薬樹株式会社 訪問薬樹薬局 保土ケ谷での在宅栄養指導の取り組みと今後の課題

2021.10.07在宅医療

高齢化が進む日本では、在宅医療が担う役割が大きくなっている。 しかし、独居高齢者や老々介護の世帯では買い物や調理が困難で、入院中に行われていた栄養食事管理を在宅で継続することが難しいという課題がある。 そのような中で、管理栄養士が在宅領域で栄養指導食生活支援を行うことによる活躍が注目されるようになった。
そこで、在宅栄養指導に携わっている薬樹株式会社 訪問薬樹薬局 保土ケ谷の管理栄養士の田代悠希子先生に在宅栄養指導の現状と課題についてお話を伺った。

取材日:2020年6月26日

 

株式会社ジェフコーポレーション「栄養NEWS ONLINE」編集部】

 

薬樹株式会社 訪問薬樹薬局 保土ケ谷での在宅栄養指導の取り組みと今後の課題

 

薬樹株式会社の概要

 人・地域社会・地球環境のすべてが健康であることを目指す

薬樹株式会社は1979年に創業し、現在は保険薬局事業を中心に展開しています。 2020年6月1日現在、薬樹株式会社が運営する薬局は首都圏で147店舗になります。 薬樹という社名はインド仏典のすべての自然を見守り地の力を司る「薬樹王」に由来しています。
薬樹株式会社は「まちの皆さまと共に健康な毎日をつくり笑顔とありがとうの輪を広げる」ことを“進”理念として掲げています。 また、健康の定義を「健康な人、健康な社会、健康な地球 (健康さんじゅうまる)」とし、「健康」を個人はもちろんのこと、地域社会や地球環境においても重要であると考えています。
薬樹株式会社ではこのような理念を実現するため、“健康ナビゲーター”としてまちの皆さまの健康を支援し、“薬が減り笑顔になる薬局”を目指します。 また、地域の健康コミュニティ支援や地球環境の健康の啓発も含め、誠実かつ先進的に取り組んでいます。
薬樹株式会社が運営する薬局には薬剤師、管理栄養士、また本部には理学療法士が所属し、薬と食事・栄養、運動を総合的にサポートします。 薬局で単に薬を渡すのではなく、患者さんの相談に幅広く対応し、健康全体をケアすることを目指し、食事や栄養の重要性についても積極的に啓発するように心がけています。

 

シンプルな保険薬局、訪問業務を中心とする薬局、幅広く健康をサポートする薬局の3タイプを展開

薬樹株式会社が運営する薬局は薬樹薬局、訪問薬樹薬局、健ナビ薬樹薬局の3タイプがあります。
薬樹薬局はシンプルかつ機能的な保険薬局として、正確・安全・スピーディーな調剤を行っています。 訪問薬樹薬局は在宅医療を中心として、安全と信頼をお届けする在宅医療に重点を置いた店舗です。 患者さんやご家族を支え、薬だけでなく幸せをお届けしています。 健ナビ薬樹薬局は治療から予防まで生涯にわたる健康をナビゲートする薬局です。
在宅訪問、薬の宅配は全店舗で対応していますが、訪問の基幹店舗が訪問薬樹薬局という位置づけになります。

 

薬樹株式会社での管理栄養士の業務内容

 薬剤師と連携し管理栄養士から患者さんに声かけする

現在、薬樹株式会社には管理栄養士が約100名所属しています。 管理栄養士は複数の店舗を担当しており、基本的にどの店舗でも栄養相談、栄養指導が可能です。
とくに生活習慣病治療薬を処方されている患者さんについては、処方箋を受け付けた時点で薬剤師から管理栄養士に処方の内容が伝えられます。 コレステロールの薬が追加されたなど処方内容の変更があった場合も薬剤師から管理栄養士に連絡があります。 それを受けて、管理栄養士から患者さんに声かけしています。

 

健康イベントや講演会で食事や栄養に関する情報提供も行う

薬樹株式会社では薬局で健康イベントなどを行っています。 管理栄養士はこうした健康イベントを通じた食事や栄養に関する啓発活動も行っています(8月1日現在では、新型コロナウイルス感染拡大予防のため薬樹株式会社でのイベントは中止中)。
また、地域でのケアマネジャーなど多職種向けの講演会で講師を依頼されることもあります。 講演会では透析の患者さんのたんぱく質制限といった食事制限など食事や栄養について具体的な内容を説明しています。
現状では医療や介護の現場でも在宅栄養指導に関する情報が十分に浸透しているとは言えません。 そこで、このような講演会の機会を活かして、在宅栄養指導についての情報を発信することを心がけています。

 

栄養機能食品や栄養補助食品の紹介、販売も実施

薬樹株式会社では薬だけでなく健康関連商品の販売も行っています。
食品分野では栄養機能食品、栄養補助食品を販売しており、必要と思われる患者さんにご紹介しています。 とくに糖尿病、高血圧に関連した商品に対するニーズが高く、低カロリーや減塩の食品なども販売しています。

 

訪問薬樹薬局 保土ケ谷の概要

保土ケ谷区の住宅地にある薬剤師や管理栄養士の訪問に重点を置いた薬局

訪問薬樹薬局 保土ケ谷は神奈川県横浜市保土ケ谷区の相鉄本線「上星川」駅の北東側にあり、大規模病院が隣接する高台の住宅地という環境です。 薬剤師や管理栄養士の訪問に重点を置いた店舗で、薬剤師5名、管理栄養士2名、事務4名、計11名が所属しています。
訪問薬樹薬局 保土ケ谷には無菌調剤室があり、食事がとれない方のための高カロリー輸液の混合調製などができます。 また、検体測定器があり、病院に行かなくても簡単な血液検査が可能です。

 

在宅栄養指導は約10名の患者さんを対象に月約15件実施

訪問薬樹薬局 保土ケ谷では1日1~3件、月に約15件の在宅栄養指導を行っています。 月に複数回訪問している方もいらっしゃいますので、在宅栄養指導を行っている患者さんの人数は約10名になります。

 

訪問薬樹薬局 保土ケ谷での在宅栄養指導の流れ

 医師の指示書をもとに患者さんを訪問し、栄養ケア計画書を作成

ご家族や患者さん、ケアマネジャーから在宅栄養指導に関する問い合わせがあった場合はまず医師に指示書を依頼します。医師から送られてきた指示書を確認して、訪問薬樹薬局 保土ケ谷の管理栄養士が患者さんの自宅を訪問することになります。
初回の在宅栄養指導では、管理栄養士が栄養ケア計画書を作成します。栄養ケア計画書は状況に応じて3か月から6か月ごとに更新します。在宅栄養指導終了後は毎回、報告書を作成し、医師やケアマネジャーに提出します。

 

身体状況や食事摂取量のチェックを行い、必要な栄養指導を行う

在宅栄養指導では身長、体重、血液データなど身体状況のチェックを行います。薬樹株式会社には持ち運びができる体成分分析器があり、訪問薬樹薬局 保土ケ谷では、筋肉量などの体の組成を患者さんの自宅で調べることもあります。
食事摂取量のチェックも重要です。私が在宅栄養指導を担当した患者さんのうち約9割の方がエネルギー量よりも不足または過剰の状態となっています。
塩分制限のために食事が薄味になり、好みに合わず食欲が出ないなどエネルギー摂取量が不足している明確な原因がある患者さんもいらっしゃいますが、食思不振の原因がわからない患者さんもいらっしゃいます。なかにはご家族などから「食べるように」と言われ過ぎ、プレッシャーを感じて食事が怖くなっている患者さんもいらっしゃいます。
担当している患者さん全員が目標食事摂取量を達成することは難しい状況です。しかし、多くの患者さんで最初に在宅栄養指導を行った時点よりは食事摂取量が増えています。

 

薬の服用状況も確認し、必要な場合は薬剤師に情報提供

在宅栄養指導を行っている患者さんの中には薬剤師も訪問している患者さんがいます。そのような患者さんの場合で、在宅栄養指導時に薬について相談を受けた際は薬剤師に情報提供しています。
また、在宅栄養指導時には患者さんの薬の服用状況も確認します。患者さんに「薬はちゃんと服用していますか?」などと質問することで、「飲み忘れることがあります」と薬の飲み忘れがわかることもあります。薬の飲み忘れがあった場合も薬剤師に情報を提供します。

 

在宅栄養指導を依頼される患者さんのタイプと必要な工夫

生活習慣病や低栄養・体重減少がある患者さんが中心

在宅栄養指導の依頼がある患者さんは糖尿病、肝臓病、脂質異常症、腎臓系疾患など生活習慣病の患者さんが最も多く、次いで低栄養や体重減少がある患者さんの割合が高くなっています。
その他に胃切除の術後の患者さんに対する短期介入や、がん末期の患者さんに対する在宅栄養指導を依頼されることもあります。
訪問薬樹薬局 保土ケ谷で在宅栄養指導を行っている患者さんは比較的自立度が高く、寝たきり状態になっている患者さんはそれほど多くありません。

 

患者さんの生活スタイルに合わせた指導をするため、一緒に買い物や調理を行うことも

患者さんにはそれまでの人生で作り上げてきた生活スタイルがあります。調理も慣れている方法があるでしょう。そこで、患者さんと一緒に調理を行い、患者さんに合った方法を提案しています。とくに糖尿病の患者さんには実際に一緒に調理してもらうことで、ご飯や肉の量を体感してもらいます。
また、患者さんの近くにあるスーパーマーケットやコンビニエンスストアで扱っている食材を使った指導を心がけています。患者さんがいつも行っているスーパーマーケットに行き、買い物をしながら「こちらの商品の方が、カロリーが高いですよ」「このような総菜を選ぶといいですよ」といった食材の説明をすることもあります(写真1)
在宅栄養指導の終了時に次回の案内書を患者さんに渡しますが、その用紙に患者さんとともに考えた次回までの目標を管理栄養士からのメッセージという形で書き加え、患者さんが目標を意識しやすいようにしています。

 

大事なことは繰り返し説明し、ご自身で食事を作れない場合はホームヘルパーとも連携する

患者さんは1回説明しても理解できるとは限りませんし、説明したことを忘れてしまうことがあります。大事なことは何回も反復してお伝えしています(写真2)
在宅栄養指導を行っている患者さんがご自身で食事を作れないこともあります。そのような患者さんの場合は、ホームヘルパーが訪問する時間に合わせて訪問し、ホームヘルパーに調理方法や工夫をお伝えしたり、作成した献立をホームヘルパーにお渡しし、調理していただいたりしています。
在宅栄養指導の依頼がある患者さんは基本的に意欲のある方が多いのですが、「歳だから好きなものを食べたい」「これ以上食事制限をしたくない」という方もいらっしゃいます。患者様への動機づけは難しいと感じることもありますが、こうした場合もお話を聞いたり、繰り返しお伝えするように意識しています。

 

摂食嚥下障害がある患者さん、がんの患者さん、認知症の患者さんでは特別な対応が求められる

脳梗塞やがんの患者さんでは摂食嚥下障害がある患者さんもいらっしゃいます。摂食嚥下障害がある患者さんには多職種で介入し、嚥下訓練を行う必要があります。
現在担当している患者さんにがんの患者さんはいらっしゃいませんが、以前はがんの患者さんを担当したことがありました。がんの患者さんもエネルギー摂取量を満たすことが難しいことがあります。
がん患者さんのご家族は、なんとか食事を食べさせたいと考えていらっしゃることが多いですが、なかなか思うようにいかないとお話を伺うことがあります。在宅栄養指導ではご家族の思いをサポートするように、患者さんが食べやすいものを考え、口に合うものを試したり、栄養補助食品の活用を考えたりして、エネルギー摂取量を満たせるようにしています。
認知症の患者さんは訪問薬樹薬局 保土ケ谷では少ないのですが、認知症の患者さんに在宅栄養指導を行っている店舗もあります。
認知症の患者さんは行動目標を立てても覚えていることが難しい場合があるため、在宅栄養指導の最後に大きく目標を書いた紙を患者さんに渡し、冷蔵庫の扉など患者さんが必ず見るところに貼ってもらうとともに、ヘルパーさんやご家族など周囲の方にも行動目標を伝えるなどの工夫をしています。

 

 在宅栄養指導によって疾患の状況や栄養状態が改善した症例

 糖尿病の患者さんでは血糖値や体重が減少した症例もある

私も在宅栄養指導で介入し、疾患の状況や栄養状態が改善した症例を経験しています。
奥様を亡くされて独居になっていた糖尿病の患者さんはHbA1cが8.8%から6.7%まで低下しました。この患者さんは月2回の在宅栄養指導で私と話すことが楽しみのひとつになっていたようで、訪問を心待ちにされていました。
別の糖尿病の患者さんでも在宅栄養指導によって、HbA1cが8.0%から5.9%まで下がり、中性脂肪も240mg/dlから133mg/dlに低下しています。体重は65kgから60kgに減少しました。
この患者さんに対しては医師から薬を減らしたいとの意向があり、HbA1cが改善することで2種類飲んでいた糖尿病治療薬を減薬することに成功しました。減薬後もHbA1cは維持されています。

 

直腸がん術後で低体重の患者さんでは体重、栄養状態が改善し、QOLも向上

直腸がんの術後で低栄養に陥っていた患者さんも在宅栄養指導を行うことで、体重が48kgから55kgまで増加するとともに、アルブミン値も2.3g/dlから3.7g/dlまで上昇し栄養状態が改善されました。
ご家族は食事に関して不安を感じていらっしゃいましたが、食事のことは管理栄養士に任せてもらうことで、ご家族の介護の負担を軽くすることができました。
この患者さんに在宅栄養指導を開始した頃は嚥下状態が良くありませんでした。そこでケアマネジャー、言語聴覚士、訪問歯科医と連携して嚥下訓練を行いました。その結果、食上げに成功し、正月には希望されていたおせち料理を食べられるようになり、QOL向上につながりました。

 

 在宅栄養指導のメリット

 在宅栄養指導によって入院中の食事指導を継続できる

在宅栄養指導を行うことで医療面と介護面の両面からサポートができます。
医療面では入院中に行われていた食事管理を、自宅でも継続することが可能になるというメリットがあります。入院中は病院のスタッフにより食事管理がされていますが、在宅に切り替わるとホームヘルパーや訪問看護師などの多職種で連携し、栄養管理をすることになります。
このような患者さんの場合、従来は訪問看護師が栄養指導をしていました。栄養指導を管理栄養士が行うことで、訪問看護師の負担軽減にもなります。患者さんによっては検査値の改善や減薬も期待できるでしょう。

 

経腸栄養から経口栄養が可能になりQOL向上につながることも

介護面では患者さんのQOLの向上につながります。経口摂取ができず経腸栄養だった患者さんでも、多職種が連携して嚥下訓練などで経口栄養が可能になり、食事を楽しめるようになった方がいらっしゃいます。
入院されていた患者さんの場合、ご家族が退院後の食事管理に不安を感じていることがあります。在宅栄養指導を行うことで、こうしたご家族の不安を和らげることもできます。独居の患者さんでは在宅栄養指導で話し相手になることもQOL向上につながっています。

 

在宅栄養指導の課題と今後の展望

 栄養状態が悪化する前に在宅栄養指導を開始することが必要

現在、在宅栄養指導の依頼がある患者さんの多くは既に栄養状態が悪くなっている患者さんです。本来は栄養状態が悪くなる前に在宅栄養指導を開始し、栄養状態の悪化を予防することが必要でしょう。そのためには、管理栄養士も在宅医療のチームの一員になる必要があると考えています。
薬樹株式会社では積極的に在宅栄養指導に取り組んでいますが、全国で在宅栄養指導が普及し、多くの職場に所属する管理栄養士が在宅栄養指導を行い、患者さんやご家族の支援が出来るようになればよいと思っています。

 

在宅栄養指導の認知度の低さも課題

ただし、在宅栄養指導の認知度は低い現状があります。メディアなどで在宅栄養指導について取り上げていただきたいと思いますし、私も医療機関や介護関連の研修会や、多職種連携のカンファレンスに参加してアピールしていきたいと考えています。
医療や介護の現場では、在宅栄養指導の存在を知っていても依頼方法がわからない方もいらっしゃると聞きます。在宅栄養指導の依頼の手順をお伝えすることにも取り組んでいきたいと思います。

 

管理栄養士の教育に医療に関する知識を取り入れることも求められる

在宅栄養指導では栄養の知識だけでなく、医療の知識も必要になります。しかし、管理栄養士の教育では医療に関する知識を学ぶ機会が少ないように感じています。
今後、在宅栄養指導を拡大してくためには、管理栄養士の教育体制を整備することも必要になってくるでしょう。

 

在宅栄養指導で患者さんに喜んでもらうとともに、在宅栄養指導の拡大に努めたい

在宅栄養指導を行う中で、医療や介護の現場では食事や栄養が後回しになっている傾向があると感じています。
在宅栄養指導を通じて患者さんの食事や栄養をサポートするとともに、より多くの患者さんに在宅栄養指導を利用できるように努力したいと考えています。

 

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