後、夕食後まで血糖値抑制効果が持続した。夕摂取群では血糖値抑制効果は朝食時には消失した。朝食で食物繊維を摂取すると昼食時、夕食時の血糖値改善効果を得られるが、翌日の昼食時には血糖値改善効果はみられなかった。このことから、毎日朝食時に食物繊維を摂る必要があると考えられる。
夕食時間が遅くなると高血糖を起こしやすくなるため、夕食が遅い人は夕方に間食を摂るとよいと言われている。その間食に望ましい食品について検討した。間食に通常のビスケットまたは炭水化物の半分量を食物繊維に置き換えたビスケットを摂取してもらい、血糖値を比較したところ、食物繊維置き換えビスケットでは夕食時の高血糖が抑制されていた。
また、間食にソラマメ、ポテトチップス、フルーツグラノーラ、サツマイモのいずれかを摂取し、夕食後の血糖値を比較すると、炭水化物や糖質の割合がある程度高い食品、水溶性食物繊維が多い食品の摂取で上昇曲線下面積(Δ AUC)が抑制されることが分かった。一方、脂肪が多く含まれた食品、非水溶性食物繊維が多い食品では Δ AUC抑制効果はなかった。これはいわゆるセカンドミール効果によるものと考えられる。夕食時間が遅い人の間食には炭水化物、糖質、水溶性食物繊維が豊富な食品が適している。
炭水化物の半分量を食物繊維に置き換えたビスケットのセカンドミール効果を応用した夜食の有用性についても検討した。夜食に食物繊維置き換えビスケットを、朝食には規定食を摂ってもらい、夜食なし群および通常のビスケット摂取群と血糖値を比較した。その結果、食物繊維置き換えビスケット摂取群では血糖値の変動が小さく、睡眠時間、睡眠の質も良好であった。しかし、通常のビスケットではこのような差は見られなかった。通常のビスケットであれば、夜食は摂取しない方がよいと考えられる。
◆ 食事時間の不規則性は生活全体に影響
近年は夜食を摂る子どもが増えている。夜食の摂取で生活リズムが夜型になってしまう。これは多忙な母親が、子どもが寝るまでスマートフォンに触るのを許しているためとも考えられる。これにより夜型の生活リズムが定着し、アイスクリームやジュースなど夜食を摂取しがちになる悪循環が起こる。子どもの頃の習慣は持続しやすい。夜型の生活リズムが継続しないよう、どこかで断ち切らなくてはならない。
不規則な食事時間も健康に大きな影響を及ぼす。就労者5,000人に食事時間の不規則性に関する質問をし、生活、仕事のパフォーマンス、健康の状態と比較したところ、不規則な食事時間は神経症、残業時間の長さ、仕事のパフォーマンス低下、風邪の引きやすさと関連していた。
また、子どもを対象に食事時間の不規則性と朝食頻度を比較すると、食事時間が不規則な子どもほど朝食欠食が多かった。両親の食事時間の不規則性と子どもの食事の比較では、母親の食事時
間が不規則だと、子どもの食事時間も不規則になり、夜食摂取も増えていた。
食事時間の不規則性とQOLの関連について検討したところ、子供のQOLの指標である「KINDL」の各項目で朝食時間の影響が強いことが分かった。とくに朝食欠食や食事時間の遅れが積み重なると健康に大きな影響を及ぼす。また、夕食が不規則な場合は夜型化しやすく、ソーシャル・ジェットラグと呼ばれる週末と平日の睡眠、起床の時間のずれが大きくなる。つまり夜遅くに食事する習慣や、食事時間が早くなったり遅くなったりすることは生活全体に悪影響を及ぼす。
◆ 朝のたんぱく質摂取で効率的な筋合成が可能
日本では年齢、性別を問わず、たんぱく質摂取量は朝食で少なく、夕食が多い。食事記録アプリに登録した20~70歳の女性約1万人のデータでもたんぱく質摂取量は朝食15g、昼食21g、夕食26g、間食6gで1日のたんぱく質摂取量は70gであった。間食の6gを朝食に摂取すれば、1食あたりのたんぱく質摂取量が推奨されている20gを超す。たんぱく質摂取量のバランスという観点では、例えば、朝、会社に到着した時点でたんぱく質を補食することが望ましい。
たんぱく質摂取量が朝食で少ない傾向は米国でも同様で、朝食10g、昼食30g、夕食40gという報告がある。米国の研究報告で、1日のたんぱく質摂取量を90gとし、朝食、昼食、夕食で均等に摂取する群と、朝食10g、昼食20g、夕食60g摂取した群に分け、筋たんぱく質合成率を比較した結果、筋たんぱく質合成率は均等群で夕食多量摂取群に比べ高かった。また夕食多量摂取群では夕食で摂取したたんぱく質の一部は活用されていないことが分かった。
マウスを3群に分け、朝食夕食均等にたんぱく質を摂取させた群、朝食に多くたんぱく質を摂取させた群、夕食に多くたんぱく質を摂取させた群で筋肥大率を比較すると、朝食多量摂取群で筋肥大率が高かった。筋合成は昼から夕方に活性化するため、筋合成が活性化する前のたんぱく質摂取によって、効率的に筋合成できる。夕方に運動すると、さらに筋合成が増える。
たんぱく質の合成には閾値があり、高齢者では体重1kg あたり1食0.4gのたんぱく質摂取が必要と報告されている。体重50kgの場合、1食あたり 20gのたんぱく質摂取が必要となる。高齢者を対象に1日のうちたんぱく質摂取20g以上の食事数を質問し、筋肉量や握力と比較した。その結果、たんぱく質摂取が20g以上の食事数が多いほど、筋肉量や握力が良好であった。さらにたんぱく質摂取20g以上の食事が1食のみだった人を対象に、たんぱく質摂取20g以上の食事を、朝食群、昼食群、夕食群に分け、筋肉量や握力を比較した。総たんぱく質摂取量に大きな違いはなかったが、朝食群では筋力や握力が良好であった。総たんぱく質摂取量も重要であるが、朝食のたんぱく質摂取量がより重要と考えられる。
次に朝食でのたんぱく質摂取が少ない高齢者を対象に、朝食もしくは夕食に10gの乳たんぱく質を付加する介入を行った。その結果、朝食でのたんぱく質付加群で四肢筋肉量が増加した。
たんぱく質消化性補正アミノ酸スコア(Protein Digestibility Corrected Amino Acid Score : PDCAAS)は、食品に含まれているアミノ酸の組成を評価し、たんぱく質の消化しやすさや体内での利用されやすさを総合的に判断するための指標で、世界保健機関(WHO)により提唱された。高齢者で摂取した食事のPDCAASを評価して低PDCAAS群、高PDCAAS群に分け、8年間の握力低下を比較した報告では、朝食の高 PDCAAS 群は握力低下リスクが朝食の低PDCAAS 群の半分であった。この関係はとくに女性で顕著であった。また、昼食や夕食ではPDCAASによる関係は見られなかった。
たんぱく質摂取量が最も多い食事を朝食群、昼食群、夕食群の3群に分け、身体活動量との関連を検討したところ、朝食群および昼食群は身体活動量が多かった。同様にエネルギー産生栄養素バランスでたんぱく質摂取割合が多い食事を朝食群、昼食群、夕食群の3群に分け、身体活動量との関連を検討したところ、朝食群および昼食群は身体活動量が多かった。つまり、運動が多い人は、朝食、昼食ともたんぱく質を多く摂取している。朝食にたんぱく質が豊富な食事を摂ると、いわゆるセカンドミール効果により、昼食時、夕食時の高血糖が起こりにくくなる。したがって、朝食でのたんぱく質摂取が重要と考えらえる。
◆ 朝食の和食摂取はバランスがよく、生活全体が良好
朝食に望ましい内容についても検討した。朝食の内容は和食、洋食、日によって和食と洋食が異なる場合、シリアルと様々であり、年齢、性別によってその割合が異なる。子どもを対象に朝食を和食、洋食、和食洋食交互、シリアルの4群に分け、生活リズムを比較した。その結果、和食群は起床時間、就寝時間ともに早かった。洋食群、シリアル群は起床時間、就寝時間ともに遅かった。子どもの生活リズムと両親の生活リズムを比較したところ、子どもは母親と同様の生活リズムになっており、父親の生活リズムは関係していなかった。和食群と洋食群、シリアル群の起床時間は10~15分の差があった。
さらに朝食で摂取されている栄養素を検討した結果、マクロ栄養素は和食群、和食洋食交互群、シリアル群、洋食群の順に良好で、ビタミン類はシリアル群、和食群、和食洋食交互群、洋食群の順に良好であった。朝食の食事内容も健康維持に影響している可能性がある。
◆ 朝食の NRF9.3は肥満および高血圧と関連
NRF 9.3は食事の質を評価する指標で、十分な摂取が望ましい栄養素と制限するべき栄養素の割合で食事をスコア化したものである。朝食、昼食、夕食それぞれの NRF 9.3(今回は添加糖を除く NRF 9.2とした ) を算出し、 1日すべての食事を合計して算出した NRF 9.2と比較すると、朝食、昼食、夕食ではそれぞれ NRF 9.2が異なり、 1日すべての食事の NRF 9.2とも違いが見られた。このような食事ごとの違いを無視して 1 日量の栄養素での判断でよいのかは問題である。年齢別にみると、 1日すべての食事の NRF 9.2は 30~49歳で高いが、朝食では 50~69歳の NRF 9.2 が高かった。 NRF 9.2を BMI 25以上の肥満群と BMI 18.5以上25未満の標準体重群で比較すると、肥満群では標準体重群に比べ 1 日すべての食事の NRF 9.2が低かった。また、昼食、夕食の NRF 9.2 は両群に差はないが、朝食の NRF 9.2 は肥満群で標準体重群に比べ低かった。つまり、朝食のバランスは肥満と関連すると考えられる。
NRF 9.2は高血圧予防にも関係している。130mmHg以上の高血圧群と130mmHg 未満の標準血圧群でNRF 9.2を比較すると、高血圧群では標準体重群に比べ1日すべての食事のNRF 9.2が低かった。また、夕食の NRF 9.2は両群に差はないが、朝食および昼食のNRF 9.2は高血圧群で標準血圧群に比べ低かった。収縮期血圧は昼食のナトリウム・カリウム比、昼食のカリウム摂取量と相関している。これがNRF 9.2と血圧との関連に影響していると考えられる。
◆ 食事ごとの『食事バランスガイド』遵守率の検討で食事のバランスの影響を明確化
1 日のすべての食事をまとめた内容を 『食事バランスガイド』の遵守率で3群に分け、BMIや生活リズムとの関連を検討したところ、BMI、朝型および夜型の生活リズムとの関連は認めなかった。つまり、1日のすべての食事をまとめて解析しても肥満や生活リズムとの関連は明らかにならない。
そこで、3食それぞれの食事内容を『食事バランスガイド』のSV数で評価し、BMIや生活リズムとの関連を検討した。その結果、朝食、昼食の主菜が少ない場合および夕食の主食が少ない場合、すべての食事の副菜が多い場合はBMIが低く、朝食の主食、副菜が多い場合、夕食の主食、副菜が少ない場合は朝方の生活リズムが多いことが分かった。このように食事ごとに検討することで、食事のバランスが肥満や生活リズムに与える影響が明らかになる。
◆ 朝食欠食は生活リズムを夜型化
朝食欠食の影響については多くの報告がある。例えば、起床後、朝食を7時、昼食を12時、夕食を17時に摂取し、7時に電気をつけ23時に消灯する生活を1週間続け、次の1週間は食事摂取時間全
体を5時間遅らせた実験がある。その結果、朝に光を浴びているため視交叉上核の主時計の補正は影響しないが、末梢時計は1~1.5時間遅れていた。食事時間は5時間遅れているが、末梢時計の遅れは5時間にはなっていない。視交叉上核の主時計が末梢時計を制御し、主時計と末梢時計のせめぎ合いの結果、1~1.5時間の遅れとなったと考えられる。これは、朝食欠食状態で学校に行く子どもの状態に近い。このような子どもは末梢の時計が遅れているため、1時間目には頭が働かず、2時間目になって覚醒してくる。
通常の食事時間で 1 週間経過後、食事時間を4時間遅らせた実験では、食欲や脂肪蓄積遺伝子が増え、体温や代謝が低下することが分かった。また、生活リズムを質問し、健康観、幸せ度、性格と比較した報告では、朝型の生活リズムの人は健康観や勤勉性が高く、夜型では開放性が高かった。BMIは夜型で高いことも明らかになっている。
夜型は疾患のリスクも高くなる。夜型の心血管疾患リスクは朝型の1.07倍程度と大きな影響はないが、夜型のうつ病など精神疾患のリスクは朝型の2倍と高い。これは社会の運営が朝型を主体としており、夜型のリズムと合っていないことも要因と考えられる。実際、欧米では、子どもの夜型化が進んでいるため、小中学校の始業時間を遅らせたところ、成績や精神状態が改善した事例がある。
◆ 時間制限食はたんぱく質摂取量不足に注意が必要
近年、いわゆるプチ断食が注目され、食事の回数や絶食時間の影響が検討されるようになった。その結果、肥満の要因としては1日6回の食事、朝食欠食、遅い時間の夕食が、痩せの要因としては1日2~3の食事、12~16時間の絶食、全ての食事摂取を8時間以内に制限することがあげられている。
食事時間を8時間に制限するなどの時間制限食の報告は増え、システマティックレビューも行われている。それらの報告では共通して、朝食を欠食し、12時から食べ始め22時に食べ終わるなどのパターンは悪影響を及ぼすとされている。朝食欠食の影響は大きいため、朝食をしっかり食べ、早い時間に夕食を摂取することが重要である。また、食事時間を8時間以内に制限するとたんぱく質摂取量不足になりやすい。食事時間を8時間以内に制限して痩せた人も実は筋肉量が減少しただけという例は多い。
マウスを自由摂食群、食餌制限70%群、食餌制限70%活動期摂食群、食餌制限70%非活動期摂取群の4群に分け寿命を比較したところ、最も寿命が短いのは自由摂食群で、食餌制限70%活動期摂食群が最も寿命が長かった。この結果から、ある程度の食事制限と活動期の食事が重要と考えらえる。
◆ シフトワークは生活リズムの夜型化に類似
シフトワークと体内時計の関連も時間栄養学の重要な課題である。三交代勤務明け、徹夜明け、通常人で時計遺伝子の発現パターンを比較したところ、三交代勤務明け、徹夜明けでは時計遺伝子発現の位相がずれ、三交代勤務明けでは発現量も低下していた。また、夜勤者では食事パターンは外食が多く、砂糖飲料摂取が多く、野菜類摂取量が少ないなどバランスが悪い。
シフトワークの生活リズムは基本的に後ろへずれていく。つまり、夜型化に近い。つまりシフトに向いている人は、夜型で、平日と休日の過ごし方が大きく異なり、毎日の睡眠時間が少しずつずれている人である。一方で夜型化は肥満しやすく、注意が必要である。米国の消防士を対象に、シフト明けに朝食を食べ、そこから10時間以内にすべての食事を済ませる食事制限を行ったところ、超低密度リポたんぱく質(VLDL)低下、血圧改善、QOL向上がみられたという報告がある。また、徹夜した際は、食事時間を通常の時間に近づけるとうつや不安神経症が起こりにくいことも分かっている。
◆ 時間栄養学の知見を取り入れた望ましい食事の提唱が必要
健康維持のため朝食摂取が重要である。昼食は15時までの摂取が望ましい。高血圧予防の観点では昼食での野菜摂取に心がける必要がある。夕食時間は30分でも早めたほうがよい。昼食と夕食の時間が空く場合は、間食も有用である。炭水化物ダイエットは夕食での実施が有効である。
望ましい食事の目安として『日本人の食事摂取基準』や『食事バランスガイド』などがある。健康的な食事として高血圧を防ぐ食事方法 (DASH食)、地中海食なども提唱されている。しかし、これらには時間栄養学的な要素が取り入れられていない。人は時間軸に沿って食事をする。食事と時間の関連は重要であり、望ましい食事、健康的な食事に時間栄養学を組み込んでいく必要がある。
【 質疑応答 】
丸山 ● 時間栄養学は経口栄養を中心に考えられているが、経腸栄養でも同様と考えてよいか。
柴田 ● マウスの研究では経腸栄養でも時間栄養学の考え方が重要と報告されている。実臨床では難しいかもしれないが、朝型で活発な患者では朝から経腸栄養を投与した方がよいと考える。
丸山 ● 朝、昼、夜で経腸栄養のバランスを変える研究を行えば、新たな知見が得られる可能性がある。
柴田 ● ぜひそのような研究を行ってほしい。時間栄養学の研究では、慢性腎臓病(CKD)患者のおける効果的なたんぱく質制限を行うために、どの食事でのたんぱく質制限が効果的かなども明らかにできると考えている。
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