第12回 日本時間栄養学会学術大会開催 大会長インタビュー
2025.08.04栄養素第12回 日本時間栄養学会学術大会 大会長/東洋大学健康スポーツ科学部栄養科学科 教授
髙田和子先生
第12回日本時間栄養学会学術大会が2025年9月5日(金)と6日(土)の2日間にわたって、 東京都北区の『東洋大学赤羽台キャンパス HELSPO HUB-3 (HELSPOホール)』で開催される。 会長を務める髙田和子先生 (東洋大学健康スポーツ科学部栄養科学科 教授)に本大会の見どころを中心にお話を伺った。
【開催概要】
学会名 :第12回日本時間栄養学会学術大会
テーマ :「時間がつなぐ健康の未来像~課題解決への道筋~」
会 期 :2025年9月5日(金)〜6日(土)
会 場 :東洋大学赤羽台キャンパス HELSPO HUB-3(HELSPOホール)
大会長 :髙田和子(東洋大学健康スポーツ科学部栄養科学科 教授)
⬆東洋大学赤羽台キャンパス HELSPO HUB-3
東洋大学でスポーツと栄養をともに研究する新学部が誕生
このたび、第12回日本時間栄養学会学術大会を2025年9月5日(金)~9月6日(土)に『東洋大学赤羽台キャンパス HELSPO HUB-3 (HELSPOホール)』で開催することになり、大会長を拝命いたしました。
会場の『HELSPO HUB-3』は健康スポーツ科学部の拠点として建設されました。健康スポーツ科学部は2023年度にライフデザイン学部健康スポーツ学科と食環境科学部食環境科学科スポーツ・食品機能専攻の改組により誕生しました。この学部は健康スポーツ科学科と栄養科学科からなり、スポーツと栄養を同じ学部で探求します。これにより、健康からアスリートのサポートまで、学際的な教育と研究を目指します。
『HELSPO HUB-3』は赤羽台キャンパスの他の建物と同様に建築家・隈研吾氏の設計により、統一感のあるキャンパス空間を創出しています。この5階と6階には健康スポーツ科学部の2学科の研究室が集まっています。これまで別のキャンパスにあったライフデザイン学部健康スポーツ学科と食環境科学部食環境科学科スポーツ・食品機能専攻が、改組で同じ建物に集約されました。開放的な空間でコミュニケーションも容易になり、スポーツと栄養の研究を融合させた取り組みが可能になりました。
また、『HELSPO HUB-3』には研究を進めるための多くの設備が設けられました。代謝測定室として温度・湿度・流量が一定にコントロールされた高気密チャンバー型のヒューマンカロリーメーターがあり、被験者は快適な空間の中で日常生活をしながらエネルギー代謝を測定できます。温度・湿度のコントロールに加え、低酸素環境の負荷も可能な人工環境制御室もあります。脳波などを正確に記録し、外界からの騒音による影響を抑えるために設計されたシールドルームでは、睡眠の状態を詳細に評価できます。これらの施設を用い、様々な生理指標の時間経過を追跡したいと考えています。
⬆ヒューマンカロリーメーター
⬆睡眠試験室
今までの研究を時間という概念で再検討し、新しい視点を目指す
本大会のテーマは『時間がつなぐ健康の未来像~課題解決への道筋~』としました。時間を考慮した栄養やスポーツの研究は今までも行われていました。例えば、栄養の研究では、朝食でのたんぱく質摂取、規則正しい食事の摂取の重要性について数多くの報告がありますが、時間栄養という概念では捉えきれていません。
そこで、本大会を契機に様々な領域で行われていた従来の研究について、時間栄養の概念で再検討し、栄養とスポーツ・睡眠をつないで健康の維持増進に向けた新しい視点を見出したいと考えました。本大会ではポスター発表のほか、3つのシンポジウムと教育講演、特別講演を企画しています。
シンポジウム1では時間栄養学と睡眠との関連を考える
本大会はシンポジウム1『睡眠を科学する:時間栄養学からの試み』から始まります。時間を考慮した健康管理において、睡眠は重要な要素であり、栄養やスポーツとの関連においても大切な要素です。
そこで、筑波大学医学医療系の櫻井 武先生に睡眠と時間栄養学のつながりを解説していただき、東京大学大学院医学系研究科の岸 哲史先生には良質な睡眠に必要な要素をご講演いただきます。さらに、東京工科大学医療保健学部臨床検査学科の榎本みのり先生から夕食のタイミングと睡眠の関連を伺います。本シンポジウムを通じて、睡眠と食事・スポーツの関係を時間を考慮して紐解きたいと考えています。
シンポジウム2で現場の時間栄養学的介入をアカデミアの研究につなげる
シンポジウム2『時間とリズムで紐解く現場の課題:時間栄養学的なアプローチ法の模索』も1日目の開催です。こちらは健康管理の現場で活躍する方に役立つ企画としました。時間栄養学会の学術集会にもヘルスプロフェッショナルの参加が多く、時間を意識した栄養介入や時間と関連した食事の課題を共有していただいています。例えば、以前のポスター発表では食事時間の乱れで栄養問題が起きていると考えられる患者さんに、多職種が協力して決まった時間に食事できるように声掛けをする試みが報告されていました。シフトワークを行っている方、海外との行き来が多い方など生活リズムが崩れがちな方に対応しているヘルスプロフェッショナルもいらっしゃると思います。このような場面で行われている工夫やその際の困りごとを伺いたいと考えています。
筑波大学附属病院病態栄養部の海老名 慧先生からは入院患者を取り巻く食環境についてご報告いただきます。国立スポーツ科学センターの廣松千愛先生には、アスリートの食事や運動のタイミングが血糖変動に及ぼす影響をお話しいただく予定です。新座市立第二中学校の加藤耕平先生からは、栄養教諭として教育での栄養状況とその課題について伺います。安田日本興亜健康保険組合の田中裕子先生には、シフトワーカーにおける健康課題とそれに対する支援戦略をお話しいただきます。シンポジウム2では現場の取り組みの科学的な評価についても意見交換して、現場とアカデミアをつなぐ機会にしたいと考えています。
シンポジウム3では他分野の研究者に時間栄養的な研究のヒントを提供
2日目にはシンポジウム3『時間とリズムを捉える:ヒトおよび動物研究の実践的アプローチ』を行います。時間栄養学会が積極的に行ってきた他学会とのコラボレーション、合同シンポジウムなどでは、「時間を意識した研究を行っているが、それが時間栄養学的研究になるのか分からない」といった質問をしばしば受けます。
そこで、シンポジウム3では時間栄養学を研究している先生に、研究の概要を紹介していただきます。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の大池秀明先生には生化学的視点について、四国大学 生活科学部 健康栄養学科の志内哲也先生には生理学的視点についてお話しいただき、時間栄養学的研究で有用な指標の理解を深めたいと考えています。国立スポーツ科学センターの田中喜晃先生にはヒト対象の実験における時間栄養学的研究手法を伺い、時間栄養学的に検討する方法について学びたいと思います。さらに、東洋大学健康スポーツ科学部栄養科学科の吉﨑貴大先生からはヒトの日常生活下における時間栄養学的研究手法を解説していただき、疫学的な視点からどのような時間栄養学的な問いを検証できるのかを伺います。本シンポジウムでは、時間栄養学の概念を取り入れた研究を考えている他学会の先生を含め、時間を考慮した研究のヒントを得ていただければと意図しています。
教育講演では褐色細胞の個人差とエネルギー代謝について伺う
1日目には教育講演として、東北大学大学院医学系研究科の米代武司先生にご講演いただきます。栄養やスポーツを時間栄養学的に検討するうえで、エネルギー代謝を考慮することは不可欠です。
米代先生は褐色細胞とエネルギー代謝について幅広く研究されています。褐色細胞は寒冷環境下で熱を産生しますが、その熱産生には多くのエネルギーを必要とすることから、褐色脂肪の活性化による生活習慣病の予防が期待されています。しかし、褐色細胞活性は個人差が大きいのです。今回は褐色細胞活性の個人差が生じる原因とそれによるエネルギー代謝への影響について伺い、効率的なエネルギー代謝をもたらす介入のヒントになればと考えています。
特別講演では加齢というロングスパンの時間軸が口腔環境に及ぼす影響を伺う
2日目の特別講演では口腔生理の専門家である中村 渉先生(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科加齢口腔生理学分野)をお招きしました。時間栄養学を考慮した介入を考えても、対象者の口腔状態が悪ければ思うような効果は得られないでしょう。
中村先生は加齢の時間軸に沿った口腔生理機能の変容を研究されています。とくに体内時計の神経回路メカニズムの解明は、加齢に伴う生体機能の減弱を補い、超高齢化社会におけるQOLの確保を可能とする介入について研究されています。そこで、加齢も加味した長いタイムスパンの視点から口腔生理機能について伺いたいと思っています。
アクセスがよい会場で対面とオンラインを併用したハイブリッドで開催
本大会は昨年に続き、対面での開催となりました。一方、オンラインならではの利便性もありますので、それぞれを組み合わせたハイブリッド形式で開催します。対面での議論を希望される方も、オンラインを重視される方も、それぞれの形でご参加いただけます。託児サービスも用意し、お子さまがいらっしゃる方にも参加しやすい環境にしました。
会場となる『HELSPOホール』は赤羽駅から歩いて8分、赤羽岩淵駅から徒歩12分の便利な場所にあります。赤羽駅はJR京浜東北線、JR埼京線、JR高崎・宇都宮線、JR湘南新宿ラインが集まるターミナルです。赤羽岩淵駅にも東京メトロ南北線と埼玉高速鉄道埼玉スタジアム線が乗り入れています。近隣だけでなく、遠方からも参加しやすい場所と考えています。多くの方にご参加いただき、多様な視点から議論が交わされ、新たな学びと発見の場となることを願っています。
⬆メイン会場
活発な意見交換や人脈作りに活用できる懇親会も実施
今回は栄養だけでなく、睡眠やスポーツを含めて幅広く考えます。時間栄養学的な研究のアプローチについても考えます。現場での経験とアカデミアでの研究をつなぐような試みにより、現場の課題解決につながるようにしたいと思います。したがって、各分野の方がそれぞれの立場で参考にできる情報が得られると思います。とくに他分野のアカデミアの先生には時間栄養的な研究を始めるきっかけになるのではないでしょうか。
1日目には『HELSPO食堂』で懇親会を行う予定です。時間栄養学会は参加者の顔がお互いに見えやすい適度な規模が特徴です。フランクな先生も多く、懇親会では「シンポジウムや教育講演の内容をさらに深く話を聞きたい」、「ポスター発表の内容を詳しく知りたい」などの思いにも応えていただけるでしょう。
時間栄養学会は知らない先生に話しかけやすいことも魅力です。ぜひ懇親会の場を活用して研究、現場でのヒントにつなげたり、人脈を作ってください。また、赤羽駅の北側には都内屈指のレトロな飲み屋街があります。懇親会後も交流を深めていただけたらと思います。
⬆懇親会会場
本大会を時間栄養学のエビデンス構築や時間栄養学的介入のきっかけにしたい
近年は時間栄養学の概念が少しずつ広がってきました。例えば、セブン-イレブンでは時間栄養学に基づいた食品として、「Cycle.me(サイクルミー)」のセブン-イレブンオリジナルバージョン12品を開発し、販売しています。これは摂りたい栄養を最適の時間で、自然に無理なく食べられる商品として注目されました。また、たんぱく質は夕食での摂取が多くなりがちですが、たんぱく質を3食均一に摂取した方がよいという報告が増えてきました。毎食で確保したいたんぱく質摂取量の目安も報告されるようになっています。
ただし、各栄養素の摂取については1日に摂取すべき量についての議論が多く、いつ食べればよいかの観点での検討は十分でないことが現状です。昨年に『日本人の食事摂取基準(2025年版)』が発表されましたが、ここでもそれぞれの基準はまだ1日単位とされています。『日本人の食事摂取基準(2025年版)』には「食事摂取基準は主に栄養生化学的視点から策定されている。しかし、食習慣やエネルギー・栄養素摂取量の健康影響を考えるためには、栄養生化学的な視点だけでなく、行動学や栄養生理学的な視点も欠かせない」と記述されており、時間栄養学的観点の必要性は認識されています。他方、「しかしながら、この領域における知見を食事摂取基準に直接に取り入れるには更なる概念整理や研究が必要であり、今後の課題であると考えられる」との記述があるように、今のところ具体的な基準を示すだけのデータはないと考えられています。
私は長年スポーツ栄養の研究に携わっていました。スポーツ栄養では練習や試合の時間と食事のタイミングの関連について研究が進んでいます。例えば、練習時間のどのくらい前に食事すればよいか、あるいは練習後に食べた方がよいのか、試合開始時間のどのくらい前までに食事すればよいか、などの研究が行われてきました。これらの結果に基づき、アスリートには時間を意識した食事のアドバイスがされています。それでも、考慮すべき条件が多いこともあり、エビデンスとして確立しているとはいえません。今後も時間栄養学的なデータを蓄積し、少しずつエビデンスを積み重ねていく必要があるでしょう。
本大会で、現場で行われている時間栄養学的な工夫や、時間栄養学の研究に有用な測定項目が共有されれば、時間を考慮した栄養摂取のエビデンスにつながる可能性があります。このような研究で結果が出れば、より多くの現場で時間栄養学的な取り組みを行うきっかけにもなるでしょう。効果をもたらす食品の組み合わせを時間ごとに提案したり、最適な食事、睡眠、スポーツの時間の組み合わせも提案したりできるかもしれません。本大会をきっかけに、よりよい食事、効果的なスポーツの方法、良質な睡眠への介入が進めばよいと考えています。
東洋大学健康スポーツ科学部は様々な分野でご活躍の先生がそろっています。とくに本大会の実行委員長を務める健康スポーツ科学部栄養科学科 准教授の吉崎貴大先生は食事と睡眠の関連についても研究しています。学部内の風通しもよく、食事とスポーツ、睡眠を総合的に時間という観点で考える本大会の場にふさわしいと考えています。また、東洋大学健康スポーツ科学部には多くの設備があります。都内でもここまでの設備がそろっている大学は多くないと思います。本大会の折に東洋大学健康スポーツ科学部の研究の一端も感じていただき、共同研究のご希望があればお声掛けください。
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