REPORT|第69回日本透析医学会学術集会・総会  ワークショップ6  基礎と臨床が連携するサルコペニアの病態解明とこれからの栄養管理 Part1

2025.02.20フレイル・サルコペニア

第69回日本透析医学会学術集会・総会
ワークショップ6
基礎と臨床が連携するサルコペニアの病態解明とこれからの栄養管理

司会
北島幸枝東京医療保健大学
加藤明彦浜松医科大学医学部附属病院

  • 熊本大学薬学部 薬剤学分野の丸山 徹先生はCKD患者に多いサルコペニア合併は予後悪化と関連するとし、アルブミンの酸化還元状態の評価がサルコペニアの診断マーカーとして有用であること、エダラボン搭載ナノ粒子でサルコペニア改善を期待できることを説明した。
  • 熊本県立大学 環境共生学部の吉田卓矢先生はCKD患者ではエネルギー代謝異常がPEW、サルコペニア、フレイルを惹起し、腸管や脳の尿毒素物質蓄積でも筋萎縮が促進されると指摘した。また、CKD患者では遅筋線維の減少がみられるが、運動によるエネルギー代謝改善は筋肉の質を向上させるとした。
  • 大阪公立大学大学院 腎臓病態内科学の森 克仁先生は透析患者におけるサルコペニアやPEW対策が重要であるとし、スクリーニングツールとしてNRI-JHが有用とした。さらに栄養障害、フレイル、サルコペニアに対する総合的な介入の必要性を訴えた。

 

CKDの骨格筋萎縮メカニズムUp-to-date

演者:丸山 徹熊本大学薬学部 薬剤学分野

◆透析患者ではサルコペニアが多く、予後が悪化

慢性腎臓病(CKD)は早期老化の表現型と捉えられ、様々な臓器の疾患と関連することが分かっている。特に筋萎縮や消耗を特徴とするサルコペニアとCKDは密接に関連している。

海外では筋萎縮の兆候を示すCKD患者は、透析導入前で30%、透析患者では40%と報告されており、我が国でも透析患者の70%以上、保存期CKDの30%以上がサルコペニアもしくはプレサルコペニアと報告されている。透析患者でも筋量減少は生命予後悪化と関連している。また、韓国では男性、女性ともCKDのステージが上昇するとサルコペニア有病率も高まると報告されている。

◆サルコペニアは酸化ストレスと関連

サルコペニアを誘発する筋萎縮因子として、炎症や酸化ストレス、ミオスタチンなどがある。酸化ストレスについては、活性酸素種の過剰な産生が筋萎縮を誘導することが報告されている。ヒトでもベッドレスト35日目の患者を対象に、骨格筋中の酸化ストレスと筋萎縮の状態を検討したところ、酸化ストレスが多いほど、筋萎縮が増加したとの報告がある。

透析患者でも酸化ストレスマーカーと筋肉量および握力には負の相関関係がある。これらの結果から、酸化ストレスは筋萎縮と強い関連があり、酸化ストレスの評価によりCKD患者におけるサルコペニアを早期診断できることが示唆される。

◆高血清AOPPs濃度はサルコペニアを反映

酸化ストレスを評価するために、たんぱく質過酸化物(AOPPs)に着目した。AOPPsは血清たんぱく質の酸化生成物である。主成分はアルブミンで、白血球が活性化するとミエロペルオキシダーゼ由来の次亜塩素酸によってたんぱく質が酸化修飾を受けAOPPsになる。このAOPPsは腎機能が低下すると体内に蓄積する。AOPPs蓄積量は保存期CKD患者に比べ、透析患者で多いことも分かっている。

透析患者を対象にAOPPsとサルコペニアの関係について検討した。透析患者の血清中AOPPs濃度は、非サルコペニア群に比べサルコペニア群で有意に高く、血清中AOPPs濃度と握力および骨格筋量指数(SMI)には負の相関関係が認められた。ROC解析の結果、AOPPsはサルコペニアの指標になり得ると考えられた。ただし、日常診療でのAOPPs測定は困難である。

◆酸化型アルブミン率はサルコペニアの診断マーカーとして有用

そこで、AOPPsに変わるマーカーを探索した。AOPPsはアルブミンの酸化によって産生される。アルブミンのN末端から34番目にあるシステイン残基(Cys34)には遊離チオール基がある。このチオール基が還元状態のものを還元型アルブミン、酸化されたものを酸化アルブミンとし、これらの割合でアルブミンの酸化の度合いを評価することにした。

透析患者の血清中AOPPs濃度と酸化型アルブミン率は正の相関関係だった。サルコペニアを合併する透析患者では、男女を問わず酸化型アルブミン率と握力に負の相関関係を認めた。ROC解析では男性、女性ともに酸化型アルブミン率はAOPPsと同等かそれ以上の信頼性を持つことが分かった。酸化型アルブミン率はサルコペニアの早期診断マーカーになり得ると考えられる。

透析患者におけるサルコペニア診断の指標としてCRP/アルブミン値が有用であり、炎症とアルブミンの状態によりサルコペニアを評価できるとの報告があった。そこで、CRP/アルブミン×還元型アルブミン率を指標とし、サルコペニア診断における有用性を検討した。ROC解析の結果、CRP/アルブミン×還元型アルブミン率は還元型アルブミン率単独に比べ、有意に信頼性が高いことが分かった。したがって、アルブミンの酸化還元状態の評価が透析患者におけるサルコペニアの診断マーカーとして活用できると考えられる。

◆尿毒素物質が酸化ストレスを誘発

酸化ストレスの誘発因子として、腎臓病特有の尿毒症物質が考えられる。尿毒素物質のAOPPsやインドキシル硫酸は酸化ストレスを誘導することが明らかになっている。尿毒素物質と筋萎縮の関連を検討した。AOPPsは活性酸素を産生し、炎症を引き起こす。CKDでは異化状態となり、たんぱく質合成系抑制とたんぱく質分解系亢進をもたらす。さらにミトコンドリアの機能障害が筋力低下を惹起する。これらの観点から尿毒素物質とサルコペニアの病態の関連を検討した。

まず、健常マウスにAOPPsまたはアルブミンを7週間腹腔内投与し、筋量の変化をコントロール群と比較した。群間の尿素窒素(BUN)に有意差はなく、腎機能は影響しないことが分かった。AOPPs投与群の筋持久力はアルブミン群に比べ有意に低下していた。前脛骨筋の筋量は有意差を認めなかったが、腓腹筋の筋量はAOPPs投与群でアルブミン群に比べ有意な減少を認めた。
AOPPsによる筋量減少の機序を明らかにするため、CKDモデルラットで細胞実験を行った。その結果、AOPPsは骨格筋細胞の表面にあるスカベンジャー受容体のCD36に取り込まれ、その下流にあるNADPHオキシダーゼを活性化することで活性酸素を産生することが分かった。活性酸素は筋萎縮因子を上昇させ、ミトコンドリアの機能障害を引き起こし、筋芽細胞から筋管細胞への筋分化を抑制することも明らかになった。

インドキシル硫酸はAOPPsと類似した機序を持っている。ただし、インドキシル硫酸は有機アミオントランスポーターで取り込まれ、芳香族炭化水素受容体(AHR)に結合し、その下流でのNADPHオキシダーゼ活性化が活性酸素を産生し、筋萎縮やミトコンドリアの障害を引き起こす。これらの結果から、AOPPsやインドキシル硫酸といった尿毒症物質が筋萎縮の病態形成に関わっていることが示唆される。

◆鉄剤も酸化ストレスと関連

CKD患者の酸化ストレス誘発因子としては、貧血治療薬として用いられる鉄剤の影響もある。鉄剤はフェントン反応を引き起こし、強い酸化力を有するヒドロキシラジカルの産生によって筋肉細胞が酸化し、炎症を引き起こす可能性が考えられる。実際、鉄過剰マウスは鉄の酸化ストレスを介して筋萎縮を誘発することが報告されている。

一方、近年には鉄不足も筋萎縮を誘発することが分かってきた。筋萎縮には鉄の不足と過剰がともに関連する。筋萎縮を予防するための栄養管理として鉄の管理は重要な要素である。

◆酸化ストレスはHGFの機能不全を介して筋再生を抑制

筋肉は分解と再生を繰り返している。その中心的な役割を担うのが筋衛星細胞である。筋衛星細胞の表面に存在するたんぱく質の肝細胞増殖因子(HGF)は筋肉の再生因子として機能するほか、肝臓の再生などでも重要な役割を果たす。しかし、筋組織内の酸化ストレスが過剰になると、HGFの酸化修飾により機能不全が起きて、筋再生不全をもたらす。

ただし、これは老化モデルにおける検討であり、CKD患者や透析患者においても同様の作用機序かどうかは検証されていない。AOPPsやインドキシル硫酸はHGFの酸化修飾に関与すること、CKDや尿毒素を付加したマウスの筋肉でHGFの酸化修飾が起きていることを確認した。したがって、CKD患者や透析患者でもHGF関与の可能性が考えられる。

◆エダラボン搭載ナノ粒子による筋肉へのドラッグデリバリーシステムを開発

このようなCKDが誘発する筋萎縮に対して、従来は尿毒症物質や老化、低酸素、栄養不全の関与が考えられてきた。最近は腎腸連関をはじめとした臓器連関の影響や、CKDに伴う心血管疾患(CKD-CVD)、CKDに伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)、腎性貧血などの合併症との関連も指摘されている。つまり、個々の患者で機序が異なる可能性があり、それぞれに応じた治療を考える必要があると考える。ただし、これらの症例に共通して酸化ストレスが関与している。

そこで、酸化ストレスに対応する治療として抗酸化剤の筋肉デリバリーを考えた。抗酸化剤としてラジカル消去剤のエダラボンに着目した。エダラボンは脳梗塞や多発性硬化症を対象に臨床応用されている。しかし、エダラボンは投与しても筋肉にほとんど到達しないため、何らかの形でエダラボンを筋肉にデリバリーするシステムが必要となる。その方法としてAOPPsの原料であるアルブミンの利用を考えた。

筋肉が損傷すると、損傷筋組織分泌マイオカイン(SPARK)が出てくる。SPARKはアルブミンを基質として結合し筋組織へ運ばれる。筋細胞が破壊された後の再生段階で、たんぱく質やアミノ酸が必要となる際、血清たんぱく質を取り込んで分解し、アミノ酸の供給源にする。

SPARKを利用したドラッグデリバリーシステム実現のため、アルブミンをカプセル状にした中にエダラボンを入れたナノ粒子を作出した。これはSPARKによって筋細胞に取り込まれ、細胞内で崩壊し、筋細胞内でエダラボンが放出され、活性酸素を効率よく除去できる。エタラボン搭載ナノ粒子による損傷筋への効果を検討した。廃用性筋萎縮モデルラットにエタラボン搭載ナノ粒子を投与したところ、筋損傷を受けている部位にナノ粒子が分布していた。

◆エダラボン搭載ナノ粒子で筋萎縮が改善

さらに、抗酸化作用の発揮についても検討した。同様の廃用性筋萎縮モデルラットをエダラボン直接投与群、ナノ粒子単独投与群、エダラボン搭載ナノ粒子投与群に分け、筋力と筋量を比較した。その結果、エダラボン搭載ナノ粒子投与群ではエダラボン単独投与群では見られなかった筋力および筋量の改善作用が発揮されていた。マウスレベルではあるが、エダラボン搭載ナノ粒子は筋萎縮病態を改善することが分かった。

SPARKはオステオネクチンとも呼ばれ、骨組織からも分泌される骨関連たんぱく質である。このSPARKはアルブミンを基質としており、エダラボン搭載ナノ粒子は骨組織にも到達すると考えられる。サルコペニアの患者は骨粗鬆症を併発する割合が高い。骨粗鬆症は酸化ストレスも原因となる。エダラボン搭載ナノ粒子が骨組織に移行できれば、筋肉と骨と両方の病態を改善する。つまり、CKDに合併するサルコペニアだけではなく、CKD-MBDの治療への展開も期待できる。

◆CKD患者の酸化ストレス除去においてエダラボン搭載ナノ粒子の臨床応用に期待

CKDは酸化ストレスにより筋萎縮をもたらす。われわれは酸化アルブミンが診断マーカーになり得る可能性を見出した。また、酸化ストレスは尿毒症物質が誘発しており、病態形成に関与することを明らかにした。酸化ストレスを除去するため、エダラボン搭載ナノ粒子による筋肉へのドラッグデリバリーシステムを開発し、治療の可能性を見出した。

【質疑応答】

フロア●CKD患者における酸化ストレス増加には、酸化型アルブミンも何らかの影響を及ぼしているのか。

丸山●酸化型アルブミンは活性酸素を産生しない。ただし、アルブミンの薬物や脂肪酸を輸送する機能が低下し、薬物の体内動態に影響を及ぼす可能性がある。また、血清中の酸化防御能が低下する。これらの機能喪失が酸化型アルブミンの特徴である。

フロア●酸化ストレスには脂肪も悪影響を与えている。アディポネクチンなどを用いてエダラボンをデリバリーし、酸化ストレスを除去することは可能か。

丸山●エダラボンは活性酸素やラジカルの除去能が高い。脂肪組織にエダラボンをデリバリーできれば、酸化ストレスの除去は可能と考える。慢性疾患で用いる場合、確実にターゲット部位へ供給するデリバリーシステムの構築が課題となる。

フロア●肝臓でも同様に酸化ストレスを除去できるか。

丸山●肝臓にデリバリーできるエダラボン搭載ナノ粒子は急性肝障害に効果を発揮することが分かっている。

フロア●透析によって酸化型アルブミンを除去できれば、サルコペニア予防を兼ねた透析治療が可能か。

丸山●血液ろ過透析(HDF)でAOPPsを除去できるかは分かっていない。AOPPsの分子量は多様である。超高分子のAOPPsはHDFで除去されない可能性も考えられる。ただし、透析で活性酸素の供給源を除去できれば、酸化型アルブミンが減ると思われる。一方で、異化状態で供給されるアルブミンの還元型アルブミン率はよく分かっていない。個人的には、酸化型アルブミンを除去するだけでなく、生体の酸化ストレスの除去が重要と考える。

加藤●心腎連関という概念が提唱されている。CKDにおける酸化ストレス増加は心臓にも影響するのか。

丸山●エネルギー消費量が多い点で筋肉と心臓は類似している。また、心不全ではSPARKの産生が増える。これらの観点で筋肉と心臓も腎臓を中心に連関しており、CVDと筋萎縮は関連していると考えられる。

 

栄養代謝面からみたCKDの骨格筋萎縮メカニズム

演者:吉田卓矢熊本県立大学 環境共生学部

◆CKDではPEWがサルコペニアを促進

慢性腎臓病(CKD)では生活習慣病、肥満、活動量低下、エネルギー摂取量不足、たんぱく質制限などサルコペニアを促進する因子が多い。これらは腎疾患患者における低栄養(Protein-energy wasting:PEW)とも関連している。PEWもサルコペニアを促進する。また、CKDの病態である慢性炎症、インスリン抵抗性の亢進、代謝性アシドーシス、酸化ストレス、尿毒素の蓄積などもサルコペニアを促進する因子である。近年は、高リン血症や1,25-(OH)2ビタミンD不足、腸内細菌叢の乱れも尿毒素を介して筋萎縮を促進すると考えられている。

これらの様々な要素が絡み合い、CKDのステージが上がるごとにサルコペニアを合併する率が高くなる。実際にCKDステージ4の患者では、非CKD患者よりも四肢骨格筋量指数が低下するリスクが高いと報告されている。また、サルコペニアを合併するCKDは予後が悪いとの報告もある。予後悪化には低栄養も関連している。

PEWの診断には筋肉量の評価も含まれ、サルコペニアが進行するとPEWも進行する。これらの上流にはCKDの病態があるがそれは患者によって異なる。したがって、PEWやサルコペニアの原因となる因子も異なる。これを適切に評価し、PEWやサルコペニアを改善することが重要である。PEWやサルコペニアは食事や栄養摂取量の減少とも関連している。いずれにしても、これらの問題を解決しない限り、負のスパイラルを断ち切れない。

◆エネルギー代謝異常がPEW、サルコペニア、フレイルを惹起

筋萎縮の促進には炎症、アポトーシス、酸化ストレスが関連している。また、CKD患者におけるサルコペニアでは、たんぱく質の合成と分解のバランスが崩れている。IGF-1は骨格筋の合成を促進するが、CKD患者では低下している。一方でミオスタチンなどにより、たんぱく質の分解が促進されている。たんぱく質の合成と分解のバランスが崩れると、さらに骨格筋萎縮が促進される。

PEW、サルコペニア、フレイルはいずれもエネルギー代謝の異常が関連している。CKDにおけるエネルギー代謝の異常は骨格筋だけではなく、腎臓など他の臓器でも見られる。全身のエネルギー代謝異常が骨格筋萎縮を促進している可能性がある。例えば、腎臓では脂肪酸の代謝異常が腎線維化を促進する要因と報告されている。脂肪酸代謝異常に加えて、ミトコンドリア内のTCAサイクルやアミノ酸代謝に異常が起きていることも確認されている。これらの栄養代謝全体の異常が骨格筋萎縮に関連していると考えられる。

脂肪酸、グルコースはともにTCAサイクルを介して電子伝達系でアデノシン三リン酸(ATP)を大量に産生する。エネルギー代謝異常はミトコンドリアの異常で誘発される。インドキシル硫酸、キヌレニンといった尿毒素はいずれも電子伝達系でATP合成を阻害すると報告されている。また、ミトコンドリアでもダイナミクスの異常が起きるという報告がある。代謝を司るミトコンドリアの障害により、エネルギー供給が低下していると考えられる。したがって、ミトコンドリアを正常化し、機能を保つことが重要になる。

CKDモデルラットでは近位尿細管や骨格筋において脂肪の蓄積が確認された。これらの部位はエネルギー消費量が多いため、グルコースより多くのATPを産生する脂肪酸をエネルギー源としている。ミトコンドリアの機能低下により、エネルギー代謝が減少し、供給された脂肪酸が毒性を発揮しないように中性脂肪として蓄積されていると考えられる。この結果はPEWとフレイル、サルコペニアの関連にミトコンドリア機能異常を介したエネルギー代謝異常が関連している可能性を示唆する。

◆腸管や脳の尿毒素物質蓄積も筋萎縮を促進

尿毒素物質蓄積と腸管の関連についての報告も多い。例えば、腸管で尿毒素産生が増加するとディスバイオーシスにつながる。腸壁のバリア機能低下により、血中へのエンドトキシンの流入量が増える。これらは腎障害を進展させ、さらなる尿毒素物質蓄積につながると考えられる。

これらを抑制するため、シンバイオティクスの効果が検討されている。乳酸菌、ビフィズス菌とイヌリンの投与で腸内細菌叢の分布が改善され、血清中尿毒素増加および推算糸球体濾過量(eGFR)低下が抑制されたとの報告もある。このような腸管の機能低下が最終的に全身の筋萎縮を促進する可能性がある。

尿毒素は脳の海馬や小脳にも蓄積し、中枢神経系に影響を及ぼすと報告されている。中枢神経は中枢神経系を介して、骨格筋と関連するとともに、運動時のエネルギー代謝の制御にも関わっている。したがって、脳に尿毒素が蓄積すると、運動時の代謝に影響を及ぼし、CKD患者における運動療法の効果にも影響が及ぶ可能性も考えられる。

◆透析患者は筋持久力が低下

透析患者では筋肉合成のマーカーであるIGF-1が低下する一方、ミオスタチンの変化は少ないとの報告がある。つまり、筋肉の合成が低下すると考えられる。透析患者の筋持久力を評価した報告では、一般的な筋力の指標とされている最大随意筋力の低下は少ないが、筋持久力は顕著に低下し、6分間歩行距離も短いことが明らかになっている。

透析患者では筋持久力低下が特徴的な病態になる。透析患者では遅筋線維が少ないが、筋線維面積は変わらないとの報告もある。つまり、透析患者では筋量や筋面積は変わらないものの、筋肉の質が低下し、持久力を担う遅筋の割合が減る。さらに透析患者ではミトコンドリア異常とたんぱく質分解亢進、脂肪蓄積も認められる。

そこで、CKDモデルラットを作製し、14週間の持久性運動がミトコンドリア、全身の代謝状態に与える効果を検討した。CKDモデルラットは14週間の期間中に約4割が死亡したため、生存したマウスに限っての評価となる。ただし、運動群と非運動群で死亡率に有意差はなく、その他の背景にも有意差はなかった。

体重および筋肉量はコントロールに対しCKDモデルラットで減少した。腓腹筋や前脛骨筋はCKDモデルラットで有意に減少し、ヒラメ筋、長趾伸筋はほとんど減少しなかった。筋線維の横断面積はコントロールに比べCKDモデルラットで有意に低下した。ただしCKDモデルラットの運動群では筋線維の横断面積減少が若干回復し、骨格筋量も若干改善していた。

Atrogin-1およびMuRF-1で筋萎縮を評価したところ、有意差はないもののCKDモデルラットではコントロールに比べAtrogin-1が若干上昇した。筋線維タイプの評価では速筋性の筋線維はコントロールに比べCKDモデルラットで若干増え、遅筋性の筋線維は若干減少していた。一方で、CKDモデルラットの運動群では速筋性の筋線維が減り、遅筋性の筋線維の面積の割合が増えていた。運動は全身のエネルギー代謝を改善し、筋肉の質を改善すると考えられる。

◆CKDでは筋萎縮や筋線維タイプの変化が特徴

CKDの病態には骨格筋萎縮の促進に関連するものが多い。ミトコンドリアの機能異常によるエネルギー代謝の異常も筋萎縮を促進する要因と考えられる。CKDは、筋萎縮のみならず筋線維タイプも変化させる。これらの骨格筋における変化が代謝に関連していると考えられる。

【質疑応答】

フロア●エネルギー代謝異常、ミトコンドリア機能異常とカルニチン欠乏の関連が指摘されている。運動療法におけるカルニチン補充の意義をどのように考えるか。また、ミトコンドリア機能向上、酸化ストレス抑制を期待できる薬剤はあるのか。

吉田●カルニチンを補充しても、その先の代謝に異常があると効果が得られないと考える。ただし、エビデンスは十分ではなく、検討が必要である。

フロア●CKDモデルラットでは筋肉に対する食餌の効果は検討しているのか。

吉田●低たんぱく質食での実験を行ったが、サルコペニアを促進する結果にはなっていない。ラットやマウスなどげっ歯類は、ヒトと異なり重症のCKDにならないと食欲が減退することがなく、食餌摂取量が維持されている。これが低たんぱく質食で筋肉量が維持された理由と考えている。

 

透析患者におけるサルコペニアと栄養障害の関連

演者:森 克仁大阪公立大学大学院 腎臓病態内科学

◆透析患者のサルコペニア合併は予後悪化につながる

筋肉量は加齢によって低下する。健常人でも加齢によって特に下肢筋力が低下する。骨格筋では衛星細胞が前駆細胞となり、増殖、分化に関連している。筋肉を維持するためにはたんぱく質合成の維持が必要となる。たんぱく質合成には十分な栄養摂取、運動、IGF-1等が関連している。一方、たんぱく質分解にはミオスタチンやその上流にある慢性腎臓病(CKD)、血液透析(HD)、加齢などの因子が関連している。

当初、サルコペニアは骨格筋量の低下を指す概念であったが、その後、筋力の重要性も指摘され、現在では筋力、骨格筋量、身体機能で診断されるようになった。ただし、骨格筋量の評価には二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)や生体電気インピーダンス法(BIA)が必要になる。AWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)2019のサルコペニア診断基準では、より多くの施設で簡便にサルコペニアを評価するため、特別な装置を用いずに筋力や身体機能でサルコペニアの可能性を診断し、早めの対応を促した。

透析患者におけるサルコペニア有病率は28%とのメタ解析の報告がある。透析患者ではサルコペニアを合併すると予後が悪化し、死亡ハザード比が1.87となる。透析患者はサルコペニアを合併しやすく、サルコペニア対策が必要になる。

◆透析患者ではPEWも問題

透析患者ではサルコペニアとともにPEW(Protein-energy wasting)も問題となる。PEWはCKD特有の概念で低栄養、食欲低下、慢性炎症、尿毒症毒素蓄積、異化亢進と深く関連し、食事摂取量を増やしても改善しない症例もある。PEWの有病率を確認するため、34か国の90論文を対象にメタ解析が試みられたが報告によるばらつき(異質性)が大きく、28~54%(四分位範囲)とのみ報告されている。

PEWの要素には血清生化学データ、体格、筋肉量、食事摂取量がある。診断基準としてアルブミン値が3.8g/dl、BMIが23kg/m2というカットオフ値が示されている。しかし、この値は日本人に則していない。また、3か月あるいは半年で筋肉量や食事摂取量の変化を評価するが、経時変化が入っているためスクリーニングとしては難しい。

◆高NRI-JHスコアは死亡リスク上昇

そこで、PEWの概念を維持しつつ、簡便にスクリーニングできるツールとして、日本人に対応したNRI-JH(nutritional risk index for Japanese hemodialysis patients)が開発された。NRI-JHはアルブミン値、コレステロール値、BMI、クレアチニン値からなり、カットオフ値も日本人に合わせている。NRI-JHは1年間の総死亡をもとに開発され、スコアが高値程、高リスクである。その後3,000人以上からなるQコホートでNRI-JHと長期予後の関連が検討されている。NRI-JHスコア高値群では最も低い群に比べ、4年後の総死亡が3.16倍、心血管死が3.37倍、感染症関連死が4.56倍と報告され長期予後に対するNRI-JHの有用性も示された。

長期療養中の透析患者133名を対象にした別の報告では、NRI-JHスコアとエネルギー摂取量およびたんぱく質摂取量の関連が検討された。本研究ではNRI-JHスコア高値(高リスク)の患者が多く含まれていた。エネルギー摂取量が少ないほどNRI-JHスコアが高く、たんぱく質摂取量が低いほどNRI-JHスコアが高いことが示された。死亡率はNRI-JH低リスク群に対して、高リスク群では有意に高かったが、たんぱく質摂取量、CRPで補正したところ有意な関連は認められなくなった。つまり、NRI-JHは、たんぱく質摂取量や炎症と密接に関連しながら予後に影響している可能性がある。

◆NRI-JHはサルコペニアと強く関連

栄養障害とサルコペニアの関連は明らかではなく、血液透析患者315名を対象に、NRI-JHとAWGS2019の診断基準を用いたサルコペニアとの関連が検討された。

NRI-JH高・中リスク群は98名、NRI-JH低リスク群は217名であった。NRI-JH高・中リスク群の64.3%はサルコペニアであった。またNRI-JH高・中リスク群のうち84.7%が低筋力のカットオフ値未満であった。サルコペニアにおいては、筋力低下が筋肉量低下よりも予後に影響すると言われている。NRI-JHで評価した栄養障害が低骨格筋量よりも低筋力に強い関連がある点は興味深い。

◆栄養障害は血管石灰化も促進する

栄養障害は血管石灰化にも関連するとされている。透析患者374名を対象に栄養障害と大動脈血管石灰化の関連を検討した。その結果、GNRI (Geriatric Nutritional Risk Index)で評価した栄養状況が悪いほど、血管石灰化が強かった。栄養障害が血管石灰化を介して予後悪化に関連している可能性がある。

◆栄養障害、サルコペニア、フレイルに対する総合的な介入が必要

サルコペニア対策には栄養と運動が重要である。ただし、高齢透析患者では食欲が低下し、現実的に食べられない場合も多い。そもそも加齢によって食欲が低下する。透析患者では尿毒素や炎症も食欲低下を助長する。食欲をアセスメントして、透析条件変更や薬剤変更などで可能な限り食欲低下を改善することも必要である。さらに、患者の状況に応じて、オーラルケアやリハビリテーションを行いながら、総合的な食事介入のアプローチが求められる。

フレイルには身体的フレイル、精神的フレイル、社会的フレイルがある。特に身体的フレイルはサルコペニアとオーバーラップする。PEWもサルコペニア、フレイルとオーバーラップする部分が多い。栄養障害とサルコペニアやフレイルといった老年症候群には密接な関連があり、今後は、これらへの総合的なアプローチが求められる。そのためには多職種連携で、多面的にサルコペニア、フレイル、PEWを改善していく必要がある。

【質疑応答】

加藤●筋力低下を早期スクリーニングするためNRI-JHではクレアチニン値のカットオフを下げても良いとも思われる。どのように考えるか。

●NRI-JHにはクレアチニン値の評価が含まれる。カットオフを下げれば、筋力低下を早期に検出できると考えるが、クレアチニン値が筋力低下をダイレクトに反映しているとは限らない(筋力よりもむしろ筋肉量を反映している可能性がある)。さらなる検討が必要と思われる。

フロア●栄養状態が悪いと血管石灰化が進むとのお話があった。一方で食事摂取量が多く、リンの管理が悪いと血管石灰化が進むイメージがある。栄養状態と血管石灰化のメカニズムをどのように考えればよいのか。

●食事摂取量が多く、リンが高い状況は血管石灰化を助長する。リンも二相性がある。食事摂取量が少なく、栄養状況が悪い場合は、リンは低い場合が多いと考えられるが、一方アルブミンやフェチュインといった血管石灰化を抑制するたんぱく質が減り、血管石灰化促進につながると考える。

 

Part2へ続く…

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