第26回日本病態栄養学会年次学術集会 Report : シンポジウム1 病棟栄養管理業務確立にむけた取り組みと今後の課題
2023.06.23栄養素~入院栄養管理加算の拡大にむけて~
・基調講演で厚生労働省の日名子まき氏は、まず近年の診療・介護報酬の改定で栄養管理が大きく評価されるようになった背景とその経緯に触れ、令和4年度診療報酬改定の目玉となった管理栄養士の病棟配置の促進によって、栄養障害を持つ多くの患者に寄り添う栄養管理の実現を訴えた。また、今後さらに重要性を増す栄養管理と、それを担う管理栄養士の業務内容検討の必要性を説いた。
・愛媛大学医学部附属病院の利光久美子先生は、全国国立大学病院栄養部門会議の活動に触れ、入院前から退院に向けたシームレスな栄養管理に求められる病棟専従管理栄養士の配置とその効果、またさらなる拡充に向けた今後の課題について具体例を踏まえながら示した。
・武蔵野赤十字病院の原 純也先生は、管理栄養士の病棟配置によって実施される迅速な栄養管理の対応が、アウトカムとして患者QOL の向上や医師・看護師をはじめとする病院スタッフの負担軽減をもたらす、とのデータを示し、今後の体制のさらなる充実を呼び掛けた。
・総合討論ではフロアからの質問、意見に対し、管理栄養士の病棟配置を済ませた施設からの提言もあり、配置を目指す病院からの具体的な課題や加算についての質疑によって活発な議論となった。
【株式会社ジェフコーポレーション「 栄養 NEWS ONLINE 」編集部 講演要旨】
[基調講演]
令和 4 年度診療報酬改定を踏まえた管理栄養士業務の今後の方向性
日名子 まき(厚生労働省 保険局医療課)
診療報酬における栄養管理評価が充実
診療報酬での栄養管理に関する評価は、以前から入院や外来、在宅での栄養食事指導料が認められていた。平成 18 年度診療報酬改定では管理栄養士を配置し、栄養計画に則った栄養管理を評価する栄養管理実施加算が追加された。その後、栄養管理実施加算の算定が増えてきたことから、平成 24 年度診療報酬改定では、入院基本料の通則に栄養管理の体制を位置付け、栄養管理実施加算は入院基本料に包括化された。つまり、栄養管理は入院で行うべき基本の体制と位置付けられた。
平成 22 年度診療報酬改定では、チーム医療重視の観点から、栄養サポートチーム加算も加えられた。平成 30 年度の介護報酬と診療報酬の同時改定では回復期リハビリテーション病棟における栄養管理の充実、緩和ケアでの個別栄養食事加算が追加された。
令和 2 年度診療報酬改定では摂食嚥下支援加算で管理栄養士の位置付けがなされ、 ICU で早期栄養介入管理加算が評価された。令和 4 年度診療報酬改定では、周術期栄養管理実施加算や入院栄養管理体制加算によって急性期での高度な栄養管理が評価された。このように診療報酬における栄養管理に関する評価が充実し、管理栄養士の役割も増している。
医療現場でも積極的な管理栄養士の活用が望まれており、チーム医療の中で管理栄養士の活躍が増えてきた。そこで、チーム医療における管理栄養士の位置付けも強化されてきた。 2010 年のチーム医療に関する通知では管理栄養士について明記され、患者の高齢化や生活習慣病の有病率増加に伴い、栄養状態の改善、維持が重要になっているため、食事内容や形態の決定または変更、特別治療食の医師への提案、栄養指導の実施、経腸栄養剤の種類の選択や変更の提案を管理栄養士が実施できるとしている。
現在、診療報酬におけるチーム医療への評価については、急性期では栄養サポートチーム加算、回復期リハビリテーション病棟では入院料で管理栄養士の位置付けを評価し、慢性期においても栄養サポートチーム加算が認められている。
管理栄養士病棟配置は治療効果向上をもたらし、医師、看護師の負担を軽減
2010 年の厚生労働省のワーキンググループで示された資料には、管理栄養士は入院患者の給食の管理が主な業務と位置付けられてきたが、管理栄養士が必要な場合に病棟を訪問する病棟訪問型の業務が増えており、将来は管理栄養士を病棟に配置し、入院患者に対するチーム医療に加わり、カンファレンスへ参画することが望ましいと記されている。入院患者の栄養管理において管理栄養士病棟配置を行うことで、栄養療法や栄養管理の充実により治療効果を高め、医療安全の強化や医師、看護師の負担軽減にもつながる。そこで、病棟配置型の管理栄養士を増やすための取り組みも行われた。
管理栄養士は以前から、給食管理業務、外来食事指導、入院栄養食事指導のほか、その他の栄養管理業務、栄養評価、栄養計画、栄養管理、モニタリングなども医師、看護師と連携して実施していた。管理栄養士の病棟配置により、これらの業務も、管理栄養士がより主体的に取り組める。これにより患者の病態、状態に応じたきめ細やかな栄養管理の実施が可能になる。
2020 年に行われた管理栄養士の業務内容に関する調査では、入院患者に対するエフォートが約 30 % 、外来業務が約 25 % 、給食業務が約 40 % であった。一方で、管理栄養士の病棟業務時間が長くなるにつれて、医師などへの業務支援対応時間も有意に長くなることも示されている。今後は、管理栄養士の病棟での業務を増やすことが課題になる。
管理栄養士の病棟配置を促進
栄養士の配置については、病院の最低基準として示されている医療法施行規則で、 100 床以上の病院では栄養士を 1 名以上配置する、との基準がある。その後、平成 30 年診療報酬改定で回復期リハビリテーション病棟入院料において、入院料 1 の算定要件として、専任常勤の管理栄養士 1 名の配置が努力義務とされた。回復期リハビリテーション病棟においては、患者の栄養状態を踏まえたリハビリテーションや、リハビリテーションに応じた栄養管理推進のため、管理栄養士のリハビリテーション計画策定への参画、管理栄養士や医師、看護師などが栄養状態の定期的な評価・計画の見直しの実施も要件とされた。また、回復期リハビリテーション病棟に関しては、令和 2 年度診療報酬改定で入院料 1 の算定には専任常勤の管理栄養士 1 名以上の配置が必須とされ、それ以外の入院料算定の場合も専任常勤の管理栄養士 1 名以上の配置が望ましいとされた。このように、とくに回復期リハビリテーション病棟で管理栄養士の病棟配置が充実してきた。
令和 2 年度診療報酬改定で、集中治療室における早期経腸栄養による栄養管理の評価が追加された。患者の早期離床や在宅医療推進の観点からリハビリテーションはすでに評価されていたが、新たに早期栄養介入管理加算が認められている。早期栄養介入管理加算は、 48 時間以内の経腸栄養実施、集中治療室への基準を満たす専任管理栄養士の配置が要件とされ、集中治療室専任の管理栄養士配置についても評価された。早期栄養介入管理加算については、令和 4 年度診療報酬改定でさらに見直され、集中治療室入室後 48 時間以内の経腸栄養開始で 400 点を加算し、経腸栄養を開始できなくても入院後早期からの栄養管理実施で 250 点の加算とされた。また、対象範囲が特定集中治療室のみから、救命救急やハイケアユニットなどにも拡大された。
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特定機能病院では専従常勤の管理栄養士配置も評価
令和 4 年度診療報酬改定では、特定機能病院において、病棟への専従常勤の管理栄養士 1 名以上の配置に対する評価が加えられた。以前から一部の病院では先進的な取り組みとして、専従常勤の管理栄養士配置が進められていたが、診療報酬においても専従常勤の管理栄養士配置が評価されることになり、管理栄養士の病棟配置として大きな進展となった。
特定機能病院における栄養状態の調査では、入院時、患者の 21 % で栄養障害が認められ、 43 % は病態栄養管理が必要であり、 11 % は栄養障害かつ病態栄養管理が必要だったとの報告がある。つまり患者の約 80 % で入院時の栄養管理が必要だったことになる。また、管理栄養士の病棟配置が、入院患者 40 名に対し 1 名の病院では、入院患者 80 名に対し管理栄養士 1 名の病院に比べ、早期退院が推奨され、在院日数が短縮された。これらのエビデンスを踏まえ、特定機能病院における専従常勤の管理栄養士 1 名の配置が評価されることとなった。
医療での栄養管理の重要性の増大を背景に、近年は栄養管理に関する診療報酬での評価が充実してきた。今後は栄養管理や管理栄養士業務の方向性を検討する必要がある。
限られた管理栄養士を必要な部分に振り分けることが重要
現在、厚生労働省などでは、団塊の世代が 75 歳以上を迎える 2025 年を目途に、地域包括ケアシステムの構築を推進している。同システムは、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることを可能とする医療、介護、予防、住まい、生活支援が包括的に確保される体制の構築を目指している。その 2025 年が目前に迫り、医療と介護が連携するシステム構築が求められている。令和 6 年度は診療報酬と介護報酬、障害福祉サービス等報酬が同時改定となり、医療や介護のあるべき姿を広い視点で考えていく必要がある。
厚労省では 2040 年を展望した施策も進めている。日本の高齢者の急増は、 2025 年をピークに緩やかになると推定される。一方で、 2025 年以降 2040 年にかけて、高齢者を支える現役世代の生産年齢人口の減少が加速化すると推定される。医療、介護の体制維持が大きな課題となっている。就業者数の減少に対し、医療、介護に従事する人材は一定数必要である。つまり、就業者数全体に占める医療、介護従事者の割合は増えていく。現役世代人口が急減し、さらなる労働力が制約される中で、医療や介護サービスを維持するためには、ロボットの活用など効率化が求められる。厚労省では、これらの課題に対し、 2040 年に向け、多様な就労、社会参加、健康寿命の延伸、医療福祉サービスの改革をベースに、全体的な医療や介護に関する施策を進めている。近年の診療報酬改定によって、管理栄養士の病棟配置の重要性が高まり、病院の管理栄養士数は増えている。今後も管理栄養士の病棟配置は推進されるべきであり、医療、介護の担い手となる管理栄養士を充実させる必要がある。ただし、日本全体の就業人口が減少する中で管理栄養士のマンパワーを必要な部分に使うことが重要になる。そのためには管理栄養士の業務のうち、入院患者のサポートなど病棟での業務を増やしていく必要がある。現在、管理栄養士は給食関連の業務が最も多い。その中で可能な限り効率化し、業務の中心を入院患者に寄り添った内容へと転換しなければならない。
栄養管理の効果や管理栄養士の業務内容の検証が必要
近年の診療・介護報酬の改定で、栄養管理に関する評価は充実してきた。しかし次の一歩へと進むには実際に算定され、効果を示すことが重要となる。今後も栄養管理の評価を維持、拡大するには、その効果の検証が求められる。日本病態栄養学会でも、病棟配置管理栄養士のアウトカムを検証していただきたい。
2040 年を見据えると、限られたマンパワーで病棟において患者へ寄り添った栄養管理する点では、効率化が重要になる。しかし、入院患者の 80 % 以上で食事が提供されていることを踏まえると、給食管理業務も重要である。効率化を進めながら、患者に寄り添った栄養管理に繋げるために、日本病態栄養学会に参加している方を含めた皆様のお知恵を借りたい。
病棟における専従業務の確立に向けた取り組み
利光久美子(愛媛大学医学部附属病院 栄養部)
(公社)日本栄養士会と全国国立大学病院栄養部門会議で要望してきた専従常勤の管理栄養士の病棟配置が実現
令和 4 年度診療報酬改定で、特定機能病院における入院栄養管理体制加算として、専従常勤の管理栄養士病棟配置に対する評価が認められた。管理栄養士の病棟配置については 2011 年から全国国立大学病院栄養部門会議でも、長年に渡り要望を続けてきた。
同会議は、全国の国立大学 42 大学の附属病院と 1 医科研究所で組織され、病床数は合計で 32,633 床であり、同会議の組織する施設においては、 476 名の管理栄養士が在籍している。同会議では、毎年 1 回開催の会議で、組織の運営体制や診療報酬等への要望などの検討を行っている。また、管理栄養士の人材育成や質の担保を図るために、教育専門部会を設置し研修体制を整えている。
多数の患者で栄養管理が必要
2011 年 7 月~ 9 月に国立大学病院のうち特定機能病院に入院した患者を対象にした調査では、急性期においても患者の高齢化が進んでいた。かつて入院患者の平均年齢は 60 代だったが、現在は 75 歳を超えている。この調査では、入院判断に至った患者の 21 % で、アルブミン低下や浮腫・腹水の貯留、また褥瘡が認められ、栄養状態の低下は治療への影響があると考えられた。さらに、 47 % には糖尿病、肝疾患、心疾患など併存疾患があり、病態に対する栄養管理が必要な患者であった。 11 % の患者では栄養障害および病態への栄養管理の必要性が併存していた。
つまり約 80 % の患者において、入院の時点からの栄養管理が必要な状況であった。また、併存疾患による栄養ハイリスク患者が増加する一方で、 DPC 管理に伴う入院期間の短縮によって、入院前から入院中、退院後までシームレスな栄養管理が求められる。
多くの管理栄養士が配置されている病院は平均在院日数が短縮
この調査では国立大学病院を、患者 40 名につき管理栄養士1名配置の病院と、患者 80 名につき管理栄養士 1 名配置の病院に分けて比較した。大学病院における診療体制は、基本的に同様である。その中で患者 40 名に 1 名の管理栄養士の配置病院と患者 80 名に管理栄養士 1 名配置の病院に比べると、平均在院日数が約 1 日短かった。
平均在院日数は治療成績を反映しているという意見もある。しかし、患者 40 名に管理栄養士 1 名配置の病院では患者 80 名に管理栄養士 1 名配置の病院に比べ、 1 人の患者に対して病棟で行う業務時間は長くなっていた。管理栄養士 1 人あたりの患者数と入院在院日数は正の相関があることも分かった。さらに患者 40 名に管理栄養士1名配置の病院では患者 80 名に管理栄養士 1 名配置の病院に比べ、体重変化率が有意に良好で、エネルギー摂取量、たんぱく質摂取量も有意に多かった。管理栄養士の配置人数が多いと迅速な対応が可能で、患者の平均在院日数やエネルギー摂取量、たんぱく質摂取量によい影響をもたらすことが示唆される。
管理栄養士の病棟配置で患者対応までの時間が短縮
管理栄養士の病棟配置の有無で、医師の指示への対応時間の違いを検討した報告がある。病棟に配置されていない管理栄養士は栄養管理室や栄養部の事務室が業務の場と考えられる。
病棟に配置されていない管理栄養士は、医師からの電話連絡を受けて患者に聞き取りを行い、食事の変更などの介入実施までに約 70 分かかっていた。しかし、病棟に管理栄養士が配置されていることで、患者自身の状態を直接聞き取ることが可能となり、栄養管理の判断と対応が迅速に行え、また主治医や看護師、薬剤師との調整もタイムリーに実施することが可能となった。個別に求められる食事介入も、約 10 分であった。
入退院支援センターと連携し、入院前から食生活の聞き取りが必要
入院栄養管理体制加算により、病棟専従管理栄養士の業務も明確化された。そのうち、入院前の食生活などの情報収集、入退院支援部門との連携については、多くの病院で栄養スクリーニング、アレルギーの確認、栄養ケア計画書作成など通常の管理栄養士の業務として行われている。したがって、病棟専従管理栄養士の業務では、栄養状態の定期的な評価と病態に応じた食事内容の調整、医師、看護師と連携した栄養管理の共有がポイントとなる。今回の加算をきっかけに、今後の病棟での栄養管理の在り方を考える必要がある。
急性期病院では平均在院日数は約 12 日と短縮されている。例えば、糖尿病合併患者では、手術前に糖尿病のコントロールが必要な場合があるが、入院前の食生活情報を入院時に収集していたのでは、適切な管理が難しい。そこで外来や入退院支援センターを通じて入院前の食生活に関する情報を得ているケースもある。
愛媛大学病院でも、入退院支援センター(診療サポートセンター)に管理栄養士を配置し、入院が確定した段階で入院前の食生活の情報を収集するとともに、栄養スクリーニングを実施する。これにより入院の時点から患者に即した栄養管理を行うことができ、病棟専従管理栄養士の業務もスムーズになった。病棟専従管理栄養士と入退院支援センターの連携は、在宅や外来での治療にも繋がると考えられる。
病棟専従管理栄養士の業務は多岐にわたる。入退院支援センターの管理栄養士はカンファレンスで入院前の栄養状態の情報を病棟専従管理栄養士に繋げる。病棟専従管理栄養士は、この情報をもとに担当病棟の入院患者に対応する。また、看護師が中心となって実施する朝の申し送りにも管理栄養士が出席するなど情報共有や相談も可能となる。各病棟の栄養カンファレンスや診療科のカンファレンスにも参加することで、病棟での栄養管理だけではなく、医師の治療の奏功や患者の QOL 向上を目指す。そのためには、部内での症例検討も必要となる。
管理栄養士の業務効率化と現実的な配置計画も重要
組織の大きい国立大学病院では各医療従事者の定数が定められており、診療報酬改定で病棟専従管理栄養士に対する評価が認められても、すぐに管理栄養士の人員確保と配置を行うことは困難である。業務の明確化と病院の理解がなければ、管理栄養士の増員は実現できない。そこで、各大学病院では病院長などに予算や人員確保に関わるヒアリング等を頂き、管理栄養士の配置計画についても提示を行っている。さらに、配置による効果も重視する必要があることから、業務のマニュアル化も進めている。
収益は病院経営上重要であるため、管理栄養士の病棟配置による試算も行った。婦人科病棟の患者約 300 例を対象とした調査では、平均在院日数 13.4 日で、入院中の体重変化率には有意差を認めなかった。しかし、エネルギー摂取量、たんぱく質摂取量は管理栄養士の病棟配置により増加している。
管理栄養士の業務効率化のためには、患者対応やスタッフ間の会話を増やし、迅速な情報共有を行う必要がある。それには病棟の情報の IT 化も求められる。
病棟専従管理栄養士の役割確立とエビデンス構築が必要
病棟専従管理栄養士は病棟スタッフの一員として治療の奏功を目指している。そのためには、病棟専従管理栄養士の配置を充実し、患者の病態や身体状況などを考慮した適切な栄養管理が求められる。また、病棟専従管理栄養士の業務の明確化と有用性を示していく必要がある。管理栄養士の望ましい役割を確立し、エビデンスを構築するための取り組みを進めていきたい。
病棟への管理栄養士配置の充実度による導入アウトカム
原 純也(武蔵野赤十字病院 栄養課)
管理栄養士の専門性により、適切な栄養管理が実現
診療報酬における栄養管理については、平成 18 年度診療報酬改定から栄養管理実施加算が始まるなど、様々な評価が行われてきた。令和 4 年度診療報酬改定でも特定機能病院、一般の急性期病院、それ以外の病院それぞれで管理栄養士が行う栄養管理が評価されている。しかし、診療報酬で評価されたため病棟に管理栄養士を配置するという考え方は本末転倒で本来の目的を達成できない。管理栄養士の業務は多様化し、病棟に訪問する形ではなく、病棟配置で患者に迅速に対応することが求められるようになった。より適切な栄養管理のために病棟への管理栄養士配置が求められている。
そこで、日本栄養士会医療職域では、 2020 年に病院管理栄養士ビジョンという概念図で病院での栄養管理の在り方と管理栄養士の役割を提示した。必要な栄養管理の実施には、管理栄養士が専門性を確立する必要があり、管理栄養士、栄養士の教育研修充実が求められている。基礎に専門性を有することで管理栄養士や栄養士が様々な場面で活躍できる。
管理栄養士の病棟配置で栄養管理に関する加算が増加
管理栄養士が病棟に配置されている施設と所属は病棟以外だが病棟を担当する管理栄養士を決めている施設に分かれている現状で、 2021 年の日本栄養士会による栄養部門実態調査において、管理栄養士病棟配置施設と管理栄養士病棟担当施設の比較が行われた。
その結果、病棟配置施設では病棟担当施設に比べ、外来栄養情報食事指導( 2 回目以降)、在宅患者訪問栄養食事指導、再入所時栄養連携加算による介護保険施設管理栄養士との連携などの加算が多かった。さらに、管理栄養士の病棟配置により、医師や看護師の業務負担が軽減されたことも明らかになっている。
管理栄養士病棟配置で医師や看護師の負担が軽減
武蔵野赤十字病院では 2011 年から常勤の管理栄養士を配置し、現在は 611 床に対して常勤 13 人まで管理栄養士を増員した。さらに、 2013 年から 1 つの病棟に 1 人の管理栄養士を配置し、現在は全病棟への管理栄養士の配置を完了している。
管理栄養士病棟配置の充実によって、栄養管理の質の向上や医師、看護師の負担軽減に繋がるか検討するため、 2013 年の常勤管理栄養士 8 名体制時と 2022 年の常勤管理栄養士 13 名体制時で業務量の変化を調査した。管理栄養士の充実は特別食加算割合、栄養食事指導件数、個別栄養食事初回対応件数で評価した。医師や看護師の負担軽減は食事や栄養に関する業務時間で評価した。
当院の栄養食事指導の依頼では、身長、体重、年齢、性別、活動量から患者のエネルギー、たんぱく質などの目標量設定を行い、必要に応じて食事変更を行う。栄養食事指導の所要時間は 1 件約 10 分、食事変更の所要時間は 1 件約 5 分である。個別の対応では、例えば牛乳アレルギーの患者に対して、ヨーグルトは問題ないのか、シチューやハンバーグなどに含まれる牛乳であれば問題ないのかなど細かく質問し、 1 件約 30 分の所要時間となる。
特別食加算割合、栄養食事指導件数、個別栄養食事初回対応件数は、いずれも常勤管理栄養士 13 名体制時で 8 名体制時に比べ、有意に増加した。病棟への管理栄養士配置により、患者の食事栄養での困りごとにすぐ対応できるようになったと考える。管理栄養士 1 人あたりの食事や栄養に関する業務時間は約 7.1 日、 55.3 時間であった。当院の場合は病棟配置の管理栄養士、医師から特別食加算や栄養食事指導の依頼について包括的な指示をもらい、管理栄養士が必要な介入を検討し、承認を得る。したがって、管理栄養士病棟配置により、医師や看護師の負担が軽減できたと考えている。この結果から、管理栄養士の病棟配置は入院患者の栄養管理の質を向上させ、医師や看護師の負担軽減にも繋がると示唆される。
管理栄養士病棟配置で患者の体重減少が抑制
さらに、管理栄養士病棟配置による患者の QOL 向上効果について、当院を中心とした 10 施設の多施設共同研究で検討した。対象の施設を管理栄養士の病棟訪問型施設と病棟配置型施設に分け、体重測定と栄養科に対するアンケート調査による管理栄養士配置状況や管理栄養士数、給食委託の状況を比較した。対象患者は 2021 年 3 月から 7 までの期間に、心不全、脳卒中、癌、誤嚥性肺炎などで入院した 18 歳以上 75 歳未満とした。
管理栄養士の病棟配置型は 4 施設、病棟訪問型は 5 施設であった。病床数は病棟配置型 500 床、病棟訪問型 686 床、平均管理栄養士数は病棟配置型 14.8 人、病棟訪問型 9.2 人、管理栄養士 1 人あたり病床数は病棟配置型 41.5 床、管病棟訪問型 78.2 床、給食業務委託状況は病棟配置型で全面委託 2 施設、一部委託 2 施設、病棟訪問型で全面委託 3 施設、一部委託 2 施設であった。管理栄養士の病棟配置型と病棟訪問型で患者の性別、年齢、疾患に関して有意差はなかった。
管理栄養士の訪問までにかかる日数は、病棟配置型 1.7 日、病棟訪問型 7.8 日で、患者へ迅速に訪問できることが管理栄養士病棟配置型の特徴と考えられる。食事箋変更回数、栄養指導回数は病棟配置型と病棟訪問型で有意差は認めなかった。残食量、エネルギー摂取量、たんぱく質摂取も、管理栄養士の病棟配置の有無と体重減少量、体重減少率には有意な関連を認めた。この結果から、管理栄養士 1 人あたりの病床数が 50 床未満の施設では、体重減少が有意に抑制されたと考えられる。
管理栄養士病棟配置により対応が迅速化し、患者の QOL が向上
菅野らの報告では、管理栄養士の病棟滞在時間が長くなると、患者の行動能力や食欲が向上することが示されている。また、日本では低栄養状態で回復期リハビリテーション病棟に入院した脳卒中の高齢患者に対して、管理栄養士が理学療法士とともにリハビリテーション計画の作成に参画し、リハビリテーション実施に合わせた個別に栄養管理によって、約 90 % の患者で栄養状態が改善したとの報告もある。これらの結果から、管理栄養士病棟配置によって、即座に患者対応が可能になり、体重減少の抑制や、患者 QOL に直接的に寄与すると考えられる。今後、さらに大規模なデータ、介入研究を活用した調査、研究事業を実施してエビデンスの構築が求められる。
管理栄養士病棟配置で適切な食事変更、栄養食事指導の実施が可能となり、医師や看護師の負担軽減に繋がる、患者へのファーストアクションが早くなり、体重減少が抑制されると考えられる。日本栄養士会では病院での管理栄養士病棟配置を推進し、よりきめ細やかに、より早い患者対応によって、患者 QOL の向上とともに、患者を幸せにする体制構築を目指したいと考えている。
【総合討論】
フロア ● 当院でも管理栄養士増員について、上層部と交渉中だが、現状は診療報酬だけでは難しい。管理栄養士病棟配置のアウトカムについて、タスクシフトなどのメリットをアピールする必要を感じている。管理栄養士病棟配置のアウトカムについて、エネルギー摂取量には差がなく、体重減少が抑制されたとのお話だが、これは点滴や経管栄養によるものか、合併症の減少のためか。
原 ● 輸液などの投与方法の影響もあると推察する。体重減少抑制には適切な栄養管理が必要だ。今回の結果では、エネルギー摂取量に、管理栄養士病棟配置の有無による有意差はなかったが、そもそもエネルギー摂取目標量設定が誤っていた可能性がある。管理栄養士が多い施設ではモニタリングで適切なエネルギー摂取目標量を設定し栄養投与が行われたため、体重減少の抑制に繋がったと考える。
フロア ● 病棟配置の管理栄養士には医師とディスカッション可能なある程度の知識が求められる。配置された診療科の専門知識も必要だ。現在は病棟配置できる管理栄養士は 5 年以上の経験と様々な講習受講が必要だ。ただし外科系と内科系で、求められる知識も異なる。原先生の施設の管理栄養士は医師と対等に議論できるのか、またはオールマイティにある程度の知識があればよいというお考えか。
原 ● 武蔵野赤十字病院では一つの病棟から管理栄養士配置を始め、その病棟である程度の栄養管理が確立できた。その後、管理栄養士の増員が実現したため、新たに管理栄養士を病棟に配置し、育成を始めた。病棟で育成終了した管理栄養士は他の病棟に異動させた。現在は 2 、3 年ごとに異動し、ローテーションしている。また、当院ではチーム制を採用している。このチームで
症例のディスカッションなど病棟横断的な教育をしている。管理栄養士以外の資格を持たなくても病棟配置はできる。若い管理栄養士が次のステップを進めるよう、病棟での栄養管理で実力をつけてもらっている。管理栄養士の多くは病棟配置後に様々な資格を取得し、専門性を上げている。
フロア ● 将来の人員配置の考え方として、専門性を持った管理栄養士をある程度固定するのか、それともローテーションしていくのか。
原 ● 当院では、管理栄養士はジェネラリストでありつつ、スペシャリストの必要性があると考えている。基本的には全病態に対してある程度の理解があり、どの病棟でも対応できるようにしたい。ただし専門性を持ち、本人がその専門でやっていきたい希望があれば、専門性を活かした部署で活躍して欲しい。
利光 ● 病棟では一つの疾患だけでなく、トータルな栄養管理が原則であり、病棟配置の管理栄養士が特定の疾患に対する専門資格を持つ必要はない。病棟配置の管理栄養士は、 2 年以上の経験より取得可能な病態栄養専門管理栄養士の資格が有用である。また、がん病態栄養専門管理栄養、糖尿病病態栄養専門管理栄養士、腎臓病病態栄養専門管理栄養士に対する相談体制の充実が重視される。管理栄養士の病棟配置により、常に食事・栄養に関わる相談が可能であり、病棟での栄養管理は充実する。また管理栄養士においても実践が教育であると考えている。
フロア ● 現在、卒後間もない管理栄養士が病棟で栄養管理を担える教育システムが構築されていない。この点は医療施設と管理栄養士養成校のギャップが大きい。管理栄養士養成校のカリキュラムにおいて、卒後教育と連動したシステム構築が必要と考える。
幣 ● ご意見の通り、他職種とは異なり、卒後すぐの臨床活動(即戦力としての活動)に課題があり、私もインターンシップなど卒後教育と連動したシステム構築が必要と考える。
日本栄養士会でも専門管理栄養士制度を重要視しており、私自身も糖尿病専門管理栄養士の委員長として、プロフェッショナルな人材を増やすよう要望を受けている。厚労省としては、管理栄養士の資格に加え、さらに専門性を加えることをどのように考えられているのか。
日名子 ● 診療報酬でも栄養管理が評価され、管理栄養士の専門性に、さらに高度な専門性を加えることが重要となる。昨今の診療報酬改定でも、集中治療室などで高度な栄養管理が評価されている。管理栄養士がチームの中でよりの重要性を発揮するために日々のスキルアップも重要だ。
フロア ● 管理栄養士病棟配置のアウトカムについて、栄養充足率やエネルギー摂取量増加のアウトカムと、いわゆる臨床アウトカムを分けて考える必要がある。厚労省として、管理栄養士病棟配置により患者のエネルギー摂取量が増えた、食事調整が充実したとのアウトカムでよいのか。臨床アウトカムが必要か。
日名子 ● 中央社会保険医療協議会などでは、管理栄養士病棟配置のアウトカムとして、エネルギー摂取量増加や食事調整の充実などを第一歩として必要と考えるが、その先のアウトカムも求められている。管理栄養士が栄養管理に関わるメリットを多職種に納得してもらえる説明が重要である。
フロア ● 臨床アウトカムとしてどのような項目が必要か。
利光 ●肝疾患患者なら肝臓の、腎疾患患者なら腎臓の臨床データ解析は原則と考えている。今回示した調査でも、臨床データは事前に確認している。ただし、臨床データには治療や薬剤の影響があり、栄養だけのデータを出しにくい。今回は管理栄養士として、低栄養患者に対する体重減少抑制、エネルギー摂取量増加を評価した。
フロア ● いわゆる原因アウトカムを立ててデータ収集、解析したのか。それとも、ゴールとしての臨床アウトカムを立てたのか。臨床アウトカムを立てたが、効果が出なかったのか。
利光 ● 臨床アウトカムは個別に検討し、全体的な解析として体重やエネルギー摂取量を検討した。
原 ● 日本栄養士会は、分かりやすいアウトカムとして体重に着目している。中央社会保険医療協議会での議論でも、管理栄養士の関与によるアウトカムとして体重減少抑制のデータが求められた。ただし、その先のアウトカムも重要と考えている。
利光 ● がん病態専門管理栄養士の評価でも、体重減少抑制やエネルギー摂取量増加のデータが示された。この根拠は、体重減少抑制やエネルギー摂取量増加により、癌治療の完遂に繋げることができ、延命効果に繋がることである。
フロア ●臨床では管理栄養士病棟配置のアウトカムを出すのが難しい。厚労省として、タスクシフトやタスクシェアの観点でのアウトカムをどう考えるか。
日名子 ●総合的に管理栄養士病棟配置を評価する視点ではタスクシフトも考慮に入る。管理栄養士病棟配置によって、多職種連携が強化、迅速な対応ができることも重要な視点である。
利光 ● 国立大学病院での調査では医師と看護師に管理栄養士に求める業務についても質問した。医師からは管理栄養士配置病棟では、業務が軽減され、栄養について相談しやすくなったとの回答が得られた。管理栄養士病棟配置は患者のQOL向上のみならず、医師、看護師の業務軽減、に繋がる。
原 ● 看護師から、よく分からないまま行っていた食事調整を病棟配置の管理栄養士に任せられることがメリットとされた。管理栄養士病棟配置で、栄養素も考慮した適切な栄養管理が実現、タスクシェアも可能になる。
フロア ● 管理栄養士病棟配置の必要性は分かるが、管理栄養士の人数が増えない背景には診療報酬での単価の低さの問題がある。今回の特定機能病院における専従常勤の管理栄養士配置でも 270 点とされた。これは管理栄養士の個別の活動に加算がつくとの考えでよいか。
日名子 ●今回の専従常勤の管理栄養士配置に対する評価は、単なる配置ではなく、配置された管理栄養士の患者への個別の栄養管理業務を含めての評価である。
利光 ● 緩和ケアは個別対応の食事に対して算定される。専従常勤の管理栄養士配置は、疾患や病態などの影響を考慮した個別の栄養管理、個別の食事の提供を一連の流れとして評価された。
フロア ● 1 患者に対して 270 点という点数は、対応にかかる時間を考えると、もう少しあればと思う。
利光 ● 入院と退院で2回算定できるため、合計 540 点になる。 40 床の病棟で回転率が高ければ、月 800 万円を超える。回転率が高い病棟で 1 度試算されることもお奨めしたい。
原 ● 病棟の栄養管理では、食形態の調整や適切な食事量の提供を一連の業務に含む。つまり入院栄養管理体制加算は、管理栄養士が行う業務全体に対する評価と考える。まず入院栄養管理体制加算の算定を進め、管理栄養士が求められた業務を行い、アウトカムを出すことが必要だ。
フロア ● 当院も一般病院ではあるが、管理栄養士を病棟に配置している。私も病棟配置の管理栄養士だが、入院支援センターにも属し、入院前からスクリーニングを兼ねて栄養指導を実施する。入院後は病棟で栄養管理を行い、退院後、外来でも栄養指導を行う。入院前から患者の情報を収集し退院までシームレスな対応で、患者からも安心感があると言われる。しかし入院栄養管理体制加算では、外来業務は基本的に対象外となる。利光先生の施設では、病棟担当の管理栄養士も入退院支援センターで介入を行うか。
利光 ● 病棟配置の管理栄養士も入退院支援センターから介入するケースもあるが、タイミング的に対応できないこともある。そこで、入退院支援センターの管理栄養士が栄養の情報を電子カルテに記入し、病棟配置の管理栄養士が確認する体制を構築した。病棟配置の管理栄養士が入退院支援センターにも常に確認に入れればよいが、むしろ情報を逃さない流れを組むことが重要
と感じる。
原 ● 1人の管理栄養士が 40 床、 50 床担当だとかなりの業務量になるため、入院前から外来までシームレスな栄養管理のチーム医療が重要だ。そのために、入院前の栄養情報が病棟の管理栄養士に伝わる方法の確立が必要だ。 1 人の管理栄養士が入院前から外来までシームレスに対応する安心感は確かにあるが、あまりに広く手がけると、手薄になる部分も出てくる。そこで、当院では連携を推進したいと考えている。
幣 ● 国としても、管理栄養士を各病棟に配置し、より患者に近い場所から栄養管理を行うことを目指している。現在は栄養食事指導料では 1 回目 30 分、 2 回目以降 20 分の制約がある。しかし、栄養管理は時間ではなく内容が重要で、患者にメリットとなる栄養管理の取り組みを進めるべきである。ぜひ新しい取り組みとエビデンスを発表いただきたい。
日名子 ● 今の診療報酬の仕組みは 2 年に 1 度見直しが行われる。現場でよりよい方法があり、エビデンスとして示されれば、それを踏まえて見直しも可能だ。
フロア ● 管理栄養士が病棟に常駐し、患者にトータルな栄養ケアを行う際は静脈栄養も外せない。栄養サポートチームに参加する医師の立場では管理栄養士は輸液に弱く、学生も輸液に苦手意識を持つ。一方で薬剤師も病棟に配置されている。静脈栄養について、管理栄養士と薬剤師はどのように棲み分けすればよいか。
利光 ● 栄養管理計画では、使われている輸液の種類や輸液に含まれるエネルギー量、栄養素を把握し、食事とともにトータルに考える必要がある。したがって、静脈栄養は管理栄養士の業務に含まれる。管理栄養士は輸液が苦手だとしても、輸液管理なしに栄養管理は成り立たない。当院では食事摂取量に制約があれば、経腸栄養や静脈栄養の選択について医師と管理栄養士がディス
カッションする。また、食事を摂取できないと退院が難しくなるが、管理栄養士だけで食欲低下に対応する時代ではない。例えば管理栄養士は、食欲低下を有する患者に対してグレリン様作用のある薬剤についても医師と相談または提案する必要もある。当院ではカンファレンスで医師や薬剤師に患者の状況説明とともに提案し、医師の治療方針や薬剤師の考えを聞く。
原 ● 管理栄養士は輸液を含め全体のエネルギー量や栄養素の過不足をモニタリングする必要がある。食事でエネルギー量や栄養素が不足している場合、医師や薬剤師と連携して輸液を増やすなどの検討を行うことがポイントだ。役割の棲み分けは、管理栄養士、薬剤師で明確化するより、チーム内のやりやすい方法、お互いが補完し合える形を作るとよい。そうすれば大きな問題は
起きないだろう。
フロア ● 管理栄養士病棟配置のエビデンスは食事がメインだが、静脈栄養や経腸栄養の面でも、管理栄養士病棟配置によって、多職種のディスカッションが促進され、患者のメリットが得られたなどのエビデンスを示したい。
幣 ● 各施設で栄養サポートチームとしてチーム医療が普及してきた。病棟単独でも新たなチーム医療を組み立て、その中核に管理栄養士がいる活動を確立していだきたい。
フロア ● 全国国立大学病院栄養部門会議では今回の診療報酬改定における専従常勤の管理栄養士配置について、算定状況や算定率などのデータは持っているのか。
利光 ● 令和 4 年度に専従常勤の管理栄養士病棟配置を開始した施設が 20 % 、令和 5 年度で導入予定の施設が 30 % だ。残りの 50 % は残念ながら令和 6 年度に持ち越す。ただし、管理栄養士増員した施設に限っており、増員せずに配置した施設を含めると数値が変わる。各施設において定数があり配置が進まない状況ではあるが、診療報酬の改定を活かして、すべきことを行っていけれ
ばと考えている。
フロア ● 今後、専従常勤の管理栄養士配置が特定機能病院だけではなく、その他の病院に拡充された際の参考にしたい。
利光 ● 専従常勤の管理栄養士病棟配置の要望を全国国立大学病院栄養部門会議で行う前に、 200 床規模の民間病院で専従常勤の管理栄養士配置を行っている。おそらく先生の病院も専従管理栄養士病棟配置によって、治療の支援に繋がるものと考える。
渡邉 ● 発展途上にある管理栄養士、栄養士にアドバイスやエールをお願いしたい。
利光 ● 診療報酬を取りたいから管理栄養士を病棟に配置するのではなく、管理栄養士を病棟に配置するメリットがあると捉え、真摯に向き合うことが重要と考える。さらに管理栄養士の病棟配置をご理解いただくためにも多くの施設で取り組みとエビデンスとしてまとめていただきたい。得られたエビデンスは日本栄養士会で要望として取りまとめていただけると思う。
原 ● 病棟での管理栄養士の業務は、病棟の患者が栄養サポートを求めていることが原点だが、管理栄養士の栄養管理による患者 QOL の向上は疑いがない。その意味で今回の特定機能病院で専従常勤の管理栄養士配置に関する評価は、日本栄養士会も大きな改定と捉えている。日本病態栄養学会にご参加の先生方には、日常の業務から多くのエビデンスの発信をお願いしたい。さらに、専門管理士など管理栄養士の栄養指導のスキルアップにもご協力いただきたい。日本栄養士会でも、一丸となって全病院、全病棟に専従常勤の管理栄養士病棟配置を進めていきたいと考えている。
日名子 ● 2010 年にチーム医療の望ましい姿として管理栄養士病棟配置が示された。病棟に管理栄養士がいると、多職種とのコミュニケーションが円滑になり、迅速に患者に対応できる。現在は、その方向に一歩一歩進んでいる。 2040 年を見据えると、限られたマンパワーで健康寿命の延伸を目指す必要がある。この点でも栄養の重要性が増していく。次回の診療報酬改定の内容は未定だが、管理栄養士の病棟配置を推進する方向性は変わらないと思われる。日本病態栄養学会にご参加の先生方にも、それぞれの病棟で着実に管理栄養士の配置を進め、患者に対する栄養ケアを充実していただきたい。
幣 ● 病棟に管理栄養士がいることが当たり前になることを夢見て、日本病態栄養学会にご参加の先生方の取り組みに期待している。今回のシンポジウムでの議論をそれぞれの現場でご活用いただき、より望ましい栄養管理のためにご尽力いただきたい。
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