矢吹浩子 先生 インタビュー

2025.04.18フレイル・サルコペニア , リハビリテーション栄養 , 栄養素
矢吹浩子先生
看護師/Hand in Hand 代表

管理栄養士と看護師が連携して行う臨床栄養管理を支援するHand in Hand発足

様々な疾患で栄養状態と予後の関連が明らかになり、臨床栄養管理の重要性がクローズアップされている。患者の栄養状態を評価し、最適の臨床栄養管理も行われるようになってきた。栄養アセスメントと栄養計画、モニタリングといった臨床栄養管理のプロセスを円滑に実施する体制として、栄養サポートチーム(NST)など多職種での栄養管理体制構築も進められている。その中心を担う職種が管理栄養士と看護師である。しかし、看護師は栄養の専門職ではないため、臨床栄養管理への関わり方に悩む場面も見受けられる。他方、栄養の専門職である管理栄養士は配置が少なく、きめ細かな対応が難しい場合がある。効果的な臨床栄養管理を行うためには管理栄養士と看護師のさらなる連携が重要と考えられる。この度、管理栄養士と看護師の連携を支援するチームとして、Hand in Handが設立された。そこで、Hand in Handの代表を務める看護師の矢吹 浩子 先生に具体的な活動内容やその目的、望ましい臨床栄養管理の在り方などについてお話を伺った。

 

管理栄養士と看護師の連携強化を目指す

 この度、管理栄養士の岡本康子先生とともにHand in Handを設立しました。Hand in Handには管理栄養士と看護師が手をつなぐという意味があります。臨床では栄養管理の重要性が高まってきました。多職種連携の必要性も浸透し、管理栄養士と看護師がそれぞれの専門性を活かした医療職として臨床栄養管理に力を注ぐことが求められています。

 私たちは管理栄養士と看護師がしっかり手をつなぐことで、理想の栄養状態を作り出し、治療の一助となって早い回復につながる可能性があると考えました。そこで、Hand in Handは管理栄養士と看護師が栄養療法とケアに取り組む支援の実施を目的としています。

 

効果的な臨床栄養管理には管理栄養士と看護師の連携が必要

 栄養管理は管理栄養士の専門分野と捉えることができます。しかし、実臨床では看護師の協力なくして臨床栄養管理はできません。

 管理栄養士は栄養の専門職ですから、栄養管理の知識を豊富に持っています。とくに栄養アセスメントや栄養計画について、具体的な方法を含めて幅広い知識を有しており、栄養管理は管理栄養士が中心となって行ったほうがよいと思っています。しかし、管理栄養士だけでは、臨床での栄養管理のすべての業務はできません。例えば、栄養アセスメントは知識を持つ管理栄養士と、情報を持つ看護師が連携して行うことが望ましいでしょう。その上で、エビデンスに基づいた栄養管理計画は栄養の専門職である管理栄養士が中心に立案し、実施する看護師が方法について考えていくのが良いと思います。

 看護師は立案された栄養管理計画を適切に確実に遂行する役割を担っています。ただし、看護師が栄養管理計画を実施するうえで、エネルギーや栄養素の投与量が設定された根拠などその背景を知っておくことが大切です。栄養管理計画書に記されたままに点滴あるいは経腸栄養投与を行っているだけでは、単なる業務になってしまいます。立案された栄養管理計画を理解し、安全かつ確実に投与する看護師がいて、初めて臨床栄養管理が成り立ちます。

 そこで、同じような考えを持っていた岡本先生とともに、管理栄養士と看護師が手を取ることで、よりよい臨床栄養管理ができることを啓発するためのチームを作ることにしました。今のところ、私と岡本先生はそれぞれ別に活動しており、私は看護師として講演する際には管理栄養士の重要性を解説しています。岡本先生も講演などで「看護師がいなければ臨床栄養管理は実施できない」と話していると思います。こうした活動を通じて、看護師と管理栄養士が連携を深め、よりよい臨床栄養管理を実現したいと考えています。


栄養看護の啓発で看護師の栄養管理に対するモチベーションアップを図る

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で多くの看護師は疲弊しています。看護師のモチベーション低下も深刻です。COVID-19に感染対策が急務となり、臨床栄養管理に対する関心は薄れてしまいました。看護師だけでなく医師など他の医療従事者の臨床栄養管理に対する関心も下がっています。これに伴い、栄養サポートチーム(NST)の活動も低下しがちと聞いています。私は看護師の臨床栄養管理へのモチベーションを再び上げることも目指しています。

 看護師の臨床栄養管理での関わりでは栄養看護という概念がポイントになります。栄養看護は患者さんの栄養状態改善に向けた「安全で安楽な療養」と「生活の質の向上」を目標とするものです。具体的には集中的な観察と医学的根拠に基づく栄養状態の判断、専門的な知識に基づく安全な栄養療法の実施、必要な栄養量の投与や摂取阻害要因の排除・改善、患者さんの生活・価値観を注視した栄養療法の実施、栄養療法に起因する安楽障害の発見と対応・改善、病態および栄養状態に関する患者さんの不安・悩みに対する相談と安心の提供を行います。

 このような背景から、2018年には臨床におけるよりよい栄養管理を行うために、専門的知識および技術を有する看護師の資質向上を図り、国民の健康増進に貢献することを目的とするため、日本病態栄養学会が専門病態栄養看護師を認定するようになりました。専門病態栄養看護師は、栄養管理の基本を習得し、栄養管理の的確な実践と栄養看護を提供できる看護師です。専門病態栄養看護師がチーム医療に参画することで、他職種と連携して立案された栄養管理計画を安全に実施できるほか、適切な栄養看護を他の看護師に教育・指導することも可能になります。

 専門病態栄養看護師の養成テキストでは栄養看護についても解説しています。私自身も栄養看護の講演を行っています。栄養看護を学んだ看護師からは「目が覚めた」という言葉も聞かれました。栄養看護を重視することで、看護師の栄養管理に対するモチベーションを上げられるのではと考えています。「臨床栄養管理のプロセスで看護師は何をすべきかわからない」という意見も聞こえています。看護師には看護師として臨床栄養管理で行うべき仕事があります。それが栄養看護だと考えています。

 

父の死をきっかけに看護師の栄養管理に対する関心の重要性を再認識

 私は看護師として、臨床看護の傍らで栄養管理にも関心を持ち、2000年頃より栄養関連連学会や研究会、研修会、看護協会などの講義、講演、また雑誌や書籍執筆といった多数の経験により栄養管理と看護師の役割について知見を広げてきました。栄養看護の必要性をより強く認識したのは父の死を経験したことでした。

 父はパーキンソン病を患っていましたが、2024年1月に亡くなりました。2023年8月に病院から外出した時は歩行器を使った歩行が可能でした。介助は必要でしたが車への移乗もできていました。ただ、過去に腸の手術をしていたこともあり、麻痺性のイレウスを起こして地元の急性期病院に入院しました。そこで、保存的治療として絶食、安静が行われた結果、辛うじて保たれていたADLが下がり、寝たきりになってしまいました。

 パーキンソン病ですからもともと嚥下機能が低下していました。絶食されているため、さらに体重は減少し、嚥下筋も落ちていくでしょう。私は胃瘻を造設してほしかったのですが、主治医からは皮下埋め込み型中心静脈ポート(CVポート)の造設の方針が伝えられ、その理由は、胃瘻栄養法では栄養剤の注入で唾液が増えて誤嚥に繋がり、肺炎を起こすリスクがあるためだと家族に説明がありました。私は家族からそれを聞き、中心静脈栄養(TPN)でも必要な栄養を得られるだろうと納得しました。

栄養投与量の不足でNitorogen Deathに

 TPN開始時に使用されていた輸液は、エネルギー量500~600kcalの1号輸液1本だけでした。私はTPNを始めたばかりなので、これから増やされるだろうと考えていました。しかし、実際には入院後4か月間、同じ輸液1本だけの投与が続けられていました。途中で急性期病棟から地域包括ケア病棟に移っていますが、輸液内容は変わっていません。そのうち、座位を保持できず、排泄も自分ではできない状況になってしまいました。

 地域包括ケア病棟から介護付き有料老人ホームに移り、間もなく帰省して父に会いました。情けないことに、そのとき始めて、TPNの内容が開始時と同じ1号輸液1本だけだと知りました。著明なるい痩状態でしたが、この時点では喀痰吸引時に咳嗽反射も認めていました。

 介護付き有料老人ホームでも病院に入院していた時と同じ輸液処方で栄養管理が続きました。そこで、往診を担当している医師と話をしたところ、「もう同化する力がなく、いくら栄養を入れても身体に取り込めない状態になっている」と言われました。それからおよそ1週間で父は亡くなりました。エンゼルケアを一緒にさせてもらいましたが、体重30㎏もないようなまるで骨格標本のような身体になっていました。長く看護師の仕事をしてきましたが、これほど痩せた患者は見たことがありませんでした。4か月前には歩けていた父がNitorogen Deathという転帰を迎えたのです。

 

NST稼働認定施設でも適切な栄養管理が行われていない

 急性期病棟での栄養管理に問題があったと思っています。父が入院していた病院はNST稼働認定施設でした。NSTではどのような介入を考えたのか、病棟の看護師は何を見ていたのか疑問に感じました。父が亡くなったあと、家族に、「医師からアドバンス・ケア・プランニング(ACP)を確認されたか」と聞くと、「そのようなことは聞かれたことはない」ということでした。つまり、医師の裁量だけで栄養管理が進められていたことになります。

 エネルギー量が500~600kcalしかない輸液1本だけで栄養管理を続け、脂質や微量元素も加えなかった理由は分かりません。看護師は輸液の内容をおそらく把握しておらず、疑問にも思わなかったのでしょう。遠い帰省先の病院ですが、自分が直接主治医と話しをしなかったことを心から悔やんでいます。この経験を通じて、看護師の栄養管理に対する意識の現状を認識しました。栄養についてもACPを確認するべきでしょう。中には重症の認知症で自宅退院に難色を示す家族もあるでしょうが、それでも家族の意思確認は必要です。とくに父は入院した時点では、認知症がほとんどなく、直接意思を確認できたはずです。しかし、有料老人ホームの往診医に急性期病院ではACPを確認されなかったことを伝えると、「この地域の人たちはだいたい“医師にお任せします”と言うんですよ」と言われました。

 

看護師は「輸液」を「栄養投与」ととらえて輸液内容を把握すべき

 2024年1月の第28回日本病態栄養学会の看護師セッションで私は、父のことに触れ、「看護師は何を観察していたのか。どんどん減少する体重に気づかなかったのか、そもそも寝たきりの父の体重は測っていたのか。投与される輸液内容にも疑問を持ってほしかった」と投げ掛けました。急性期病院に入院した当時、父の体重は50㎏はありましたから、このエネルギー投与量では全く足りていません。当然、たんぱく質も足りず、エネルギー・タンパク質不足が続くとどうなるかは栄養管理の知識があれば分かるはずです。

 私の父の例だけでなく、他院の看護師からも肺炎で入院した父親をNitorogen Deathで亡くしたと聞きました。その看護師の友人の母親もCOVID-19に罹患し入院した病院でNitrogen Deathで亡くなったそうです。

 日本にNSTが導入されて25年以上経ちます。NSTの稼働認定施設も増えました。患者さんの予後改善のためには、質の高い臨床栄養管理が必要という認識も広まってきました。しかし、未だに不適切な栄養管理が行われています。看護師に臨床栄養管理における役割を再認識してもらい、管理栄養士と看護師が連携する必要性を痛感しました。管理栄養士と看護師の連携が進めば、家族と患者さんにとって適切な栄養管理ができると考えています。

 

栄養看護を中心に看護師ならではの栄養管理が必要

 近年、急性期や特殊病態での臨床栄養管理への理解が進んできました。急性期の臨床栄養管理はもちろん重要です。しかし、在宅医療、療養環境にある地域包括病棟、急性期を脱して在宅への準備をしている一般病棟や回復期リハビリ病棟の看護師こそ、臨床栄養管理を学び、参加して、発言するべきだと思います。その上で看護師が管理栄養士と手を組めば必ずよい結果が出ると考えています。私は父の死を経験し、この点を強く勧めたいと思いました。

 看護師は栄養障害患者に栄養を与える実行者です。安全に栄養投与を行うために必要な知識を持つことは看護師としての基本です。そこで、栄養看護では栄養計画が立案された背景、投与される栄養剤の組成を知ることを重視します。父の死を経験した今は、患者さんの生活の質や価値観に沿った栄養管理に関われる職種は誰よりも看護師だと感じています。栄養看護の講演では、この点も併せて伝えていきたいと考えています。

 

看護師、管理栄養士、一般向けの講演や勉強会を展開

 Hand in Handでは看護師向けとして栄養看護、NSTにおける看護師の役割、栄養管理領域で求められる看護師ならでは役割、高齢者の栄養管理などについて、管理栄養士向けには栄養評価や栄養療法の方法、病態ごとの栄養療法などについて講義や講演、勉強会を進めていきます。看護師と管理栄養士のタスクシェア、具体的な協働の方法も提案する方針です。

 また、入院した際に適切な栄養療法が行われているか判断するためには患者さんや家族もある程度の知識を持っていた方がよいでしょう。そこで、一般の方も知っておくべき栄養管理に関する情報の発信も考えています。また、栄養療法に疑問を持った時に、病院の誰にどのように質問したらよいかなど具体的な方法もお知らせできたらと思います。

 Hand in Handの今後の計画としては、2024年11月に関西栄養管理技術研究会で講演を予定しています。また、2025年1月に行われる第28回日本病態栄養学会年次学術集会の看護師セッションでも栄養看護を取り上げたいと考えています。今後はウェビナーの活用や幅広い講演などを通じて、管理栄養士と看護師の連携を普及したいと思っています。興味がある方はぜひお問い合わせください。

 

関連記事
タグ : Hand in Hand Nitorogen Death NST稼働認定施設 アドバンス・ケア・プランニング エンゼルケア 岡本康子 新型コロナウイルス感染症 日本病態栄養学会 栄養アセスメント 皮下埋め込み型中心静脈ポート 看護師 矢吹浩子 管理栄養士 臨床栄養管理