第11回日本時間栄養学会学術大会|シンポジウム1 異なる周期の栄養学について考える

2025.06.03フレイル・サルコペニア

シンポジウム1
異なる周期の栄養学について考える

座長:安尾 しのぶ(九州大学大学院農学研究院

発表の要点

  • 明治大学農学部の中村孝博先生は、地球上の生物は惑星運動がもたらす周期性の影響を受けており、よく知られている例として約24時間周期のサーカディアンリズム(概日リズム)を紹介した。さらに、女性では約28日周期の月経周期がみられるが、げっ歯類の性周期は4~5日周期で、種によって相違があると説明した。げっ歯類では体内時計によって活動にサーカディアンリズムがみられるが、メスでは性周期によって活動リズムが変化する。その変化にはエストロゲンやプロゲステロンに関わっている、とした。また、女性でも月経周期のステージによって睡眠覚醒リズムの変化が認められ、このようなリズムの乱れが月経前症候群(PMS)の原因になっている可能性があると指摘した。
  • 北海道大学獣医学研究院の坪田敏男先生は、クマにおける冬眠などの季節性の周期を例にその生態と生理を紹介した。クマは冬眠時の体温降下が小さく、中途覚醒がないなど、他の冬眠を行う動物とは異なる生理の特徴があるとした。さらに、クマは冬眠前にドングリを中心とした大量の炭水化物を摂取し、体脂肪として貯え、冬眠中は脂肪の燃焼をエネルギー源としていること、クマは夏に交尾を行うが、着床は冬眠前まで遅延し、冬眠中に出産するなどユニークな生態を紹介した。
  • 東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院の藤平杏子先生は食欲には様々な要因が影響しており、食行動科学は心理学、生理学、社会学など多彩な領域からそのメカニズムの解明を目指しているとした。さらに、食欲の日内変動として、朝方の食欲不振、夕方の過食が知られており、食欲を増進するグレリンや食欲を抑制するレプチンなどホルモン分泌の日内変動に加え、胃の運動や味覚の日内変動が食欲に影響していることを説明した。また、食欲には季節変動があり、その要因として気温や日照時間の変動、行事など社会的環境の影響が考えられるとした。日内変動や季節変動で減退した食欲を亢進させる介入としては、食事前の温かい飲料の摂取が有効と紹介した。

健常女性における睡眠覚醒リズムの月経周期変動

演者:中村孝博(明治大学農学部)

◆性周期は動物種によって異なる

地球上に住む生物は、惑星運動に基づく様々な周期性にさらされながら生存してきた。その周期性のうち、約24時間周期のサーカディアンリズム(概日リズム)は最も研究が進んでいる。サーカディアンリズムは様々な種の生物において認められる現象である。他にも生物は地球や月の公転といった惑星運動により、多くの周期性を獲得している。しかし、その周期性とサーカディアンリズムを組み合わせた研究はあまり多くない。ヒトでは月経周期は約28日となっているが、こうした性周期は動物種によって異なる。
ヒトの月経周期のステージでは、卵胞期の後に排卵が起き、黄体期、月経期と続く。卵胞期には卵巣の卵胞から女性ホルモンのエストロゲンが大量分泌され、排卵性の黄体形成ホルモン(LH)サージによって排卵が起こる。その後、黄体が形成され、プロゲステロンが分泌される。プロゲステロン分泌の作用により、黄体期が高温期となり、その前後の月経期や卵胞期は低温期になる。排卵時には体温が低下するポイントが存在することも知られている。
月経周期に伴う身体の不調として、月経前症候群(PMS)や月経前不快気分症候群(PMDD)が知られている。PMSは月経前に3~10日間続く精神的あるいは身体的状態を示し、下腹部痛、腹痛、頭痛、怒りっぽくなる、憂鬱などの症状が出て、日常生活に支障をきたす。PMSでも特に精神症状が強い状態をPMDDという。PMSとPMDDを合計した有病率は有月経女性の50~80%とされ、5~8%は社会生活が困難になる中等症と報告されている。この主な原因は、月経周期に伴うエストロゲンやプロゲステロン分泌量の変動だが、その他の原因も考えられ、不明な点が多い。このような身体の不調は女性にとって重要な問題であり、原因の解明、有効な治療法や発症予測の技術開発が急務である。

◆げっ歯類のメスでは性周期に伴い活動リズムが変化

げっ歯類の性周期は発情後期、非発情期、発情前期、発情期という4つのステージに分けられる。膣スメアの細胞の種類は性周期のステージごとに変化するため、膣スメアの細胞を顕微鏡で観察すれはステージが分かる。げっ歯類の場合、性周期のステージは4~5日で回帰する。げっ歯類は不完全性周期動物と呼ばれ、黄体期がない。エストロゲンは発情前期でピークを迎え、その後低下する。発情前期のエストロゲンのピークがポジティブフィードバックとなって、LHサージ分泌を促し、排卵を誘発する。プロゲステロンはエストロゲンのピークから数時間後に分泌されるが、黄体期がないため、すぐに低下する。
マウスに輪回しをさせ、活動リズムを計測すると、夜行性のため夜に活動が多くなり、昼に休息する明暗サイクルに同調したリズムが認められる。恒常暗条件下で同様の計測を行うと、マウス自身の時計周期でフリーランする。マウスは24時間よりも短い周期を持っており、恒常暗条件では活動開始が少しずつ前倒しになる。明暗サイクルに戻すと、リズムは再同調する。
マウスの輪回し活動はオスとメスで大きな違いが見られる。発情前期には、エストロゲンの作用によって活動が亢進し、位相が前進する変化が認められる。オスは明暗サイクルに同調して、恒常暗条件でフリーランをするが、メスはそのリズムが乱れる。メスのリズムの乱れはホタテ貝の貝殻の模様に似ているため、この現象をスキャロッピングと呼ぶ。
スキャロッピングは4~5日の性周期に伴って活動リズムが変化する現象を指す。卵巣を摘出したメスではスキャロッピングが消失することから、スキャロッピングには卵巣ステロイドホルモンが関与していると考えられる。また、エストロゲンを慢性投与したところ、活動リズム周期の短縮と活動の亢進が認められた。この効果はプロゲステロンによって抑制されることも分かっている。

◆末梢組織にも分子時計が存在

哺乳類の概日時計中枢は脳の視床下部にある視交叉上核(SCN)に存在する。SCNには約2万個のニューロンが存在し、その1つ1つの細胞の中に時計遺伝子の転写翻訳フィードバックループが組み込まれている。この細胞中の時計を細胞時計ないしは分子時計と呼ぶ。SCNで発現する時計遺伝子は正確なリズムを刻むとされる。マウスを用いて4時間おきに時計遺伝子Per2のmRNAを定量したところ、明暗が切り替わる時間帯にピークを迎える日内リズムが認められた。
時計遺伝子Per2の下流にホタル発光ルシフェラーゼ遺伝子を導入したマウス(PER2::LUCマウス)を用いた研究では、組織培養下でリズムを測定することができる。この動物を用いた結果から、末梢組織でも正確なリズムが刻まれることがわかり、SCNを破壊したマウスでも同様にリズムが認められた。つまりSCNは各末梢組織の分子時計に時刻情報を送り、生理や行動のリズムを生み出すと考えられる。この特徴から個体の体内時計の構成はオーケストラに例えられる。

◆性周期は時計中枢であるSCNには影響しないが、子宮の分子時計には影響する

げっ歯類を用いて、時計中枢や末梢組織の分子時計に対する性周期の作用を検討した。ラットの膣スメアを採取し、性周期のステージを決定する。その後4時間おきにサンプリングして、SCNの時計遺伝子発現リズムを比較した結果、発情後期と発情前期で大きな変化は認められなかった。すなわち性周期は、時計中枢に影響しないと考えられる。
続いて、性周期が末梢組織の分子時計に及ぼす影響を検討した。同様にラットを用い、膣スメアで性周期を決定し、ステージごとに生殖器では卵巣、子宮を、非生殖器では肝臓をサンプリングして、リアルタイムPCR法でPer2発現リズムを比較した。その結果、卵巣ではリズムのピークや振幅が変わるなど大きな変化が認められ、子宮では卵巣よりもその変化が大きくなっていた。しかし、肝臓では大きな変化は認められなかった。これらの結果から、性周期は末梢組織の分子時計に影響し、とくに生殖器における末梢組織の分子時計での作用が大きいことが分かった。
さらに、PER2::LUCマウスを用い、性周期ごとにSCN、肝臓、卵巣、子宮のリズムを比較した。発情前期と発情後期ではSCNのリズムに大きな変化は認めなかったが、子宮ではピークが発情前期で前進し、振幅が大きくなっていた。この結果から性周期は子宮の分子時計に作用するが、SCNの時計中枢には影響しないと考えられる。

◆エストロゲンやプロゲステロンが時計遺伝子発現に関与

スキャロッピングの原因は卵巣ステロイドホルモンである。そこで卵巣ステロイドホルモンによる時計中枢や末梢組織の分子時計に対する直接的な作用を検討した。卵巣を摘除したPER2::LUCマウスのSCNと子宮をサンプリングして、エストロゲンを添加した。その結果、SCNでは周期などの変化は認められず、エストロゲンは時計中枢には直接作用しないと考えられる。他方、子宮の分子時計では10nMのエストロゲン添加で変化を認めた。これはエストロゲンが子宮の分子時計に影響することを示唆する。
プロゲステロンでも同様の検討を行った。ヒト乳がん由来細胞株であるMCF-7を用い、エストロゲンないしはプロゲステロンを一過性に添加し、時計遺伝子の発現を検討したところ、プロゲステロンは濃度依存的にPer1発現レベルを上昇させることが分かった。これらの効果は、アンタゴニストの投与によって低下していた。プロゲステロンはリズム周期には影響しないが、一過性の時計遺伝子発現リズムの変化を誘導すると考えられる。
げっ歯類ではスキャロッピングという性周期によって活動リズムが変化する現象が認められる。遺伝子発現レベルの検討では、性周期は末梢組織の分子時計に影響するが、中枢時計には影響しないことが分かった。すなわち卵巣ステロイドホルモンは、組織によって分子時計への効果が違う。この効果の違いはおそらくエストロゲンやプロゲステロンの受容体分布が組織によって異なるために起きると考えている。

◆ヒトでも卵胞期にリズムが強くなる

PMSの症状が強い女性の一部では睡眠覚醒リズムの変動が認められるとの報告がある。そこで、げっ歯類で認められるスキャロッピングがヒトの健常女性でも認められるか検討した。20~25歳の健常女性10名を対象にスマートウォッチを用い、アプリと連動させて1年間にわたり睡眠時間や睡眠深度を測定した。さらに、毎日基礎体温を測定、記録した。排卵検査薬を用いて排卵日を決定し、月経の期間を記録した。ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)やミュンヘンクロノタイプ質問票を用いて、睡眠の質やクロノタイプ、社会的時差ボケの評価を行った。月経ステージは排卵日前を卵胞期、排卵日後を黄体期、月経時を月経期とし、卵胞期と黄体期は2つに分けて、それぞれ卵胞期1および卵胞期2、黄体期1および黄体期2とした。
対象は大学生であり、就寝時間や起床時間のばらつきが大きく、10名中8名の睡眠アクトグラムは不安定型であった。安定型とされた2名でも起床時間はそろっていたが、就寝時間はまちまちであった。一般的に睡眠日記による評価では睡眠時間、就寝時間、起床時間が一致する傾向にある。他方、このようなウェアラブルデバイスを用いると、ばらつきを正確に評価できると考えられる。対象者のPSQIスコア、社会的時差ボケの値は既報の女性と同様もしくは若干低値を示した。
それぞれの測定値の相関をリズムの強さを表す指標であるQP値によって検討したところ、睡眠中点とQP 値に負の相関を認めた。睡眠時刻が遅いと睡眠覚醒リズムが弱くなることが分かる。また、月経周期日数と社会的時差ボケおよび基礎体温振幅で正の相関を認めた。この結果から、社会的時差ボケが大きいと月経周期が長くなると言える。
月経周期内の基礎体温変動をプロットしたところ、月経から卵胞期に低く、排卵を挟んで黄体期に高くなっていた。しかし、広く知られている排卵日に顕著に基礎体温が低下する変化は認められなかった。この結果から、基礎体温のみで排卵日を特定する方法はこれまでの報告と同様に難しいと考えられる。
睡眠時間、睡眠中点、QP値の月経周期での変動を検討した。睡眠時間は月経周期による変動はなかった。睡眠中点は黄体期2と比較して卵胞期1で遅くなっていた。QP値は卵胞期で他の期に比べ高くなっていた。これらの結果から、エストロゲン濃度が高くなる卵胞期に睡眠覚醒リズムがより強固となることが分かった。

◆性周期によるホルモン変動が活動リズムを変える

げっ歯類では性周期に伴うホルモン変動で活動リズムが変化するスキャロッピングという現象が古くから知られている。本研究の時計遺伝子発現の検討から、卵巣ステロイドホルモンは中枢と末梢組織で作用が異なることが分かった。さらに、ヒトにおいてウェアラブルデバイスにより睡眠覚醒リズムが取得でき、より正確な睡眠覚醒の評価が可能となった。リズムの評価という観点ではウェアラブルデバイスは有効と考えられる。それを利用し、ヒトで月経周期中に睡眠覚醒リズムの変動が認められた。
ヒトにおいてもスキャロッピングが認められたことから、時計中枢と末梢組織の分子時計の内的脱同調が原因でPMSやPMDDが発症している可能性がある。また、基礎体温と睡眠覚醒リズムのデータを取得することにより、排卵日を正確に予測できるシステムの構築が可能性であると考えている。

質疑応答
フロア●スキャロッピングに時計中枢は関与していないというお話があったが、どのようなメカニズムによって起きているのか。

中村●脳内に卵巣ステロイドホルモン受容性の振動体のようなものが存在し、何らかのメカニズムで関与していると考えている。

フロア●ヒトは月経周期で基礎体温や睡眠覚醒リズムが変わるというお話があったが、これもスキャロッピングと同じメカニズムによるものなのか。それとも別のメカニズムで起きているのか。

中村●通常、ヒトの体温は活動によって上昇する。他方、基礎体温の変動はプロゲステロンの保温効果によって起きている。したがって、基礎体温の変化はスキャロッピングとは異なるメカニズムと考えている。

フロア●睡眠覚醒リズムにおいてQP値はリズムの強さを示すというお話があった。睡眠には就寝時刻、睡眠の深さなど様々な要素がある。QP値は睡眠のどのような要素を評価しているのか。深い睡眠が強くなるなど睡眠の質も評価できる指標なのか。

中村●QP値は睡眠の深さと睡眠時間の安定性を反映しています。睡眠の深さは3段階で測定した。

フロア●時計中枢と末梢組織の分子時計の内的脱同調がPMSやPMDDに影響するというお話があったが、具体的にどのような脱同調が起きているのか。

中村●ステロイドホルモンの体内時計に及ぼす効果は臓器や組織によって異なる。ステロイドホルモンはSCNには作用しないが、生殖器の分子時計には関与する。脳のSCNとは異なる部位に影響を及ぼしている可能性がある。ステロイドホルモンの効果の相違で、体内時計の進み方が組織によって変わってくる。これによって内的脱同調が引き起こされたのではないかと考えている。

フロア●PMSの症状の強さなど個人差の原因は分かっているのか。

中村●個人差についてはまだ分かっておらず、これから検討していきたい。

フロア●個人差との相関関係はまだ検討していないのか。

中村●まだ検討していない。

 

クマ類の不思議な生態と生理

演者:坪田敏男 (北海道大学獣医学研究院)

◆クマの冬眠は中途覚醒がなく、体温降下はわずか

クマは春に冬眠から覚めて野外に出てくる。ただし、春先は餌がほとんどないため、冬眠から覚めた後も痩せ細っていく。夏になるにつれ草本が成長してくると、クマは柔らかい草本から食べ始め、栄養状態を回復する。この頃はクマの交尾期で、オスは発情したメスを探して歩き回る。交尾をしてメスは妊娠をするが、クマは着床遅延があり、冬眠に入る11月末頃まで着床が遅れる。それまでは未着床胚が子宮の中に浮いているような状態で存在する。秋になると、次の冬眠に備えて飽食する。近隣にサケやマスが上がる川があれば、サケやマスを採って栄養を回復していくが、北海道でもサケやマスが上がる川は少ない。一般的には果実類やドングリなど堅果類を食べて体脂肪をつけていく。冬の間はずっと冬眠する。
今から30年以上前、米国で冬眠しているクマを初めてみた。ほとんどのクマは穴の中で冬眠をしているが、たまに地面に寝ているだけで降る雪が積もっても気にしないクマもいた。このように、クマは豊かな個性を持つ。12月は妊娠したクマの胎児が発育している時期となる。1月下旬から2月初めに出産し、山の中では子クマが鳴いている声が聞こえる。
クマの冬眠は長ければ6~7ヵ月続く。他の冬眠性哺乳類と異なり、クマの冬眠は中途覚醒がなく、間断なく眠り続ける。一般的な冬眠性哺乳類は、冬眠時に外気温に近い4~5℃まで体温を下げるが、クマの冬眠時の体温降下は比較的小さい。クマの活動時の体温は37~38℃だが、冬眠中も体温が30℃を下回ることはない。また、クマは冬眠中に一切の摂食、飲水、排泄、排尿がない。冬眠中のクマの尿を採取したところ、膀胱には濃厚な尿が溜まっていた。それを外に排出せずに済むメカニズムを持っていると考えられる。1980年代にはクマの血中の尿素とクレアチニンを測定した報告では、その濃度比が10以下になると冬眠中であるとする報告がされている。

◆冬眠前に体脂肪を増やし、冬眠中は体脂肪を動員してエネルギー源とする

クマは冬眠に備え、体重の30~40%になる体脂肪をつける。動物園などで飼育されているクマでも冬眠に備えて体重が増える。このことから、クマは冬眠に備えて体内の生理機構を質的に変えていると示唆される。また、クマの冬眠中の呼吸商は0.7であり、脂肪だけを使っていることが明らかになっている。冬眠前に摂取する主食はドングリ類であるが、ドングリは脂肪分が多いわけではなく、むしろ炭水化物がほとんどを占めている。つまり、クマは炭水化物を摂取して体脂肪を蓄えるメカニズムを持っている。
実際、体脂肪計でクマの体脂肪を測定したところ、9月頃から冬眠に入るまで体重が増え続けるが、そのほとんどは体脂肪増加によるものと分かった。飼育されているクマで超音波エコーを用いて肝臓を測定したが、脂肪肝にはなっていなかった。冬眠前に死亡したクマの肝臓組織標本でも脂肪肝の兆候は全くない。冬眠前の血中の中性脂肪、総コレステロール、遊離脂肪酸も維持もしくはむしろ低下している。冬眠に入るとこれらの数値は高まる。これは蓄えていた体脂肪を動員して、冬眠中のエネルギー源にしていることを示す。冬眠前の食欲亢進期には血中脂肪濃度が下がるが、体脂肪蓄積モードになっており、少しでも血中に脂肪分があれば体脂肪に蓄える。冬眠に入ると体脂肪の消費モードに切り替わる。
ヒトの場合は体重増加の30~40%が脂肪になるとメタボリックシンドロームとなり、脂肪肝や高脂血症を呈する。クマの場合はこのような症状を示すことなく体重を増やす。このようなクマの脂肪代謝メカニズムがヒトに応用できるのであればメタボリックシンドロームの解決につながる可能性もある。

◆冬眠中に出産し、高脂肪、高たんぱく質の母乳で哺育

一般的な哺乳類では交尾して、速やかに着床が起き、胎児が発育して、出産後、哺育が行われる。しかし、交尾、受精と着床の間に時間的なギャップを持つ動物がいる。これは胚の休眠、着床遅延と呼ばれ、胚盤胞の段階で発育を止めている。クマも初夏に交尾して妊娠するが、着床遅延がある。その時の未着床胚は透明帯の中に細胞塊がある状態で子宮に浮いている。その時、卵巣では黄体が形成され、プロゲステロンが分泌されている。ただし、その濃度は非常に低い。11月下旬に着床が起き、胎児の発育が始まるとプロゲステロン濃度が一気に上昇し、通常の妊娠した状態となる。胎児の発育期間は2ヵ月間で、出産に至る時にはプロゲステロン濃度が下がっている。
クマ以外の着床遅延をする動物ではプロラクチンが着床を促す因子と報告されている。そこでクマの着床を促す因子を検討するため、プロラクチン濃度を測定した。クマでも着床時にプロラクチン濃度が変則的に上がっていたため、おそらくプロラクチンが着床を促進していると考えられる。プロラクチンは日照の変化に応じて変化するホルモンで、夏至の日が最も高くなり、冬至の日が最も低いという周期性を持っている。
11月下旬、冬眠に入る時期に合わせて着床が起こる。その前が狩猟期間となるが、ハンターは「メスのクマを多数撃ったが、妊娠しているクマは見たことがない」という。この時期のクマは妊娠していても着床遅延中で直径0.3mm程度の胚だけが存在しているため、ハンターには妊娠しているとは分からない。クマは初夏に交尾期があり冬眠中の1月頃に出産をするため、見かけ上の妊娠期間は6~7ヵ月であるが、そのうちの4~5ヵ月は着床遅延期間で、最後の2ヵ月が胎児の発育期間になる。出産後の1~2年間は母クマが子クマを連れて行動する。
クマの繁殖イベントの中で交尾だけが冬眠前に行われ、最もエネルギーが必要な部分は冬眠中となる。冬眠をする最も大きな目的はエネルギー節約とされており、この点からは矛盾している。しかし、オオカミに胎児を襲われないように冬眠中に出産するなど、このような進化を必要とする何らかの理由があったと思われる。
出産時は冬眠から覚めるが、出産が終わると冬眠に戻る。子クマは冬も起きており、母クマに哺育される。クマは小さく産んで大きく育てる典型的な動物である。出産が軽く、体脂肪を母乳として直接飲ませることで、効率良く子クマを育てる。クマの母乳成分は高脂肪、高たんぱく質で、クマにしかないオリゴ糖も含まれていることが確認されている。

◆冬眠中には数日から十数日周期で体温と心拍数が上昇

体温と心拍数を測定するデバイスをクマに埋め込んで冬眠中の体温と心拍数を測った。冬眠に入ると体温が下がる。着床が起きると、プロゲステロンの影響で高温になる。2ヵ月で出産に至り、通常の冬眠状態の体温になっていく。心拍数は冬眠に入ると下がり、その後は、ほぼ低い心拍数を維持する。
冬眠前の活動期には、クマの心拍数と体温は24時間周期のリズムを持っている。しかし、冬眠に入ると24時間周期が完全に消失する。冬眠中も時折、心拍数がイレギュラーに上がるが、おそらく胎動の刺激を受けて心拍数が上がるためと考えている。通常の冬眠状態では数日あるいは十数日周期で体温と心拍数が同期している。これは、体温が30度を下回った場合に何らかの産熱が行われるためと思われる。クマの場合は褐色脂肪組織が見つかっておらず、非ふるえ産熱が行われている可能性は非常に低い。ただし、筋肉など他の組織で非ふるえ産熱を行っている可能性はある。今後はこの点の研究を進めていきたい。

質疑応答
フロア●寒冷地である東北地方のツキノワグマが冬眠することはイメージできるが、中国地方のツキノワグマも冬眠するのか。冬眠しないのであれば、冬眠の有無を変える要素は何か。

坪田●現在、日本に生息しているツキノワグマは全て冬眠する。かつては、九州にもツキノワグマが生息していたが、これも冬眠していたと思われる。九州でも山中では冬期に気温が下がり、冬眠する必要があったと考えられる。ただ、台湾にもツキノワグマが生息しているが、冬眠はしない。台湾のように温暖な気候で、1年中餌があれば冬眠しないで済む。つまり、環境要因としては気温の低下よりも餌の有無が冬眠を強く規定していると考えている。

フロア●クマはもともと肉食であったが、冬眠前にはドングリを主食としているというお話があった。冬眠に備えて肥満するには、大量のドングリを摂取する必要がある。冬眠するようになる進化と、植物を摂取して炭水化物からエネルギーを蓄積し始めた進化はどちらが先に起きたのか。

坪田●植物を摂取するようになったことが先と考えている。肉食で、冬も狩りが可能であれば、で餌は確保でき、冬眠しないでもよい。実際、ホッキョクグマは冬もアザラシを狩って餌にできるため、冬眠しない。植物を餌にするようになり、冬の餌が足りなくなって冬眠を獲得したと考えている。

フロア●冬眠前の肥満したクマは脂肪肝ではないというお話があったが、脂肪は皮下脂肪が多いのか。それとも内臓脂肪が多いのか。

坪田●どちらかというと皮下脂肪が多い。内臓脂肪が全くないわけではなく、特に腎臓周囲には脂肪が付いている。それでも皮下脂肪が相当厚くなっており、皮下脂肪の割合が多い。

フロア●一般的に皮下脂肪からの脂肪の動員は難しいと考えられるが、何か特殊なメカニズムがあるのか。

坪田●その点はよく分かっていない。脂肪の血中濃度が上がっていることだけが分かっている。

フロア●褐色脂肪細胞がないというお話があったが、UCP1のような脂肪を燃焼するたんぱく質の発現や白色脂肪細胞の褐色化は起きているのか。

坪田●検討したが、UCP1は見つかっておらず、クマには存在しないと思われる。

フロア●着床遅延でプロラクチンが着床を促され、これにより胎児が発育を始めるというお話があった。その前の桑実胚で成長を止めるサイトカインのようなシグナルが存在するのか。

坪田●桑実胚ではなく、胚盤胞の段階で止まる。そのシグナルはまだ明らかになっていない。今のところ、プロゲステロンが低いことだけが分かっている。

フロア●胚性幹細胞(ES細胞)を樹立する時に、細胞の分化が停止する現象が知られている。このようなES細胞の成長を止めるようなサイトカインが働いているのか。

坪田●その点もまだ報告がなく、明らかになっていない。

フロア●冬眠中はいわゆる睡眠の状態なのか。代謝を止めていることから、脳の機能も停止していると思われる。意識を失っている状態に近いと考えてよいのか。

坪田●冬眠はいわゆる睡眠ではないといわれている。クマで脳波を測った研究はなく、詳しくは分かっていないが、いわゆる睡眠ではないと思われる。

 

食欲のダイナミクス-時間栄養学からみた食欲の日内および季節変動-

演者:藤平杏子(東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院)

◆様々な要因が食行動に影響

食欲は英語でappetiteという。これは願望、食欲を意味する、古フランス語apetit、ラテン語appetitusが語源である。食欲は過食、低栄養、摂食障害など食に関する疾患との関連が強く、1980年には『Appetite』というジャーナルが創刊されるほど注目を集めている。
食欲は食行動科学という学問で研究されることが多い。食にまつわる研究分野として、食品の準備や加工などに関わる食品科学、食品摂取が生体に及ぼす影響について着目した栄養学がある。食行動科学は生体の食物選択の原理について研究する分野であり注目を集めているが、心理学、生理学、社会学が関わる学際的な分野であることから研究エフォートが不足している。
食行動は①エネルギー不足など生理的要因、②食事の習慣などの認知的要因、③空腹でなくても、おいしそうな匂いがすると空腹を感じるといった外部からの物理的・科学的要因、④食事をともにする相手など他者からの影響などの文化的・社会的要因によって複合的に調整されている。

◆朝方は食欲不振、夕方は過食が多い

近年、食行動を調節する要因として時間に着目した報告が増えてきた。朝に空腹感がなく朝食を食べられない人は多い。朝食の摂取は重要とされているが、朝食は昼食や夕食に比べると欠食割合が高い。とくに若年者で朝食の欠食割合が高いことが明らかになっている。この、朝に食欲がわかない現象はMorning anorexia(朝方の食欲不振)と呼ばれている。エネルギー不足から考えると、朝は絶食時間が長く、エネルギー不足状態と考えられる。しかし、朝食は他の食事と比較すると欠食が多い。農林水産省が2018年に行った『食育に対する意識調査』で「朝食を食べるために必要なこと」を聞いたところ、「朝、食欲があること」という回答が最も多かった。つまり、朝食摂取の選択には、朝方の食欲状態が密接に関連している可能性がある。
夕方は朝方よりも空腹が強く過食しやすい時間帯である。これはEvening hyperphagia(夕方の過食)と呼ばれている。近年、過体重や肥満の成人を対象に、クロノタイプに分けて過食状況を比較したところ、夜型傾向の強い男性は朝型に比べ過食しやすく、食物への依存が高いことが報告された。このように、朝方の食欲不振や夕方の過食には時間栄養学的な要素も大きく関わってくる。

◆空腹感の日内変動は概日的周期を持つ

食欲が1日の中で増減する理由として、食事摂取タイミングだけではなく、食欲に内因性のリズムが存在することが考えられる。強制脱同調という時間生物学の手法を用い、空腹感のリズムを検討した報告がある。強制脱同調は体内時計のリズムと生活する時間のリズムをずらす手法を指し、体内リズム由来の現象と生活環境由来の現象を把握できる。対象者に20時間周期で過ごしてもらったところ、起床時間や就寝時間がずれていても空腹感は概日的な日内変動を持っていることが分かった。空腹感の谷は生物学的な8時にあり、ピークは20時にみられた。つまり、空腹感は内因性の日内変動を有していると示唆される。空腹感だけではなく、甘い食べ物や塩辛い食べ物への欲求、見込みの摂取量、肉類や果物など食品に対する食べたいという欲求も同じように8時に谷があり、20時がピークになっていた。吐き気は空腹感とは逆に朝に強く、夕方に低かった。
満腹感についても強制脱同調で検討した報告がある。見込みの摂取量、空腹感、満足感、満腹感の変動を検討したところ、17~21時に空腹感が高く、逆に満腹度が低いことが分かった。深夜から早朝の時間は空腹度が低く、満腹度が高くなるリズムを持っていた。

◆グレリンやレプチンの日内変動が食欲の日内変動に影響

ヒトの食欲調整は中枢以外に末梢組織でも行われている。胃の蠕動は食欲調節のメディエーターになっていることが分かっている。胃からの食物の排出には日内変動がある。胃から食物が排泄される速度は8時に比べ20時で鈍くなる。また、8時と23時の比較でも、23時は8時に比べ胃の排出が遅くなることが分かっている。
その他、脂肪細胞から分泌されるレプチン、消化管から分泌されるペプチドYYやグレリンは摂食を調整する代表的なホルモンである。グレリンでも日内変動が明らかになっている。3食摂取するリズムを有している場合は朝食前にグレリンが上がり、朝食後に低下し、昼食前に上がり、昼食後低下し、夕食前に上がり、夕食後に低下するリズムがある。また、8時と20時で摂食亢進作用の強いアクティブグレリンの分泌を比べると、夕方は朝に比べ分泌が多い。空腹感も夕方に強くなることが分かっている。
摂食を抑制するホルモンのうち、レプチンでは日内変動が確認されている。レプチンは摂食後に上昇するというリズムを持っている。3食摂っている場合、朝はレプチンレベルが低く、夜に向け上昇するリズムがある。ただし、朝食または朝食と昼食を絶食した欠食条件下ではレプチンが上昇しにくく、レプチンレベル上昇のリズムが遅延することも明らかになった。

◆味覚や胃排出速度の日内変動も食欲に影響

食欲には食欲関連ホルモンの変動など生理的な要素だけではなく、味覚など外部刺激も影響する。例えば、甘みの感覚は日内変動を有しているといわれている。濃度の違うショ糖を用意し、甘味を感じる認知閾値を調べる階段法という手法を用いた報告では、朝は甘みの認知閾値が低く、夜は高くなることが分かった。つまり、同じものを食べても朝は甘さを感じやすく、夜は甘さを感じにくい。これは夕方の過食につながる可能性がある。甘さの認知閾値も朝食または昼食に絶食を行うと上昇しにくいとされている。

◆秋や冬は食欲が増進

食欲には季節変動もある。古くから「食欲の秋」「天高く馬肥ゆる秋」といわれているように、秋はおいしい食物が多くなり、食欲を感じやすい人も多いだろう。季節ごとにエネルギー摂取量を比較したメタ解析でも、秋や冬は食事からのエネルギー摂取量が増えると報告されている。反対に夏はエネルギー摂取量が最も低くなる。米国在住者を対象に年間のエネルギー摂取量を調査した報告では、エネルギー摂取量のピークは秋から冬(10月16日から12月15日)にあった。
日本人の大学生を対象とした報告でもエネルギー摂取量が最も多い季節は冬で、夏に谷を迎えるとされている。この報告では栄養素別の摂取量も検討された。冬は脂質の摂取量が増えると思われるが、栄養素摂取量の比率に季節による大きな変化はなく、たんぱく質、脂質、炭水化物の摂取比率は季節間で変動しなかった。
65歳以上の健常高齢者を対象に食欲スコアの季節変動性の検討を行ったところ、食欲スコアに有意な季節変動性は認められなかった。しかし、食欲低下リスクが高い独居の高齢者においては、先行研究と同様に夏に食欲スコアが減って、冬に増える季節変動が明らかになった。

◆食欲の季節変動には社会的要因やレプチンの季節変動が関与

これらの季節変動は日内変動に比べ、関わる要因が多い。まず、季節により気温が異なる。気温の違いは食欲関連ホルモン分泌に影響する。日照時間も変わる。日照時間は食欲関連神経伝達物質のセロトニンの分泌に関わる。日照時間が変わると感情も変化し、食欲の変動に影響を及ぼすと考えられている。季節による身体活動量の違いもある。
社会的な要因としては、冬に行事が固まりやすい地域性を持つ国やエリアで冬にエネルギー摂取量や食欲スコアが増える傾向が見られる。日本でも冬になるとクリスマスや年末年始の行事があり、エネルギー摂取量が高まりやすい。食欲の季節変動には、このような社会的な要因も関わっている。食欲やエネルギー摂取量の季節変動に着目した研究間における結果の差異は、研究対象地域の気候帯や文化的、社会的な背景によって説明されるかもしれない。
一部の対象者では、レプチンも季節変動性を持っていることが報告されている。若年者に関しては有意な差が出てこないが、男性高齢者を対象にした試験では夏にレプチンの分泌が多くなることが分かっている。これが夏の食欲低下をもたらす要因の1つと考えられている。

◆外気温や食事の温度も食欲に影響を及ぼす

秋と冬は食欲が亢進されやすく、反対に夏は食欲の減退が起こりやすい。1年を通して良好な食欲や食事摂取量を保つためには、食欲の季節変動を理解することが重要と考える。減退した食欲を回復させる介入の検討も行っている。そのひとつとして温度に着目した。外気温が食欲に影響を及ぼすことは古くから明らかになっている。外が暑いと食欲は低下し、肌寒い環境に長くいると身体を守ろうとして食欲が増える。実際に、30℃以上の温熱暴露をさせた場合は10℃もしくは20℃の環境に暴露させた場合に比べ、満腹と感じるまでのエネルギー摂取量が低下することが分かっている。
外部環境の温度を変えることは難しい。そこで、内部から温度を変える方法を検討した。高齢者を対象に食事直前に温かい飲料もしくは冷たい飲料を摂取してもらい、胃排出速度を比較した。温かい飲料摂取時は冷たい飲料摂取時に比べ、胃からの排出が速くなる傾向が見られた。空腹感も温かい飲料摂取時に上昇することが分かっている。外部の気温は低い方が食欲を促進するが、内部の温熱刺激では温かい飲料の摂取で食欲が上がりやすいというパラドックスが生じていた。
さらに、食欲の調節という観点で食事の温度に着目した。高齢者を対象に夏に温かい食事を多く摂っている群と冷たい食事を多く摂っている群に分け、食欲スコアを比較した。その結果、温かい食事を多く摂っていた群は冷たい食事を多く摂っていた群に比べ食欲スコアが高く、栄養状態スコアも良好であった。一般的に夏は冷たい食品を多く摂取することで、食欲が減退しやすいと考えられているが、夏は温かい食品の摂取状況が食欲や栄養状態と関連していることが分かった。
近年は食欲の日内変動や季節変動に関する研究が増え、エビデンスが蓄積されつつある。少しずつではあるが、食欲変動の要因となる個人差の同定も進んでいる。時間栄養学が食欲とコラボレーションしていく中で、食欲が増減しやすい季節、時間帯に着目した介入方法、効果検証を進めるとともに、個人がライフスタイルの中で応用しやすい食欲調節方法の提案が求められている。

質疑応答
フロア●食事の温度によって食欲を調節するというお話があった。時間栄養学的には夜の食欲を減らし、朝の食欲を増やしたいが、どのようなアドバイスをすればよいか。

藤平●温度の観点からは温かい飲料より冷たい飲料を摂取すると、その後の過食を抑えられる。若年者を対象に、温かい飲料もしくは冷たい飲料を摂取してもらってから、満腹を感じるまで食べてもらいエネルギー摂取量を比較した報告でも、温かい飲料より冷たい飲料で過食を抑制できることが明らかになっている。これを夕方の過食抑制に応用するためにはさらなる検討が必要ではあるが、食物の温度の面からは冷たい飲料がおすすめできる。

フロア●肥満者は朝食を欠食し、夕食を多量に摂取する場合が多い。外来では「痩せるためにも朝食を食べましょう」と指導しているが、「朝は食欲がないので、朝食は食べられない」と言われる。このような患者への介入を考えた場合、朝にどのような飲み物を摂取してもらえばよいか。甘味の日内変動のお話もあったが、この観点も含めてご教示いただきたい。

藤平●まずは朝食を摂取してもらうことが重要ある。朝食を摂取するとエネルギー摂取量のバランスがよくなる。例えば、朝食、昼食、夕食を摂取した1日3食の条件と、朝食を欠食した1日2食の条件で比較すると、1日3食では1日2食よりも1日の総エネルギー摂取量が少ないと報告されている。肥満患者への介入では、朝食を摂取することが必要である。ただし、朝方は空腹感がないという人がいる。このような場合は、食事の温度による食欲調節を応用して、起床時に温かい飲料を摂取してもらうとよい。飲料の温度による胃の運動性を検討した報告では、温かい飲料の摂取後は一時的に胃の運動が促進されることが分かっている。胃の運動がよくなれば、食事摂取量も増える。近年は白湯が健康によいとして流行しているが、食前に飲料を飲む場合は温度を調整してもらうとよい。朝からたんぱく質や脂質を多く含む重い食事の摂取が難しい場合は、最初はゼリー状の食品、プロテイン飲料など飲みやすいもの、食べやすいものから始め、朝食を食べる習慣をつけてもらうことが重要である。

 

時間栄養学会案内

第12回日本時間栄養学会学術大会
テーマ:時間がつなぐ健康の未来像 ~課題解決への道筋~
会場:東洋大学 赤羽台キャンパス HELSPO HUB-3 (HELSPOホール)
大会長:髙田和子(東洋大学健康スポーツ科学部栄養科学科 教授)

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