第46回日本臨床栄養学会総会・第45回日本臨床栄養協会総会・第22回大連合大会|ワークショップ3 GLIM基準の臨床応用 Part2
2025.10.30フレイル・サルコペニアワークショップ3 GLIM基準の臨床応用
座長
前田圭介(愛知医科大学栄養治療支援センター 特任教授)
鷲澤尚宏(東邦大学医療センター大森病院栄養治療センター 部長)
発表の要点
- JA愛知厚生連 足助病院 栄養管理室の川瀨文哉先生は中山間地域に位置する中小規模病院での栄養サポート体制について、GLIM基準を中核にした栄養サポート体制構築、栄養サポートに携わる人材育成、給食経営管理と栄養サポート両立の取り組みを紹介した。また、終末期患者や在宅療養患者への栄養サポートによって栄養状態を改善できた症例を紹介した。
- ディスカッションでは、栄養スクリーニングの必要性、栄養評価における血清アルブミン値の取り扱い、GLIM基準の汎用性、管理栄養士養成課程での臨床栄養教育の在り方などが議論された。
中山間地域の総合病院におけるGLIM基準を組み込んだ栄養管理体制
演者:川瀨文哉(JA愛知厚生連 足助病院 栄養管理室)
◆高齢患者の低栄養対策を実施
愛知県厚生農業協同組合連合会(JA愛知厚生連)足助病院は、豊田市の中山間地に位置する190床の中小規模病院である。当院診療圏は高齢化率が高い特徴があり、現状で40%を超えている。全国推計によると、2060年に高齢化率が40%に近づくとされており、当院周辺は日本の将来像と捉えられる。このような環境にある病院のため、急性期治療から看取り、介護予防活動、在宅医療、介護まで幅広く関わっている。
高齢者医療の問題の1つに低栄養がある。高齢者では低栄養の有病率が増加し、70歳以上の高齢者の約25%に低栄養を認めると報告されている。高齢者では栄養サポートのニーズが高い。当院も高齢者が多く、栄養サポート体制を構築する必要があった。
◆GLIM基準を中核とした栄養サポート体制を構築
令和6年度診療報酬改定でGLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準の使用が明記され、当院でも導入を検討した。そこで、質の高い栄養サポート体制を目指して、GLIM基準を活用した栄養ケアプロセスを構築した。当院では、栄養スクリーニングから栄養診断、重症度評価までGLIM基準を活用している。また、退院後の在宅療養における栄養食事指導の必要性を入院中から検討することも特徴である。
GLIM基準による低栄養の診断は、質の高い栄養サポートの中核となる。ただし、いくつかの項目で日本人向け指標が定まっていない。そこで、当院では科学的な妥当性だけでなく実行可能性にも注目して、独自の指標を定めている。
当院では入院患者全員に対して、MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)を用いて栄養スクリーニングを行う。BMIについてはアジア人の基準を採用した。筋肉量は下腿周径長で評価し、日本人向けのカットオフ値を用いている。下腿周径長を用いる場合には浮腫や肥満の影響が考えられる。そこで、報告されている補正値を用いて補正している。下腿周囲長では低BMI患者、肥満者に対する補正値も報告されている。しかし、当院ではBMIの高い患者や浮腫への補正のみを行うこととした。
低栄養の重症度判定についても日本人向けのカットオフ値が定まっていない。当院では下腿周径長とBMIのカットオフ値を設定している。筋肉量はカットオフ値の10%以上低下した場合を重度の低栄養とした。
◆栄養サポート体制を担う人材を育成、NST回診方法を見直し
GLIM基準は栄養サポート体制の中核ではあるが、これだけで質の高い栄養サポートが実施できるわけではない。当院では、ここ数年間で栄養サポートチーム(NST)を中心に院内の栄養サポート体制の構築に取り組んできた。例えば、2019年からNSTで臨床実地修練を行っているほか、自主勉強会も開催している。これらを通じて、栄養に関する人材の育成も進めてきた。
これにより5年間で栄養サポートチーム専門療法士が7名増え、臨床実地修練終了者は35名増加した。人材が育ってきたこともあり、NST回診件数は約2倍になった。栄養サポートチーム加算算定件数も増えてきた。これは、大規模病院では一般的な取り組みかもしれない。しかし、当院のような4病棟という中小規模病院で、各部門、各病棟に栄養に関するリーダーを配置できることは大きな意義がある。質の高い栄養サポート体制を構築する上では人材育成も重要である。
NST回診方法も変更した。当院では摂食嚥下機能低下や認知機能低下による栄養問題が多い。カンファレンスで食事状況を把握できなかったり、NST回診で患者に食事を摂取したか尋ねても覚えていなかったりする状況があった。そこで、多職種で食事状況を把握するためミールラウンドを導入した。これにより多職種でアセスメントするようになり、アセスメントの方法や結果、その後のプランが共有されるようになった。これは、病棟のスタッフにとってもスキルアップにつながったと考えている。
また、当院はJA愛知厚生連のグループ病院であり、転勤、異動がある。スキルやモチベーションの高い職員が異動したことにより、栄養サポートが継続できなくなることは地域に根差した医療を継続するうえで問題である。そこで、NST回診やカンファレンスの中心となるスタッフは持ち回り制とした。スタッフ全員が主体的にNST回診に関わることで、スキルやモチベーションが上がる。このような質の高いNST回診を持続できる体制の整備も行っている。
◆おいしさを重視した病院食を目指す
当院では、病院食の適正化にも力を入れている。質の高い栄養サポートを支える上では、給食経営管理も非常に重要である。当院は直営で給食経営管理を行っているが、昨今の状況は非常に厳しい。そのような中でも、病院食の質を落とさず、むしろ高めるための様々な取り組みを行っている。
まず、給食経営管理を行いながら栄養サポートを行うために必要な食事の整備を行った。具体的には食事箋を見直し、調理師の業務整理をした。代わりに質の高い栄養サポートのための業務を追加した。当院の平均在院日数は約20日と長いため、食事のメニューサイクルメニューを延長し、行事食や丼メニュー、麵メニューも導入した。このように、患者に食事を楽しみにしていただき、少しでも食事摂取量が増える工夫を行っている。個別化栄養サポートを行うための特別対応食、見た目に配慮した嚥下調整食も導入した。
当院では栄養サポートを充実させるために食事のおいしさについても重視している。栄養補助食品(ONS)についてもおいしさ、飲みやすさを考慮して選定した。当院入院患者のうち、約70%はGLIM基準で低栄養を認める状況にある。そのため、GLIM基準の導入だけではなく、食事を通じた栄養サポート体制の整備を進めてきた。
◆終末期患者にもNSTが介入し、在宅療養を実現
当院では人生の最終段階にある患者や在宅の患者に対する栄養サポートも行っている。70歳のがん悪液質患者にもNSTが介入した。腹膜がんにより急性期病院に入院し化学療法を行ったが寛解が得られず、ベストサポーティブケアの方針で、当院に在宅療養の調整を目的に転院となった。前院では、昼食のみうどんなど少量を経口摂取しており、エネルギー摂取の多くは中心静脈栄養(TPN)から行っていた。
当院入院初日に栄養評価および悪液質の評価を実施。GLIM基準は全ての項目に該当し、重度の低栄養であると評価された。すぐにNSTが介入し、アジアカヘキシアワーキンググループ(AWGC)基準を用いて悪液質の評価を行った結果、悪液質となり、おそらく不応性のがん悪液質であると判断された。栄養ケアプロセスにおける栄養診断では1年間で28%の意図しない体重減少があり、AWGC基準で悪液質と判定されたことから腹膜がん、がん性腹膜炎が原因の栄養代謝異常であると考えた。患者は在宅療養を希望していた。そこで、介入の目標は1ヵ月以内に1日3食の食事摂取、経口で1,000kcal/日のエネルギー摂取、TPNから経口摂取への移行とした。
NSTがミールラウンドなどを行いながら、栄養状態や症状をモニタリングした。エネルギー投与量を徐々に増やし、結果的にTPNから離脱できた。さらに在宅療養を考慮した食事への調整を行った。患者の状態をみながら、食形態を在宅でも継続しやすい通常食に近いものに変えていった。
この症例では、早期に低栄養を発見できたためNSTが早期介入できた。GLIM基準だけではなく、専門的な栄養アセスメントとして悪液質の評価も行うことで、NST主導で栄養プランを立案でき、それを達成できた。コンサルテーションを待つNSTではなく、早期からNSTが主体的に介入していく体制づくりが重要である。NSTによる専門的なアセスメントも重要と考える。
◆在宅療養患者に訪問栄養食事指導を行い、食事形態を適正化
在宅療養を行う80代の摂食嚥下障害の患者に介入した。数年前から誤嚥性肺炎を繰り返しており、直近1ヵ月でも誤嚥性肺炎で2回入院していた。栄養指導のアドヒアランス不良が考えられ、介入は居宅療養管理指導目的であった。
栄養評価では食事摂取量の減少はないものの骨格筋量低下を認め、重度の低栄養と考えられた。栄養ケアプロセスにおける栄養診断では、食事や飲水の際に誤嚥が示唆され、望ましい食事形態は「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021」の3~4と考えられた。原因は嚥下障害のレベルに適する食事形態の理解不足による不適切な食物選択と判断した。患者は「入院はしたくない」と強く希望していたため、1年間在宅療養を継続し体組成を維持する目標を立てた。
介入としては、継続的に食事の内容を評価してアドバイスを行った。この患者は「柔らかいものは食べたくない」という価値観を持っていた。アプローチしていく中で通販好きの一面を知り、訪問栄養食事指導時に、患者が通販で購入した圧力鍋を使って、患者とともに料理した。すると患者は「この圧力鍋を使うと、ここまで柔らかくできる」などと話すようになった。このようなモチベーションの上げ方もあると学んだ。また、訪問看護師や在宅医療の医師と連携を取り、栄養サポートについて随時報告した。訪問看護師や在宅医療の医師にも栄養サポートの認識が広がり、この後も類似の症例で介入を依頼されるようになった。在宅での栄養サポートにより入院することなく1年間在宅療養を継続でき、体重や体組成も増加・改善した。
この症例では、入院中に訪問栄養食事指導が必要と判断し、シームレスな訪問栄養食事指導の介入ができた。患者は退院すると、地域に戻る。高齢者では退院後も栄養サポートの継続が必要になるケースも多い。そのような場合に、地域で栄養サポートを継続できる体制も重要になる。
◆質の高い栄養サポートを実施できる体制構築が重要
質の高い栄養サポートはGLIM基準の導入だけでは達成できない。早期に栄養スクリーニング、評価を行い、介入を行う栄養サポート体制の構築が重要である。そのためには、栄養サポートを行うスタッフの育成が重要になる。また質の高い栄養サポートを支える給食経営管理も重要と思われる。在宅の栄養サポートは、今後の日本においても課題となる。この点について、本シンポジウムで参加者とともに考えていきたい。
ディスカッション

フロア●回復期リハビリテーションでも栄養評価が必須となってきた。外科領域では栄養評価に血清アルブミン値と血清総たんぱく値が必須と考えられてきた。しかし、GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準ではこれらは必要とされていない。今後、血清アルブミン値や血清総たんぱく値は評価しなくてもよいのか。
鷲澤●2000年頃から血清アルブミン値では栄養の評価はできないとされてきた。血清アルブミン値は炎症のマーカーと捉えられている。日本では栄養の指標として扱われてきた。米国の学会からは、血清アルブミン値は栄養指標ではないとするポジションペーパーが発表されている。
前田●2012年に米国静脈経腸栄養学会(ASPEN)と米国栄養士会が、血清アルブミン値は低栄養のマーカーではないというステートメントを発表した。しかし、日本をはじめ栄養を評価する報告が続いていた。そこで、2021年に改めてポジションペーパーが発表されたと考えている。
鷲澤●外科領域では一般的に血清アルブミン値が低い患者はリスクが高いとされている。このように、ハイリスク患者のスクリーニングという観点では、有用と考えられる。
斎野●がん研究有明病院で栄養サポートチーム(NST)が始まった時に血清アルブミン値は重視されていた。血清アルブミン値が2.5g/dL以下の患者で経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)を行い、その後の経過が悪いという経験もしている。血清アルブミン値は必要と考えているが、炎症の存在とあわせて考慮することが重要である。予後予測指標として重要と考えられる。
前田●愛知医科大学病院の患者約10,000人を対象に検討したところ、低栄養患者の半数は血清アルブミン値が正常範囲内であった。低栄養のスクリーニングとしては、感度が低い。つまり、炎症のマーカーと考えられる。
鷲澤●NTT東日本関東病院のように、24時間以内に介入するなら、栄養スクリーニングは不要なのではないか。
上島●栄養スクリーニングは多くの患者のなかから、栄養問題がある患者を抽出する役割がある。必要のない患者に栄養介入することは、医療資源の無駄遣いともいえる。必要な患者に集中的に介入して、効果を上げることが重要である。24時間以内に栄養スクリーニングをするべきかとの観点で考えると、早めに栄養スクリーニングすることが望ましい。入院患者であれば、入院時が栄養スクリーニングのよいタイミングと考える。
前田●24時間以内というのは、栄養スクリーニングを24時間以内に開始すると考えてよいのか。
上島●そのように考えている。栄養介入も早期に開始できればよいと考えている。
鷲澤●愛知県厚生農業協同組合連合会(JA愛知厚生連) 足助病院のように病床数が少なく、NST専門療養士が多く配置されている場合は、栄養スクリーニングを省略して、栄養介入してもよいと思われる。この点について、お考えを伺いたい。
川瀨●中小規模病院で、NST専門療法士が多ければスクリーニングはいらないのでは、との意見はある意味妥当である。ただし、JA愛知厚生連 足助病院は高齢者の患者が多く、低栄養の患者も多い。そのため、医療スタッフも低栄養患者に接することが日常的になってしまい、本来は早期から介入すべきところが、重度の低栄養になって初めて問題を認識することもある。本来は低栄養と診断され、栄養介入するべき患者でも、栄養状態に問題はないと考えられてしまう例もあった。このような背景で、MUST (Malnutrition Universal Screening Tool)からGLIM基準まで系統立てて低栄養診断をしていくことは、医療従事者の啓発につながる。当院はスタッフの転勤・異動もあるため、病院オリジナルの栄養アセスメントではなく、GLIM基準のような国際的な低栄養の診断基準を用いることで、プロセスの理解を容易にすることができると考える。
フロア●重度心身障害児医療型施設のNSTでコアスタッフをしている。令和6年度診療報酬改定でGLIM基準を用いることとされた。寝たきりの患者が多く、筋肉量は少なく、BMIも15~17と低い。GLIM基準を使うと、全員が低栄養と診断されてしまう。これは、現実とはかけ離れている。血清アルブミン値は炎症を反映した指標という理解は持っている。以前の基準を考えると、リスク因子から低栄養を判断することは重要である。しかし、GLIM基準をすべての環境で当てはめるのは難しいのではないか。とくに、低BMIでは筋肉量の測定が難しい。生体電気インピーダンス法(BIA)の機器は高価で、CTは被爆の問題がある。日本肝臓学会が指標としている下腿の筋肉も寝たきり患者はほとんどなく、変化も少ない。このような場合、どのようにすればよいのか。
前田●グローバルな基準をニッチな環境で使う際には課題がある。
フロア●在宅で寝たきりの患者も多く、ニッチではない。そのような場合でもGLIM基準を使えるのか。
斎野●高齢患者が多い施設でGLIM基準を使うと、多くの患者が低栄養になると考える。それでも、個別化した栄養サポートをする意味では、標準的な方法で低栄養を診断する手順は重要である。
上島●GLIM基準は心身障害や寝たきりの患者を対象としていないと考える。このような患者を対象とした新しい診断基準が開発されていくのではないか。寝たきりの患者でも、低栄養ではない場合があるのか。
フロア●そのような場合もある。
上島●寝たきりでも低栄養でない患者には、どのような特徴があるのか。
フロア●寝たきりの患者は運動量が少なく、筋肉量も少ない。その分、エネルギー必要量も少ない。
前田●食事摂取量低下がなく、疾病もなければ、GLIM基準でも低栄養と診断されないのではないか。
上島●一度、GLIM基準で評価し、低栄養に該当しない場合があるのかチェックしたほうがよい。ただ、GLIM基準が万能ではないとは考えられる。
前田●心身障害者の90%以上が低栄養であるとする報告、100%がサルコペニアであったという報告もある。心身障害者にGLIM基準を適用すると低栄養の診断が多くなることは想定されていると考える。
川瀨●JA厚生連 足助病院でもGLIM基準を用いて診断すると、低栄養の割合が非常に多くなる。これほど多くの患者で低栄養と診断されるのが適切なのか悩むこともある。しかし、低栄養を見逃す方が問題であると考えている。現在、GLIM基準使用の義務化は、回復期リハビリテーション病棟に限定されている。それ以外の施設では、まだ義務化されていない。また、小児については、GLIM基準の適用が明確になっていない。日本人の高齢者では、カットオフ値が示されていない部分もある。GLIM基準の導入には、こういった問題を対処する必要がある。GLIM基準は万能のツールではなく、診断後に適切な栄養サポートを行うことが重要である点は改めて強調したい。GLIM基準による低栄養の診断後は、栄養の専門家が患者の疾患やライフステージに特異的なアセスメントを行い、個別化のプランニングしていくプロセスが重要である。次の診療報酬改定では、GLIM基準の利用が広がる可能性が高いと考えており、私は特に高齢患者でGLIM基準を適切に利用するという視点で研究を進め、エビデンスを出していきたい。
鷲澤●低栄養にもかかわらず、見逃されている患者は多い。GLIM基準が明記された背景には、低栄養を漏らさず把握して、改善したいからと考えられる。
前田●栄養スクリーニングを行っていないと、診断できた低栄養患者は20~30%のみであったというお話があった。この結果は、NST稼働施設でも、潜在的な低栄養患者が存在している可能性を示唆する。GLIM基準を標準とすることで、潜在的な低栄養患者を顕性化させる意図があるのではないか。
フロア●栄養治療で介入すれば、当然、再評価が必要になる。しかし、GLIM基準は再評価に使えない。この点を考えると、各施設で基準を作成し、評価する方がよいと思われる。GLIM基準は栄養スクリーニングや栄養評価の手法としてはよいが、煩雑と感じている。当院の栄養治療のプロセスで、GLIM基準を用いることは難しい。また、近年は栄養関係の学会で栄養アセスメントに関する発表が減っている。この点を学会でディスカッションし、論文化するなど、エビデンス構築を進めていく必要があるのではないか。
上島●GLIM基準は低栄養診断までを行うもので、その後は疾患に特化した詳細な栄養アセスメントが必要になる。栄養アセスメントツールは、モニタリング指標としても活用できるものが望ましい。したがって、一律の手法とはならない。それぞれの疾患や患者タイプごとに、望ましい栄養アセスメントツールの研究を進めていく必要がある。現状では、妥当性が検証された栄養スクリーニングツールとして、NRS (Nutritional Risk Screening)2002の使用が多い。栄養アセスメントツールとしては、MNA( Mini Nutritional Assessment)、SGA(Subjective Global Assessment)、PG-SGA(Patient Generated -SGA)が多く使われている。栄養アセスメント後の栄養介入は個別化されている。したがって、栄養モニタリング指標は患者によって異なっている。
前田●GLIM基準で再評価するわけではないのか。
上島●そのような例はない。
前田●つまり、最初はGLIM基準で低栄養を診断するが、その後は個別化された栄養アセスメントツールを使い、栄養介入の内容を決めるというイメージか。
上島●入院患者では目標エネルギー摂取量を決め、その50%以上、75%以上という設定で介入している場合が多い。
フロア●GLIM基準にこだわらず、それぞれの施設で考えた基準で評価すればよいと考える。当院には予後推定栄養指数(PNI)の作成に携わった医師がいる。PNIは血清アルブミン値を用いる。そこで、血清アルブミン値を血清コリンエステラーゼ値に置き換えて検討したところ、同様の結果が得られた。PNIは多彩な疾患患者を対象にした報告でも使われており、妥当性が証明されたツールであると考えている。
前田●GLIM基準の目的は低栄養の診断である。GLIM基準で評価すれば、国際基準で低栄養であるといえる。その結果、主治医も低栄養の改善を考えるようになる。GLIM基準にはこのような意図があると思われる。GLIM基準で低栄養と診断された後は、栄養アセスメントを行った上で、患者個別の栄養問題を明らかにし、アプローチやモニタリングの方法を決める必要がある。病院全体でGLIM基準を用いて低栄養を診断することになれば、その後の個別対応もやりやすくなるのではないか。例えば、外科領域では術後の栄養アセスメントと栄養介入が術式ごとに変わるかもしれない。それでも、術後の栄養アセスメントや栄養介入の方法を作成する手順は統一してもよいと考える。
鷲澤●再評価の方法は患者が抱える栄養問題によって変わってくる。それをNSTのディスカッションで決定すればよい。しかし、ディスカッションをしないまま、病棟の看護師が再評価している場合がある。すると、「食事摂取量が少ない」「静脈栄養投与量が足りない」といった栄養摂取方法の評価が多くなってしまう。これは看護師にとって栄養状態の再評価が難しいことも理由にある。食事摂取量が減っていれば、栄養状態も悪くなる。この意味では正しい再評価ともいえる。しかし、患者に望ましい栄養介入を行うためには、妥当性のある再評価が必要になる。この点はGLIM基準の導入だけでは改善が難しい。
前田●GLIM基準は低栄養を診断するためのツールであり、栄養ケアプロセスを置き換えるものとはならない。GLIM基準だけを頼りにしないほうがよい。また、現状では、臨床栄養の専門家が明確化されていないという問題がある。管理栄養士、看護師などどの職種も臨床栄養の専門家とは言い切れない。管理栄養士という名称には栄養、管理という言葉が含まれている。しかし、管理栄養士の養成課程では臨床栄養や栄養サポートは触れられず、卒後に学んでいる。病院で質の高い栄養サポートをしていくにあたり、管理栄養士として何を学べばよいのか伺いたい。
斎野●大学の管理栄養士養成課程で学んだことと、病院で管理栄養士の業務を行うにあたり必要になる知識には大きな乖離がある。病院での臨地実習は2~3週間行われるが、病院で勤務する管理栄養士の業務の一端を知る程度である。もう少し実臨床に則した知識を得られるとよい。とくに、診療報酬の内容は全く知らずに病棟に配属された。大学でも診療報酬の内容などを教えるべきと考える。
前田●川瀨先生のお話では、栄養ケアプロセスに触れ、PES(Problem Related to Etiology as Evidenced by Signs and Symptoms)報告を用いて患者の栄養状態について原因を含めて考察していた。その上で、介入計画を立てている。これは、大学で栄養ケアプロセスの骨組みを学んだため可能になったと考えられる。栄養ケアプロセスは管理栄養士の国家試験には出題されない。しかし、病院の管理栄養士には必要である。
川瀨●PES報告と栄養ケアプロセスは原因を考える過程が重要である。臨床では、食事摂取量が少ない、栄養状態が悪いなどの栄養状態に対して、その原因を探って栄養サポートを行うことが一般的である。その際には、低栄養だけでなく主たる疾患や、糖尿病などの慢性的な疾患や服薬、社会的な要因の影響も含めて考える必要があり、一定程度の経験とスキルが必要である。一方で、食事摂取量減少、低BMIなどの状態しか考えず、原因を考慮しない管理栄養士も存在するらしく、残念に思っている。管理栄養士の養成課程では、筋肉量評価や筋力評価などをどのように栄養アセスメントとして行うのかなど知識について、大学間に教育の差があるようにも感じており、学生教育の重要性も認識している。栄養ケアプロセスでは、低栄養に限らず栄養アセスメントを基に栄養診断を行うため、原因を考える習慣が身に付く。管理栄養士の国家試験でももっとこの点を問うような実践的な問題が増えることを期待するとともに、現場ですでに働いている管理栄養士にとっては、栄養ケアプロセスに関する学びなおしが必要であると感じる。
前田●管理栄養士の国家試験で栄養サポートについての知識が問われることになれば、学生も勉強する。その後、病院に採用されたときに、スムーズに栄養サポートができるようになる。これを実現するには、何が必要か。
上島●管理栄養士の国家試験は教科書に書かれていること、つまり、管理栄養士の養成課程で教えていることから出題される。しかし、教科書に低栄養についての記述は少ない。そのため、学生は低栄養や食事摂取量低下という問題を知らない。ただし、教育内容は管理栄養士養成施設によって違いがある。食事摂取量の低下の原因まで掘り下げて教育している施設は、まだ少ない印象がある。この分野の教育が普及すると、学生が管理栄養士になって、臨床で患者と向かい合ったときに、新しい考え方で栄養介入してくれるのではないか。これによって、低栄養に対する介入が発展していくと考えている。
鷲澤●外科医という栄養の専門家ではない立場から考えると、健常者を基準に患者の栄養介入のプランを考えているのではないかと思われる。『日本人の食事摂取基準』をベースに栄養素を追加あるいは減量している。これでは患者に適した栄養介入にはならない。しかし、このような内容まで管理栄養士のコアカリキュラムに入れると、学校給食などを目指す学生には重荷になる。どの程度までカリキュラムに含めるかという点は難しい。患者に必要な栄養介入については少しでも触れてほしいとは思う。例えば、集中治療領域では少量から栄養投与を始めると推奨されている。多量に栄養を投与すれば、悪影響があるためである。このような患者が病院に存在することぐらいは教えてほしい。この知識がないと、管理栄養士になり病院に配属されてから、初めて指摘され、落ち込んでしまうことになりかねない。
前田●日本でもこの点を教えている大学は存在している。このような大学出身の管理栄養士と話すと、確かに分かっていると感じる。若い管理栄養士がある程度の知識を持ってくるようになれば、臨床の栄養サポートがよくなるのではないか。臨床での栄養サポート教育を、より多くの管理栄養士養成施設に広めるためには、何が必要か。
上島●指導する教員が臨床から離れている現状がある。実際の臨床の状況を十分にうまく伝えられていないのではないか。臨床と教育のバランスをとる必要がある。非常勤講師として大学で指導した経験があるが、「教科書に沿って、国家試験の内容で教えてください」といわれる。まず、教科書が変わる必要がある。
前田●NST専門療法士のように栄養関連学会が栄養サポートの専門家と認めるレベルまで教育されていると、よい栄養サポートが実現できるのではないか。
鷲澤●外科医の立場から管理栄養士の国家試験をみると、胃切除に関する出題が多いと感じる。この傾向から、臨床では胃切除が多いという印象を持ってしまう。しかし、胃切除の患者だけでなく、肝切除の患者もいれば、大腸を切除した患者もいる。大腸を切除した患者でも、管理栄養士が介入しないと低栄養になる場合がある。胃切除ばかり扱うのはバランスが悪いのではないか。
斎野●管理栄養士になってしばらくしてから、国家試験を振り返る機会があった。その際も胃切除の出題が多いと感じた。しかし、大腸切除はほとんど出題されない。一般的に胃切除は食事摂取量低下につながるという認識がある。そのため、栄養状態と関係があるとして設問されていると考える。しかし、胃切除ではない患者でも栄養サポートを必要とする場合は多い。このような認識を広める必要がある。
上島●臨床では頭頸部や食道を手術した患者でも食事摂取量が低下する場合が多く、大きな問題となっている。摂食嚥下障害を抱える場合もある。このような患者が存在することは、管理栄養士の養成課程で全く学べなかった。臨床に出て、その存在を知り、驚いてしまった。満遍なく教育することは難しいかもしれない。それでも、教科書に書かれている量が全く異なっている。もう少し、均等に触れてもよいのではないか。食べる問題を抱えている患者について、幅広くフォーカスしてもよいと考えている。
川瀨●管理栄養士のコアカリキュラムの範囲は広く、教育の時間は限られている。その中で、臨床にだけ時間を割けないという意見も耳にする。先日、日本栄養士会の中村 丁次 会長とお話しする機会があった。その時は、「日本は、欧米諸国とは違い、様々な場所に栄養士が存在し、栄養改善活動を行っていることがメリットであり、これがジャパン・ニュートリションの要である」と伺った。私もこの意見には賛同している。様々な場所に栄養士が存在しているというメリットを活かしつつ、臨床で専門性を高めていければよい。最近は、管理栄養士の国家試験も応用問題のボリュームが増え、リフィーディング症候群などの臨床栄養に関する実践的な内容も出題されている。試験委員にも臨床現場で第一線を走る管理栄養士が入っているようである。このような動きがさらに進んで、臨床に配属される管理栄養士のレベルが上がるとよい。
前田●職能団体の国家試験では、それぞれ内規のような基準があり、教科書に載っていないと国家試験には出せないことが多いと聞く。おそらく管理栄養士も同様と思われる。管理栄養士を目指す学生が使う教科書を執筆している先生に栄養サポート、低栄養評価、栄養サポート体制、栄養ケアプロセスといったことを知っていただき、記述を加えていただきたい。加えて、臨床栄養でよく遭遇するリフィーディング症候群のリスク、術後の食事摂取量低下の問題、嚥下障害などを臨床栄養のカテゴリーとして紹介していただきたい。
鷲澤●本シンポジウムには様々な職種の様々な世代の方にご参加いただいた。その中でGLIM基準はあいまいさを持っているという認識を共有できた。また、本シンポジウムでは3名の先生にご講演いただいた。各先生が実際に行われている栄養サポートの対象はある意味特殊な患者とも思われる。しかし、行われている栄養サポートの内容は、各施設で広く参考にできる知と考える。ディスカッションでは、栄養評価における血清コリンエステラーゼ値の活用というお話もあった。本シンポジウムの内容を各施設に持ち帰っていただき、臨床に活かしていただきたい。
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