第6回日本在宅医療連合学会大会開催|ワークショップ18 病院から在宅・施設への栄養情報提供 Part2

2025.05.05在宅医療

ワークショップ18 病院から在宅・施設への栄養情報提供 Part2

座長
丸山道生(田無病院
塩野崎淳子(訪問栄養サポートセンター仙台

  • 日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニックの菊谷 武先生は嚥下調整食の名称が施設ごとに異なっていること、ケアマネジャーは食事に関する情報を求めているが十分な情報が提供されていないことなど栄養情報連携の課題を指摘した。加えて、在宅医療では摂食嚥下機能と食形態が一致していない患者が多いという調査結果を示し、摂食嚥下機能の継続した評価と栄養情報連携を踏まえた適切な食形態の提案が必要と訴えた。
  • 合同会社訪問栄養ステーションえんの高橋瑞保先生は訪問看護に同行した管理栄養士による在宅栄養ケアの実態を紹介し、在宅医療では低栄養の患者が多いが、病院やケアマネジャーの在宅栄養ケアに対する認識が低いと述べた。在宅医療における栄養ケアを充実させるためには、在宅医療に携わるスタッフが栄養ケアの必要性に気づき、管理栄養士など適切な職種へ情報を伝えることが必要とした。
  • ディスカッションでは栄養情報提供書に必要な内容や記載方法、栄養情報に基づいた介入の在り方などが議論された。演者やフロアからは「食形態を決定した根拠の記入が重要」「PESに準じた記載への統一が望ましい」「病院と在宅医療の双方向の情報共有が必要」「ケアマネジャーにも分かりやすい食形態を表す共通言語作成が望まれる」などの意見が出された。

在宅療養を支える栄養・口腔の情報共有の重要性

演者:菊谷 武(日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック

◆かかりつけ医と連携して、管理栄養士による居宅療養管理指導を実施

日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニックは大学附属のクリニックで地域医療を学ぶ場として開院した。まずは教員自らが学び、その成果を学生、研修医に伝えていくことを目指している。

当院には開院当初から管理栄養士も所属し、栄養食事指導などを行っている。制度上、歯科医師からの管理栄養士へ直接の指示はできない。そこで、当院は介護支援事業所となり、患者の主治医から居宅療養管理指導の指示をもらう形にしている。これを受けて、当院では摂食嚥下や咀嚼障害によって起きる低栄養や肺炎のリスクに対して栄養食事指導を行う。

患者の病態は様々であり、嚥下障害のみが問題とは限らない。主治医に診察してもらい、情報共有しながら、管理栄養士が栄養食事指導を行う形は望ましいと考えている。今のところ、地域の医師に居宅療養管理指導の指示を依頼して断られたことはない。ただし、外来患者や小児に対する栄養食事指導はサービスになっているのが現状である。

◆施設によって食形態の名称が異なる

摂食嚥下機能に対応した食形態の分類は『日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食学会分類2021』に示されている。歯科医師は患者の摂食嚥下機能で摂取可能な食形態を把握し、『日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食学会分類2021』を参考に患者に指導する。ただし、地域では『日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食学会分類2021』が利用されていない場合も多い。

当院では病院、高齢者入居施設、通所介護施設など食事を提供している136施設を対象とし、利用している食形態の名称を調査した。現在は、『日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食学会分類2021』が使われているが、当時は『日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食学会分類2013』であった。その結果、『日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食学会分類2013』のコード4に相当する食形態の名称は19種類に上ることが明らかになった。

さらに同一の名称であっても『日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食学会分類2013』のコードが異なる場合もあった。例えば、「ミキサー」という名称は『日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食学会分類2013』でコード3相当、コード2-2相当、コード2-1相当に分かれていた。「ご飯」という名称には通常の白飯もあれば、『日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食学会分類2013』でコード4に相当するものもあった。副食では『日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食学会分類2013』のコード4に相当する食形態の名称が70種類に上った。

同じ地域で同じ名称の食形態であっても、物性が異なっている。他の施設に栄養情報を提供する際にも、栄養情報を作成した施設で使われている食形態の名称が使われる。つまり、ある病院から他の施設に「軟菜食を提供」という情報を提供した場合、情報を医提供された施設では「軟菜食」に相当する食形態を考えなくてはならない。

◆ケアマネジャーは食事に関する情報提供を希望

当院ではケアマネジャーを対象に担当する利用者が入院し、退院した際に知りたい情報についても調査した。病院の医師は治療内容や血液検査データなどが必要と考えがちだが、ケアマネジャーが最も知りたい情報は食事に関する情報であった。

栄養情報が地域で求められているにも関わらず、病院から提供される情報は十分ではない。この調査は厚生労働省の事業として実施しており、令和6年度診療報酬改定における医療と介護の栄養情報連携の推進につながったと考えている。

◆在宅医療の患者の食形態は摂食嚥下機能に見合っていない

当院が在宅で診療している213名の患者を対象に摂食嚥下機能をもとに提案した食形態と実際に摂取している食形態を比較した。その結果、両者が合致している患者は32%であり、68%は摂食嚥下機能に見合っていない食形態で摂取していた。

当院ではその相違を評価し、修正を図る。摂食嚥下機能は保持されているが食形態が低い患者もいれば、摂食嚥下機能を超えた食形態になっている患者もいる。この原因として、長期間にわたり摂食嚥下機能の再評価が行われていないことのほか、病院からの栄養情報が伝わっていなかったり、伝わっていても患者や家族が理解できていなかったりする可能性がある。

◆摂食嚥下機能に見合った嚥下調整食は重要だが、患者や家族には不評

摂食嚥下機能評価の重要性が高まっている。摂食嚥下機能に見合っていない食形態を提供して窒息事故を起こすと、訴えられる可能性が高い。通常の医療訴訟の場合、医療機関側が敗訴する確率は20~30%といわれているが、窒息事故の場合50%を超える。敗訴した場合の賠償金は400~4,800万に上る。訴訟リスクを回避するためにも、摂食嚥下機能に見合った食形態で摂取してもらう必要がある。

摂食嚥下機能に見合った食形態の食事を嚥下調整食と呼ぶ。ただし、食形態を決定する要素は咀嚼機能であり、嚥下機能ではない。そこで、咀嚼困難者食という名称が妥当と考えている。咀嚼機能や咽頭機能に合わせた食事の摂取が窒息や誤嚥を予防することは理解されている。しかし、嚥下調整食は患者や家族に嫌われがちである。さらに、嚥下調整食は加水して作られるため、栄養密度が下がり、栄養管理上も不利になる。

◆在宅では病院のような対応ができないため食形態が変化

入院中の食形態と退院後の食形態を比較したところ、退院1週間後には35%の患者で入院中とは異なる食形態になっていた。入院中より高い食形態の患者もいれば、低くなった患者もいた。とろみについても入院中にとろみをつけるよう指導された患者のうち、退院後1週間で19%、2か月で37%がとろみを付けなくなっていた。

食形態が変わると喫食率が下がる。これは患者や家族の無理解も原因となるが、指示された食形態に対応できない問題もある。ここ5~10年で病院や施設はきめ細かい食形態を提供できるようになった。しかし、在宅では病院や施設のような対応は期待できない。これが影響して喫食率が下がる。病院ではほぼ全量摂取していた患者でも、在宅では長期間にわたって十分に摂取できない状況が続く。

病院では栄養サポートチーム(NST)や食支援チームが整備され、嚥下調整食を提供できない施設はなくなった。在宅では食事を作り、提供するのは家族である。病院ではスタッフ間の情報共有で済むが、在宅ではそれぞれの事業所にいるそれぞれの職種が患者を支えているため、情報共有でも大きな課題がある。これにより病院と在宅では摂食状況や栄養状態に差異が生じてしまう。

病院から地域へ情報提供がされれば問題が解決するわけではない。提供された情報が共有され、患者の機能に見合った食形態の食事が提供されなければ意味がない。さらに患者が食べたい食事で、無理なく用意できる範囲の食事を提案することが重要である。令和6年度診療報酬改定で栄養情報連携料が新設された。今後はこの算定を増やし、栄養情報連携を活用することが課題になる。

◆摂食嚥下機能評価の体制充実とその結果に基づいた食形態の情報提供が必要

摂食嚥下障害を有する地域在住高齢者の食形態は、摂食嚥下機能と乖離する場合が多い。地域のスタッフは、病院で診断された食事に関する情報を求めている。要介護高齢者にとって摂食機能と食形態との乖離は窒息事故などを招く可能性がある。したがって、摂食嚥下機能の評価は重要である。しかし、当院のように地域で摂食嚥下機能評価を積極的に行っている医療機関がどの地域にもあるわけではない。摂食嚥下機能評価は病院頼りになっている地域も多い。摂食嚥下機能の診断に基づいて病院で摂取した食形態の情報共有は十分に行われていない。摂食嚥下機能に関する情報提供が地域で進んでいくことを望んでいる。

栄養情報は病院と在宅を繋ぐ鍵

演者:高橋瑞保(合同会社訪問栄養ステーションえん

◆訪問看護ステーションや歯科と連携して在宅栄養管理を実施

病院勤務を経験した後、合同会社訪問栄養ステーションえんを設立し、在宅領域で栄養ケアを実践してきた。併せて、訪問看護ステーションと業務委託契約を結び、栄養管理に携わっている。
当社では歯科との業務提携も行っている。この歯科では経腸栄養管理に難渋していた。患者が退院後、在宅での栄養管理を行う際に痩せすぎていて食べられないという事例があり、「経腸栄養をどのように変更したらよいか」などの相談が寄せられている。歯科と当社で栄養情報のやり取りを行う様式には経腸栄養のプランも記載できるようになっている。これを歯科医師が主治医に伝えて、経腸栄養が変更になることがある。

◆在宅医療では病院からの栄養情報提供が重要

病院では身長と体重が患者情報の基本データとして登録されている。しかし、在宅医療では管理栄養士が訪問するまで、誰も身長と体重を把握していない状況をしばしば経験する。在宅医療における栄養状態の把握は大きな課題となっている。そのため、病院からの栄養情報提供が重要となる。

病院勤務時には、複数の病院で同じICTシステムを使用する経験を持った。しかし、その使用状況はまちまちで、ある病院では職員が誰でも使用できるが、別の病院では使える職種が限定され、職種ごとにアクセスできる情報が限定されていた。管理栄養士はICTシステムを利用できていたが、全ての情報を把握できない例があった。

当時は地方で勤務しており、手術は大規模病院で行い、その後の管理を地域の病院で行う患者が多かった。ICTシステムから情報を得られなくても、管理栄養士同士の面識があり、患者の了承を得て、直接電話でやり取りして情報を得られることもあった。ICTシステムが整備されていても情報連携できないことがある。しかし、情報提供手段が紙に限られていても、連携しようという意思があれば連携は可能である。

◆病院と在宅医療の栄養情報共有に対する関心は希薄

2024年7月に行われた心臓リハビリテーション学会の抄録から「情報共有」を検索すると、26件ヒットした。しかし、栄養に関する内容は含まれていなかった。心臓リハビリテーション領域でも栄養に関する情報共有はあまり注目されていない現状がある。

病院の管理栄養士を対象に栄養情報提供書の作成状況をアンケートしたところ、「転院もしくは施設への退院の場合に作成」という回答が27%、「退院先に関わらず依頼がある場合に作成」という回答が29%であった。「書式やシステムがないため作成しない」という回答も27%あった。令和6年度診療報酬改定で栄養情報連携料が新設された。このアンケートは2024年3月に行ったため、現在は作成が増えている可能性がある。しかし、当時は栄養情報提供書を作成しない例が約3割であった。

◆訪問看護に同行して栄養指導を実施

在宅栄養の鍵はケアマネジャーである。当社は訪問看護ステーションと連携して活動しているため、当社に直接栄養食事指導の依頼がなくても訪問看護ステーションに届いた主治医意見書を確認できる。その中には低栄養や訪問栄養食事指導の必要ありと記載されていることも多い。しかし、ケアマネジャーが作成する居宅サービス計画書には、サービス内容として「栄養や食事に関する助言を看護師が行う」と記載されることが多い。これはケアマネジャーに管理栄養士が認知されていないことを示唆する。そこで、訪問看護師による栄養管理が多くなる。

当社が在宅で行う栄養ケアは保険と保険外がある。保険外には自費で行うもののほか、訪問看護ステーションと当社の業務提携の枠内で行われるものがある。通常の訪問看護で看護師が栄養問題を発見した際に、当社に管理栄養士の同行と栄養ケアの依頼がある。そこで、訪問看護の時間に管理栄養士が患者や家族に助言する。この時の費用は訪問看護ステーションとの業務提携料で賄われ、利用者負担はない。あくまで訪問看護のオプションサービスという形になっている。この訪問で患者が希望される場合は本人払いに切り替え、継続指導を行う。継続指導も保険と保険外がある。在宅での栄養ケアを行うためには、まず訪問看護師との同行訪問を実現することが重要になる。

◆在宅には低栄養の患者が多いが、在宅栄養ケアの認識は低い

2020年10月から2022年9月に訪問看護を利用した95名のうち、訪問看護に管理栄養士が同行した患者は58名であった。BMIは管理栄養士が同行した患者群で18.5kg/m2、同行しなかった患者群は20.3kg/m2であった。管理栄養士が同行した患者は体重が少なく、低栄養の疑いがある場合が多い印象がある。

在宅栄養ケアを行う中でいくつかの課題を実感している。まず、病院からの情報提供書に栄養に関する記載がない。BMIは36.2%で記載がなく、採血データは希望しないと得られない。退院直後から在宅医療が行わる場合であれば、情報提供書に身長や体重の記載があり、BMIを把握できる。しかし、現在、在宅医療を行っている患者では記載がない。さらに、訪問栄養士に相談できることが知られていない。近年は管理栄養士の存在に対する認識は上がってきたものの「管理栄養士に何を相談していいか分からない」と言われる。つまり、管理栄養士の所在だけではなく、その能力も伝わっていない。しかし、最大の問題点は患者や家族の栄養への関心の低さである。管理栄養士が同行しても「生活できています」「食べられています」「特に困っていません」などと言われて、初回で終わる患者も多い。初回面談を断られる例も約半数に上る。

2020年10月から2023年9月に保険適用で当社が訪問栄養食事指導を行った患者は51名であった。依頼元は主治医が72%で、その多くは非常勤で勤務しているクリニックの院長からである。ケアマネジャーからの依頼は6%と少ない。業務提携している訪問看護ステーションからの依頼は22%であった。訪問栄養食事指導の導入時期に関しては、退院直後が最も多く29%に上った。ただし、この時に栄養情報が添付されていた患者は1名だけであった。対象患者の疾患は神経筋疾患、心疾患、認知症など様々だが、多くの患者で嚥下障害が認められている。患者や家族からも「嚥下障害があるので調理指導や食品の選び方を知りたい」という希望が多い。嚥下障害があると管理栄養士が介入しやすい印象を受ける。

退院後の在宅医療を担うスタッフに病院での栄養管理を提供すれば、栄養管理が必要と認識するきっかけになる。病院には管理栄養士が配置されているはずである。在宅医療での栄養管理を充実させるためには、病院の管理栄養士は栄養情報を提供して当たり前という意識を持っていただきたい。また、在宅医療からも栄養情報提供の希望を出していただきたい。

◆在宅ケアに携わるスタッフが栄養ケアの必要性に気づき、連携することが必要

栄養は在宅療養の質を高める構成因子と認識されておらず。栄養ケアの必要性は見逃されがちである。まずは、在宅ケアのスタッフで栄養ケアの必要性に気づける人を増やす必要がある。気づいて繋げてくれさえすれば、栄養ケアが届き、患者は幸せな生活を送れる。管理栄養士であれば栄養ケアの必要性は見逃さないが、在宅医療では管理栄養士が少ない。在宅医療に携わるスタッフの誰かが気づいて、繋げてほしいと切実に願っている。また、病院と在宅医療を繋ぐ鍵として、栄養情報提供が当たり前に行われるようになってほしいと考えている。

ディスカッション

塩野崎●4名の先生にご講演いただき、栄養情報連携における栄養情報提供書の重要性が明らかになった。栄養情報提供書を受け取った際に、役に立った情報について伺いたい。

フロア●病院だけでなく歯科からも栄養サマリーを提供されている。家族からも食形態の情報を聞いている。管理栄養士はこれらの情報から食形態を決めていくが、その際に今の食形態が決まった過程や評価など根拠が分かるとありがたい。在宅医療では病院とは異なる食形態になっていることがよくある。それでも摂食嚥下機能の障害部位や原因、誤嚥リスクなど根拠が分かれば予防、リハビリテーション、食形態など対処を考えやすい。

丸山●胃瘻を造設した患者の治療を行う場合に在宅医療から使っている栄養剤や点滴など栄養情報がない場合があり、困っている。在宅医療からの栄養情報提供も重要である。

岡田●食形態の決定理由は家族も知りたい情報である。退院する時に食形態を指導されても守られない。それは理解が不足しているためである。摂食嚥下機能の状況やそのために必要な配慮を理解していれば、食形態が守られるのではないか。医療職や介護職だけではなく、家族にも情報を提供する必要がある。

丸山●田無病院でも丁寧に説明すると患者や家族も納得すると実感している。家族に情報を伝えることも重要と考える。

フロア●根拠がないまま食形態を情報提供されても、先の見通しが立てられず、患者や家族は困惑する。管理栄養士も説明しづらい。摂食嚥下評価の結果など根拠も見える形で書いてほしい。

フロア●在宅療養支援診療所で訪問管理栄養士として勤務している。病院から情報提供を受けつつ、在宅医療を行っている患者が入院した場合にはどのような訪問内容であったか病院に情報提供している。病院側も入院直後は患者の嗜好が分からない。病院からは在宅医療での栄養管理情報を提供してもらえると栄養管理もスムーズになるといわれている。そこで、嗜好、アレルギー、使っている栄養食品などの情報を提供している。

丸山●栄養情報提供では必要な情報が記載されている必要がある。ただし、多くの情報を記載されていても、把握しきれないという問題もある。どの程度のボリュームにするかが難しい。ボリュームも考慮した適切な栄養情報について伺いたい。

岡田●リハビリテーションを行っている患者の報告書を毎月見ているが、変化が分かりづらいと読みにくい。栄養情報提供書でもメリハリをつけることが重要である。また、記載されている内容の順序がばらばらになっていると読みにくい。地域ごとに同じ様式で栄養情報を提供することも必要である。北美原クリニックでは退院前カンファレンスを必ず行っているが、管理栄養士の参加が少ない。管理栄養士は参加しないようにしているのか、退院サポートナースが管理栄養士に声をかけていないだけなのか原因は分からない。ただし、今は病棟に管理栄養士が配置され、ほとんどの患者に介入しているはずである。管理栄養士も退院前カンファレンスに参加してほしいと願っている。その上で栄養情報提供書が当たり前になれば、在宅医療の医師の栄養管理に対する意識が変わってくると考える。

田中●病院と在宅医療の管理栄養士業務をともに経験すると、病院でも在宅医療でも相手の栄養管理を否定する傾向がある。否定するのではなく、なぜこのような栄養管理を行っていたかを考えることが必要である。栄養ケアプロセスという仕組みができ、PES (Problem Related to Etiology as Evidenced by Signs and Symptoms)も普及してきた。PESは原因や根拠が分かりやすい。今の栄養学を学んでいる学生もPESに準じた栄養診断を作成できるようになっている。日本在宅栄養管理学会でもPESを推進している。栄養サマリーの様式はなるべく統一した方が望ましい。この観点から、PESで統一できればよいと考える。

フロア●在宅医療を行うクリニックで管理栄養士として栄養管理を行っている。当院でも、管理栄養士の勉強会などで知り合った病院の管理栄養士から栄養情報提供書を受け取ることがある。地域の管理栄養士とのつながりも栄養情報の連携に重要と感じている。逆に同法人の病院からは診療報酬の制度上算定できないため、栄養情報提供書をもらえないことがある。その場合は、直接病院に確認しているが、在宅医療と病院では栄養管理に関する見方が異なると感じる。例えば、入院中は嚥下機能が低下しており、心配なので食形態を下げていることがある。そのため、入院中と在宅医療のギャップが大きい。病院はリスク管理を重視した評価になっており、その点は在宅医療と異なると考えている。さらに、食形態を決定した理由が明らかにされないことも多い。その場合は家族も不安になっており、質問されることがある。病院に問い合わせても十分な回答は得られない。このような場合には家族にどのような返答をしたらよいのか教えてほしい。

丸山●病院は安全第一にする傾向があり、どうしても控えめになる部分がある。

高橋●いくつかの食形態を準備して、患者の摂食嚥下機能と家族が対応できる食形態をともに満せる食形態を探す。1回で決めるのではなく、「今日はこの食形態、次回はこの食形態にしましょう」と計画も伝えている。ゴールを示すと納得してもらえることが多い。もちろん主治医や看護師などにも説明する。情報共有をしつつ、危険がないように、かつ禁止ではなく、前向きな方向に進むように心がけている。

菊谷●日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニックも多くの食形態を用意している。ただ、全ての食事を摂食嚥下機能に見合った食形態にすると家族の負荷が大きくなる。その場合は1品あるいは1食だけ食べたい物を食べる方法を提案することもある。将来にわたって食べてはいけないと思われると、患者も家族も残念に感じてしまう。そこで、「今は」という話し方がよい。例えば、「今はその時期ではないので、もうちょっと元気になってから食べましょう」と理由を示し、チャンスが来たら食べるようにするアプローチをしている。

フロア●急性期、慢性期、在宅医療と様々な現場で栄養管理を行った経験から、急性期病院の医師や管理栄養士には在宅医療で求められる栄養情報が伝わっていないと感じている。嚥下調整食の名称が同じ物性でも施設によって異なるという事例も多い。近年は多くの地域で「嚥下食マップ」など物性と実際の料理の写真を載せたものが作られてきた。このような取り組みを進め、活用していく必要がある。また、栄養剤には同じ品名で多数の種類が存在するものがある。例えば、「明治メイバランス流動食シリーズ」には「メイバランス1.0」や「メイバランス1.5」など多くの種類がある。しかし、そのうち1種類のみ採用している病院からの情報提供では「メイバランス」と品名だけが書かれていることもある。これではどの種類であるか分からない。この場合は病院に直接問い合わせをした。このように病院と直接やり取りしながら、在宅医療で求められている情報を理解してもらうことも重要と考えている。

丸山●病院によって採用している栄養剤は異なる。食形態の名称も異なっており、すり合わせは必要である。

フロア●嚥下調整食の共通言語を目指して『日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食学会分類2021』が作成されているが、これはあくまで学会での共通言語であり、ケアマネジャーには使われていない。在宅医療の現場で使われている、あるいはケアマネジャーが使っている用語を用いた分類が必要なのではないか。褥瘡のアセスメントツールが作成された際にはケアマネジャーが使っている用語を採用したため、分かりやすくなっている。これはケアマネジャーのために作られたものだが、理学療法士や歯科医師、薬剤師でも分かる。当然、医師も看護師も理解できる。これが本来の共通言語なのではないか。今後、嚥下調整食の共通言語を作る際は、在宅とくにケアマネジャーが使っている用語で作る必要がある。

丸山●確かに『日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食学会分類2021』は覚えにくい面もある。そのために「歯ぐきでつぶせる」「かまなくてよい」などの表現が加えられている。

フロア●以前は急性期病院で勤務しており、現在は認定栄養ケア・ステーションで管理栄養士をしている。栄養情報提供書を作成したことも、受け取った経験もある。受け取る側として栄養サマリーを見ると、完璧に書かれすぎているため、栄養の問題が見えづらくなっていると感じる。病院の管理栄養士はどうやったら食べてもらえるかを考え、食形態や量を調整してくれる。栄養サマリーにもそのまま書かれているため、管理栄養士以外の職種には栄養の問題が分かりづらくなっている可能性がある。そこで、入院中に食べられない理由をアセスメントして、「この病院の食事が嫌いで食べない」「機能的に辛くて食べられない」といった理由を栄養サマリーに加えてほしい。これがあれば、ケアマネジャーに栄養の問題を認識してもらえる。

フロア●医師として病院で勤務しながら、在宅支援診療所で訪問診療にも携わっている。その経験から医師は栄養への関心が薄いと感じる。実際、主治医意見書に低栄養と記入することはあっても、在宅訪問栄養指導の必要ありとしたことはほとんどない。栄養管理は誰かが気づくことが重要である。生きている限り食べることは必要になる。医師ももう少し、栄養や食べることへの関心を高め、共有しなければならないと考えている。

塩野崎●本ワークショップは大変白熱した議論ができた。来年もこのような形のワークショップができるように、事務局に引き継いでいきたい。今日は、なぜ病院でその食形態にされたのか、なぜこのような栄養ケアを実施しているのかなど、書かれている内容の根拠を提供してほしいという意見が多かった。訪問栄養サポートセンター仙台でも「せん妄を認めて薬を増やし、その薬の影響で嚥下機能が低下しているためミキサー食にした」という栄養情報提供書を受け取ったことがある。このように根拠が示されていると、退院後には食べられるようになる可能性があるなどの見通しが立てられる。病院からは一生ミキサー食になるのか、退院後の嚥下リハビリテーションで食べられるようになるのかといった見通しも含めて情報提供してほしい。今後は在宅医療から病院への栄養情報提供も重要になってくる。現在は診療報酬として評価されていないが、在宅医療から病院に栄養情報を提供で入院期間が短縮効果を認めたなどエビデンスを示して評価に繋げていきたい。

丸山●今日は全国各地で栄養管理にご活躍の4名の先生にご講演いただき、有益なワークショップを開催できた。栄養情報連携は一方通行ではない。在宅医療から病院、施設へ、そして施設、病院から在宅へと栄養情報提供書と通じてキャッチボールできることを願っている。本ワークショップの成果を明日からの診療に役立てていただきたい。

Part1はこちら
第6回日本在宅医療連合学会大会開催| ワークショップ18 病院から在宅・施設への栄養情報提供 Part1

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