第46回日本臨床栄養学会総会・第45回日本臨床栄養協会総会・第22回大連合大会|ワークショップ3 GLIM基準の臨床応用 Part1

2025.09.01栄養素

ワークショップ3 GLIM基準の臨床応用

座長
前田圭介(愛知医科大学栄養治療支援センター 特任教授)
鷲澤尚宏(東邦大学医療センター大森病院栄養治療センター 部長)

発表の要点

  • 公益財団法人がん研究会有明病院 栄養管理部の斎野容子先生はこれまでの診療報酬改定で、栄養食事指導の対象者拡大やNST加算の拡充など栄養サポートに対する評価が増えてきたことを紹介した。さらにGLIM基準などの栄養スクリーニングの実施をはじめ、栄養管理基準の標準化が進んだ、とし、今後は栄養ケアプロセスを基本にした栄養管理体制構築が重要になると述べた。
  • NTT東日本関東病院 栄養部の上島順子先生は、入院患者はエネルギー摂取量の不足から低栄養になりやすく、低栄養ハイリスク患者の抽出と患者個別の栄養管理が必要、と述べた。また、構造化された個別栄養管理が入院患者のアウトカムを向上させたエビデンスを紹介した。ただし、日本では栄養サポート体制が不十分と指摘し、改善にはGLIM基準をもとにした栄養サポート体制構築が必要、とした。

日本における入院栄養管理体制の変遷-GLIM基準の臨床活用に向けて-

演者:斎野容子(公益財団法人がん研究会有明病院 栄養管理部

◆近年の診療報酬改定で栄養サポートの評価が拡大

診療報酬における栄養サポートの評価では、これまでに3回の大きな変化があった。1つ目は平成18年度診療報酬改定から始まった栄養管理計画の導入と、それに伴う栄養食事指導の対象者拡大である。2つ目には平成22年診療報酬改定で開始された多職種で専門的な栄養サポートを行う栄養サポートチーム(NST)加算の拡充があげられる。3つ目は令和2年度診療報酬改定で追加された早期栄養介入管理加算をはじめとした、栄養サポート体制の強化に対する評価拡充となる。
平成18年度診療報酬改定で新設された栄養管理実施加算は、栄養管理計画を作成し、患者それぞれの栄養状態に適した栄養サポートを実施した場合に1日あたり12点算定できた。栄養管理実施加算の算定をきっかけに、多くの一般病院で管理栄養士が病棟業務を拡大した。また、栄養管理計画書の作成は、多職種で栄養サポートを行うきっかけになった。
その結果、栄養管理計画書の作成が多くの病院で一般的に行われるようになった。そこで、平成24年度診療報酬改定では、栄養管理体制の確保が入院基本料の要件とされた。栄養管理体制としては、管理栄養士の確保、栄養管理手順の作成などを求めている。さらに、入院診療計画書に特別な栄養管理の必要性の有無を記載し、必要性がある場合は栄養管理計画書を策定する。つまり、診療報酬でも低栄養の患者を見落とさない仕組みが求められるようになった。
平成28年度診療報酬改定では外来・入院栄養食事指導の対象ががん患者、摂食嚥下機能低下患者、低栄養の患者にも拡大された。栄養食事指導の点数は1回につき130点だったが、この改定で初回の栄養食事指導は260点、2回目以降も200点に倍増され、管理栄養士がほぼ全ての患者に対して、栄養食事指導を実施できるようになった。

◆栄養サポートチーム加算が新設、低栄養評価はGLIM基準を使用

NSTは1970年代に米国で始まり、2000年頃から日本でも広く認識されるようになってきた。このような背景から、平成22年度診療報酬改定で栄養サポートチーム加算が新設された。この時点ではNST専従者が要件とされていたが、平成30年度診療報酬改定で専従要件が緩和され、NSTが担当する1回の回診患者が15名以内であれば、専任でもよいとされた。この専従要件緩和以降、栄養サポートチーム加算の届出施設数、算定回数が増加している。
栄養サポートチーム加算は医師・看護師・薬剤師・管理栄養士の4職種で回診を行うと、週1回200点を算定できる。歯科医師が回診に加わると、さらに50点が加算される。対象は血清アルブミン値が3.0g/dL以下であって低栄養と診断された患者、経口摂取を目的として静脈・経腸栄養を実施中の患者、栄養治療により改善が見込めるとNSTが判断した患者とされた。この改定は専門的な栄養サポートの普及につながった。
令和6年度診療報酬改定後、低栄養評価は血清アルブミン値ではなく、GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準で行うとされた。現在は低栄養評価をGLIM基準で行う方向に世界的にシフトしている。また、ASPENなどから「血清アルブミン値は低栄養定義の構成要素ではない」、「栄養状態を評価するためのマーカーとして使用すべきではない」、「栄養状態に関係なく炎症が存在すると低下する」といった内容のポジションペーパーが発表されている現在、栄養評価に血清アルブミン値を使用しない、との認識が重要である。

◆早期栄養介入加算や入院栄養管理体制加算の新設などで栄養サポート体制を強化

栄養サポート体制の強化として、令和2年度診療報酬改定で新設された早期栄養介入管理加算は、ICU入室48時間以内に経腸栄養を開始した場合、7日間に限り400点を算定できる。令和4年度診療報酬改定では、静脈栄養などで栄養管理を行っている場合も250点を算定できるようになった。早期栄養介入管理加算はICU入室時からの栄養サポート実施を促すもの、といえる。
令和4年度診療報酬改定では入院基本料で褥瘡対策の見直しが行われ、褥瘡診療計画書に栄養管理に関する事項の記載が明記された。ただし、褥瘡診療計画書への栄養管理に関する事項の記載は、栄養管理計画書の作成によって省略できる。令和4年度診療報酬改定後、栄養管理計画書に褥瘡関連の記載を追加した病院は多く、入院基本料における褥瘡診療と栄養サポートの連携が強化された。
令和4年度は、栄養サポートに関する様々な加算が新設され、その1つである周術期栄養管理実施加算は、全身麻酔を伴う手術を行い、手術前後に管理栄養士が栄養管理を行った場合に270点を算定できる。専任の管理栄養士配置が要件とされており、全ての病院での加算は難しいかもしれないが、周術期からの栄養サポートを評価する加算である。
また、特定機能病院に限定されるものの、入院栄養管理体制加算も新設された。特定機能病院で専従管理栄養士が病棟に1人配置されている場合、入院初日と退院時に270点算定できる。特定機能病院であるがん研有明病院も入院栄養管理体制加算を算定しており、2024年9月現在は4病棟に専従管理栄養士を配置して栄養サポート体制を強化している。

◆栄養管理体制基準も明確化

令和6年度診療報酬改定で栄養管理体制の基準が明確化されるまで、栄養スクリーニングの方法は病院ごとに異なっていた。この改定では、栄養管理体制の基準として標準的な栄養スクリーニングを用いることとされた。また、退院時を含む定期的な評価の実施も追加され、診療報酬において栄養サポート体制の標準化が始まった。令和6年度診療報酬改定では、栄養管理手順の栄養評価としてGLIM基準の活用が望ましいが、GLIM基準を参考に各医療機関の機能や患者特性に応じて標準的な手法を位置付けていれば差し支えないとされている。しかし、回復期リハビリテーション病棟においては同年の改定でGLIM基準が必須とされた。今後は一般病院でもGLIM基準が必須となる可能性が高い。
平成18年度診療報酬改定で栄養管理計画書が導入された後、令和4年度診療報酬改定で褥瘡関連の項目が、令和6年度診療報酬改定ではGLIM基準による評価の項目が追加された。つまり、栄養管理計画書の様式でも標準化が進んでいる。

◆栄養ケアプロセスに準じた栄養管理が重要

栄養管理手順は栄養ケアプロセスに置き換えて考えると分かりやすい。栄養ケアプロセスは栄養スクリーニング、栄養アセスメント、栄養診断、栄養介入、栄養モニタリング、再評価の順で進めていく。栄養スクリーニングは栄養障害のリスク患者を迅速に抽出するために重要である。その目的は、栄養関連のアウトカムを予測し、栄養介入の可能性を判断することにある。各病院において栄養リスクがある患者を抽出するための方法と手順を定め、適切な栄養ケアにつなげる必要がある。
栄養スクリーニングは信頼性、妥当が検証されたツールを用いれば、職種を問わず実施できる。令和6年度診療報酬改定では標準的なスクリーニング手法を用いることとされた。つまり、診療報酬でも、多くの職種が栄養スクリーニングを実施できる体制を明確化している。栄養スクリーニングを行わなかった場合、低栄養患者の同定は20~30%にとどまるとの報告があるため、全例で栄養スクリーニングを行う必要がある。
栄養スクリーニングと並行し、栄養アセスメント、栄養診断を行う。これらは栄養サポートの専門家が実施することが望ましい。日本では臨床栄養に精通した管理栄養士、栄養関連学会が認定した栄養サポートに関わる有資格者などが栄養サポートの専門家と位置付けられる。主観的包括的評価(SGA)や簡易栄養状態評価表(MNA)などで栄養アセスメントを行い、GLIM基準で低栄養診断を行うことが重要である。
栄養サポートでは個別の方法とゴールを定めた介入と、定期的なモニタリングの実施が求められる。管理栄養士は食事内容の変更や栄養の強化、必要に応じた栄養補助食品(ONS)の提供などで栄養サポートを進める必要がある。
平成18年度診療報酬改定で栄養管理計画が導入され、管理栄養士が病棟で行う業務が増えてきた。今後は、管理栄養士の入院基本料に係る業務を形骸化させず、適切な栄養サポートにつなげることが重要になる。また、管理栄養士は厨房や事務所から病棟に行く形ではなく、病棟への常駐が望ましい。診療報酬改定における栄養サポートへの加算増加を背景に、栄養サポートの仕組み化が求められている。

GLIM基準活用を機に真の栄養管理体制について考える

演者:上島順子(NTT東日本関東病院 栄養部

◆GLIM基準で低栄養診断を世界的に統一

令和6年度診療報酬改定で明記されたGLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準は、2018年9月に世界の主要な臨床栄養領域の学会のコンセンサスにより発表された。GLIM基準策定の主な目的は、統一された診断基準で低栄養を診断する、低栄養の診断を容易にする、医療従事者が低栄養を認識しやすくする、世界的な有病率の比較など検証を行いやすくする、の4つである。
統一された低栄養の診断基準がなかった従来は、多くの医療従事者に低栄養が認識されておらず、低栄養対策も十分ではなかった。また、低栄養の診断基準が様々だったため、世界的に低栄養の有病率を比較することも難しく、低栄養の理解、対策への妨げになっていた。統一された低栄養診断基準を作成し、日常臨床で収集できるデータを用いて簡便に低栄養診断ができれば、医療従事者に低栄養の認識が広がり、低栄養対策も可能になる。GLIM基準はこのような意図で作成された。

◆入院患者はエネルギー摂取不足から低栄養が増加

入院中の低栄養は死亡率増加、ケアコスト上昇、身体機能低下、合併症増加、再入院率増加、QOL低下など様々な悪影響をもたらす。さらに入院中は低栄養になりやすく、改善しにくい。とくに高齢者ではこの傾向が顕著となる。急性期病院からの報告では、入院時は栄養状態が良好だったものの、入院中に低栄養になった患者は約30%とされている。入院前から低栄養の患者では、約80%が低栄養のまま退院していた。
低栄養の原因のひとつにエネルギー摂取量不足がある。入院中はエネルギー摂取量不足になりやすい。大学病院の入院患者を対象に、入院時から退院時までのエネルギー摂取量を検討した報告では、平均在院日数5.7日での平均エネルギー摂取量は760kcal/日であった。さらに、低栄養の患者の85%は診断もされていないことが分かった。この結果は、入院患者がかなりのアンダーフィーディングで管理され、低栄養が見逃されていることを示唆する。
誤嚥性肺炎の高齢入院患者約72,000人のリアルワールドデータを用いて、栄養状態を検討した報告では、患者の約40%が入院7日目でも欠食とされている。欠食中のエネルギー摂取は中心静脈栄養(TPN)がほとんどだが、エネルギー摂取量の中央値は体重1kgあたり7.7kcal/日であった。入院30日目でも体重1kgあたり10kcal/日に満たない摂取エネルギー量となっていた。誤嚥性肺炎で入院の患者は、継続的なエネルギー摂取量不足といえる。
入院中の低栄養を防ぐには、栄養サポートに関わる医療従事者が低栄養ハイリスク患者を早期発見し、早期介入することが重要である。また、患者一人一人に適した栄養管理を実施できるシステム作りが求められる。診療報酬改定でもこれらの取り組みに対する評価が新設されてきた。

◆個別化栄養管理で入院患者のアウトカムが向上

患者一人一人に適した栄養管理を個別化栄養管理と呼ぶ。個別化栄養管理は臨床転帰改善の有用性が証明されている。例えば、入院時の栄養スクリーニングと栄養アセスメント、個別化された栄養介入の実施群では、非実施群に比べ、病院での30日以内の死亡率、有害事象発生率、身体機能低下が10%以上減少した。栄養介入群では非実施群に比べ、エネルギー摂取量やたんぱく質摂取量が増加していた。
この報告では事前に決めた栄養ケアアルゴリズムに則って、栄養スクリーニングから介入している。入院当日に妥当性が証明されたNRS(Nutritional Risk Screening)2002を用いて、栄養スクリーニングを行う。低栄養のリスクがあれば、栄養アセスメントをする。必要な場合は、管理栄養士による24時間以内の栄養診断と栄養介入を実施する。エネルギー摂取量の到達目標は患者個別に決めた。経口摂取での目標エネルギー摂取量充足を目指し、不足する場合は、経腸栄養や静脈栄養で補った。栄養アセスメントは24~48時間ごとに行い、5日以内に目標エネルギー摂取量に到達しない場合、再アセスメントする。つまり、構造化された栄養サポート体制である。
このような栄養サポート体制で入院患者のアウトカムが改善する報告は数多く存在する。がん患者や高齢患者、低栄養の患者などを対象に栄養サポートチーム(NST)や管理栄養士が介入し、目標のエネルギー摂取量を設定するなど構造化された栄養サポートを実施したところ、死亡率低下、合併症など有害事象減少、QOL改善、在院日数短縮が得られている。これらの報告は介入までの期限が短く、おおむね72時間以内に栄養介入が開始されている。栄養介入の対象者、低栄養を評価するために栄養スクリーニングと栄養評価が実施されている。

◆診療報酬改定で日本における栄養サポート体制を充実

このように、多くのエビデンスがあるにも関わらず、日本では栄養サポート体制が不十分である。全国の病院に対するアンケート調査では、多くの施設で栄養管理手順書の整備が行われていなかった。栄養スクリーニング、栄養アセスメントについては約20%の施設で手順書がなかった。栄養プランニング、栄養介入、栄養モニタリングでは約50%の施設で手順書が整備されていない。
栄養スクリーニングは全症例に行うべきとされている。しかし、全患者に実施している施設は約80%だった。低栄養診断を実施している施設は14%にとどまっている。海外からのエビデンスと日本の不十分な栄養サポートの現状を鑑みて、令和6年度診療報酬改定では栄養管理体制整備を目的に、栄養管理手順の整備が明記された。

◆GLIM基準導入を契機にした栄養管理体制見直しが必要

令和6年度診療報酬改定では、低栄養の診断はGLIM基準の使用が望ましいとされた。GLIM基準では妥当性が検証されたスクリーニングツールを用いて栄養スクリーニングを行い、その後に診断的アセスメントを実施して、低栄養診断を行う。つまり、栄養ケアプロセスでいう栄養スクリーニングから栄養診断の過程を、GLIM基準を用いた低栄養の診断で実施することが可能になる。
したがって、GLIM基準で低栄養の患者を診断した後に、管理栄養士など栄養の専門家が行う介入内容が重要になる。患者個別に具体的なエネルギー摂取量の目標を決め、ゴール設定を行い、個別化された栄養サポートを実施することが望ましい。このような栄養サポート体制の手順を文書化し、施設内で広く認識を広めることも重要である。GLIM基準の導入は施設の栄養管理体制について考えるチャンスといえる。令和6年度診療報酬改定でGLIM基準の使用が推奨された。これを契機に、各施設で栄養サポート体制を再考していただきたい。
NTT東日本関東病院では、2018年のGLIM基準発表以前から、栄養ケアプロセスの体制に沿って、入院患者全員を対象に栄養スクリーニングを行っている。さらに、管理栄養士が栄養評価、栄養介入、栄養モニタリングを行い、必要に応じて再評価するシステムを構築した。当院では、管理栄養士が業務として、食事摂取量低下や低栄養の患者に介入していることが院内で認識され、根付いている。医師も栄養投与の重要性を意識するようになった。
GLIM基準導入をきっかけに、必要な患者に早期に栄養介入できる体制を整え、患者一人一人に適した栄養サポートを実践できれば、低栄養による負の転帰を迎える患者が減る。これは管理栄養士の本来の業務と考える。

 

Part2へつづく…

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