Care Show Japan2023| 多職種のチームで支える在宅医療 -在宅訪問管理栄養士の立場から-
2023.09.15在宅医療 , 栄養剤・流動食Care Show Japanは介護・医療・ヘルスケア分野の新製品・新サービス等の展示、行政動向や最新事例等の講演などの情報発信を通じて、地域課題、社会課題の解決の方向性を示す展示会だ。
本記事では栄養関連の講演について内容を紹介する。
【要旨】
日本在宅栄養管理学会理事長の前田 佳予子先生は、急速に進む日本人の高齢化で人生100年時代が到来しつつある中、住み慣れた地域で在宅での生活を継続するために地域包括ケアシステムの構築が進められている現状に言及。一方で依然として平均寿命と健康寿命の乖離が大きい点を問題とした。特に高齢者に多く見られる低栄養は、健康寿命を損ない死亡リスクを高めることから注意を促し、高齢者の栄養摂取についての考え方にはギア・チェンジが必要、とした。また、在宅医療を進めるための重要な役割を管理栄養士が担っている、として積極的な介入と地域の多職種との連携を呼び掛けた。
多職種のチームで支える在宅医療
-在宅訪問管理栄養士の立場から-
演者:前田佳予子(一般社団法人日本在宅栄養管理学会 理事長)
◆ 少子高齢化に伴い、在宅医療の必要性が増加
日本では少子高齢化が進み、人口は減少を始めた。他の先進諸国に類を見ない速さで超高齢社会に突入し、2021年の65歳以上の人口は3,621万人、高齢化率は28.9%で、2025年には高齢化率が30%に達すると推定されている。こうした状況を背景に、在宅介護を受ける高齢者は2025年には2012年の1.4倍になると予想されている。そこで、できる限り住み慣れた地域での在宅を基本とする生活の継続を目的として、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが連携して要介護者などへの包括的な支援を行う地域包括ケアシステムの構築が進められてきた。
令和3年度介護報酬改定では在宅医療の介護に加え、看取りへの対応の充実も示されている。看取りにおける栄養・食事面の対応の重要性が増し、介護保険施設での看取り対応に関わる加算、基本報酬の算定要件では、関与する専門職として管理栄養士が明記されている。今後到来するさらなる超高齢社会において、在宅医療、介護とともに、最期まで自分の住み慣れた地域で暮らせる体制の構築や看取りへの対応には、管理栄養士を含む多職種連携が求められている。
◆ 疾病構造の変化で闘う医療から支える医療へ
2022年に厚生労働省より公表された日本人男女の平均寿命は、男性81.47歳、女性87.57歳となり、すでに人生100年を見据える時代が到来しつつある。一方で少子高齢化の急速な進行と人口減少に伴い、世帯構成は大きく変化した。1953年の日本では1世帯の平均人数は5.00人だったが、2021年には2.37人となった。また、2021年の65歳以上の高齢者がいる世帯では単独世帯、夫婦のみ世帯が約60%を超えている。1986年頃には三世代同居世帯が40%強だったが、2021年には10%弱に減った。
こうした状況を背景に、医療の在り方も変化してきた。栄養状態・生活環境の改善で疾病構造が変わり、疾病や老化とともに暮らす人が増えた。医療技術の進歩によって容易には死亡しないが完治もしない疾病が多くなり、障害を抱えつつ長生きする人も増えた。したがって、病気や障害、老いを伴う障害とともに生きる生活を最期の時まで支える必要性が高まってきた。こうした変化に伴い、医療も闘う医療から疾患とともに生きる患者を支える医療が求められている。
◆ 健康寿命の延伸が重要な課題
今後は、65歳以上の高齢者のうち認知症で日常生活自立度Ⅱ以上の高齢者が増えていくと予想されている。さらに、世帯主が65歳以上の単独世帯や夫婦のみの世帯が増加すると考えられている。また、75歳以上の人口は都市部では急速に増え、元々高齢者人口の多い地方でも緩やかに増加すると想定されている。各地域で高齢化の状況は異なるため、地域の特性に応じた対応が必要になってくる。今後は日常生活に支障をきたす症状や意思疎通の困難さを抱えつつも、周囲の人が注意すれば自立できる状態の高齢者が増えると見込まれる。
高齢者の年齢による自立度は個人差が大きい。全国の高齢者を20年間追跡した調査によると、男性で死亡まで自立していたのは約10%。20%弱は生活習慣病などで寝たきりになり、前期高齢者もしくは後期高齢者の期間に死亡した。残りの70%は後期高齢者になって手段的日常生活動作(IADL)の援助が必要になったと報告されている。女性の場合は、10%強が生活習慣病などで寝たきりになり死亡していた。90%近くが一定の時期まで自立しているが、前期高齢者から後期高齢者にかけてIADLの援助が必要となっていた。個人差はあるものの、自立度が加齢とともに
低下していることが分かる。
日本は世界に類を見ないスピードで高齢化が進み、少子化も進んだ。平均寿命を延ばすのではなく、介護などが必要なく日常生活を支障なく過ごせる、いわゆる健康寿命の延伸が課題となっている。現在、平均寿命と健康寿命の差は男性で約9年、女性で約13年ある。できる限り健康寿命を平均寿命に近づけていくためには、介護が必要となる原因を防ぐ必要がある。前期高齢者の要支援、要介護の認定数に比べ、後期高齢者の要支援、要介護の認定数は急増している。特に後期高齢者での介護を減らす取り組みが重要になる。
◆ 要支援、要介護の原因となる疾病予防が必要
2019年の大阪府の調査では要支援1、2の主な原因は関節疾患、高齢による衰弱、骨折・転倒であった。要介護4、5の重度者の原因の最多は脳血管疾患で、次いで認知症であった。また、65歳以上の要介護者を対象にした介護が必要となった主原因の調査報告では、第1位が認知症、第2位が脳血管障害、第3位が骨折・転倒であった。
ただし、介護が必要となった原因は性別により若干異なる。男性では第1位が脳血管疾患、第2位が認知症、第3位が高齢による衰弱だが、女性では第1位が認知症、第2位が骨折・転倒、第3位が高齢による衰弱だった。介護予防の観点からも若年者の生活習慣病対策は重要である。
高齢者の低栄養状態は、日常生活の活動度の低下や生活の質の低下に繋がり、健康寿命に大きく影響するだけでなく、疾患罹患率や死亡率の増加など生命予後の悪化に関連する。したがって、健康寿命の延伸や介護予防の観点からは、過栄養だけではなく、後期高齢者が陥りやすい低栄養や栄養欠乏対策の重要性が高まっている。これらは超高齢社会における栄養の課題である。
◆ 低栄養の高齢者が多数存在
しかし、在宅高齢者には栄養の問題が多い。在宅サービスの利用者の約40%がBMI20未満の低栄養と報告されている。また在宅サービス利用者を対象にした検討では、BMI20未満の低栄養の高齢者は低栄養でない高齢者に比して2年後の死亡率が高いと報告されている。また、日本人の65~79歳の高齢者を対象に11年間追跡した報告では、BMI20を下回ると総死亡リスクが高くなることが明らかになった。BMIと生存率の関連についても、BMIが男性22~24・女性23~25群およびBMIが男性24以上・女性25以上群に比べ、BMI20以下群は生存率が低いとする報告がある。
高齢者の栄養について、考え方のギア・チェンジが必要と言われている。若い頃は生活習慣病予防として過栄養を避けるメタボリックシンドローム予防・対策が求められるが、高齢者ではフレイルやサルコペニアの予防に低栄養の予防・対策に切り替えなくてはならない。高齢者は若年者よりも積極的に栄養を摂るように心がける必要がある。
『日本人の食事摂取基準2020』では目標となるBMIとして前期高齢者、後期高齢者ともに21.5~24.9が示されており、高齢者では若干太り気味が望ましいと考えられる。ただし、前期高齢者の身長測定はさほど難しくないが、後期高齢者では身長測定が難しい場合もある。そこで、BMI20となるおおよその身長と体重の組み合わせ一覧表を作成すると便利である。身長140cmでは体重39kg、身長145cmでは体重42kg、身長150cmでは体重45kg、身長155cmでは体重48kg、身長160cmでは体重50kg、身長165cmでは体重54.5kgがBMI20となる。このような一覧表はとくに在宅医療の患者の低栄養把握に活用できる。
◆ 高齢者ではエネルギーとたんぱく質の摂取量確保が必要
高齢者では身体機能を維持するためにエネルギーとたんぱく質の摂取量確保が重要となる。それぞれの摂取量が不足すると体力も抵抗力も低下する。また、身体の状態を整えるビタミン、ミネラル、食物繊維なども必要になる。これらの栄養素はとたんぱく質の摂取量が十分に満たされた場合に効果を発揮する。
しかし、高齢者では嗜好の変化や偏り、バランスの悪い栄養素の摂取、不十分な食事摂取量、食および高齢者を取り巻く社会的環境の悪化などにより、容易に各種ビタミン栄養素の欠乏をきたす。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)でも微量栄養素の欠乏が指摘される高齢者に発症や重症例が多く、ビタミンD欠乏が発症および増悪因子になっていることも指摘されている。
◆ 高齢者は食事の問題への認識が希薄
外来や訪問医療の現場で管理栄養士などが高齢者にする「食事は摂れていますか」との質問に対し、ほぼすべての高齢者が「3食ちゃんと食べている」と回答する。しかし、「食べている」という回答には、一口だけ食べている、食べているが量が少ない、食べるが偏りがある、などの場合が含まれている。実際、食事内容を詳しく聞くと「食べている」との回答も、うどんだけ、おにぎりだけ、菓子パンだけという例が多い。どのような食事をどのくらいの量摂っているか、まで質問する必要がある。
75歳以上の高齢者500人、75歳以上の同居家族を介護・支援する500人、管理栄養士200人を対象にしたインターネット調査の報告がある。「現在の食事量は十分な栄養素を摂れていると思いますか」との質問に対して、高齢者では約60%が「摂れている」と回答した。しかし管理栄養士では「摂れている」という回答は3%に過ぎず、70%以上が「摂れていない」と答えた。この結果から、自分の食事内容に問題があるとは考えていない高齢者が多いことが示唆される。また、「健康のために粗食が大切だと思いますか」という質問に対しては、高齢者の約80%が「はい」と答えた。若年者における生活習慣病とメタボリックシンドローム対策を目的とした食事から、高齢者で必要なある程度のエネルギーとたんぱく質の摂取量を確保できる食事へのギア・チェンジがスムーズに行われていないと考えられる。
自宅で訪問診療、訪問歯科、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問栄養食事指導、訪問薬剤指導を受けた65歳以上の在宅患者を対象に栄養状態を簡易栄養状態評価表(MNA-SF)で評価した報告では、約80%が低栄養状態であった。また、高齢者の摂食状況と栄養状態の関連を検討した報告では、嚥下機能が低下するほど低栄養が有意に増加したとされている。さらに、低栄養の入院患者に高たんぱく質の補食を付加したところ、死亡率が減少した、との報告もある。在宅患者では低栄養が多く、低栄養は予後を悪化させる。在宅医療では低栄養予防が重要である。
◆ 高齢者の低栄養対策ではONSも有用
しかし、長期にわたる低栄養患者に十分な食事を摂るよう勧めても難しい場合がある。このような患者で栄養を確保するために、栄養補助食品(ONS)の活用が有用である。要介護高齢者の多くは、たんぱく質・エネルギー低栄養状態(PEM)であると言われている。高齢者の栄養状態を考える上で、PEMの早期発見と予防は重要である。
日本の高齢者のエネルギー摂取量は1日1,200~1,400kcalとされている。しかし、身近な人の死去、ショックな出来事、体調の悪化、歯の状態悪化などで栄養摂取量は容易に低下する。すると活動性が落ち、筋肉量が減少し、寝たきりになる。急激に低下したエネルギー摂取量を食事だけで回復させるのは難しい。そこで200kcal程度のエネルギー摂取量を増やし、日常の食事で不足している栄養素を補う方法がONSである。
ONSには『エンシュア・H』、『エネーボ』、『ラコール』、『イノラス』といった医薬品扱いの製品のほか、『エンジョイ』、『メイバランス』、『メディミル』などの食品扱いの製品も使われる。ONSには高エネルギー・高たんぱく質、サルコペニア対応、がん患者用、肝疾患患者用、慢性呼吸器疾患患者用、褥瘡患者用など多くの種類があり、患者の状態に合わせた選択が重要になる。食品扱いの製品は自費払いになる点にも注意が必要である。
◆ 高齢者では口腔機能の検討も重要
栄養状態と口腔機能には密接な関わりがある。咬合力は加齢に伴い低下する。17歳の高校生と65歳以上の地域在住高齢者の咬合力を比べた報告では、高齢者では17歳の約半分に低下していた。高齢者でも70歳の咬合力に比べ、80歳は約半分、90歳では3分の1に低下していることが報告されている。
虚弱な高齢者において口腔機能の低下は低栄養の危険因子である。健康な高齢者においても口腔機能の低下が食事やビタミンの摂取量の低下に繋がることが報告されている。高齢者における食生活の満足度は、口腔関連のQOLや主観的な幸福感と関連するとの報告もある。高齢者のQOLの維持、向上の観点からも高齢者の口腔機能の検討は重要である。
◆ 最期の時まで地域で暮らせるよう支援する在宅医療
住み慣れた地域で最期まで暮らすための鍵は栄養と食事である。しかし少子高齢化、人口減少を迎えた日本では、自助と互助の時代となる。自助として自分のことは自分で行うこと、とくに自らの健康管理に心がける必要がある。共助では住民組織活動や高齢者によるボランティア、生きがい就労などの取り組みが求められる。
住み慣れた地域で暮らす支援の一つに在宅医療がある。在宅医療とは地域で暮らす通院が困難な対象者に、人生の最終段階も視野に入れて、医師、歯科医師、看護職、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、栄養士、歯科衛生士、介護支援専門員、介護職などが行う医療介護を通じた包括的な支援をいう。
在宅医療の対象者は小児から高齢者で、対象疾患は病状が進行したがん、慢性疾患、神経難病、認知症、精神障害の他、加齢などで死期が近い人、小児重症疾患、医療的ケア児となる。提供されるのは、患者本人や家族のニーズに沿ったケアであり、提供される場は、自宅、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホームなどになる。提供者は医療従事者、介護従事者、行政担当者、地域住民などである。
◆ 在宅医療患者数は増加傾向
在宅医療で各都道府県が策定する医療計画には、地域の実情を踏まえた課題や施策などを記載することとされている。国は在宅医療の体制構築に係る指針を示しており、第8次医療計画の中にも在宅の訪問栄養食事指導が明記された。その内容は、在宅療養患者の状態に応じた栄養管理の充実に管理栄養士を配置する在宅療養支援病院や栄養ケア・ステーションの活用も含めた体制整備が重要とし、その機能・役割についても記載することとしている。
近年、在宅医療を受ける患者は大幅に増加し、往診の数は横ばいとなっている。訪問診療は計画的、定期的に訪問し診療を行うもの、往診は患者の要請に応じてその都度訪問し、診療を行うものである。訪問診療を受ける患者の大半は75歳以上の高齢者だが、小児や成人についても一定程度存在し、その数は増加傾向にある。
◆ 在宅医療は多施設連携、多職種連携で実施
在宅医療では最期まで自宅で暮らせるよう、かかりつけ医を中心に訪問看護、調剤薬局、ケアマネジャー、管理栄養士など多職種が連携する。在宅医療患者が入院した場合、入院先の病院と関係スタッフ、在宅医療を担う関係者が退院時カンファレンスに参加し情報共有することで、その後の在宅医療がスムーズになる。
病院では各施設で名称は異なるが地域医療連携室が置かれていることが多い。地域医療連携室は病院と福祉施設の連携において重要な役割を果たす。また、地域医療連携室には病院と他の病院または医院、診療所、他の施設を繋ぐ機能もある。在宅医療へのスムーズな移行において、病院の地域医療連携室の果たす役割は大きい。
管理栄養士の退院支援ではステージごとに必要な役割がある。入院後7日以内にケアマネジャー、訪問看護師、かかりつけ医、患者、家族と会い情報共有する。患者の入院前の生活を全体的に把握する。退院後の生活と医療介入の方法のイメージをケアマネジャーや訪問看護師など在宅の担当者と共有し、役割分担しつつ、退院へ備える。退院直前に準備するのではなく、入院時から退院を見据えておく必要がある。とくに急性期病院に所属する管理栄養士には、入院早期からの在宅医療との連携をお願いしたい。
チーム医療における管理栄養士には専門性志向、患者志向、職種構成志向、協働志向の4つの志向が必要である。専門性志向では栄養状態に適した食事形態、食事内容の助言と食事、ONSの提供、退院後の生活に向けた食事と調理の指導などを行う。患者志向では食事内容の選択、食の嗜好を考慮した工夫、食事摂取方法の選択などを行う。職種構成志向では多職種連携を意識する。協働志向では患者中心のチーム医療を心がける。
◆ 在宅医療に携わる管理栄養士は地域のアセスメントが必要
在宅医療では気づきを持って、理解し、評価したうえで行動することが重要だ。気づきとは自分の周りに起きていることを把握し、それぞれの要素のつながりを見つけることである。理解とは自分の周りで起きていることを認識し、身に付いた知識とすることである。評価は、理解したことを自分なりに吟味し、価値観を明確にして望ましい行動を考える。行動はその考えに基づき、実行に移す。
その実現には地域のアセスメントとして、地区診断が必要となる。地区診断では虫の目、鳥の目、魚の目の3つによる評価が重要とされている。虫の目は、個別支援において、人や患者を様々な角度から綿密に見ていく視点である。鳥の目は、高所から広い範囲を見る視点である。そして魚の目は、先の物事の流れや動きを見る視点である。地区診断は現在の状況、今後予想されるできごと、周囲の環境を意識しながら実施する。
コミュニティ・アズ・パートナー(CAP)モデルも重要とされている。CAPモデルは物理的環境、教育、安全と交通、政治と行政、保険医療と社会サービス、コミュニケーション、経済・産業、レクリエーションで構成される地域のアセスメントで、それぞれの要素が互いに関連している。このようにして地域と地域で暮らす人々をアセスメントすることが重要である。CAPモデル
のアセスメントシートは、項目が多いが、在宅医療で管理栄養士業務を行う上で有用である。
管理栄養士が在宅医療で訪問栄養指導を実施する前に、支援を必要とする患者数、現在行われている支援やサービスの内容、既存のサービスやサービスの利用状況、不足している支援やサービスなど地域の現状を把握する必要がある。管理栄養士が地区診断を行わないと、地域ケア会議やサービス担当者会議で的確な支援を提案できない。ぜひ管理栄養士には地域のアセスメントを行ってほしい。
◆ 総合的栄養マネジメントができる在宅訪問管理栄養士を育成
近年は在宅医療における管理栄養士の役割が増えてきた。地域包括ケアにおける管理栄養士の活躍のフィールドは医療、介護、地方自治体、地域ケアなどと多岐にわたる。在宅訪問指導を支援する日本在宅栄養管理学会の会員は現在約2,000人で、このうち約40%の管理栄養士が在宅医療の現場で活動している。
日本在宅栄養管理学会では在宅医療にかかわる地域の多職種との協働を構築し、療養者や家族のQOLを支援する総合的栄養マネジメントができるスーパーバイザーとして在宅訪問管理栄養士の育成を行っている。
◆ 在宅医療での管理栄養士の栄養サポートは有用だが課題も多数
管理栄養士による居宅療養管理指導を算定している事業所数は、各自治体の全国平均で31.4事業所だが、都道府県でばらつきが大きい。京都府は81.4事業所と非常に多い。在宅栄養訪問食事指導および管理栄養士による居宅療養管理指導の算定数はいずれも増加している。管理栄養士による居宅療養管理指導の算定事業所数は横ばい傾向だが、レセプト数は増加している。在宅での栄養食事管理の対象となる患者の大部分は、要介護認定を受けている。
大阪府T市の「在宅医療と介護の連携会」に参加(86名)した多職種を対象に在宅での管理栄養士の活動についてアンケートが行われた。対象にはケアマネジャーが約40%含まれている。「在宅での医療保険・介護保険での医療食事指導を知っていますか?」という質問に対し、「知っている」は60%強、「管理栄養士に相談したいことがありますか?」という質問に対し、「ある」との回答は約80%であった。この結果から、在宅での管理栄養士の活動には一定の認識があると考えられる。
通所介護サービス利用高齢者に対する栄養ケアマネジメントにより、6か月後の体重が増加し、6か月後のIADLが改善したとの報告がある。通所リハビリテーション利用高齢者に対し、管理栄養士が居宅で家族への聞き取りを行い食事相談を含む栄養ケアマネジメントを実施したところ、6か月後にエネルギー摂取量、たんぱく質摂取量、体重、IADLが改善したとの報告もある。
令和3年度介護報酬改定でも栄養、運動、口腔ケアの取り組みを一体として運用することで、より効率的な自立支援、重度化予防につながることが期待される、と明記されている。特に口腔スクリーニング、栄養アセスメントの有用性が示されているが、在宅医療での管理栄養士の活用はまだ十分に進んでいない。
在宅訪問管理栄養士の活動には課題も多い。在宅訪問栄養指導が医療機関に所属する管理栄養士に限られる問題は改善されたが、医師との連携、行われた指導件数、管理栄養士のマンパワー、多職種との連携はいずれも不足しており、これらの問題はまだ解決していない。
◆ 通所系サービスでの栄養ケアマネジメント関連の加算が充実
令和3年度介護報酬改定では、通所系サービスで栄養ケアマネジメント関連加算の充実が進んだ。口腔機能の低下や低栄養のおそれがある利用者を早期に確認し、必要なサービスに繋げる観点から介護職員が行う口腔・栄養スクリーニング加算が1回20単位として6か月に1回加算可能となった。管理栄養士が行う栄養アセスメント加算は1回50単位として1か月に1回加算できる。多職種による栄養アセスメントは3か月に1回の加算が認められている。さらに栄養改善加算も1回200単位加算できる。
また、外来栄養食事指導料、在宅患者訪問栄養食事指導料の見直しでは、従来は医療機関に所属する管理栄養士が行った場合のみ加算されていたが、他の医療機関または都道府県の栄養ケア・ステーションの管理栄養士でも加算できるようになった。
◆ 在宅療養患者における多職種連携による管理栄養士の介入
100歳超の女性に対して多職種連携で介入し、嚥下障害が改善された症例を経験した。この患者には医師より嚥下障害のため栄養食事指導を指示されたが、実際に訪問すると一日中うとうとしていたり、言葉が少なくなったり、大好きな食べ物も食べなくなってきたりしていることが分かった。嚥下障害があるため、やわらかご飯からスベラカーゼ粥へ変更し、お茶ゼリーに粉飴を追加、野菜類は圧力鍋で食べやすい食形態に変更した。
多職種でこの患者の嚥下障害を検討したところ、薬の影響によるものと分かった。減薬したところ、姿勢の保持が可能になり、覚醒時間が長くなり、体重も増えた。食事摂取量が増え、自分で食べられるようになり、外出してカフェでケーキを食べるようになった。薬は必要時には当然有効だが、これからは薬の効果を判断し、食も重視するべきである。
終末期の看取りで家族から「どうしても最後に口から食べさせたい」という希望があった90歳代の患者にも多職種で介入した。経口摂取は医師から2か月間にわたって禁止されており、舌も反っている状態だったが、看護師、言語聴覚士、管理栄養士を含めた多職種が家族の望みを叶えようと取り組んだ。経口摂取が実現し、患者は非常によい笑顔をみせてくれた。経口摂取が実現して3日後に死去したが、家族も満足していた。
◆ 在宅医療の食支援でも多職種連携が重要
食支援には食べる力、食べ物と栄養、食べるための土台づくり、患者や家族の望みと多くの要素があり、管理栄養士だけで行うものではない。多職種連携でこれらの要素に対して介入し、食事を食べられたときには笑顔が生まれる。在宅医療での食支援も多職種連携で行うものである。
訪問栄養食事指導の際の管理栄養士の心構えとして、患者や家族ができたことを褒める、できなかったことは見て見ぬふりをする、できないことは決して言わない、がある。今できていないこともいつの日かできるようになる。訪問栄養食事指導にはこの点に留意する必要がある。
Part2へ続く
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