第28回腸内細菌学会学術集会 市民公開講座「腸内細菌の光と影:病気との関わり」Part2
2025.04.21腸内細菌市民公開講座「腸内細菌の光と影:病気との関わり」Part2
司会:加藤公敏(腸内細菌学会 理事)
・発表の要点
- 順天堂大学の大草敏史先生は腸内細菌叢のディスバイオーシスや腸管粘膜防御機能の破綻がIBD(炎症性腸疾患)、IBS(過敏性腸症候群)、大腸がん、食道がんなど消化器疾患や、肝疾患や膵がんの発症にも関連していることに触れ、プロバイオティクス投与など新たな治療の可能性を紹介した。
腸内細菌が関わる消化器疾患の最新情報
演者:大草敏史(順天堂大学)
◆腸内細菌にはヒトに有用な善玉菌と害をもたらす悪玉菌が存在
細菌は好気性菌と嫌気性菌に大別される。好気性菌は酸素が豊富にある環境で増殖し、Escherichia coli(大腸菌)などが代表である。嫌気性菌は酸素が乏しい環境でのみ増殖する。長い間、培養できる細菌は好気性菌だけであった。その後、嫌気培養ができるようになり、好気性菌以外の細菌の存在が明らかになってきた。最も有名な嫌気性菌としてBifidobacterium属の菌がある。
腸内細菌叢は加齢によって変化する。幼児期にはBifidobacterium属の菌が急速に増加する。その後、加齢とともにBifidobacteriumの菌が減り、Bacteroides属の菌やClostridium perfringens(ウェルシュ菌)などが増えてくる。腸には40兆個の細菌が存在するとされている。胃にも細菌が存在し、十二指腸、小腸と細菌数が増加し、大腸で急激に増えることが分かってきた。
ヒトの腸内には有用な細菌も多く、善玉菌と呼ばれている。有用菌はビタミンK、ビタミンB12などのヒトに必要なビタミンを産生する。それをヒトが摂取して、生体を維持している。さらにShigella属(赤痢菌)、Vibrio cholerae(コレラ菌)などの病原菌の侵入を防ぎ、侵入しても増殖させない働きを持っている。無菌マウスはリンパ球や白血球、リンパ濾胞が発達しておらず、免疫機能がほとんどない。しかし、有用菌が定着すると、白血球やリンパ球が増加し、免疫機能が発達する。さらに腸管運動促進作用もある。ヒトはこのような有用菌の働きによって腸管を維持している。
ただし、腸内細菌には、ヒトに有害となる悪玉菌も存在する。Clostridioides difficile(ディフィシル菌)もその一つである。抗菌薬を投与すると、抗菌薬に耐性を持つディフィシル菌が増え、偽膜性腸炎を発症する場合がある。Klebsiella oxytocaもペニシリン系の薬剤に耐性があり、抗菌薬投与で増加する。その結果、出血性の腸炎の原因となる。
◆腸内には100種類、40兆個の細菌が存在し、多くの疾患と関連
1990年代に細菌特異的な遺伝子を解析する方法が開発され、培養しなくても腸内細菌の種類や数を明らかにできるようになった。ヒトの糞便を遺伝子解析したところ、1,000種類以上の細菌が確認された。ただし、これらすべての細菌が腸内に存在するわけではない。ヒトの腸内細菌は約100種類とされている。
ヒトの細胞数は約30兆個とされているが、腸内細菌数は約40兆個とされている。つまり、ヒトの細胞数より多い細菌が腸内に存在している。腸内細菌叢の乱れをディスバイオーシスと呼ぶ。ディスバイオーシスの詳細も遺伝子解析で明らかになってきた。腸内細菌の異常増殖が疾患に関連していることも分かってきた。かつては、原因が不明で自己免疫性疾患と呼ばれていた疾患も腸内細菌が関連しているといわれている。これらの疾患患者の腸内細菌叢は健常者と相違があることも報告されている。近年は脳腸相関が注目され、自閉症、多発性硬化症、パーキンソン病、認知症にも腸内細菌との関連が報告されるようになった。さらにアレルギーや動脈硬化、腎臓病、肥満、糖尿病にも腸内細菌のディスバイオーシスが影響しているとされている。
腸内細菌は炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、抗菌薬起因性腸炎、大腸がん、食道がん、非ステロイド系抗炎症薬起因性腸炎など多くの消化器疾患にも関連している。アルコール性脂肪肝炎、代謝障害性脂肪肝炎、肝硬変、肝性脳症、原発性硬化性胆管炎などの肝臓疾患や膵がんにも腸内細菌が関連していることが分かってきた。
◆高脂肪食による腸管粘膜透過性亢進と腸内細菌の変化がIBDを惹起
炎症性腸疾患(IBD)は原因不明の腸炎とされており、潰瘍性大腸炎とクローン病に大別できる。近年、IBDの原因として腸内細菌が考えられるようになった。健常者では腸管粘膜が糞便中の細菌の接着を抑制しているが、潰瘍性大腸炎患者では腸管粘膜の機能が低下し、細菌が多く接着している。腸管粘膜障害により自然免疫の防御機構が低下し、悪玉菌が増加して疾患をもたらすと考えられている。
戦前や終戦直後の日本では潰瘍性大腸炎やクローン病の患者は年に1~2例であったが、現在は23万人とされている。潰瘍性大腸炎やクローン病の患者が急激に増加した原因はおそらく高脂肪食である。日本人の食生活は穀類の摂取が減り、脂肪の摂取が増えた。高脂肪食は腸管粘膜透過性を亢進させる。これをリーキーガットと呼ぶ。クローン病では細菌が腸管膜脂肪組織の深部に侵入していることが分かってきた。また、IBDでは悪玉菌が増える。その結果、他の細菌が抑制され、α多様性が低下する。これにより、Pseudomonadota(以前はProteobacterと呼称)門やFusobacteria門の菌が増え、Firmicutes門の菌が減ってくる。
門レベルではPseudomonadota門にほとんどの悪玉菌が含まれる。ここには大腸菌、Campylobacter jejuni、Campylobacter coliといった食中毒の原因となる細菌のほか、Helicobacter pylori(ピロリ菌)、Klebsiella pneumoniae(クレブシエラ肺炎桿菌)、Salmonella enterica serovar TyphimuriumやSalmonella enterica serovar Enteritidisといったサルモネラ菌、Salmonella enterica serovar Typhi(チフス菌)が入っている。IBD患者の腸内細菌叢ではこのような悪玉菌が増えて、善玉菌が減っている。
◆潰瘍性大腸炎の原因はFusobacterium varium
潰瘍性大腸炎患者では大腸粘膜の破壊により潰瘍が形成され、多くの細菌が付着する。大腸粘膜を培養したところ20種の細菌が検出され、とくにFusobacterium variumが多くなっていた。このうち、ベロ毒性を示すのはFusobacterium variumのみであった。さらにFusobacterium variumの抗体価は潰瘍性大腸炎患者で高くなっていた。マウスの腸内にFusobacterium variumが産生する酪酸を注入したところ、潰瘍性大腸炎類似病変が形成された。これらの結果から、Fusobacterium variumが原因となる可能性が示唆された。
電子顕微鏡像でもFusobacterium variumが大腸粘膜に付着し、侵入していることが確認された。炎症を起こすと、免疫細胞が細菌に対し防御機能を発揮する。その結果、大腸粘膜などに細菌が侵入することがある。大腸粘膜細胞にFusobacterium variumが付着するとIL-8やTNF-αなどのサイトカインが産生され、炎症を起こすことも分かってきた。これらの機序で潰瘍性大腸炎を起きると考えている。
胃がんの原因とされているピロリ菌は抗菌薬で除菌し治療する。ただし、1種類の抗菌薬ではピロリ菌の20%しか除菌できない。そこで、2種類以上の抗菌薬が併用されるようになった。潰瘍性大腸炎に対してもピロリ菌と同様に抗菌薬で除菌する治療が考えられ、潰瘍性大腸炎患者に対しFusobacterium variumに対する抗菌活性を持つ抗菌薬であるアモキシシリン、テトラサイクリン、メトロニダゾールを併用投与した。その結果、3か月後に50%以上の患者で、12か月後には約60%の患者で症状が改善した。偽薬群では約20%の改善であり、潰瘍性大腸炎の治療に抗菌薬が有効であると証明された。現在、潰瘍性大腸炎にはサラゾスルファピリジン、ステロイド剤、メトトレキサートに加え、抗TNF-α抗体薬、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬など生物学的製剤が使われている。これらに加えて、抗菌薬投与も新しい治療法として提唱している。
◆クローン病はヨーネ菌やAIECが原因
クローン病はMycobacterium avium subsp. Paratuberculosis(ヨーネ菌)という細菌が原因とという説もある。ヨーネ菌は家畜で下痢や血便を起こすヨーネ病の原因とされている。クローン病患者の組織からヨーネ菌が培養され、クローン病患者の組織の65%でヨーネ菌に特異的なDNA断片が検出されたとの報告がある。
また、接着性侵入性大腸菌(AIEC)もクローン病の原因と考えられている。クローン病患者の回腸粘膜でAIECが検出されたとの報告、成人クローン病患者の22~54%、小児クローン病患者の6~75%で回腸粘膜にAIECが検出されたとの報告がある。クローン病も腸内細菌が原因で起きている可能性があり、抗菌薬による治療で改善したとする報告もある。
◆IBSは腸内の善玉菌減少で発症
過敏性腸症候群(IBS)の症状は3か月以上継続する腹痛を伴う下痢または便秘が特徴で、有病率は人口の10%以上といわれている。IBS患者でも腸内細菌叢のディスバイオーシスが起き、Lactobacillaceae科やEnterobacteriaceae科、Bacteroides属の菌が増え、Bifidobacterium属やFaecalibacterium属の菌が減少している。つまり、腸内の善玉菌の減少によって、IBSを発症すると考えられている。
また、IBSは小腸細菌異常増殖と小腸粘膜防御機構低下も一因とされている。とくに便秘型IBSに関してはメタン産生菌が増えていることと、動物実験ではメタンを注入すると腸管運動が減弱すると報告されている。メタン産生菌が増え、便秘型IBSが起きている可能性がある。また、下痢型IBSに対する抗菌薬療法は、古くから行われており、2015年には米国で抗菌薬のリファキシミンが下痢型IBSに対する治療薬として承認された。ただし、日本ではまだ未承認である。
IBSに対してはプロバイオティクスの有効性も検討されている。乳酸菌、Bifidobacterium属の菌、酪酸菌、酵母などのプロバイオティクスがIBSに有効であるとの報告もある。ただし、症例数が少なく、セルフメディケーション的に行われており、普及に至ってはいない。
◆大腸がん組織にはフソバクテリウムが多い
近年、大腸がんが増えている。ヒトの腸では発がん物質も産生される。とくに動物性たんぱく質や脂肪、砂糖を大量に摂取すると腸内で腐敗し、アンモニア、硫化水素、アミン、フェノール、インドールなどの腐敗産物やニトロソアミン、二次胆汁酸などの発がん物質が発生する。古くから大腸がんの原因として病原性大腸菌、Bacteroides fragilis、Streptococcus bovisなどが報告されていた。最近の報告ではFusobacterium属の菌が関連しているとされている。例えば、大腸がん粘膜からFusobacterium nucleatumが多く検出されたという報告、Fusobacterium属の菌が大腸がん粘膜から培養されたとの報告がある。Fusobacterium nucleatumは遺伝子の変異やマイクロサテライト不安定性を促進し、実験的大腸がんで大腸腫瘍を増加させることも分かってきた。この実験的大腸がんに抗菌薬を投与すると、腫瘍が減少することも明らかになっている。
大腸がんは大腸ポリープががん化して発症するのがほとんどである。大腸ポリープにはFusobacterium nucleatumだけなく様々な細菌が付着し、がん化に関連することも報告されている。そこで、我々は健常者と大腸ポリープ保有者、健常者と早期大腸がん患者でそれぞれFusobacterium属の菌数を比較した。その結果、大腸がん患者や大腸ポリープ保有者でなく、健常者でもFusobacterium属の細菌が多く存在していた。今後は胃がん治療におけるピロリ菌除菌のように、大腸がんでも除菌による治療の可能性を検討していきたい。
◆食道がんは歯周病菌と関連
食道がんも細菌と関係している。食道がんは食道扁平上皮がんと食道腺がんに大別できる。食道扁平上皮がんは日本を含むアジアとアフリカに多く、食道腺がんは欧米に多い。
食道扁平上皮がんの組織からもFusobacteriumnucleatumが多く検出されている。この細菌は歯周病菌として知られている。また、Porphyromonas gingivalisも食道扁平上皮がんの組織から検出された。この菌も歯周病や歯肉炎の原因となる。つまり、食道がんは口腔内の細菌により発がんが促進されていると考えられる。
◆細菌の異常増殖によるエタノール産生がMASHを惹起
肝臓の疾患にも腸内細菌が関与している。肝炎にはアルコール性脂肪性肝炎(ASH)と代謝障害性脂肪性肝炎(MASH)がある。アルコールを過剰に摂取するとアルコールが中性脂肪になり、肝臓に蓄積されアルコール性脂肪肝になる。進行するとASHから、アルコール性肝線維症、アルコール性肝硬変、アルコール性肝臓がんになることもある。エタノール換算で1日あたり男性30g以上、女性20g以上のアルコール摂取でアルコール性脂肪肝が起きる。具体的なエタノール換算値は、缶ビール350mlで17.5g、日本酒1合で27g、ワイン1杯で25gとなる。ASHには腸内細菌も関連しているといわれてきた。アルコールを摂取すると腸管透過性が亢進し、バリア機能が低下する。腸内細菌のエンドトキシンが門脈から肝臓に到達し、肝臓で炎症を起こす。
アルコールを摂取しなくてもアルコール性脂肪肝と同様の現象が起きることがある。これを代謝障害性脂肪肝(MAFL)と呼ぶ。MAFLでもMASHから肝硬変、肝がんと進行する。代謝障害性脂肪肝の50%で小腸の細菌に異常増殖が認められている。細菌は腸内で発酵によりエタノールを産生する。これにより腸管粘膜の透過性を亢進し、エンドトキシンが肝臓に到達して炎症を起こす。
MASHでも腸内細菌の関与が考えられている。MASHの組織ではPseudomonadota門、Bacteroides属の菌など悪玉菌が増え、Lachnospiraceae科の菌が減少していたとの報告がある。腸内細菌のディスバイオーシスにはフルクトース(果糖)の影響が考えられている。果糖はトウモロコシから生産される糖類で、腸管透過性の亢進や、小腸での細菌異常増殖を惹起する。果糖が含まれる清涼飲料水などを過剰に摂取すると、MASHを引き起こす。ASHの治療はまず禁酒である。MASHでは果糖の摂取を減らす。これが難しい患者には抗菌薬やプロバイオティクスの投与、糞便移植が試験的におこなわれている。
◆肝硬変患者の血中にはエンテロバクテリアが多い
肝硬変はASHやMASHのなれの果てである。
肝硬変患者の腸内細菌叢ではPseudomonadota門やFusobacteria属の菌など悪玉菌が増え、Bacteroides属の菌は減っている。肝硬変では肝性脳症を引き起こすことがある。肝性脳症患者の腸内細菌叢でも悪玉菌が増え、善玉菌が減っているとの報告がある。これは肝性脳症には腸内細菌が関係していることを示唆する。
健常者の血中も無菌状態ではない。そのため血中には白血球やリンパ球が存在している。今までは、肝硬変患者の血中の細菌を検討するため血液を細菌培養しても、細菌は検出されなかった。これは白血球に殺菌作用があるためである。そこで、我々は細菌培養ではなく、血中の細菌遺伝子の検出を試みたところ、健常者に比べEnterobacteriaceae科の菌が多いことが分かった。この結果は腸内細菌が血液中に侵入し、肝性脳症が起こすことを示唆する。
肝性脳症に対して、過敏性腸症候群にも適応があるリファキシミンという抗菌薬が有効と分かっている。現在は肝性脳症の治療薬として、腸内細菌を改善するオリゴ糖のラクツロース、アミノ酸製剤と上述の抗菌薬のリファキシミンが用いられている。また、肝性脳症に関しても糞便移植と抗菌薬の併用によって再発を抑制できるとの報告がある。
◆膵がんもFusobacterium nucleatumと関連
膵がんは未だに難治がんとして知られている。病変が小さいため発見が遅れ、多くは進行してから見つかり予後が悪い。また、膵がん患者は歯周病が多く、口腔内の歯周病菌も多いとの報告もされている。膵がんの組織では歯周病菌の一つであるFusobacterium nucleatumが検出されており、Fusobacterium nucleatumの膵がんへの関連を示唆する。
膵がん患者ではPseudomonadota門の菌も多いとの報告がある。これらを総合すると、口腔内細菌や腸内細菌が侵入し、炎症を起こして、発がんに至ると考えられる。また、膵がん患者では、特徴的な腸内細菌が、がん免疫を抑制して、がんを進行させるともいわれている。
◆糞便移植は腸内細菌叢の乱れによる疾患治療に有効
腸内細菌叢を改善させる治療法として抗菌薬、プロバイオティクス、シンバイオティクスの投与が行われている。これらにより、腸内でBifidobacterium属の菌など善玉菌が増え、バリア機能が高まる。
近年は糞便移植も行われるようになった。難治性偽膜性腸炎患者に対して、抗菌薬としてバンコマイシンを投与し、糞便移植を行ったところ、抗菌薬投与のみと比べ糞便移植併用群で有意に改善した。ただし、抗菌薬投与で腸内細菌をクリーンアップした後に糞便移植する必要がある。同様に潰瘍性大腸炎でも抗菌薬投与と糞便移植の併用で改善されたとの報告がある。クローン病でも糞便移植が行われているが、有用とする報告、無効とする報告がともにあり、まだ有効性が証明されていない。これらの報告は症例数が少ないため、さらなる検討が必要である。また、難治過敏性腸症候群を対象にした糞便移植も有用と報告されている。
ただし、糞便移植にも副作用がある。死亡が0.13%、誤嚥性肺炎が0.16%、腸管穿孔と敗血症がそれぞれ0.07%、下痢が13%であった。過去には多剤耐性大腸菌による死亡例も報告されている。したがって、糞便移植は移植する糞便に病原体やウイルスがないと検査したうえで行う必要がある。
◆プロバイオティクスは腸管粘膜防御機能を修復、強化
腸管粘膜防御機能も重要である。腸管は粘液と粘膜のタイト結合で、物理的に細菌の侵入を防いでいる。さらに抗菌ペプチド、ディフェンシン、IgAの分泌による防御機能もある。リーキーガットを起こすとタイト結合が破綻して腸管粘膜の透過性が亢進し、細菌が侵入しやすくなる。細菌の侵入を排除しようと白血球やリンパ球が集まり、腸管粘膜が破壊され、さらに炎症が持続する。その結果、炎症性サイトカインが大量に産生され、全身性の炎症をもたらす。これが様々な疾患の原因となる。
リーキーガットの原因には、高脂肪食、増粘多糖類、乳化剤、人工甘味料、小麦のグルテン、乳製品のカゼイン、大豆製品のサポニンとレプチンなどがある。これらを過剰に摂取しないことが重要である。他方、乳酸菌とビフィズス菌は粘膜のタイト結合を修復、強化することが分かってきた。これらの菌はプロバイオティクスとして使われている。つまり、プロバイオティクスは粘膜上皮の修復をし、粘膜防御を強化して、疾患を改善する作用もある。
◆腸内細菌叢の多様性が健康を維持する
ヒトの腸内細菌は100種類以上、40兆個存在しており、その多様性がヒトの健康を維持している。ディフィシル菌を保有する人は多いが、直ちに疾患にはつながらない。これは、腸内細菌叢の多様性が保たれている場合、ディフィシル菌が占める割合も小さいためである。ディスバイオーシスが起きると多様性が損なわれる。その結果、ディフィシル菌の割合が高まり、偽膜性腸炎を起こす。
原因不明とされてきた消化器疾患の主因は腸内細菌と考えられるようになってきた。腸内細菌叢のディスバイオーシスにより、リーキーガットを起こし、腸管のバリア機能が低下する。ピロリ菌の除菌が広く行われるようになり、胃・十二指腸潰瘍は大幅に減少した。これに伴い胃がんも減少すると考えられている。ピロリ菌除菌のように腸内細菌叢の悪玉菌を除菌し、多様性を維持する治療が考えられる。また、ディスバイオーシスをプロバイオティクス、糞便移植で是正する治療の可能性が出てきた。これにより原因不明とされていた難病の治療ができるという展望が開けてきた。
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