第26・27回合同学術大会 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「‘食べる’が繋がる」Part1

2021.11.19フレイル・サルコペニア , リハビリテーション栄養 , 摂食嚥下

2021年8月19日(木)と21日(土)の2日間、第26・27回合同学術大会 日本摂食嚥下リハビリテーション学会が愛知県名古屋市熱田区の『名古屋国際会議場』とWEBのハイブリッドで開催された。 本大会は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大により延期されていた2020年開催予定の第26回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会と2021年の第27回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会の合同大会として行われた。 また、本大会は第2回世界嚥下サミットと同時開催されている。
大会長は第26回日本摂食嚥下リハビリテーション学会 学術大会の東京医科歯科大学大学院地域・福祉口腔機能管理学分野 教授の松尾浩一郎 先生と第27回日本摂食嚥下リハビリテーション学会 学術大会の県立広島大学人間文化学部健康科学科 教授 栢下 淳先生が務めた。 テーマは患者の「食べる」を中心に多職種の和をつなげる意味で『’食べる’が繋がる』とされた。
本大会では特別講演、シンポジウムなどの多くのプログラムが行われたが、ここではパネルディスカッション9「サルコペニアと嚥下障害 State of the art」の概要を報告する。

パネルディスカッション9
サルコペニアと嚥下障害State of the art

座長: 藤島一郎(浜松市リハビリテーション病院
    若林秀隆(東京女子医科大学大学院医学研究科リハビリテーション科学分野

嚥下筋の筋活動とサルコペニア

杉山庸一郎(京都府立医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科

◆サルコペニアの摂食嚥下障害の理解には嚥下筋の特殊性がポイントとなる
サルコペニアの摂食嚥下障害は全身の筋肉量や筋力の低下によりサルコペニアと診断され、摂食嚥下機能障害と嚥下筋の筋肉量および筋力の低下を併せ持つ状態と定義されている。 サルコペニアの摂食嚥下障害を考える際には、嚥下筋の特殊性を理解することが重要である。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本サルコペニア・フレイル学会、日本リハビリテーション栄養学会、日本嚥下医学会による『サルコペニアと摂食嚥下障害4学会合同ポジションペーパー』にも「嚥下筋の特殊性」という項があり、「嚥下筋は組織学的には横紋筋であるが、四肢の骨格筋を構成する体性筋とは異なる発生学的特徴がある。 」と記されている。

◆嚥下筋は呼吸中枢の制御を受けており、廃用性萎縮が生じにくい
嚥下筋のうち咽頭筋や内咽頭筋は第4鰓弓由来の横紋筋である。 これら鰓性筋は基本的に呼吸中枢からの制御を受ける。 例えば、茎突舌筋は呼吸性に同期した活動を示し、廃用性萎縮を生じにくい。 その他の嚥下筋も、多くは呼吸性中枢による制御を受けており、嚥下時以外でも活動しているため、四肢の骨格筋に比べ廃用性萎縮が起こりにくい。
一方、オトガイ舌骨筋など呼吸性活動を示さない筋肉は廃用性萎縮を生じやすい。 嚥下筋の中でも呼吸性活動の程度に応じて廃用性萎縮の起こりやすさが異なる可能性がある。

◆嚥下筋は呼吸セントラルパターンジェネレーター(CPG)の制御を受けている
嚥下筋は運動ニューロンからのシグナルが軸索の集合である神経を経由して伝わり、活動する。 運動ニューロンは呼吸時には呼吸のシグナルによって制御されている。 また、発声、嚥下、咳などのふるまい時にはそれぞれのシグナルによって制御される。 つまり、嚥下筋の運動ニューロンは多機能な神経ネットワークである。
このような神経ネットワークをセントラルパターンジェネレーター(CPG)と呼ぶ。 嚥下筋を考える際には、CPGから運動ニューロン、軸索、筋肉を1つの制御系として捉えることが必要になる。
嚥下筋が嚥下以外で活動しないのであれば、四肢の骨格筋と同様に廃用性萎縮が生じる。 しかし、実際には嚥下筋の筋委縮は四肢の骨格筋に比べ起こりにくいとされている。 これは、嚥下筋が嚥下以外の様々なふるまいでも使用されるためである。 嚥下筋ではとくに呼吸CPGによる制御が重要な役割を果たす。
呼吸CPGは状況によって活動が変わる。 例えば、二酸化炭素濃度が上がると呼気が促迫して筋神経の活動が増す。 呼吸CPGが状況によって活動が変わるため、嚥下筋も状況によって活動性が変わる。

◆呼吸ニューロンの活動パターンは呼吸の相により異なる
呼吸は横隔膜が活動すると肺が膨らみ、吸息する。 したがって、横隔膜神経は吸息相を制御する。 運動ニューロンの活動パターンにも吸息性、呼息性、吸息と呼息の間の相移行性がある。
また、活動頻度のパターンには漸増性、漸減性がある。 呼吸のパターンは、このような様々な活動パターンを持つ呼吸ニューロンの活動により作られている。 例えば、延髄や橋には呼吸ニューロン群があり、呼息、吸息、呼息と吸息の切り替えを制御している。
呼吸を吸息とpost inspiratory phase、late expiratory phaseの3相に分類する考え方もある。 吸息では横隔膜が収縮し、肺が膨らみ、息を吸う。 post inspiratory phaseでは声帯が少し反転し、呼気早期に下気道圧を少し上げる。 late expiratory phaseでは肺の虚脱を防ぐとともに、腹筋が収縮し呼気を出す。
呼吸ニューロン群ではプレベッチンガーコンプレックスが吸息を、傍顔面神経核呼吸ニューロン群がpost inspiratory phaseとlate expiratory phaseを、Kölliker-Fuse核がpost inspiratory phaseを制御している。 最近は延髄の吻側にあるPost inspiratory complex(PiCo)も呼吸の制御に重要な役割を担っているといわれている。

◆嚥下筋は吸息性の活動を示すことが多い
嚥下筋は三叉神経、舌咽神経、迷走神経、舌下神経、頚神経などさまざまな神経の支配を受けているが、なかでも迷走神経の支配筋が重要である。 迷走神経の咽頭枝は上咽頭収縮筋、中咽頭収縮筋、下咽頭収縮筋といった重要な嚥下筋を支配している。 迷走神経のうち、反回神経や上咽頭神経はおもに声帯を支配している。 これらの嚥下筋が連続的に収縮して嚥下は成立する。
嚥下筋の多くは吸息性に活動する。 呼息性に活動する筋肉として、迷走神経咽頭枝と反回神経により支配される甲状咽頭筋、甲状披裂筋、外側輪状披裂筋がある。
ネコのオトガイ舌骨筋は、基本的に吸息性あるいは吸息から呼息で活動する。 しかし、ヒトのオトガイ舌骨筋は安静呼吸時にはほとんど呼吸性活動を示さない。 このように動物によって活動の違いがある。 口蓋帆挙筋、口蓋帆張筋、顎二腹筋、顎舌骨筋はいずれも吸息性に活動する。

◆神経にも呼吸性活動がみられ、二酸化炭素濃度によって活動性が変わる
神経も呼吸性活動を呈する。 迷走神経咽頭枝は呼息優位に活動し、舌下神経や上喉頭神経は吸息優位に活動している。 反回神経は吸息と呼息の二相性を持つことが分かっている。
また、神経は二酸化炭素濃度が変わると、活動性が変わる。 三叉神経、舌下神経は二酸化炭素濃度が上がると活動性が上がり、とくに甲状咽頭筋は二酸化炭素濃度が上がると活動性が極めて高くなる。

◆運動ニューロンは様々な活動を示す
迷走神経咽頭枝と反回神経を支配する運動ニューロンは延髄の疑核にある。 疑核では運動ニューロンの分布が筋肉ごとに決まっている。 茎突咽頭筋の運動ニューロンは吻側、外側輪状披裂筋や披裂筋は尾側に分布している。
嚥下筋や神経と異なり、運動ニューロンは画一的な活動を示さず、様々な活動パターンを持つ。 舌下神経は吸息優位に活動するが、舌下神経核を支配する運動ニューロンは吸息性に活動するものだけでなく、呼息性に活動するものも存在する。 咽頭運動ニューロンは基本的に呼息性に活動するが、嚥下時に強く活動するもの、膜電位の変化はあるが活動電位を生じないものなど、多様な活動性を示す。 嚥下時にも、運動ニューロンは様々な形の活動パターンを示している。

◆おわりに
嚥下筋は安静呼吸時には呼吸CPGから制御を受けているが、呼吸性活動のパターンは嚥下筋ごとに異なる。 運動ニューロンレベルでは、同一の嚥下筋であっても呼吸性活動のパターンが異なる。 これは嚥下筋を制御する神経ネットワークの多様性を示す。
嚥下筋の制御をCPG、運動ニューロン、神経、筋活動というシステムで考えると、常に何らかのCPGに影響され動いている。 これが嚥下筋は廃用性萎縮を起こしにくい要因である。

 

筋病理総論 サルコペニアによる嚥下障害の理解に向けて

巨島文子(諏訪赤十字病院リハビリテーション科
漆葉章典(東京都立神経病院脳神経内科

◆サルコペニアは骨格筋の減少を示す疾患であり、病態理解には筋病理的アプローチが重要
筋肉は筋線維と呼ばれる長い筋細胞が、集合体となっている組織である。筋肉を横断面で見ると筋線維が多角形の構造になっている。筋線維が数十~数百本集まり束となったものを筋束と呼ぶ。
サルコペニアの嚥下障害は骨格筋の減少、筋力低下をきたす疾患である。筋病理は多くの疾患の病態理解に有用であり、長く活用されてきた。しかし、嚥下筋についての報告はほとんどない。サルコペニアの嚥下障害を理解するためには、筋病理的アプローチが必要と考えている。

◆筋病理は新鮮凍結固定後に様々な染色が行われる
筋生検は19世紀にドイツで初めて行われた。筋生検は上腕二頭筋、三角筋、大腿四頭筋など検体として用いる。検体試料は一般に新鮮急速凍結固定される。凍結固定された試料は薄切してプレパラートに張り付け、各種染色を行う(組織化学染色、免疫組織染色)。

◆ヘマトキシリン・エオジン染色組織の基本構造を見るために最も行われる染色である
ヘマトキシリン・エオジン染色は組織の基本構造を見るために最も行われる染色である。たとえば筋ジストロフィーや壊死性ミオパチーでは壊死筋線維が、封入体筋炎では炎症細胞浸潤が、皮膚筋炎では筋束周囲性萎縮が観察できる。

◆ゴモリ・トリクローム変法染色は筋線維内の凝集体を観察できる
ゴモリ・トリクローム変法染色は筋線維内の凝集体の観察に適している。たとえばミトコンドリア異常を反映した赤色ぼろ線維や、縁取り空胞を観察するのに適している。

◆ATPアーゼ染色ではタイプ1線維とタイプ2線維を染め分ける
筋線維はタイプ1線維とタイプ2線維に大別できる。タイプ1線維はいわゆる赤筋で、筋収縮は遅く、持久型の動きに適している。ミトコンドリアが多く、グリコーゲンが少ない。
タイプ2線維はいわゆる白筋で、筋収縮が早く、素早い動きに適している。ミトコンドリアが少なく、グリコーゲンが多い。ヒトではタイプ1線維とタイプ2線維がおおむね一定の割合で混在しているが、いくつかの疾患ではその割合が変わる。

◆免疫染色は特定のタンパク質の発現を描出する
筋細胞の膜蛋白であるジストロフィンに対する免疫染色を例に挙げると、健常者の筋線維では、膜上にジストロフィンの発現が確認できる。デュシェンヌ型筋ジストロフィーではほぼすべての筋線維でジストロフィンの発現が消失している。ベッカー型筋ジストロフィーでは正常よりジストロフィンの染色が薄くなり、筋線維ごとに濃淡が異なる。女性保因者では正常なジストロフィンの発現パターンを示す筋線維と消失した筋線維が混在する。このように分子状態の違いを免疫染色で描出できることがある。

◆電子顕微鏡では超微細構造が把握できる
電子顕微鏡像では超微細構造が観察できる、筋原線維や細胞内小器官の評価、微細な沈着物の描出に適している。電子顕微鏡は設備、技術、熟練などの点で活用するハードルが高いが、診断や病態理解に寄与する場面もある。

◆分子生物学的手法も取り入れられる
生検筋を用いたウェスタン・ブロッティングやDNAマイクロアレイを用いた解析では、タンパク質や遺伝子発現の評価が可能となる。
皮膚筋炎の例では、DNAマイクロアレイでI型インターフェロン関連遺伝子の発現が上昇していることが明らかになった。この報告によりI型インターフェロンが皮膚筋炎の病態形成に重要であるとわかり、研究の方向性が大きく変わった。その後、I型インターフェロン経路を抑制するJAK阻害薬とよばれる分子生物薬が皮膚筋炎の重症例に用いられるようになった。筋病理学は形態的な評価に加えて、様々な分子生物学的なアプローチを交え、分子レベルでの病態理解が可能となってきた。これにより得られた知見は将来の治療法開発にも寄与する可能性があり、今後の発展が期待される。

◆サルコペニアの筋病理に関する報告は極めて少ない
これまでサルコペニアの筋病理に関する専門的な報告は極めて少ない。
2021年になってEWGSOP(European Working Group on Sarcopenia in Older People)2のサルコペニアの定義に基づいた大腿骨頸部骨折患者の外側広筋の筋病理について報告された。これによると、男性のサルコペニア患者ではタイプ2線維が有意に萎縮しているとしているが、症例数がごく少数であり、信頼性については議論がある。今後はサルコペニア症例の筋病理に関する知見蓄積が病態理解に必要である。

◆おわりに
サルコペニアの病態理解が進み、病態に基づいた定義がされる必要がある。そのためには病理解析が重要な意味を持つ。
サルコペニアの摂食嚥下障害の病態解明を目指すためには、筋病理的解析を進めることに意義があるだろう。サルコペニアの摂食嚥下障害の病態理解と治療法開発のために、症例・検体の蓄積と解析が求められる。

 

Part2へつづく・・・

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