栄養管理における看護、看護師に今から必要なこと|寄稿:矢吹浩子先生 Part2
2025.07.31フレイル・サルコペニア「栄養ニューズPEN 」2025年3月号にご寄稿
【株式会社ジェフコーポレーション「栄養 NEWS ONLINE 」編集部】
看護師/Hand in Hand 代表 矢吹浩子先生
看護師は日常の業務として、輸液や経腸栄養剤投与、食事介助などに多くの時間を費やしています。これらは当たり前の業務になりすぎて、「栄養管理」と捉えている看護師は少ないでしょう。そこで、これらの「業務」をどのように「看護」として捉えて実施していくか、栄養管理における看護について私見を述べたいと思います。
1.看護師にどれくらいの栄養管理の知識が必要か
栄養管理に特化した看護師の資格は、本邦では現在、日本栄養治療学会(以下JSPEN)のNST専門療法士と日本病態栄養学会(以下JSMCN)の専門病態栄養看護師のふたつです。
JSPENのNST専門療法士資格は、職種を問わず共通のレベルで知識を有することを求め、チーム内で活発な議論を行い、より良質な栄養管理を行うことを目指しています。そのため基礎教育で栄養代謝学をほとんど学んでいない看護師は、NST専門療法士資格を取得するために所属部署の疾患領域を超えて独自に学習を積まなければなりません。しかし、苦労して得た知識は、NST活動においては活かせても、所属する部署での患者ケアに活かすことはとても難しいです。なぜなら、部署内では患者の栄養状態を専門的に議論できる看護師は少ないうえ、元より看護師は法的に処方を行い得ないからです。だからNST専門療法士の資格取得のために得た知識は、文字通りNSTに所属してこそ発揮することができます。
JSMCNの専門病態栄養看護師資格は、NSTでの活躍というよりも、病棟で行われている身近な栄養管理での看護師の責務向上に係る指導者的役割を担えることを求めています。栄養療法の基礎知識は当然必要ですが、重きを置いているのは栄養管理を要する患者の発見と栄養投与実施に必要な栄養学的および看護的知識と技術です。(表1)
NST専門療法士と専門病態栄養看護師の資格に求めるものは少し異なりますが、患者への栄養治療に関わろうとすることに違いはなく、できれば両者が上手く連携するようになれば良いと思います。
そもそも看護師が専門領域を確立できるのは日本看護協会が定めている専門看護師や認定看護師で、一般の看護師が専門領域を確立するのは難しいです。国家資格を取得して病院勤務に就くとき、自身が望んだ領域の部署に配属されるとは限りません。病棟の看護師配置には入院基本料に相応した定数があり、異動退職の動向が新人配置人数に影響します。第1希望部署への希望者が多ければ第2、第3希望あるいは希望外の部署に配置されることもあります。また、希望する限りいつまでもその部署で勤務できるということもありません。部署の活性化や看護力向上のために意に沿わない部署異動を命令されることもあります。さらに、大規模病院や専門病院以外は、多くが複数診療科の混合病棟で、勤務医の人数変動や専門性の変更など診療する医師の動きに応じて、診療科の持つ病床数変更も繰り返される環境にあります。看護師は所属する部署の診療に必要な知識や技術の修得を何より優先するため、栄養管理の知識取得に興味を持つ者は少ないのが実情です。近年では、新型コロナ感染症による感染管理、社会の超高齢化に伴う認知症ケアや嚥下障害などに対する知識・技術が、診療領域に関わらず必要になりました。反して、栄養管理に関する研修は、どちらかというと減少しているし、残念ながら開催しても参加人数は多くありません。
病棟の看護師は強制栄養法を実施し、摂食を介助、摂食量を観察、排便状態を観察、清拭や入浴介助などで全身を観察しています。体重は定期的に測定し、身体援助を通じて患者の体力や筋力も知っています。しかし、これらの情報を意図的に栄養管理につなげられるのはおそらく栄養管理を学んだ看護師で、多くは日常のルーチンワークとして行っています。
看護師が日常行っている業務を栄養管理的視点で捉えれば、栄養障害がある患者の早期発見と早期対応が可能だと思います。だから臨床の看護師は、自分たちが行っている看護業務を一度栄養管理と結び付けて考えてみてほしいと思うのです。
2.“栄養管理における看護師の役割”とは
日本看護協会は2015年に、そこからの10年すなわち2025年を見据えた看護と看護職がどうあるべきかを、看護の将来ビジョンとして表明しています。「看護師は24時間365日途切れることなく患者の傍らにいて、集中的な観察とそれに基づく医療的判断、実施により、患者のいのちをまもる」とし、さらに「患者の最も近くにいて患者の状態を把握している看護師は、職種間をつなぎ、円滑で効率的な協働を促進する」と発表しました1)。
勤務を引継ぎながら途切れなく観察と援助を行う職種は看護師だけです。そして、患者に実際に栄養投与を行うのも看護師です。看護師は臨床栄養管理でとても重要な役割を担っているのです。
≪NANDA看護診断にも挙がっている「栄養摂取バランス異常:必要量以下」≫
看護診断とは、看護が必要な現象を共通する名前で表したもので、医師も一度は聞いたことがある用語ではないかと思います。現在、広く用いられているのは北米看護診断協会(NANDA)が提唱しているもので、13の領域に整理されています。領域2が「栄養」であり、領域内にいくつもの診断ラベルがある中に「栄養摂取バランス異常:必要量以下」があります。この診断の定義は「栄養摂取が代謝ニーズを満たすには不十分な状態」です。そして、この診断に対する看護計画は、必要栄養量をいくら与えるかという治療的計画ではなく、摂食に悪影響のある要因の除去や腹部症状の観察、歯牙の状態や嚥下機能に応じた食形態の変更など、まさに看護師が行う栄養管理です。
NANDAでは、看護師に必要エネルギー量を算出することや輸液や経腸栄養剤の内容の検討などというものは要求していません。それらがすでに設定されていることが前提で、必要量の摂取を援助し、輸液や経腸栄養剤を障害なく投与するなどによって栄養摂取バランスの正常化、すなわち健康の回復のための看護を行うのです。
ここでわかるように、NANDAは栄養摂取が不足することを看護上の問題とし、看護師は必要量摂取に向けた支援が必要だと明言しています。
私はNANDA看護診断を用いることを勧めているわけではありません。どんな表現を用いようと、栄養摂取が必要量を満たしていないことは看護上の問題でもあるということと、自分たちの観察や行為はこの問題に対する看護であることを再認識してほしいと思うのです。
≪栄養状態に関する観察と記録、そして電子カルテの弊害≫
24時間途切れることなく患者ケアを行っている看護師が持つ情報は、栄養管理に必要な情報の倉庫になり得ます。医師や管理栄養士がその倉庫(カルテ)から必要なものをいつでも取り出せるように、看護師は情報を漏れなく正確に記録しておくことが必要であり、そしてそれは臨床栄養管理の質に影響します。
まず必要なのは、医師やNSTが行う栄養評価に必要な情報は何かを、その根拠とともに看護師が知っておくことです。NSTに関わっている看護師であればすでに習得していることかもしれませんが、一般の病棟看護師は、 必要な情報が何かがわかっても、それが「なぜ」必要かを詳しく知ってはいません。情報の持つ栄養管理上の意義を理解してもらうことが一般看護師への栄養教育の一歩だと思います。
そして、問題は記録です。現在は病院の多くが電子カルテを使用しています。しかし電子カルテは、情報伝達や指示命令が速やかになりあらゆることが合理化された利便性はありますが、入力するセルは決まっており、経過を見るためには時系列表示に展開しなければなりません。決められたセルへの入力で留まれば、例えば摂食量や排便コントロールの傾向は見ることができません。その点では、紙カルテ時代は記録のたびに昨日一昨日の状況を一目で確認できていたため、より患者の全体像が分かりやすかったと思います。また、これには働き方改革の影響もあるかもしれません。つまり、時間内に仕事を終えることを要求されるため、わざわざ電子カルテを時系列表示に展開しなおして経過を見ることは目的がない限りしないと思います。自身の仕事を時間内に終えて時間外勤務を生まないことが優先事項になってしまっているからです。
余談ですが、紙カルテ時代は記録漏れも簡単に補うことができていました。しかし、電子カルテでは、そういう入力漏れを拾い上げることも事後入力することも簡単ではなく、入力漏れはそのまま放置されることになってしまいます。
日々の観察から得られるデータを不足なく入力することが栄養管理のベースになることを、看護師は認識して同僚や後輩に伝えていってほしいと思います。
NST回診でカルテを確認する際に入力漏れがあると栄養評価はしにくく、立案する計画の妥当性も薄まってしまいます。栄養評価情報は日常のあらゆるところにあり、看護師はルーチン記録も新たにキャッチした情報も漏れなく記録に残すことを心掛けてほしいと思います。
≪必要な栄養量を全量摂取(投与)できるための支援が看護師の責務≫
経口摂取でも強制栄養でも患者を介助し投与するのは看護師です。だから、責任をもって処方された栄養を全量投与することが栄養管理における看護師の最大の役割だと思います。
しかし、臨床現場の看護師はその役割を見失っているように思います。前述したように、働き方改革関連法によって上司から時間内に仕事を終えることを求められ、栄養投与はあまりにも日常の業務と化し、患者の栄養状態の維持改善であるという目的は忘れられているように思うのです。
栄養管理計画は主治医あるいはNSTが根拠をもって立てています。なぜその輸液がその量で処方され、なぜその経腸栄養剤が選ばれたのかを知ると、患者の身体状況をより理解できるし、栄養管理を話題に患者との会話も進むというものです。会話が多ければ患者の気持ちも理解しやすいし、患者自身も自分に施されている医療をより理解することができます。それが看護師として本来あるべき姿ではないかと思います。
しかし、看護師に輸液製剤1本のエネルギー量やアミノ酸量を問うと、正しく答える者は実は少ないです。目の前の患者にどれくらいのエネルギーが必要かはわかっても、その患者が摂取しているエネルギー量を知らない看護師は多いのです。必要な栄養が充足されていなくてもそれに気づかなければ看護上の問題にも上がりません。非常に残念だし、私自身が今まで看護師に対して行ってきた栄養教育にも、その部分は足りなかったと反省しています。
代謝栄養学はNSTで活動する看護師を除き、日々の看護にはあまりニーズがありません。現場の看護師にまず必要なのは、何が摂取障害要因かを考える力とそこに必要な医学的看護学的知識だと思います。
栄養投与において看護師にとくに重要なことは、摂取を障害する要因を排除することだと思います。強制栄養法であれば感染や閉塞、抜去などへの対策です。これらのリスクアセスメントと、防止するための方法と根拠は、栄養管理において看護師に必須の知識です。経口摂取においては、摂取障害要因が多岐にわたるため対策は少し難しいです。口腔内の問題であれば改善計画が比較的立てやすいのですが、心理的な原因や認知症の場合はアプローチが難しいです。
必要栄養量をどのようにして全量摂取あるいは投与できるかを考えることが、看護師の職能ならではの栄養管理における役割であり、患者に寄り添う看護であることを認識して、取り組まなければならないと思います。
≪患者と家族は何を望んでいるか≫
国際看護師協会による看護師の倫理綱領には、基本的な看護の責任について「健康増進、疾病予防、健康回復、苦痛の緩和と尊厳ある死の推奨」とあります2)。
尊厳ある死の推奨は、原文は“promote a dignified death”ですが、日本看護協会の倫理綱領ではこの部分を「最期までその人らしい人生を全うできるよう支援」と表現されています3)。
そのほうが本邦ではフィットします。看護師の基礎教育では“その人らしさ”を尊重することを教えるため、我々看護師には馴染んでいます。
日本看護協会の専門看護師や認定看護師は、特定の領域で看護の責任を遂げるために活動しています。栄養管理領域は専門認定看護師制度の対象になっていませんが、むしろ、栄養管理領域こそが看護の4つの責任に最も近い領域ではないかとさえ思います。
超高齢社会に伴って、現在は入院患者も高齢者の割合が高くなっているうえ、認知症や重度の要介護認定を受けている患者も増えており、一人ひとりにその人らしい人生を考えて看護することは意外に難しくなっています。本邦では強制栄養法を選択して延命を図る医療が当たり前のように行われていますが、強制栄養法では自己抜去を防ぐためにやむを得ず身体拘束を行わなければならないときもあります。そういうとき我々看護師は「本人はこれを望んでいたのだろうか」というジレンマを感じながら行っています。そしてその人らしい人生を全うできるような援助からは遠くかけ離れていきます。「診療の補助」を行うことが保健師助産師看護師法に示されている職種独自の業務であり、処方された内容を実施することは「診療の補助」なのです。
令和6年度の診療報酬改定で、入院料の通則に初めて“人生の最終段階における適切な意思決定支援の推進”や“身体拘束を最小化するための取り組み”が盛り込まれました。体制を整えることが要件という段階ではありますが、患者の意思を尊重した医療、患者の尊厳を守る医療を行うという方向性を明確に打ち出されたことは、看護師としては非常に嬉しいことです。しかし、医療者以外の人々には“人生の最終段階における医療・療養”への関心もまだ高まっていないし、ACPはまだまだ認知されていません。ACPは、医師が主導するであろうことですが、患者の思いを引き出すのは簡単ではなく、そこは看護師が「診療の補助」として力を発揮すべきだと思います。
“人生の最終段階の医療・療養”は治療や生命維持装置に主眼が置かれており、延命に直結する「栄養」のことはあまり話題になっていないように思います。欧米では虐待と認識されている強制栄養法による延命について、私は避けずに患者や家族から聴くべきものではないかと思っています。看護師は、患者がどんな生活を望み、延命に対してどんな医療を期待しているのか、看護師の聴くスキルを発揮して患者自身の意思を確認し、患者や家族の望む生き方を助けてあげてほしいと思います。
3.看護師は本来の役割を見失ってはいけない
医療はcureだけでなくcareも必要です。臨床栄養管理は、低栄養あるいは低栄養リスクのある患者に対するcureです。看護師は栄養治療というcureを手伝いながら、その領域のcareを行うということを見失ってはいけません。だから私は、看護師の栄養管理での役割は、何をおいても栄養障害患者の看護であると思っています。栄養障害のある患者の何をどのように看護するかが、栄養管理領域で看護師が議論すべきことではないかと思っています。
栄養管理における看護師の役割は、栄養看護-専門病態栄養看護師ガイドブックに詳細を掲載しています。(表2)
栄養管理領域で看護師は代謝栄養学の知識を習得しようと頑張ってきました。これまで述べてきたようにNSTの一員として活動するうえでは必要な知識ですから、得た知識はNST活動で最大限発揮してほしいと思います。知識を持ちながらNST活動を行っていない看護師にとっては、その知識を活用したくてもどこに活用できるのかわからなくなっているかもしれませんが、まずは受け持ち患者の栄養状態評価に活用してほしいし、そこで栄養障害を発見したら主治医またはNSTとの連携につなげたらよいと思います。知識はさらに、主治医またはNSTがなぜその栄養管理計画を立てたのかを理解することに活用でき、それは、同僚・後輩への説明に活かしてほしいと思います。
代謝栄養学を学んだ人も学んでいない人も、処方された栄養量を全量投与(摂取)することが看護師の最大の役割であることを再認識し、投与を阻む要因への対策を講じてスタッフ間で共有して取り組んでほしいと思います。また、全量投与のために患者の安楽を損ねない看護の計画を立て、常に、患者と家族が栄養療法に何を望んでいるかを聴き、希望に寄り添う看護を遺憾なく発揮してほしいと思います。
文献
1) https://www.nurse.or.jp/home/about/vision/pdf/vision-1C.pdf
2) https://www.nurse.or.jp/nursing/system/files/2021-10/ICN_Code-of-Ethics_EN_Web_0.pdf
3) https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/statistics_publication/publication/rinri/code_of_ethics.pdf
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