重症患者に対する早期経腸栄養 【後編】 | 経腸栄養に伴う合併症とその対策 | 神戸大学 小谷穣治 先生・井上茂亮 先生 インタビュー
2023.04.25リハビリテーション栄養 , 栄養剤・流動食ここでは、重症患者に対する早期経腸栄養 【前編】に引き続いて神戸大学大学院の小谷穣治教授と井上茂亮特命教授へのインタビュー記事をお届けする。後編となる今回は、重症患者の早期経腸栄養に関する様々な話題の中から、とくに合併症対策に焦点を当ててお話を伺った。
株式会社ジェフコーポレーション「栄養NEWS ONLINE」編集部】
小谷穣治 先生
神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野
教授/ 診療科長
井上茂亮 先生
神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野 特命教授
先進救命救急医学
経腸栄養に伴う合併症とその対策
はじめに
経腸栄養の合併症には様々なものがありますが、とくに誤嚥と下痢は重症患者の経腸栄養を継続する上で支障となりやすく、適切な対処が求められます。以下では、誤嚥と下痢の対策を中心に述べることとします。
誤嚥予防対策
経腸栄養に伴う合併症の中でも、とくに注意を要するものの一つが誤嚥です。誤嚥リスクの高い患者においては胃内投与から小腸投与への変更(前編参照)や薬剤投与(腸管運動促進薬、麻薬拮抗薬など)のほか、ベッドの頭側挙上、間欠投与から持続投与への変更なども誤嚥対策の選択肢として考えられます。
《ベッドの頭側挙上》
ベッドの頭側挙上については、頭側(上半身)を30〜45°挙上することで仰臥位や半臥位と比較して、肺炎発症率がそれぞれ23%および5%減少したとの報告があります(P=0.018)【Drakulovic MB, Torres A, Bauer TT, et al.Lancet 1999;354:1851-8.】。これを含めて3つのRCTを対象にしたsystematic reviewでは、人工呼吸器を装着した患者における24時間の45°の頭側挙上と、呼吸器関連肺炎や褥瘡の発生率、死亡率との間に有意な関連を見出せなかったものの、専門家の意見を集積すると20〜45°、望ましくは30°以上の頭側挙上を推奨したと述べています【Niël-Weise BS, P Gastmeier, A Kola, et al; CritCare 2011;15:R111.】。経腸栄養管理中に限らず、重症患者へのヘッドアップを基本とした体位管理は、経済的な負担の少ない誤嚥予防対策であり、当センターでも30°以上を1つの目安に、ベッドの頭側挙上を行っています。
《間欠投与から持続投与への変更》
当センターでは胃内投与・小腸投与を問わず、急性期重症患者の経腸栄養についてはポンプを用いた持続投与を基本としています。
人工呼吸器装着患者の経腸栄養管理に関するRCT(持続投与と間欠投与を比較した研究ではありませんが)によると、間欠投与でのfull doseを目指した経腸栄養を早期に開始すると、晩期(5日目)に開始した場合よりも誤嚥性肺炎のリスクが増加する危険性があることが示されています【Ibrahim EH, Mehringer L, Prentice D, et al. JParenter Enteral Nutr 2002;26:174-81.】。
健康時における1日3食の食生活リズムから考えると24時間持続投与は非生理的であり、本来であれば経腸栄養も体内環境の日内変動に合わせて投与すべきかもしれません。しかし、ECU入室期間中は患者の重症度が高く、逆流・誤嚥や後述する下痢などのリスクを考え合わせると、重症患者の経腸栄養はフィーディングチューブ先端の留置位置を問わず、持続投与にすべきだと思われます。そして、その際には流量の変動を最小限に抑える意味で、経腸栄養ポンプを使用した方が良いと考えます。
なお、当センターでは急性期を脱して一般病棟へ転棟する患者については、退院を目指して1日3回の分割投与に切り替えています。転院先の経腸栄養ポンプの保有状況によっては持続投与が困難な場合なども想定されるためです。
下痢対策
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