REPORT|第61回日本リハビリテーション医学会 学術集会 シンポジウム2 サルコペニア・フレイルのリハビリテーション医療と栄養管理

2025.04.02フレイル・サルコペニア , リハビリテーション栄養

第61回日本リハビリテーション医学会学術集会

シンポジウム2 サルコペニア・フレイルのリハビリテーション医療と栄養管理

座長:百崎 良三重大学大学院

  • 宮城厚生協会坂総合病院 リハビリテーション科の藤原 大 先生は、前期高齢者では生活習慣病予防、脳卒中や心血管疾患の予防が重要だが、後期高齢者はサルコペニア、フレイル、低栄養予防が必要であり、そのために運動療法と栄養療法の複合介入が推奨されていることに触れた。また、サルコペニア、フレイル、低栄養の有無だけでなく、その原因を含めて診断する重要性を指摘し、原因の診断には多職種連携による診断推論が有用であるとした。
  • NTT東日本関東病院 栄養部の上島順子先生はサルコペニア、フレイル対策ではエネルギーとたんぱく質の十分な摂取が必要であるが、入院患者の多くはエネルギー摂取量が不足しており、サルコペニアのリスクが高くなっていると指摘した。また、入院中のサルコペニア患者の多くは低栄養を合併している。このような低栄養とサルコペニアを合併する患者に対しては、リハビリテーション栄養ケアプロセスを用いた多職種連携による運動療法と栄養療法の複合介入が有用であるとした。
  • 東京女子医科大学 リハビリテーション科学講座の若林秀隆先生はリハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みで嚥下機能が改善するエビデンスが確立し、令和6年度診療報酬改定でこれらの取り組みに対する評価が新設されたことを紹介した。さらにリハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みのポイントとしてリハビリテーション科医師によるコーディネート、薬剤や悪液質など体重減少の原因の評価、体重を指標にした栄養のゴール設定、退院後を含めた医科歯科連携を挙げた。
  • 総合討論ではフレイルの原因の評価、退院後の栄養サポートの在り方、回復期に必要な医科歯科連携構築、リハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みについてディスカッションされた。その上で、サルコペニア、フレイルには低栄養が合併しやすく、栄養状態に関して多面的な評価と介入が必要であり、そのためには原因を含めた診断推論が重要であること、リハビリテーション栄養・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みがサルコペニア、フレイルに対する診療の質を高めることが提言された。

サルコペニア・フレイルの診断推論

演者:藤原 大宮城厚生協会坂総合病院 リハビリテーション科

 

◆後期高齢者ではサルコペニア、フレイル、低栄養の予防が必要

宮城厚生協会坂総合病院はリハビリテーション科に専門医が5名所属しており、東北地方の病院としては充実している。東日本大震災で津波の被害を受けた頃から、リハビリテーションと栄養に関わり始めたが、当時はサルコペニア、フレイルの概念は普及していなかった。災害医療の中心は生活不活発病への対応とされており、それを進めるなかでリハビリテーションと栄養の関連を考えるようになった。
当院はJR仙石線の下馬駅前にあるため、当院の栄養サポートチーム(NST)は下馬栄養倶楽部と名付けている。最近ではリハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みが推進されていることから、当院でも言語聴覚士(ST)と管理栄養士、歯科衛生士が参加するNST回診を開始した。また、NSTでは院内共通のWebサイトで見られるガイドを作成し、その中にサルコペニアや低栄養の診断基準なども記載し、院内での認知向上を図っている。
要介護の原因は年齢に大きく関わる。前期高齢者では脳卒中が原因の要介護が多いが、後期高齢者になると脳卒中に加え、転倒・骨折、衰弱、認知機能障害も原因になってくる。こうした要介護は従来の脳卒中を中心としたリハビリテーション医療だけでは対応できず、様々な視点からの対応が必要になる。若年者、壮年期から前期高齢者であれば生活習慣病や脳卒中、心血管疾患の予防がメインになるが、後期高齢者の場合はサルコペニア、フレイル、低栄養の予防にギアチェンジが必要になる。その中で、サルコペニア、フレイル、低栄養の予防治療が課題になっている。

◆サルコペニア、フレイル対策では運動療法と栄養療法の複合介入を推奨

ここ10年程度で世界及び国内でサルコペニア、フレイルに関する研究やその診断についてのディスカッションが盛んになった。その成果を受け、『フレイル診療ガイド2018年版』や『サルコペニア診療ガイドライン2017年版』も発表された。フレイルやサルコペニアはリスクを持つ人だけでなく、その兆候が現れる以前からアプローチしなければならないとされている。そこで、ポピュレーションアプローチも必要との声明が発表されている。
『フレイル診療ガイド2018年版』ではフレイルに対する栄養介入、運動介入の効果について触れられ、栄養と運動の組み合わせについても推奨されている。『サルコペニア診療ガイドライン2017年版 一部改訂』でも運動療法が推奨され、低栄養に関しては必須アミノ酸を中心とする栄養介入が推奨されている。また、レジスタンストレーニングなどの運動療法と栄養療法の複合介入も推奨されている。

◆サルコペニア、フレイル、低栄養の原因診断も重要

低栄養や身体機能レベル低下とサルコペニアやフレイルは悪循環となり、低栄養障害サイクルに陥る。リハビリテーションと栄養管理はこの負のサイクルを止めるために行われる。低栄養とサルコペニア、フレイルを中心とした身体機能障害には共通した原因が存在し、複合的に関わっている。そこで、低栄養とサルコペニア、フレイルの診断だけではなく、それらをもたらす根本原因、その原因が惹起する現象を把握して議論し、介入する必要がある。したがって、サルコペニア、フレイル、低栄養を診断する際には、これらの状態の有無に加え、原因を診断する過程が必要になる。
この10年余りでサルコペニアに関してはAWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)2019、身体的フレイルに関しては日本版フレイル基準(J-CHS基準)、低栄養に関してはGLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準とそれぞれコンセンサスが得られた診断基準が発表されている。サルコペニアの原因に関しては、加齢による一次性のサルコペニア、活動、低栄養、疾患による二次性のサルコペニアがあるとするコンセンサスが得られている。低栄養の原因もGLIM基準の中で炎症を中心にした分類が提唱されており、複数の原因が同時に存在していることが多いとされている。実際に入院患者のサルコペニアの多くは、単純な加齢による筋力低下に加え、低活動、低栄養、疾患が絡んでいる。これらの複合的な原因を見極める必要がある。

◆原因の診断には診断推論が有用

実際の診断では「食欲がない」「体重が減少した」「筋力が低下した」などの現象に対し、診断基準に基づいてサルコペニアや低栄養の有無を診断する。各種の診断基準を用いてサルコペニアや低栄養の有無は容易に診断できるが、複数の原因が同時に存在するため確定的な診断が難しい。そこで、診断推論の過程が必要になってくる。
各病態に対する診断についてはすでに確立されている。サルコペニアの診断基準としてはAWGS2019が広く用いられている。この診断基準は、地域も含めて広く症例を発見し、サルコペニアあるいは重症サルコペニアの診断は必要に応じ設備の整った病院や専門機関などで行うこと、とされている。サルコペニアの診断ではその原因の評価も行う。
身体的フレイルの診断にはJ-CHS基準がある。フレイルは身体的な問題以外にも、認知機能低下、判断力低下、意欲低下など精神心理的な問題、独居、他者との交流減少、役割の喪失、経済的困難など社会的な問題も絡む。身体的フレイルの診断は比較的容易にできるが、その原因は幅広く考える必要がある。
低栄養診断にはGLIM基準が広く用いられるようになった。令和6年度診療報酬改定では回復期リハビリテーション入院料1でGLIM基準の使用が要件化された。急性期でもGLIM基準による低栄養の評価が必要とされている。GLIM基準では低栄養の原因として炎症の評価が加えられている。

◆直感的な非分析的推論に情報を解釈・検討する分析的推論を組み合わせる

サルコペニアや低栄養の診断基準に基づき現象を診断する際には、原因についてもある程度評価する。しかし、複合的な原因を診断するためには、より詳細に診断する過程も必要となる。そこで、診断推論が注目されている。診断推論は症状や訴え、病歴、診察所見、検査値などから診断に至る思考プロセスを指す。病態の診断、疾患の診断では基本的に診断推論が用いられている。
診断推論には2つの過程がある。1つは経験や直観に基づく非分析的推論である。経験豊富な医師は病態から患者の状況やその原因を直観的に判断している。これを非分析的推論と呼ぶ。ただし、非分析的推論だけでは不十分である。そこで、情報を収集、解釈し、仮説を立てて検証し、最終的に診断をする。この過程を分析的推論と呼ぶ。非分析的推論と分析的推論の2つの過程を経て診断することを二重過程理論という。
実臨床では臥床している痩せた高齢者に対し、活動の低下による痩せと推論し、食事摂取量が低下しているとの情報から補助栄養食品の投与を判断するなどの非分析的推論がよく行われている。ただし、この過程だけでは臥床している原因は明らかにならず、行うべき介入を見逃す可能性がある。そこで分析的推論が必要になる。
このような臥床している痩せた高齢者に対し、AWGS2019を用いればサルコペニアを診断できる。そのサルコペニアは加齢、低活動、低栄養、疾患、医原性などの様々な原因が考えられる。これらを原因の候補として挙げ、それぞれ評価する。低活動の場合、継続期間、活動の程度、活動を阻害する原因まで評価する。栄養ではエネルギー摂取量不足の有無、エネルギー摂取量不足があった場合はその原因、十分にエネルギーを摂取できている場合は活動量や炎症の程度を評価する。疾患では栄養に悪影響を与える急性疾患もしくは慢性疾患の有無、影響を与える機序も評価する。感染症で急性期病院に入院した高齢者では感染症がエネルギー消費を増加させ、低栄養に陥り、動けなくなっているとも考えられる。慢性疾患を抱えている患者の場合、慢性疾患の状態も評価する必要がある。適切でない治療や管理、薬剤の有害事象が原因となる医原性のサルコペニアもある。これらの可能性から、原因を探ることが分析的推論になる。

◆食欲低下や薬剤の影響も評価

食欲低下の評価ではOPQRSTによる情報聴取が有用である。これにより、食欲低下の有無、食欲低下の程度を明らかにできる。臨床で低栄養の患者がいる場合、食欲低下の原因をある程度念頭に置きながら問診を行い、原因を特定する作業が必要になる。その際、OPQRSTを用いることで、確認が必要な事項の見逃しを回避できる。特に判断に難渋する患者については、考えられる疾患と原因を念頭に置き、一つ一つ検証していく必要がある。
摂食嚥下機能、食欲、運動機能には薬剤の影響も大きい。特に嚥下機能の各フェーズに対して薬剤は様々な影響を及ぼし、摂食嚥下機能を低下させる。この点はリハビリテーション科の医師だけでなく、薬剤師や看護師、リハビリテーションスタッフも知っておく必要がある。多くの職種が薬剤による摂食嚥下機能低下を念頭に置くことで、多職種チームで原因の診断推論が可能となる。
診断推論は1回の診断で原因が特定できれば終了とはならない。診断推論で導いた原因とそれに対する介入はあくまでも仮説である。したがって、継続した検証が必要になる。そのためには介入後のモニタリングが重要である。ただし、モニタリングは単職種では難しい。したがって、多職種でモニタリング項目を分担して情報収集することが望ましい。それぞれの職種が担当する領域のモニタリングを行うことが患者の生活機能の改善に繋がるという意識付けが必要となる。診断推論、検証、修正を繰り返すことによって、チームとしての診療精度が高まっていく。

◆診断推論による多面的な原因の診断と多職種によるモニタリングが重要

サルコペニア、フレイル、低栄養は共通の原因があり、その原因は多面的である。患者にとって有用な介入を行うためには、低栄養、サルコペニア、フレイルの有無の診断に加え、それぞれの原因を診断する必要がある。ただし、原因は複数が同時に存在している可能性があり、唯一の正解が存在しない場合もある。さらに患者ごとに原因の影響が異なることがあり、一定の数値化は難しい。この点で診断推論が有用である。多職種連携で診断推論を繰り返し行うことでチームの対応能力が上がる。また、それぞれの職種のスキルも向上する。多職種連携で診断推論が可能になるチーム作りが必要である。

 

質疑応答

百崎●診断推論の能力を高めるためにはどのような取り組みが必要か。

藤原●臨床での経験を踏まえた上での直観は精度が高い。まずは、臨床で多くの経験が必要と考える。食欲低下、体重減少は原因の特定が難しい特徴がある。このような原因特定に難渋する患者に対して、多職種チームでデータを取りながら、可能性のある原因を挙げて、それを共有する過程が重要である。医師だけが可能性を挙げても、漏れが生じてしまう。多職種の視点が有効である。

フロア●がん患者では疾患そのものの治療に加え、痛みもある。そこで、様々な診療科が関わり、それぞれ薬剤を処方する場合がある。漫然と薬剤を使うことは好ましくなく、鎮痛効果が得られない場合は減薬も必要と考える。ただし、実際の減薬は難しい。宮城厚生協会坂総合病院ではリハビリテーション科医師が、主治医に減薬の提案を行っているか。

藤原●ポリファーマシーの是正という観点で、NST回診時などに減薬の提案を行っている。ただし、がん患者において痛みのコントロール目的で処方されている薬剤の減薬、循環器科の医師が処方している心不全の薬剤の減薬は迷うことがある。薬剤を継続するメリットとデメリットを多面的に考える必要がある。少なくとも、薬剤が食事摂取や活動を阻害している可能性は指摘すべきである。その上で、診療科間で薬剤の必要性を議論しなくてはならない。

 

サルコペニア・フレイル患者への栄養管理

演者:上島順子NTT東日本関東病院 栄養部)

◆サルコペニア、フレイル対策ではエネルギーとたんぱく質の十分な摂取が必要

令和6年度診療報酬改定および令和6年度介護報酬改定ではリハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みの推進がポイントとされている。この取り組みはプレフレイルやフレイルの高齢者を健常に近づけるために必要な介入である。サルコペニアとフレイルの予防、進展抑制には、適切な栄養摂取が必要とされている。例えば、『フレイル診療ガイド2018年版』では地中海食をはじめとするバランスの取れた良質な食事がフレイルを予防する可能性があるとされている。また、高品質のプロテイン、ビタミンD、オメガ3系脂肪酸、プロバイオティスクの積極的な摂取がサルコペニア予防に有用との報告もある。
サルコペニアやフレイル予防では筋肉を構成する栄養素であるたんぱく質摂取量も重要である。『日本人の食事摂取基準(2020年版)』では、サルコペニアやフレイルの発症予防を目的として、65歳以上の健常高齢者で少なくとも体重1kgあたり1.0g/日以上のたんぱく質を摂取することが望ましいとされている。間もなく発表される『日本人の食事摂取基準(2025年版)』では、体重1kgあたり1.2g/日とより多くのたんぱく質摂取を推奨する案が作成されている。また、急性または慢性疾患の高齢患者、低栄養高齢者ではより多くのたんぱく質摂取が必要となり、体重1kgあたり1.2~1.5g/日が推奨されている。
他方、高齢者は食欲不振が起きやすく、口腔機能の低下で硬い肉が食べにくいため、たんぱく質の摂取量が低下しやすい。さらに、インスリン抵抗性やたんぱく質同化抵抗性が亢進し、たんぱく質の利用能も低下する。炎症性疾患やたんぱく質の酸化修飾増加により、たんぱく質の必要量も増加している。たんぱく質不足により身体機能が低下するため、高齢者では十分なたんぱく質の摂取が必要とされている。
たんぱく質を有効に活用するためには、十分なエネルギー摂取が必須となる。高齢ラットでエネルギー投与量を制限し、たんぱく質摂取量と筋肉量の推移を比較した報告では、エネルギー制限の実施により、たんぱく質摂取量に関わらず、筋肉量が低下したことが明らかになった。また、エネルギー必要量に対してエネルギー投与量を50%に制限したところ、1日につき0.2%の筋肉量減少がみられたとの報告もある。さらに、高齢2型糖尿病患者において、エネルギー摂取量が少なくなると筋肉量が減少することも報告されている。
疾患によってはエネルギー制限を必要とする場合もある。その場合も一律のエネルギー制限は避けたほうがよいと考える。患者ごとにエネルギー制限を行うべきか、サルコペニアやフレイルのリスクがあり、筋肉量減少予防を優先させるべきか評価する必要がある。また、エネルギー投与量を下げると、ビタミンや微量元素といった栄養素の摂取量も少なくなる。まずは、患者に十分なエネルギーを摂取してもらうことが重要である。

◆入院患者の多くはエネルギー摂取量不足

十分なエネルギー量の目安として『日本人の食事摂取基準(2020年版)』の必要栄養量がある。『日本人の食事摂取基準(2020年版)』では65歳以上の男性で2,050kcal/日以上、女性で1,500kcal/日以上、75歳以上の男性で1,800kcal/日以上、女性で1,400kcal/日以上とされている。この必要栄養量は健常者を対象としており、入院患者では疾患の影響が加わるため、さらに多くのエネルギー量が必要となる。また、『日本人の食事摂取基準(2025年版)』の案では必要栄養量が増やされている。
しかし、入院患者のエネルギー摂取量は少ない。平均在院日数5.7日の大学病院に入院中の患者のエネルギー補給量は760kcal/日であったという報告がある。これは、『日本人の食事摂取基準(2020年版)』が示す必要栄養量の半分以下になる。さらに、誤嚥性肺炎の入院患者を対象にエネルギー摂取量を検討した報告では、入院7日目の欠食患者は約4割に上り、エネルギー摂取量は体重あたり7.7kcal/日であることも明らかになっている。
高齢者は入院中にサルコペニアを発症しやすいことも分かっている。イタリアでは入院時にサルコペニアはなかった患者の約15%が入院中にサルコペニアを発症したと報告されている。発症した患者は入院前から低BMIで骨格筋量が少なく、ベッド上の安静期間が長かった。サルコペニアの原因にはエネルギー摂取不足もある。エネルギー摂取不足には食事摂取量減少や栄養素消費増大が影響する。栄養素を十分に摂取していても利用能が低下している可能性もある。これにより、低栄養関連サルコペニアが発生する。管理栄養士は食事摂取量が減少し、エネルギー消費量が増大している高齢者に対して、エネルギー必要量を摂取できるような介入を行う必要がある。

◆食欲不振は低栄養、サルコペニア、フレイルを惹起

患者に合わせた食事を提供していても、高齢者では食欲が低下し、「食べたくない」「食べられない」という患者が多い。高齢入院患者の30~50%が食欲不振との報告もある。低栄養と食欲不振は強い関連があり、食欲不振によって食物摂取量が減り、栄養素摂取量が減って、体重が減少する。これにより、低栄養、サルコペニア、フレイルを発症する悪循環が起きる。低栄養と機能障害は相互に影響を及ぼす負のスパイラルとなる。急性期病院ではこれを断ち切る必要がある。低栄養、サルコペニア、フレイルの高リスク患者を早期に発見して、介入しなくてはならない。このような専門的なケアが必要な患者に対して、多職種で栄養管理を行うシステム構築が求められる。
NTT東日本関東病院でも入院前から低栄養とサルコペニアを認める患者が多い。当院では予定手術の患者には入院前の外来診療時から多職種の介入を実施している。この一環として、管理栄養士は栄養評価をして栄養指導を行う。2022年度の当院予定手術患者に対しGLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準で低栄養を評価したところ23%が低栄養であり、AWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)2019でサルコペニアを評価したところ15%がサルコペニアの可能性ありであった。サルコペニアの可能性ありの患者では60%が低栄養を合併していた。このような低栄養とサルコペニアを合併する患者には、入院後すぐに多面的な介入が必要になる。

◆運動療法と栄養療法で食事摂取量が増加

サルコペニア、フレイルには運動や栄養を中心とした非薬物療法が推奨されている。2019年のICFSR(International Conference on Frailty and Sarcopenia Research)の診療ガイドラインでも身体的フレイル高齢者には運動療法や栄養療法などの非薬物療法が推奨されている。運動はレジスタンス運動が強い推奨とされ、栄養療法は体重減少、低栄養が存在する場合に高エネルギー量かつ高たんぱく質の補充が条件付きで推奨されている。サルコペニア高齢者では運動療法と栄養療法の効果が示されている。また、『サルコペニア診療ガイドライン2017年版 一部改訂』でも運動療法単独、栄養療法単独より栄養療法と運動療法の併用が効果的とされている。
高齢者の食事摂取量を増加させる介入としても運動療法と栄養療法は効果的である。栄養療法では患者が好む食事内容への変更、米飯に中鎖脂肪酸(MCT)オイルを加えたり、たんぱく質を付加したりするなどの栄養素強化、経口栄養補助食品の併用、食品多様性の確保、少量頻回摂取などが有効とされている。併せて運動療法を行うことで、食事摂取量が増える。これらの介入により経口摂取量を増やし、エネルギーや栄養素の摂取量を増加させることが重要である。要介護高齢者に対する運動療法と栄養療法の効果を検討したメタ解析では、中等度の運動プログラムや栄養補助食品付加、たんぱく質摂取量増加の介入を行った結果、体重が増加したと報告されている。

◆リハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みも有用

リハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みの効果も報告されている。45~60分の中強度のレジスタンス運動、高エネルギーかつ高たんぱく質の食事、毎日の口腔ケアと週2回の歯科衛生士による口腔管理を行ったところ、体重、BMI、たんぱく質摂取量、全身のバランス能力が増加したと報告されている。
2024年春に『生活期におけるリハビリテーション・栄養・口腔管理の協働に関するケアガイドライン』が発表された。ここでは要介護高齢者への複合的介入として、体重増加を目的とした栄養とリハビリテーションの併用、口腔管理とリハビリテーションの併用、口腔管理と栄養の併用を推奨している。令和6年度診療報酬改定および令和6年度介護報酬改定でリハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みが評価されるようになった。各施設で、患者それぞれに適した栄養管理を実施できるシステム構築が求められている。
その一環として、GLIM基準に基づく低栄養診断が推進されている。そのためには、各施設で栄養管理体制を整え、GLIM基準を用いて低栄養を評価し、必要な患者に適切に介入できるシステムを作らなければならない。まずは、エネルギー摂取量充足を目指す必要がある。その際には多職種連携が有用である。単職種で可能な介入は限られるが、多職種で複合的に介入していくことで効果が得られる。

◆多職種での介入にはリハビリテーション栄養ケアシステムが有効

効果的な多職種介入のためにリハビリテーション栄養ケアプロセスがある。これを用いた、対象者の機能、活動、参加、QOLを高めるリハビリテーション栄養ケアプロセスの実施が重要になる。ゴール設定はなるべくスマートなものが望ましい。多職種で取り組む場合、情報共有の場が大事になる。その場所は病棟の廊下、食事場面などどこでもよい。ただし、様々な職種が集まる場合には、時間と場所を決めて実施することが重要である。
当院では栄養評価フローチャートを作成しており、入院時に看護師がスクリーニングを行い、管理栄養士が総合的なアセスメントをする。ここで介入が必要と判断された患者には、担当管理栄養士による介入、NSTなどの多職種チームでの介入のいずれかが行われる。
当院は急性期病院で各職種とも多忙であるため、カンファレンスは週1回30分程度である。カンファレンスは病棟単位で行われ、看護師、リハビリテーションスタッフ、管理栄養士が参加するほか、必要に応じソーシャルワーカーも加わる。カンファレンスでは現在の治療方針、栄養指導状況、身体機能やADL、入院生活での問題点、退院後の支援の要否などを話し合う。ゴール設定についても、患者が少しでも元の生活に戻れるよう多職種で知恵を出し合っている。

◆多職種によるエネルギー不足への介入が必要

サルコペニア・フレイル患者への栄養管理ではサルコペニア、フレイルの高リスク患者を早期に発見し、入院中のエネルギー不足を防ぐ必要がある。そのためには、リハビリテーション栄養ケアプロセスによりゴール設定を明確にして多職種で効果的な介入方法を検討することが求められる。
日本リハビリテーション栄養学会では多職種でより良いアウトカムを導くために必要な知識の学習会を企画した。2025年1月に神奈川県で第14回日本リハビリテーション栄養学会学術集会が開催される。その翌日にも診断推論の学習会を予定している。臨床では個々の患者に対する介入に悩む場面も多いと思われる。そこで、要介護高齢者に必要な介入を具体的に記載した本も出版する予定である。これらで学んだ知識を各施設で実践し、その取り組みをエビデンスとして公開することが重要と考えている。

質疑応答

百崎●サルコペニアのハイリスク患者を早期にスクリーニングする必要がある。ただし、全例で筋肉量を測定することは難しい。よいスクリーニング方法はあるか。

上島●低栄養患者はサルコペニアのリスクが高い。そこで、当院では低栄養のスクリーニングを行い、低栄養と診断された患者に下腿周囲長を測定するなどサルコペニアのリスクを評価している。

百崎●低栄養患者では筋肉量や下腿周囲長の測定などサルコペニアの評価を行った方がよいのか。

上島●GLIM基準にも筋肉量の評価が含まれている。令和6年度診療報酬改定でもGLIM基準の使用が推進されている。これをきっかけに筋肉量の評価が広がるとよい。

 

リハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体

演者:若林秀隆東京女子医科大学 リハビリテーション科学講座)

◆リハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みで嚥下機能が改善

『経済財政運営と改革の基本方針2023』ではリハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の連携推進を図るとされ、令和6年度の診療報酬改定および介護報酬改定では多くの評価が新設された。これはリハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理を三位一体の取り組みとしてエビデンスを構築してきた成果と考えている。
要介護高齢者を対象に咬合と嚥下機能、栄養状態、ADLの関連を検討した報告では咬合支持がない患者は嚥下障害、低栄養、ADL低下を来たしやすいことが示された。つまり、嚥下機能、栄養状態、ADLの改善には咬合に対する介入が重要と考えられる。回復期リハビリテーション病棟協会の実態調査から管理栄養士および歯科衛生士の病棟配置と入院中のFIM(Functional Independence Measure)利得、BMIの変化量を検討した報告では、管理栄養士と歯科衛生士がともに配置されている病棟ではFIM利得が高く、BMIも増加していた。リハビリテーションを確実に実施した上での栄養療法と口腔管理の充実は、生活機能や栄養状態の向上をもたらすことが示唆される。この結果は令和6年度診療報酬改定の根拠になっている。
嚥下リハビリテーションを行っている患者を対象に管理栄養士および歯科衛生士の介入と嚥下機能の関連を検討したところ、管理栄養士と歯科衛生士がともに関与した場合では、どちらか1職種のみが介入した場合およびどの職種も介入しない場合より、嚥下機能が改善していた。この結果はリハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みで嚥下機能が改善することを示す。管理栄養士と歯科医師の介入でも同様の検討を行ったが、有意差は認めなかった。つまり、嚥下機能改善には歯科衛生士の介入が特に重要と考えられる。

◆令和6年度診療報酬改定でリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算が新設

これらのエビデンスにより、令和6年度診療報酬改定ではリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算が新設された。ただし、算定要件が細かく、専従の理学療法士による疾患別リハビリテーション料1日につき9単位を超えた算定はできなくなる。多くの施設で算定されることが望ましいが、算定できない施設が出てくる可能性がある。
東京女子医科大学病院でも残念ながらリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算の算定は難しい。当院には理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)は合わせて40人しか配置されておらず、日曜祝日に平日の8割以上の単位を実施という要件を満たせない。また、ADL低下3%未満という要件の設定は、入院中の廃用症候群予防の意図があると思われる。脳腫瘍患者が多い脳外科病棟では、疾患の進行によりADLが低下してしまう。病棟を限定しないとADL低下3%未満を達成できない。栄養と口腔に関する要件については、現状でも満たしていると考えている。
当院では嚥下チームが月曜日の昼に、栄養サポートチーム(NST)が水曜と木曜の午後に活動している。これと別に嚥下リハビリテーション栄養回診チームが週1回、火曜日の昼に活動している。嚥下リハビリテーション栄養回診チームにはリハビリテーション科医師、歯科医師、栄養と漢方に詳しい麻酔科医師のほか、栄養サポートチーム(NST)専門療法士を所持しているPT、ST、看護師が参加し、嚥下障害で栄養障害がある患者を対象に多職種で回診し、カンファレンスを実施し、プランを作る。基本的にはすでにSTが介入している患者を対象としており、リハビリテーション、栄養、口腔をそれぞれ評価し、リハビリテーション栄養ケアプロセスのゴールを決めて、そのゴールに向けてリハビリテーション、栄養、口腔による介入を多職種で検討、実施する。

◆地域包括医療病棟入院料も新設、GLIM基準が要件化

令和6年度診療報酬改定では地域包括医療病棟入院料も新設された。この病棟はリハビリテーション、栄養、口腔病棟とも捉えられる。要件は常勤のPT、OT、STの2名以上配置、専任の管理栄養士の1名以上配置とされており、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算より厳格になっている。この要件を満たせば1日につき3,050点を算定できる。
また、回復期リハビリテーション病棟入院料1においてはGLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準の使用が要件化された。回復期リハビリテーション病棟入院料1および2では口腔管理を行うために必要な体制整備が施設基準とされた。GLIM基準はリハビリテーション実施計画書にも記載することとされている。次回の診療報酬改定では、おそらく全ての病棟でGLIM基準を用いた栄養診断を行う方向になると思われる。現段階から各施設でGLIM基準を使った栄養診断を開始し、それぞれの施設に適した栄養診断のアプローチ方法を考えておく必要がある。
回復期の医科歯科連携では回復期等口腔機能管理計画策定料、回復期等口腔機能管理料、回復期等専門的口腔衛生処置が新設されたが、すべて歯科での算定とされている。つまり、メリットを得られるのは歯科を標榜している回復期リハビリテーション病棟のみである。それでも、回復期の医科歯科連携の推進という観点で、これらの評価の新設は意味がある。
また、令和6年度介護報酬改定でもリハビリテーションマネジメント加算(ハ)が新設された。これにより、リハビリテーション、口腔、栄養の情報の関係職種間での共有によって、リハビリテーションマネジメント加算(ロ)に比べ約200単位多く算定できる。

◆リハビリテーション科医師によるリハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みのコーディネートが重要

令和6年度診療報酬改定ではリハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みが評価された。つまり、各職種が連携して実施する必要がある。少なくともリハビリテーションから見た栄養、栄養から見たリハビリテーションという双方向性の取り組みが求められる。栄養から見た口腔、口腔から見た栄養、リハビリテーションから見た口腔、口腔から見たリハビリテーションなどの双方向性も求められる。
この点で、リハビリテーション科医師がリハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みにおけるコーディネーターになるべきと考える。リハビリテーション科医師は既にコーディネーターとなっているリハビリテーションに加えて、栄養と口腔に関して専門家ではなくてもコーディネートする立場になることが望ましい。リハビリテーション科医師ができない場合は、看護師がコーディネーターを務めるとよい。施設によっては他科の医師、PT、OT、ST、管理栄養士、歯科医師、歯科衛生士がコーディネーターになる場合もあると考えられる。

◆リハビリテーション領域による栄養、口腔のゴール設定がリハビリテーション栄養ケアプロセスの質を向上

リハビリテーション、栄養、口腔に関する質の高いマネジメント実施はリハビリテーション栄養ケアプロセスを回すことが重要である。そこで、2023年に栄養管理とリハビリテーションのサイクルを分離した簡易版のリハビリテーション栄養ケアプロセスを作成した。
リハビリテーションのサイクルでは国際生活機能分類(ICF)で評価して、サルコペニア診断を行い、リハビリテーションゴールを設定した上、介入してモニタリングする。栄養管理では栄養アセスメントで栄養リスクをスクリーニングし、GLIM基準で栄養診断を行って肥満や過栄養を評価し、体重を指標に栄養のゴールを設定し、栄養介入をモニタリングしていく。口腔管理に関しても同様にマネジメントサイクルを回していく。
しかし、リハビリテーション栄養ケアプロセスでは、リハビリテーションと栄養管理が統合されたサイクルを回すこととされていた。そこで、診断とゴール設定だけはリハビリテーション、栄養管理、口腔管理で共有すべきと考える。低栄養や過栄養の診断、体重のゴール設定、口腔状態の診断、口腔のゴール設定をリハビリテーション領域が把握した上で、サルコペニアの診断やリハビリテーションゴールの設定を行い、介入のモニタリング評価もリハビリテーション領域で行っていく。これにより質の高いリハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みができると考えている。

◆SGLT2阻害薬使用状況確認も必要

リハビリテーション栄養診断推論では食欲低下、体重減少、サルコペニアの原因をそれぞれ診断することが特に重要である。食欲低下と体重減少に関しては薬剤による影響、抑うつ状態、悪液質を全ての患者で見逃さず、可能な介入を実施する必要がある。しかし実臨床では抑うつ状態でさえ見落とされていることがままあり、薬剤による影響と悪液質はさらに見逃されている。
体重減少の原因となる薬剤は多いが、特にSGLT2阻害薬の使用状況は全患者で確認するべきである。SGLT2阻害薬は糖尿病、慢性心不全、透析していない慢性腎臓病(CKD)患者で多く使われている。SGLT2は1日300kcalの糖を尿中に排出する作用があり、臓器保護効果が認められている。しかし、食事摂取量が少ない患者や痩せの患者への使用はサルコペニアやフレイルを悪化させる恐れがあり、メリットとデメリットを考えて使い分けする必要がある。SGLT2阻害薬の使用状況によって栄養管理やリハビリテーションも変えなければならない。
SGLT2阻害薬などリハビリテーションの現場で注意すべき薬剤に関しては医歯薬出版(株)刊の『PT・OT・STのためのリハビリテーション薬剤生活機能をより高める“リハ薬剤”』にまとめられている。PT、OT、STだけでなく、リハビリテーション科医師やリハビリテーションに関わる各職種に見ていただきたい。

◆サルコペニア患者の一部は悪液質を合併

悪液質(カヘキシア)に関しても見逃されていることが多い。回復期リハビリテーション病棟患者のうち約1割は悪液質と考えられる。2023年にはAWGC(Asian Working Group for Cachexia)でアジアの悪液質・カヘキシアのコンセンサス論文が発表された。この中で悪液質は「体重減少、炎症状態、食欲不振に関連した慢性疾患に伴う代謝不均衡」と定義されている。
悪液質の原因疾患はがん、慢性臓器不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、関節リウマチ、膠原病、制御できていない慢性感染症などである。これらの原因疾患がない患者であれば悪液質ではない。他方、これらの疾患があれば、悪液質の可能性がある。悪液質の診断基準としては病因となる原因疾患に加え、3~6か月で2%を超える体重減少もしくはBMI21未満のどちらかに該当することが必要条件となる。体重減少やBMIのカットオフはプレカヘキシアを発見するため、厳しめに設定されている。その上で食欲不振、握力低下、0.5mg/dlを超えるCRP値のいずれか1項目に該当した場合を悪液質と診断する。
サルコペニアの嚥下障害の患者のうち36%が悪液質と報告されている。悪液質がない患者の死亡率は2%だが、悪液質患者では死亡率は15%に上り、生命予後にも関連する。悪液質のアウトカムとしては、死亡、QOL、機能が重要である。悪液質患者は、急性期病院はもちろん回復期リハビリテーション病棟や生活期でも存在する。低栄養、サルコペニアの患者ではその原因の1つとして悪液質の評価も必要である。

◆体重を指標にした栄養のゴール設定が必要

栄養のゴール設定は体重を指標にするとよい。リハビリテーションのゴールを設定する際に、体重のゴールも同時に設定していただきたい。体重のゴールには健常時の体重、現体重、患者が思うベスト体重、医療従事者が考える患者の生活機能を最大限に高める体重などが考えられる。患者と話し合って、これらのゴールから決めると良い。患者が思うベスト体重をゴールとする場合も多い。この体重のゴールは長期的なゴールとなる。
現実的な1か月の体重増減の設定は、体重増加で1~3kg、体重減少では1~5kgである。回復期リハビリテーション病棟では急性期病院入院中に体重が75kgから50kgまで減少した30代のワレンベルグ症候群患者を経験した。エネルギー摂取量を2,800kcal/日とし、59kgまで体重が回復した。患者は65kgまで増やしたいと希望しており、これを目標としている。また、肥満で1か月に約5kgの体重減少に成功した患者も経験した。この患者は5か月で24kg減量し、杖と短下肢装具で歩けるようになった。
体重のゴールが決まれば、1日あたりのエネルギー摂取量を決められる。現在、当院では少ない患者で600kcal/日、多い患者では3,100kcal/日としている。特に回復期リハビリテーション病棟では1,200~2,000kcal/日のようなおざなりな栄養管理を行うべきではない。日本リハビリテーション栄養学会では『リハビリテーション栄養における栄養・体重のゴール設定 日本リハビリテーション栄養学会によるポジションペーパー』を発表している。これを体重のゴール設定の参考にしていただきたい。

◆熊本県は医科歯科連携の先進地

回復期領域の医科歯科連携では熊本県で先進的な取り組みが行われている。2024年に『第5次熊本県歯科保健医療計画』が策定され、回復期における医科歯科連携の現状と課題をまとめている。2017年に策定された『第4次熊本県歯科保健医療計画』では歯科医師会と連携している回復期リハビリテーション病棟について、6施設から20施設への増加を目標とした。これは2023年までに達成されている。
熊本県の医科歯科病診連携システムでは回復期リハビリテーション病棟から熊本県歯科医師会の病診連携窓口に往診を依頼すると、郡市歯科医師会経由で歯科医師へ要請が伝わり、要請を受諾した歯科医師が回復期リハリハビリテーション病棟に往診する。さらに、退院後も歯科医師が一貫して訪問診療を継続する。つまり、入院中から退院後まで歯科医師会と回復期リハビリテーション病棟が連携する体制が確立されている。このような体制が拡大すれば、リハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みがより普及すると考えている。
日本リハビリテーション病院・施設協会の医科歯科連携推進委員会では『リハビリテーション病院・施設に勤務する歯科衛生士のためのテキスト』を作成した。これは歯科衛生士向けになっているが、リハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みに関する学びができる内容になっている。このテキストは協会ホームページに掲載されており、無料でダウンロードできる。
https://www.rehakyoh.jp/info/2022/10/10878.html

◆リハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組み拡大が課題

リハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みは国策となり、令和6年度診療報酬改定および令和6年度介護報酬改定にも反映された。リハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みが当たり前の時代になったと言える。この三位一体の取り組みが各施設で進むことを望む。

 

質疑応答

フロア●リハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みは口腔ケアで誤嚥性肺炎を予防し、入院中の廃用症候群を避けるというイメージがあったが、咬合を保つことで嚥下機能が改善し、ADLが向上したというお話があった。回復期リハビリテーション病棟に歯科医師が往診する際に咬合の調整も行われているのか。

若林●口腔ケアはもちろん重要であるが、口腔への介入により咀嚼機能を高め、嚥下機能が改善され、食事摂取量増加やADL維持につながる。義歯の調整も重要であり、できれば補綴が専門の歯科医師に依頼するとよい。

フロア●回復期リハビリテーション病棟入院料1の算定にはGLIM基準による低栄養評価が必須となった。回復期リハビリテーション病棟には様々な患者が入院している。GLIM基準ではスクリーニングを行うが、脳卒中患者、高齢者など患者タイプごとにスクリーニングツールを使い分けする必要があるか。それとも1種類のスクリーニングツールに統一した方がよいのか。

若林●1種類のスクリーニングツールで全患者を評価する方がよいと考える。MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)は体重減少、低BMI、急性疾患とGLIM基準にも含まれる項目で評価するため有用と考える。MUSTでスクリーニングし、低栄養の恐れがある場合、GLIM基準で診断する方法をお勧めしたい。

 

 

総合討論

フロア●フレイルはサルコペニアと異なり、身体的な問題だけではなく、認知面、心理面の問題も原因となる。社会的な問題により、身体的フレイルになっている場合も多い。経済的な問題でも介入が変わる。介入内容を決める際にどのような評価を行えばよいか。

藤原●社会的フレイルは一定程度存在している。社会的フレイルは独居、他者との交流、社会参加の有無などで評価すると定義されている。現段階ではこの定義を用いて、社会的フレイルのリスクを評価した上で介入することが望ましい。ただし、社会的フレイルは個別性が高い要素である。身体的フレイルに繋がる社会的な問題をスクリーニングした上で、抽出された問題を詳しく評価する過程が必要になる。回復期リハビリテーション病棟ではソーシャルワーカーを中心に社会的フレイルのリスクを評価していると考える。しかし、詳しく聴取していくと、ソーシャルワーカーからの情報では見えなかった社会的な問題が明らかになってくる場合もある。現在の生活背景やライフサイクルが活動性に繋がることもある。これらの状況を含めて把握する必要がある。

百崎●フレイルの原因に関するアセスメントでスタンダードとなる方法はあるのか。

藤原●サルコペニア、フレイル、ポリファーマシーは必ず評価すべきである。社会面、心理面、認知面の問題で身体的フレイルになっている患者もいる。したがって、包括的に評価する必要がある。現状では高齢者総合機能評価(CGA)の使用が現実的と思われる。

フロア●回復期リハビリテーション病棟を退院した患者に対する訪問栄養指導は重要である。しかし、栄養サポート資源は地域によって異なり、どの地域でも訪問栄養指導を実施できるわけではない。この点を踏まえた栄養サポート方法について考えを伺いたい。

藤原●リハビリテーションに関しては、介護保険によってまだ地域差は残るものの、一定の水準を満たせるようになってきた。しかし、栄養ケアステーションなど地域の栄養サポートの必要性は高いが、連携体制が確立していない。地域ぐるみでリハビリテーションから栄養まで広い領域で介入できる体制が必要と考える。

上島●患者の退院後は入院中のように迅速な栄養サポートができない。例えば、要介護認定が得られないものの、退院直後で栄養状態が低下している患者に対する介入が、制度上できないという問題が指摘されている。

フロア●若林先生から熊本県では医科歯科連携が進んでいるというお話があった。令和6年度診療報酬改定で回復期の医科歯科連携の評価が新設され、回復期リハビリテーション病棟においてもアプローチしやすくなっている。各地域で医科歯科連携を進めていく上で、個別に歯科医師と連携すればよいのか、それとも広く連携体制を構築した方がよいのか、お考えを伺いたい。リハビリテーション科医師として、どのような連携が必要になるのか合わせて伺いたい。

若林●歯科標榜がなく、歯科医師、歯科衛生士が所属していない回復期リハビリテーション病棟では、近隣の歯科医師が往診し、その歯科医師だけ連携するケースが少なくない。ただし、その歯科医師が回復期リハビリテーション病棟から退院した患者全員を往診してくれば問題ないが、実際は難しい。この場合、入院中だけの介入となってしまう。したがって、1人の歯科医師だけが往診するスタイルではなく、歯科医師会を通して複数の歯科医師が往診する体制の構築が望ましい。これにより、退院後の往診についても、患者の自宅付近の歯科医師や元々のかかりつけといった選択肢から、患者と相談して決めることができる。入院中だけで介入が終わらない仕組みが重要である。

百崎●退院後のフォローもできる体制となると、組織ぐるみの体制作りが必要になるか。

若林●その点では各都道府県の歯科医師会に相談することがよい。リハビリテーション病棟から歯科医師会に熊本県の事例を伝えつつ、このような体制を構築して欲しいと希望すればよい。

フロア●介護施設でのリハビリテーション栄養については、エビデンスが十分でない現状がある。管理栄養士としてリハビリテーション栄養を研究する場合、どのようなテーマに注目すべきか伺いたい。

上島●介護施設の現場では多職種連携が進んでいるが、妥当性があるスクリーニングツールや評価ツールの使用は少ない印象を受けた。令和6年度診療報酬改定ではGLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準基準の使用が推進された。これをきっかけにエビデンスが確立されたツールを用いた評価を行い、そのデータを蓄積して、エビデンスとして出せるとよいと考える。

若林●回復期を中心に、口腔状態が悪い場合はリハビリテーションのアウトカムが悪化し、栄養状態が悪い場合もリハビリテーションのアウトカムが悪化するといったエビデンスが確立された。現在は口腔状態と栄養状態がともに悪い場合はさらにリハビリテーションのアウトカムが悪化する、口腔状態と栄養状態がともに改善するとより生活機能が改善するといったエビデンスが求められている。リハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みに関するエビデンスが必要である。

百崎●リハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みという観点から現在の臨床で力を入れるべきポイントを伺いたい。

藤原●GLIM基準による低栄養診断、AWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)2019によるサルコペニアの診断は普及してきた。ただし、その原因を診断推論する過程を多職種チームで意識付けていくことが必要になる。そのためには、リハビリテーション栄養ケアプロセスという形でPDCAサイクルを実施する必要がある。これをリハビリテーション科医師が中心となって進めてほしい。その際には理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)も重要な役割を担っている。この点でも多職種連携のシステム作りが必要となる。

上島●令和6年度診療報酬改定にあたっては多職種連携が重要とされ、リハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みに関する評価が新設された。急性期病院では手術など単価の高い介入が注目されてきた。しかし、高齢患者には多職種連携によるケアが必要になる。ただし、多職種連携は多くの時間を必要とするため、手がかかって上手くいかない施設もある。しかし、多職種連携に関する診療報酬が新設され、スポットが当たってきた。NTT東日本関東病院でもこれを機に多職種連携を深め、患者の予後改善という形で還元したい。急性期病院では管理栄養士が病棟にいないことも多いと思うが、本シンポジウムの内容をフィードバックし、協力体制を築いてほしい。

若林●リハビリテーション領域では臨床推論、診断推論、ゴール設定は当たり前に行われているが、栄養領域や口腔領域では普及していない。例えば、栄養領域では栄養が足りないため栄養剤を追加して栄養投与量を増やす、口腔領域では口の中が汚れているため口腔ケアで清潔にするなどの考え方が主流である。リハビリテーション領域が主導して、栄養領域や口腔領域に臨床推論を啓発し、ゴール設定を共有することが重要である。これを行わない場合、リハビリテーション領域、栄養領域、口腔領域が連携せず、バラバラに介入することになってしまう。まずは、リハビリテーション領域のスタッフが管理栄養士や歯科医師、歯科衛生士に対して診断推論、ゴール設定に関する質問することで、リハビリテーション医療・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みが広がる。

1●本シンポジウムではサルコペニア、フレイルには低栄養が合併しやすく、栄養状態に関して多面的な評価と介入が必要であることが分かった。また、サルコペニア、フレイルに対する診療においては、原因を含めた診断推論が重要であることが示された。リハビリテーション栄養・栄養管理・口腔管理の三位一体の取り組みがサルコペニア、フレイルに対する診療の質を高めることも明らかになった。これの組み合わせに関しては、さらなる研究が必要と考えられる。これを本シンポジウムの提言としたい。

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