第11回日本時間栄養学会学術大会開催 | シンポジウム2 身体活動・運動の1日のタイミングから健康やパフォーマンスを考える

2025.06.26フレイル・サルコペニア

シンポジウム2
身体活動・運動の1日のタイミングから健康やパフォーマンスを考える

座長:永井成美兵庫県立大学 環境人間学部)、吉﨑貴大東洋大学 健康スポーツ科学部

発表の要点

  • 早稲田大学スポーツ科学学術院の岡浩一朗先生は座位時間の長さが健康リスクを高めると指摘し、座位行動の中断や睡眠、身体活動への置き換えでリスクを軽減できることを解説した。さらに、座りすぎのリスクを軽減する昇降デスクの活用など座位行動を中断するための取り組みを紹介した。
  • 県立広島大学地域創生学部の鍛島秀明先生は骨格筋を意識した栄養摂取方法について触れ、高負荷の運動直後は胃排出速度が低下し、栄養素の血液への流入が遅延するとの試験結果を示した。
  • 東海大学健康学部の安田 純先生は効率的に筋肥大を行うためのたんぱく質摂取量は、体重1kgあたり1.6g/日が理想だが、毎食事に体重1kgあたり0.3gの摂食や、とくに朝食でのたんぱく質摂取量確保が有効とした。また、効率的な筋肉合成には3時間おきのたんぱく質摂取がよいと紹介した。
  • 十文字学園女子大学人間生活学部の村田浩子先生はアスリートへの栄養マネジメント例を示し、朝食が摂れない場合には、クロノタイプの影響が考えられると指摘した。またフラッシュグルコース測定結果から、高強度の運動を行うアスリートでは食事摂取が不十分だと血糖値が低くなる例もあると紹介した。

時間行動学の視座からみた座位行動研究の潮流

演者:岡浩一朗早稲田大学スポーツ科学学術院

◆座位行動時間の長さは健康アウトカムに悪影響を与える

1日の座位時間は睡眠時間より長い。しかし、座位行動の研究は遅れていた。2000年頃から座位行動が注目されはじめ、その後10年間で研究の方法論や用語の定義が整理されてきた。それらが確定した2010年以降に座位行動の研究が大きく進展した。
座位行動という用語からは座っている行動のみがイメージされがちである。しかし、座位行動を表すsentary behaviourという用語の定義では、座位に加え、半臥位や臥位で行われているエネルギー消費量が1.5METs以下の起きている間の全ての行動を指す。身体活動不足(身体活動指針で推奨された身体活動を充足していない状態)とは明確に区別されている。
近年は座りすぎや座りっぱなしが健康に及ぼす影響も指摘されるようになってきた。これらの用語について厳密な定義はないが、座りすぎは1日全体で座ったり横になったりしている時間、すなわち総座位時間が長いこと(too much sitting)と捉えられる。また、座りっぱなしとは一度に連続して座っていたり、横になったりしている時間(prolonged uninterrupted sitting)、すなわち座位行動バウトが長いことを指す。
座位時間の評価は難しい。ただし、テレビ視聴時間はライフスタイル研究の一環として、多くのデータが得られていた。そこで、2000年代前半にはテレビ視聴時間を座位行動の代替指標に用いた研究が盛んに行われてきた。その一つとして、週あたりのテレビ視聴時間と肥満および2型糖尿病の関連を検討した報告がある。その結果、テレビ視聴時間すなわち座位時間が長いほど肥満や2型糖尿病の発症リスクが高まることが明らかになった。テレビ視聴時間と総死亡率の関連も検討されている。テレビ視聴時間が2時間未満群に対し、4時間以上群の死亡リスクは1.46倍になると報告されている。
2010年くらいから、1日の総座位時間に着目した研究が報告されるようになってきた。たとえば、1日総座位時間が4時間未満群に比べ、8時間以上群は約15%、11時間以上群では約40%死亡リスクが高くなるとされている。これらの報告では身体活動時間や量を統計学上調整しており、身体を動かしていても、座位時間が長いと健康アウトカムに悪影響を及ぼすことが重要なポイントである。
世界各国で行われた座位行動と健康アウトカムの関連についての研究データ約130万人分を統合し、1日総座位時間と死亡リスクの関連について検討したメタアナリシスでは、総座位時間が6~8時間あたりから死亡リスクが高くなり、その閾値は8時間であることが示されている。また、座位時間とがん発症リスクの関連についてのアンブレラレビューによると、結腸がん、乳がん、子宮がんでは総座位時間と発症リスクの関連は比較的強く、卵巣がん、直腸がん、前立腺がんでも総座位時間と発症リスクが関連していることが分かった。その他にも心血管疾患、脳卒中、メタボリックシンドローム、糖尿病、過体重・肥満、認知症、うつ病、不安症は総座位時間と有意に関連することがメタアナリシスで明らかになっている。

◆座位行動のブレイクで健康への悪影響を回避

座位行動のブレイクの効果については、大規模な疫学研究では十分に分からないため、実験室条件下での研究が行われている。その一つでは、連続5時間の座位行動(座りっぱなし)と比べて、連続20分の座位行動後に2分間のブレイク(低強度活動と中高強度活動)を行った場合に、食後血糖値とインスリン抵抗性がどのように変化するのかを検討した。その結果、連続5時間の座位行動の場合は食後血糖値、インスリン抵抗性が非常に高い値を示したが、ブレイクを行った場合はその強度にかかわらず食後血糖値やインスリン抵抗性は同程度改善していた。さらに糖代謝動態や血管機能の改善、血圧低下等も他の実験研究により確認されている。つまり、強度を問わず、ブレイクの頻度さえ確保できれば、座りっぱなしの悪影響を回避できる可能性がある。つまり、トイレに行ったり、コーヒーを淹れたりするブレイクでも有効かもしれないのである。
座位行動のブレイク研究についてはメタアナリシスも行われており、30分以上連続した座位行動をできる限り頻繁にブレイクすることで食後血糖値、インスリン抵抗性、中性脂肪といった心血管代謝疾患リスクの低下が期待できると報告されている。

◆世界各国のガイドラインでも座りすぎの是正を推奨

これらのエビデンスをもとに世界保健機関(WHO)は2020年にそれまでの『身体活動に関するガイドライン』を『身体活動・座位行動に関するガイドライン』に改めた。このガイドラインでは「座りっぱなし(座りすぎ)の時間を減らすべきである。座位時間を身体活動(強度は問わない)に置き換えることで健康の効果が得られる」と記述されている。また、「長時間の座りすぎによる健康に及ぼす悪影響を減らすためには、中高度から高強度の身体活動を推奨されるレベル以上に行うことを目標にすべきである」との記載もある。身体活動時間の目標としてWHOは週あたり150分を提唱している。
一方、日本の『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』(以下、ガイド)では身体活動時間の目標を60分としている。『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』は日本における新しい身体活動・運動ガイドラインとして10年ぶりに改定された。これまでのガイドラインは成人、高齢者を対象にしていたが、このガイドでは子どもの推奨事項も加えている。さらに子ども、成人、高齢者の全世代にわたって座位行動が長くなりすぎないように注意することが盛り込まれた。座位行動削減の目標値は示されていないが、座位行動について触れたこと自体が画期的である。これは国を挙げて座りすぎ・座りっぱなし対策を推進していく表れと捉えられる。

◆座位行動は低強度の身体活動と関連

これまでの座位行動の研究は自己報告の座位時間がベースになっている。近年は腰や腕に装着する形の活動量計が開発された。脚部に活動量計を装着すれば座位行動を正確に評価できることも明らかになっている。欧州では装着コンプライアンスの高さから腕時計型の活動量計がよく用いられている。これらの活動量計を同時に装着してもらい、座位時間の評価精度を比較した結果、日本でよく利用されているオムロンヘルスケア社製の加速度計でも精確に座位行動が評価できることが確認できた。自己申告では座位時間を振り返ることが難しく、さらに連続した座位行動バウトや座位行動ブレイクの頻度といった指標を評価することは難しい。しかしながら、加速度計を用いれば、これらの座位行動指標を継続的に記録でき、時間行動学的視点の研究を大きく進展させることが可能になる。
約350名の労働者を対象に1週間にわたり1日約15時間加速度計を装着してもらい、座位行動の日内変動パターンを検討した。座位行動と低強度の身体活動および中高強度の身体活動のパターンを分析したところ、座位行動と低強度の身体活動のパターンが常に相反していた。中高強度身体活動は座位行動との関連は認めなかった。つまり座位行動は低強度の身体活動とのトレードオフで起きている。また、職種や仕事形態を問わず、終業後の夜間に座位行動が増えていた。ただし、夜間の座位行動を減らすことは難しい可能性がある。さらに、時間によって座りすぎの弊害に差があるかも分かっていないため、時間行動学の考え方を応用してこの点を解明する必要がある。

◆週末のみの身体活動も健康を増進

座位行動の週内パターンも注目されている。ある報告では身体活動と座位行動を組合わせて4群に分け、座位行動が多く身体行動が少ない群をCouch potato、座位行動が多く身体活動も多い群をActive couch potato(Sedentary exerciser)、座位行動が少なく身体活動も少ない群をLight mover、座位行動が少なく身体活動も多い群をBusy beeと名付けた。また、身体活動の週内パターンを検討した報告では低強度の身体活動群をInactive、高強度の身体活動を週末に多く行う群をWeekend warrior、週を通じて高強度の身体活動を行う群をRegularly activeとした。
これらの報告では、Active couch potato やWeekend warriorのような身体活動パターンだったとしても、中高強度身体活動が日頃からかなり少ない群に比べ死亡リスクが低いとされている。1週間の身体活動量が同じであれば、Weekend warriorでも毎日身体活動を行っていても健康アウトカムへの影響は変わりがないとする報告もある。しかしながら、座位行動の健康リスクを相殺することはできない点は十分に理解しておく必要がある。
Active couch potato やWeekend warriorは一定程度存在することが分かっている。ただし、このような身体活動や座位行動の週内パターンが健康アウトカムへ及ぼす影響はほとんど分かっていないのが現状である。この点も時間行動学の分野における今後の研究課題と考えられる。

◆座位行動の身体活動や睡眠への置き換えは健康リスクを低減

近年は睡眠も行動として捉え、24時間全体で身体行動を考えるようになってきた。実際、カナダの身体活動ガイドラインは、身体活動、座位行動、睡眠を組み合わせて24時間の身体活動の推奨事項を示している。睡眠は7~9時間確保し、起床時間と就寝時間を一定に保つことを推奨した。座位行動は1日8時間以内、余暇のスクリーンタイムは3時間以内で、座りっぱなしを避け、できる限り頻繁にブレイクするといったように具体的な数値目標を提示している。ある報告によると、成人における24時間身体活動ガイドラインの遵守率は睡眠が約60%、座位行動が約35%、身体活動は約40%、全て遵守している割合は約10%であった。死亡リスクは身体活動が遵守できていると低下し、2項目の遵守でもかなり低いこと(約50%)が明らかになっている。
座位行動を身体活動や睡眠に置き換えた場合の健康リスク低下効果についても検討されるようになってきた。例えば、がん発症率リスクは30分の座位時間を低強度身体活動に置き換えた場合約8%、中高強度身体活動に置き換えると約30%下がると報告されている。中高強度身体活動に置き換えることはなかなか難しい場合が予想されるが、低強度身体活動への置き換えでも十分な効果が認められる点は注目に値する。

◆座りすぎ対策の産業化推進の必要性

オフィス等で昇降デスク(立っても座ってもパソコンを利用することができる机)や座りすぎを知らせるウェアラブルデバイスの開発など、産官学共創による座りすぎ対策に向けた取り組みも行われるようになってきた。窓に吸盤を付けて、テーブルを設置し、窓際で仕事ができるツールの開発なども行われている。さらに、企業が座りすぎを社会課題として捉え、その課題解決に向けた取り組みも散見される。たとえば、ネスレ日本株式会社は、「オフィスワーカーのためのブレイク革命」と題して座りすぎをブレイクすることを推奨している。高齢者に向けた、座りすぎ対策としては、石川県野々市市の老人クラブと自治体の協働で実施された地域ぐるみで座りすぎを減らす「STAND UP 301キャンペーン」などもある。
これまで健康を維持するためには運動が重要といわれてきたが、日頃の座位行動が多い人がいきなり運動するような行動変容を促すことは難しい。まずは「立つこと」が身体活動を行うゲートウェイ(入口)の行動になると考えている。立つ習慣を身につけ、少しでも身体を動かすような取り組みの産業化が、座りすぎに伴う諸問題の解決を格段に進展させると考えている。働けば働くほど元気で健康になるオフィスを創造することなどに向けて、今後は時間行動学的視点を活かした座位行動研究を進めていきたい。

質疑応答
フロア●座りっぱなしはエネルギー消費量の低下が問題なのか、それとも座位により血流が悪くなることが問題となるのか。

岡●問題の原因はアウトカムに依存する。座位では血流量が低下する。また、筋活動が下肢に起こらないため、糖代謝や脂肪分解酵素の働きが悪くなる。俗に背筋を伸ばす姿勢がよい姿勢といわれている。これは腰痛には有効かもしれないが、鼠径部が詰まり血流にはよくないとも考えられる。つまり、同じ姿勢を続けることがよくない可能性がある。

フロア●臥位で手足を動かしたり、座位で貧乏ゆすりしたりすることも一定の効果があるのか。

岡●意図的にそのような行動を起こして、有効性を検討した報告もある。アメリカの疫学研究では貧乏ゆすりの多さが死亡リスクを減らすことが分かっている。下肢の動きをサポートして貧乏ゆすりを促す機器を開発している会社もある。もはや貧乏ゆすりではなく、健康ゆすりと考えてもよい。

フロア●都市部では電車で通勤するが、地方では自動車で通勤する場合が多い。生活習慣は食行動にも影響する。地方では自動車で座位のまま1~2時間通勤する場合もある。このため肥満も多い。このような生活習慣の相違による座位時間の差はあるか。

岡●座位時間の長さにはあまり関係ないが、座位行動が生じる場面には差があると考えられる。今回は住民基本台帳から無作為に抽出して研究協力してくれた集団が対象のデータを示した。異なる背景の集団で解析すれば、自動車での移動が多い地域で座位時間が長くなるかもしれない。まだ日本での研究は少なく、地域差まで十分明らかにできていない。今後研究を進め、次回の『健康づくりのための身体活動・運動ガイド』改定では座位行動の場面にも踏み込んで提言したいと考える。

 

運動時の栄養摂取のタイミング-消化吸収の視点から考察-

演者:鍛島秀明県立広島大学地域創生学部

◆運動直後の栄養補給は筋肉増進には有用だが、他臓器には有害

運動直後の栄養補給は、グリコーゲンの再充填やたんぱく質の合成促進、分解抑制の観点から、骨格筋には優れたタイミングといわれている。例えば、運動直後に栄養補給すると運動3時間後の栄養補給よりも骨格筋へのグルコース取り込みが多くなるという報告がある。また、骨格筋内のグリコーゲン量は運動のパフォーマンスに直結するとされている。このため、1日に複数の試合を行うスポーツでは、1試合目終了後すぐの栄養補給が推奨されている。
ただし、運動直後の栄養補給は運動に関連しない骨格筋以外の臓器にとっては必ずしも優れたタイミングでない可能性もある。高強度の運動を行うと消化管血流量が減少する。運動終了後もすぐに血流量は回復せず、少し時間をかけて戻ってくる。血流は臓器の機能を支える重要な因子である。血流量が減少しているタイミングで栄養補給をすると消化管に悪影響を及ぼす可能性がある。しかし、この点はブラックボックスになっていた。

◆運動直後の栄養補給は胃内容排出が遅延

そこで、消化管血流量が減少しているタイミングと血流が回復したタイミングで栄養補給を行い、消化吸収の規定要因として胃内容排出速度の変化を検討した。運動終了30分後の栄養補給に比べ、血流量減少のタイミングである運動終了5分後の栄養補給は、胃の排出速度が遅延し、栄養の吸収が遅れるため、血液中の糖やアミノ酸濃度が低下するとの仮説を立てた。この検討で骨格筋の基質における充填と合成の観点から、骨格筋への正の効果と消化管の機能低下という負の効果を考慮して運動後の栄養摂取の望ましいタイミングを再考察したいと考えた。
まず、運動後栄養摂取のタイミングが消化管の血流および胃内容排出に及ぼす影響を明らかにするため、高強度間欠的な運動による検討を行った。成人健常者8名を対象とし、30分間の高強度インターバル運動をしてもらい、糖質・たんぱく質飲料を摂取してもらった。運動を行わずに飲料摂取、運動終了5分後に飲料摂取、運動終了30分後に飲料摂取の3条件で心拍数、消化管血流量、胃内容排出を比較した。心拍数は連続的に測定した。消化管血流量と胃内容排出は運動中を除いて断続的に測定した。
消化管血流量は腹腔動脈と上腸間膜動脈で測定した。腹腔動脈は腹大動脈から分岐し、胃や脾臓、膵臓、肝臓にも血液を供給している。上腸間膜動脈は腹腔動脈より足先側にあり、おもに小腸、膵臓、大腸上部に血液を送っている。これら血管の血流速度を超音波ドプラ法で測定し、血流速度と血管断面積の積から血流量を求めた。
胃内容排出は13C呼気試験法を用いた。超音波プローブを腹部の正中に置くと胃の断面画像を得られる。同じ位置で測定するため、肝臓の左葉と上腸間膜静脈と腹部大動脈をマーカーにした。飲料摂取直後は胃の断面が大きくなるが15分後には小さくなる。胃の断面積は対象者によって異なるため、摂取前面積を0%、摂取直後の面積を100%として相対的な変化を求めた。この値は胃内残量率と呼ばれ、胃内容排出を測定する標準的な方法である核シンチグラフィー法と高い一致性が認められている。
腹腔動脈血流量は運動直後に減少していた。運動終了5分後の飲料摂取は血流が減少しているタイミング、運動終了30分後の飲料摂取は血流減少が回復したタイミングとなる。他方、上腸間膜動脈血流量の減少は少なかった。胃内容排出は運動なしで飲料摂取、運動30分後の飲料摂取に比べ、運動終了5分後の飲料摂取で遅くなっていた。
腹腔動脈血流量が減少したタイミングで飲料を摂取すると、運動なしで飲料を摂取した場合に比べ胃の排出が遅延する。血流量が元に戻ったタイミングで飲料を摂取すると運動なしで飲料を摂取した場合と変わらない速度で胃の排出が起こることが分かった。

 

◆運動直後の栄養摂取で血液中の栄養素濃度上昇も遅延

胃排出速度が運動直後で遅延しているのであれば、血液中への栄養素流入も遅延すると考えられる。そこで、胃内容排出とアミノ酸動態に及ぼす影響を検討した。対象は健常成人11名で約30分間の高強度レジスタンス運動を行い、飲料摂取後120分間安静にしてもらった。運動は大筋群を主体としたトレーニングとし、6セット行う。2セットまでは1RMの50%の負荷で10回、3~5セットは1RMの75%の負荷で10回、最終セットは1RMの75%の負荷で疲労困憊に至るまで行った。胃内容排出は13C呼気試験法で測定した。血液データは血中乳酸、血中グルコース、血中アミノ酸の濃度を飲料摂取60分後まで測定した。胃腸障害の指標として、吐き気もビジュアルアナログスケール(VAS)で測定した。
13C呼気試験法は13C標識化合物として酢酸ナトリウムを用い、400mgの糖質・たんぱく質飲料に添加して溶解したものを摂取してもらった。この飲料が胃から排出され、小腸で吸収されて門脈から肝臓に到達すると肝臓で代謝され、13CO2が血液循環に入り、呼気として排出される。吸収から呼気として排出されるまでの速度は一定と仮定され、呼気の13CO2は胃排出速度によって変わる。13C排出速度が最大になった時の時間(Tmax)を求めた。Tmaxが早くなれば胃の排出速度が速く、遅くなれば胃の排出速度が遅いと解釈できる。
血中乳酸濃度は運動後に15mMを超えており、対象者は疲労困憊していることが分かる。運動終了5分後の飲料摂取はこの状態で行った。運動終了30分後の飲料摂取では血中乳酸濃度が6mMになっている。吐き気は運動終了5分後の飲料摂取では運動なしで飲料摂取に比べて多かった。4名が吐き気を訴え、うち2名は嘔吐していた。13C排出速度のTmaxは、運動終了5分後の飲料摂取において運動なしで飲料摂取に比べて有意に高く、胃排出が遅れていることを示唆する。血中乳酸濃度とTmaxには正の相関を認めた。血中グルコース濃度も運動終了5分後の飲料摂取では、運動なしで飲料摂取および運動終了30分後の飲料摂取に比べ低い。血中アミノ酸の濃度も同じような傾向が認められた。
高強度のレジスタンス運動終了15分後の飲料摂取は胃排出速度が遅くなり、血液中への栄養素流入も遅延することが分かった。吐き気も出てくる。高強度レジスタンス運動後の栄養摂取のタイミングは、消化器系の機能と愁訴、吐き気の観点から運動直後ではなく運動終了30分後がよいと考えられる。ただし、30分は実験上の数値であり、実際はある程度の間隔を空けて摂取すればよいと考えられる。
低・中強度くらいのサイクリング運動でも同様の実験を行った。低・中強度サイクリング運動は心拍数が120bpmに相当し、運動なしで飲料摂取、運動5分後に飲料摂取、運動30分後に飲料摂取で胃排出速度、血中グルコースを比較した。胃排出速度に条件による違いは認められなかった。血中グルコース濃度のTmaxも条件による有意差はなかった。

◆運動直後の消化器系機能低下には交感神経活動やpH低下が関連

運動後の消化器系機能低下は、高強度の運動直後にのみ生じ、30分程度で回復する。高強度の運動直後に胃排出が遅れる原因として交感神経活動の影響が考えられる。ただし、交感神経活動は飲料摂取時に低下するもので、運動とは関連がない。飲料摂取後の寒冷昇圧試験や精神性ストレス試験など交感神経活動を人為的に上げる介入を行うと、胃排出が遅れることが報告されている。本検討では交感神経活動を検討していないが、運動直後は心拍数が高い状態であり、運動終了5分後の飲料摂取は交感神経活動のトーンが高い状態で行われたと考えられる。
pHが影響している可能性もある。マウスでは高負荷運動で血液中のpHが低下し、pHが下がった状態での食餌摂取は胃排出が遅延することが明らかになっている。重曹摂取後に高負荷運動を行うとpH低下が抑制されることも分かっている。重曹摂取後、高負荷運動後の食餌摂取では胃排出速度低下が抑制されていた。本検討ではpHを測定していないが、血中乳酸の濃度は運動終了5分後の飲料摂取と運動終了30分後で異なっていた。おそらく運動終了5分後の飲料摂取ではpHは低いと考えられ、pHが関連している可能性はある。
そこで、ヒトを対象に重曹によるpH低下抑制効果を検討することにした。高強度の間欠的運動前に、小腸で溶解する耐酸性カプセルに入れた重曹を体重1kgあたり0.3g摂取してもらう。運動直後に糖質・たんぱく質飲料を摂取してもらい、胃排出速度を比較した。その結果、重曹摂取後は胃排出速度が速くなっていた。運動前の重曹摂取により、高強度運動で生じる胃内容排出の遅延を抑制、緩和できる可能性がある。
さらに消化管ホルモンが胃排出遅延に関与していることも考えられる。一般的に中強度から高強度の運動を行うと、胃の排出を促進するグレリンが低下し、胃の排出を抑制するGLP-1やペプチドYYが増加すると報告されている。また、乳酸とグレリンの関連も注目されている。例えば、乳酸がグレリンの分泌作用を抑制するという報告がある。

◆運動による胃腸障害は午後に増加

時間と運動パフォーマンスの関連については、午後は午前に比べて有酸素運動、無酸素運動ともにパフォーマンスが高いとされている。時間と消化吸収の関連では、午後は午前に比べ胃内容排出が遅いことが報告されている。胃電図で評価した胃の電気活動の周期性については、胃の収縮周期が午後は午前に比べて遅いことが分かっている。カプセルで測定した小腸の通過時間も午後は午前に比べ遅い。マウスでは糖の吸収に関わるナトリウム-グルコース共輸送体(SGLT)1、グルコース輸送体(GLUT)2、GLUT5の発現が非活動期末期から活動期初期に高くなるという報告がある。つまり、ヒトでいう早朝に発現が促進されている。これらの結果から、運動のパフォーマンスと消化吸収機能はミラーイメージになることが分かる。
運動による胃腸障害が起こりやすい時間を検討した報告では、運動後の口腔から盲腸までの通過時間は午前より午後で長いとされている。また、35℃の暑熱環境下での運動は23℃の常温環境下および10℃の冷温環境下に比べ、運動後の消化吸収機能が悪いという報告もある。さらに、中強度間欠運動後に60℃の糖質・たんぱく質飲料を摂取すると、5℃の糖質・たんぱく質飲料摂取に比べ、胃内容排出速度が速いとも報告されている。
活動筋への基質の充填や合成という正の効果と、消化器系で起こる負の効果の観点を合わせて考えると、高強度運動後の栄養摂取は運動後約30分が望ましい。また、回復期における消化吸収の機能を保つ方法として、運動中および運動後のpH抑制が考えられる。

質疑応答
フロア●糖質・たんぱく質飲料ではなく、100%糖質飲料の場合、胃排出速度は変わるのか。

鍛島●糖質・たんぱく質飲料と糖質100%飲料のエネルギー量をそろえた場合、おそらく糖質・たんぱく質飲料で胃排出速度が遅くなる。

フロア●糖質メインの飲料であれば、運動後30分より早めでも摂取でき、グルコースの回復につながると考えてよいか。

鍛島●今回は実験的に30分にしており、もう少し早く摂取できる対象者もいた。ただし、男性では高負荷の運動となり、その分、消化吸収機能が30分で回復しない場合が多かった。

 

筋肥大を加速!たんぱく質摂取の時間栄養学に基づくアプローチ

演者:安田 純 東海大学健康学部

◆筋量は加齢とともに減少

筋量は筋たんぱく質合成が分解を上回った状態が継続することで増加する。筋力トレーニングは筋肥大を誘導する最大のファクターとされている。筋量は基礎代謝、認知機能、生活習慣病、心理的ストレス耐性と関連するという報告がある。さらに筋力や身体パフォーマンスとも関連する。したがって生活の様々な側面で筋量は重要になる。筋量は25~35歳でピークとなり、45歳以降は徐々に低下していく。これには加齢によるアナボリックレジスタンスが影響している。そこで、筋肥大を意識した筋トレや栄養戦略を考える必要がある。
筋肥大に効果的なたんぱく質摂取を考え、筋トレ後のゴールデンタイムを逃さないように、運動後すぐにプロテインを摂取する人がいる。なかにはプロテインを片手に筋トレしている人もいる。筋肥大とたんぱく質摂取タイミングの関連を検討した報告では、運動直後、運動前後、運動とは直接関係しない就寝前、起床時と様々なタイミングでプロテインを摂取してもらったが、筋肥大に差はなかったとされている。その上で、プロテイン摂取のタイミングではなく、プロテインを摂取したことそのものがたんぱく質摂取量増加をもたらし、筋量が増加したと結論づけた。いわゆるゴールデンタイムは一概に否定できないものの、運動後はインスリン感受性が上がり栄養素の吸収は高くなる一方、胃内容排出遅延をもたらすともいわれており、その効果は定かではない。

 

◆筋肥大には各食事の均等なたんぱく質摂取が重要

筋肥大に対するたんぱく質摂取の時間栄養学を考える上で3つのポイントがある。筋肥大には体重1kgあたり1.6g/日のたんぱく質摂取が必要となる。この数値はカナダからの報告で示されているほか、厚生労働省の食事摂取基準で18歳以上、身体活動レベル3で必要とされるたんぱく質摂取量も類似した値になっている。つまり、体重1kgあたり1.6g/日というたんぱく質摂取量は、ある程度の妥当性があると考えられる。
食事ごとのたんぱく質摂取量は朝食、昼食、夕食のいずれも体重1kgあたり0.3g/日が望ましい。とくに朝食でのたんぱく質摂取が重要である。毎日朝食、昼食、夕食の3食を摂取すると1年間で1,095回の食事を摂ることになる。この食事が身体を構築している。したがって、それぞれの食事におけるたんぱく質の摂り方で筋肉の質や量が決まってくる。
性別、年齢、国を問わず、たんぱく質摂取量は夕食に偏っている。アスリートでも同様の傾向がある。筋肉の合成を最大化するたんぱく質摂取量は体重1kgあたり0.3gとされている。これより多くのたんぱく質を摂取しても筋肉の合成にはつながらない。夕食に偏ったたんぱく質摂取パターンは、筋肉の合成という観点では非効率である。

 

◆朝食へのたんぱく質付加で筋量が増加

カナダでも朝食でのたんぱく質摂取が不足していると報告されている。朝食は欠食が多い、朝は食欲が湧かない、朝は多忙などその理由は様々である。これらの理由で朝食内容はバラつきやすい。これも朝食のたんぱく質摂取量低下につながる。
そこで朝食にたんぱく質を付加する介入を行い、筋肥大に対する効果を検討した。若年健常者26名を対象に、夕食に偏ったたんぱく質摂取群と3食均等なたんぱく質摂取群に分けた。3食均等なたんぱく質摂取を実現するため、朝食にプロテインサプリメントを追加で摂取してもらった。1日のたんぱく質摂取量は両群ともに同量とした。この条件で筋トレを週3回、12週間実施してもらった。その後、二重エックス線吸収法(DXA)を用いて除脂肪量を測定し、筋肉量を評価した。たんぱく質均等摂取群は夕食に偏ったたんぱく質摂取群に比べ、筋肉量の増加が多かった。この結果はたんぱく質の摂り方が筋肉量の増加に違いをもたらし、とくに朝食でのたんぱく質確保が重要であることを示唆する。

 

◆筋肥大には3時間ごとのたんぱく質摂取が有効

たんぱく質を摂取すると、消化吸収されて、血流を介して筋肉に移動する。筋合成は筋肉へのアミノ酸流入によって起きる。血中にアミノ酸を注入し、筋合成を評価した報告がある。その結果、アミノ酸注入により筋合成は促進されるが、アミノ酸注入3時間以降は筋合成がベースラインまで低下したことが明らかになった。この結果から、筋合成は継続して促進できないことを示す。
運動後のたんぱく質摂取パターンを、40gのたんぱく質を6時間ごとに2回摂取する多量群、20gのたんぱく質を3時間ごとに4回摂取する中量群、10gのたんぱく質を1.5時間ごとに8回摂取する少量群に分けて筋合成を比較した報告では、中量群で最も筋合成が高かったことが示された。つまり、たんぱく質摂取は適量かつ3時間ごとの摂取タイミングが筋合成を最も促進すると考えられる。
筋トレを行う時間は生活スタイルによって様々である。なかでも夕方に筋トレを行う夕方派が最も多いと考えられる。夕方派の生活パターンとしては、6時に起床して朝食を摂取、12時ごろに昼食を摂取し、仕事もしくは学校が終わった18時ごろに筋トレを行い、その後に夕食を摂取して就寝する。夕方派で3時間ごとのたんぱく質摂取タイミングを考慮すると、朝食と昼食の間、昼食と夕食の間、就寝前の3回たんぱく質を摂取すると筋合成が促進すると考えられる。
筋トレ直後のたんぱく質摂取は、筋合成が低下する絶食時間を短くして筋合成を促進する観点では合理的である。ただし、夕食のたんぱく質摂取による筋合成促進効果を減弱する可能性がある。プロテイン摂取はその直後の食事に影響するという報告もある。筋肥大を目指す場合、運動直後のたんぱく質摂取は避けた方がよいかもしれない。ただし、減量したい場合は、運動直後にプロテインを摂取して、戦略的に夕食の食事量を減らすことも考えられる。
また、睡眠の質が下がると筋合成が低下するとの報告もある。就寝前のたんぱく質摂取で就寝中の尿意などにより睡眠の質が下がるとも考えられる。就寝前にたんぱく質を摂取しても良質な睡眠が確保できる場合はよいが、睡眠の質が下がるのであれば行わない方がよい。
朝に筋トレを行う朝型派モデルもいる。朝型派モデルでは早朝に起床し、筋トレをしてから朝食を摂取し、その後の生活を送っていく。この場合も運動直後のプロテイン摂取は朝食への影響を考えると避けることが望ましい。
アスリートでは1日に複数回筋トレを行うスプリット派が多い。スプリット派では朝方、夕方にトレーニングや筋トレが入る。スプリット派でも運動直後のたんぱく質摂取は避けた方がよいと考えられる。

◆体重1kgあたり1.6g/日のたんぱく質を各食事で均等に摂取することが重要

筋肥大に対する時間栄養学的なたんぱく質摂取のタイミングを考えると、各食事で体重1kgあたり0.3gのたんぱく質を摂取すること、3時間ごとにたんぱく質を摂取することが望ましい。ただし、総たんぱく質摂取量が体重1kgあたり1.6g/日以上確保できていれば、各食事のたんぱく質摂取量やたんぱく質の摂取タイミングはそれほど影響しないとする報告も出てきた。この点は今後、エビデンスを確立するべき分野である。

 

アスリートに対するスポーツ栄養マネジメントへの時間栄養学の活用

演者:村田浩子十文字学園女子大学人間生活学部

◆スクリーニングで目的を明確にしてから栄養マネジメントを実施

公認スポーツ栄養士としてアスリートにスポーツ栄養マネジメントを行う際に、時間栄養学の観点が有用である。アスリートに対する栄養マネジメントでは、まず所属するチームの目標を確認する。その上で、誰をどのような目的でスポーツ栄養のマネジメントの対象とするのかのスクリーニングを行う。同時に目的が減量や増量の場合には、なぜそれが必要なのかを指導者に確認する。
チームとの相談を通じて、アスリートを守ることも公認スポーツ栄養士の重要な役割である。場合によっては、指導者に「これ以上の減量は難しい」「増量させるとメタボリックシンドロームのリスクが生じる」などと伝えることもある。さらに、対象となったアスリートに対し、減量あるいは増量の目的を明確にする。例えば、増量する場合、脂肪も増えて良いのか、筋肉だけを増やす増量なのかなどを確認する。
目的が明確になったら栄養アセスメントを行う。この段階で身体計測を実施するが、二重エネルギーX線吸収法(DXA)などはできないため、周径囲や皮下脂肪厚などの測定のように、スポーツ現場でできる測定方法に限られる。減量、増量を問わず体重を変えることは安易にはできない。そこで、生活時間や食事や栄養摂取の状況、トレーニング内容や量など必要な栄養アセスメントを行い、目的達成のために問題点を抽出する。例えば、ローイング選手では朝の練習は乗艇することが多いが、強度や距離は場合により異なる。午後に行うことが多い筋トレは、強度は高いが時間的には短いことが多い。最近では早朝練習の頻度が多いアスリートに対してクロノタイプも調べている。クロノタイプの評価は妥当性が十分に検証されている朝型夜型質問票(MEQ)スコア※を用いている。

 

◆クロノタイプで朝練前の栄養摂取不足問題への解決方法を考える例も多い

栄養アセスメント結果をもとに、栄養問題の原因を明らかにしていく。現在、関わっているチームはいずれも競技力が高く、早朝練習がある。ローイング選手の場合、朝の練習は、4時30分から行われることもあり、その場合3時30分頃起床となる。冬で授業がない場合には7時過ぎに練習開始となるなど、季節変動が大きい。現在担当しているスポーツ栄養マネジメントの対象者は高校生か大学生で、授業があり、課題の提出や宿題もある。増量が必要な選手は、朝食摂取が重要だと理解しているが、食べることができないか、できても習慣化しないことが多い。その原因をともに考えると、「朝は食欲がない」「起きられない」とアスリート本人だけでなく指導者も困っていることが多い。クロノタイプを評価すると、中間型が多く、朝型は少ない傾向がある。夜は遅い時間帯まで起きていられるが、早い時刻に起床できず、食欲もなく、練習前に食事がとれないというアスリートもしばしばみられる。
冬にMEQスコアを評価していたアスリートを対象に、夏にもMEQスコアを評価し、季節変動を検討した。夏は早朝練習があり、朝型が増えると考えたが、逆に中間型に移行している例もあった。クロノタイプの季節変動には個人差があると考えられる。
早朝練習があるアスリートは練習前に食事を摂り、練習後にも食事を摂取するなど食事摂取状況が複雑になる。現在アスリート用の食物摂取頻度調査が開発されており、妥当性も証明されている。このアスリート用の食物摂取頻度調査で栄養摂取状況を確認し、クロノタイプとの関連を検討した。対象チームのクロノタイプはほぼ中間型で、朝型は1名しかおらず、関連は確認できなかった。今のところクロノタイプによる栄養摂取量の傾向を推測することは難しい。ただし、個別事例では夜型クロノタイプにより栄養摂取が少ないことを説明できる場合もある。
あるアスリートはMEQスコア73で明らかに朝型であった。生活習慣調査では冬の7時30分から始まる練習に合わせて、6時頃に起床し、朝食を摂って練習に参加するというパターンが分かった。MEQスコア57の中間型のアスリートでも朝型のアスリートと同様の生活パターンだが、朝食は練習前と練習後に分けて摂っていた。
MEQスコア37のほぼ夜型のアスリートは早朝練習に合わせられず、生活パターンに合わせて練習メニューや時間を変えていた。大規模な大会がない時期の練習メニューは個人に任されており、生活パターンに合わせた練習が可能であった。このアスリートには、「クロノタイプがほぼ夜型なので、夜は頑張れるけど、朝は起きられなくなっているかもしれない」という説明をした。なぜ自分だけ寝坊しがちなのかの理由が分かったと安心したようで、夜更かしを得意にせず、早めに就寝することが必要だと自らの気づきで生活習慣の改善を試みていた。その後、MEQスコアは少し中間型にシフトし、朝食の量も少なめだが増やすことができた。競技力も全国レベルに向上した。
若いアスリートではトレーニング日とオフ日で生活パターンが大きく異なり、オフ日の前日は就寝時間が遅くなるという報告がされている。オフ日は就寝時間が長く、栄養摂取状況も悪くなる。このようなデータもアスリートに伝え、気付きのきっかけにしている。

 

◆夜間にアルバイトをする場合はアルバイト前に夕食を摂取

私が所属している大学のサッカー部の練習は早朝練習だけである。自宅通学で、3時30分頃に起床して4時頃に食事を摂り、6時頃に大学に集まり、7時から練習する選手も多い。したがって、睡眠不足や朝食欠食が慢性化している部員も見られ、毎年、新入生の中でも同様のケースが散見される。
指導者から練習日にアルバイトをしており、疲労回復しないまま翌日の練習に参加することがあるという話を聞いた。調査をすると、練習日に夜間のアルバイトをしているのは、朝型クロノタイプでない部員が多かった。練習日に夜間アルバイトをすると、アルバイト後に夕食を食べようとする。しかし、練習時間は早朝に設定されている。「夕食の時間はアルバイト前にしたほうが良いと思う」とチームの学生を通じて注意喚起してもらった。また、夜のアルバイトはできるだけ早めに切り上げること、夜遅くまで勉強しなくてよいように計画的に行うことも伝えてもらった。

 

◆練習後の栄養摂取が不十分な場合、高強度運動が翌朝の血糖値の低下をもたらす可能性あり

近年は女性アスリートの栄養摂取の不足が問題になっている。エネルギー不足状態が月経状況を悪化させることもある。無月経歴はないものの月経周期異常がある女性アスリートに対してスポーツ栄養マネジメントを行ったところ、MEQスコアは60であったが、「朝の食欲がない」という。食物摂取頻度調査では、総エネルギー摂取量は確保されているが、早朝練習の前後で摂取できていない。この場合、低血糖を起こしている可能性がある。そこで、フラッシュグルコースで継続的に血糖値をモニタリングした。早朝に高強度で長めの時間の練習を行い、授業終了後に高強度の筋トレを行ってから夕食を摂った日の場合、運動中や食後に血糖値が上昇していた。翌日はオフ日で「遅くまで寝ていた」というが、夜間の就寝時に血糖値の低下が起きていた。
アスリートは体内の糖をエネルギー源として高強度の運動をしている。とくに強度が高い運動を行った日は十分な食事を摂取する必要がある。このアスリートは早朝練習前にヨーグルトとバナナで約150kcal摂取し、練習後は150kcal程度のカステラとオレンジジュースのみ摂ったという。夕食は約1,000kcal摂取していたが、体内に貯蔵されている糖が十分に回復できなかったと考えられる。このような状況が続き、慢性的にエネルギー不足が起きている可能性もある。

◆クロノタイプやフラッシュグルコースを活用しながらスポーツ栄養マネジメントを実施

アスリートごとに生活時間や栄養摂取状況の個人差は大きいが、栄養アセスメントを行うと問題にクロノタイプが関わっている例が散見される。アスリートに対するスポーツ栄養マネジメントにおいて、MEQスコアの評価は行動変容のきっかけや気づきを与えることがある。女性アスリートではエネルギー摂取不足が課題となっているが、フラッシュグルコースなどの良いモニタリングツールが出てきた。これらを用いた評価の有用性も検討していきたい。

※MEQスコアは16-86の範囲で41以下は夜型、59以上は朝型、42-58は中間型となる。

 

時間栄養学会案内

第12回日本時間栄養学会学術大会
テーマ:時間がつなぐ健康の未来像 ~課題解決への道筋~
会場:東洋大学 赤羽台キャンパス HELSPO HUB-3 (HELSPOホール)
大会長:髙田和子(東洋大学健康スポーツ科学部栄養科学科 教授)

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