JSPENワークショップ6 多職種で考える心不全患者のmalnutritionと栄養治療 Part2
2026.01.30栄養素ワークショップ06 多職種で考える心不全患者のmalnutritionと栄養治療~急性期から在宅までの実践と課題~
座長:
鈴木規雄(聖マリアンナ医科大学 循環器内科)
小笹寧子(高の原中央病院 循環器内科)
- 福岡県済生会福岡総合病院 栄養部の掛川ちさと先生は心不全患者では長期間継続する食欲不振に対し、入院中のきめ細やかな食事対応や外来での栄養サポート実施などを紹介した。さらに高齢になるほどエネルギー充足率が低下し、身体活動量低下、咀嚼力低下、食事回数減少、生活環境などの様々な要素がエネルギー充足率低下に影響していると説明した。
- 東北医科薬科大学病院 リハビリテーション部の千葉一幸先生は、心不全患者に対する運動療法と栄養療法において、急性期は早期離床を中心に介入し、回復期、維持期では長期的な低栄養リスク管理が必要と指摘した。その上で、低栄養と身体活動量低下が顕著な心不全患者に対し、低負荷の運動療法と栄養状態改善から開始し、食事摂取量増加に伴い運動療法の負荷をあげることで最終的に復職が可能になった症例を提示した。
- 総合討論では基礎エネルギー消費量測定方法や浮腫の影響が強い心不全患者での栄養評価方法、栄養指導の望ましい意思決定プロセス、急性期病院と地域のクリニックや在宅医療の連携などについてディスカッションされた。
急性期病院における心不全患者に対する食事介入と栄養指導
演者:掛川ちさと(福岡県済生会福岡総合病院 栄養部)
◆心不全患者の食欲不振に対し、きめ細かな介入を実施
福岡県済生会福岡総合病院は福岡市の中央区にある369床の三次救急医療機関である。管理栄養士は10名在籍しており、病棟担当制となっている。2023年度の栄養指導数は入院3,558件、外来1,830件であった。うち循環器に関する入院栄養指導は40%を占めている。年間の心不全入院患者は約260名である。心不全療養指導士は19名おり、うち2名が管理栄養士である。
入院中の栄養介入としては、入院2日以内に栄養状態や入院前の食事摂取状況を確認する。入院患者の95%は、経口摂取で栄養介入が始まる。そこで、食欲、症状、口腔内環境、嚥下機能、認知機能、嗜好などを患者本人や家族より聴取している。心不全患者の多くが入院時より食欲不振であり、食事支援を実施している。具体的にはどのように経口で摂取してもらうか、食事摂取量を増加または維持できるかといった入院中の課題に対して食事でできる対応を検討する。
当院では患者がその時に食べられるものを探し、食事摂取量80%以上を目標に対応を行っている。主食に関しては朝昼夕で異なるものを選択でき、患者の負担にならない量を設定している。必要に応じて、治療上問題にならない範囲で付加食品や栄養補助食品(ONS)を加える。食欲不振の時はできるだけ食べられるものを提供することを心がけ、可能な範囲で偏食にも対応している。それでも十分な食事摂取量が確保できない場合は、患者と相談しながら個別に献立を作成して食事提供を行っている。治療やリハビリテーションの効果が落ちないように食事摂取量増加に努め、栄養状態の維持を目指す。
治療による心不全症状の改善に加え、栄養介入することで入院当初は70%程度であった食事摂取量も、入院10日目には90%を維持できるようになる。また、経口摂取が可能になると、患者は「元気になった」と感じ、自信につながる。栄養介入の際には、栄養摂取の必要性や患者に見合った栄養量などについて栄養指導を行い、自宅での療養につなげている。
◆長期の食欲不振に対応するため、外来栄養サポートも実施
慢性心不全患者では退院後も食欲不振が継続する。734名の心不全患者を対象に退院時を基準として退院1か月後、6か月後、12か月後、18か月後の食欲不振の有無について検討した報告では、退院時は半数近くに食欲不振があり、退院18か月後でも22%で食欲不振が継続していることが分かった。食欲低下の原因として疲労感や症状、QOLの低下が関連しているとされている。このため心不全患者に対しては退院で栄養サポートを終了するのではなく、外来でも継続的な栄養サポートが重要である。
そこで当院では退院後のフォローのために心不全外来を開設している。対象患者は入院中の心不全カンファレンスでスタッフが抽出するほか、医師や看護師、管理栄養士が外来で注意すべき患者を見かけた場合にも対象とすることがある。外来受診時当日は、はじめに慢性心不全認定看護師による面談を行い、次に管理栄養士による栄養評価と栄養指導を行い、最後に医師の診察を受けるという流れになる。
◆問診で食事内容を聴取し、データ化してフィードバック
栄養指導で最も重要なのは問診である。問診では食欲の有無、味覚や体重の変化、排便や睡眠の状況などを詳しく聴取する。とくに1日の生活リズムは重要である。問診で患者の行動パターンを把握することで、食事回数の背景、服薬状況、身体活動量も分かってくる。家族背景や家庭環境、金銭感覚なども知ることができる。3~6か月に1回の割合で、問診で聞き取った食事内容について栄養指導支援システムを用いて食事摂取量を分析する。併せて、体組成分析装置InBodyでの評価も行う。これらの結果を合わせて患者に説明を行っている。
栄養指導支援システムを用いた分析では料理の写真を見ながら、主食の量や主菜など食事内容を入力していく。食事摂取量は手元にフードモデルを置きながら詳細に確認する。食事内容をシステムに入力すると、データチャートや表などで分かりやすく表示され、過不足や偏りを一目で確認できる。さらに栄養分析の結果とInBodyの結果を示しながら、栄養と運動を絡めて説明する。データ化することで患者も理解しやすく、食事療法の継続につながっている。
◆高齢になるほどエネルギー充足率が低下
当院心不全外来患者のうちInBodyが測定できた44名について、20~64歳、65~74歳、75~84歳、85歳以上に分け、栄養状態や体組成を検討した。平均MNA -SF(Mini Nutritional Assessment Short-Form)は65~74歳と85歳以上の女性で低栄養のリスクありに該当する数値となった。しかし、BMIは全ての年齢で正常であり、スクリーニングからは栄養状態は良好と分類された。握力で評価した筋力やInBodyで評価した体組成を見ると、65~74歳の女性で既にサルコペニアが始まっており、75~84歳および85歳以上では男女ともにサルコペニアの状態であった。65~74歳の女性と、75~84歳および85歳以上では男女ともに、栄養評価により低栄養と判定された。
当院心不全外来の初回栄養指導時に詳細な食事内容が聞き取れた患者60名を対象にエネルギー充足率を検討したところ、エネルギー充足率は87.7%と概ね良好であった。しかし、詳細に検討すると、エネルギー充足率60%未満が16.7%、エネルギー充足率60~80%未満が25%を占め、41.7%の患者はエネルギー充足率が80%未満であった。年齢別のエネルギー充足率をみると、18~64歳では104.7%と充足されていたが、65~74歳では85.3%、75~84歳では84.4%、85歳以上では84.1%と年齢が高くなるにつれて低下していた。
◆生活環境もエネルギー充足率に影響
栄養指導で問診すると、多くの栄養摂取上の問題点がみつかる。とくに食事摂取不良の患者では「お腹が空かない」という訴えが多い。「空腹感がないので食べない」という訴えもよく聞く。その原因として、高齢による消化吸収機能低下、蠕動運動低下、便秘、身体活動量減少が影響している。身体活動量減少は倦怠感や易疲労感が原因となっている。つまり、活動のためのエネルギーを十分に摂取できていないことが要因と考えられる。
食事回数減少の原因は、夜間に眠れないため起床時間が遅くなり、昼寝が増えて朝食や昼食を摂取する機会が減ることである。とくに朝は薬を飲むだけで満腹になってしまい、食事を摂れない場合が多い。栄養素の偏りの主な原因は、口腔内環境や咀嚼力低下により柔らかい料理ばかり選択したり、味覚低下で同じ食材や料理の利用が多くなったりすることである。エネルギー摂取量不足の原因は、以前に受けた生活習慣病予防のための栄養指導やメディアの影響により、炭水化物や油を摂らないことなどが多い。その他にも夜間頻尿で熟睡できなかったり、金銭的な問題で食材を買えなかったりするなど食事摂取に与える問題は様々である。
食欲不振の要因のうち運動習慣と咀嚼力、生活環境、食事回数について、エネルギー充足率に与える影響を検討した。運動習慣の有無で比較すると、運動習慣がある患者はエネルギー充足率が高い傾向であった。咀嚼力低下がある患者はエネルギー充足率が低く、咀嚼力がエネルギー充足率に大きな影響を与えていることが分かる。生活環境の違いで比較したところ、独居が最もエネルギー充足率が低く、家族や配偶者が同居している場合はエネルギー充足率が比較的高い傾向にあった。食事回数については1日3食摂取している患者でもエネルギー充足率は約80%であり、1日2食の患者はエネルギー充足率が極めて低くなる。1日2食の患者は独居に多く、生活環境もエネルギー摂取量に影響していた。
◆食事摂取を増やす工夫と運動療法を組み合わせて介入
そこで、当院ではこのような食事摂取不良の原因に応じて、食事摂取量を増やすための工夫を行っている。まず、現在の食事摂取量から10~20%の増加を目標とし、徐々に食事摂取量を増やしていく。食事摂取量が安定してきたら、さらなる食事摂取量のアップを意識しながら栄養バランスを整えていく。この段階では栄養摂取量を増やす目的での食事量の増量を避けるように注意する。これは食欲がない患者で食事量を増やすと食べられなくなってしまうことと、1食の量を多くすると次の食事が摂れなくなるためである。さらに、手に届くところに食べ物を置き、気付いた時に間食することを勧める。その際には目新しい食品ではなく、身近にある食品を使うと継続しやすい。夜間にしっかり眠れる環境を整え、生活リズムを身に付けてもらう。
食事摂取量が増え、活気が出始めたら、軽いレジスタンストレーニング運動を提案する。食事摂取量が十分に増えたときには、ウォーキングなどの有酸素運動も提案している。さらに、多職種に介入を依頼して、薬剤や社会的支援の調整を行い、食事摂取が安定する環境づくりを行う。だたし、このような工夫をしても、思うように食事摂取量が増えないこともある。それでも、定期的に介入していくこと、介入しながら変化を確認することが重要である。
当院で2回以上栄養介入を行った患者34名を対象に介入前後の食事摂取量の変化を検討した。エネルギー、たんぱく質はともに摂取量が増加していた。脂質の充足率は介入後に100%を超え、エネルギー摂取量アップに影響していた。充足率が最も低かった炭水化物でも摂取量が増加していたが、目標の80%には達していない状況であった。しかし、全体のエネルギー充足率が向上したため、運動を開始できる状況になった症例も数多く存在する。栄養バランスに対する介入なども含めて、継続して関わる必要があると思われる。
◆入院から外来まで継続した栄養サポートが必要
心不全患者は栄養摂取不足が多く、低栄養に陥るリスクがある。心不全の患者においては、心臓悪液質に陥らないよう早めに介入し、適切な栄養評価と栄養状態の維持、改善を目的とした栄養サポートを行うことが必要である。心不全が安定した状態においても定期的な介入を行い、経時的な食生活や栄養状態の変化に対応しなくてはならない。そのためにも管理栄養士が入院から外来まで継続して、適切な栄養サポートが求められる。
運動療法による心不全患者の機能改善と栄養サポート:急性期から慢性期まで
演者:千葉一幸(東北医科薬科大学病院 リハビリテーション部)
◆心不全患者ではステージごとに栄養療法と運動療法の内容を考慮
心不全は代謝異常による低栄養や体重減少を特徴とし、負のサイクルをもたらすことがある。心不全患者では腸管の浮腫、食欲不振、異化亢進により、低栄養が惹起される。また体液貯留、免疫機能低下による感染、サルコペニアも起き、これらが相互に関係して負のサイクルに陥る。医療従事者はこれらに対処しなくてはならない。
心不全患者ではステージの進行に伴い、栄養状態も変化するため、栄養療法が奏功する時期もあれば、なかなか効果を得られない時期もある。運動療法も同様に、負荷の高い運動療法を実施できる時期もあれば、最終的にはディコンディショニングやフレイルの予防に主眼を置かざるを得ない時期もある。このような心不全の進行において、カヘキシアは心不全の重症化や予後に大きな影響を及ぼし、栄養状態の悪化はQOLや生存率に重大な影響を与える。
低栄養は心不全患者の予後を悪化させるため、早期の栄養介入が求められる。欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)など海外の栄養関連学会でも、栄養の評価と介入が心不全の治療成績向上につながるとしている。ただし、心不全患者における栄養管理は塩分制限に偏る傾向もある。しかし、過度な塩分制限は食欲低下につながり、さらなる低栄養を招くリスクがあるため、この点には十分な注意が必要であり、日本でも実臨床での実践が求められている。
◆急性期では早期離床を中心に介入
心不全の急性期における理学療法士の介入は、早期離床や筋萎縮予防、心肺機能維持への関与に主眼が置かれている。安全な理学療法の導入により、患者の全身状態の改善が期待できる。そこで、理学療法士は患者ごとの栄養状態や病態を考慮し、それぞれに適した運動処方を考える。栄養療法と運動療法は車の両輪であり、身体機能維持・向上と栄養状態の相互の効果を狙った介入の調整が重要となる。
心不全治療では多職種による包括的なケアが必要となるため、それぞれの職種が専門知識を活かして、患者の全体像に基づいた治療戦略を立案していく。したがって、定期的なカンファレンスや症例検討を通じて、多職種で情報共有をしながら、患者ごとに個別化して介入する必要がある。
急性期の心不全管理では、病態が不安定な場合も多く、迅速な栄養評価と早期介入が求められる。この時期には血液検査、体重、BMI、食欲評価などを用いて栄養状態を把握する。運動療法では積極的な介入はできないため、早期離床に主眼を置き、安定した体位の保持などの介入が回復につながる場合もある。栄養バランスの両立を図るためにも運動療法と栄養療法の実践が必要であり、管理栄養士や看護師と連携しながら介入する。
◆回復期、維持期では長期的な低栄養リスク管理が必要
急性期を脱すると回復期から維持期へ向けて、長期管理を目指していく。病状が安定した後は、定期的な栄養評価と運動療法の調整が必要になる。この段階からはリハビリテーションを積極的に実践していく。介入の内容は患者の状態に応じて柔軟にプログラムを設計することが求められ、ここは理学療法士の腕の見せ所である。
維持期においては長期的な低栄養のリスク管理も必要としながら、QOLにも主眼を置かなければならない。在宅での継続した自己管理支援のため、今後はテレヘルスや遠隔地モニタリングを活用した介入も必要になると考えている。
◆50代心不全患者への介入例
50歳代男性の心不全患者に多職種で介入し、身体機能と栄養状態を改善できた症例を経験した。既往歴として高血圧と成人T細胞白血病リンパ腫があった。他院でがん治療を行っていたものの心不全を併発し、循環器内科医によるフォローの必要があるとして、2019年冬に転院してきた。がん治療と心不全治療を開始してから2か月後にリハビリテーションの依頼を受けた。この時は体重が低下しており、立つことも歩くことも困難で、患者は「このまま治療が続けられるか不安」と言っていた。この患者は自営業を営んでおり、「治療が終わったら仕事に復帰したい」という希望を持っていた。
初回リハビリテーションの評価を行い、多くの問題点を把握した。がん治療および心不全治療を行っているが治療抵抗性で、合併症が多発していた。心機能評価では左室駆出率(EF)が50%から40%に低下しており、不整脈も多く、循環動態はよくなかった。身体機能はベッドから立ち上がり困難で、病棟歩行はもちろん困難であった。栄養状態も低栄養が進んでおり、2か月間の治療中に体重が14kg減少していた。身体能力低下もあり、精神的な不安も訴えていたため、リハビリテーションでは身体機能の立て直しが必要と考えた。
握力は10kg以下、下腿周囲長は25cm、SPPB(Short Physical Performance Battery)は6点であり、体重は36kgであった。うつの評価スケールであるPHQ-9 (Patient Health Questionnaire-9)も8点で軽度のうつ状態と評価された。ADLをバーセルインデックスで評価したところ70点であった。身体能力低下は著明で、まずはこの点から介入を進めていった。
◆低負荷の運動療法と栄養状態改善から開始
強度の強い運動はできないため、柔軟性向上と下肢筋力低下抑制を目指し、最初はごく低負荷でのレジスタンストレーニングを実施した。自重からセラバンド、重錘と時間をかけて負荷を増していった。1か月ごとに体重と運動負荷量を計算し、運動量が過剰になっていないことを確認しながら進めた。
栄養状態を評価したところ、エネルギー摂取量の不足が確認された。そこで、栄養状態を立て直すための取組みを開始し、まず、栄養補助食品(ONS)を付加した。医師からは持ち込みも許可されたため、患者が食べたいと訴えた、自宅近くにある店のパンを家族に差し入れてもらった。リスク管理については心不全とがんのそれぞれのデータを見ながら、医師、看護師、管理栄養士、理学療法士が共同で介入した。
◆食事摂取量増加に伴い運動療法の負荷もアップ
介入から約1か月で自重トレーニングの訓練を開始できた。その後、体重や下腿周囲長も少しずつ増えていった。介入当初は、負荷の強いリハビリテーションは行えなかったものの、ベッド上での介入を継続したことが奏功したと考えている。この時点では運動療法よりも栄養療法を重視し、エネルギー量がマイナスとならないように注意しながら進めた。
リハビリテーション開始2か月時点でも体重は減少していなかった。体重が減少しない負荷量を計算しながら、リハビリテーションを進めていった。食事摂取量は徐々に増え、下腿周囲長も増加した。体重も増えてきた。リハビリテーション開始3か月目には屋外歩行が可能になり、重錘を用いたトレーニングもできるようになった。体重や筋肉量も増加が続いた。PHQ-9も最終的には0点となり、不安もなくなっている。
心不全の治療によりEFは40%から51%に改善している。心不全の治療が奏功したことも、栄養状態と身体機能改善に寄与したと思われる。身体機能は握力が倍近くになり、下腿周囲長は25cmから29cmになった。SPPBも6点から12点と満点になった。体重が増えて、精神面の不安もなくなった。バーセルインデックスも70点が100点になった。6分間歩行距離は421mであった。これは約3メッツの負荷に相当し、自宅での生活が可能な体力まで回復できた。退院後は復職している。
◆自宅退院後は仕事にも復帰
月1回の外来診療時にはリハビリテーション室に立ち寄ってもらい、身体機能評価をした。同時に自重での運動や有酸素運動の継続を指導した。栄養状態も体重測定と体組成、食事内容確認でチェックしている。患者は「自分らしく生きたい」と希望していた。「治療を始めて動けなくなり、心不全にもなって、痩せて食べられない。このまま死んでしまうのではないか」と言っていた。しかし、リハビリテーションをして治療が続けられるようになり、日常生活に戻れた。「自分の好きな仕事もできてよかった」と言うようになった。最後の評価では握力が25kgとさらに増え、下腿周囲長も32cmになった。体重も増え、6分間歩行距離も改善しており、復職して希望した生活を送っている。
入院時にはサルコペニア、廃用症候群に加え入院関連機能障害も問題となる。入院関連機能障害は入院時にADLや身体機能が低下することを指す。この患者はこれら3つの問題が重なっていた。栄養療法ではエネルギー必要量を積算したうえで、ONSや患者の嗜好品を導入した。さらに、継続的に食事摂取量を確認した。心臓リハビリテーションによる複合的な問題の解決により、心肺機能やQOLの改善、倦怠感の低減、心血管リスク低下が得られた。さらなる合併症を得ることなく、退院できた。最終的には精神的な安定も図られた。
◆理学療法士は運動療法を通じた栄養管理のサポートを実施
このような症例には統合的なアプローチが必要と改めて感じている。そのなかで理学療法士は運動療法を通じて栄養管理のサポートを行って、多職種連携の中心的な役割を担っていきたいと考えている。今後の展望としては、テレヘルスや遠隔地モニタリングといった先端技術を使うことで、在宅での栄養管理が可能ではないかと考えている。
総合討論
小笹●堤先生からは心不全患者の代謝状況に個人差があるというお話があった。掛川先生からはエネルギー充足率に影響する要素についてお話があった。福岡県済生会福岡総合病院ではエネルギー摂取目標量をどのように設定しているのか。
掛川●基本的にはHarris-Benedictの式で算出している。InBodyで評価できた患者の場合は基礎エネルギー消費量をもとにエネルギー必要量を算出している。
小笹●InBodyでどのように基礎エネルギー消費量を推定しているのか。
掛川●Inbodyで測定すると、自動で基礎エネルギー消費量が表示される。おそらく筋肉量などから算出していると思われる。患者の1日の行動パターンや身体活動量を把握して、それに応じた活動係数を乗じてエネルギー必要量を算出している。
小笹●堤先生にInBodyを用いた基礎エネルギー消費量算出についてご意見を伺いたい。
堤●一般にエネルギー必要量は基礎エネルギー消費量に活動係数やストレス係数を乗じて算出される。基礎エネルギー消費量はHarris-Benedictの式で算出されることが多い。しかし、Harris-Benedictの式は少数のデータに基づいた古い報告によるものであり、エビデンスに乏しい。そこで、心不全に限らず幅広い疾患の患者を対象に、間接熱量計で代謝状態を検討した。その結果、多くの患者でHarris-Benedictの式で求めた基礎エネルギー消費量およびInBodyで表示される基礎エネルギー消費量や安静時エネルギー消費量と、関節熱量計で測定したエネルギー消費量は類似していることが認められた。Harris-Benedictの式で求めた基礎エネルギー消費量、InBodyで表示される基礎エネルギー消費量はおおむね妥当と考えている。その上で、エネルギー必要量は筋肉量、カヘキシアの有無などにより調整するとよい。
フロア●心不全患者では薬物療法、運動療法、食事療法が行われ、様々な職種が介入する。その際に外来で栄養状態を確認するためには、どのような指標が参考になるのかお考えを伺いたい。
小西●外来は多忙であり、詳細な評価が難しい。通常は問診で体重の変化を聞く程度しかできない。横浜市立大学附属病院では、時々握力を測定している。それ以上の評価は外来では困難である。栄養指導を行っている患者であれば、その際に様々な評価が行われるが、外来でできる評価は限られる。血液検査ではアルブミンも評価しているが、栄養状態の評価という観点ではそれほど期待できない。
堤●広島大学病院でも外来では思うような評価ができていない現状がある。栄養アセスメントでは身体計測はもちろん、血液検査値も確認している。心不全患者は浮腫の影響が強いため、臨床症状もチェックする。食事摂取量も確認する。ただし、外来でこれらの項目全てを評価することは、時間的な制約もあり難しい。とくに栄養指導を受けていない患者の栄養評価は困難である。それでも、できる限り全項目の評価を行いたいと考えている。そこで、基本的には全例に低栄養のリスクがあることを前提とし、栄養評価に関する項目を簡単でも幅広く問診するようにしている。
掛川●外来での栄養評価は体重変化だけでも難しい。福岡県済生会福岡総合病院ではInBody測定を行い、以前の測定結果と比較している。ただし、InBodyはペースメーカーが入っていると測りにくいという課題がある。
千葉●外来での評価はできるだけ簡便にしたい。そこで、活気、量、質の3項目に絞って評価している。活気は患者を見て判断するため、測定機器が不要である。量では体重、質では握力を評価する。質は膝伸展筋力でも評価できるが、握力はどの施設でも測定でき、最も簡便と考えている。
小笹●掛川先生から、カヘキシアでは代謝が亢進している患者と、むしろ低下している患者がいるというお話があった。それぞれの特徴を伺いたい。
掛川●カヘキシアでも食事摂取量が比較的多く、身体活動量もある程度確保できている患者では、代謝が亢進していることが多い。立てないほどに身体活動が低下していたり、筋肉量が激減していたりする患者は、代謝も減っている。これは、代謝が筋肉量や食事性熱産生量に影響されるためと考えられる。ベースの筋肉が少ない患者では、相殺されて代謝が低く見えている可能性がある。
フロア●理学療法士として呼吸器疾患の患者を担当することが多い。その中でも心不全を合併している患者がいる。そのような患者をGlobal Leadership Initiative on Malnutrition (GLIM)基準で評価をすると、浮腫の影響が大きくなる。例えば、BMIが大きくなったり、InBodyで筋肉量を測定しても水分比が高く出たりする。これらの結果を信用していいのか悩むこともある。このような場合にどのような工夫をすればよいか伺いたい。
小西●AWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)が提唱したサルコペニア診断基準AWGS2019でサルコペニアを評価する場合、ペースメーカーが入っている患者では生体電気インピーダンス法(BIA法)が使用できない。それでも、何らかの方法で評価しないと、サルコペニアを診断できない。一定数の心不全患者はデバイスが入っている。とくに重症な患者でデバイスが入っている傾向がある。このような患者で評価できなければ、サルコペニアを評価する意義が小さくなってしまう。GLIM基準による栄養評価も何らかの方法で評価しなくてはならない。その中で握力は比較的客観的あり、患者の条件によらず同じように測定できる。そこで、横浜市立大学附属病院では外来で握力を測定している。握力のように、誰でも同じように測定できる指標で評価するしかない。患者の状態は一人ひとり異なるため、答えは一つにならないが、それぞれの臨床現場で工夫して評価するしかない。
堤●急性期心不全患者をInBodyで筋肉量を測定すると浮腫の影響を受ける。多面的に評価したとしても、浮腫の影響は大きい。その中で、握力は目安として重要である。箸も持てないほど身体活動が低下し、活力がない患者もいる。その場合は食事摂取状況が指標になる。握力と食事摂取状況は患者によらず評価でき、重要な指標になると考える。
掛川●福岡県済生会福岡総合病院ではInBodyも活用している。また、下腿周囲長は測定しづらい。上腕周囲長と栄養状態、筋力が相関したという報告があった。そこで、経時的に上腕周囲長を評価している。
千葉●浮腫の影響が大きい患者は、一般的な評価方法が適していない。これらの方法を使わない評価を行う必要がある。その場合、より簡便な方法が望ましい。そこで、筋力、血液検査値、活気が重要と考えている。患者が十分に食事を摂取しているか、活気があるかという点が重要なのではないか。
フロア●千葉先生が紹介した50代男性の症例では、負のサイクルから脱して社会復帰までできていた。その際、リハビリテーションでは少しずつ負荷量を上げていったと思われる。負荷量を上げていくタイミングを判断するうえで、指標としたものを伺いたい。
千葉●この症例では時間軸を指標にした。1週間ごとに体重や食事摂取量をチェックし、体重が減っていなければ負荷量を上げていた。もし、1週間後に体重が減っているようであれば、運動負荷量を調整する作戦を考えていた。
フロア●外来で栄養を強化する場合、リフィーディング症候群にどのように対応すればよいか教えてほしい。入院中の急性期ではリフィーディング症候群をしばしば経験し、サポートも可能である。しかし、外来で急激に低栄養になった患者がいた場合、エネルギー投与量の増加をためらうことがある。リン値などで補正をかけた方がよいのか伺いたい。
小西●リフィーディング症候群を起こしそうな患者は入院になる場合が多く、外来でリフィーディング症候群の患者を診ることは少ない。リン値も外来で頻繁に測定することは難しいのではないか。
鈴木●心不全の低栄養には、悪液質による低栄養と食事摂取量が低下している飢餓に近い低栄養がある。その見極めが重要である。食事摂取量が低下しているタイプの体重減少であればリフィーディング症候群のリスクは高い。ただし、悪液質の結果として起きた慢性的な低体重の患者は、食事摂取ができている場合が多い。このような観点をもって対応すればよいと考える。近年は心不全に対してSGLT2阻害薬を使うケースが増えてきた。そのため、医師も食事摂取量を確認する場合が増えている。聖マリアンナ医科大学病院でも食事摂取量を問診し、食事摂取量の減少に伴う低栄養のリスクがあれば、リフィーディング症候群を意識して対応するようにしている。
掛川●リフィーディング症候群になるほど食事摂取量が減っている患者は入院になることが多い。ただし、外来で食事摂取量が著しく減少している患者がいる場合は、その時に食べられるものを少しずつ付加している。
フロア●高齢者心不全の低栄養では、フレイルとサルコペニアの予防が重要である。ただし、肥満ベースの心不全、虚血ベースの心不全、慢性腎臓病(CKD)を合併した心不全と様々なパターンがあり、パターンに応じた栄養指導が必要となる。栄養指導に関する多職種チームや院内での意思決定システムにおいて、誰がどのように決定するのか、あるいは決めるべきか伺いたい。
掛川●併存疾患など状況によってはエネルギー必要量の算出が難しい。福岡県済生会福岡総合病院では栄養指導の内容を管理栄養士が決めてよいとされているが、薬剤や病態によっては迷うこともある。その場合には必ず主治医に案を提示し、相談して決定している。
鈴木●栄養療法、運動療法を外来、在宅にかけて継続することが課題である。院内では多職種連携ができていると思われる。他の病院に転院した場合や通院の必要がなくなった場合の院外連携に関して取り組みを伺いたい。
小西●近年は在宅医療を行うクリニックが増えてきた。在宅医療に患者を紹介する場合は情報の行き来がある。ただし、具体的な連携には至っていない。在宅医療になると、急性期病院の医師は興味がなくなってしまうと感じる。連携の必要性を感じていないのではないか。
堤●広島県内ではカルテなどが共有できるようになっており、「おくすり手帳」でも薬剤の情報共有ができる。ただし、栄養に関しては全く共有できていない。低栄養の心不全患者で食事摂取量が低下し、近医で点滴を受け、栄養剤をもらっている。しかし、広島大学病院では異なる栄養剤を薦めていた例もあった。心不全でもバックグラウンドや食べられる食事、嗜好に合う食事は異なる。「栄養手帳」のように栄養情報を共有できるツールを作る必要がある。
掛川●福岡県済生会福岡総合病院も急性期病院として心不全外来を行っている。しかし、かかりつけ医に戻すと、当院を受診しなくなってしまう。その場合にどのような介入ができるか模索している。そこで、かかりつけ医を対象に急性期病院の管理栄養士に求めることを聞いた。その結果、定期的な栄養評価と栄養指導をしてほしいという要望が多かった。今後は栄養指導や栄養評価ができる外来を増やしていくことを考える必要がある。
千葉●医師以外の医療専門職がそれぞれの専門知識と技術を活用して、心不全患者に対して最適な療養指導を行う心不全療養指導士という資格がある。心不全療養指導士が連携する組織として「全国の心不全療養指導士をつなぐ会」や、私の住む宮城県や他県にも「心不全療養指導士の連携の会」がある。私の所属する宮城県の会では、活動の一環として、心不全療養指導士が地域に出向き、心不全の啓発を行うことを始めた。現在は、心不全予防の啓発情報提供を行っているが、今後は体力測定や、食事摂取の重要性も説明していきたい。このような院内ではできない取り組みが広がれば、市民の心不全の知識も増え、予防につながるのではないか。
鈴木●今回のワークショップを通じて、心不全患者の栄養療法を進めるうえで行うべきことが明らかになった。今後はこれらの取り組みを実践する場を構築し、それぞれの現場で継続することで、患者に還元していく必要がある。今日は、各先生が行っている様々な取り組みも紹介していただいた。このような取り組みが広がっていけばよいと考えている。
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第37回日本臨床栄養代謝学会学術集会(JSPEN2022)パネルディスカッション「 漢方薬 を活かした栄養療法の最前線」Part2
Care Show Japan2023| 多職種のチームで支える在宅医療 -在宅訪問管理栄養士の立場から-