第29回日本フードファクター学会学術集会 開催 基調講演 食品の精密栄養学 Part2
2025.12.29腸内細菌基調講演 食品の精密栄養学

座長:庄司俊彦(農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門)
- 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門の荒木理沙先生は大麦に含まれる(1,3/1,4)-β-グルカン摂取による上気道感染症改善効果の検討結
果を紹介し、体調不良、鼻づまり、くしゃみなどの大麦摂取による体調スコア改善は、NK細胞活性改善が関連していると解説した。
農研機構の食品機能性研究の取り組みと今後の展望
演者:荒木理沙(農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門)
◆農林水産物の食品機能性研究を実施
農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は食料、農業、農村に関する研究開発を行う機関である。本部はつくば市にあり、北は北海道から南は沖縄まで全国各地に研究部門や研究センターを置き、各地域の特性を活かした研究を行っている。
食品機能性研究では、農林水産物に含まれる機能性成分の観察、新たな機能性を発見する分析、ヒト介入試験による有効性検証やメカニズムの解明、機能性成分を高含有する品種の育成、機能性成分を高める栽培条件の検討を行い、農林水産物の高付加価値化を目指している。機能性表示食品関連では、農林水産物の研究レビューや『地域農産物の機能性表示のための手引書』をWebサイトで公開し、機能性表示食品届出を行う事業者に有益な情報提供を行っている。また、大学や公的研究機関、企業と連携した農林水産省の委託プロジェクト研究などを通じて、機能性食品に関する研究を進めている。
◆(1,3/1,4)-β-グルカンの上気道感染症改善効果を検証
その一環としてβ-グルカンについて研究を行った。β-グルカンは酵母やキノコ、穀類に含まれる水溶性の食物繊維で、その由来によって様々な構造を持つ。(1,3/1,6)-β-グルカンはキノコや酵母に含まれるβ-グルカンで、主に免疫に関連する機能性が示されている。大麦などに含まれる(1,3/1,4)-β-グルカンでも様々な機能性が示されているが、糖脂質代謝や排便促進に対する効果が中心であり、免疫に関する報告は少ない。
上気道感染症に対するβ-グルカン摂取の効果については、数多く報告されている。例えば、精神的ストレスが中等度の女性に(1,3/1,6)-β-グルカンを摂取させたところ、上気道感染症の有症日数が短縮したとする報告、精神的ストレスに晒されている人や激しい運動をしている人を対象にした(1,3/1,6)-β-グルカン、β-1,3-グルカンを含むユーグレナの摂取で上気道感染症の症状改善や有症日数短縮がみられたとする報告がある。しかし、( 1,3/1,4)-β-グルカンについてはヒトにおける上気道感染症改善効果の報告はなかった。
そこで、(1,3/1,4)-β-グルカンによる上気道感染症改善効果を検討することとした。主要評価項目は体調やストレスに関するアンケート調査、副次評価項目はナチュラルキラー(NK)細胞活性とした。試験期間は8週間とし、大麦群と白米群に分けて介入した。調理条件の統一や試験参加者の負担軽減のため、試験食品の形態はレトルト食品とし、大麦群にはゆでたもち麦を、白米群には白米米飯を1日1食摂取してもらった。この試験で使用した大麦製品は「食後の血糖値の上昇を穏やかにする」表示をした機能性表示食品である。1食に含まれるβ-グルカンの量は1.8 gであり、長期摂取による腸内環境等の改善が期待される3 gに満たないことから、若干効果が弱い可能性はあるが、食べやすさなどを考慮してこの製品を用いた。なお、使用されているもち麦の「ダイシモチ」は、現在の農研機構西日本農業研究センターが育種して品種登録したもので、β-グルカン含有率は約6%程度である。
試験期間の最初と最後に各種測定を行った。体調の記録に関してはウィスコンシン上気道症状調査票を用いた。これは体調不良、急性上気道炎などいわゆる風邪症候群の症状と、それに関連する健康関連のQOLを0~7の8段階でスコア化する評価法である。これをオンラインシステムで毎日データ収集し、登録漏れや疑義事項が発生したらすぐに解消することとした。この試験は新型コロナウイルス感染症の影響が大きい時期に実施しており、なるべく非対面で行うため、郵送検査キットも取り入れた試験デザインとした。
◆大麦摂取で体調やNK細胞活性が改善
大麦群では白米群に比べ、介入前後の体調不良、鼻づまり、くしゃみの体調スコアが有意に改善していた。介入期間中のくしゃみや疲労感の有症日数は、大麦群で白米群に比べて少なかった。服薬が必要な程度の体調不良の発生頻度も、大麦群で白米群より少なかった。介入前後のNK細胞活性変化量は、全対象では大麦群が対照群に比べて上昇傾向にあった。対象集団を介入開始前のNK細胞活性の中央値で2分し、低値群と高値群に分けて検討した場合は、低値群において、白米群に比べて大麦群のNK細胞活性変化量の有意な上昇を認めた。つまり、介入開始前の対象背景によって大麦摂取効果が異なる可能性が考えられる。ネガティブな気分状態を評価するPOMS2(Profile of Mood States 2nd Edition)スコアは、大麦群の介入後で介入前に比べ改善されていた。排便回数も、大麦群の介入後で介入前に比べ増加していた。これらの結果から、体調や気分状態、便通に関し、大麦群でおおむね改善されていることが分かった。
大麦群で認められた体調の変化はNK細胞活性の上昇によるものと想定している。より詳細なメカニズムの解明を目指し、現在は血中のサイトカインや糞便中のマーカーの解析を進めている。排便回数に変化がみられたことから、大麦の摂取によって腸内細菌叢などが変化し、短鎖脂肪酸を介して体調の変化が起きた可能性がある。
ただし、大麦群の体調およびNK細胞活性は、白米群に比べ良好に変化していたが、大麦群の全員の体調やNK細胞活性が良好に変化していたわけではない。つまり、レスポンダーとノンレスポンダーが存在すると思われる。介入前のNK細胞活性、大麦摂取を解析し、体調や免疫機能によい影響を得られた人に共通する因子を特定したいと考えている。また、介入前の食習慣によっても変化が異なる結果が出ている。この点も解析を進めていきたい。
◆機能性農産物をきっかけにした食習慣の改善を目指す
今後の展望として、農産物の機能性表示食品の届出受理に貢献するため、ヒトでの健康効果の科学的根拠創出を目指している。これにより、付加価値の高い機能性農産物の販売、購買を促進し、農業や食品産業を活性化したい。
生活習慣病患者を対象とした栄養相談を行った経験がある。その際、バランスのよい食習慣を指導しても、「そんなことはできない」と言われることもあった。「これは食べ過ぎなので控えましょう」と指導すると、嫌がられることもあった。しかし、「1品でもよいので、少しずつ加えましょう」と指導すると多少は受け入れてもらえる。食事は組み合わせで考える必要はあるとは思うが、食習慣を変えるきっかけとして、機能性農産物を単品で加えるなどの利用ができればと考えている。
質疑応答
フロア●新型コロナウイルス感染症による入院をきっかけに、ダイシモチを食べるようになった。それ以来、風邪を引いておらず、今日お話があった効果はあると考えている。しかし、農研機構のWebサイトによると、ダイシモチの紫色はアントシアニンが含まれているためとされていた。アントシアニンが含まれている影響は無視できるほど小さいと考えてよいのか。
荒木●ダイシモチのアントシアニン含量は、免疫に影響する量をはるかに下回る。今回お話した効果はアントシアニンではなく、βグルカンによるものと考えている。
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