REPORT|第10回日本時間栄養学会学術大会・10周年記念シンポジウム シンポジウム2
2024.07.03栄養素第10回日本時間栄養学会学術大会・10周年記念シンポジウム
シンポジウム2
座長:高橋将記(東京工業大学)
- 女子栄養大学の林 芙美先生は日本人に適した健康および環境に配慮した食事を提案するガイドの作成について紹介し、主食1種類、主菜2種類、副菜3種類の摂取が望ましいとした。
- 島根大学の宮崎 亮先生はクロノタイプが身体活動量や健康状態と関連することを示し、クロノタイプを考慮した運動提案が必要であると強調した。
- 柴田学園大学の前田朝美先生は朝の必須アミノ酸摂取で鉄の腸管吸収が高まり、筋肉と脳へのエネルギー供給が維持されるというラットの実験結果を示し、規則正しい食生活と毎食の食事内容の重要性を指摘した。
- ベネッセ教育総合研究所の持田聖子先生は就寝時刻、起床時刻や食事時間などの生活習慣は学習習慣と関連があることを説明し、学習習慣の維持には規則正しい生活習慣が重要とした。
健康で持続可能な食事の実現にむけて
演者:林 芙美(女子栄養大学)
◆健康だけでなく環境にも配慮した食事が必要
栄養指導や栄養教育は対象者の状態に合わせて伝えることで行動変容に繋がることが重要である。食事のあり方については多くのガイドラインや指針などがある。栄養指導や栄養教育の際には、これらをもとに対象者の食事づくりのスキルレベルなどを考慮し、分かりやすい伝え方を考える。ただし、ガイドラインや指針に記載されている内容は、対象者の健康・栄養状態の改善・向上を目指して作成されており、社会環境の要素を加味したものになってはいない。しかし、現在では、地球環境に配慮した、持続可能な食事を考えることが必要となってきた。
人間活動が地球システムに与える影響を考えるうえで、プラネタリー・バウンダリーの概念が提唱されている。人間活動は地球に大きな負荷を与え、特に生物圏の一体性や生物地球化学的循環を不安定化している。既にリンや窒素の循環は人間が安全に活動できる範囲を超えていると言われている。食事も個人の健康に加え、環境にも配慮した内容に変える必要がある。しかし生活者、消費者に環境の問題を伝えても、自分事として捉えてもらうことは難しい。例えば食品ロスは、温室効果ガスの排出量増加などを通じ我々の食生活に多くの問題をもたらすが、経済的な理由や食の優先順位などによって環境問題にまで目が向かない人が多い。
世界保健機関(WHO)や国際連合食糧農業機関(FAO)では健康で持続可能な食事として、「健康やwell-beingを向上させる」「環境負荷が小さい」「手頃な価格」「文化的に受け入れられる」などの要素を考慮した食事のあり方を、それぞれの地域で考えるよう提唱している。健康で持続可能な食事を実現するために示されたアクションプランの一つとして、持続可能で健康な食事の供給を可能とする環境構築を目的とした、フードシステム全体の変革がある。これは最終的には行動変容を促すための戦略として、消費者へのエンパワーメントを提案するものである。
既にいくつかの国では環境に配慮した食生活指針が作成され、「より持続可能性な食物を食べる」、「加工を最小限に、栄養密度の高い食物を摂取する」、「植物性食品をもっと食べる」などの項目が含まれている。その一部は、現在の日本の食生活にも取り入れられているが、全てを含んではおらず、今後は環境に配慮した食生活について、さらなる知見が必要になってくる。
海外ではEAT-Lancetから、「地球にとって健康な食事」が示されている。その内容については様々な議論があり、現在、EAT-Lancet 2.0として見直しが行われている。EAT-Lancetでは、現在の食事を持続可能性な食事パターンに変えていくことが重要として、主食を全粒穀類に、主菜には植物性のたんぱく質を、不飽和脂肪酸を多く含む食物摂取を増やすこと、などを勧めている。さらに資源の有効活用の観点から、食品の廃棄量を半分にすること、農業活動により持続可能な方法を採用することなども盛り込まれている。
◆日本人に適している環境に配慮した食事を提案
ただし、EAT-Lancetの食事パターンが必ずしも日本人の食文化に適しているわけではない。そこで、日本人に合う環境に配慮した食事を検討し、『人と地球の未来をつくる「健康な食事」実践ガイド』を作成した。健康で持続可能な食事には様々な側面がある。「持続可能な食事」とはその内容だけでなく、食事を楽しむことや誰かと一緒に食べることも重要である。共食は健康に良い影響を及ぼすだけでなく、環境負荷の低減にも有効と考えられる。また、食事内容は適度な量でバランスの良いものが望ましい。日本食の多くの要素はこれに合致するが、食塩摂取量は控える必要がある。
食事をすべて自分で調理する人もいれば、買ってきたものを組み合わせて食べる人もいる。そこで、『人と地球の未来をつくる「健康な食事」実践ガイド』(以下、「健康な食事実践ガイド」と略)では多様なパターンの食事づくりに合わせた情報提供を心がけた。今まで調理や買い物に関わらなかった人が、買い物などで少しでも食事づくりに関わることも持続可能な食生活の実現に重要である。
従来、健康な食事の目安として示されたのは、主食・主菜・副菜が揃った食事を心がけ、1日のいずれかの食事で乳製品や果物をとり入れること、だった。厚生労働省でも健康長寿のための食事をテーマにした検討会を開催しており、健康な食事の具体的な内容を示している。「健康な食事実践ガイド」では、以前に厚生労働省が示した食事内容を踏まえ、健康的な食事として主食は穀類から1種類、主菜は肉類、魚介類、卵類、大豆・大豆製品から2種類、副菜は野菜類、キノコ類、海藻類、イモ類から3種類の摂取を提案した。
◆スマートミールのメニュー分析から望ましい食事内容を検討
日本人に合う環境に配慮した食事の検討として「スマートミール」のメニュー分析を行った。スマートミールは健康を維持する栄養素を含むバランスのとれた食事として、多くの事業者に採用され、2023年8月現在で外食101事業者、中食86事業者、給食331事業者が認証されている。スマートミールの基準としてエネルギー摂取量が少なめの「ちゃんと」バージョンで450〜650kcal、多めの「しっかり」バージョンで650〜850kcalとされている。PFCバランスは『日本人の食事摂取基準(2020年版)』で示されている値とし、野菜などの重量は140g以上、食塩相当量は「ちゃんと」で3.0g未満、「しっかり」で3.5g未満とされている。
スマートミールはエネルギー摂取量や栄養素摂取量は基準内であるが、料理の組み合わせのパターンは様々である。スマートミールのメニューを分析したところ、主材料の組み合わせは主食1種類、主菜2種類、副菜3種類のパターンが多く、このような組み合わせ方法が栄養バランスを整えやすいと考えられる。食塩摂取量を考えると、主食は味の付いていないご飯とし、肉類、魚類、大豆・大豆製品、卵類など複数の主菜を組み合わせ、野菜類のほかイモ類やキノコ類、海藻類などを取り入れるとよいと考えられる。
線型計画法を用いて健康な心身の保持・維持に必要とされる1食あたりの目安量も算出した。日本人の食事内容に関する報告では、1日のエネルギー摂取量のうち、朝食で2割、昼食で3割、夕食で4割摂取する人が多いとされている。「健康な食事実践ガイド」では1食あたりの目安量は1日あたりの目安量の3割とし、『日本人の食事摂取基準(2020年版)』による各栄養素の摂取基準値を満たし、国民健康・栄養調査で報告されている現状の日本人の栄養素等摂取量から大きく乖離しない値を示した。18〜29歳、30〜49歳、50〜64歳、65〜74歳、75歳以上という各年齢区分、男女別に身体活動レベル2の平均値をもとに、目安量の基準を検討した。
一般向けの目安量としてはエネルギー摂取量が少なめの「適度に」というバージョンでは主食はご飯中盛り1杯くらい、エネルギー摂取量が多めの「十分に」というバージョンでご飯大盛り1杯などと具体的に示した。さらに、精製度の低い穀物を組み合わせると食物繊維摂取量が増えるなどのメリットが大きいことも記載した。また、麺類を主食にする際は食塩摂取量を少し控えめにするなどのポイントも加えた。
◆GHGEやNFPから環境への影響を評価
主菜については摂りすぎないことが重要であり、健康と環境の両面からは、動物性食品を摂りすぎないこと、肉を選ぶ場合は牛肉や豚肉より鶏肉が望ましいことなどを提案している。これは、温室効果ガス排出(GHGE)や窒素フットプリント(NFP)についての検討結果を根拠としている。
スマートミールのうち主菜の主材料が2種類のものを比較したところ、1食あたり平均GHGEは約1,000g-CO2 eq/650kcal 前後であったが、少ないものは560g-CO2 eq/650kcal 、多いものでは4,000g-CO2 eq/650kcal を超えていた。GHGEの差は主菜の主材料が影響していることが分かった。肉類の場合、牛肉を中心としたメニューでGHGEが高くなり、肉類の最小値と最大値で7.3倍も違いがあった。GHGEが少ないメニューとして鶏を主材料とした和風ガパオライスがあった。環境への配慮という観点では主材料の組み合わせの見直しも有効である。
また、埼玉県民栄養調査データからNFPを指標に環境負荷が少なく、健康的な食事の検討を行った。NFPは人間による食料やエネルギーの消費に伴い環境中へ排出される反応性窒素の総量を指す。環境中の過剰な反応性窒素は、地球温暖化など環境に負の影響をもたらす。適切なたんぱく質摂取量で、BMIが普通の基準に入っている人の食事を対象に、NFPが少ない人とNFPが多い人の食事を比較した。男性の場合、NFPが少ない人は豆類や魚介類、肉類など多様な食品群から主菜を摂っていたが、NFPが多い人では肉類が中心となっていた。この結果からも、環境負荷の低減には主菜の選び方も重要と考えられる。
◆簡単な副菜のレシピも掲載
「健康な食事実践ガイド」は食事について「自分で調理することが多い」「買って食べる、外食することが多い」「用意されたものを食べることが多い」の3タイプに分けて提案をしている。その中で主食・主菜・副菜がそろった食事が重要であることを示した。健康日本21や食育推進基本計画でも主食・主菜・副菜がそろった食事を1日2回以上食べることが栄養バランスに配慮した食事であるとしている。しかし、主食・主菜・副菜がそろった食事を1日2回以上摂っている人は約4割と少ない。とくに野菜摂取量は目標摂取量に対して不足している。
主食・主菜・副菜がそろった食事が1日2回以上の人、2回未満の人ともに、主食・主菜・副菜がそろわない理由として「手間がかかる」「時間がない」と答える人が多かった。主食・主菜・副菜をそろえるために必要なことについても「手間がかからないこと」「時間があること」との回答が多かった。主食・主菜・副菜のうち、そろいにくいものを調べたところ、多くの人で副菜がそろっていないことが分かった。
そこで、「健康な食事実践ガイド」では簡単な副菜料理をレシピとして提案している。このレシピ提案にあたり、食事づくりのレベルを確認したところ、「電子レンジなどで温める」「サラダ・和え物を作る」「炒める」は比較的多くの人ができると答えていた。この結果から電子レンジで温める副菜、和え物、炒める副菜などのレシピを組み込んだ。
◆食事づくり7パターンそれぞれに望ましい食事を提案
量的なデータの分析にグループインタビューなどの質的な研究結果を加味して、食事づくりパターンのペルソナを設定した。「健康な食事実践ガイド」では「自分で調理することが多い」人で3パターン、「買って食べる、外食することが多い」人で3パターンのペルソナを設定し、「用意されたものを食べることが多い」人を加えて計7パターンに対し、情報をタイプ別に整理した。環境負荷低減についての情報も買い物、保存、調理、片付けなど食事づくりの場面ごとに比較的とり入れやすい方法を提案している。
食は個人の健康だけではなく、社会や地球環境にも大きな影響をもたらす。持続可能な食生活の実践には、健康に加え環境負荷低減の観点から食事内容を検討する必要がある。特に現在は地球沸騰と言われるなど、気象条件に不安な要素がある。この点でも環境負荷低減は重要である。時間栄養学の知見に加えて、サステナブルという観点を加えて、いつどこで何をどのように食べるかという研究を進める必要がある。
【質疑応答】
フロア●動物性食品は脂質の問題から控えめの摂取がよいと考えるが、動物性たんぱく質はなぜ控える必要があるのか。
林●動物性たんぱく質が多い食事をしている人は環境負荷が大きいという観点で控えたほうがよいと考える。
フロア●動物性食品の摂取は控えめでよいと思うが、動物性たんぱく質も良くないような表現に感じた。これは、必須脂肪酸の摂取を考えると適切でないと思われるが、どのように考えるか。
林●今回は環境負荷低減という側面で検討したデータを発表した。栄養面では動物性たんぱく質も適量を摂取することが重要と考えており、「健康な食事実践ガイド」でも多様なたんぱく質源を主菜の主材料として選ぶとよいと提言している。
フロア●1日の食事を朝食、昼食、夕食で3割ずつ分割して計算したというお話があった。その場合、1割分残ってしまう。その1割分を間食ととらえることもできる。「健康な食事実践ガイド」ではどのように考えているか。
林●残った1割を間食とする考え方もあるが、今回の「健康な食事実践ガイド」では間食の要素は入っていない。栄養指導を実践している先生からも間食の要素が抜けているという意見があった。これは今後の課題にしたい。「健康な食事実践ガイド」では主に主食・主菜・副菜の組み合わせを提案しており、プラスアルファとなる乳製品、果物に関する記述が少ない。間食について追加する際には、これらの摂取を含めて提案していきたい。
フロア●主食・主菜・副菜がそろったバランスの良い食事を1日2食摂るとよいというお話があった。その場合、バランスの良い食事を摂るタイミングは朝食と夕食がよいのか、昼食と夕食がよいのかなど時間栄養学的な推奨はあるのか。
林●夕食は副菜の摂取が少ない人でも比較的摂れていた。副菜の不足を補うことを考えると、朝食と昼食がターゲットになると考える。朝食については、「健康な食事実践ガイド」で、レシピをパターン化し、まずは食べることを大事にするという提言も加えた。
体内時計機能の個人差に適した、時間運動学に基づく健康増進法
演者:宮崎 亮(島根大学)
◆運動による効果は個人差が大きい
高齢者を対象に1日1万歩を目標に身体活動量を向上させる介入を1年6か月行ったところ、HDLや収縮性血圧が改善したことが明らかになった。これらは短期間では改善が難しい項目とされており、身体活動量の向上は健康に良い影響をもたらすと考えられる。
しかし、その改善効果は個人ごとに大きな差があることも分かった。運動療法は妥当性のある介入であっても、すべての人で改善効果が得られるわけではないと言われている。さらに、運動の維持が難しいとも指摘されている。その要因を、体内時計機能の個人差に着目した時間運動学から解明を目指した。
陸上競技の世界記録は夕方の試合に多いと言われている。2004年のアテネオリンピックから2016年のリオオリンピックの水泳の記録を比較したところ、17時にベストタイムが出ていることが示された。17時の記録は8時の記録に比べて0.32%速いことも分かっている。0.32%はごく僅かな差と思われがちだが、オリンピックレベルになると3位と4位のタイム差よりも大きい。0.32%のタイム差があった場合、全ての試合の61%で順位が変わる可能性があったことも明らかになった。この結果は試合時間がアスリートにとって極めて重要な要素であることを示す。
この要因として、夕方の時間帯に成長ホルモン分泌や体温が上昇し、これらを背景にしてパフォーマンスが高まるためと考えられている。多くの研究で瞬発力、筋力は概ね5〜6時にピークを迎えることが分かっている。しかし、この現象はクロノタイプに影響され、すべての人に当てはまるわけではない。朝型の人は時間による体力差はあまり見られないが、夜型の人は明らかに夜に体力が向上する。したがって、運動療法の実践でも個人差を考慮する必要がある。
◆クロノタイプによりスポーツパフォーマンスのピークに相違
体内時計の乱れが骨格筋機能に関連している。体内時計異常マウスでは野生タイプのマウスに比べ、最大筋力が30%、ミトコンドリア体積は40%低かった。この結果は体内時計に合わせて運動することで、パフォーマンスが向上し、健康増進につながることを示す。
クロノタイプは年齢、光の刺激、遺伝的要因に加え、生活習慣で規定されると言われている。年齢については、加齢とともに朝型になることが明らかになっている。遺伝的要因は40〜50%でクロノタイプを規定していると報告されている。生活習慣としては就寝時刻、食事時間などがクロノタイプに影響する。これらの要素が総合的にクロノタイプを規定している。クロノタイプは肥満など健康にも関係しているとも言われている。
クロノタイプはスポーツパフォーマンスにも関係している。アメリカのメジャーリーグ選手を対象に質問紙で朝型と夜型に分類し、デーゲームとナイトゲームの打率を比較したところ、夜型の選手ではナイトゲームの打率は3割3分6厘だが、デーゲームの打率は2割5分9厘になっていた。夜型の選手はナイトゲームでは好打者でも、デーゲームでは普通の選手になってしまう。アメリカは時差があり、日本と違ってクロノタイプは重要である。
また、質問紙で朝型、中間型、夜型に分け、スポーツパフォーマンスのピークを比較した報告では、クロノタイプによってピーク時間が異なることが明らかになった。クロノタイプを考慮しなければパフォーマンスが夕方にピークを迎えるが、朝型は正午頃に、中間型は夕方に、夜型は夜8時頃にピークを迎える。特に夜型では時刻によって最大26%の差が見られた。つまり夜型の選手は朝の試合で勝てないことになる。パフォーマンスが1%上がれば、オリンピックの100m走では4位の選手が1位になれると言われている。26%の差は絶望的な数字になる。
ただし、クロノタイプの影響は個人スポーツと集団スポーツで異なると言われている。サイクリングやトライアスロンといった個人競技の選手は朝型が多い。集団競技に関しては、クロノタイプの偏りが少ない。クロノタイプに適した時間に運動を行わなければ、本人の意欲も向上せず、継続しないのは当然である。運動療法でもクロノタイプを考えたトレーニング設定が必要である。
ただし、人は社会的生物であることも考えなくてはいけない。試合はクロノタイプに合った時間帯に行われるとは限らない。また、夕方にジョギングしたいと思っていても、夜まで仕事があればできない。そもそも運動に適した時間が分からないこともある。しかし、時計遺伝子の遺伝子多型や年齢、性別、体格など生理的要因は変えにくいが、社会的要因は改変できる可能性がある。運動療法を行う際は、運動の日内リズムを決めている要素を把握することも必要である。
◆朝の運動は身体的健康と夜の運動は心理的運動と関連
運動の日内要素を決める属性のひとつに嗜好性がある。そこで運動の朝型、夜型の嗜好性を判定できる質問紙の開発を試みた。朝型、夜型についての質問紙として朝型夜型質問紙票(MEQ)がよく用いられる。MEQでは質問項目ごとにスコア化し、朝型、夜型を判定する。しかし、MEQは運動、睡眠、仕事のパフォーマンスといった総合的な朝型、夜型を評価するもので、運動に特化したものではない。運動に特化した質問指標として朝型夜型運動嗜好性質問紙(MEEPQ)を開発した。MEEPQでは「朝6〜9時に運動するとしたら、どのようなメリット、デメリットが生じると思いますか」として15項目の質問を設定した。さらに同様に夕方15〜18時の運動についても質問を設定した。
学生を対象にMEEPQに回答してもらい、身体活動量計で身体活動量を測定し、外的妥当性を評価した。朝、夕方それぞれの質問紙票の項目ごとにスコア化した。質問紙票のスコアと身体活動量には朝、夕方それぞれに正の相関があり、妥当性があると考えられた。
次に質問紙票の項目を質問の内容によって身体的健康、心理的健康、運動のバリアに分類した。分類ごとに比較したところ朝の身体活動は身体的健康、心理的健康、運動バリアの順に関連が強かったが、夜は心理的健康が最も関連が強かった。朝に運動したい人は健康になりたいという意識が強く、夜に運動したい人は健康より友人との交友など楽しみを重視している可能性がある。
◆時計遺伝子の遺伝子多型が夜型の人は土曜日の身体活動が低下
遺伝的な要因もクロノタイプに影響する。そこで時計遺伝子の遺伝子多型として一塩基多型(SNP)を検討した。SNPはエネルギー消費量にも影響し、肥満に関連していると言われている。Bmal-1/Clockの遺伝子多型は肥満やグレリン分泌に関係することが報告されている。また、時計遺伝子多型であるCLOCK 3111T/C SNPのT型は朝型、C型は夜型とされている。実際にC型は就寝時刻が遅く、睡眠時間が短く、日中の眠気も強いという報告がある。
肥満症外来患者を対象に身体活動量計で1日の身体活動量の推移を検討しCLOCK 3111T/C多型間で検討した報告では、C型ではT型に比べ、1日の総身体活動量が低いとされている。また、うつ病患者を対象に1週間の身体活動の推移を追跡した別の研究でも朝、夜ともにC型でT型に比べ身体活動量が低いと報告されている。身体活動量は社会的影響を強く受ける。しかし、これらの研究では社会的要因の影響が不明である。
そこで、社会的影響を含めて身体活動量を検討した。対象者は学生81名で、時計遺伝子CLOCK 3111T/Cは口腔粘膜より採取し評価した。1週間にわたり身体活動量計で身体活動量を測定し、MEQ、ピッツバーグ睡眠質問票、起床就寝時刻の記録を行った。対象者の背景はC型、T型で有意差を認めなかった。主観的な朝型、夜型にも有意差はなかった。つまり時計遺伝子には朝型と夜型があるものの、意識はされていないことになる。しかし、起床就寝時刻はC型とT型で有意差があり、遺伝の影響を受けていることは明確であった。1週間の総身体活動量には両群間に有意差はなかった。
時間別に身体活動量を検討したところ、平日には有意差がなかった。しかし、土曜日は終日にわたり有意差があり、日曜日の午前中では有意差はないもののC型で身体活動量が少ない傾向が見られた。土曜日は最も自由に過ごせる日と考えられる。C型は土日の生活リズムが本来の生活リズムで、平日は無理をして生活リズムを合わせている可能性がある。平日の無理でたまった疲れを時間が自由になる週末に身体活動を下げて休息して回復し、体内機能を維持しているかもしれない。朝型、夜型の差は、社会的要因で平日には見えず、土日にだけ現れる可能性がある。
快適と思う時間はクロノタイプにより12時間の差があると言われている。つまり、朝型では夕方に眠気が強くなっているとも考えらえる。ただし、運動に関しては時計遺伝子の遺伝子多型よりも日常のトレーニング時間や質問紙によるクロノタイプが関係しているとする報告がある。遺伝子多型がパフォーマンスとは必ずしも関係があるとは限らない。
◆後期高齢者でもクロノタイプが健康状態と関連
多くの研究で夜型にサルコペニアやメタボリックシンドロームが多いとされている。特に夜型のサルコペニアは朝型に比べ3.16倍多いと報告されている。そこで、隠岐の島町コホートで後期高齢者のデータからクロノタイプと身体機能の低下の関連を検討した。問診でMEQと起床就寝時刻を評価し、体組成、握力、歩行速度などを測定した。高齢者のため夜型の人はほとんど存在せず、朝と非朝型に分けて分析した。
その結果、非朝型では朝型に比べ、有意差はないもののフレイル、脂質異常、血糖値異常が多い傾向があった。社会的影響が少ないと思われる後期高齢者においても、クロノタイプが健康状態に関連している可能性がある。
◆クロノタイプは身体活動量や健康状態と関連
朝の身体活動は健康意識と関連している可能性がある。身体活動と時計遺伝子のSNPについても関連があるが、社会活動によってマスクされているとも考えられる。クロノタイプは、社会的影響が少ない後期高齢者でも健康状態と関連している可能性がある。しかし、これらの結果は身体活動のみの評価であり、長期的影響や体力については分からない。これは、今後の検討課題と考えている。
【質疑応答】
フロア●時計遺伝子のSNPは社会的にマスクされている可能性がある。後期高齢者では社会的影響が少ない。後期高齢者でクロノタイプと健康状態に関連があるというお話があったが、遺伝子多型の関連はあったか。
宮崎●後期高齢者でも時計遺伝子のSNPのデータがあり、現在、解析を進めている。後期高齢者は社会的影響がほぼないため、SNPの影響が強いと考えていた。まだ解析は終了していないが、横断的な解析では、予想に反して関連はなさそうである。今後、縦断的な解析も行いたい。
体内時計から栄養と運動による健康を探る
演者:前田朝美(柴田学園大学)
◆食事のバランスは子どもの体力と関連
青森県は平均寿命が短く、健康課題が多い短命県として知られている。特に30代後半から平均寿命が全国ワースト3となるなど、若年期から死亡率が高い。平均寿命を上げるためには、若年期から体力づくりをして、生活習慣病を予防する必要がある。体力づくりにおいては、糖質もエネルギー源として重要な栄養素である。そこで、糖質など栄養と運動の関連を体内時計の視点も含めて研究を続けてきた。
青森県のある小学校の3、4年生を対象に体力テストの結果と食事のバランスの関連について検討した。食事のバランスは朝食と夕食それぞれの主食、主菜、副菜の有無で4つのグループに分けた。朝食と夕食どちらも主食、主菜、副菜がそろっている子どもが最も多かった。次いで、夕食のみ主食、主菜、副菜がそろっている子どもが多かった。朝食のみ主食、主菜、副菜がそろっている子どもはいなかった。朝食、夕食ともに主食、主菜、副菜がそろっていない子どもも少数ではあるが存在した。
この4群で体力テストの結果を比較したところ、ソフトボール投げで評価した瞬発力、20mシャトルランで評価した全身持久力に食事との関連を認めた。どちらも朝食と夕食ともに主食、主菜、副菜がそろっている子どもは、朝食で主食、主菜、副菜がそろっていない子どもに比べ良好な結果であった。朝食の効果は朝食のみ主食、主菜、副菜がそろっている子どもの該当者がなく比較はできなかったが、夕食のみ主食、主菜、副菜がそろっている子どもに比べ、朝食と夕食ともに主食、主菜、副菜がそろっている子どもで若干成績が良い傾向が見られた。
◆朝のカゼイン食摂取で鉄の吸収が向上
鉄は酸素運搬を担っており、全身持久率とも関係すると考えられる。そこで、ラットを使って鉄の腸管吸収における日内リズムを検討した。日中を活動期にするために明暗周期を9〜21時を暗期、21時〜翌朝9時を明期とし、1週間予備飼育したあと実験を行った。暗期のうち、9〜13時、13〜17時、17〜21時の3回に分け給餌した。食餌はカゼインを多く含むカゼイン食もしくは植物性の小麦たんぱく質を多く含む小麦たんぱく質食の2種類を用いた。どちらもエネルギー組成比はたんぱく質が20%、脂質が20%、糖質が60%にそろえ3週間、pair-feeding法により飼育した。1日3回の給餌のうち1回をカゼイン食とした。カゼイン食の給餌時間により、朝カゼイン食群、昼カゼイン食群、夕カゼイン食群に分けた。食餌はカゼイン食、小麦たんぱく質食ともに必須アミノ酸のロイシンとフェニルアラニンを多く含んでいた。カゼイン食では各種の必須アミノ酸を多く含むのに対し、小麦たんぱく質食は特にリジンが少なかった。非必須アミノ酸としては、小麦たんぱく質食にグルタミン酸が多く含まれていた。
鉄は小腸を経由して代謝吸収された後、門脈血中に入る。門脈血中の鉄は朝カゼイン食群で朝のカゼイン食摂取後に上昇し、その後も高い値が続いた。昼カゼイン食群では、朝の小麦たんぱく質食摂取後に門脈血中鉄がある程度上昇したが、昼のカゼイン食摂取後の上昇は見られなかった。夕カゼイン食群では、夕のカゼイン食摂取により上昇したが、夕のカゼイン食摂取前は低値であり、1日を通して低い値となった。活動開始時に必須アミノ酸の多いカゼイン食を摂取することで鉄の吸収が高まり、1日継続する。つまり、子どもの体力づくりでも朝食の主菜の内容が重要と考えられる。
◆遅い時間の夕食で筋肉グリコーゲンと肝臓グリコーゲンが低下
筋肉グリコーゲンは運動時のエネルギー源となる。ラットを使って、筋肉グリコーゲンの日内リズムと摂食パターンの関連も検討した。明暗周期は日中を活動期とするため9〜21時を暗期にした。コントロール群は9〜13時、13〜17時、17〜21時と3回に分けて給餌し、夜食群は3回目の給餌を遅らせ明期となる21時〜翌1時とした。この食事条件で、pair-feeding法により3週間飼育を行った。コントロール群の筋肉グリコーゲンは摂食開始とともに速やかに上昇し、活動期で継続して上昇した。明期になると徐々に低下するという日内リズムが見られた。これに対して夜食群では給餌を行わなかった17〜21時に上昇は見られず、その後、21時〜翌1時に給餌した後も上昇は見られなかった。夕食時間帯の筋肉グリコーゲンの差は体力にも影響すると考えられる。
肝臓グリコーゲンの日内リズムも筋肉グリコーゲンと類似した変化が見られた。肝臓グリコーゲンの上昇は筋肉グリコーゲンの上昇よりも若干遅れるものの、コントロール群では摂食開始とともに上昇し、明期に入ると徐々に低下する日内リズムが見られた。これに対して夜食群では、給餌を行わなかった17〜21時に上昇は見られなかった。その後、21時〜翌1時に給餌した後も上昇せず、そのまま低下した。肝臓グリコーゲンは血糖を一定に保ち、糖質を供給する働きがある。糖質は脳のエネルギー源でもある。夜食の習慣は体力だけではなく、脳の活動にも影響すると考えられる。
活動開始時の朝に動物性たんぱく質を摂取すると鉄の腸管吸収が高まり、ヘモグロビンの合成を高める。夜食の摂取で活動のエネルギー源になる筋肉グリコーゲンや肝臓グリコーゲンが減少し、体力だけでなく脳の活動低下ももたらすと考えられる。
◆夜型は朝の身体活動量が少なく、甘味の認知閾値が上昇
さらに大学生16名を対象にクロノタイプによる身体活動量と味覚の関連を検討した。まず、朝は5〜11時、夜は22時〜翌2時の身体活動量を測定し、身体活動量の多い時間で朝型と夜型に分類した。クロノタイプで身体活動量を比較したところ、夜型では朝の身体活動量が少なくなっていた。しかし、夜の身体活動量は朝型と夜型で大きな差は見られなかった。
さらに朝型と夜型で甘味の認知閾値を比較した。朝食前の7時の甘味の認知閾値は朝型で低いが、夜型は閾値が高かった。夜型は午前中に身体活動量が低下し、甘味の認知閾値が高いため、夜型の生活が肥満にも関係していると考えられる。
◆子どもの体力づくりには規則正しい食事が重要
子どもの体力づくりには、朝食と夕食のバランスが影響していることが分かった。朝食から食事の質を整えることが鉄の吸収を高め、早めの夕食摂取で筋肉と脳へのエネルギー供給が維持され、身体活動量を向上させると考えられる。さらに、朝食を摂って、朝から活発に過ごす生活習慣が味覚にも影響し、肥満を予防する。子どもの健康と発達において、規則正しい食生活と毎食の食事内容は重要である。
【質疑応答】
フロア●朝のカゼイン食摂取で鉄分の吸収が向上するというお話があったが、その機序はどのように考えるか。アミノ酸に含まれる何らかの物質で、腸管に鉄分の吸収に関連する受容体が発現するなどの機序はあるのか。
前田●アミノ酸の働きについては調べてはいない。先行研究では骨髄での赤血球の産生に日内リズムがあるとの報告がある。このタイミングと、必須アミノ酸が多く含まれるたんぱく質の摂取のリズムが関係していると考えている。
フロア●朝型と夜型では甘味の認知閾値が異なり、夜型では朝の甘味の認知閾値が高いというお話があった。夜の甘味の認知閾値はどのようになるのか。
前田●夜型の場合、朝食、昼食、夕食の各食前で甘味の認知閾値は高い状態のまま推移していた。
フロア●塩味など他の味覚でもクロノタイプによる認知閾値の差があるのか。
前田●塩味や酸味、苦味の味覚についても検討したが、クロノタイプによる違いはなかった。今のところ結果が得られているのは甘味のみである。
フロア●夜型は1日を通して甘味の認知閾値が高めになっているため、朝食、昼食、夕食を問わず甘いものを多めに摂取しがちとなり、糖代謝に悪影響を与え、肥満の原因になると考えてよいのか。
前田●そのような仮説を持っている。
フロア●筋肉グリコーゲンの上昇と運動能力が関連しているというお話では、マウスのヒラメ筋で評価されていた。ヒラメ筋は主に1型筋繊維で、グリコーゲンを蓄積しないタイプの筋肉である。ヒラメ筋の上にある腓腹筋などグリコーゲン分解型の筋肉では大きな差が出る可能性がある。このような筋肉で評価した方がよいと考える。腓腹筋などのデータがあれば教えてほしい。
前田●ヒラメ筋の他に腓腹筋も測定したが、摂食時間と関連があったのはヒラメ筋だけであった。
高橋●身体活動量で朝型、夜型を分類した際に22時〜翌2時までで評価したのはどのような理由か。
前田●対象が学生であり、通学時間が長い人も多かった。そのため、朝の身体活動量は5〜11時で評価した。また、夕方から夜の早めの時間はアルバイトなどの影響があった。そのため、夜は22時〜翌2時で評価した。
子どもの生活習慣と健康・学習習慣について−早稲田大学・ベネッセ教育総合研究所の共同研究より−
演者:持田聖子(ベネッセ教育総合研究所)
◆生活習慣と心身の健康や学習との関連を検討
ベネッセ教育総合研究所は、岡山に本社がある株式会社ベネッセコーポレーションの研究部門である。株式会社ベネッセコーポレーションでは進研ゼミを中心とした家庭教育事業、進研模試などアセスメント事業、塾事業など子どもの学習や生活に関するサービスを展開している。当研究所は1980年の設立以来、乳幼児から大学生までの子どもの学びや生活に関する調査、研究を行い、得られた知見を社内外に還元している。
2020年の新型コロナウイルス感染症拡大により休校を余儀なくされた。この時期の子どもの生活習慣の乱れが指摘され、生活習慣の大切さが見直されることとなった。当研究所では学ぶための基盤として健康的な生活習慣の形成が重要と考え、2021年度の第1期と2022年度の第2期の2年間にわたり、主に睡眠と食事などの生活習慣の実態と、心身の健康や学習との関連を検討した。第1期の対象は小学校4年生から高校3年生、第2期は幼児から小学校3年生を対象とした。
第1期は1学年1,030人を対象にWebによる質問調査を行い、9,272人の有効回答を得た。第2期は第1期と同様にWebによる質問調査を行ったが、子ども自身が回答することは難しいため、保護者に回答をお願いした。有効回答は6,177人であった。時期は第1期、第2期ともに6月末から7月初めに行った。調査項目は睡眠や食事、日常の活動時間、心身の健康や睡眠の状況を測る尺度などである。第2期では年少の子どもは保護者の生活リズムの影響も受けているとの仮説のもと、保護者の生活状況も合わせて聴取した。
◆規則的な生活とQOLが関連
睡眠習慣を学年別に比較したところ、小学校1年生は5歳児に比べ平日の起床時刻が約20分早くなっていた。また、高校1年生は中学3年生に比べ平日の起床時刻が早くなる傾向にあった。休日の起床時刻は学年が上がるにつれて緩やかに遅くなっていた。5歳児と小学校1年生の20分の差は全体の平均値である。幼児期は幼稚園、保育園、認定こども園と様々な施設に通っており、施設の種類によっても起床時刻が変わる。今回の調査では、保育園児は幼稚園児より起床時刻が早かった。したがって子どもが通う園や個別性によって、小学校入学時の起床時間が20分以上変化することも考えられる。
就寝時刻は平日、休日ともに、学年が上がるにつれて緩やかに遅くなっていた。幼児は通う施設によって午睡の時間が異なり、保育園児は午睡の時間が長くなっていた。午睡の長さと夜の寝付きの良さの関連を検討したところ、午睡が長いほど夜の寝付きが悪くなっていた。保育園という集団生活の中で午睡時間の調節は難しいが、夜の寝付きへの影響を考えると午睡時間の調節も必要と考えられる。
幼児や小学校低学年の子どもの9割強は平日は同じ時間に寝て、同じ時刻に起きていると回答しており、おおむね規則的な生活をしていた。ただし、一部に規則的でない子どもも存在していた。平日、休日ともに規則的と回答した群、平日もしくは休日のいずれかが規則的な群、平日、休日ともに不規則な群で、子供のQOL尺度(KINDLR)で比較した結果、平日、休日ともに規則的と回答した群はその他の群に比べて、有意にQOLが高かった。
◆運動時間の長さは良質な睡眠と関連
スポーツや外遊び、習い事、身体を動かす習い事などを行った運動時間についても質問した。幼児、小学生ともに1日平均の運動時間は約1時間であった。
運動時間と夜の寝付きの良さの関連を比較したところ、平日の運動時間が60分以上の群は、運動時間が60分未満の群や運動時間が0分の群に比べ、夜の寝付きが良いという回答が多かった。昼間の運動は、良質な睡眠に重要な要素である。
◆社会的時差ボケは精神的不健康と関連
「社会的時差ボケ」は平日と休日で生活リズムが異なるために起きる体の不調を指す。社会的時差ボケの指標として平日の睡眠時間帯の中央値と休日の睡眠時間帯の中央値の差があり、この値が大きいほど社会的時差ボケが大きいことを示す。社会的時差ボケは学年が上がるにつれて増えていた。平日の就寝時間は学年が上がるにつれて遅くなるが、平日の起床時間は学年が上がるほど早くなる。この影響で社会的時差ボケが大きくなると考えられる。社会的時差ボケは幼児で20分程度だが、高校生になると1時間を超えていた。
社会的時差ボケを性差で比較した報告では、多くの学年で女子は男子に比べ社会的時差ボケが大きいことが明らかになっている。また、社会的時差ボケと日中の疲れやすさ、イライラ、気分の落ち込み、昼間の眠気といった精神的な不健康との関連も報告されている。
◆就寝直前のスクリーンタイムは入眠までの時間を延長
スクリーンタイムについても調査した。スクリーンタイムはテレビやデジタルメディアなどの画面を見る時間である。就寝前のスクリーンタイムは学年が上がるにつれて増えていた。
寝る直前までデジタルメディアやテレビを見ていると、画面の青色光によって体内時計が遅れ、夜型化を促進する可能性がある。各国の子どもにおけるデジタルメディア視聴のガイドラインでも就寝前のスクリーンタイムは控えるよう推奨されている。
第1期で寝る直前までのスクリーンタイムの有無で入眠状況を比較したところ、スクリーンタイムがある群はない群に比べ、入眠までの時間がかかり、昼間の眠気があるという回答が多かった。就寝直前のスクリーンタイムは、良質な睡眠や日中の健康のために避けたほうがよい。
◆夜型では夜食摂取率が上昇
食事の規則正しさと健康やクロノタイプの関連についても検討した。幼児、小学校低学年ともに夜型の子どもは朝型の子どもに比べ、夜食摂取率が高くなっていた。夜食内容としては、夜型の子どもでアイスクリームやジュースの摂取が朝型の子どもに比べ有意に多かった。これらの糖質を多く含む食品を夜に摂ると血糖値が上がり、良質な睡眠が妨げられる。夜食を食べる場合でも糖質が多い食品をできるだけ避けるなどの工夫が必要である。
第2期では約9割で朝食時刻、夕食時刻は規則的であると回答していた。QOLと食事時間の関連を検討したところ、朝食、夕食ともに規則正しい子どもは朝食、夕食ともに不規則な子どもに比べQOLが高い傾向が見られた。この傾向はとくに幼児で顕著であった。QOL維持には睡眠だけでなく食事の規則正しさも重要と考えられる。
◆朝食内容と起床時間は関連
朝食内容とクロノタイプの関連も検討した。朝食内容は和食、和洋食、洋食、シリアルに分類した。休日の起床時間は朝食が和食の子どもで最も早く、朝食がシリアル食の子どもに比べ約20分早かった。クロノタイプと朝食内容で栄養素摂取量を比較したところ、たんぱく質や野菜類の摂取量は朝型で朝食が和食の子どもで最も多かった。菓子類や砂糖入り飲料の摂取頻度は朝型で朝食が和食の子どもが最も少なかった。
朝食の孤食と起床時刻の関連を検討した。朝食が孤食の子どもと孤食でない子どもで比較したところ、孤食の子どもは起床時刻が平日、休日ともに遅くなっていた。家族で生活スタイルを合わせ、一緒に朝食を食べることが子どもの健やかな生活に重要と考えられる。
◆生活の規則性は学習習慣と関連
第1期で生活の規則性と成績との関連も検討した。成績で上位層、中位層、下位層に分け、睡眠の規則性、食事の規則性、学習時間の規則性、就寝前のスクリーンタイムなどを比較した。成績上位層は成績下位層に比べ、睡眠の規則性、食事の規則性、学習時間の規則性が高かった。学習にも生活の影響はあると考えられる。
第2期では小学校低学年の子どもに対し、「平日は、毎日家で勉強する」「大人に言われなくても自分から進んで勉強する」など学習習慣に関する6項目の質問を行い、合計得点を学習習慣得点とした。さらに、睡眠の規則性と学習習慣得点の関連を検討した。その結果、平日、休日ともに睡眠が規則な子どもは平日、休日ともに睡眠が不規則な子どもや平日もしくは休日のいずれかの睡眠が不規則な子どもに比べて、学習習慣得点が有意に高くなっていた。これにより、学習習慣と睡眠習慣は関連があることが示された。
◆学習習慣には規則正しい生活習慣が重要
就寝時刻、起床時刻や食事時間といった生活習慣は学習習慣と関連があることが改めて確認できた。学習習慣の維持には規則正しい生活習慣の維持が重要と考えられる。
【質疑応答】
フロア●私たちも小学校5年生から高校3年生の身体活動量や生活習慣のデータを集め、地理情報システム(GIS)を用いて、貧困度や大学進学率などとの関連を検討した。その結果、貧困度が高い地域では生活習慣が悪化していることが分かった。生活習慣と世帯の収入は関連があると思われるが、そのようなデータはあるのか。
持田●世帯年収や学歴のデータはあるが、まだ十分に検討していない。
フロア●スマートフォンの保有台数は世帯収入と負の相関があるというデータがある。休日はスクリーンタイムが増え、座位行動が増える。おそらく、このような関連が出てくるのではないか。
持田●今後分析してみたい。
フロア●今回のWeb調査は進研ゼミの会員を対象にしているのか。それとも一般から広く募集したのか。また、回答にはインセンティブがあるのか。
持田●調査はインターネット調査会社に委託し、一般から募集した。回答後はポイントが得られると聞いており、多少の謝礼はある。
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