REPORT|第30回日本心臓リハビリテーション学会学術集会 ワークショップ 1 栄養管理ワークショップ~心リハの知識を栄養管理にどう活かすか~ Part1

2025.05.14フレイル・サルコペニア , リハビリテーション栄養 , 栄養素 , 腸内細菌

第30回日本心臓リハビリテーション学会学術集会
ワークショップ 1
栄養管理ワークショップ~心リハの知識を栄養管理にどう活かすか~

座長
大南博和徳島大学大学院 臨床食管理学分野
林野収成KKR高松病院 リハビリテーションセンター

  • 東京医科大学病院 栄養管理科福勢麻結子先生は心臓リハビリテーションと栄養管理は一体に行うべきだが、心不全患者における栄養管理のエビデンスは十分ではないと指摘した。その上で心臓リハビリテーションを踏まえた栄養管理を考慮できる管理栄養士の増加が望まれるとした。
  • 関西医科大学附属病院健康科学センター河津俊宏先生は心臓リハビリテーション実施では栄養評価が重要とし、心肺運動負荷試験(CPX)から得られるデータから算出するF値は比較的簡便に栄養状態が評価でき、患者に必要な介入を判断できると説明した。

心臓リハビリテーションにおける栄養管理の必要性を考える

演者:福勢麻結子東京医科大学病院 栄養管理科

◆心臓リハビリテーションで行う介入は栄養管理と関連

循環器専門病院に勤務していた経験から、心血管疾患患者の栄養管理に関心を持つようになった。当時は50床の小規模病院に所属しており、様々な専門職種と連携することも多く、心臓リハビリテーションの概念を知るきっかけとなった。心臓リハビリテーションは包括的リハビリテーションの考えをもとにしており、運動療法だけではなく様々な面での患者の支援を目的としている。『心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン』に掲載されている「心臓リハビリテーションの目的」の図に示された項目はいずれも栄養管理と関係する。つまり、心臓リハビリテーションと栄養管理は切り離して考えるものではなく、心臓リハビリテーションの中に栄養管理があると捉えられる。心不全患者に関わる管理栄養士も心臓リハビリテーションの考え方に基づき栄養管理を考えていく必要がある。

近年、心不全患者は増加の一途をたどっている。高齢心不全患者ではサルコペニアやフレイルが予後規定因子と報告されている。心不全患者では栄養指標やBMIなども予後予測因子であるとの報告もされてきた。こうした背景から、心不全患者における心臓リハビリテーションと栄養管理の重要性が注目されるようになった。

管理栄養士が心不全患者に栄養管理を実施する際には、心不全のステージが進行しないようにすることを目的にする必要がある。心不全の病期の進行については、ステージA~Dの4つに分類されており、ステージBまでは心不全にならないための介入を、ステージC以降は再燃予防を目的とした介入が求められる。特に、ステージC以降では入院中の身体機能の維持、改善だけではなく、退院後も継続的に支援するという視点も重要である。

◆多職種連携で早期離床と早期栄養を実施

東京医科大学病院ではCCUにも管理栄養士が常駐しており、毎朝、多職種カンファレンスを行う。心臓リハビリテーションの時期区分においては、急性期(PhaseⅠ)にあたり、当院では集中治療室活動度スケールをもとに作成された早期離床プロトコールに準じて、患者の離床に取り組んでいる。

急性心不全患者の栄養管理は、特に呼吸器管理方法を考慮する必要がある。大きく分けると、挿管人工呼吸器管理、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)、その他の酸素療法のいずれかの方法がとられるが、挿管患者以外は可能な限り早期からの経口摂取を検討している。経口摂取が難しい場合や不十分な場合は、経管栄養や静脈栄養について医師や他職種と相談する場合もある。また、療養指導においては多職種で介入しているが、食生活の確認の際にも、管理栄養士による聞き取りのほか、他職種からの情報共有も参考にしている。

挿管患者に関しては、血行動態が安定していればグルタミン製剤から開始し、抜管の状況に応じて経口摂取あるいは経管栄養へ変更している。静脈栄養も併用しながら栄養増量に努めている。特に、大動脈内バルーンパンピング(IABP)や体外式膜型人工肺(ECMO)、補助循環用ポンプカテーテル(IMPELLA)といった補助循環管理を必要とする患者や高齢患者は、身体機能の改善に時間を要することも少なくないため、多職種による手厚いサポートがより必要となる。

◆急性心不全患者の栄養管理に関するエビデンスは不十分

急性心不全患者における栄養管理はエビデンスが少ない。2018年に発表された『心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント』では、『日本版重症患者の栄養療法ガイドライン』が参考にされており、経腸栄養の開始時期については、循環動態安定後は速やかに経腸栄養を開始することが推奨されるとしている。また、急性心不全患者を対象とした報告では、早期経腸栄養で入院日数や人口呼吸器管理日数、感染症発症率が減少する可能性があるとされていることからも、当院でもなるべく早めに経管栄養あるいは経口摂取の開始に努めている。

目標エネルギー投与量についても、『心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント』において、集中治療が必要な重症患者の目標エネルギー投与量が記載されており、急性期1週間は算出した目標エネルギー投与量より少なく投与するとされている。しかし、ここに示された重症患者の目標エネルギー投与量は術後患者や挿管を要するような重症患者を対象とした報告をもとにしており、急性心不全患者は含まれていない。心不全患者は早期に食事を始める場合も多く、このような重症患者と同様の少ない栄養投与量での管理が一概に望ましいとははいえない。

◆心臓リハビリテーションを考慮できる管理栄養士の増加が必要

当院では心不全急性期から管理栄養士が関わっているが、心臓リハビリテーションの経過を考えると、急性期は一部分にすぎず、次のフェーズへの橋渡しの役割を担っている。集中治療室から一般病棟に転床し、回復期、維持期まで心臓リハビリテーションを実現するためには、管理栄養士の継続的な関わりも必要となる。

退院後も見据えた栄養管理については、外来栄養指導や心臓病教室などを心臓リハビリテーションや他職種と取り組むことが必要である。高齢心不全患者においては、地域の管理栄養士による支援も重要である。

私は集中治療室を担当しており、一般病棟や地域での活動まで十分に取り組むことはできないため、多くの管理栄養士と協力していくことがより多くの心不全患者の支援につながると考えている。そのためには、心臓リハビリテーションを考える管理栄養士の増加が望まれる。

栄養評価におけるCPX、脂肪燃焼量評価の検討

演者:河津俊宏関西医科大学附属病院健康科学センター

◆心臓リハビリテーションには栄養評価が必要

心臓リハビリテーションを行う中で、栄養評価は重症化予防や疾患教育の観点からも重要である。低栄養患者に対して、エネルギー不足のまま心臓リハビリテーションを行うとさらなる筋肉の消耗や栄養状態の悪化に繋がる可能性がある。『心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン』においても「身体計測・測定法や栄養評価ツールを用いて栄養指導を行う」が推奨クラスⅠとされている。心臓リハビリテーション患者に対する栄養評価は、意図しない体重減少や体液過剰の早期発見のためにも重要である。

そこで、関西医科大学附属病院健康科学センターでは医師、看護師、管理栄養士、公認心理師、臨床検査技師、健康運動指導士が、心臓リハビリテーションとして運動療法だけでなくカウンセリングや栄養指導などを多職種で連携しながら介入している。

◆BMIとAT、VO2から脂肪燃焼量(F値)を算出可能

運動療法を施行する際は、運動処方箋を作成するため、最初に心肺運動負荷試験(CPX)を行う。CPXでは有酸素性代謝に無酸素性代謝が加わる点である嫌気性代謝閾値(AT)をはじめ、最高酸素摂取量(Peak VO2)や脂肪燃焼量(F値)などを測定できる。今回はCPXの結果から得られるF値に着目し、心不全患者の栄養評価ツールとしての有用性を検討した。F値はbreath-by-breath法で求められる1呼吸あたりの脂肪燃焼を縦軸に、次の呼吸までの時間を横軸にとり安静時から負荷終了までを台形の面積に変換して算出した。

対象は当院外来心臓リハビリテーションを施行した63例とした。検査項目は身体機能測定でCPX、握力、歩行スピードを、インピーダンス法による体組成測定で体格指数(BMI)、四肢骨格筋指数(SMI)、細胞外水分比(ECW/TBW)、位相角を、生化学検査でアルブミン値、総コレステロール、総リンパ球数を評価した。サルコペニアはAWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)2019を基準にSMI、握力、歩行速度より評価した。栄養状態は『心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン』に記載されているGLIM (Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準、CONUT(Controlling Nutritional Status)スコア、GNRI (Geriatric Nutritional Risk Index)で評価した。当院では随時尿から、クレアチニン補正による推定たんぱく質摂取量、推定塩分摂取量を算出しており、これも併せて検討した。

対象患者の平均年齢は75.5歳、平均左出駆出率(LVEF)は57.7%、平均BMIは22.9kg/㎡であった。CPXでは平均ATが12.0ml/min/kg、平均F値が97,830.9g/day・secとの結果が得られた。また、対象患者の21.9%にサルコペニアを認めた。

F値と関連する項目を単変量解析したところ、体組成、身体機能、栄養と多岐にわたる項目で相関を認めた。次にF値を従属変数として、単変量解析で相関関係を認めたBMIとAT、GLIM基準における低栄養、推定たんぱく摂取量を独立変数とし、調整因子に年齢を選択して多変量解析を行った結果、BMIとATがF値を算定する因子として抽出された。

以上の結果から臨床で直接CPXに関わらない職種や詳細なデータが得られない場合でもBMIとATの値が分かればF値を求められることになる。比較的簡便にAT、VO2という運動耐容能に加え、脂肪燃焼量という代謝指標を推定できる点で有用と考える。

◆F値を参考に、重視すべき介入を明確化

さらにF値とATの中央値で4群に分け、それぞれの特性を検討した。AT高値F値低値を1群、AT低値F値低値を2群、AT低値F値高値を3群、AT高値F値高値を4群とした。

心臓リハビリテーションの介入戦略として、1~3群から4群への移行が望まれる。そこで、1~3群と4群の特性を比較した。1群と4群を比較したところ、4群ではGLIM基準による低栄養、サルコペニア該当者数が1群に比べ有意に少なかった。2群と4群の比較では4群では握力や位相角、Peak VO2、ヘモグロビン値が有意高値を示し、ECW/TBW、運動時換気亢進指標のVE/VCO2 slope、サルコペニア該当者数が有意に低かった。3群と4群の比較では、4群で最高ガス交換比(Peak R)およびPeak VO2が有意に高値を認めた。

F値を規定する因子を検討したところBMIとATが抽出された。さらにF値を算出する式を求めた結果、F値=-193,785+9,294.8×BMI+7,385.3×ATとなった。次に各群間の背景について比較を行った。その結果、1群では4群に比べサルコペニア、低栄養該当者が有意に多く、2群では4群に比べサルコペニア該当者、低体力、心不全兆候が有意に多く、3群では4群に比べ低体力が有意に多かった。

1群ではサルコペニア、低栄養該当者が多く、求められる介入として栄養評価が考えられる。2群では心不全兆候を示す項目に有意差を認めており、疾患指導や生活指導などの介入が必要となる。3群では低体力に有意差を認めており、運動介入が必要と考えられる。

この結果からATとBMIを使用してF値を算出し4群に分類することで、評価するポイントが明確化され、必要な介入が明らかになると考えられる。これにより、多職種連携の強化に繋げられる可能性が見出された。しかし、あくまでも探索的な研究であり、F値を求める計算式の決定係数が低いため、今後のさらなる検討が必要と考えられる。

◆F値を活用した介入で栄養状態が改善

当院では実際にF値を用いた指標を活用した介入を試みている。心筋梗塞発症後、心機能低下を認め、頻回に心室頻拍発作を繰り返し、植込み型除細動器(ICD)挿入を行った患者にもF値を用いて評価した。この症例は心臓リハビリテーション介入時から塩分摂取量が多かった。運動療法時に塩分摂取の影響に関する情報提供や減塩指導を行ったが改善が見られず、複数回の心不全増悪を認めていた。3回目の心不全増悪後に、家族とともに継続的な栄養指導介入を実施したところ、減塩に成功し、以降は状態が安定した。初回のCPXデータでは2群に該当していたが、その後のCPXデータでは3群に移行し、栄養改善が見られたと考えられる。

サルコペニアが疑われる心不全患者にも、F値を用いた指標を活用して介入した。この症例は当院管理栄養士の家族で、その管理栄養士から強い要望があり、別の管理栄養士が介入した。栄養状態が悪く、ATは年々低下傾向にあった。栄養指導介入後、AT、F値ともに改善を認め、1群から4群に移行した。

運動療法を進めていたが、食事の改善が見込めず、栄養介入が必要と思われる患者も経験した。この症例は心臓リハビリテーション開始後、毎日ウォーキングを60分欠かさず行うなど身体活動量が増加していた。しかし、体重減少とSMI低下を認めていた。心臓リハビリテーション開始時のCPXは3群であったが、1群へ移行していた。患者個人として食事で改善できる取り組みは実践されていたが、家族にはパン、米飯、麺を繰り返す主食ルーティーンの方針があり、全体的な食事メニューについては改善が乏しい状況であった。このような男性患者は多い。その場合は家族に栄養指導を受けてもらうことも必要となる。その際にF値を用いた指標の活用で、理解が深まると考えられた。

◆結語

CPX結果から算出したF値を用いた指標で4群に分けて、特性を検討したところ、それぞれの群に必要な運動介入や栄養介入が明らかにできた。この結果から、65歳以上の男性心疾患患者の栄養評価にCPXをもとにした指標を活用できると示唆される。

 

Part2へ続く…

 

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