今、看護師の栄養管理活動はどうなっているのか|寄稿:矢吹浩子先生 Part1
2025.07.09歴史「栄養ニューズPEN 」2024年12月号にご寄稿
【株式会社ジェフコーポレーション「栄養 NEWS ONLINE 」編集部】
看護師/Hand in Hand 代表 矢吹浩子先生
看護師はどの医療者より最も多く患者との接点が多い立場から、あらゆる医療チームで広く活動しています。日本がNSTを導入して25年以上経った今、果たして看護師の栄養管理における活動は、どれくらい発展したでしょうか。その25年間を振り返り、栄養管理における今後の看護師の活動を2回に分けて展望してみようと思います。
1.筆者が栄養管理に関わることになった経緯
NSTは1998年に尾鷲総合病院が始めたのが最初と言われている。当時、私は兵庫医科大学病院の看護師長を務めており、循環器内科病棟から消化器外科病棟に異動命令を受けたばかりで、正直、NSTという言葉を聞いたことがなかった。異動先病棟の看護師の一人がJSPEN(当時の名称は日本静脈経腸栄養研究会)の会員で、消化器外科病棟看護師に対してNSTの認知状況を調査していたところだったため、そこで初めてNSTという単語を知った。それまでは、私はNSTがどんなチームか何も知らなかったのである。予想通り、認知状況の調査結果も虚しいものだった。
ところで、私に異動命令を発した看護部長は、JSPENの初代看護師部会長の山田繁代氏で、山田氏は異動命令から幾日も経たないうちに今度は「消化器外科の師長は栄養管理ができなければならない」との自論から、私に、日本静脈経腸栄養研究会への入会とさらに世話人を引き受けるよう命じた。これが私の栄養管理の業界に身を置くことになったいきさつである。
ところが、最初に出席した世話人会で、日本静脈経腸栄養研究会は日本静脈経腸栄養学会に変わることが報告され、当時の世話人は自動的に評議員になり、私もその流れで評議員になってしまった。しかも、看護師部会員として、学会の発展と看護師会員増加に向けた活動を余儀なくされた。つまり、このときから私は、山田氏によって敷かれた栄養管理のレールの上に乗ることになったのである。
そんな甘い考えと乏しい知識で学会評議員をするのかと指摘される先生も少なくないと思うが、当時、栄養管理に携わっている看護師がいかに少なかったかを考えると、学会理事であり看護師部会長を務める山田氏の苦渋の方法だったのだろうと思う。
2.NSTの普及と栄養管理に携わる看護師の増加
さて、全国にNSTが普及した契機は、2005年の公益財団法人日本医療機能評価機構による病院機能評価事業Ver.5で、NSTの設置に関することが提示されたことによると思う(表1)。病院機能評価の認定病院になることがひとつのstatusと考えられていた当時、認定を得るための環境調整としてNSTの設置が加速したのだと思う。
こうしてNST設置が増えたことから、JSPENの看護師会員も年々大きく増加していった。
≪栄養管理に関わる看護師の役割論≫
JSPENは、2004年にNST専門療法士という学会認定資格を作り、認定を開始した。この資格では看護師、管理栄養士、薬剤師に同じ知識を求めた。NST活動にあたり、これら3つの職種が同じ水準で知識を有し議論することで、質の高い栄養管理を目指そうとしたものだが、基礎教育課程でわずかな時間しか栄養代謝を学ばない看護師には非常に高いハードルだった。合格率は3職種の中で最も低く、毎回60%に満たなかった。地道に研鑽し、試験を受けて合格した看護師は本当に立派だと思う。今も実際に現場のNST活動で活躍していることを願いたい。
NSTの普及とともに、私自身も各地で講演する機会が増えたが、要望される内容は概ね「栄養管理における看護師の役割」だった。このことは、看護師の足元基盤の不安定さを示すものだったと思う。当時、管理栄養士や薬剤師が職能を発揮する明らかな働きを横目にしながら、看護師には明確な役割が見えなかった。各地の看護師とたくさん会話をしたが、チームで栄養管理を行うことに楽しさや充実を感じている反面、行動指標が曖昧なジレンマを抱えているように感じた。私自身も「役割はこれ」と言い切れる材料がなく、唯一、患者が相手のNST活動を円滑に推進するための役割は、他職種より看護師が適することだけが明らかだった。これは栄養管理に限らず、どのチーム医療でも同じで、患者に最も身近な立場にあり他職種と最も多く連携している職種であることが理由で、栄養管理ならではというものではなかった。
当時、NST看護師の役割を考えるうえで参考にすべきは、米国静脈経腸栄養学会(American Society for Parenteral and Enteral Nutrition:ASPEN)のNSN(Nutrition Support Nurse)だったが、米国にはNP(Nurse Practitioner)制度によって看護師による中心静脈への投与ライン確保という役割をはじめ、介護者や一般市民への教育、経営への参加などグローバルな役割が謳われており、本邦にはそぐわなかった。さらに、前述したとおり、学会がNST専門療法士に求めたのが、栄養評価やプランニングで職種の隔たりなく議論できる、ということだったので、看護師も知識の習得や栄養管理計画を立案できることが目指すところと考えるようになり、ますます栄養管理における看護職の専門性が曖昧になっていったように思う。しかし、それから20年以上経った今、私はようやく看護師が栄養管理で何をすべきかを明確に伝えることができるようになった。これについては第2回の寄稿に載せることにする。
≪栄養管理実施加算とNST加算が看護師にもたらしたもの≫
2006年4月、診療報酬に「栄養管理実施加算」が新設された。他職種共同で栄養管理計画書を作成して栄養管理を行い、それを定期的に記録、評価、見直しを行っていくという、チームで行う個別栄養管理プロセスの実施である。患者1名について12点/日という少ない加算報酬だが、初めて栄養管理に注目された報酬だから、所属の大学病院でも管理栄養士をはじめNSTも俄然奮起した。
当時、看護師長でありNSTメンバーであった私は、管理栄養士らとどのように全入院患者の栄養評価と栄養管理を行うかを練った。看護師が入院時栄養評価に参画し、初期評価としていわゆるSGAを行う方法である。これによって急性期病棟で働く看護師全員が栄養評価の一端を担うことになった。兵庫医大病院全看護師の約900名を教育しなければならないため、使用するシートの使い方と看護師が行うSGAの方法について看護師長会で説明した。しかし、管理栄養士からは、「師長さん(矢吹)の病棟が一番書けている」と言われ、他病棟では看護師の記載がゼロというところもあると教えられた。今考えれば、多くの看護師が指示どおりにSGAを記録しなかった理由は、師長にも看護師にも、栄養のことは管理栄養士の仕事という考えが根底にあり、「手伝っている」程度の認識だったのではないかと思う。SGAは看護師ならではの評価法だと思うが、方法の説明だけでは看護師も栄養管理を行うという意識につなげることができなかったのは、当然だったと思う。
2010年4月には、栄養サポートチーム(NST)加算が新設され、その2年後の2012年に栄養管理実施加算は入院基本料の算定要件に組み込まれた。栄養サポートチーム加算の新設によって、全国的に病院NSTの設置はさらに増加し、NSTの一員として院内栄養管理に携わる看護師も増加した。この頃は、各病院NSTは栄養管理の勉強会や研修会を積極的に開き、栄養管理の啓発活動にも勢いがあったように思う。さらに、NST委員またはリンクナースなどと呼ばれる病棟の代表者(看護師)の存在も、NSTの活動を円滑に行う支えになっていたように思う。
ところで、感染対策や褥瘡ケアに関する研修には、その領域に専門的に関わっていない一般の看護師も多数参加するが、栄養管理関連への参加者の数はそれらにはとても及ばない。この差は何か。臨床栄養管理で看護師が職能を活かして何をするか、何を知っておかなければならないかということが不明瞭で、臨床で栄養管理に看護師が関わっているという実感が乏しいためではないかと思う。
私は、JSPENの看護師部会長だった山田氏の後を継いで長く部会長を務めたが、任期中に看護師ならではの役割を明確に打ち出すことができなかった。それを今、大いに反省し後悔している。
≪NST加算後のNSTのモチベーション≫
NSTは言うまでもなく「サポートチーム」である立場から、兵庫医大病院では、当時、強制介入は行わなかった。あくまでも、現場からの依頼に基づく介入スタンスを維持し、医師からの依頼を前提とした。ところが医師からの積極的な依頼はほとんどなく、病棟師長あるいは看護師から水面下での相談を受けて、病棟師長から主治医にNSTへの依頼を促してもらうという方法がほとんどだった。その後、私は医療法人明和病院に勤務場所を移したが、ここでも主治医からの依頼を受けることはほぼなかった。明和病院では、主治医からの依頼を待たずに独自にスクリーニングを行い、低栄養と判断する患者に半ば強制的に回診を行い、カルテにrecommendを記録する方法を通知した。しかし、NSTが書いた内容を主治医が速やかに読むのは難しく、結局、リンクナースや師長から主治医に伝えてもらうことがほとんどだった。そしてさらに、NSTのrecommendに準じて栄養投与内容を追加変更した医師は少なく、recommendに対する見解をカルテに記載する医師も残念ながら少なかった。この状況は明和病院に限ったことではないと思っている。なぜなら、各地の看護師と話しをすると、多くが同じようなことを述べていたからである。
厚生労働省はNST加算の位置づけを「医師の業務負担軽減」のひとつとしているが、NSTの活用がなければ何の軽減にもならないことは、NSTに従事している者であれば皆共通に感じていることだろう。この状況はNSTのモチベーションを下げてしまう最も大きな要因だと思う。
栄養管理実施加算が始まって2年後の2008年に遡るが、JSPEN看護師部会は、その時点のNST専門療法士資格を有し所属先が明らかな看護師512名に活動内容のアンケート調査を行った。回答率は45.5%で201施設の233名から回答をいただいた。調査した2008年は全国的にNST設置の気運が高く、NSTもNST看護師も高いモチベーションを抱いていた頃である。しかし、NSTの運営について問うと、全体の半数以上が問題ありと答え、問題の中身は「活動に対するモチベーションの維持」と「啓発活動」が大多数だった。啓発の手応えがないこともモチベーションに影響していると考えられた。また、「看護部では感染や創傷ケアに比べ栄養管理を理解してくれない」「師長が栄養管理に興味がなく、何か提案しても嫌な顔をされる」など組織の問題も散見されていた。現在は、当時に比べ、病院全体でも看護部内でも栄養管理の重要性や必要性はよく理解されていると感じるが、NSTの活用の状況は、残念ながらそれほど変わっていないように思う。
3.NST看護師を取り巻く環境の変化
≪なぜ栄養管理領域に認定看護師制度が作れなかったか≫
栄養サポートチーム加算が新設されて間もなく、私は院外の某医師から「看護協会の認定看護師にどうして栄養管理領域を作らないのか」と直接尋ねられたことがあった。その医師は、現場でNSTの活動の意義と、看護師が知識を持って栄養管理を支えることの意義をよくわかっていて、だからこその発言だと、私は思った。嬉しい要望だった。
先のアンケートでは、NST専門療法士の資格を持った後は、NST内での立ち位置は変わったが看護部内では何も変わらなかったという結果だった。やはり、学会資格ということで日本看護協会の認定看護師とは周囲の認識が全く異なるということを思い知らされた。そこで、前出の山田氏と、日本看護協会の認定課程を作るために必要なことを調べ、準備を進め、まず教育の受け皿となってほしい大学の理事会に承認をもらった。しかし、この頃、ちょうど厚生労働省の特定行為研修制度が始まり、日本看護協会は新たな認定看護領域を創設するより、既存の認定看護師の認定領域の拡大(特定行為)に視点が向いており、我々の計画は頓挫せざるを得なかった。
≪特定行為としての「栄養および水分管理にかかる薬剤投与」≫
特定行為研修は21区分38行為あるが、研修の領域別パッケージのほぼすべてに「栄養および水分管理にかかる薬剤投与関連」が組み込まれており、どの領域にも必要な知識と技術という位置づけとして捉えられていると考えることができる。したがって、21区分の中で「栄養及び水分管理にかかる薬剤投与関連」に最も多くの研修修了者を輩出している。(表2)
認定看護師は技術だけではなくその領域の看護を包括しているため、この特定行為は我々が考えていた認定看護師とは大きく異なるが、栄養や水分投与のスキルを有する特定行為研修終了看護師が多いことは喜ばしいことではある。
領域の特定行為を合わせて取得した認定看護師によると、「栄養と水分管理にかかる薬剤投与関連」の研修でBEEの算出にHarris-Benedictの式を教わり、タンパク質必要量の考え方も学んでいる。特定行為研修の隣地実習では、実際に手順に基づいた栄養処方を実施しなければならないが、実施内容は「実習施設に委ねる」とされ、実習施設の医師がどのように「栄養と水分管理に係る薬剤投与」を教え、研修看護師がどのように実施しているかは不明である。
本来、この特定行為研修を終えた看護師が、もっと現場の栄養投与内容に目を向けてNSTやNST看護師とも連携してもらえれば臨床栄養管理はもっと豊かな内容になると思うが、現状では、その実現は非常に難しいように思う。
4.看護師の栄養管理への関心
2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の問題から、医療業界の関心は感染対策とその予防及び治療に集中した。当時の私は医療法人総合病院の看護部長という立場にあったが、あらゆる診療が感染対策第一に一変したと感じた。他者との接触が激減し、患者ケアも最小限にせざるを得ない状況になった。NSTの活動を休止した病院もあった。2020年までは栄養療法に関する研究会や講演会、もちろん学会も年々活発になっていた印象があったが、2020年からしばらくは対面開催がなくなり、webを利用した非対面での学びになった。外部から受ける刺激が激減し、各病院の看護部も感染に関する教育と啓発が主になったことで、栄養管理に関する教育や啓発の機会と方法は全く様変わりした。そして、栄養管理への関心は薄まってしまい、対面開催を再開した今も、私は、手応えとしてコロナ禍以前には戻っていないように感じている。さらに、コロナ禍によってパソコンや携帯情報端末などで受けられるe-learningに慣れ、平時に近づいた今でも、学会やセミナー、研修会もハイブリッド開催であれば、現地での参加ではなくwebを選ぶ看護師が増えた。手軽で身近になった良さはあるが、仲間づくりは困難になったと思う。現地開催に参加することで意を同じにする人と知り合い仲間の輪を広げることができるが、web参加ではそれは難しい。そういう環境の変化も“共に頑張ってみよう”とか“こんなときどうしてるの”などの意思疎通を乏しくし、コロナ禍で距離を置いてしまった栄養管理領域への関心と取り組みの復活は、看護師の場合、簡単ではないように思う。では、どうすればよいか。私は、各病院のNSTがもう一度、病棟看護師への啓発活動を行い、看護師が患者の栄養管理の何に、どんな目的をもって、いつどのように何をしなければならないか、に目覚めることを導いてほしいと思う。そして全国の看護師には、栄養障害のある患者の回復とQOLの向上のために、輸液や経腸栄養剤の投与、食事摂取量や排便状態の観察や記録など、「業務」の一環から栄養管理に必要な「看護」に変換していってほしいと思う。
次回へ続く…
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