重症患者に対する早期経腸栄養 【前編】 | 神戸大学 小谷穣治 先生・井上茂亮 先生 インタビュー

2023.04.19栄養剤・流動食 , 腸内細菌

近年、重症患者に対する早期経腸栄養の重要性が広く認識されるようになっている。今回、神戸大学大学院の小谷穣治教授と井上茂亮特命教授のお二人に、重症患者に対する早期経腸栄養の意義と実践、ならびに合併症対策についてお話を伺ったので、2回に分けてその内容をご紹介する。

株式会社ジェフコーポレーション「栄養NEWS ONLINE」編集部】

 


小谷穣治 先生
神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野
教授/ 診療科長

 


井上茂亮 先生
神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野 特命教授
先進救命救急医学

救命救急センターの概要

当院の救命救急センターは、兵庫県知事認可のもと2019年7月に設置されました。当センターでは、救命救急科と総合内科が両翼となって救急患者の受け入れと初期治療を担うとともに、各専門診療科での治療が可能な症例についてはその橋渡しを行っています。また、救急車搬送などによる緊急度の高い重症救急疾患に対しては、救命救急科が主科となって院内の各科専門医等と連携・協力し、チーム医療で集中治療に当たっています。
センター内には、2020年7月に新設された救急専用病床(Emergency Care Unit:ECU)が4床あります。ECUは救急外来に隣接しており、救急外来で診療した重症患者に対して、より迅速に最先端の救急治療を提供することが可能となっています。また、2021年11月のセンター拡張工事により、感染症や重度外傷に対応できる初期診療室、揮発性の薬物などに汚染された患者の除染を行う除染室、様々な用途に使える多目的室も併設されました。
このほか、国内外の大規模事故や災害時には、神戸大学の他部門と協力して、即座に医療チーム(Disaster Medical Assistance Team:DMAT)を派遣しています。

 

重症患者に対する経腸栄養の意義と開始時期

ECUやICUでの急性期管理を必要とするような重症患者は、自力で十分な栄養を摂取することが困難な場合も多く、人工栄養で補助しなければ栄養障害を来す恐れがあります。人工栄養の方法は経静脈栄養と経腸栄養の2つに大別されますが、当センターでは経腸栄養の施行が可能な状態であれば経腸栄養を優先し、治療開始後24~48時間以内に投与を開始しています(図)

⬆ 図  神戸大学医学部附属病院 救命救急センターにおける経腸栄養フロー(一部改変)

重症外傷患者などでは、腸内細菌叢の変化や腸管粘膜の構造の破綻、腸管関連リンパ組織(gut-associatedlymphoid tissue: GALT)の免疫機能の低下によって、腸管内微生物が腸管壁を透過して全身に播種するbacterial translocation が起こりやすいと考えられています【Nieves E, Tobon LF, Rios DI, et al, J Trauma2011; 71: 1258-1261.】。そこで、治療の初期段階から栄養を経腸的に投与することによって、腸内細菌叢や腸管の構造・機能を維持しようというのが、早期経腸栄養の背景にある基本的な考え方です【Artinian V, Krayem H,DiGiovine B, Chest 2006; 129: 960-7.】。
実際、重症度の高い患者への早期経腸栄養に関しては、腸管機能の維持や感染性合併症の低減などについて有用性が報告されています。このため、例えば日本版敗血症診療ガイドライン2020(J-SSCG2020)では「敗血症患者において、早期(重症病態への治療開始後24~48時間以内)から経腸栄養を行うこと」が推奨されています。また、敗血症診療国際ガイドラインの2016年版(SSCG2016)においても、48時間以内の投与開始を早期経腸栄養と規定し、その施行が推奨されていました。
しかしながら、その後に発表されたSSCG 2021においては「経腸栄養が可能な敗血症または敗血症性ショックの成人患者に対しては、早期(72時間以内)に経腸栄養を開始することを提案する」と推奨内容が変更されています。ただし、開始のタイミングが48時間以内から72時間以内に変更された理由に関してSSCG 2021の中では説明がなされていません。また、72時間を「早期」と言えるのかという点などについても議論の余地があると考えます。

 

経腸栄養の開始/中断の判断

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