Bacterial translocationの制御から 短鎖脂肪酸による侵襲代謝機能制御への研究の進展|寄稿:宇佐美 眞 先生

2024.02.01歴史

「栄養ニューズPEN 」2021年8月号にご寄稿
株式会社ジェフコーポレーション「栄養 NEWS ONLINE 」編集部】

甲南女子大学医療栄養学部学部長、神戸大学名誉教授
宇佐美眞

はじめに

腸管機能制御に関しては、動物実験でのbacterial translocationの定量とその制御から始まり、消化器外科手術症例へのprebioticsとsynbioticsのそれぞれでの介入に拡がった。また、肝疾患での宿主-腸内フローラ代謝相関(host-gut microbe metabolic axis)の解析結果を得た。さらに、この15年間は、腸内フローラにより産生される短鎖脂肪酸を中心に据えて侵襲時の代謝機能制御・脂質mediator産生制御への研究を展開してきた。当方は、故光野孝雄先生の神戸大学第一外科に入局し、大柳治正先生の下で外科代謝栄養研究室に所属し、斎藤洋一先生の代に、神戸大学医学部保健学科に転出し、神戸大学大学院保健学研究科病態解析学領域病態代謝学教授として定年を迎えた。2017年から管理栄養士を養成する甲南女子大学医療栄養学部に学部長、理事、副学長として在職中である。

病態モデルでのbacterial translocationとその制御

ラットの70%肝部分切除は定型的な肝再生モデルである。しかし、90%の大量肝切除を行うと、portal poolingによって腸管の透過性が亢進し、グラム陽性杆菌が腸間膜リンパ節、門脈、肝臓、脾臓、腎臓へ、endotoxinが門脈へ移行し、肝障害が生じて肝再生が抑制される。それに対してpolymyxin B経口投与はbacterial translocationと肝再生抑制を回避し、生存率を改善出来た(磯篤典 日消病誌 1996)。肝切除時には出血量減少のために全肝虚血再灌流手技(Pringle法)が行われる。ラットにPringle法を併用した70%肝部分切除を行ったが、portal-systemic shuntを作成してPringle法にともなうportal poolingを回避すると、endotoxin translocationによる肝再生抑制が回避され、体重減少を生じなかった(Usami M J Surg Res 1994)。また、当時は禁忌に近い位置付けであった重症急性膵炎時のENによる栄養管理の可否を検討した。Deoxycholic acid膵管内注入による急性膵炎ラットにENとTPN投与を7日間行った。TPNでは腸粘膜が萎縮したが、ENは腸粘膜の腺窩深と絨毛高を維持しbacterial translocationと免疫能低下を抑制し、有効であった(磯篤典 外科と代謝栄養 1994)。
これらの病態モデルによって、侵襲時のbacterial translocationが明らかになり、抗生物質を用いるdigestive decontaminationとENの有効性が確認出来た。

消化器外科手術症例での消化管integrityの低下とその制御

病態モデルの結果を基にして、手術症例での消化管integrity変化を定量化し、prebioticsとprobiotics、両者を併用するsynbiotics投与の効果を臨床例で検討した。

1)術後の消化管integrity変化とprebiotics投与

消化器術後に14日間のTPN群/EN群(pre-bioticsのグアガム酵素分解物併用エレンタール)の2群間の侵襲反応と腸粘膜integrityを評価した。侵襲反応はsystemic inflammatory response syndrome(SIRS)と血中サイトカイン濃度で、腸粘膜integrityは血中diamine oxidase(DAO)活性で定量した。EN群では腸粘膜integrityが維持され侵襲反応は抑制された。また、侵襲反応が大きいと腸粘膜integrityが低下していた(図11)。なお、prebiotics作用のかなりの部分はprebioticsから生成される短鎖脂肪酸によると考えられている。

術後の消化管integrity変化とprebiotics投与

図1

2)術前後のsynbiotics投与効果

Synbioticsは、適正な生菌probioticsと腸内細菌に資化され腸内フローラを改善する難消化性食物成分prebioticsを併用する。肝癌肝切除症例にsynbiotics(Bifidobacterium breve、Lactobacillus caseiおよびガラクトオリゴ糖)を術前14日間と術後11日間投与した。Synbiotics投与により、術後感染性合併症はコントロールの17%から0%へと抑制され(p<0.05)、DAO活性の術後低下が改善
された(p<0.01)(図22)
また術後のDAO活性低下と血清IL-6値上昇には負の相関が認められた。これはsynbiotics投与が腸粘膜integrityを維持し、bacterial translocationを制御することにより感染性合併症が抑制され、血中pro-inflammatory cytokine上昇を抑制した結果と考えられる。

術前後のsynbiotics投与効果

図2

腸内フローラと脂肪酸(多価不飽和脂肪酸・短鎖脂肪酸)代謝の臨床解析

腸内フローラは、消化管ホルモン分泌あるいは短鎖脂肪酸生成を介して全身の脂質代謝に関与するとされる。それらは、宿主-腸内フローラ代謝相関(host-gut microbe metabolic axis)、腸内フローラと肥満の連関として動物実験あるいはメタボリックシンドロームでの解析が行われている。また、肝臓は脂質代謝の中心であり、肝疾患での脂質代謝異常が報告されているが、腸内フローラとの代謝相関という観点での臨床研究は少ない。
我々は前記のsynbiotics投与前の肝癌患者の糞便フローラ・有機酸濃度と血中の脂質・有機酸濃度を測定した。肝障害により腸内フローラ・脂質代謝が変化するために、切除肝の非癌部の病理診断により、正常肝、慢性肝炎/肝線維症、肝硬変の3群に分けて解析した。糞便フローラ・有機酸濃度は3群間で差を認めなかった。各群での糞便フローラと血中脂質・有機酸濃度の相関を解析し、相関係数が0.7以上で有意な結果であったものを図3に示した。正常肝群ではCandidaと血中リン脂質は正の、Bifidobacteriumと血中eicosapentaenoic acid(EPA)およびEPA/arachidonic acid(AA)比は、負の相関を示した(p<0.05)(図3)。他方、肝硬変群ではLactobacillusとdocosahexaenoic acid(DHA)、CandidaとEPAおよびEPA/AA比が正の相関を示した(p<0.01)。以上より、腸内フローラ・便中有機酸濃度は、血中リン脂質、遊離脂肪酸、EPA、EPA/AA、DHAと関連することが示され、肝障害による相関結果の違いから腸内フローラが血中脂質代謝に作用するが障害肝によって修飾される可能性が示唆された。(図33)
この腸内フローラと多価不飽和脂肪酸代謝の関連は極く最近になって研究が進展しつつあり、幼児へのビフィズス菌・乳酸菌投与が血中のEPAとAAを低下させる報告は、本結果での負の相関と合致している4)。侵襲反応下の脂質mediator制御には多価不飽和脂肪酸のIVあるいはEN投与が必須との当時の栄養代謝の考えからは、この腸内フローラによる代謝制御の可能性は印象的であった。

糞便フローラと血中脂質・有機酸濃度の相関

図3

短鎖脂肪酸研究の展開

短鎖脂肪酸は草食反芻動物の主要なエネルギー源として総エネルギー消費の80%を占め、ヒトでは2〜15%を占める。消化を受けない食物繊維などの大腸内流入成分の40〜50%が短鎖脂肪酸となり、その量は1日に20〜30gと見積もられる。短鎖脂肪酸は消化管内で産生され、消化器系、腸粘膜上皮細胞への多様な生理作用と腸管免疫との関わりが明らかである1)。しかし、多価不飽和脂肪酸と異なり、短鎖脂肪酸は栄養学的な侵襲制御の観点からは考えられていなかったので、短鎖脂肪酸による侵襲制御の研究を進めた。

1)In vitroの腸管・血管integrity改善と免疫調節

腸管integrityを評価するin vitroモデルとして腸粘膜上皮細胞tight junction permeability測定をCaco-2 monolayerの実験系で検討した。EPAは透過を促進しcyclooxygenase(COX)inhibitorにより抑制され、γ-linolenic acid(GLA)は透過を抑制しlipoxygenase(LOX)inhibitorにより促進した(Usami M Clin Nutr 2001, Nutrition 2003)。
短鎖脂肪酸の酪酸、プロピオン酸は透過を抑制し、その作用はLOX inhibitorにより抑制された。酪酸は5-LOX, 12-LOX, 15-LOX mRNA発現を促進し、プロピオン酸はわずかに促進した5)。Histone deacetylase(HDAC)inhibitorであるtrichostatin Aは、酪酸と同様にLOX mRNA発現を促進し、tight junction permeabilityへの効果は酪酸と同様であった。酪酸はアポトーシスを生じたが、同時に成熟分化を促進し、微細構造解析でtight junctionはtightになり、微絨毛高が増加していた。
短鎖脂肪酸の血管系への効果をhuman umbilical vein endothelial cell monolayerを用いて検討すると、酪酸、プロピオン酸、酢酸はいずれもtight junction透過性を抑制し、侵襲下の体液制御に有効である可能性が示唆された。(Miyoshi M Nutrition 2008)。また、短鎖脂肪酸によるLPS存在下の末梢血単核球からのTNF-α分泌とNF-κB活性の抑制とprostaglandin(PG)E2分泌促進を認めた。酢酸はCOXとLOXが、プロピオン酸はCOX活性が関連したが、酪酸は関与せずHDAC阻害作用によるものと考えられた(Usami M Nutr Res 2008)。

2)In Vivoの短鎖脂肪酸投与実験の新しい展開

・トリブチリン経口投与によるporto-hepatic systemの濃度上昇と肝障害抑制

トリブチリンは酪酸のトリグリセライドであり、1モルのトリブチリンから3モルの酪酸が生成され酪酸のprodrugである。トリブチリンは食品成分として、バター、チーズなどの乳脂肪、ハチミツに含まれる。経口投与された乳剤化トリブチリンは上部消化管から直ちに吸収され、ラットでの投与1時間後には門脈血中濃度が2.4mMと、通常のヒト門脈血9〜29μMと比較して著しく上昇し、肝臓にdirectに作用した6)。LPS腹腔内投与による肝障害モデルでは、肝臓のNF-κB p-65の核内移行が抑制され、肝臓と血漿TNF-α濃度が低下し、肝障害・肝組織のHAI grading scoreが顕著に改善した6)
また、3%、10%の酪酸ナトリウム溶液のIV投与では、LPS投与後10%の生存率を45%に改善した(宇佐美眞 外科と代謝・栄養 2010)。

 ・肝臓の脂質代謝改善と脂質mediator分泌への効果

トリブチリン投与は、肝臓における脂肪酸代謝に関与する核内受容体peroxisome proliferator-activated receptor γ(PPARγ)を増強した。また、LPSよるPPARγ mRNA発現低下を改善し、血中トリグリセリド、総コレステロール、LDLコレステロールの増加を抑制した。トリブチリンは、脂肪酸酸化改善を介して侵襲下の脂質代謝異常を制御する可能性が示唆された7)。トリブチリン投与のLPS誘発肝障害時のlipid mediator変動への効果をLC-MSを用いた網羅的解析で明らかにした。pre-resolving mediator生成効果はなかったが、LPSによるLTB4濃度上昇を5-LOXの核内移行抑制により抑制した8)

3)酪酸とDHAとの併用効果

Topical treatmentとして、眼科領域での点眼薬と形成外科領域での経皮投与のin vitroの検討を行った。眼科で切除されたpterygium fibroblastを用いてphenylbutyrateと酪酸のfibrosis抑制効果と機序を示した(Koga Y Int J Ophthalmol 2017)。形成外科で切除されたケロイド由来線維芽細胞への酪酸添加はHDAC阻害作用によってfibrosis抑制効果を示し、さらに多価不飽和脂肪酸のDHAの併用はその効果を促進した9)
酪酸とDHAとの併用により酪酸の効果が増強された。酪酸は、腸粘膜上皮細胞ではLOX活性を増加し、末梢血単核球ではPGE2分泌を促進した。トリブチリンは肝臓の5-LOXの核内移行抑制によりLTB4濃度を抑制した。以上から、酪酸自体が多価不飽和脂肪酸代謝・エイコサノイド生成を変化させることを明らかにした。酪酸によってDHAがスフィンゴ脂質に取り込まれ、セラミドの構成が変化し、セラミド代謝が変わって、脂肪酸代謝が変わり、EPAが著増することが最近報告されている(Tylichova Z J Cell Bioche 2018)。

4)短鎖脂肪酸研究の今後

腸内フローラにより生成される短鎖脂肪酸は、腸管内だけでなく免疫細胞や脂肪細胞、血管内皮細胞さらには中枢神経細胞など様々な細胞に作用する。遊離脂肪酸(短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸)を天然リガンドとするオーファンG蛋白質共役型受容体(G-protein coupled receptor)ファミリーのGPR43、GPR41、GPR109a、GPR120が同定され、全身の代謝コントロール作用が大きく展開している10)。受容体が明らかになり、短鎖脂肪酸はホルモンに相当して全身に作用し、腸内フローラが内分泌臓器と考えられている。それらの関係は、dietary fiber-microbiota-butyrate axisとして病態コントロールに関与する。短鎖脂肪酸、特に酪酸の投与は、メタボリックシンドローム、脳神経系疾患、がん等多様な病態に試みられており、介入への新しい進展が期待される。

 おわりに

病態の理解と治療法の進歩は一体として理解して展開に繋げるものであることを、多くの院生との研究を介して、身をもって体験出来た30年間であった。

 

【参考文献】

(1)宇佐美眞, 消化器手術後の血中DAO活性の変動とmicrobial translocation. 外科と代謝・栄養 29:439-445, 1995

(2)Usami M, Effects of perioperative synbiotics treatment on infectious complications, intestinal integrity, and fecal flora and organic acids in hepatic surgery with or without cirrhosis.JPEN 35:317-328, 2011

(3)Usami M, Analysis of fecal microbiota, organic acids and plasma lipids in hepatic cancer patients with or without liver cirrhosis. Clin Nutri 32:444-451, 2013

(4)Kankaanpää PE, Influence of probiotic supplemented infant formula on composition of plasma lipids in atopic infants. J Nutr Biochem 13:364-369, 2002.

(5)Ohata A, Short-chain fatty acids alter tight junction permeability in intestinal monolayer cells via lipoxygenase activation. Nutriton 21:838-847, 2005

(6)Miyoshi M, Oral administration of tributyrin increases concentration of butyrate in the portal vein and prevents lipopolysaccharide-induced liver injury in rats.Clin Nutr 30:252-258, 2011

(7)Miyoshi M, Oral tributyrin prevents endotoxin-induced lipid metabolism disorder Clin Nutr ESPEN 10:e83-88, 2015

(8)Miyoshi M, Effect of oral tributyrin treatment on lipid mediator profiles in endotoxin induced hepatic injury. Kobe J Med Sci 66:E129-138, 2020

(9)Torii K, Combination therapy with butyrate and docosahexaenoic acid for keloid fibrogenesis: and in vitro study. An Bras Dermatol 92:184-190, 2017

(10)Kasubuchi, M, Dietary gut microbial metabolites, short-chain fatty acids, and host metabolic regulation. Nutrients 7:2839-2849, 2015

 

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