追悼: 長谷部 正晴 先生
2026.02.06栄養剤・流動食 , 歴史長年にわたり外科医療と臨床栄養の発展に尽力された長谷部正晴(はせべ・まさはる)先生が2025年10月28日、ご逝去されました(享年78歳)。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

長谷部 正晴 先生
(2008年撮影)
【ご略歴】
1973年3月 千葉大学医学部卒業
1973年5月 帝京大学医学部第1外科
1985年1月 帝京大学医学部附属病院 救命救急センター講師
1992年4月 米国Harvard Medical School, Brigaham and Women’s Hospital 外科Research Fellow
1994年11月 帝京大学医学部附属病院 救命救急センター助教授
2003年1月 医療法人社団大成会 長汐病院 院長
2009年1月 医療法人財団厚生会 古川橋病院 副院長
所属学会
日本外科代謝栄養学会(名誉会員)
日本臨床栄養代謝学会(現日本栄養治療学会)(特別会員)
日本臨床栄養学会(特別会員)
日本在宅静脈経腸栄養学会(現日本腸管リハビリテーション・小腸移植研究会(特別会員)
◆ 外科代謝栄養との出会いと歩み
長谷部先生は1973年に千葉大学医学部をご卒業後、帝京大学医学部第1外科に入局。以後、救命救急医療の最前線で研鑽を積まれ、1985年に帝京大学救命救急センター講師、1994年に助教授に就任されました。
1992年には米国ハーバード大学医学部ブリガムアンドウィメンズ病院でリサーチフェローとして研修され、外科代謝および栄養管理の知見を深められました。
帰国後は、術後代謝と栄養療法の重要性に着目し、日本外科代謝栄養学会、日本静脈経腸栄養学会(現日本栄養治療学会)などで長年にわたり積極的に活動され、特に救命救急領域における臨床栄養学、チームによる栄養管理の黎明期の発展を支えた重鎮のお一人といえます。
◆ 帝京大学医学部附属病院救命救急センター での活動
本紙の創刊間もない40年前、第14号(1985年1月号)に長谷部先生が所属する帝京大学医学部附属病院救命救急センターの訪問記事を掲載しています。当時、長谷部先生は重症患者の栄養管理に早くから注目されており、センター内に栄養・代謝研究チームを立ち上げ、重症患者の栄養管理における臨床的課題の追及に取り組まれました。
1つは、エネルギー基質の選択に関する検討です。当時米国コロンビア大学のKinney教授らがエネルギー源として脂肪を多く投与することで、炭酸ガスの発生を抑制し、呼吸器疾患のある患者や人工呼吸器を利用する患者にとっての管理における有用性を発表しました。そこで、長谷部先生は、はたして日本人の場合でも脂肪の大量投与は同じような結果を得られるのか、臨床研究を行ったところ、脂肪の比率を高めると確かに炭酸ガス産生量は減少するが、一方で酸素消費量、メタボリックレイト(エネルギー消費率)が低下する結果となったということです。
その他、重症外傷や熱傷、敗血症、さらにはMOF患者に対する適正な栄養投与量、アミノ酸組成、そして経腸栄養の有効な利用などの研究にも取り組まれているということでした。


◆ 医療と教育への尽力
本紙の第25回日本臨床栄養学会総会特集号(2010年)では、長谷部先生が「栄養療法の正しい理解と実践」をテーマに発言されており、NST活動や在宅栄養支援におけるチーム連携の重要性を説かれています。先生は「医師・看護師・薬剤師・管理栄養士がそれぞれの立場を尊重し合うことが、患者にとって最良の栄養サポートにつながる」と述べ、栄養サポートチーム(NST)の創設期から現場教育・啓発に携わられました。
長年、現場重視の姿勢を貫かれ、「教科書で学ぶ栄養ではなく、患者の変化から学ぶ栄養」という実践的視点を常に語られていました。学会発表や講演では穏やかな語り口のなかに、確固たる信念と臨床経験に裏づけられた重みが感じられました。
◆ 多くの学会の名誉会員、特別会員となられる
2003年に長汐病院院長、2009年より古川橋病院副院長に就任後も引き続きNST活動や在宅静脈経腸栄養(HPN)の普及にも尽力し、多くの学会で要職を務められました。その功績を讃えられ、日本外科代謝栄養学会の名誉会員をはじめ、日本臨床栄養代謝学会(現日本栄養治療学会)、日本臨床栄養学会、日本在宅静脈経腸栄養学会(現日本腸管リハビリテーション・小腸移植研究会などの特別会員になられています。
◆ 温かな人柄と後進への思い
同僚や後進の先生方は口をそろえて、「温厚で、常に相手の立場を思いやる先生だった」と語ります。若手医師や管理栄養士に対しては、「理論よりまず、患者の目を見ること」を指導の第一に掲げておられました。
本紙の幾度かの取材にも、前もって資料をまとめられ、真摯にかつやさしく丁寧にご対応いただいたことが強く印象に残っています。生前のご厚情に深く感謝申し上げるとともに、ここに謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
「栄養ニューズPEN」編集部一同

PEN 2001年3月号より
この年開催された第16回日本静脈経腸栄養学会では、初の試みとして、エキスパートと学会参加者がテーブルを囲んで朝食をともにしながら栄養の問題を語り合う「Meet the Experts」が開催された(共催:清水製薬株式会社)。医師、看護師、栄養士、薬剤師など約280人の参加者が10のテーブルに分かれ熱心に話し合われ盛会であった。長谷部先生は10人のエキスパートの一人として、「救急領域の栄養管理」を担当された。


「 少しは貢献できたかも … 」| 寄稿: 井上 善文 先生 Part 2
日本外科代謝栄養学会第59回学術集会 Report 「静脈栄養の未来:静脈栄養での問題点〜工夫・応用の可能性」
JSPEN 2023 Report: 委員会報告「がん患者のための代謝・栄養管理ガイドライン」の出版と今後の展望 Part1