年会長インタビュー|第27回日本心不全学会学術集会の開催にあたって
2023.09.05リハビリテーション栄養第27回日本心不全学会学術集会が2023年10月6日(金)から8日(日)の3日間、神奈川県横浜市西区の『パシフィコ横浜 ノース』で開かれる。
今回は直前インタビューとして、会長を務める吉村道博先生(東京慈恵会医科大学 内科学講座 循環器内科 主任教授)に心不全治療の在り方や日本心不全学会学術集会の意義などを伺った。
吉村道博先生
第27回日本心不全学会学術集会 会長/東京慈恵会医科大学 内科学講座 循環器内科 主任教授
【開催概要】
学会名: 第27回日本心不全学会学術集会
テーマ: 臓器連関 全身から診る心不全
会 期: 2023年10月6日(金)〜8日(日)
会 場: パシフィコ横浜 ノース
〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-2
会 長: 吉村道博( 東京慈恵会医科大学 内科学講座 循環器内科 主任教授)
大会事務局: 東京慈恵会医科大学 内科学講座 循環器内科
〒105-8461 東京都港区西新橋3-25-8
運営事務局: 株式会社コングレ
〒103-8276 東京都中央区日本橋3-10-5 オンワードパークビルディング
TEL:03-3510-3701
心不全への関心の高まりを受けて、1996年に日本心不全学会設立
心不全という病態は古くからありますが、1990年代になると、大規模臨床試験による薬剤のエビデンスが蓄積され、神経体液性因子理論に基づく心不全の発症増悪機序も解明されるなど心不全の研究が大きく進みました。この時期には、心不全に対する関心は高まり、米国心不全学会やヨーロッパ心臓病学会心不全部会が設立されています。こうした動きに呼応し、日本でも1996年に日本心不全学会が設立され、1997年10月には第1回日本心不全学会総会・学術集会が『京都宝ヶ池国際会議場』で開催されました。当時の会員は約900人でしたが、現在の会員は約4500人まで増えました。医学の世界では縮小傾向にある学会が多い中で、今も拡大を続ける稀有な学会です。
日本心不全学会は心不全と関連する分野の研究発表の場を提供し、知識や情報の交換を行うことにより心不全に関する研究を推進すること、医療従事者だけでなく市民に対しても心不全に関する啓蒙活動を行うことを目的としています。日本では世界でも類を見ない超高齢化社会を迎え、心不全も増加してきました。急速な心不全の増加は心不全パンデミックとも呼ばれ、その対策が急務となっています。
2018年には脳卒中・循環器病対策基本法が制定され、心不全が対策を要する重要疾患とされるなど、社会的にも心不全対策が重視されるようになってきました。循環器領域での心不全治療の重要性も高まっており、日本心不全学会へ多大な期待が寄せられています。こうした中、2023年10月6日(金)から8日(日)までの3日間、第27回日本心不全学会学術集会を『パシフィコ横浜ノース』にて開催することとなりました。
ANP・BNPなどの研究を通じ、臓器連関の重要性を認識
今回のテーマは『臓器連関 全身から診る心不全』です。心不全領域の研究は1984年に宮崎医科大学(現・宮崎大学医学部)におられた松尾壽之先生と寒川賢治先生らにより、心房性(A型)ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の構造が解明され、新しい時代を迎えました。その後、心臓・血管系において内分泌代謝にかかわる研究が大きく発展し、現在、これらの研究の成果はバイオマーカーや薬剤として応用されています。
私も当時の宮崎医科大学で学び、4年生の時にANPの講義を拝聴しました。新設まもない宮崎医科大学には全国から優秀な人材が集結しており、新しい時代を作っていこうという気概に満ちあふれていたことを学生の私でも強く感じました。
卒業後は、泰江弘文先生が主宰されていた熊本大学循環器内科に入局しました。泰江先生は京都大学医学部の内分泌内科ご出身で、新設の循環器内科教授として熊本大学に赴任されたのです。大学院生だった私はANPや脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を中心にホルモンの研究を続けました。当時、熊本大学と京都大学の研究者は大学の垣根を越えて強く連携し、ANPやBNPの基礎研究と臨床研究を急速に進めていました。そのため私は京都大学におられた中尾一和教授にもご指導いただき、貴重な経験を積むことができました。そして、泰江先生や第二代教授 小川久雄先生のご指導も賜り、幸いにも東京慈恵会医科大学に主任教授として赴任することができました。東京慈恵会医科大学には建学の精神として「病気を診ずして 病人を診よ」を掲げています。この言葉は、病んでいる「臓器」のみを診るのではなく、病に苦しむ患者さんに向き合い、患者さんそのものを診ることの大切さを表しています。
臨床と研究、教育を分ける考え方もありますが、私は臨床と研究と教育は不可分のものと考えています。臨床で患者さんをしっかり診た経験から得られる疑問や着想をもとに研究し、論文にまとめることで、臨床医として確実に成長します。私も泰江先生から「一生懸命患者さんを診て、疑問に感じたことをテーマにしてしっかりと研究し、全部論文にしなさい」と指導されたものです。研究を進めるほど、同時に診療の質も上がり、患者さんの満足度は確実に上がります。
そしてそれを見ている学生のモチベーションも上がり、次世代の人材育成に繋がります。大学病院の医師にとっては研究も臨床も教育も三位一体。これが大原則と考えます。
ベテランの医師であれば、患者さんの全身の何らかの変化を見て直感的に心不全の悪化に気づくことも多いでしょう。その判断の根拠は興味深い研究テーマだと思いますし、そこに重要なヒントが隠されていると考えます。心不全領域では近年、新たな作用機序の薬剤が複数登場するなど、薬物治療が大きく進歩してきました。ただ、薬物治療に対しネガティブなイメージを持つ患者さんもいることなどから、必要な患者さんに十分に投与されていない現実があり、残念に思っています。科学的根拠に基づき、自信を持って、患者さんのために正しい判断を下せる医師を今後
も育成していかねばなりません。
心不全を深く理解するためには、心筋細胞を分子レベルで細かくみていくことは大事ですが、一方で一歩引いて全身から心臓を診るということも必要です。私自身はANP・BNPをはじめとしたホルモンの研究を続けるうちに、臓器連関の重要性を認識するようになりました。そこで今回は、臓器連関に注目して心不全を考え、全身から診ることを目指してテーマを決定いたしました。
多職種が参加するプログラムを多数実施
心不全は再発が多いという特徴があります。再入院を繰り返すたびにADLが低下するため、再入院の抑制は重要な課題になっています。そのためには急性期の治療だけでなく、慢性期の管理が重要です。心不全患者に対するきめ細やかなフォローが予後を改善するエビデンスが出てきましたが、急性期病院の医師は多忙で、これ以上の対応は難しい状況になっています。働き方改革を背景に、医師の負担を減らす必要性も叫ばれています。
そもそも、医師は患者さんの症状を診て、病態を考え、適切な薬剤の処方はできますが、その薬剤が確実に服用されているのか、どのような食事をしているのか、家族と同居しているのか独居なのかなど患者さんの生活については詳細に把握できません。この点では患者さんにより密接にかかわる看護師などコメディカルの力が必要です。
また、心不全の再発予防にはこれまで以上に多職種連携、地域連携が求められています。特にリハビリテーションスタッフによる心臓リハビリテーション、管理栄養士による栄養指導、薬剤師や介護スタッフによる服薬管理は重要です。在宅の高齢心不全患者さんでは週1回、地域でサポートしてもらうだけでも、予後は大きく変わります。
そこで、日本心不全学会でもチーム医療の推進と医療専門職の教育・研修を進めており、日本循環器学会と共同で心不全療養指導士の認定も行っています。前述の通り心不全治療ではコメディカルの力が不可欠で、近年はハートチームが普及し、学会でも先進的な事例が多数報告されています。ハートチームは、多職種が緊密に連携し、頻回のカンファレンスで協議を行い、患者さんの治療に当たるイメージをお持ちの方もおられると思います。もちろんそういった形を実現できればそれに越したことはありません。
しかし、そんなに余裕も時間もスペースもない施設もあるでしょう。無理に完全なハートチームを目指さなくても、すでにある制度を利用して、動ける職種が連携して心不全患者さんのサポートをすれば、それもハートチームです。学会などの発表から自施設でできる部分を探して実現することも今後の心不全治療で必要な取り組みと考えます。医師だけでなくコメディカルも参加するセッションを数多く設けますので、多職種の先生にご参加いただきたいと考えています。
例えば、「ハートチームシンポジウム」では、様々な症例報告のほか、心不全の栄養管理の課題や心臓リハビリテーションの最前線の取り組み、心不全療養指導士の活動など、最新の話題について深く議論していただけることを期待しています。特に、栄養は、心不全に限らず医療において周辺的な要素と認識されてきましたが、本来は医療の核心を担う重要なテーマです。そしてご承知の通り、近年、学術的にも解明が進んできています。
日本心不全学会学術集会ではコメディカルの発表が年々増えています。今回も職種の壁を越えてなるべくフラットに、忌憚なく議論していただきたいと考えています。
なお、チーム医療に焦点を当てたセッション以外にも、日進月歩の心不全の研究領域を取り上げた最新の知見に触れられるセッションを多数予定しています。おおいに刺激を受けていただけるテーマを取り上げますので、期待してください。
会場での活発な議論に期待
コロナ禍でオンライン開催の学術集会が増えましたが、顔を合わせたコミュニケーションにはネットでは決して得られない大きな価値があることを、皆様も実感されていることと思います。そこで今回は、会期後のオンデマンド配信を一部プログラムで行うのみとし、会場参加を基本としました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響がまだ残っていますので、全員懇親会は開催しませんが、学術集会では会場に集まっていただき、闊達な議論を行っていただければ幸いです。ある有名な特別ゲストも出演されますので、ぜひ奮ってご参加ください。