第26・27回合同学術大会 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「‘食べる’が繋がる」Part2

2021.12.20フレイル・サルコペニア , リハビリテーション栄養 , 摂食嚥下
名古屋国際会議場

名古屋国際会議場

パネルディスカッション9
サルコペニアと嚥下障害State of the art

座長: 藤島一郎(浜松市リハビリテーション病院
    若林秀隆(東京女子医科大学大学院医学研究科リハビリテーション科学分野

Part 1より続く

 

超音波検査装置による嚥下筋のサルコペニアの評価

森 隆志総合南東北病院口腔外科摂食嚥下リハビリテーションセンター

 

◆サルコペニアにより摂食嚥下障害が惹起されるだけでなく、神経学的疾患とサルコペニアの合併による摂食嚥下障害増悪も考えられる

サルコペニアは摂食嚥下障害の成因の一つである。サルコペニアの摂食嚥下障害のほか、脳梗塞などの神経学的疾患でもサルコペニアを合併することで摂食嚥下障害が増悪する可能性がある。
サルコペニアの評価は筋力、筋肉量、機能の検査が重要である。摂食嚥下機能におけるサルコペニア関連の評価として、筋力は最大舌圧、嚥下圧、開口力、咬合力、口唇閉鎖力、筋肉量は舌骨上筋群・舌筋・咬筋の横断面積・厚さ・容積で評価できる。

◆嚥下関連筋群の筋肉量はCT、MRIのほか超音波でも報告されるようになった

嚥下関連筋群の筋肉量の報告は多数ある。対象となる筋肉はオトガイ舌骨筋、顎二腹筋、舌筋、咬筋、咽頭筋があり、検査法としてはCT、MRIのほか超音波検査の報告もある。 超音波検査を用いた嚥下関連筋の評価は非侵襲で移動が簡便、低コストというメリットがある。しかし、検査の信頼性・妥当性の証明が一部にとどまり、検査の方法論のコンセンサスが確立しておらず、標準的データが不足し、機器間の互換性もないという問題点もある。

◆オトガイ舌骨筋の矢状断はコンベックスプローブで冠状断はリニアプローブで測定可能

オトガイ舌骨筋の超音波検査では被験者に着席してもらい、少し顎を挙げてもらう。その後、プローブをオトガイ部から滑らせるように舌骨方向に移動する。超音波検査の画像では中央部にオトガイ舌骨筋、その両側にオトガイと舌骨の陰影を確認できる。
オトガイ舌骨筋の計測は冠状断と矢状断が対象となる。オトガイ舌骨筋の冠状断はオトガイ下にリニアプローブを当てて計測できる。オトガイ舌骨筋の矢状断はコンベックス型プローブにより計測可能である。
画像解析はエコーに内蔵されたソフトウェアを用いる方法のほか、イメージJを用いてエクスポートしたデータから関心領域の面積を計測できる。イメージJでは輝度からは関心領域のエコーレベルの平均値を算出することも可能である。

◆高齢者のオトガイ舌骨筋の矢状断は横断面積が減少し、質も低下

超音波検査を用いたオトガイ舌骨筋の矢状断の研究では、高齢になると若年者に比べ横断面積が有意に減少し、輝度が有意に上昇することが報告されている。輝度の上昇は筋肉の質の低下を意味する。また、CTを用いたオトガイ舌骨筋の矢状断の研究でも、高齢者では若年者に比べ横断面積と厚さが減少することが明らかになっている。これらの報告から、高齢者ではオトガイ舌骨筋が縮小し、質も低下していると示唆される。

◆オトガイ舌骨筋矢状断については異なる検査法での比較、検者による信頼性の検証が報告されている

日本人の同一症例でオトガイ舌骨筋矢状断をMRIと超音波検査を用いて計測したところ、MRIでは265.9mm2、超音波検査では264.1mm2と近似した値が得られた。超音波検査でもある程度はオトガイ舌骨筋矢状断の横断面積を計測できると考えられる。
ただし、海外で報告された若年男性のオトガイ舌骨筋矢状断の平均値は520mm2とこれらの計測値とは大きな差がある。この要因として、海外の報告は骨と筋の間にある腱を関心領域として切り取ったため、外国人と日本人の体格の差を反映しているためなどが考えられる。
超音波検査の検者による信頼性評価については、オトガイ舌骨筋矢状断の横断面積について検証した報告がある。今後はデバイス間、検者間の測定値を比較し、信頼性を検証する必要がある。

◆サルコペニアの摂食嚥下障害患者は顎二腹筋前幅の面積が小さく、輝度が高い

顎二腹筋前腹の冠状断はリニアプローブを用いて計測が可能である。顎二腹筋前幅については、サルコペニアの摂食嚥下障害患者は他の要因の摂食嚥下障害者に比べ、面積が小さく、輝度が高いとする報告、高齢者は若年者に比べ、横断面積が減少するという報告がある。サルコペニアが関連する摂食嚥下障害の評価に顎二腹筋前腹の横断面積の計測が有用である可能性がある。
ただし、顎二腹筋前腹のCT像では、断面により形状に差異がみられる。顎二腹筋前腹を評価する際にはどの断面をどのように切り取って画像を判断するか問題となる。このため、顎二腹筋前腹を測定する場合、検者は一定のトレーニングが必要と考えられる。

◆高齢者の舌筋は若年者より横断面積が大きい

超音波検査を用いた舌筋の評価については、高齢者は若年者に比べ、横断面積が大きいとする報告がある。これはオトガイ舌骨筋や顎二腹筋前腹と異なる傾向を示す。この原因には筋肉の脂肪化が仮説として考えらえる。また、舌の厚みは栄養状態、BMI、骨格筋量と関連するとする報告もある。

◆咬筋の厚さは骨格筋量や歯数と関連する

超音波検査による咬筋の評価では、咬筋の厚さは歯の喪失、年齢、骨格筋量と関連すると報告されている。さらに、咬筋の厚さは骨格筋量と歯数に関連するという報告もある。MRIによる咬筋の評価では、高齢者は若年者に比べ容積が小さいことも示されている。

◆虚弱高齢者では舌骨の運動に衰えがみられる

嚥下造影検査で運動機能評価を行った報告では、虚弱高齢者では若年者に比べ舌骨の移動距離が短く、最大移動距離に要する時間が長くなっており、舌骨の運動に衰えがみられることが明らかになった。
超音波検査によるこれまでの報告は面積に関するものであったが、機能についても評価が試みられている。例えば、オトガイ舌骨筋の移動について超音波検査で観測できるという報告がある。
そこで、総合南東北病院では被験者に唾液を嚥下してもらい、超音波検査を用いオトガイ舌骨筋の動きを計測した。さらに、人工知能を使ってオトガイ舌骨筋の位置を確定し、面積と輝度の算出を試みた。従来は手作業での算出で時間を要していたが、この方法により短時間で把握できるようになった。

◆超音波検査の結果を安定させるためのアタッチメントや治具を開発

超音波検査は検者のプローブの扱いや対象者の姿勢によって結果が変わる可能性がある。得られる結果を安定させるために、総合南東北病院ではプローブに装着するアタッチメントや被験者の姿勢を安定させる治具の開発も行った。これらのアタッチメントや治具の効果は未検証であり、今後、検討を行っていきたい。

◆おわりに

嚥下関連筋群に対する超音波検査の対象はオトガイ舌骨筋、顎二腹筋前腹、舌筋、咬筋であり、MRIやCTに比べ安価、非侵襲、機動性、輝度での評価も可能という点で有用性がある。信頼性はオトガイ舌骨筋の矢状断横断面積は検証済みだが、他の方法は未検証である。機器間の信頼性や外的妥当性も検証されていない。得られた値の正常、異常を判断するために必要な基準値についても未検証である。嚥下関連筋群の超音波検査は有用である可能性はあるが、検査方法確立や結果解釈のためのデータ収集が必要と考えられる。

 

全身のサルコペニアについて最近の考え方と嚥下障害への影響

若林秀隆東京女子医科大学大学院 医学研究科リハビリテーション科学分野

 

◆EWGSOP2では握力低下で「サルコペニアの可能性あり」とし、筋肉の量や質の低下でサルコペニアを確定診断する

サルコペニアは2010年にヨーロッパのワーキンググループEWGSOP(European Working Group on Sarcopenia in Older People)がコンセンサス論文を発表して注目されるようになった。2018年にはEWGSOP2という新たなコンセンサス論文が発表されている。EWGSOP2のサルコペニアの定義は、「進行性、全身性に生じる骨格筋疾患で転倒、骨折、身体障害および死亡率といった有害な転帰の可能性増加と関連する」とされている。
ヨーロッパでは握力で評価される筋力をサルコペニアの診断に重視している。EWGSOP2では握力低下があればその時点で「サルコペニアの可能性あり」とし、さらに筋肉の質や量が低下していればサルコペニアと確定診断するというフローチャートになっている。

◆AWGS 2019では検査機器がない施設でもサルコペニアの可能性を評価できるようにした

アジアのサルコペニアワーキンググループAWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)はアジアでの診断と治療に関するサルコペニアのコンセンサス論文が2014年に発表されている。2019年に新しいアジアでの診断と治療に関するサルコペニアのコンセンサス論文としてAWGS2019も発表された。
AWGS2019の最大の特徴は骨格筋量を二重エネルギーX線吸収測定法(DEXA)や生体電気インピーダンス分析法(BIA)といった検査機器がない状態であってもサルコペニアの可能性を診断できるようにしたことである。AWGS2019では下腿周囲長男性34cm未満、女性33cm未満、SARC-F4以下、SARC-CalF11点以下のいずれかを満たす症例を対象に、筋力、身体機能の評価に移る。筋力は握力、身体機能は5回椅子立ち上がりテストもしくは歩行速度で評価する。握力が男性28kg未満、女性18kg未満あるいは5回椅子立ち上がりテスト12秒以上もしくは歩行速度1m/秒未満の場合は「サルコペニアの可能性あり」として介入する。

◆SDOC声明ではサルコペニアの定義にDEXAで評価された除脂肪量を含めるべきでないと提言

2020年に発表されたSDOC声明では握力低下と通常歩行速度低下をサルコペニアの定義に含めるべきであるが、DEXAで測定された除脂肪量は含めるべきでないと提言した。これはDEXAで測定された除脂肪量が筋肉量とは言い切れないこと、筋肉量低下は握力低下や通常歩行速度低下に比べアウトカムへの関与が低いことによる。SDOC声明はAWGS2019の診断基準と対立する内容になっているが、賛否両論がある。

◆ISPRMのサルコペニアの診断フローチャートでは超音波を用いた指標を採用

2021年には国際リハビリテーション医学会(ISPRM)のサルコペニアのワーキンググループによって新たなサルコペニアの診断フローチャートが公開された。基本的にはEWGSOP2のサルコペニア診断基準と同様で、握力低下がある場合を「サルコペニアの可能性あり」とし、超音波エコーを用いたSTARという指標が正常値であれば筋肉量が保たれているためダイナペニア、STARが低下している場合はサルコペニアと診断することを提言している。STARは大腿前面筋肉厚をBMIで除したものである。カットオフは男性1.4未満、女性1.0未満とされている。ただし、これは欧米人での基準値であり、日本でそのまま用いることは難しいと考えられる。

◆今後はサルコペニアの診断基準から筋肉量が除外されたり、超音波検査による筋肉量評価が普及したりする可能性がある

このようにサルコペニアの診断基準は数多く提言され、地域によって診断フローチャートが異なっている。今後は、国際的にサルコペニアの診断枠組みが統一され、カットオフ値のみが地域で異なるようになることが望ましい。
近年は全身のサルコペニアにおいて筋肉量の重要性が下がりつつあり、低骨格筋量よりも低身体機能が重視されるようになってきた。この動きは、とくにヨーロッパで顕著である。早ければ今年度中にも筋力と身体機能のみでサルコペニアと診断する時代が来る可能性がある。低骨格筋量に関しては、BIAやDEXA、CTにより評価されていた。しかし、今後は超音波検査で低骨格筋量が評価されることも考えられる。

◆サルコペニアの摂食嚥下障害の評価には『サルコペニアの摂食嚥下障害診断フローチャート』の使用が望ましい

2021年にサルコペニアの摂食嚥下障害に関する2020年10月までに公開された論文を検索したスコーピング論文が発表された。このスコーピング論文では、抽出された22論文のうち10論文はサルコペニアの摂食嚥下障害の診断に『サルコペニアの摂食嚥下障害診断フローチャート』を使用していた。4論文は全身のサルコペニアあり、摂食嚥下障害あり、明らかな原因疾患なしという基準を用いていた。3論文は全身のサルコペニアあり、摂食嚥下障害ありという基準であった。
このようにサルコペニアの摂食嚥下障害診断は統一されていない。サルコペニアの摂食嚥下障害において、『サルコペニアの摂食嚥下障害診断フローチャート』は診断性、妥当性が検証された唯一の診断方法である。したがって、サルコペニアの摂食嚥下障害診断には『サルコペニアの摂食嚥下障害診断フローチャート』の使用が望ましい。

◆『サルコペニアの摂食嚥下障害診断フローチャート』は身体機能、嚥下機能、摂食嚥下障害の原因疾患を評価し、舌圧の値でサルコペニアの摂食嚥下障害の可能性を判断

『サルコペニアの摂食嚥下障害診断フローチャート』では65歳以上で従命可能なものを対象とし、握力低下、歩行低下を評価し、握力低下と歩行低下のいずれかまたは両方がない場合を除外する。握力低下と歩行低下のいずれかまたは両方がある場合は全身の筋肉量低下を評価し、全身の筋肉量低下がない場合は除外する。全身の筋肉量低下がある場合は摂食嚥下機能の低下を評価し、摂食嚥下機能が正常であれば除外する。摂食嚥下機能障害がある場合は明らかな摂食嚥下障害の原因疾患を評価し、明らかな摂食嚥下障害の原因疾患がある場合を除外する。明らかな摂食嚥下障害の原因疾患がない場合は嚥下関連筋群の筋力低下を舌圧で評価し、舌圧が20kPa以上で嚥下関連筋群の低下がない場合あるいは舌圧を測定できない場合は「サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性あり」、舌圧が20kPa以下で嚥下関連筋群の筋力低下がある場合は「サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性が高い」とする。

◆高齢者の摂食嚥下障害患者にはサルコペニアの嚥下障害の割合が高い

『サルコペニアの摂食嚥下障害診断フローチャート』を用いて評価したところ、急性期病院で嚥下リハビリテーションの依頼があった患者の32%、日本のある病院で肺炎の入院患者のうち嚥下障害がある患者の81%、コロンビアの施設入所高齢者の45%が「サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性あり」もしくは「サルコペニアの嚥下障害の可能性が高い」とされた。これらの報告から、高齢者の摂食嚥下障害患者ではサルコペニアの嚥下障害の割合が高いと考えられる。

◆嚥下筋の筋肉量低下の評価が難しいため、サルコペニアの摂食嚥下障害の確定診断ができなかった

2014年の摂食嚥下リハビリテーション学会のシンポジウムでは、サルコペニアの摂食嚥下障害の確定診断基準として、全身のサルコペニアあり・嚥下障害あり、嚥下筋の筋肉量低下あり、嚥下筋の筋力低下あり、明らかな摂食嚥下障害の原因疾患なしの4項目をすべて満たす場合を提言した。
ただし、当時は嚥下筋の筋肉量低下の評価が難しかったため、『サルコペニアの摂食嚥下障害診断のフローチャート』では確定診断を採用せず、「サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性あり」または「サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性が高い」とした経緯がある。

◆「攻めの栄養管理」でオトガイ舌骨筋の冠状断面積が増加

最近は嚥下筋の筋肉量を超音波検査で評価できるようになってきた。ある回復期リハビリテーション病院では、エネルギー摂取量は入院当初の1日あたり1500kcalから2500kcalに増やして「攻めの栄養管理」を行いながら、全身のリハビリテーション、嚥下リハビリテーションを行った。その結果、体重は入院当初54.1kgであったものが退院直前の131日目には62.5kgまで増えている。全身の骨格筋指数は入院当初は6.3kg/m2でサルコペニアの基準に該当していたが、131日目には7.6kg/m2に増加し、サルコペニアの基準を満たさない値になった。
FOIS (Functional oral intake scale)も入院当初のレベル1から131日目にはレベル7になり、常食を経口摂取できるようになった。舌圧も入院当初の28.4kPaから131日目には44.1kPaに、握力も入院当初の29.6kgから131日目には40.3kgに増加した。超音波検査でオトガイ舌骨筋冠状断を評価したところ、入院19日目の測定では0.84cm2であったが、131日目には1.12cm2と大きくなった。顎二腹筋も入院当初に比べ、131日目に大きくなっている。
このように全身の筋肉量が増え、栄養状態が改善すると、嚥下筋の筋肉量も増えてくる。嚥下筋の超音波検査は治療効果判定としても利用可能と考えられる。

◆サルコペニアの摂食嚥下障害を確定診断するオトガイ舌骨筋の矢状断のカットオフ値が提言されている

サルコペニアの摂食嚥下障害は超音波検査で評価した嚥下筋の筋肉量のカットオフ値を決めて、確定診断の基準の作成を検討する時代になった。
オトガイ舌骨筋矢状断のカットオフ値案として、若年者のオトガイ舌骨筋矢状断の-2標準偏差から男性198.9mm2女性159.2mm2が提言されている。このカットオフ値を算出した際のサンプル数が少ないため、さらにサンプル数を増やしてカットオフ値を決めるべきではあるが、すでに議論のたたき台となる数値が示されている。

◆サルコペニアの摂食嚥下障害の確定診断では嚥下筋の筋肉量が必要

全身のサルコペニアでは低骨格筋量が重要視されなくなりつつあり、サルコペニアの摂食嚥下障害でも嚥下筋の筋肉量減少を評価せず、嚥下筋の筋力低下と全身のサルコペニアのみで確定診断してもよいとも考えられる。  しかし、少なくともアジアでは全身の筋肉量を重視している。AWGSで全身のサルコペニアの診断基準の改訂が行われるのは2024年であり、3年間は全身の筋肉量を重視したサルコペニアの診断基準が使われる。そこで、嚥下筋の筋肉量を含めたサルコペニアの摂食嚥下障害の確定診断の基準を作るべきと考える。

◆『サルコペニアの摂食嚥下障害の診断のフローチャート』に嚥下筋の筋肉量評価を加え、サルコペニアの嚥下障害の確定診断とすることを提言

超音波検査で嚥下筋の評価が可能になってきたことを踏まえ、以下を提言したい。『サルコペニアの摂食嚥下障害の診断のフローチャート』では舌圧の低下がある場合、「サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性が高い」とされている。「サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性が高い」症例には嚥下筋の筋肉量を評価し、オトガイ舌骨筋の矢状断のカットオフ値を下回った場合をサルコペニアの摂食嚥下の確定診断とし、カットオフ値を上回った場合を「サルコペニアの嚥下障害の可能性が高い」とする。
嚥下筋の筋肉量がカットオフ値を上回っている場合でも、脂肪が増えて輝度が上がり、ファンクションが落ちているが、筋肉量は増えていない可能性が考えられる。『サルコペニアの摂食嚥下障害の診断のフローチャート』では、舌圧の低下がない場合は「サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性あり」とされている。「サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性あり」の症例でも嚥下筋の筋肉量を評価し、カットオフ値を下回る場合は「サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性が高い」、カットオフ値を上回る場合は「サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性あり」とする。

◆おわりに

高齢者の摂食嚥下障害患者はサルコペニアの摂食嚥下障害の可能性が高く、適切な介入が必要である。しかし、現状ではサルコペニアの摂食嚥下障害についての確定診断基準は存在しない。全身のサルコペニアの診断基準ではヨーロッパを中心に筋肉量の評価を除外する流れが強まってきた。一方で、AWGSのサルコペニアの診断基準では当面、筋肉量の評価が利用されることになっており、サルコペニアの摂食嚥下障害の確定診断は嚥下筋の筋肉量の評価によることが望ましいと考える。そこで、『サルコペニアの摂食嚥下障害の診断のフローチャート』の体制を保持したまま、嚥下筋の筋肉量低下の有無により、サルコペニアの摂食嚥下障害を確定診断することを提言したい。

【ディスカッション】

◆サルコペニア、ダイナペディアの定義

藤島先生●EWGSOP2のサルコペニアの診断基準では年齢も評価するのか。
若林先生●高齢者でなくても2次性サルコペニアは起こり得るため、年齢は含まれていない。
藤島先生●サルコペニアの診断における年齢の基準については議論が残る。ダイナペディアとはどのような定義なのか考える必要もある。
若林先生●ダイナペディアは筋力低下を意味する。ISPRMの診断基準では、筋力は低下しているが筋肉量が落ちていないものをダイナペディア、筋肉量と筋力の両方が低下している状態をサルコペニアとする定義が提言されている。

◆嚥下筋における呼吸筋からの入力と超音波検査の可能性

藤島先生●杉山先生からは呼吸筋の入力が嚥下筋にあるため廃用性萎縮やサルコペニアに陥りにくいとのお話があったが、森先生からは呼吸筋の入力がある顎二腹筋でもサルコペニアは起きるというお話があった。MRIを用いた研究では呼吸筋の入力があっても嚥下筋にはサルコペニアや廃用性萎縮が起こるという報告がある。嚥下筋には呼吸筋からどの程度の入力があるのか。
杉山先生●筋肉、神経、運動ニューロンレベルで考えると、呼吸性の活動が高いものから低いものまで多様性がある。とくに運動ニューロンは画一的な吸息性の活動を示さず、様々なパターンがある。運動ニューロンの活動性を詳しく調べれば、呼吸筋からの入力についてある程度の数値が得られるかもしれないが、現状ではそこまで至っていない。
藤島先生●筋肉ごとに違いがあり、画一的には述べられないということか。顎二腹筋に限って考えると、呼吸筋からの入力の割合はどの程度になるか。
杉山先生●顎二腹筋は基本的には呼吸性の活動を示す。ただし、咽頭収縮筋と比べると呼吸性活動としては若干弱い印象がある。
藤島先生●顎二腹筋以外に超音波検査で評価できる嚥下筋はあるのか。
森 先生●咬筋は超音波検査で評価できるが、咬筋は直接嚥下動作に関与する筋肉ではないと考える。
藤島先生●咬筋に呼吸性の入力はあるのか。
杉山先生●咬筋は状況によって活動が変わる筋肉なので評価が難しい。個人的には甲状舌骨筋の方が嚥下に相関していると考える。
藤島先生●咬筋は超音波検査で評価しやすいが、嚥下筋とは異なるという理解でよいか。舌骨上筋群は超音波検査で評価できるか。
森 先生●舌骨上筋群の薄い筋肉は超音波検査で評価しづらい。
藤島先生●舌本体に呼吸性の入力はあるのか。
杉山先生●基本的には呼吸性活動を示す。ただし、内舌筋は嚥下と関係するが、呼吸との関連は評価が難しい。
若林先生●嚥下筋が呼吸性活動の影響を受けているというお話だったが、横隔膜や六角筋といった呼吸筋と嚥下筋を比べると呼吸筋の方が廃用性萎縮は起こしにくいと考えてよいのか。
杉山先生●横隔膜や六角筋は嚥下筋とは明らかに異なる。横隔膜や六角筋は呼吸セントラルパターンジェネレーター(CPG)が関与するというより、呼吸運動そのものを起こす筋肉と捉えられる。嚥下筋は呼吸CPGの関与により、呼吸運動に付随して動く筋肉と考えられる。
若林先生●誤嚥性肺炎のマウスでは舌、横隔膜、前脛骨筋のすべての筋肉が委縮したとする報告がある。このような侵襲が加わった場合には呼吸筋の影響はなく、どの筋肉でも筋肉量減少が起きると考えてよいのか。
杉山先生●侵襲が加わった場合は生理的な状況とは異なり、筋肉の萎縮も変わってくる。

◆サルコペニアへの筋病理の応用における現状と今後の課題

藤島先生●サルコペニアの評価に関しては、ヘマトキシリン・エオジン染色は役に立たないのか。
巨島先生●ヘマトキシリン・エオジン染色にも意義はあるが、現在はヘマトキシリン・エオジン染色以外にも多くの種類の染色があり、あらゆる疾患を判別するために染色を使い分ける時代である。筋病理における遺伝子や分子病理学も進んでおり、この分野も併せて考える流れになっている。  ホルマリン固定ではタイプ1線維とタイプ2線維の染め分けができないため、筋病理では、凍結標本の作製が重要になる。ただし、凍結標本の作製は非常に手間がかかり、専門の施設でないと難しい現実はある。サルコペニアの患者を治療している施設と凍結標本を作製できる専門の施設が協力して検体を収集し、サルコペニアの筋病理に関する研究を進めていければよいと考える。
藤島先生●現時点の筋病理は臨床レベルでなく、まだ研究レベルと考えてよいか。
巨島先生●臨床レベルで応用するためには、サルコペニアに関する筋病理がもう少し明らかにならないといけない。サルコペニアを筋肉の疾患として捉えると、筋肉でどのような現象が起きているのか解明する必要がある。その結果から、臨床レベルでの対応も明らかになると考えるが、道のりは遠い。今後の検体の集積と解析に期待している。
藤島先生●「筋病理の点からは、サルコペニアという疾患が存在するのか疑問である。」という質問を受けたこともある。筋病理としてサルコペニアは診断できるものなのか。
巨島先生●それは難しい点である。サルコペニアが筋肉の疾患であるなら、筋肉の変化に意味がある。サルコペニアに特徴的な筋肉の変化があれば、サルコペニアであるという定義ができればよい。形態的な変化に限らず、遺伝子や分子の変化でもよいが、サルコペニアに特徴的な筋肉の変化を明らかにする必要がある。
藤島先生●現時点ではサルコペニアに特徴的な筋肉の変化は明らかになっていないと考えてよいか。
巨島先生●今のところ明らかになっているものはない。
藤島先生●現状の臨床では筋肉量と筋力でサルコペニアを診断せざるを得ない。
森 先生●嚥下筋の筋病理を検討する際には、嚥下筋だけ採取する方がよいのか、嚥下筋以外の筋肉も採取して、比較した方がよいのか。
巨島先生●嚥下筋の特性はまだ十分にわかっていない。とくに嚥下筋はヘマトキシリン・エオジン染色のみというサンプルが多い。嚥下筋だけでなく、嚥下筋以外の筋肉も調べていく必要がある。嚥下筋と骨格筋との関係を考えるうえでは、嚥下筋と骨格筋とともに採取できればよい。剖検では骨格筋と嚥下筋の両方を採取している施設もある。諏訪赤十字病院でも行っているが、骨格筋と嚥下筋を同時に採取する意味はあると考える。

◆嚥下筋における超音波検査のテクニック

藤島先生●森先生が超音波検査を習得するまでどれくらいの時間がかかったのか。
森 先生●オトガイ舌骨筋の矢状断であればそれほど難しくはなく、10回程度の練習で値が安定してきた。ただし、オトガイ舌骨筋の冠状断はプローブを安定させることが難しい。同一の被検者に数十回の計測を繰り返して、同様の値となるか確かめる必要がある。
藤島先生●理学療法士や歯科医は超音波検査を活用している。言語聴覚士にも超音波検査を使ってもらい、訓練効果の評価の指標にできればよい。オトガイ舌骨筋の矢状断であれば10例程度の練習で測定可能と考えてよいか。
森 先生●測定できると考える。ただし、やせすぎている場合はコンタクトが難しいことがある。
オンライン●超音波検査に年齢による制限はあるのか。
森 先生●年齢制限を考慮したことはないが、超音波検査なのでとくにないと思う。

◆嚥下筋における超音波検査の臨床への活用

藤島先生●サルコペニアでは筋肉の質の低下という問題もあるが、質に関する診断はエコーの輝度などでできるのか。
森 先生●高齢者では若年者に比べ、輝度が高かった。これはおそらく脂肪化の影響と考えられる。  ただし、輝度をグレースケールで評価する場合、超音波検査装置のセッティングにより数値が変わる。同じ超音波検査装置で同じ検者が同じ被験者に行った場合は比較ができるが、プローブが変わったり、同じ超音波検査装置でもパラメータが変わったりすると比較ができない。キャリブレーションをして同じようなグレースケールで評価できる方法を考えないと難しい。
藤島先生●筋肉の脂肪の割合が増えたという変化は、筋病理的にサルコペニアの特徴として考えられるのか。
巨島先生●筋病理で脂肪の増加自体は分かるだろうが、サルコペニア以外にも筋肉の脂肪が増える疾患もあり、サルコペニアの特徴とはならない。ただし、サルコペニアの筋病理を考えるうえで、筋肉の質は重要である。超音波検査で脂肪が増えると輝度が変わるなど、筋肉の質の変化を把握でき、MRTやCTの結果と比較すれば、何か明らかになるかもしれない。
若林先生●東京女子医科大学で行ったケースリポートでは、筋肉量が増えても輝度は変わらなかった。 嚥下筋の超音波検査で輝度が高い患者にはリハビリテーションを変えるなど、臨床に反映できるケースはどのくらいあるのか。
森 先生●総合南東北病院では『サルコペニアの摂食嚥下障害のフローチャート』を用い、サルコペニアの摂食嚥下障害に該当すれば、積極的な栄養療法を行う方針で、超音波検査の値によってリハビリテーション方法を変えたケースはない。食道がんの術後で嚥下筋がやせていることを確認するために超音波検査を使った症例はある。
若林先生●超音波検査の結果が研究だけに用いられ、臨床が何も変わらないと、研究では普及しても臨床には普及しない。臨床でも超音波検査を普及させるためには、臨床に役立つ使い方を考える必要がなる。
森 先生●例えば、BMIが18~19 kg/m2で骨格筋がやせており、嚥下も悪いといった患者の場合は、超音波検査の結果でリハビリテーションを変えることも可能と考えられる。  また、地域在住高齢者に超音波検査をして、嚥下筋がやせている高齢者にはトレーニングを勧めるなど予防的な使い方も有用である。
藤島先生●若林先生から「攻めの栄養療法」とリハビリテーションでオトガイ舌骨筋が大きくなり、舌圧も上がったというお話があった。森先生はリハビリテーションにより輝度や大きさが変わった経験はあるか。
森 先生●総合南東北病院は急性期病院で短期間しか入院しないこともあり、長期間のフォローアップが難しく、大きさが増えるまで確認した症例はない。  サルコペニアの摂食嚥下障害患者で総合南東北病院から隣接する病院に転院した症例では、3~4か月で体重が増加しており、この程度の期間にわたってフォローアップできれば、リハビリテーションの効果を確認できると考える。

◆サルコペニアの摂食嚥下障害の確定診断に関する提言について

藤島先生●サルコペニアの摂食嚥下障害の確定診断に関する若林先生の提言についてどう考えるか。
杉山先生●筋肉量の評価がオトガイ舌骨筋でよいのか、口腔機能や運動機能のどこを評価するのかなど議論が必要と考える。喉頭挙上と咽頭収縮では筋肉の役割が異なり、摂食嚥下障害でも原因となる病態が異なる。サルコペニアの摂食嚥下障害特有のパターンと比較する必要がある。
若林先生●『サルコペニアと摂食嚥下障害4学会合同ポジションペーパー』には咽頭残留が多いことが特徴としてあげられている。咽頭残留に関連する嚥下筋はどれか。 杉山先生●咽頭残留となると喉頭挙上に関連する筋肉となる。
藤島先生●喉頭挙上に一番関連するのはオトガイ舌骨筋と考える。オトガイ舌骨筋は食道入口部の開大にも関与していると思う。
巨島先生●サルコペニアの摂食嚥下障害の定義として、筋肉量があるが筋力が低下しているという患者を除外するのは望ましくない。筋力を舌圧だけで評価できるかという問題もあり、筋肉量は重要な視点ではないか。ただし、評価する筋肉がオトガイ舌骨筋でよいのかという点は議論が必要と考える。
森 先生●摂食嚥下障害は様々な疾患によって引き起こされる可能性がある。嚥下は感覚入力、反射が関与し、降下機能、運動機能も関連する。摂食嚥下障害を評価するためには情報が多い方がよい。全身のサルコペニアでは筋肉量の評価が不要という考え方があるが、サルコペニアの摂食嚥下障害に関しては必要だと思う。  最近は、サルコペニアの摂食嚥下障害について、「サルコペニアの摂食嚥下障害はない。」「実は脳梗塞が隠れているのではないか。」「薬剤性の摂食嚥下障害かもしれない。」という意見も耳にする。このような意見も理にかなっている。サルコペニアの摂食嚥下障害の確定診断では、筋肉量という情報を加えて診断することがよいと考える。

◆まとめ

若林先生●最近、臨床で明らかな摂食嚥下障害の原因疾患を除外せず、サルコペニアの摂食嚥下障害として治療される症例が少なくないと耳にする。この点に大きな危惧を抱いている。確実にサルコペニアの摂食嚥下障害を治療するためには、サルコペニアの摂食嚥下障害のメカニズムを呼吸筋との関連や筋病理と併せて理解すべきである。  例えば、歩行困難には筋力低下や関節の機能障害のほか、複合的な要素が関わっていることが多い。摂食嚥下障害も同様で、サルコペニアの摂食嚥下障害、薬剤性の摂食嚥下障害、潜在的な脳梗塞による摂食嚥下障害が複合している症例があっても不思議ではない。サルコペニアの摂食嚥下障害の病態メカニズムが明らかになってくれば、こうした複合的な摂食嚥下障害患者に対する診断、治療がしやすくなる。多方面からサルコペニアの摂食嚥下障害の研究を進め、何らかの形でサルコペニアの摂食嚥下障害の確定診断の基準を作っていければと考えている。
藤島先生●『サルコペニアの摂食嚥下障害の診断のフローチャート』は純粋なサルコペニアの嚥下障害を診断するための方法である。脳卒中などの神経系疾患とサルコペニアが合併して嚥下障害を増悪しているという考え方もある。サルコペニアの摂食嚥下障害は、確定診断、呼吸との関連、筋病理の問題などでまだまだ研究が必要と考える。

 

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