第39回日本臨床栄養代謝学会学術集会 会長特別企画 政策セミナー 令和6(2024)年度診療報酬改定の方向性について
2024.06.14フレイル・サルコペニア令和6(2024)年度診療報酬改定の方向性について
座長
小山 諭(新潟大学 大学院保健学研究科)
古田 雅(東邦大学医療センター大森病院 栄養部)
厚生労働省 保険局医療課の日名子まき氏は臨床における栄養管理の課題として、急性期病院での栄養状態が悪い高齢者に対する栄養管理、誤嚥性肺炎を中心とした高齢救急患者受け入れ、回復期リハビリテーション病棟の栄養管理の在り方、療養病棟における中心静脈栄養の増加、医療機関と介護施設の栄養情報連携などを指摘した。令和6年度診療報酬改定では、これらの課題に対応するためリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算、地域包括医療病棟入院料、療養病棟における経腸栄養管理加算、栄養情報連携料の新設、回復期リハビリテーション病棟や訪問栄養食事指導の要件追加などが行われたと説明した。
◆ 令和6年度診療報酬改定は+0.88%とされ、医療従事者のベースアップにも対応
令和6年度診療報酬改定については、2024年2月14日開催の中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会総会)で個別改定項目が示された。令和6年度診療報酬改定の基本方針は、2023年12月の社会保障審議会(医療保険部会)および社会保障審議会(医療部会)で決定されている。中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会総会)で示された具体的な点数設計や要件などは、この基本方針に則って決められた。
令和6年度診療報酬改定であげられた基本的視点と具体的方向性は、「現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」、「ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」、「安心・安全で質の高い医療の推進」、「効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上」である。このうち「現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」は重点課題とされ、医療従事者の賃上げを目指すこととした。また、「ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」は「リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の連携・推進」を含む。リハビリテーションと栄養については政府の「骨太の方針」でも触れられており、基本的方針の一つと位置付けられた。栄養が基本的方針として取り上げられたのは、今回の改定が初である。これに基づき、リハビリテーションと栄養の連携を推進するため、栄養関連で多くの評価や加算の新設、見直しが行われた。
令和6年度診療報酬改定は、診療報酬が+0.88%、薬価等は-1.00%とされた。従来、診療報酬改定の施行は4月1日とされていたが、今回は医療DX推進の観点もあり、準備期間を考慮して2024年6月1日施行となった。診療報酬の改定幅のうち、看護師や病院薬剤師その他の医療関係職種の令和6年度と令和7年度のベースアップ分として+0.61%、入院時の食費基準額1食当たり30円引き上げ分として+0.06%、生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料の再編分として-0.25%をあてる。これらを除いた改定幅は+0.46%であり、ここには40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工士の賃上げ分が含まれている。
◆診療報酬と介護報酬の同時改定に向け意見交換会で意見を集約
今回は診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬が同時改定となる。そこで、中央社会保険医療協議会総会および社会保障審議会介護給付費分科会がそれぞれ具体的な検討に入る前に、両会議の委員による意見交換会が3回開催された。この意見交換会は、関係者において新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた今後の健康危機管理やポスト2025を見据えた際の課題や方向性の共有を目的とし、具体的な報酬に関する方針については決めないこととしていた。この意見交換会でも地域包括ケアシステムをさらに推進するため、リハビリテーションや栄養の在り方についても議論された。
近年は急性期医療でも高齢患者が増加し、この点でも医療、介護の連携が必要になっている。令和6年度診療報酬改定では要介護者を含む高齢患者に対応した急性期入院医療が大きなテーマになった。急性期一般入院基本料を算定する入院患者の年齢構成で、65歳以上が占める割合はほぼ横ばいだが、85歳以上が占める割合は年々増加している。2021年のデータでは、入院患者の64%は75歳以上であった。また、2021年度における介護施設・福祉施設からの入院患者66万人のうち、急性期一般入院基本料を算定する病棟へ入院する患者が75%を占めた。
介護施設・福祉施設からの入院患者のうち、急性期一般入院料を算定する病棟へ入院する患者で最も医療資源を投入した傷病名は誤嚥性肺炎が約14%、尿路感染症とうっ血性心不全がそれぞれ約5%であった。また、急性期病院では安静臥床を原因とする歩行障害、下肢・体幹の筋力低下による機能障害などの入院関連機能障害が多いことが報告されている。入院関連機能障害の発生は全入院患者の30~40%にのぼるとの報告もある。介護施設・福祉施設から急性期病院に入院し、疾患の回復後に機能障害が残る患者が存在する。今回の診療報酬改定ではこのような患者への対応も大きなテーマとされた。
高齢入院患者は栄養状態も悪い。例えば42%の高齢患者が入院時に低栄養リスクを指摘され、26%が低栄養であった、との報告がある。高齢入院患者の栄養状態不良は生命予後不良と関連することも明らかになっている。臨床では高齢入院患者の栄養状態を維持し、回復させることが課題となっている。
急性期病院に入院した高齢患者に多くみられる誤嚥性肺炎では、多職種が連携して評価や介入を行い、早期に経口摂取を開始することが重要とされている。しかし、入院時に禁食とされた65歳以上の誤嚥性肺炎患者のうち、入院1~3日目に食事が開始された例は34.1%にすぎない。禁食による摂食嚥下機能悪化、栄養不足、口腔内不衛生なども懸念される。誤嚥性肺炎患者で摂食嚥下機能評価を行わずに禁食とされた群は、早期経口摂取群との比較で、入院中の摂食嚥下機能の低下、在院日数の延長、死亡率の増加がみられた、との報告もある。誤嚥性肺炎患者に対し、医師が入院早期に摂食嚥下機能評価を指示し、多職種による早期介入を行った場合、在院日数が短縮し、退院時経口摂取率が向上する可能性が示唆される。
これらを踏まえて、意見交換会では「要介護の高齢者に対する急性期医療は、介護保険施設の医師や地域包括ケア病棟が中心的に担い、急性期一般病棟は急性期医療に重点化すべき」、「急性期病院における高齢者の生活機能低下予防が重要で、各職種のチーム医療による離床の取組を推進すべき」、「急性期病院へのリハビリテーション職配置でより良いアウトカムが期待できる」、「リハビリテーションや栄養管理では多職種連携による、早期の評価や介入が重要」、「潜在的な低栄養の高齢者が多いことが課題で、踏み込んだ対策が必要」などの意見が出た。これらを踏まえて、令和6年度診療報酬改定では「リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の連携・推進」の部分で栄養関連の改定が数多く示された。
◆栄養関連の評価・加算は拡充を重ね、今回の改定も増強
栄養関連の評価としては、以前から栄養食事指導料が入院、外来、在宅それぞれに設けられていた。入院では栄養管理実施加算として管理栄養士配置に対する評価も行われていた。平成22年度診療報酬改定では栄養サポートチーム加算と摂食嚥下入院医療管理加算が追加され、栄養管理における多職種連携が評価されるようになった。以後、改定の度に栄養サポートチーム加算の対象が拡大されている。平成24年度診療報酬改定では栄養管理実施加算が入院基本料の要件とされ、栄養管理は入院治療の基本と位置付けられるようになった。
平成30年度診療報酬改定では回復期リハビリテーション病棟入院料1における栄養管理の充実として管理栄養士配置が施設基準とされた。さらに、入院時支援加算と退院時共同指導料の対象に管理栄養士が追加され、退院支援での管理栄養士の関与も評価されるようになった。また、緩和ケア診療加算に個別栄養食事管理加算が追加されている。
令和2年度診療報酬改定では栄養情報提供加算が新設され、早期栄養管理加算としてICUでの栄養管理も評価されている。令和4年度診療報酬改定では周術期栄養管理実施加算に加え、特定機能病院での管理栄養士の病棟専従配置を要件とする入院栄養管理体制加算が新設された。これらの診療報酬の改定で、管理栄養士を含むチーム医療から高度な栄養管理まで評価が拡充されている。
令和6年度診療報酬改定でも栄養管理の重要性の高まりを背景に、栄養関連の診療報酬の拡充、見直しが行われた。「入院基本料等の見直し」として、退院後の生活を見据え、入院患者の栄養管理体制の充実を図る観点から、栄養管理体制の基準を明確化した。さらに、「賃上げに向けた評価の新設」として、入院ベースアップ評価料を新設した。評価対象には管理栄養士も含まれる。また、「入院時の食費の基準の見直し」として、昨今の食材費高騰を背景に、入院時の食費の基準を1食30円引き上げた。
急性期医療については「急性期におけるリハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の取組の推進」として、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算を新設した。「地域で救急患者等を受け入れる病棟の評価」としては、地域包括医療病棟入院料が新設された。この評価の施設基準には専任、常勤の管理栄養士1名以上の配置が含まれている。また、「回復期リハビリテーション病棟入院料の評価及び要件の見直し」ではGLIM(Global Leadership Initiativeon Malnutrition)基準を用いた栄養状態の評価が要件とされた。「療養病棟入院基本料の見直し」では経腸栄養管理加算の新設が行われている。
「医療と介護の連携における栄養情報提供の推進」では入院栄養食事指導料の栄養情報提供加算を廃止するとともに、栄養情報連携料を新設した。
外来・在宅医療では外来・在宅ベースアップ基本料が新設され、賃上げに対する評価が行われるとともに、「慢性腎臓病の透析予防指導管理の評価の新設」として多職種連携に関する評価が追加された。また、「在宅療養支援診療所及び在宅療養支援病院における訪問栄養食事指導の推進」として、「訪問栄養食事指導を行うことが可能な体制をとっていること」が施設要件に加えられた。
◆入院基本料の見直しで標準的な栄養評価と退院後の生活を見据えた栄養管理を促進
高齢患者は入院時に多くが低栄養であると指摘されており、早期の評価および介入が求められている。そもそも栄養管理体制の整備は医療機関の基本的な要件とされており、入院基本料の算定でも「入院基本料及び特定入院料の算定に当たっては、栄養管理体制の基準を満たさなければならない」とされている。施設基準として、常勤管理栄養士1名以上配置、管理栄養士をはじめとした医療従事者の共同による栄養管理を行う体制整備と栄養管理手順作成、入院時の栄養状態確認、特別な栄養管理が必要な患者に対する栄養管理計画作成、栄養管理計画に基づいた栄養管理と定期的な栄養状態評価などが設定された。
入院時の栄養スクリーニングと個別的な栄養管理による効果について、急性期病院において入院後48時間以内に全ての患者に栄養スクリーニングを実施し、低栄養リスク患者に定期的に、管理栄養士が摂取栄養量の把握や栄養状態の評価を行い、個別の栄養管理を実施したところ、入院後30日以内の負の臨床アウトカムや全死亡率が低下した、との報告がある。この結果は早期の栄養評価と栄養評価に基づく個別の栄養管理の重要性を示す。
令和6年度診療報酬改定にあたって、「急性期から回復期、外来、在宅と医療全体で退院後を見据えて栄養管理を行う必要がある」との議論もなされた。実際に退院後の生活を見据えた栄養管理手順を作成し、栄養・食生活の課題に対して退院支援を併せて行った例が報告されており、退院前の栄養状態を評価し、多職種で共有することで退院後速やかな支援が可能であったという。
入院後の栄養評価は48時間以内が有効、との報告がある。入院後48時間以内に実施された栄養評価の内容を調査した報告では、栄養スクリーニングが約8割、栄養アセスメントと栄養ケアプランニングがそれぞれ約6割、栄養介入が約4割だった。管理栄養士が病棟に配置されている場合、入院後に管理栄養士の患者訪問までの日数が短く、入院期間の体重減少量と体重減少率が抑制されたと報告されている。
しかし、管理栄養士の病棟配置が施設要件である回復期リハビリテーション病棟入院料1以外では、管理栄養士の病棟配置の割合は低い。また、病棟配置の管理栄養士は栄養管理として、栄養状態の評価や計画作成、モニタリング、食事の個別対応をほぼ実施していた。一方、栄養情報提供書の作成やミールラウンドは、他の項目と比べると実施割合が低い。
特に誤嚥性肺炎患者に対しては早期の評価や介入を行い、多職種連携で経口摂取を開始することが重要とされている。しかし、栄養管理計画作成、離床やリハビリテーションの計画作成、口腔管理に関する計画作成での多職種連携は進んでいない。このような背景から今回の改定では多職種連携に関する評価の拡充、見直しがなされた。
「入院基本料等の見直し」では、基本的な考え方として4項目があげられた。まず、40歳未満の勤務医師、事務職員の賃上げを促進するため入院基本料の評価を見直す。あわせて、入院患者の退院後の生活を見据え、栄養管理体制の充実を図る観点からは、栄養管理体制の基準の明確化、人生の最終段階における適切な意思決定支援を推進する観点からは、意思決定支援についての指針作成を要件とした。さらに、医療機関における身体的拘束を最小化する整備を求めている。これらの考え方に基づき、全ての入院基本料が上乗せされている。このうち栄養管理体制の基準としては、GLIM基準をはじめとした標準的な栄養スクリーニングによる栄養状態の評価を、退院時を含め定期的に行うことが求められた。
◆リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算を新設し、急性期病院でのリハビリテーションと栄養管理を推進
「急性期におけるリハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の取組の推進」では、急性期医療におけるADL低下予防の推進を基本に、リハビリテーション、栄養管理、口腔管理の連携とともに、リハビリテーション(土曜日、日曜日、祝日に行うリハビリテーションを含む)、栄養管理、口腔管理についての新たな評価に基づき、ADL維持向上等体制加算を廃止し、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算として1日につき120点が追加されている。具体的な内容としては入院した患者全員に対し、入院後48時間以内にADL、栄養状態、口腔状態の評価を行い、リハビリテーション、栄養管理、口腔管理の計画を作成するとともに、計画に基づく多職種の取り組みを評価する。対象は急性期一般入院基本料、特定機能病院入院基本料、専門病院入院基本料を算定する患者となる。施設要件はADLの維持・向上や栄養管理の体制整備、2名以上の専従、常勤の理学療法士、作業療法士もしくは言語聴覚士の配置、1名以上の専任、常勤の管理栄養士配置、口腔管理体制の整備とされた。
従来のADL維持向上等体制加算80点に比べ、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は120点であり、40点上乗せされた。さらに、疾患別のリハビリテーションや入院栄養食事指導料が対象となる患者については、併せて加算できる。リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算を利用しリハビリテーションと栄養管理の連携体制を整備したうえで、必要な患者には疾患別のリハビリテーションや入院食事指導料を利用することで各専門職による支援を強化することが可能と考えている。
◆地域包括医療病棟入院料新設で高齢者の救急患者受け入れ体制の充実を促進
令和6年度診療報酬改定では高齢者の救急患者受け入れについても見直された。高齢者の入院については「誤嚥性肺炎や尿路感染症は対応可能な地域包括ケア病棟での入院治療が必要と考えられるが、看護配置が13対1であり対応には限界がある」「地域一般病棟や地域包括ケア病棟など急性期一般入院料1以外の病棟で高齢者救急に対応できる体制を備えた病棟の評価が必要ではないか」と指摘されている。
現在、急性期医療を提供する急性期一般入院料の病棟ではリハビリテーションや栄養管理にばらつきがある。また、在宅復帰を担う地域包括ケア病棟の救急患者の受け入れにもばらつきがある。この点から「救急患者受け入れ体制整備」、「一定の医療資源投入で急性期から速やかに離脱」、「早期の退院に向けたリハビリテーション、栄養管理」、「退院に向けた支援」、「早期の在宅復帰」を包括的に提供する新たな入院医療が必要と認識された。
そこで、高齢者の救急患者をはじめとした急性疾患患者に対する適切な入院医療推進のための新たな評価を行うこととし、地域包括医療病棟入院料が新設された。この評価では救急患者の受け入れ体制を整え、リハビリテーション、栄養管理、入退院支援、在宅復帰等の機能を包括的に担う病棟について1日につき3,050点を評価する。この評価でもリハビリテーションと栄養の位置付けが重視され、看護配置は10対1、2名以上の常勤の理学療法士、作業療法士または言語聴覚士の配置、1名以上の専任、常勤の管理栄養士配置、を施設基準としている。
◆回復期リハビリテーション病棟の栄養管理の要件を強化
回復期リハビリテーション病棟における栄養状態の把握についても課題が指摘されている。現状、回復期リハビリテーション病棟に配置されている管理栄養士は、回復期リハビリテーション病棟入院料1で常勤換算0.9人である。病棟配置の管理栄養士による栄養管理として、栄養情報提供書の作成以外の栄養管理は8割以上で実施されていた。また、回復期リハビリテーション病棟においては脳血管疾患、運動器疾患、廃用症候群のいずれにおいても、3人に1人程度は特別食加算を算定していた。この結果から、回復期リハビリテーション病棟では、ある程度の栄養管理はされていると考えられる。
回復期リハビリテーション病棟では、特別食加算算定者または低栄養に該当し、自宅に復帰する患者に対する入院栄養食事指導料の算定対象となる患者も一定数存在していることが分かった。しかし、回復期リハビリテーション病棟のうち約1割ではほぼ全ての対象患者に入院栄養食事指導料を算定していた一方、約2割は全く算定していなかった。
近年、栄養評価の新たな手法が提唱され、2018年には世界的な低栄養評価基準としてGLIM基準が発表された。現在、臨床で栄養アセスメントツールとしてGLIM基準を使用している医療機関の割合は8.6%であった。一方、栄養アセスメントツール使用なしの割合は24.1%と最も高かった。GLIM基準のアセスメント項目である食事摂取量、BMI、体重減少、炎症は多くの医療機関で使用されていたが、筋肉量を使用していた医療機関は13.0%だった。
そこで、より質の高いアウトカムに基づく回復期リハビリテーション医療推進の観点から、回復期リハビリテーション病棟の要件と評価を見直した。栄養関連では、回復期リハビリテーション病棟入院料1について、入退院時の栄養状態の評価にGLIM基準を用いることを要件とするとともに、回復期リハビリテーション病棟入院料2~5においてはGLIM基準の使用が望ましいとした。
◆療養病棟では経腸栄養管理加算を新設し、経腸栄養の実施を推進
療養病棟では経腸栄養の選択が少ないことが課題であった。療養病棟における中心静脈栄養実施患者の割合を2018年と2022年で比較すると、減少した施設は10%未満で、50%以上の施設で増えていた。療養病棟では平成18年度の医療区分適用後に中心静脈栄養の患者が増加したとする報告もある。
『静脈経腸栄養ガイドライン第3版』では栄養療法が必要な場合の栄養投与ルートの選択として、可能な限り経腸栄養を選択し、静脈栄養は、経腸栄養または経口摂取が不可能または不十分な場合に用いる、とされている。療養病棟における経腸栄養は、中心静脈栄養と比較し、生命予後が良好で、抗菌薬の使用が少ないことが報告されている。
そこで、「療養病棟入院基本料の見直し」として、療養病棟における適切な経腸栄養の管理の実施について新たな評価を行うこととした。この評価では療養病棟に入院中の患者に対し、『静脈経腸栄養ガイドライン』などを踏まえた栄養管理について説明した上で、新たに経腸栄養を開始した場合に、開始した日から7日を限度として1日につき300点を所定点数に加算できる。
◆栄養情報連携料新設で医療機関から介護施設等への栄養情報提供と連携を深める
医療と介護の連携の一環として、栄養情報提供連携の推進についても見直された。従来は入院栄養食事指導料として栄養情報提供加算が設けられていた。この加算では退院後の栄養食事管理について指導し、入院中の栄養管理に関する情報について文書を用いて患者に説明したうえで、これを他の医療機関や介護老人保健施設の医師または管理栄養士と共有した場合に50点を算定できる。入院栄養食事指導料の算定回数は、2020年に減少したものの、近年は概ね横ばいであった。一方、栄養情報提供加算の算定回数は、入院栄養食事指導料の算定回数に対して少なかった。
介護施設から入院する患者は低栄養や摂食嚥下障害が多い。例えば、他の病院・診療所の病棟から転院、入院した患者または介護施設・福祉施設に入所中で入院した患者のうち約3割が入院時に低栄養であり、2割弱が摂食・嚥下機能障害を有していたとの報告がある。また、退院後に介護保険施設に入所する高齢患者の約4人に1人は退院時に低栄養であり、約5人に1人は摂食・嚥下機能障害を有していたとの報告もある。
経管・経静脈栄養の実施割合は、転帰が死亡などで終了となった患者以外では、入院時と比べ退院時に減少していた。しかし、他の医療機関への転院や介護保険施設に入所する患者では、退院時も1割強が経管・経静脈栄養を実施していた。このように介護施設・福祉施設に入所する患者の一定数で経管・経静脈栄養が継続されている。
医療と介護の栄養情報提供連携は十分ではない。介護保険施設の管理栄養士に対して栄養情報連携を行う対象を質問したところ、「連携先なし」という回答が最も多く42.3%だった。一方で栄養情報連携の必要性を感じる入所者として、摂食嚥下障害が96.1%、低栄養リスク有が88.1%の施設で挙げられていた。これらの結果から、介護保険施設の管理栄養士が入所者の栄養管理に関する情報について、他の介護保険施設や医療機関の医師または管理栄養士などに提供する必要性があると考えられる。
そこで、「医療と介護における栄養情報連携の推進」として栄養情報提供加算を廃止するとともに、栄養情報連携料を新設した。栄養情報連携料は他の医療機関または介護保険施設に転院・入所する患者について、入院していた医療機関の管理栄養士と転院・入所する先の管理栄養士が連携し、入院中の栄養管理に関する情報を共有した場合に70点を算定できる。
◆在宅での栄養指導を充実するため訪問栄養食事指導の体制整備を要件化
在宅における栄養管理も見直された。在宅療養高齢患者の多くに、栄養障害や摂食・嚥下障害が認められ、要介護度が高いほどその割合も高くなると報告されている。現在、在宅での栄養指導では、介護保険による居宅療養管理指導のほか在宅患者訪問栄養食事指導料が利用されている。
在宅患者訪問栄養指導料は在宅で療養を行っており通院が困難な患者を対象に、計画的な医学管理を継続して行い、医師の指示に基づき管理栄養士が訪問して具体的な献立を示すなど、栄養管理に係る指導を30分以上行った場合に月2回算定できる。
しかし、在宅での栄養指導のほとんどは介護保険による居宅療養管理指導が用いられており、在宅患者訪問栄養食事指導料および管理栄養士による居宅療養管理指導の算定回数は少ない。在宅患者訪問栄養食事指導料を算定していない理由として、病院では「算定対象となる患者はいるが、管理栄養士が訪問栄養食事指導を行うための体制が整っていない」との回答が多かった。機能強化型在宅療養支援診療所では「算定対象となる患者はいるが、管理栄養士がいない」、その他の診療所では「算定対象となる患者がいない」という理由が多かった。
『第8次医療計画』では在宅医療で訪問栄養食事指導を充実させるため、管理栄養士が配置されている在宅療養支援病院や在宅療養支援診療所、栄養ケア・ステーションの活用も含めて体制を整備する、としている。このように在宅医療での栄養指導の強化が求められていた。
そこで、「在宅療養支援診療所及び在宅療養支援病院における訪問栄養食事指導の推進」として在宅療養支援診療所と在宅療養支援病院で、医師が栄養管理の必要性を認めた患者に対して訪問栄養食事指導を行うことが可能な体制整備を施設基準に加えた。
◆多職種連携による栄養管理推進で患者の早期回復・QOL向上を目指す
令和6年度診療報酬改定では、このほか慢性腎臓病の透析予防指導管理の評価の新設など生活習慣病の進展予防などでも管理栄養士を含めた多職種連携についての評価が行われている。今回の改定を運用し、各医療機関でより適切な栄養管理が実施され、患者の回復やQOL向上につながることを期待している。
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