第 23 回食物アレルギー研究会 Report : 特別プログラム 1 「食物アレルギー患者を取り巻く社会」

2023.08.30栄養素

特別プログラム 1
食物アレルギー患者を取り巻く社会

座長:
岡藤 郁夫神戸市立医療センター 中央市民病院
吉原 重美獨協医科大学 医学部 小児科学

発表の要点

国立病院機構 相模原病院海老澤 元宏 先生は 2000 年頃から始まった食物アレルギー対策の進展を概観し、各種ガイドラインや手引きが整備されてきた状況を紹介。学校給食でのアナフィラキシー疑い事故をきっかけに進展した学校や保育所での対応として『 学校生活管理指導表 』の詳細を紹介した。


消費者庁 食品表示企画課宇野 真麻 氏は、食物アレルギー患者が加工食品で原因食物を誤食しないためにはアレルギー表示が重要として、7 品目が義務表示品目、21 品目が推奨表示品目となっている現状を紹介。近年増加している木の実類の食物アレルギーに注目を促し、特にクルミについて推奨表示品目から義務表示品目に改める経緯を紹介した。


昭和大学 医学部 小児科学講座今井 孝成 先生は、食物アレルギー患者でも外食中食利用が増えたが、加工食品のようなアレルギー表示規定がない現状を指摘。誤食事故で重症化する例も紹介し、外食・中食業者に対し食物アレルギーを啓発し、適切なアレルギー表示などの対策を講じる必要性を訴えた。


NPO 法人ピアサポート F. A. cafe 服部 佳苗 氏は、食物アレルギー患者の多くが乳幼児期に診断を受け、その後も慢性疾患とともに暮らす状況を紹介。その中で年代や環境に応じて必要な啓発や対応を紹介し、それをサポートする資材の制作や利用の詳細を語った。

株式会社ジェフコーポレーション「 栄養 NEWS ONLINE 」編集部 講演要旨】

 

 

食物アレルギー患者への社会的対応の変遷

海老澤 元宏国立病院機構 相模原病院 臨床研究センター

 

2000 年代から食物アレルギー対策が進展

食物アレルギー研究会の会員数は現在 600 名を超え右肩上がりで増えている。 2000 年に初回が開催された食物アレルギー研究会は、今回で第 23 回となり、参加者数も第 3 回の約 150 名から近年は 400 ~ 500 名となった。前回は新型コロナウイルス感染症( COVID – 19 )の影響で Web 開催となっていたが、今回はハイブリッド開催となり、現地にも 200 名弱の参加があった。

食物アレルギーに対しては、 2000 年から厚生労働省で研究が行われ、 2002 年には世界に先駆けてアレルギー物質を含む食品表示が始まった。 2004 年には文部科学省がアレルギーを有する児の全国調査を実施している。 2007 年にはその結果が公開され、食物アレルギーの有病率は 2.6 % 、アナフィラキシーは 0.14 % で見られたと報告された。
2003 年にはアドレナリン自己注射薬が成人のハチ毒に対して適応となった。アドレナリン自己注射薬は 2005 年に食物アレルギーおよび小児へも適用拡大がなされ、  2011 年には保険収載が実現した。

2005 年に日本小児アレルギー学会が発表した『 食物アレルギー診療ガイドライン 2005 』の実態は総説を集めたもので、厳密にはガイドラインとは言えなかった。その後、 2011 年には日本小児アレルギー学会の本格的なガイドラインとして『 食物アレルギーガイドライン 2012 』が発表された。その後改訂が繰り返され、最新版は『 食物アレルギーガイドライン 2021 』となっている。

2006 年に保険収載された食物経口負荷試験は当初、実施に入院が必要だったが、 2008 年からは外来でも可能となった。 2009 年には『 食物経口負荷試験ガイドライン 2009 』が発表され、食物アレルギー研究会の Web サイトで食物負荷試験実施施設一覧の公開も始まった。

2008 年には栄養士向けの『 食物アレルギー栄養指導の手引き 2008 』と『 学校でのアレルギー疾患に対する取り組みガイドラインおよび管理指導表 』も発表され、学校での食物アレルギー対策が始まった。しかし学校ではアドレナリン自己注射薬使用に対し教員の抵抗感が強く、救命救急士による業務として解禁された。

2011 年に厚生労働省が『 保育所でのアレルギー対応ガイドライン 』を発表。当時、日本保育保健協議会 では現在、川崎市で行われているような部分的な除去の対応を推奨する内容でガイドライン作成を進めていた。一方、『保育所でのアレルギー対応ガイドライン』は『 学校でのアレルギー疾患に対する取り組みガイドラインおよび管理指導表 』と統一性のある内容となった。

 

給食でのアナフィラキシー疑い死亡事故を契機に学校での食物アレルギー対策が強化

2012 年に東京都調布市で発生した給食によるアナフィラキシー疑いの死亡事故を受けて、 2013 年にはアレルギーを有する児の全国調査が 9 年ぶりに行われ、食物アレルギーの有病率は 4.5 % 、アナフィラキシーは 0.48 % と増加していることが明らかになった。また、この事故によって、学校では『 学校でのアレルギー疾患に対する取り組みガイドラインおよび管理指導表 』に基づく対応を進め、組織として食物アレルギーやアナフィラキシーに対応することとなった。このため、同ガイドラインを補完する資材が作成されたほか、アドレナリン自己注射薬の練習用トレーナーが全国に配布されている。

2019 年には『 保育所でのアレルギー対応ガイドライン 』のマイナー改訂が行われ、 2020 年には『 学校でのアレルギー疾患に対する取り組みガイドラインおよび管理指導表 』の改定も行われている。さらに 2022 年には食物経口負荷試験の適応が 9 歳から 16 歳に拡大され、生活管理指導表の保険収載も実現した。

 

木の実類による即時型食物アレルギーが増加

加工食品に含まれる食物アレルギー原因物質の表示の適正化を目的に、国立病院機構相模原病院臨床研究センターは 2002 年から 3 年ごとに全国モニタリング調査を行っている。 2017 年に 4851 症例であった解析対象は、 2020 年には 6080 症例に増加した。年齢は 0 歳が最も多く、 1 ~ 2 歳、 3 ~ 6 歳を合わせ、大多数を占めた。しかし 7 ~ 17 歳、 18 歳以上の発症も多い。 18 歳以下では男児に多く発症するが、成人では女性が多かった。

三大食物アレルゲンは卵、牛乳、小麦とされているが、 2020 年では即時型食物アレルギーの原因食物は木の実類が 3 番目に多く、ピーナッツの 2 倍以上であった。即時型食物アレルギー原因食物の推移を見ると、卵、牛乳、小麦、ピーナッツは過去 6 回の調査でほぼ一定だったが、クルミを含む木の実類は 2011 年から増え始め、 2017 年、 2020 年では急増している。

木の実類の 78 %はクルミとカシューナッツであった。クルミと抗原性が近いのがペカン、カシューナッツと抗原性が近いものはピスタチオである。これらは日本での消費量に違いがあるため、即時型食物アレルギーの原因食物になる割合も異なっていると考えられる。クルミが即時型食物アレルギーの原因食物になる割合は劇的に増加しており、とくに 2017 年、 2020 年で顕著に増えた。カシューナッツも 2008 年以降増えており、現在、行われている 2023 年の調査結果に注目している。マカダミアナッツ、アーモンドに関しても若干の上昇傾向が認められ、今後の動向に注意が必要である。

2020 年の 1 ~ 2 歳、 3 ~ 6 歳、 7 ~ 17 歳の即時型食物アレルギー新規発症の原因食物で、木の実類は 1 番目または 2 番目に多かった。 18 歳以上の即時型食物アレルギーの新規発症の原因食物でも木の実類は 6 番目に多く、全年齢において増えていると考えられる。誤食例でも 3 ~ 6 歳、 7 ~ 17 歳において 3 番目に木の実類が多かった。 18 歳以上の成人の誤食では木の実類がピーナッツを上回っている。

こうした背景もあり、加工食品のアレルギー表示の義務表示品目は従来の 7 品目に 2023 年 4 月からクルミが追加された。 1 年間の猶予期間を経て、 2024 年の 4 月から本格的に実施される予定である。

 

食物経口負荷試験の保険収載が実現

以前は食物経口負荷試験の負荷食を提供できる施設はほとんどなかった。そこで、卵、牛乳、小麦、大豆などを対象とした食物経口負荷試験用のマテリアルをキューピー研究所と共同で開発した。当時は、食物経口負荷試験はアメリカのマニュアルに則って行われており、 15 分間隔で増量するプロトコールとされていた。さらに、日本での食物経口負荷試験の保険収載を目指し、食物経口負荷試験ネットワークを全国展開した。国立機構相模原病院国立成育医療センター国立病院機構三重病院など多くの施設が加わり、全国 30 以上の施設で食物経口負荷試験が実施可能になった。これらの施設でのデータを取りまとめ、食物経口負荷試験と抗原特異的 IgE 抗体の  Cap – RAST 法 ( CAP Radioallergosorbent test )およびプリックテスト( 皮膚テスト )の陽性率の乖離を明らかにした。このデータを厚生労働省に示すとともに、全国な施設での食物経口負荷試験の実施状況を調査し、政治的なバックアップと患者の要望を合わせて食物経口負荷試験の保険収載が実現した。食物負荷試験データについてはその後、卵白、牛乳、小麦、大豆、ピーナッツ、 ω – 5 グリアジンのプロバビリティーカーブについても報告している。

 

食物アレルギー対策の手引きやガイドラインを発行

発表当時は画期的と評された『 食物アレルギーの診療の手引き 2005 』の中で、食物アレルギーの乳児におけるアトピー性皮膚炎の関連について皮膚科専門医とアレルギー専門医が議論し、乳児のアトピー性皮膚炎に対してはスキンケアとステロイド外用療法を行うとの指針を出した。

現在は、『 食物アレルギーの診療の手引き 2020 』のほか『 食物経口負荷試験の手引き 2020 』、『 食物アレルギーの栄養食事指導の手引き 2022 』が発表されており、食物アレルギー研究会の Web サイトから無料でダウンロードできる。これらの手引きの概要に詳しい解説を追加した『 食物アレルギー診療ガイドライン 2021 』も書籍として販売されている。

 

アナフィラキシー対策のガイドラインや指針も整備

アナフィラキシーガイドライン 』は調布市での死亡事故を受けて、 2014 年に初版が発表された。当時は診断基準として世界アレルギー機構( WAO )の『 アナフィラキシーガイドライン 』に提示された 3 項目の診断基準を和訳して掲載した。日本アレルギー学会では、 2022 年に『 アナフィラキシーガイドライン 』を 8 年ぶりに改訂し、『アナフィラキシーガイドライン 2022 』を発表した。

アナフィラキシーガイドライン 2022 』でも 2011 年に発表された WAO の『 アナフィラキシーガイダンス 』をベースにした診断基準としている。ただし、 WAO の『 アナフィラキシーガイダンス 』の診断基準のうち 2 項目を統合し、 1 項目としている。また、薬物アレルギーでは循環器症状のみ、呼吸器系症状のみが起こる症例があることを診断基準に明記し、アドレナリンの筋肉注射を促した。

アナフィラキシーについては、調布市の死亡事故をきっかけに対策が進んだ。貴重な生命の喪失で流れが変わったことを忘れてはならない。 2008 年に出された『 学校でのアレルギー疾患に対する取り組みガイドラインおよび管理指導表 』が全国に普及、啓発できていなかったことが悔やまれる。調布市での死亡事故を受けて、厚生労働省は『 学校給食における食物アレルギー対応について 』の Web サイトを立ち上げた。文部科学省でも Web サイト『 学校保健ポータルサイト 』内のアレルギー疾患の項目でアレルギー関連の資材をまとめて見られるようになった。

文部科学省は『 学校給食における食物アレルギー対応指針 』も作成した。小学生まで食物アレルギーが遷延する患児ではアナフィラキシーを伴うことが多い。調布市の事故後、アナフィラキシーがある患児には給食提供をしない自治体も出てきたが、『学校給食における食物アレルギー対応指針』では小学校で食物アレルギーがある患児にも基本的に給食を提供するよう促している。また、食物アレルギー対応は文部科学省、都道府県、市区町村、教育委員会、各学校が連携して進めることも謳われた。学校で求められる配慮、管理として、 QR コードの活用などによる災害時の対応も示されている。さらに、学校におけるアレルギー疾患対応の基本的な考え方として、校長、教頭、担任、養護教員、栄養教員が組織として対応し、保護者と面談したうえで対応方針を決めるよう求めている。

児童生徒の食物アレルギー有病率は 2004 年度の 2.6 % から 2013 年度は 4.5 % と増えていた。アナフィラキシーも 2004 年度の 0.14 % から 2013 年度には 0.48 % と増えた。 2023 年 3 月末に明らかになる最新の調査結果では、さらに増加していると思われる。

食物アレルギーのアナフィラキシーの対応はアレルギー疾患の理解と正確な情報の把握・共有/日常の取り組みと事故予防/緊急時の対応の 3 つが柱である。 2008 年版の『 学校生活管理指導表 』の「原因食物・診断根拠」の項目が、 2020 年版の『 学校生活管理指導表 』では「原因食物・除去根拠」に変更された。また、甲殻類、木の実類による食物アレルギーの増加を受けて、甲殻類ではエビ、カニ、木の実類ではクルミ、カシューナッツ、アーモンドと食品別にアレルギーの有無を記すことになった。

「給食」の項目では「管理必要」か「管理不要」を選択するようになった。また、除去根拠として未摂取の項目が加えられた。これは入学までに多くの患児で木の実類に対するアレルギーの有無を確認できていないことが明らかになったためである。「原因食物を除去する場合により厳しい除去が必要なもの」の項目に該当した場合は給食対応が困難となる場合があることも明記された。「学校生活上の留意点」については、 2008 年版の「保護者と相談し決定」という文言について保護者の要望通りに対応する必要があるとの誤解を生んだめ、「管理不要」「管理必要」と変更された。

 

学校と医師会などの連携も重要

アレルギー疾患対応推進体制では医師会との連携が重要である。学校での食物アレルギー対応は調布市での死亡事故を受けて、現在はほぼ『 学校生活管理指導表 』に準拠するようになった。しかし『 学校生活管理指導表 』の提示内容で、学校側が対応に苦慮する部分があるのも事実である。この点を是正するためには、教育委員会と学校、医師会が連携し、『 学校生活管理指導表 』の精度を高める必要がある。教育委員会は学校と医師会や消防との連携で重要な役割を果たす。そこで、教育委員会が行っている連携についても調査が行われるようになった。また、学校は組織として対応し、主治医、学校医も含めた関係者の連携体制の構築が重要である。

調布市や相模原市などではすでにこのような取り組みが行われている。現状では不適切な『 学校生活管理指導表 』が提示されても、学校や教育委員会から医師に対して申し入れはできないが、これらの自治体では、医師会を通じた医師への申し入れを行なっている。また、医師向けに『 学校生活管理指導表 』の記入方法講習会も行っている。

 

日本の食物アレルギー対応は 20 年間で大きく進展

2002 年から 2022 年までの 20 年間に日本のアレルギー対応は進んできた。世界に誇るべき加工食品のアレルギー表示もある。学校でのアレルギー対応も不十分な点はあるが、世界ではアメリカに次いで充実していると思われる。保育所でのガイドラインの普及、啓発など課題もあるが、食物経口負荷試験が食物アレルギー診断のべースになっている国は世界でも日本のみである。食物アレルギーに関する情報提供が行われているのも日本独自の対応である。このように日本の食物アレルギー対応は世界でも先進的と考えられる。

 

 

加工食品のアレルギー表示の動向

宇野 真麻 消費者庁 食品表示企画課

 

食物アレルギー表示は 7 品目で義務化

加工食品では名称や原材料名、添加物、内容量、期限などの表示が義務付けられている。特定の商品に対する義務表示事項もあり、アレルギー表示もそのひとつである。アレルギー表示は小麦、卵など 7 品目の原材料、添加物を含む食品について義務付けられている。

加工食品のアレルギー表示は 2001 年に厚生労働省が所管する食品衛生法に基づき開始された。当時は特定原材料として表示を義務付けている品目は乳、卵、小麦、蕎麦、落花生の 5 品目に限られていた。一方、特定原材料ではないが、それに準じて表示を推奨する 19 品目を通知で規定していた。

その後、 2004 年には推奨表示品目にバナナを追加、2008 年には、推奨表示品目のエビ、カニを義務表示品目に移行させた。この時点で義務表示品目は7品目、推奨表示品目は 18 品目となっている。2013 年には推奨表示品目にカシューナッツ、ゴマを追加した。 2009 年に消費者庁が設置され、 2015 年には消費者庁所管の食品表示法が新たに施行されたことにより、食物アレルギー表示は食品表示法に基づいて行われることになった。 2019 年には推奨表示品目にアーモンドが追加され、 2023 年 2 月現在、義務表示品目は 7 品目、推奨表示品目は 21 品目となっている。現在、義務表示品目を 7 品目から 8 品目に増やす動きがある。

義務表示品目であるエビ、カニ、小麦、蕎麦、卵、乳、落花生の 7 品目は食物アレルギーの発症数、重篤度を勘案し、表示する必要性が高いと判断されていたものである。加工食品を製造する際に、これら 7 品目を原材料として用いた場合は、表示が義務付けられている。

一方で、推奨表示品目のアーモンド、アワビ、イカ、いくらなどは食物アレルギーの発症数や重篤度はある程度高いが、義務表示品目に比べると少なく軽度とされている。これらを原材料として加工食品を製造した場合、表示が推奨されているが、義務表示ではなく、表示をしていなかった場合でも法的な問題はない。しかし現在は、多くの事業者が推奨表示品目であっても表示しているが、一部表示されていない場合があるため、食物アレルギー患者は注意が必要である。

 

アレルギー表示は原則として個別に表示

アレルギー表示は、原則として原材料ごとに個別に行うこととされている。例えば「ハム(卵、豚肉を含む)、マヨネーズ(卵、大豆を含む)、蛋白加水分解物(牛肉、鮭、鯖、ゼラチンを含む)」のように表示する。これらの表示を見ることで、アレルギー患者は発症原因となる食物の含有を判別できる。

ただし、一括表示も認めている。一括表示とは「ハム、マヨネーズ、蛋白加水分解物(一部に卵、豚肉、大豆、牛肉、鮭、鯖、ゼラチンを含む)」のように表示するものである。アレルギー表示制度を開始する際に、アレルギー患者団体との協議を行った。個別表示を求める声が多かったが、一括表示が分かりやすいといった意見もあり、原則は個別表示としているが、一括表示も認めている。

 

木の実類でもクルミによる即時型食物アレルギーが増加

食生活の変化によって、食物アレルギーの様相は変わってきた。アレルギー表示の対象品目も増えている。これは即時型食物アレルギーによる健康被害の全国実態調査の結果に基づいて、制度を見直したためである。

最新の 2021 年度の即時型食物アレルギーによる健康被害の全国実態調査では 1089 名のアレルギー専門医から協力を得られた。食物を摂取後 60 分以内に何らかの反応を認め医療機関を受診した患者 6677 例が調査対象となり、原因物質が分からない例などを除外し 6080 例を解析対象とした。年齢分布では 0 歳が 1876 例で最も多く、次に 1 ~ 2 歳群が 1364 例であった。年齢の中央値は 2 歳で、 2 歳までの症例が 54.5 % を占めていた。

原因食物で最も事例が多かったのは、鶏卵の 33.4 % 、次いで牛乳の 18.6 % 、木の実類の 13.5 % であった。これまでの調査では、原因食物は多い順に鶏卵、牛乳、小麦であったが、最新の 2021 年度の調査では初めて木の実類が小麦を抜いて 3 番目となった。木の実類ではクルミが 7.6 % と最も多く、次にカシューナッツ、マカダミアナッツであった。

初発例の原因食物は加齢とともに変化している。 0 歳では鶏卵、牛乳、小麦で 96.1 % を占める。 0 歳では木の実類を摂取する機会ほぼないが、 1 歳以降になると木の実類の摂取機会が増えるため、原因食物として上位に入る。特にショック症状を引き起こした原因食物の症例数は鶏卵がトップで 23.6 % だが、次いで小麦、木の実類と続く。木の実類ではクルミが 8.8 % と最も多く、次いで、カシューナッツが続く。

即時型食物アレルギーの原因食物として 2014 年以降木の実類が増加している。とくにクルミの増加が著しい。クルミは 2017 年、 2020 年と連続して増加しており、一時的な現象とは言えない。これは近年クルミを摂取する機会が増えていることも背景にあると考えられる。 2023 年 2 月現在、クルミはアレルギーの義務表示品目ではなく、推奨表示品目になっている。多くの事業者は表示しているが、一部に表示していない事業者が存在することに注意が必要である。

 

クルミも食物アレルギー表示義務化

そこで、消費者庁では食物アレルギーの義務表示にクルミを追加する取り組みを進めている。カシューナッツについても一定数の症例が認められるため、現在はアレルギーの推奨表示品目ではあるが、事業者に対してより強く表示を求めている。

クルミをアレルギーの義務表示品目に指定するためには、加工食品に含まれるクルミを発見する検査方法の開発も必要になる。クルミをアレルギーの義務表示品目に追加する背景には、検査法開発の目処が立ったこともある。

 

 

中食・外食に関する動向

今井 孝成 昭和大学  医学部  小児科学講座

 

外食・中食の利用頻度が増加

現状では、外食・中食のアレルギー表示について規定がない。困っている食物アレルギー患者も少数ではなく、実際に誤食事故も起きている。 2019 年の厚生労働省の『国民健康栄養調査』によると、食物アレルギー患児を管理する女性の外食の利用状況は 20 ~ 30 代が最も多く、その後、年齢とともに減っていく傾向がみられた。利用頻度は週 1 回が最も多く、約 25 % であった。週 2 ~ 3 回、週 4 ~ 6 回の利用者も合わせて約 25 %いた。今や外食は日常的に利用されており、とくに若年成人で利用頻度が多い。

中食の定義は明確ではないが、家庭以外で調理された食品で外食でないものを購入して食べることを指す。テイクアウトの弁当や惣菜類、デリバリーフード、ファストフードを店舗外で食べる場合などが該当する。 2019 年の『 国民健康栄養調査 』では、若年成人の中食利用頻度は多いが、外食のような年齢が高くなるにつれ減っていく状況はなかった。中食の利用頻度は週 1 回以上が約 50 % で、約 25 % は週 2 回以上利用していた。

新型コロナウイルス感染症( COVID – 19 )の拡大により、デリバリーフードの利用が増えている。したがって、現在は 2019 年の調査時より中食の利用頻度が増えている可能性が高い。中食は外食以上に生活の一部になっており、若年成人ほど利用頻度が多い状況がある。

かつては外食や中食は特定のイベント時に利用され、子どもたちの楽しみとなっていることが多かった。しかし、現在は食物アレルギー患児も含め、生活の一部として、外食や中食が利用されている。これは、共働き家庭が増え、家庭での調理頻度が減っていることも影響していると考えられる。

 

食物アレルギー患者でも外食・中食の利用が拡大

2021 年 9 月に食物アレルギー患者の外食や中食の状況について、インターネット調査が行われた。有効回答は 1141 名で、平均年齢は 12.9 歳、アナフィラキシーの既往ありが 67.4 % であった。対象はアレルギー患者会に所属している人で、一般的な食物アレルギー患者よりもハイリスクである。アドレナリン自己注射薬の保有率も 50.9 %と高かった。
外食の月間の利用頻度は月 5 回以上が 15 % 、月 3 、4 回が 27 % 、月 1 、 2 回が 37 % であった。月 1 回以下またはほとんど利用していない人は 21 % であった。約 80 % の患者は一定の頻度で外食を利用している。中食を日常的に利用している患者は 8 % 、よく利用している患者は 17 % であった。たまに利用している患者を含めると、約 75 % が中食を利用しており、ほとんど利用しない人、利用しない人は合わせて 26 % であった。ただし、この調査は COVID – 19 拡大前の状況についてで、現在はさらに利用頻度が高くなっていると考えられる。この結果から、食物アレルギー患者でも外食・中食をよく利用している状況が分かる。

 

食物アレルギーによる外食・中食の利用控えも存在

食物アレルギーを理由とした外食・中食の利用控えについても質問した。外食・中食ともに利用を控えた人は 37 % 、外食のみまたは中食のみ控えた人は合わせて23 % であった。一方で、 40 % の人は食物アレルギーがあっても外食・中食の利用は控えなかったと回答している。外食・中食の利用控えには患児の重症度も影響していると考えられる。

利用控えの理由については「 誤食の可能性がある 」との回答が 83 % 、「 店舗に対応を求めるのが嫌だった 」との回答が 65 % 、「 周囲に気を遣わせるのが嫌だった 」との回答も 38 % あった。いずれにしても食物アレルギーを理由に外食・中食の利用を控えている状況がある。食物アレルギーがあっても外食・中食も利用を望んでいると考えられる。外食・中食業者が誤食のリスクを減らす取り組みを進めたり、店舗対応を気まずく思うような状況を減らしたりすることで、外食・中食を利用できる状況となる。

食物アレルギーの患者でも一定の割合で外食・中食を利用しており、症状の重篤度にもよるが、外食・中食に潜むリスクを十分理解せずに利用している可能性がある。また、実際にリスクを十分理解して利用を控えている人もいる。外食・中食業者が食物アレルギー対応を進める中で、リスク管理が充実すれば利用控えが減る可能性がある。

 

外食・中食での誤食事故が多発

外食での誤食事故を食物アレルギー患者の 42.5 % が経験していた。誤食回数は 1 回が最も多いが、 2 回、 3 回と経験している患者も一定数存在し、中には 10 回以上の患者もいた。誤食事故後の対応は入院が 15 % 、入院はしなかったが処置を行った例が 32 % 、受診のみが 22 % であった。

中食での誤食事故は 30.6 % が経験していた。誤食回数は 1 回が最も多いが、複数回経験の患者もいた。誤食事故後の対応は入院が 9 % 、入院は必要なかったものの処置を行った例が 28 % 、受診のみが 26 % であった。

食物アレルギー患者の外食・中食での誤食事故は多発しており、入院が必要だった患者も一定の確率で存在している。誤食事故が重症化した例も多い。この調査は比較的重症の患者を対象にしているため、重症化例が多くなった可能性がある。しかし誤食事故が起き、重症化している患者が存在する事実は問題である。

 

外食・中食でのアレルギー表示の規定は未整備

誤食事故の原因は、外食・中食業者の対応不十分のためと考えられがちだが、最も多かったのは患者側のミスによる誤食事故だった。加工食品のアレルギー表示と、外食・中食のアレルギー表示は同じに見えるが、消費者庁が定めるアレルギー表示は加工食品のみが適用で、外食・中食には適用されない。

患者がこの点を知らずに、外食・中食のアレルギー表示を加工食品と同様と考えて食べたため、症状が誘発されるケースがある。また、理解していても、食物アレルギー表示の見落としや確認忘れで、症状が誘発されるケースも多い。このような誤解などに起因する誤食事故については、患者への外食・中食のアレルギー表示についての啓発によって、リスクを管理してもらうことが重要である。

外食・中食業者側の問題は、食物アレルギーについての知識がなければリスク管理ができない点で、外食・中食業者に対する食物アレルギーの啓発が必要である。また、中食・外食業者は食物アレルギーの専門家ではない。一定の方針やルールが示されなければ、独自に対策を進めるモチベーションは生まれない。もし対策しても、正しい内容なのかの検証もできない。外食・中食業者による統一ルール作りも期待される。

 

外食・中食業者の食物アレルギー対応は不十分

2018 年、東京都は外食・中食業者を対象に食物アレルギー研修会を行い、参加者に事業所や店舗における食物アレルギー対応について、アンケート調査を行った。食物アレルギー対応のマニュアル化について質問したところ、マニュアル化済みとの回答は 51 % にすぎなかった。食物アレルギーに関する従業員教育実施状況については、定期的な実施が 25 % であった。多くの外食・中食業者は食物アレルギーに対する認識が低く、その対応も充実していない。

このアンケート調査では外食・中食業者の管理者、経営者、従業員それぞれに食物アレルギーに関する知識や意識状況も質問した。管理者、経営者では「知識があり、意識も高い」との回答が約 30 % であった。しかし実際の対策を見ると、食物アレルギーに関する知識、意識は必ずしも高いとは言えない。現在の対策で十分と誤認している可能性もある。また、管理者、経営者では「知識は高くないが、意識は高い」との回答が約 40 % であった。食物アレルギーに対する意識はある程度高いため、専門家が管理者、経営者への啓発を充実させれば、対策が進む可能性がある。

一方で従業員では「知識が低く、意識も低い」との回答が多かった。したがって管理者や経営者による、従業員の意識や知識を高める取り組みが必要である。そのためには、自治体や所管省庁がリーダーシップを発揮し、店舗における従業員教育を充実させる方向性を打ち出すことが求められる。

さらに、食物アレルギー対応での課題についても質問をしている。その結果、主な課題として従業員の意識と理解、従業員教育、正確な情報提供があげられた。このような課題に対する解決方法を専門家や自治体、所轄省庁が提供することが食物アレルギー対応を進める第一歩となる。

 

食物アレルギー患者への情報提供が必要

現状では外食・中食にはアレルギー表示に関するルールが存在しないことを患者に啓発する必要がある。さらに外食・中食業者が提示するアレルギー表示は加工食品のアレルギー表示と同様に見えても精密ではなく、誤りが含まれる可能性がある。

とくに重症患者ではこのようなリスクを考慮し、外食・中食の利用控えを検討してもらう必要もある。重症でなくても誤食事故のリスクはある。昨日までの外食・中食の利用で問題がなくても、今日の利用が安全である保証は全くない。実際に少なくない患者が外食・中食の誤食事故で入院や受診をしている。外食・中食利用の際にはアドレナリン自己注射薬を携帯するなど、事故への備えと心構えも求められる。

 

外食・中食業者に対する啓発も必要

外食・中食業者に求められる食物アレルギー対策は多いが、ほとんど実現されていない。十分な食物アレルギー対策が行われない中で、リスクを承知しながら、患者が外食・中食を利用している状況がある。外食・中食事業向けのアレルギー対策を少しでも整備する必要がある。まずは、外食・中食業者が食物アレルギーについて学び、食物アレルギー患者に料理を出すリスクを知るべきである。外食・中食業者は規模も違い、出している料理も異なる。それぞれの外食・中食業者で可能なリスク管理から始めてもらう必要がある。

できる限り最新で正しい情報提供に努めることも求められる。メニューが固定されており、食材の納入業者が同一であれば、情報提供は比較的容易である。しかし、日替わりメニューが提供されるなど毎日メニューが変わり、食材の納入業者が変わる場合も多い。このような場合でも最新で正しい情報提供を可能にできる方法を考えなければいけない。
また、管理者や経営者、調理者だけでなく、フロアで接客する従業員がこのような情報を把握していなければならない。そのためには外食・中食業者内でのコミュニケーションが重要であり、継続した従業員教育で誤食事故を絶対起こさない環境作りも求められる。消費者庁は事業者向けのパンフレットを作成し周知を図っているので、参照されたい。

 

行政や専門家を含めた連携が重要

これらの対応を外食・中食業者が個別で実施することは難しい。外食・中食業者で標準化され実現可能なルール作りに取り組むことが必要になる。このためには所轄省庁で一定の方向性を打ち出し、これをモデルに外食・中食業者の形態ごとに最適化することが重要と考えられる。

外食・中食における食物アレルギー対応は始まったばかりか、まだ始まってさえいない可能性もある。食物アレルギー研究会に参加している専門家はこの点を意識した、患者への注意喚起、関係自治体や所轄省庁へのアプローチなどが必要である。

 

 

食物アレルギー児への理解を促す活動

服部佳苗NPO 法人ピアサポート F. A. cafe

 

年齢ごとに食物アレルギー患者の役に立つ資材を作成

『 NPO 法人ピアサポートF. A. cafe 』は、 2019 年に発足し、食物アレルギーを「 共に学ぶ 」 「 周囲に伝える 」「社会に提案する」をコンセプトに活動している。当会はいわゆる患者会として、アレルギー患者に必要なものを形にして、次の世代のアレルギー患者に引き継ぐ活動を行っている。

多くの患者が乳幼児期に食物アレルギーの診断を受ける。乳幼児期は保護者に守られている。小学校に入ると大人の支援に守られながら給食や学校行事など様々な経験を積み重ねていく。中学生では保護者が見守る側に回り、自分で判断して対応していく。思春期、反抗期を迎えると保護者が日々のケアに関わらなくなり、薬を処方通りに服用しているかも見えづらくなる。その後、小児科から成人内科へ移行する課題も控えている。そこで、当会では思春期以降に食物アレルギー患者が困らないよう、患者本人が食物アレルギーの知識を備えて治療継続の必要性を理解し、セルフケアのスキルを身に付けて生活できるようになるための働きかけをしている。

乳幼児向けには『 食物アレルギーサインプレート 』を、小学校低学年や高学年にはそれぞれ啓発教材を作成。英語での食物アレルギーについてのコミュニケーションをサポートし、外食時にも使える中学生以上向けの『 食物アレルギーサポートブック(英語表現集) 』も作っている。現在は最も需要があると思われる未就学児向けの教材を準備している。

 

持っていて楽しく、周囲に食物アレルギーを伝えられる『 食物アレルギーサインプレート 』

『 食物アレルギーサインプレート 』は患児の保護者が「 食物アレルギーの診断を受けた際に何から始めたら良いのか分からなかった 」という経験から作成された資材で、食物アレルギーと診断された患者に医師から渡してもらっている。食物アレルギーの疑いがある子どもに医療機関受診を促すため、医療機関からの配布のみとなっている。
患児の保護者から「 子どもが食物アレルギーと診断された時はショックだった 」という声を何度も聞いた。そこで『 食物アレルギーサインプレート 』は、医師から渡された瞬間に少しでも気分が上がることを願ってカラフルにした。クラフトワークのような作りで、患児もワクワクできる。

『 食物アレルギーサインプレート 』は、必要な時に周囲の人へアレルゲンを伝えるツールだが、本来の役割は最低限必要な情報を整理して持ち歩ける患者カードである。さらに食物アレルギーの原因食物を患児が自覚するためのツールにもなっている。表紙は可愛いアレルゲンのイラストで、中は緊急連絡先、救急車を呼ぶべき重篤な症状の確認、処方薬やアドレナリン自己注射薬の有無などを記入できる。飲食を伴う行事など注意喚起が必要な時に身に付けて利用する。
また、『 食物アレルギーサインプレート 』には食物アレルギーに関する会話を生みだす目的も持たせ、本ツールを自宅に持ち帰った際の、親子の会話のきっかけ作りを狙っている。そのため、患児が工作の付録をもらったような気持ちになり、興味を持って、作ってみたいと思えるようにした。親子で会話をしながら切ったり貼ったり書き込んだりして、日々の注意事項を確認できる。

保育園、幼稚園の送迎や遠足などのイベント時に身に付けて注意喚起をすれば、そこから食物アレルギーについての会話が生まれることもある。その際に、保護者が行う食物アレルギーについての説明を繰り返し聞いていくうちに患児自身も自分の言葉として話せるようになる。

 

食物アレルギー患児が交流できるイベントも開催

当会では『 食物アレルギーサインプレート 』以外にも様々な啓発教材の作成や、ワークショップを開催している。患児はなぜ自分はみんなと同じお菓子を食べられないのか疑問に思う日がくる。だからこそ食物アレルギーを患児なりに理解し納得して受け入れることができるように学ぶ場が必要になる。

当会ではこれまでもワークショップやイベントを開催してきた。患者の保護者が集まって不安を解消し、知恵を共有するための大人向けの会は様々な地域に存在するが、出会いを求めているのは患児も同様である。新型コロナウイルス感染症( COVID – 19 )拡大の影響で大勢が集まるイベントは難しくなっているが、これからも可能な限りこのような場を企画したい。

 

学級全体で食物アレルギーを学べる低学年向け啓発教材

患児だけでなく学級全体を対象に食物アレルギーを学ぶ低学年用啓発教材も作成している。学校給食対応では、生活管理指導表の提出が義務付けられ、教職員との面談が設けられるようになった。小学校低学年向けに作成した啓発教材では、食物アレルギー対応や除去給食について学校と話し合いながら決めていることをクラスメイトに説明している。
医師の診断に基づき、保護者と学校職員が連携すれば、患児の安全は守られると信じていた。しかし、食物アレルギーの情報は大人には共有されても、学級のクラスメイトには届かない。患児は子ども社会で毎日を過ごし、クラスメイトと共に学び、遊び、給食を食べている。

教室には先生は 1 人で、他の 30 人は同じ年齢の子どもたちである。患児以外の子どもが食物アレルギーについて何も知らないのは、家族やそれまでの友達に食物アレルギーがなく、知る機会がなかったためである。大人は疑問や好奇心を持って患児の除去給食対応を眺めているクラスメイトにも、食物アレルギーについて説明する必要がある。
当会で、食物アレルギー患児の家族と健常児の家族を対象に学級全体での食物アレルギー啓発についてアンケート調査を行ったところ、「良い」「とても良い」という回答が数多く得られた。この調査結果を受けて、学級全体に向けた啓発教材の制作に取り組んだ。

食物アレルギーの説明を受けていないクラスメイトは「 除去給食を羨ましい 」「 ずるい 」と思うことも珍しくない。そこで、医師の診断によりある特定の食品が食べられないこと、嫌いなものを抜いているわけではないこと、食べると具合が悪くなること、アレルゲンが食べられるようになったら同じ給食を食べることができる日がくることを説明している。このような学級全体への啓発は、患児本人にとっても再確認の良い機会となり、自覚を促す。

クラスメイトが患児の異変に気づければ、迅速な救済に繋がり心強い。しかし、食物アレルギーには多様な症状があり、患児本人にも周囲のクラスメイトにも正確に説明する必要がある一方、恐怖心を与えてはならない。そのため、症状をかわいいイラストで表現した。

低学年用啓発教材として、デジタル絵本のほか、読み聞かせのストーリー動画も作成した。教職員の負担にならないように、指導案や振り返りのクイズなどもセットした。また、学校で学んだ食物アレルギーの説明をまとめ、家に持ち帰り家族と情報共有を可能にする小冊子も作成した。イベントでストーリー動画を流していた際、未就学児が足を止め、最後まで見て理解をしてくれた。これは小さい子どもでも食物アレルギーを理解する力があることを再認識した良い機会であった。

 

高学年向け啓発教材は行事での食物アレルギー対応をまとめたポスターに

当会では高学年向け啓発教材も作成している。食物アレルギー患者のハードルは学校給食だけではなく、学年が上がれば、調理実習や宿泊学習など活動も広がる。中学生以上の食物アレルギー患者を対象に実施したアンケートでは、「 食物アレルギーが行事参加に影響した 」との回答が多かった。本来は楽しいイベントも、食物アレルギーによる不安がつきまとう。そこで、中学生以上の自立した生活が始まる前、思春期で親子のコミュニケーションが難しくなる前に再度、食物アレルギー啓発の機会が必要だと考え、高学年向けの啓発教材として、高学年で経験する行事をテーマにした学習漫画仕様のポスターを作成した。高学年になると授業時間も増え、学級全体で時間をとった啓発が難しくなる。また、アレルギー患者の有無に関わらず、多くの子どもにアレルギーへの理解を深めてもらいたいとも考え、食物アレルギーだけでなく、喘息やアトピー性皮膚炎などの情報も盛り込んだ。しかし、各種行事における注意点や様々なアレルギーの情報を盛り込むと、かなりのボリュームになるため、 5 つの行事に分けたポスターとした。家庭科室や保健室、共用の廊下などに掲示してもらっている。

 

外食時や英語での説明に利用できる資材も作成

中学生以上になると担任や養護教諭の出番は減る。中学生~ 20 歳の食物アレルギー患者に緊急時や体調不良時のサポート、食物アレルギーのことを友達に伝えているかアンケート調査したところ、「 伝えている 」との回答が多かった。中学生以上になると、家族以外の人との外食機会が増える。外食で困った経験の質問には、「 困ったことがある 」と答えたのは高校生で 77 % 、高校生以上の年齢では 82 % であった。そこで、中学生以上には、日頃から自分で調べる、親任せにしない、症状が出た時は自分で対応する、受診時に親の同伴があっても自分で質問する、体調管理を自分で行う、などを訴えている。

食物アレルギーが理由で海外経験を諦めてほしくないと願い、『 食物アレルギーサポートブック (英語表現集) 』を作った。対象年齢は中学生以上で、成人でも使えるようにした。食物アレルギーに関する最低限の表現を英語と日本語の対訳でまとめている。誤食した場合の時間管理や医療機関を受診する際の食物アレルギー症状なども紹介している。また最終ページには受診時に必要な情報をまとめるページも作った。

中学生以上の食物アレルギー患者に、日頃の対策の復習や食物アレルギーの情報の再確認にも使ってもらいたいと考えている。

 

年齢ごとに食物アレルギーを理解できる資材が必要

年齢に応じた様々な啓発を展開しているのは以下の理由がある。中学生以上の食物アレルギー患者と元患者を対象にしたアンケート調査では、主治医の話を理解できるようになったのは「 中学生以上 」との回答が 40 % を超えた。「 受診に保護者の同伴が必要 」との回答は、高校生までが約 40 % 、大学生までが約 30 % であった。

近年の小学生は中学受験にチャレンジしたり、高度なゲームを使いこなすが、食物アレルギーの理解は進まない。この理由には、患児では親子の依存度が高いことが考えられる。食物アレルギーライフは親子二人三脚で始まり、患児本人に主体を移行するタイミングがない。加えて、幼い患児が学ぶ機会や学習ツールの提供が十分でない。当会では会員の経験と反省からあれば良かったと思うものを患者目線で楽しみながら作っている。成長した当会会員の子ども達も制作に参加している。

高校生の食物アレルギー患者へのアドレナリン自己注射薬についてのヒアリング調査では、「 いつもトレーナーで練習していたので、針が入っていることを知らなかった 」との回答があった。初めての処方時には医師も丁寧に説明をし、保護者も熱心に質問をしたと思われる。しかし処方開始から何年も経つと、医師も保護者も患児が当然理解していると思いがちである一方、患者本人は初期の説明を忘れ、トレーナーでの練習を繰り返していたようだ。

また、「 何かあれば誰かがアドレナリン自己注射薬を打ってくれると信じていたが、成長して、それができる人は周囲にいないと気づいた 」との回答もあった。これは「 何かあったら迷わず打って 」と保護者が教職員に伝えているのを聞く機会が何度もあったためと思われる。これらの回答から、年代ごとに食物アレルギーに対する情報提供を繰り返し行う必要が伺える。そこで、当会では『 食物アレルギー児への理解を促す活動 』として、成長年齢に応じた患児教育と学級啓発に取り組んできた。

さらに、思春期、反抗期までに食物アレルギーを十分に理解し、セルフケアを習得する必要がある。その先に食物アレルギーという慢性疾患と上手に付き合う未来像を描けるように支援していきたい。しかし、これはあくまでも患者ができる範囲内に限られ、医療従事者のような直接患者への働きかけはできない。そこで、当会では食物アレルギーの疑いがある人が適切な医療に繋がれるように、活動の基本は医療機関との連携であり、医療機関受診を勧める呼びかけを続けている。

当会で作成している啓発教材の提供は、全て無償である。食物アレルギー治療に携わる医療従事者に、患者への案内をお願いしたい。

 

 

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