第24回日本褥瘡学会学術集会 Report :褥瘡予防・管理ガイドラインで示された「特定の栄養素」の使い方と効果

2023.02.19栄養剤・流動食 , 栄養素

2022 年 8 月 27 日(土)と 28 日(日)の 2 日間、第 24 回日本褥瘡学会学術集会が神奈川県横浜市西区の「パシフィコ横浜 ノース」でハイブリッド開催された。大会長は東京医療保健大学 大学院プライマリケア看護学領域 設置準備室の溝上祐子先生が務め、大会テーマは『褥瘡マネジメントの未来 -新たな価値の創造-』とされた。ここでは、パネルディスカッション 3 「褥瘡予防・管理ガイドラインで示された「特定の栄養素」の使い方と効果」の概要について報告する。
褥瘡治療におけるコラーゲンペプチドの効果 / 褥瘡予防と管理での「特定栄養素」オルニチンの効果について / L-カルノシンの効果 / 褥瘡治療における栄養療法と亜鉛の効果について / アルギニンの作用と効果と使い方

株式会社ジェフコーポレーション「栄養 NEWS ONLINE 」編集部】

 

会場となったパシフィコ横浜 ノース

 

パネルディスカッション 3
褥瘡予防・管理ガイドラインで示された「特定の栄養素」の使い方と効果

司会:
岡田晋吾 北美原クリニック
真壁 昇 関西電力病院疾患栄養治療センター

 

【講演要旨(編集部)】

褥瘡治療におけるコラーゲンペプチドの効果

山中英治 若草第一病院外科

コラーゲンペプチドは線維芽細胞増殖を介して、肉芽形成を促進

褥瘡治療には肉芽の形成が重要であり、コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸合成の促進が褥瘡治癒につながる。皮膚科領域ではコラーゲンペプチドの経口摂取に関する試験が数多く行われ、その有用性が報告されている。コラーゲンペプチドの経口摂取で、血中にコラーゲンペプチドが移行することも証明されている。
組織に移行したコラーゲンペプチドは線維芽細胞を刺激、増殖する。線維芽細胞と肉芽の形成は関連が深い。このため、コラーゲンペプチドの経口摂取で褥瘡治癒が促進される。褥瘡に効果を有する栄養食品も登場している。

マウスへのコラーゲンペプチド投与で組織コラーゲン量が増加

コラーゲンは血管壁や軟骨などさまざまな組織に存在する。皮膚にも存在しており、皮下組織で重要な役割を果たす。エラスチンは皮膚の弾力性保持、ヒアルロン酸は保水などの作用が知られている。
皮膚では線維芽細胞からコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸が産生される。コラーゲンは三重らせん構造の強固な構造を持ち、非常に大きい。コラーゲンを加熱すると、ゼラチンに分解される。しかし、それでも吸収には大きすぎる。酵素分解でプロリン、ハイドロキシプロリンに分解されると小さくなるため、腸管から吸収される。このハイドロキシプロリンはコラーゲンに特徴的なアミノ酸である。
基礎研究ではプロリンやハイドロキシプロリンが、線維芽細胞増殖後にヒアルロン酸合成を増強させることが明らかになった。さらに、ラットに様々なペプチドやたんぱく質を経口投与したところ、コラーゲンペプチドの投与でのみ組織コラーゲン量の増加を有意に認めたとする報告もある。

コラーゲンペプチドはコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸の合成を促進し、褥瘡を治癒

皮膚の弾力性、目尻の皺、張りなどスキンフレイルに対しても栄養が重要であることが知られている。そのため、皮膚科ではコラーゲンペプチドが肌に有用な効果をもたらすとされ、食品としてよく用いられている。コラーゲンペプチドは塗布する場合も多いが、粉末として経口摂取もある。
実際に健常者の女性にコラーゲンペプチドを用いたところ、肌の状態が改善したという報告もされている。さらに、マウスではプロリン、ハイドロキシプロリンの投与が線維芽細胞の増殖に影響していることも明らかになっている。
コラーゲンペプチド自体は、それがコラーゲンになるのではなく、線維芽細胞増殖を介し、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸の合成を促進し、褥瘡治癒作用を発揮すると言われている。

コラーゲンペプチド含有飲料投与で DESIGN – R の合計スコアが改善

コラーゲンペプチドの褥瘡治癒効果については、ラットにコラーゲンペプチドを摂取させたところ、コントロール群に比べ、褥瘡の創面積が縮小した報告がある。そこで、ヒトでコラーゲンペプチドの褥瘡治癒効果を検討した。
まず、単施設で褥瘡患者にコラーゲンペプチドを投与するパイロット試験を行った。その結果、褥瘡面積比が有意に減少し、 DESIGN – R スコアの合計点も減少した。コラーゲンペプチド投与約2時間後に、小腸から吸収されたコラーゲンペプチドにより、血中濃度も上昇していた。コラーゲンペプチドはコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸の合成を促進し、褥瘡治癒を促進することが確認できた。
褥瘡は適切なケアがなされていなければ治癒することはない。逆に適切なケアがされていれば、いずれ治癒する。そこで、多施設共同試験を行うにあたり、褥瘡に対する適切なケアや栄養療法が行われている施設として、日本褥瘡学会もしくは日本静脈経腸栄養学会(現、日本臨床栄養代謝学会)の会員の医師が所属する 22 施設を対象とした。対象患者は経管栄養もしくは経口摂取を行っている褥瘡患者で事前に本人もしくは家族からの同意を得た 66 名とした。
この多施設共同試験実施当時はコラーゲンペプチドとアルギニンが褥瘡に有効と言われていた。そこで、ブイ・クレス CP 10 投与群 22 例、アルギニン飲料投与群 22 例、非投与群 22 例に無作為に分け、褥瘡治癒を比較した。 CP 10 投与群およびアルギニン投与群はいずれも 1 日 1 本 4 週間を追加投与した。通常、このような試験を行う際は群間で総たんぱく質摂取量を揃える。しかし、この試験では実臨床に即した検証を行う目的で、追加投与とした。このため、たんぱく質摂取量の違いが結果に影響したのではないかとの指摘もある。しかし、実臨床と同様の追加投与による褥瘡治癒効果が明らかにできれば意義があると考えた。
ブイ・クレス CP 10 にはコラーゲンペプチドが 10 g 、アルギニン飲料にはアルギニンが 2.5 g 含まれている。エネルギー摂取量は 3 群ともに約 1,400 kcal / 日であり、十分に投与されていた。投与開始前の DESIGN – R、ブレーデンスケール、血清アルブミン濃度は 3 群間で有意差はなかった。
投与開始 4 週間目にブイ・クレス CP 10 群およびアルギニン群で褥瘡の改善が見られた。とくに DESIGN – R の合計スコアは非投与群に比べ、ブイ・クレス CP 10 群で有意に改善していた。

おわりに

褥瘡に対する適切なケアを行っているため、 DESIGN – R の合計スコアはいずれの群でも減少した。しかし、ブイ・クレス   CP 10 群は非投与群に比べ有意に低値であり、コラーゲンペプチドは褥瘡治癒促進作用があると示唆される。なお、たんぱく栄養指標の改善はみられなかったため、褥瘡治癒促進はたんぱく量が改善、増加した効果ではない。つまり、コラーゲンペプチドは独自の機序を介した褥瘡治療促進作用を持つと考えられる。
さらにコラーゲンペプチドとアルギニンの併用投与、アルギニン単独投与でも DESIGN – R の合計スコアは改善することが分かった。コラーゲンペプチドとアルギニンは異なる機序で褥瘡治療に関係する可能性がある。

 

褥瘡予防と管理での「特定栄養素」オルニチンの効果について

水野英彰 悦伝会目白第二病院外科

高齢化に伴い創傷治癒遅延対策が必要になった

日本は 2050 年まで世界一の高齢化社会が続くと想定されている。加齢に伴い皮膚の脆弱性が高くなり、創傷治癒が遅延する。創傷治癒遅延は在院日数延伸やアウトカム低下の要因になる。
創傷治癒遅延に対する介入には外用薬が用いられる。褥瘡では体圧分散なども標準治療として行われる。これらに栄養介入を加えた、複合介入も有用とされている。栄養介入では、窒素源の供給に加え、微量元素やビタミンなどの補給が全身管理となり、アウトカムに反映するといわれている。

オルニチンにも創傷治癒改善効果がある

ガイドラインでは窒素源の供給のみならず特殊栄養素の補給も明記されている。特殊栄養素としては微量元素では亜鉛、アミノ酸ではアルギニン、ビタミンではアスコルビン酸、さらにオメガ 3 系脂肪酸、コラーゲン加水物の 5 種類が感染創傷治癒遅延や皮膚の強化などに必要とされている。
今後、創傷治癒促進の目的で推奨される可能性がある栄養素として、ビタミン A 、鉄、銅、グルタミン、 3 – ヒドロキシイソ吉草酸( HMB )、オルニチンがあげられる。ただし、これらの栄養素についてのエビデンスレベルが高い研究は少なく、1例のみの報告が多い。
オルニチンは海外では肝性脳症に対する治療薬として使用されている。オルニチンには創傷治癒促進効果もある。オルニチンの機能性要素としてポリアミン、プロリン、成長ホルモン、免疫機能の賦活がある。プロリンの代謝と成長ホルモン刺激は創傷治癒を促進する。
オルニチンとアルギニンはともに創傷治癒促進効果が知られているが、オルニチンは窒素源が少ない。窒素が多いと腎障害の懸念が高まるため、窒素源が少ないオルニチンが有用と考えられる。

フランスではオルニチン投与で創傷治癒が促進されたとの報告がある

ラットを使った基礎研究で、オルニチンの投与によって創傷治癒が促進された、との報告がある。また、オルニチンとアルギニンの比較試験では、オルニチンで創傷治癒日数が短いことも報告されている。
ただし、日本でのヒトを対象としたオルニチンの創傷治癒促進効果の研究レベルは、残念ながら高くない。フランスではステージ Ⅱ 、 Ⅲ の褥瘡患者を対象に、オルニチン 6.6 g 投与群とコントロール群で、創傷治癒を比較した試験が行われている。その結果、投与開始 6 週間後のオルニチン群の創傷治癒はコントロール群に比べ有意に改善していた。海外ではこの結果をもとに、褥瘡患者に対してオルニチンが用いられている。
日本ではオルニチンとグルタミンを含有する食品摂取で創傷治癒が促進されたとする報告がある。しかし、このほかにエビデンスレベルが高い研究はない。症例報告としては、さまざまな治療を試みるも、治癒が得られなかった慢性創傷に対してオルニチンを付加したところ治癒したとの報告が年間 10 ~ 12 例ある。

オルニチン経口投与後、血中オルニチン濃度が上昇する

悦伝会目白第二病院でも外科で創傷治癒促進や手術部位感染予防を目的に、周術期にオルニチンを経口投与している。オルニチンの有用性について多施設臨床研究を行った際に、経口投与したオルニチンの血中への移行についても検討した。その結果、オルニチン経口投与群では速やかに血中オルニチン濃度が上がり、組織に供給されていることが分かった。アミノペプチドと同様にオルニチンの経口投与は血中オルニチン濃度に反映され、創傷治癒にも関与していると考えられる。
ただし、創傷治癒効果と血中オルニチン濃度の関連についてはまだ明らかになっていない。したがって、創傷治癒に必要な血中濃度、投与する用量、シジミなどオルニチンを多く含む食品摂取での効果についても分かっていない。この点は、日本でもオルニチンが医薬品として上市される可能性を模索しながら、研究を進めていく必要がある。オルニチンが保険収載されれば使いやすくなるが、現時点では食品での投与が現実的と考えられる。

おわりに

皮膚強化、創傷治癒促進についてはすでにガイドラインで推奨されている栄養素に加え、今後、推奨される可能性がある栄養素もある。オルニチンの作用を考えると、炎症期から増殖期にかけて継続して使える可能性がある。高齢社会を迎えた日本では慢性腎臓病( CKD )患者や腎機能が低下している高齢者も多い。こうした患者に対して、アミノ酸を付加したい場合はオルニチンが有用であると考えられる。
超高齢社会において、褥瘡予防と管理については複合介入が必要になる。中でも栄養介入は重要だが、単純にたんぱく質を付加するのではなく、特殊栄養素の活用が鍵になる。オルニチンもまだエビデンスレベルは高くないが、その一端を担える可能性がある。

 

L – カルノシンの効果

榮 兼作 医療法人社団慶榮会八潮病院

◆  L – カルノシンは加齢に関連する疾患や過食症の治療薬となる可能性がある

L – カルノシンは、 β アラニンとヒスチジンという 2 つのアミノ酸が結合したジペプチドであり、ヒトをはじめとする脊椎動物の筋肉や神経の細胞に高濃度に存在している天然物質である。L – カルノシンとほぼ似た構造式と生理機能を持つ物質として、アンセリンとバレニンがある。 L – カルノシン、アンセリン、バレニンの 3 つを総称して、イミダゾールジペプチドと呼ぶ。イミダゾールジペプチドは疲労回復や運動能力向上作用があることが分かってきた。
L – カルノシンの生理機能には抗酸化作用、抗炎症作用、抗糖化作用、抗加齢作用がある。このため、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病、脳卒中、癌、糖尿病とその合併症、骨粗鬆症、白内障といった主に加齢に関連する疾患の治療薬となる可能性がある。精神科領域では、脳内グルタミン酸の調整作用と脳内ヒスタミンの供給作用があることから、過剰な食欲を抑制し過食症の治療薬になるとも考えている。

健常ラットや糖尿病モデルマウスで L – カルノシン投与が創傷治癒を促進

創傷治癒作用については健常ラットや糖尿病モデルマウスにおいて、 L – カルノシンにより外科的に作られた創傷の治癒が促進したと報告されている。
しかし、ヒトを対象とした L – カルノシンの創傷治癒効果についての研究はごく僅かである。 1970 年代の日本では歯科領域の外科創を持つ患者と褥瘡患者 5 症例に対して L – カルノシンの粉末を局所に散布したところ肉芽が形成され、創傷治癒が促進した、との報告がある。

◆  L – カルノシン投与およびポラプレジンク投与は褥瘡治癒を促進

胃潰瘍治療薬であるポラプレジンクは L – カルノシンに亜鉛を結合させたものである。亜鉛は創傷治癒に必須の栄養素である。そこで、ポラプレジンクを用いて、 L – カルノシンと亜鉛の褥瘡治癒に対する効果を検証した。
対象は入院中または施設入所中の慢性期 4 週間以上のステージ Ⅱ ~ Ⅳ 、表面積 24 cm 2 以下の褥瘡があり、経口から食事が摂取できる患者とした。骨髄炎疑い、糖尿病、明らかな末梢血行障害、悪性腫瘍、終末期、経腸栄養・経静脈栄養の使用患者は褥瘡の経過に影響を与える可能性があるために除外した。
患者を L – カルノシン 116 mg / 日投与群、ポラプレジンク 150 mg / 日投与群、非投与群の 3 群に分け、 4 週間介入した。ポラプレジンクには L – カルノシン 116 mg と亜鉛 34 mg が含まれている。
本研究では事前に褥瘡治癒の阻害因子を除去して開始した。創の感染を十分にコントロールし、ポケットや不良肉芽、過剰肉芽は外科的に全て切除した。壊死組織も可能な限り除去して研究を開始した。局所の療法も全症例で統一し、精製白糖・ポピドンヨード軟膏を塗り、その上からアクアセルAgで覆い、最後に全体をポリウレタンフィルムで密閉した。さらに、全症例でエアーマットを使用し、食事・服用中の薬剤も研究期間中は対象者ごとに固定した。
褥瘡の重症度は週 1 回、 PUSH ( Pressure Ulcer Scale for Healing )スコアを用いて評価した。 PUSH スコアは長さ×幅(サイズ)、浸出液の量、主な組織の 3 要素をスコア化したもので、最重症が 17 点で、治癒に至ると 0 点となる。
ベースラインの患者特性は性別、年齢、 BMI 、体重、ブレーデンスケール、 PUSH スコア、褥瘡のサイズ、褥瘡のステージのいずれの項目も 3 群間で有意な差は認めなかった。
4 週間の PUSH スコアの改善度は非投与群 0.8 に対し、 L – カルノシン群が 1.6 、ポラプレジンク群は 1.8 となり、非投与群に比べ L – カルノシン群は 2 倍、ポラプレジンク群は 2.2 倍、褥瘡の治癒が促進された。 L – カルノシン群とポラプレジンク群の間には PUSH スコアの改善度に有意差は認めなかった。
エネルギー摂取量、たんぱく質摂取量、亜鉛摂取量、銅摂取量、鉄摂取量のいずれも 3 群間で有意差はなかった。血中の亜鉛、銅、鉄、アルブミンについては、ベースラインではいずれも 3 群間で有意な差は認めなかった。 4 週間後にはポラプレジンク群で血中の亜鉛が有意に上昇し、血中の銅は有意に減少した。非投与群と L – カルノシン群については、血中の亜鉛、銅、鉄、アルブミンのいずれも有意な変動は認めなかった。
L – カルノシン群の1例の治療経過を写真で提示する。仙骨部にステージ Ⅳ の褥瘡がある 70 代の認知症患者である。深いポケットがあったため、ポケットが閉鎖した時点から研究を開始し L – カルノシンを投与した。非投与例と比べて投与2週間後から軽快した。

◆  L – カルノシンは肉類や鰻、サプリメントの摂取、ポラプレジンク服用で補給できる

L – カルノシンを豊富に含む食材として馬肉、鰻、豚、牛、鶏、羊がある。鶏肉ではもも肉よりむね肉に L – カルノシンが多く含まれている。
今回の研究では L – カルノシン 116 mg の投与で有効性を示した。ただし、食品から L – カルノシンを摂取する場合は吸収率が低いと考えられ、より多くの L – カルノシン摂取が必要と考えられる。L – カルノシンの補給方法として、 L – カルノシンを豊富に含む肉類や鰻などの摂取、 L – カルノシンのサプリメント摂取、ポラプレジンク服用が考えられる。ただし、ポラプレジンクには亜鉛が含まれており、亜鉛が腸からの銅の吸収を阻害し、銅欠乏が生じることがある。銅欠乏を防ぐためにココアなど銅を含む食材をあわせて摂取することが望ましい。
L – カルノシンの副作用は極めて稀で、痒みと肝機能障害が報告されているが、いずれもそれぞれ抗アレルギー剤と肝庇護剤で対応が可能である。

おわりに

L – カルノシンは、褥瘡の治癒を 2 倍に促進した。 L – カルノシンはヒトの生体成分であり、身近な食材に含まれる栄養素であるため、重大な副作用はほとんどない。 L – カルノシンは経口または経腸栄養で摂取ができ、褥瘡の治療に活用できると考えられる。

 

褥瘡治療における栄養療法と亜鉛の効果について

中西 将 東邦大学医療センター大森病院栄養部

亜鉛欠乏は褥瘡を悪化させる

東邦大学医療センター大森病院は東京都大田区にある 916 床の病院で、三次救急、特定機能病院の役割を担っている。当院の褥瘡を有する患者は、全身状態が改善し褥瘡が炎症期から増殖期に移行する頃には間もなく転院や退院となるケースが多い。
亜鉛は体内では合成できない必須微量元素の 1 つで多くの酵素の材料となる。亜鉛は骨格筋に 60 % 、骨に 20 ~ 30 % 、皮膚に 8 % が存在する。亜鉛は主に十二指腸、空腸において吸収され、その吸収率は 20 ~ 40 % 程度とされている。吸収された亜鉛の多くはアルブミンと結合して運搬されるが、結合できない亜鉛は尿中に排出される。
亜鉛の欠乏によって、亜鉛が関わる酵素活性が低下し体内でのたんぱく質合成機能の低下を招く。亜鉛欠乏による障害は亜鉛が高濃度に存在する臓器で発症しやすいため、骨格筋や骨、皮膚における皮膚代謝の悪化が創傷治癒遅延に繋がると考えられる。『亜鉛欠乏症の診療指針 2018 』では血清亜鉛値が 60 μg / dl 未満を亜鉛欠乏症、 60 ~ 80 μg / dl 未満を潜在性亜鉛欠乏としている。
亜鉛欠乏によりアポトーシスや血管損傷、酸化ストレスが増加し、一方でランゲルハンス細胞の喪失やアデノシン三リン酸( ATP )分解酵素の機能低下が起きる。これにより、褥瘡部分の細胞外 ATP が増加し、炎症が惹起されて褥瘡が悪化しやすくなる。

血清亜鉛濃度と栄養状態、褥瘡改善との関連を検討

低亜鉛血症患者では血清アルブミン値や血清プレアルブミン値が有意に低値となったとの報告や、非サルコペニア患者に対しサルコペニア患者では血清亜鉛値が有意に低値だったなどの報告がある。これらの結果から、血清亜鉛低値は栄養状態と関連している可能性がある。
当院でも褥瘡患者における血清亜鉛値の実態を調査した。 2020 年 1 月から 2 年間に東邦大学医療センター大森病院で褥瘡チームが介入した DESIGN – R スコア D3 以上の褥瘡患者 278 名のうち、入院中に 1 回以上亜鉛測定を行った 66 名を対象とした。
褥瘡ケアチーム介入時における血清亜鉛値を正常群、潜在性欠乏群、欠乏群に分け、 BMI や血清アルブミン値の比較を行った。入院中に 2 回以上血清亜鉛測定を行った 27 名については、血清亜鉛値の推移が欠乏および潜在性欠乏から正常に移行したものを改善群、欠乏から潜在性欠乏に移行あるいは潜在性欠乏のまま亜鉛値が上昇したものを軽度改善群、潜在性欠乏から欠乏へ移行した、あるいは欠乏のまま亜鉛値が低下したものを悪化群に分け、 DESIGN – R スコアの推移を比較した。

亜鉛欠乏患者は BMI が低く、アルブミンも低値

褥瘡ケアチーム介入時において、 63 % の患者は亜鉛測定が行われていなかった。亜鉛測定を行った 37 % の患者のうち 68 % は亜鉛欠乏、 25 % で潜在性亜鉛欠乏であり、合わせて 93 % に血清亜鉛値の低値を認めた。
褥瘡ケアチーム介入時の BMI は血清亜鉛値正常群より欠乏群で有意に低値を示した。また、アルブミンについては、血清亜鉛値が正常群および潜在性欠乏群に比べ欠乏群で低値を示した。

血清亜鉛値の改善で褥瘡も改善し、血清亜鉛値が悪化すると褥瘡も悪化

褥瘡ケアチーム介入後の DESIGN – R スコアは血清亜鉛値推移の改善群および軽度改善群では87%で褥瘡の改善を認めたが、悪化群の患者 75 % で褥瘡が悪化し、改善例はなかった。
亜鉛摂取量は血清亜鉛値推移の改善群よりも悪化群で低値を認め、エネルギー摂取量やたんぱく質摂取量は改善群、軽度改善群、悪化群の順に徐々に低値となる傾向があった。

◆  90 代男性患者に適切な栄養量+亜鉛投与で褥瘡が改善

当院では褥瘡を有する 90 代男性患者にも亜鉛を投与した。この患者は、既往歴はなく、 4 年前から寝たきり、月 1 回の往診を導入するも、 3 週間前より食思不振があった。往診時に左大転子に DESIGN – R スコアが DU : 45 点、左肩に DESIGN – R スコアが DU : 18 点の褥瘡を認め、褥瘡感染による敗血症性ショックの診断で入院対応となった。
入院時の身長は 168 cm 、体重は推定 60 kg 、 BMI は 21.3 であった。血液生化学データでは敗血症に伴う CRP や白血球の上昇、腎機能や心機能の異常、亜鉛低値を認めた。
入院2日目より経腸栄養を徐々に増加し、入院 11 日目時点では体重 1 kg あたり 31.3 kcal 、たんぱく質 2.1 g の投与を行っていた。誤嚥による一時的な絶食はあったが、経腸栄養再開後は嚥下食を徐々に進めることで必要なエネルギー量、たんぱく質量は充足を維持できた。
血液生化学データも誤嚥による一時的な CRP の再燃は認めたが、 CRP が低下するにつれてアルブミンやプレアルブミンも増加傾向を認めた。入院 1 日目および入院 7 日目に亜鉛欠乏を認めたため、酢酸亜鉛水和物を入院 7 ~ 23 日目に投与し、血清亜鉛値が 63 μg / dl まで上昇した。銅は入院 23 日目時点で 96 μg / dl と、低値は認めなかった。
褥瘡は左大転子の  DESIGN – R スコアが入院 2 日目で DU : 45 点、入院 31 日目で D4 : 38 点だったものが、入院 57 日目で D4 : 25 点、左肩の DESIGN – R スコアが入院 2 日目で DU : 18 点、入院 31 日目で D3 : 10 点、入院 57 日目で D2 :4 点となり、ともに経時的な改善を認めた。

おわりに

BMI やアルブミンの低値は、褥瘡発生のリスク因子であるだけでなく、血清亜鉛値の低下をまねく可能性があり、さらに亜鉛欠乏や潜在性亜鉛欠乏が褥瘡部の炎症を惹起することで創傷治癒遅延の原因ともなり得る。そのため創傷治療の観点では、褥瘡発症後、早期の栄養アセスメントや血清亜鉛値測定を行い、亜鉛補充を含めた適切な栄養療法の導入に繋げることが重要である。
東邦大学医療センター大森病院では亜鉛測定を行った褥瘡患者の 9 割以上に亜鉛欠乏や潜在性亜鉛欠乏を認めた。しかし褥瘡患者の 63 % は亜鉛未測定であった。多くの褥瘡患者で早期から血清亜鉛の測定を検討する必要がある。
褥瘡患者では、血液生化学データや身体測定を含めた栄養アセスメントを適切に行い、エネルギーやたんぱく質だけでなく、亜鉛補充も視野に入れた積極的な栄養療法が望ましい。

 

アルギニンの作用と効果と使い方

西村雄二 大阪府済生会中津病院栄養部

褥瘡患者に対するアルギニン補給が推奨されている

アルギニンはたんぱく質を構成するアミノ酸の一種で創傷治癒促進作用も持つ。日本褥瘡学会の『褥瘡予防管理ガイドライン』では「褥瘡患者に、特定の栄養素についてアルギニンを補給することは有効か?」とのクリニカルクエスチョンに対して、 2009 年からアルギニン補給が推奨されている。海外でも米国褥瘡諮問委員会、欧州褥瘡諮問委員会、環太平洋褥瘡対策連合の合同ガイドラインでアルギニン補給が推奨されている。
ヒトのたんぱく質を合成するアミノ酸は 20 種類あり、体内で合成できないものを必須アミノ酸、合成できるものを非必須アミノ酸に分類する。アルギニンは必須アミノ酸ではないが、成長期にある小児や侵襲が大きい場合、体内でのアルギニン需要を満たすには合成が不十分となり得ることから食事などでアルギニン量を補う必要がある。このため、アルギニンは条件付き必須アミノ酸と呼ばれている。創傷治癒の促進には 1 日あたり 4.5 ~ 9 g 程度のアルギニン補給が有効と報告されているが、『褥瘡予防管理ガイドライン』には、アルギ
ニン必要量の記載はない。

通常の1日の食事には約 5 g のアルギニンが含まれる

海外の報告では、食事に含まれるアルギニンは 1 日あたり約 5 g とされている。大阪府済生会中津病院の常食 2,000 kcal / 日献立 7 日間の数値を平均すると、 1 日あたり約 4 ~ 5 g のアルギニンが確保できていた。
アルギニン含有量の高い食品として、魚介類、魚、ナッツ、種実類、大豆製品などが知られている。穀類などに含まれるたんぱく質にも比較的多く、毎日摂取するような乳製品などにも含まれる身近な栄養素である。輸液管理中や創傷治癒遅延の場合には、エネルギー摂取量やアミノ酸摂取量以外に点滴のアルギニン含有量を確認する必要がある。
アルギニンは安全性と有効性が示されているが、高容量の投与による有害事象が報告されている。そのため、多量のアルギニン投与は注意を要する。アルギニンの有害事象は消化管が中心である。アルギニン含有製品を使用時に原因不明の水様便などが生じた場合、アルギニンの投与量についてアセスメントする必要がある。

アルギニン強化栄養剤で褥瘡が改善

以前勤務していた施設でアルギニン強化栄養剤を投与し、褥瘡が改善した症例を経験した。この患者は施設で経管栄養を実施しており、痰と発熱が続いたため紹介入院となった。入院後、肺炎と診断され、抗菌薬投与のうえ経管栄養と末梢からの静脈栄養で管理したが、発熱解熱を繰り返し、中心静脈栄養のみの管理に変更した。その後、左臀部に褥瘡が生じ、
ポケットの形成、滲出液多量で治療となった。全身状態が落ち着き、褥瘡発生 14 日後より経管栄養を再開するが、褥瘡の改善は軽微であった。
そこで外用薬と体圧分散などを継続しつつ、エネルギー摂取量を変えずに、とろみ付き流動食をアルギニン強化栄養剤に変更し、アルギニン摂取量は 4.6 g から 7.5 g に増加した。栄養剤変更後、褥瘡は順調に改善し治癒した。
アルギニンを中心にたんぱく質を十分に摂取し、栄養剤の変更によるトラブルがなかったことで、褥瘡治癒の効果をより高めることができたと考えている。創傷治癒後は、速やかに元のとろみ付き栄養剤に戻した。

敗血症患者へのアルギニン補給は推奨されない

アルギニンを補給する上では敗血症についても知っておく必要がある。敗血症は 2016 年に定義と診断基準が改められた。敗血症は感染症に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害と定義されている。
褥瘡領域ではアルギニン補給が推奨されている一方、集中治療領域の急性期ガイドラインでは敗血症患者へのアルギニン含有製品の効果の評価は定まっておらず、病態を悪化させる報告があることから使用しないことが推奨されているなど、補給に否定的な傾向にある。
アルギニンは体内でのたんぱく質分解および食事から摂取された一酸化窒素合成酵素の作用によってシトルリンと一酸化窒素を産生する。一酸化窒素は窒素と酸素からなる化合物で、気体として広く存在している。体内で一酸化窒素が増えると内皮細胞から隣接する平滑筋に作用し、血管が拡張され、血流が促進される。
一方で、一酸化窒素の過剰な産生は低血圧を誘発するリスクがある。また、炎症がある場合は、サイトカインなどの作用により一酸化窒素の活性が過剰になる。これらが敗血症でアルギニン投与を避ける理由である。

敗血症疑いを除外後にアルギニンを強化し、褥瘡が改善

以前勤務していた施設では敗血症の疑いがあり褥瘡を有する 70 代女性患者に対して、敗血症の疑いを除外後にアルギニンを強化した。この患者は入院 15 日前に転倒して体動困難となり、仙骨部から臀部にかけて褥瘡が生じ、食事は少量の水しか摂取できず、救急搬送された。入院時の血液検査では炎症が遷延し、高度の脱水からの高 Na 血症を認めた。入院時の褥瘡は広範囲に遷延しており、現病歴からリフィーディング症候群を強く疑い、予防対応として少量のエネルギー投与から開始した。栄養管理ではビタミンや電解質に配慮した。当初は敗血症の懸念があったため、アルギニン投与は控えた。仙骨部の褥瘡は DESIGN – R スコア D4 ~ 5 の深い創であった。
創部は洗浄と軟膏塗布による保存的処置で改善してきた。入院 30 日後からアルギニン含有製品と栄養補助食品を追加して、アルギニンを強化した。さらに、同日、形成外科で褥瘡に対する外科手術を行った。術後の皮弁生着は良好で、術後 15 日目に歩行可能になり、アルギニン含有製品を終了した。その後、術後 23 日目に抜糸し、病棟内歩行は自立した。

おわりに

アルギニンは創傷治癒が遅延している場合や、敗血症の疑いがないかを確認してから強化するかを判断する必要がある。強化後は有害事象がないかを定期的に確認し、敗血症が疑われる場合には使用を控える必要がある。しかし敗血症に気がつくことは難しく、主治医と褥瘡に関わるスタッフ間で、アルギニンのメリット、デメリットを共有することが重要である。
また、『褥瘡予防管理ガイドライン』にはエネルギー摂取量とたんぱく質摂取量を十分に確保することが記載されている。褥瘡患者に特定の栄養素を投与する際には、エネルギーやたんぱく質を十分に投与する必要がある。

 

【総合討論】

フロア ● L – オルニチンはアルギニンの代謝産物で、創傷治癒の機序を有している。一方、アルギニンは炎症や消化器系の有害事象がある。この点から、アルギニンよりオルニチンの投与が、安全性が高く、創傷治癒の効果も得られると思われる。オルニチンよりアルギニンが優れている点は何かあるか。

水野 ● オルニチンはプロリン産生に近い領域にあり、オルニチンを使えるのであれば使ったほうがよいと考える。オルニチンの有害事象は 100 g 以上の使用で報告されている。一方、オルニチンの有効性は 1 g 以上で得られる。したがって、とくに高齢者ではオルニチンが推奨できると考える。
ただし、アルギニンしか使用できない臨床現場もある。このような場合にはアルギニンでもよいと思う。また、新生血管を促進する目的ではアルギニンがよい。アルギニンの有効量はまだ不明であり、解明されると使い勝手がよくなるのではないか。

西村 ● アルギニンの有害事象については、少量でも下痢が起きる患者もいれば、 30 g でも問題ない患者もいて、個人差がある。

フロア ● 亜鉛が低値を示した患者に亜鉛を補給すると、銅が低下する印象がある。亜鉛と銅のバランスはどのように考えるか。

中西 ● 東邦大学医療センター大森病院では亜鉛が低値の患者には短期集中で酢酸亜鉛水和物を投与し、 1 ~ 2 週間後に亜鉛とともに銅を測定している。多くの場合、この投与法で亜鉛値は改善するが、銅が低下する患者は少ない。亜鉛は 2 週間程度の短期投与とし、銅についてもモニタリングすることが重要と考える。

榮 ● 2 週間、 34 mg の亜鉛投与では銅が低下することはまずない。ただ、食事摂取量が少なく、経腸栄養も併用しているなど、通常時から銅摂取量が少ない患者は注意が必要である。銅が低下し、極度の貧血を呈することもある。亜鉛を継続して投与すると銅は欠乏するが、銅を少し多めに摂取しても亜鉛が欠乏することはない。八潮病院ではこのような患者に亜鉛投与時に合わせて銅を含む食品を摂取してもらったところ、亜鉛による副作用は起きなくなった。

フロア ● 今回発表があった栄養素を全部使えればよいと思うが、現実には難しい。併用すると効果が高まる栄養素、逆に併用すると効果が落ちる栄養素はあるのか。また、コラーゲンペプチドは亜鉛を刺激するというお話があったが、これはベースが低い亜鉛を補う働きがあるのか、それとも亜鉛の効果を高めるものなのか。

榮 ● 亜鉛は創傷治癒に最も大事な栄養素である。亜鉛が欠乏すると皮膚は脆弱化し、また皮膚に圧迫が加わった時の血管損傷、酸化ストレス、アポトーシスが増悪するために、褥瘡の発生リスクを高める。ステロイド薬や向精神薬などは亜鉛と結合して尿中に排出する作用が強く、亜鉛を欠乏させる薬剤もある。これらの薬剤を服用している患者ではかなりの確率で褥瘡ができている。また、ステージ Ⅲ 以上の褥瘡ができる患者はまず間違いなく亜鉛欠乏である。褥瘡患者には経腸栄養、経静脈栄養の患者が多い。このような患者に亜鉛を投与すれば効果が期待できる。血清亜鉛値は本当の体内の亜鉛の充足状態を反映していないと言われている。ただし、現時点で簡便な検査で得られる亜鉛のデータは血清亜鉛値だけであり、血清亜鉛値が体内の亜鉛の目安として用いられている。血清亜鉛値は日内変動があり、午後は低下するため、早朝に測る必要がある。また、食事を摂った後も血清亜鉛値は低下するため、空腹時に測定することが重要である。

中西 ● 低亜鉛血症には低アルブミン血症が多い。サルコペニア患者にも低亜鉛血症が多い。これらを考慮すると、褥瘡のステージが高い患者では炎症期に伴って CRP が高くなり、血管外にアルブミンが漏れ、結合できなくなった亜鉛が尿中に排泄されて、亜鉛低値になると考えられる。亜鉛が低い患者では亜鉛値の上昇とともにたんぱく質合成や肉芽増殖を促進することから、亜鉛は褥瘡治療に必要と考えられる。エネルギーやたんぱく質の確保と合わせて亜鉛の補充も重要である。

山中 ● 亜鉛など欠乏症がある栄養素は、検査で欠乏していたら補充すればよい。とくに亜鉛は欠乏している場合に補充するもので、過剰に投与する必要はないと考える。経腸栄養剤や輸液には亜鉛が含まれており、栄養投与量が充足されていれば、亜鉛が不足することはない。
コラーゲンペプチドやオルニチンには欠乏症はないため、付加して使用すればよい。アルギニンの投与はタイミングが重要である。血管を拡張させ、血流を良くしたいときに投与すればよい。オルニチンは成長ホルモンを亢進させる作用があり、有害事象も少ないので補充に意義がある。イミダゾールジペプチドの補充も悪くないと思う。

榮●イミダゾールジペプチドは L -カルノシン、アンセリン、バレニンの総称だが、これら全てに効果があるわけではなく、 L – カルノシンのみに効果がある。 L – カルノシンは心筋梗塞後や脳卒中後の再灌流障害を保護する作用があるが、アンセリンとバレニンにはない。創傷治癒効果も L – カルノシンだけに報告されている。

Web ● 褥瘡の発生から治癒に至るまでの段階で重要な栄養素に違いはあるのか。治癒に至るまで一貫して全ての栄養素を続けて摂取する方法で問題ないのか。

山中 ● 浅い褥瘡では特殊な栄養素を補充しなくても、ケアと十分なエネルギーおよびたんぱく質の投与で治る。ある程度深い褥瘡では、基本の栄養素に付加して、今回触れられたような栄養素が必要になる。ただし、使い続けても副作用はないため、褥瘡が軽快した場合に継続して投与していても問題はない。

水野 ● オルニチンは、炎症期終わりから増殖期が使うポイントとなる。高齢者で腎機能が落ちている患者、肝障害があり尿素回路を回したいなど、アンモニアが溜まりやすい状況の患者に効果がある。こうした副次的な効果も狙いながら、創傷治癒を期待して付加するのがよいと考える。オルニチンの付加で創傷治癒期間短縮、看護業務軽減、入院期間短縮、痛み軽減などが期待できる。

榮 ● L – カルノシンは一酸化窒素の産生を促し、血管を拡張する作用がある。出血凝固期では L – カルノシンは強力な抗酸化作用を持つ。出血し、 pH が酸性に傾き、細胞のアポトーシスが始まる段階で L – カルノシンを投与すれば、出血によるダメージを保護できる可能性がある。炎症期では、創傷治癒に関わる成長因子やサイトカインの発現を L – カルノシンが促す。線維芽細胞や血管内皮細胞が活躍する増殖期にも L – カルノシンは線維芽細胞の寿命を延長する作用がある。このような点から、 L – カルシノンは全ての時期で投与のメリットが得られると考える。

中西 ● 基本的には亜鉛は増殖期前後に付加するものである。ただし、全身状態が崩れている敗血症や褥瘡感染を伴う炎症があり、亜鉛低値であった場合は、炎症期でも短期間の亜鉛強化が必要になる。亜鉛投与中は、銅欠乏がないようモニタリングすることも重要になる。

西村 ● アルギニンは免疫賦活の栄養素といわれており、超急性期には無理して投与するべきではない。また、肉芽があまり関係しない時期のアルギニンの効果は弱いと思われる。小腸切除患者ではアルギニンが欠乏しやすいと報告されている。アルギニンはこのような病態を踏まえて補給すればよい。

真壁 ● 有害事象がある栄養素、最初の感染時から使える栄養素などそれぞれに特性があり、使い分ける必要がある。欠乏症がある栄養素については、欠乏している場合に補充することが重要である。有害事象が少ないコラーゲンペプチド、オルニチンは付加による創傷治癒促進が期待できる。栄養の専門家である管理栄養士とともに必要な栄養素を検討することで、創部の治癒が早くなってくると考える。
L – カルノシンは内服で褥瘡治癒効果があるというお話があったが、創への散布でも効果が得られるのか。

榮 ● 散布でも効果があると報告されている。

真壁 ● ポラプレジンクは当初、亜鉛製剤でなく、 L – カルノシン製剤として開発された経緯がある。しかし認可が難しく、亜鉛を加えて、創傷、潰瘍治療薬となった。今後、この分野の研究が進むと、さらに興味深い栄養素になるのではないか。

岡田 ● 今回は栄養素の使い方やステージによる使い分け、有害事象まで有意義なお話をいただいた。今回お話があったどの栄養素も使いたいと思うが、全てを使うわけにはいかない。今後、褥瘡治癒を促進するためには、さらにエビデンスを出していく必要がある。基本的にはエネルギー摂取量、たんぱく質摂取量を含めた栄養状態を改善したうえでの、特殊栄養素の投与である。この点では管理栄養士が早期に介入することが必要である。

 

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