REPORT|第69回日本透析医学会学術集会・総会 ワークショップ6 基礎と臨床が連携するサルコペニアの病態解明とこれからの栄養管理 Part2
2025.03.18フレイル・サルコペニア第69回日本透析医学会学術集会・総会
ワークショップ6
基礎と臨床が連携するサルコペニアの病態解明とこれからの栄養管理
司会
北島幸枝(東京医療保健大学)
加藤明彦(浜松医科大学医学部附属病院)
- みはま病院の吉澤翔太先生は透析患者においてはサルコペニアやフレイル対策のため経時的な筋肉量測定が重要とした。そのためのツールとして、採血データから筋肉量を算出できるVolume Watchは既存の筋肉量測定法の結果と相関が高く、予後も予測できるため有用と説明した。
- 聖隷クリストファー大学 リハビリテーション学部 理学療法学科の矢部広樹先生は低栄養の透析患者では運動療法が筋肉量増加にもたらす効果は少なく、栄養療法を付加しても期待した効果を得られないとした。その上で透析方法のHDRへの変更が筋肉量増加に有効であることを紹介した。
- 山口大学大学院 医学系研究科 泌尿器科学講座の白石晃司先生は透析患者ではテストステロンが低く、テストステロンの投与によりPEW、サルコペニア、フレイルの改善が期待できるとした。
Volume Watchから算出した筋肉量は透析患者の予後因子として有用か?
~総死亡と心血管死亡における解析~
演者:吉澤翔太(みはま病院)
◆透析患者における筋肉量測定が重要
近年、透析患者のサルコペニアやフレイルが大きな問題となってきた。透析患者の約40%が筋肉量の減少を主体とするサルコペニアを合併しているとの報告や、筋肉量を透析患者の生命予後の指標の1つとする報告もある。筋肉は主にたんぱく質で構成されており、全体的なたんぱく質シフトの最良の指標とされている。
これらの報告は、透析患者における、経時的な筋肉量のモニタリングに基づく評価と対策の必要性を示唆している。透析患者の筋肉量の測定方法はInbodyをはじめとした体組成計、採血結果から得られたクレアチニン産生速度(%CGR)が広く用いられている。
◆Volume Watchで簡便に筋肉量測定が可能
採血結果から筋肉量を推定する手法にVolume Watch(VW)もある。透析前後の血中尿酸値および血中尿素値から非線形動力学モデルを解析して、透析前後の細胞外液量と細胞内液量を算出する方法が考案された。VWはこの方法に基づき、細胞内液量から筋肉量を求める。VWは体組成計などの専用の装置が不要であり、透析前後の採血データ、身長、体重、透析条件から算出でき、一度に数百人の算出も可能な利点がある。
VWを用いた筋肉量算出では、身体情報として身長、透析前体重、透析後体重、透析条件として血液流量、透析液流量、置換液流量、膜面積、透析前後の採血データとして尿素窒素(BUN)値、尿酸(UA)値、ナトリウム値、透析前の採血データとしてヘマトクリット値を入力する。筋肉量は体格によって異なるため、筋肉量を標準体重で二乗した筋肉率が算出されるようになっている。実際にVWで筋肉量算出を試みたところ、1回で1,000人以上の筋肉量を算出できた。
全体水分量は尿素法、細胞外液量は尿酸法で求められる。全体水分量から細胞外液量を除すことにより細胞内液量が算出される。この細胞内液量から筋肉量が算出される。VWで算出された筋肉量をVW-筋肉量と呼ぶ。
◆VW-筋肉量は体組成計による筋肉量測定結果と相関
実臨床でVW-筋肉量を用いるためには、%CGRから求める筋肉量と同等もしくは良好な精度が必要となる。そこで、VW-筋肉量の精度を検討した。同一の採血検体を用い、%CGRから筋肉量を求め、VW-筋肉量を算出した。これらの筋肉量について、大腰筋断面積との相関の強度を比較した。
相関の強度は%CGRで求めた筋肉量よりVW-筋肉量で良好であった。分布のバラつきはVW-筋肉量が%CGRより低い値を示した。VW-筋肉量は%CGRよりも高い精度で筋肉量が算出できると考えられる。次に体組成計の結果とVW-筋肉量を比較した。Inbodyで筋肉量を算出し、直近の採血結果を用いて算出したVW-筋肉量との相関を検討したところ、高い相関を示した。
◆VW-筋肉量は死亡リスクと関連
心血管死亡を含めた予後因子としての有用性を明らかにするため、VW-筋肉量と心血管死亡の関連を検討した。みはま病院の透析患者を対象とし、VWで計測できない血流量150mL/min未満及び300mL/min以上の患者は除外した。VW-筋肉量から筋肉率を算出して、男女それぞれ四分位数で4群に分け、総死亡及び心血管死亡を比較した。患者背景は筋肉率が最も低い群ほど年齢が高く、栄養状態が不良であった。
60か月間の総死亡は筋肉率が最も低い群は他の3群に比べ有意に多かった。60か月の心血管死亡も筋肉率が最も低い群で多かった。多変量解析を行ったところ、低筋肉率は総死亡および心血管死亡の有意なリスク因子であった。
◆透析患者の栄養管理指標としてVW-筋肉量が有用
VW-筋肉量が高い群ほど予後が良いことが分かった。VW-筋肉量は多くの栄養指標でも心血管死亡の強い予後因子であった。VW-筋肉量は毎月の採血結果から簡便に評価でき、経時的な観察が可能となる。VM-筋肉量は今後の透析患者における栄養管理指標として有用と考えられる。
【質疑応答】
フロア●Volume Watch(VW)では標準化たんぱく異化率(nPCR)の値が従来の方法よりも低くなる。この点について何かディスカッションしているか。
吉澤●nPCRの値の差については、特にディスカッションしていない。むしろ、個々の患者における値の変化が重要と考える。患者の状態が悪化し、筋肉量が減るとnPCRも低下する。しかし、亡くなる直前にはnPCRが若干上がる。nPCRは上昇するが、筋肉量は低下している。これは炎症反応によるものと理解している。つまり、VWは患者の状態をより反映していると考えている。
フロア●VWは体脂肪量との相関が強い。脂肪でも同様の検討を行っているか。
吉澤●まだ検討していないが、これから行ってみたい。
フロア●VWで測定した筋肉量は全身の筋肉量であり、フレイルやサルコペニアの診断基準の骨格筋量とはニュアンスが異なると考えるか。
吉澤●VWで測定される筋肉量が反映する筋肉については、まだ研究が進んでいない。現段階では骨格筋量と分けて評価すべきと考える。
フロア●Inbodyで測定した筋肉量とVolume Watchで測る筋肉量が乖離しているケースがある。この原因はどのように考えるか。
吉澤●VWは採血データで評価しており、脱血不良や再循環などが影響していると考える。
フロア●VWの測定結果は水分量に影響されるのか。ドライウェイトに近づいた状態とそうではない状態で数値が変わるのか。
吉澤●VWは細胞内液量には水分が貯留しないという理論に基づいて開発されており、影響しないと考えられている。
フロア●実際の測定で数値に影響はないか。
吉澤●毎月測定しているが、水が溜まっている患者で高いと感じたことはない。
透析患者に対するリハビリテーション栄養とサルコペニア予防
演者:矢部広樹(聖隷クリストファー大学 リハビリテーション学部 理学療法学科)
◆透析患者における運動療法の筋肉量改善効果のエビデンスは乏しい
運動療法は筋力、体力、筋肉量の改善に繋がると認識されており、サルコペニア対策として広く用いられている。透析患者に対する運動療法の効果を検討したメタ解析でも、運動療法の実施により6分間歩行距離をはじめとした体力の指標が向上するとの報告が多数ある。ただし、筋肉量をアウトカムとした運動療法の報告は少ない。
2022年のメタ解析によると、運動療法がQOLのうち身体的要素、うつ症状、6分間歩行距離、30秒椅子立ち上がりテストに改善が見られたと報告されている。運動療法によるQOL、体力の向上に関するエビデンスは確立されている。30秒椅子立ち上がりテストは筋力を反映していると考えられ、従来の報告と同様の筋力については改善効果が得られている。しかし、筋肉量の増加については評価されていない。
2022年発表の透析患者対象のメタ解析で、サルコペニア関連指標に対する介入の効果を評価した報告では、透析中に運動を行い、透析後に二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)を用いて除脂肪体重を測定した3論文のレビューにおいて、有意な改善効果は認められなかったとされている。
2024年の透析患者に対するレジスタンス運動の効果を検討したメタ解析によると、運動療法は握力、6分間歩行、筋肉量を改善させるとされている。しかし、この報告で解析された2論文は中国語で書かれており、詳しい内容を確認できていない。このように運動療法が筋肉量に及ぼす効果のエビデンスは乏しい。
◆低栄養の透析患者では運動療法の効果が減弱
実臨床では透析患者の足は細いという印象がある。そこで、透析患者には「運動して、筋肉を増やし、筋力をつけましょう」と指導する。ただし、その指導に対するエビデンスはない。その理由として、透析患者では低栄養により運動療法の効果が低いこと、尿毒症の影響で運動療法の効果が得られにくいことが考えられる。骨格筋の異化および同化のプロセスは運動療法だけでは改善しない。その理由は、たんぱく質の合成には食事によるたんぱく質摂取量も関与しているためである。
そこで、低栄養と透析中の運動の効果との関連を検討した。透析患者を傾向スコアマッチングによりGNRI(Geriatric Nutritional Risk Index)中央値の91.2未満の低栄養群と91.2以上の非低栄養群に分類し、6か月間透析中に運動療法を行い、その効果を比較した。3か月後、6か月後、12か月後のいずれの時点でも両群ともに身体機能が向上しており、その変化量は両群間に有意差を認めなかった。つまり、低栄養は透析中の運動療法の効果に影響しないと考えられる。ただし、傾向スコアマッチングにより低栄養の患者の影響が消失する可能性が指摘され、追試を行った。
透析患者を低栄養なし、軽度低栄養、重度低栄養の3群に分け、12か月間透析中に運動療法を行い、膝伸展筋力の改善を比較した。その結果、重度低栄養群では軽度低栄養群および低栄養なし群に比べ運動療法による膝伸展筋力の改善効果が有意に少なかった。重度低栄養の透析患者では、運動療法の効果が乏しいと考えられる。
◆運動療法と栄養療法の併用は筋肉量増強効果が乏しい
この結果は、食事によりたんぱく質を多く摂取したうえで運動を行うことで、筋肉量が増加し身体機能も改善することを示唆する。この考え方はリハビリテーション栄養として実践されている。透析患者に運動療法と栄養療法を併用し、効果を検討した報告も多い。しかし、筋力の増強効果は認められているものの、筋肉量増加や筋たんぱくの同化を示唆する指標に対する効果は示されていない。透析患者では運動療法と栄養療法を併用しても筋肉量が増えない可能性がある。
2022年のメタ解析では、栄養カウンセリングおよび運動、身体活動プログラムの生活習慣介入を含む論文でも除脂肪体重や筋肉量に関連する指標に対する効果が示されなかったとされている。つまり、透析患者では運動療法単独の筋肉量増加に対する効果が乏しく、栄養療法を付加しても期待される改善効果が得られないと考えられる。
透析患者のサルコペニア対策は、レジスタンス運動を中心とした運動療法、たんぱく質摂取を中心とした食事療法によるリハビリテーション栄養だけでは不十分である。透析患者における尿毒症や炎症性サイトカインはたんぱく質の異化経路を亢進させる。さらに透析によりアミノ酸が除去される。異化の亢進は運動療法とたんぱく質の摂取だけでは改善できない。何らかの介入により異化の亢進対策が必要である。
◆運動療法、栄養療法を併用したHDFで筋肉量が増加
そこで、透析方法の工夫により尿毒素の除去を増やす試みを行った。血液ろ過透析(HDF)は血液透析(HD)に比べ溶質除去効率が有意に高く、尿毒症による筋たんぱくの異化改善、尿毒症性サルコペニア改善が期待される。一方、HDFではアルブミンが低値になり、低栄養による筋たんぱく質同化阻害、サルコペニア悪化が懸念される。
透析患者を背景因子からHD群とHDF群に傾向スコアマッチングし、6か月間透析中に運動療法を行い、効果を比較した。HD群では6か月後に10m歩行速度、膝伸展筋力が有意に向上したがクレアチニン産生速度(%CGR)が有意に低下した。筋肉量は増えていなかった。HDF群では6か月後に10m歩行速度、膝伸展筋力、標準化たんぱく異化率(nPCR)、%CGRが有意に向上していた。HDF群はHD群よりもΔアルブミンが有意に小さく、Δ%CGRが有意に大きかった。つまり、HDF群はHD群よりアルブミンの増加が少ないが、栄養状態が改善し、筋肉量の指標である%CGRが向上した。HDF群での身体機能の改善もHD群と同様に見られていた。
HDFではアルブミンが減少するものの、溶質除去が多いためたんぱく質の異化が減少する。さらに運動療法によるたんぱく質同化の刺激が起き、それによって食事摂取量が増える。食事摂取量の増加は運動療法の効果を増強する。この食事摂取量増加でHDFによるアルブミン減少を上回る効果が得られるならば、たんぱく質異化低減とたんぱく質同化亢進という好循環が生まれる。運動療法、栄養療法、透析の工夫を組み合わせることで筋肉量増加効果が得られると考えられる。
◆運動療法、栄養療法に加え透析の工夫が必要
透析患者における運動療法が筋肉量に及ぼす効果のエビデンスは乏しい。特に重度低栄養患者では運動療法の効果が小さい。透析患者に対する運動療法と栄養療法を組み合わせたリハビリテーション栄養も筋肉量増加に対する効果は限定的である。透析患者におけるサルコペニア予防には運動療法、栄養療法に加え透析の工夫が必要と考えられる。
【質疑応答】
フロア●運動による筋肉量増加効果はなくても、筋肉の質が変わると考えられる。運動で身体機能が改善すればよいのではないか。
矢部●筋力が上がれば、ADLは改善し、患者も喜ぶ。ただし、筋肉量は免疫にも影響する。透析患者では筋肉が水分量のバッファーという役割も果たしている。筋肉には外界からのストレスに対する防御機能があると考える。筋肉量の維持、増強はADLや筋力向上とは異なる機序で免疫やストレス耐性を上げ、予後改善に繋がると考えている。
フロア●筋肉量を増やすことは難しい。高齢患者では食事摂取量も減る。筋肉量を増やすため、食事摂取量を増やすために何かよい方法はあるか。
矢部●実臨床で具体的な取り組みはまだ行えていない。管理栄養士、臨床工学技士、医師、薬剤師など多職種が連携して集中的な介入を行い、筋肉量の増加に成功した症例の検討が必要と考えている。
フロア●筋肉量が上がらない理由には、透析患者、CKD患者では筋肉量の評価自体が難しいことも考えられる。Inbody、DXA、生理化学的検査はいずれも透析条件や体液量の影響を受ける。これらで測定した筋肉量が透析患者の筋肉量を正確に反映しているか分かっていない。筋肉量が増えないという結果は、適正に評価できていないためとも考えられる。この点から、筋肉や身体機能だけの評価でもよいのではないかと思う。
矢部●今後、検討していきたい。
透析患者における加齢男性性腺機能低下症とサルコペニア
演者:白石晃司(山口大学大学院 医学系研究科 泌尿器科学講座)
◆LOH症候群で死亡リスク上昇
LOH(Late Onset Hypogonadism)症候群や加齢男性性腺機能低下症は男性更年期として捉えられる概念である。LOH症候群患者にはフレイルやサルコペニアと類似した病態が見られる。LOH患者にテストステロンを投与すると、患者の気力が回復するととともに筋肉量、握力も増強する。テストステロンは男性性機能を改善する薬剤と捉えられているが、筋肉、骨、神経、炎症にも正の効果を示すことが報告されている。つまり、筋肉量を増やし、運動機能を向上させる介入として、テストステロン投与が考えられる。
男性において血清総テストステロン値250ng/dL未満のLOH症候群患者は前立腺がん患者より5年生存率が低いという報告がある。健常男性でもテストステロン低値は全死亡率が高く、心血管イベントが多い。日本でも男性ホルモン低値は心血管イベント発生率に関連はないものの、感染症による死亡リスクが高いとの報告がある。テストステロンは様々な生理作用があり、免疫にも関連していることから感染症による死亡率が高くなると考えられる。透析患者の約半分がテストステロン低値とされており、透析患者でも予後に関連すると考えられる。
◆LOH症候群の病態はサルコペニア、フレイルと類似
テストステロンは精巣のライディッヒ細胞から産生される。この細胞は脳の視床下部下垂体性腺系によって制御されている。血清のテストステロンを補正するためには、テストステロンを直接投与するほかに、クロミフェン、ゴナドトロピン、アロマターゼ阻害薬を投与し、視床下部下垂体性腺系を活性化させて、血清テストステロンを内因性に上昇させる方法もある。実際に男性不妊治療においてもこれらの薬剤がよく用いられている。
『男性の性腺機能低下症ガイドライン2022』では診断基準の指標がフリーテストステロン値から総テストステロン値に変更された。フリーテストステロンは総テストステロンの数%であるが、年齢と相関するためLOH症候群の指標とされてきた。しかし、測定法に問題があり、総テストステロン値に改められている。現在は総テストステロン値250ng/dL未満でLOH症候群とされている。
また、LOH症候群を質問票でスクリーニングする男性更年期障害質問票(AMSスコア)がある。AMSスコアでLOH症候群疑いありとされた場合、血清総テストステロン値によらずテストステロン投与が可能になっている。AMSスコアの質問の大部分はサルコペニア、フレイルの患者の訴えと多くの部分がオーバーラップしている。AMSスコアではこれに性機能に関する質問が加わっている。
◆透析患者のテストステロンは低値
日本人健常者の平均テストステロン値と比較すると、透析患者の平均テストステロン値は大幅に低値であり、LOH症候群の診断基準値に近くなっている。テストステロンは下垂体前葉からの黄体形成ホルモン(LH)と関連している。透析患者は血清テストステロン値も低く、LHが多い。透析患者で継続的に血清テストステロン値とLHの推移を検討したところ、血清テストステロン値が低下し、ネガティブフィードバックによりLHが上昇し、最終的には精巣が線維化することが多い。下垂体障害によりLHが上昇し、LOH症候群になる場合もある。透析患者ではライディッヒ細胞の障害も見られる。組織学的にも精巣の間質に存在するライディッヒ細胞で線維化による機能低下が確認されている。
LOH症候群の症状とPEW(Protein-energy wasting)、サルコペニア、身体的フレイルの症状には類似点が多い。LOH症候群の症状には性欲減退、体毛の変化などのほか、筋肉量低下、骨塩量低下なども含まれている。PEW、サルコペニア、身体的フレイルも筋肉量減少や筋力低下などが含まれている。LOH症候群とPEWとサルコペニア、身体的フレイルは症状的にも密接に関連していると考えられる。CKD患者や透析患者において、サルコペニアやフレイルは死亡率を上昇させる。LOH症候群も死亡率が高い。したがって、これらに対する介入が必要となる。
◆透析患者におけるテストステロン投与で臨床パラメータが改善
透析患者におけるサルコペニア、フレイルに対する介入として、運動療法、食事療法、サプリメント、ビタミンD投与、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤投与に加えてテストステロン投与も考えられる。テストステロン投与は心臓に悪影響を与えるという指摘がかつてあったが、現在は否定されている。
そこで、透析患者におけるサルコペニア、フレイルによる予後悪化を防ぐため、テストステロン投与という介入ができないか検討している。LOH症候群ではテストステロン投与は標準治療になっている。サルコペニア、PEWにはLOH症候群に類似した症状があるが、テストステロン投与が行われていない点に疑問を感じている。1980年代のエリスロポエチン(EPO)製剤が存在しない時代には、腎性貧血対策として透析患者へのテストステロン投与が行われていた。EPOが登場してから、テストステロン投与がなくなったと言われている。
山口大学医学部附属病院では糖尿病性腎症で透析を行っていた患者にテストステロンを投与し、良好な結果を得た患者を経験した。この患者は勃起不全でPDE5阻害剤を投与されていたが効果がないと訴え、当院を受診した。テストステロン値測定でLOH症候群に該当と判断し、テストステロンを投与した。その結果、勃起機能が改善した。さらに、EPO製剤、インスリン、経口血糖降下薬の投与量が減り、握力や骨密度が上昇し、各種代謝マーカーが改善した。
この経験以降、当院では若年の透析患者にテストステロン投与を行うようになった。透析患者でもテストステロン投与で、筋肉量増加や性機能改善といった効果が報告されているが、心血管イベントの増加については報告されていない。
◆透析患者におけるテストステロン投与の効果を検討
当院でもテストステロン値が低下している透析患者にテストステロンを6か月間投与し、臨床パラメータの経過を検討した。6か月後のHbA1c、グリコアルブミン、血糖値、総コレステロール、中性脂肪はいずれも有意に改善した。この検討はHIFプロリルヒドロキシラーゼ(HIF-PH)阻害薬の上市前に行われており、腎性貧血はEPO製剤により対処されていた。そのため、ヘモグロビン値に大きな差はなかった。ただし、約半数の患者でEPO製剤が中止できていた。
『男性の性腺機能低下症ガイドライン2022』にはテストステロン補充療法は「前立腺がんの発症と関連はなく、前立腺肥大症の症状を悪化させない」「心血管イベントを増加させる明確なエビデンスはない」「心不全の予後を改善あるいは悪化させるエビデンスは確立していない」「メタボリックシンドロームを改善する」といった記述がある。
テストステロン補充療法による生活習慣病のアウトカム改善については病態によって異なる。『男性の性腺機能低下症ガイドライン2022』では「尿路結石のリスク因子になる可能性がある」「睡眠時無呼吸症候群では禁忌である」とされているが、サルコペニア、フレイルに関係する脂肪代謝の改善には期待できると記されている。
現在、透析患者にテストステロンを投与し、PEW、サルコペニアの観点から評価する臨床試験を計画している。6か月間、3週間ごとにテストステロンを投与し、3か月間休薬する。その後、テストステロン投与の再開または休薬継続を患者に選択してもらうことにしている。この時点で多くの患者がテストステロン投与再開という選択をするのではないかと期待している。
◆透析患者に対するテストステロン投与はPEW、サルコペニア、フレイルの改善が期待できる
透析患者においてはテストステロン低値とPEW、サルコペニア、フレイルが関連し、生命予後悪化につながる。PEW、サルコペニア、フレイルの改善により、QOL向上や生命予後延長が期待できる。そのためにテストステロンやその他の男性ホルモン補充が有用である可能性がある。テストステロン投与は骨折や腎性貧血の低減による医療費抑制効果も期待できる。
【質疑応答】
フロア●3週ごとというテストステロンの投与間隔には理由があるのか。
白石●基本的なLOH症候群に対する投与と同じ間隔にしている。
フロア●高齢ではテストステロンを投与しても効果が得られないと思われる。どの年齢まで投与しているのか。
白石●当初は50~60代の性的にアクティブな患者を対象にしていた。現在は70~80代でも投与している。テストステロンには性機能改善以外にも有用性がある。そこで、年齢制限は設けていない。
フロア●当院ではテストステロン値が低い患者には保険診療で行っているが、数値が高い患者では自由診療で投与している。テストステロン投与を保険診療で行っているのか。
白石●2022年から症状に基づいてテストステロンを投与できることになった。そのため、現在は保険診療として投与している。
